説明

焼き菓子のひび割れ防止方法

【課題】 ひび割れの生じにくい焼き菓子類を提供すること。
【解決手段】 焼き菓子類の配合にグリセリンを添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼き菓子、その製造方法、および、これと接合してなる組み合わせ食品に関する。

【背景技術】
【0002】
ビスケットを焼成する際、焼成された製品の水分値が十分に低いものであることは重要である。これには、製品に香ばしさを付与するとともに、製品のひび割れを防止する目的もある。焼成によって、製品の表面は容易に低い水分値となるが、中心部まで十分に水分値が低いものとなっていない場合、焼成直後は問題がないように見えても、その後に製品中心部から焼成によって抜けなかった水分が全体に均一にいきわたる過程でひび割れが生じる。極端な場合には製品自体の割れや折れを引き起こす。ひび割れは、製品の表面と中心部の水分値の差が大きいと発生しやすいため、中心部の水分値が十分に低くなるまで焼成する必要がある。

【0003】
焼き菓子を製造する場合、工業的には、焼成時間を短時間とするほうが効率的であるが、この場合、高温で焼成する必要があるため、製品の表面と中心部の水分値の差が大きくなり、ひび割れを生じる可能性が高くなる。無論、比較的低温でじっくり焼成することによって製品の表面が焦げにくく、かつ、製品の中心部の水分を低くすることのできる焼成条件を設定することは可能であるが、これはもはや乾燥であって、短時間高温で焼き上げた焼菓子とは異なる組織となってしまうし、もとより焼成時間が長くなり効率的ではない。これを回避するには、表面の焼成過多による焦げを生じない程度で、かつ、中心部の水分を十分に低くできる焼成温度条件を設定し精度よく制御する必要があるが、わずかな条件変動により、焦げを生じたり、中心部の水分値を十分に低くできなくなってひび割れが生じるという問題が発生する。そこで、ひび割れを回避する方法として、特願平9-162126において、焼き菓子生地に大豆淡白含有素材、タピオカ澱粉およびトレハロースを用いる方法が開示されている。しかし、これら添加物を加えて製造された焼き菓子の食感は、これらを加えていない焼き菓子とは大きく異なるものとなる。具体的には硬い食感となったり、甘味が高くなるなどの差異を生じさせる。別の手段として、特願2000-173424では製菓用油中水型乳化油脂組成物が開示される。しかし、この製造された焼き菓子の食感は、これらを加えていない焼き菓子とは異なりサクサクした食感で割れやすくなるという点で、本来の焼き菓子の特性を変化させてしまう。
【特許文献1】特願平9-162126
【特許文献2】特願2000-173424
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ひび割れが生じにくい焼き菓子、およびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、焼き菓子製品の配合にグリセリンを添加することによりひび割れが防止されることを見出し、本発明を完成させた。グリセリンは、香料原料等の基剤としての用途で使用される場合を除き、食品に用いられるのは、従来は水分値10%以上の水分の多い食品の保湿剤目的である。ましてや、カステラのような水分の多い生菓子や半生菓子はともかく、カリッとした食感が要求されるビスケット等の、水分値が10%未満の焼菓子においては、保湿効果をもたらすとされるグリセリンを、あえて積極的に加えることを報じた事例は皆無である。本発明者は、水分値10%未満の焼き菓子にグリセリンを1.0〜7.0%配合することでひび割れを防止した。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、焼成条件の多少のぶれなどによりビスケット中心部の水分値が高めとなり、従来はひび割れを生じて形状を損なっていた焼き菓子であっても、形状を維持できるので、商品とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0008】
本発明にいう焼き菓子とは、小麦粉などを主体とし、糖類、油脂類、水などを混合/混捏することにより作成されるドウ(焼成前混合生地)を成型し焼成して得られる食品である。主体となる穀物粉としては、小麦粉、米粉、澱粉などが例示でき、ビスケット、せんべいなどが焼き菓子として得られる。ビスケットとは、小麦粉を主体とした焼き菓子で、ビスケット規約にいうビスケットを、また、ハードビスケットとはビスケット規約にいうハードビスケットをいう。組み合わせ食品とは、焼き菓子と他食品が接合してなる食品であって、焼き菓子の一部または全体が、他食品によって被覆されている食品をいう。焼き菓子と組み合わせる食品として、チョコレートを例示できる。チョコレートとは、チョコレート規約にいうチョコレート類のみならず、それと同等の物性を有する油脂性食品をさす。
【0009】
グリセリンは水と自由な割合で混和可能な液体で、沸点が290℃と高く、体温で蒸発しないこと、保水力が高いことから、保湿剤として化粧品に用いられることが多い。あるいは、食品にも使用されており、水分値が10%を超える半生食品である、カステラ、イカの燻製、豚まんの皮などのしっとり感や柔らかさを持続させる目的で使用されることもある。焼き菓子の焼成工程においても、蒸散することはほとんどない。
【0010】
焼き菓子の作成工程でグリセリンを添加する方法として、グリセリンはあらかじめ水と混和しておくことができる。これにより、焼き菓子の作成工程である、ドウの作成、ドウの成型、焼成の各工程は、通常の工程となんら変わるものではない。添加する水の量は、グリセリン1部に対し0.3〜0.5部程度少なくすることで、グリセリンを添加しない場合とほぼ同等のドウの硬さになる。作成したドウのしっとり感は向上し、成型性も向上する傾向がある。
【0011】
また、本法の優れた点として、焼成時間が短縮される。これは、ドウの作成時に添加した水の量が少ないこともその一因であると考えられるが、それだけではなく、火通りよく、水抜けがよくなったことも一因と思われる。そして、火通りがよくなることは、焼成時の製品外側と中心部との水分値差を減らす方向に作用すると考えられることから、ひび割れを防止する効果の一つとなっていると推察される。
【0012】
焼成した焼き菓子水分値が同じであれば、グリセリンの添加/無添加では、同等の食感を有する。すなわち、十分に水分値が低く焼成されていれば、グリセリンを含まない焼き菓子と同様に、カリッとした食感をしている。また、グリセリン入り焼き菓子を、グリセリンを含まない焼き菓子ではひび割れを生じる程度の水分値で焼成した場合、その食感は、グリセリンを含まない焼き菓子と同等である。
【0013】
グリセリンの添加量は、焼き菓子配合の主体となる穀物粉100部に対して1.0〜7.0%の範囲が好適であり、1.0%〜3.0%の範囲がさらに好適である。添加量が少ないほどひび割れを抑制する効果が弱くなるため、これより少ない量であっても、ひび割れを生じる水分値の範囲を狭める効果はあるが、あらゆる水分値においてひび割れ防止効果を発揮しうるものではなくなる。一方、これ以上添加量を増やすと、焼き菓子の膨脹力が低下する、あるいは、ドウの物性の変化により作業適性が変化するなど、グリセリン無添加の焼き菓子とは異なるものとなる。また、グリセリンを多量に入れるとグリセリンの甘みが強く出ることになるので、焼き菓子は甘くなる。しかし、それらの変化が許容される範囲であれば、さらに多量にグリセリンを添加することは、本発明を妨げない。グリセリンを添加した焼き菓子には、異味異臭はない。
【実施例】
【0014】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0015】
(実施例1) 表1に記載のテスト配合(1)でハードビスケットのドウを作成した。これを厚み6mmのシート状とし、2枚重ねにした後に厚さ3mmのシート状に成型した。その後、220mm×7mmの棒状に型抜きし、220℃で焼成した。このとき、焼成時間を変えることにより水分値2.0%、4.0%、6.6%、7.5%のビスケットを得た。これらビスケットを袋に密封して20℃で7日間保管したが、いずれも、ひび割れは全く発生しなかった。これらを食したところ、異味異臭などの不快な風味は認められず良好であった。また、11分間焼成したときに水分値1.1%となったが、このビスケットはカリッとした食感を有し良好であった。
【0016】
(実施例2) 表1に記載のテスト配合(2)でドウを作成し、実施例1と同様にして水分値1.1%、2.3%、3.2%、4.6%、7.5%のビスケットを得た。これらビスケットをそれぞれ袋に密封して20℃で7日間保管したが、いずれも、ひび割れは全く発生しなかった。
【0017】
(実施例3) 表1に記載のテスト配合(3)でドウを作成し、実施例1と同様にして水分値1.5%、3.0%、5.6%、8.0%のビスケットを得た。これらビスケットをそれぞれ袋に密封して20℃で2日間保管したところ、水分値5.6%のビスケットにひび割れが発生した。
【0018】
(実施例4) 表1に記載の対照配合でドウを作成し、実施例1と同様にして水分値1.8%、2.4%、3.7%、6.2%、8.2%のビスケットを得た。これらビスケットをそれぞれ袋に密封して20℃で1日間保管したところ、水分値2.4%、3.7%、6.2%のビスケットにひび割れが発生した。また、11分間焼成したときの水分値は2.1%であった。
【0019】
(実施例5) 表1に記載のテスト配合(4)でドウを作成し、実施例1と同様に焼成してビスケットを得た。ひび割れは生じず風味も良好であったが、ビスケットは、やや浮きの少ない組織であった。

【0020】
(実施例6) 表2に記載のテスト配合(1)でハードビスケットのドウを作成した。実施例1と同様にして水分値1.8%、2.5%、2.8%、5.1%、のビスケットを得た。これらビスケットをそれぞれ袋に密封して20℃で7日間保管したが、いずれも、ひび割れは全く発生しなかった。11分間焼成したときに水分値1.0%となり、このビスケットはカリッとした食感を有し良好であった。
【0021】
(実施例7) 表2に記載の対照配合でドウを作成し、実施例6と同様にして水分値1.8%、2.5%、3.0%、5.2%のビスケットを得た。これらビスケットをそれぞれ袋に密封して20℃で7日間保管したところ、水分値3.0%、5.2%のビスケットにひび割れが発生した。

【0022】
(実施例8)
実施例1において11分間焼成したビスケットを使用して作成した製品を長さ100mmに切断し、これに表3に記載の配合のチョコレートをテンパリング後、塗布し冷却した結果、チョコレート組み合わせ食品を得た。チョコレートとの相性のよい、良好な組み合わせ食品が得られた。

【0023】

【表1】

【0024】

【表2】



【0025】

【表3】

【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明により、ひび割れの生じにくい焼き菓子を提供し得る。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
配合の主体となる穀物粉100部に対し、1.0〜7.0%重量のグリセリンを含有することを特徴とする、焼成直後の水分値が10%未満の焼き菓子。
【請求項2】
焼き菓子を焼成するに際し、焼成前混合生地にグリセリンを添加することを特徴とする、請求項1に記載の焼き菓子。
【請求項3】
グリセリン添加の時期が、水の添加と同時であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の焼き菓子。
【請求項4】
焼き菓子がビスケットであることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の焼き菓子。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の焼き菓子の製造方法。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載の焼き菓子に食品が接合してなる、組み合わせ食品。
【請求項7】
焼き菓子に接合する食品がチョコレートであることを特徴とする、請求項6に記載のチョコレート組み合わせ食品。


【公開番号】特開2010−104259(P2010−104259A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277129(P2008−277129)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【Fターム(参考)】