説明

焼付補修材

【課題】
耐火れんが破砕物を使用するにも関らず、組織の不均一化及び粗雑化が生じにくい焼付補修材を提供する。
【解決手段】
本発明の焼付補修材は、耐火性粉体と、有機結合剤とを含み、熱焼失性バッグに収容されて補修対象炉に投入される焼付補修材であって、耐火性粉体100質量%中に、粒径1mm以上の耐火れんが破砕物を最大で50質量%、耐火れんが粉砕物との嵩比重差が0.5以下で粒径1mm以上の球状化処理された球状化粒子を9質量%以上、それぞれ含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火性粉体と、有機結合剤とを含み、熱焼失性バッグに収容されて補修対象炉に投入される焼付補修材に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、転炉や電気炉の内張りの補修方法として、出湯直後の炉に、数100kg〜数t程度の焼付補修材が収容されたフレコンバッグを投入する方法が知られている。焼付補修材は、例えば、電融マグネシアを主材とする耐火性粉体に、ピッチやレジン等の有機結合剤を加えてなる。
【0003】
フレコンバッグは、炉内に投入後に直ちに炉の熱で焼失する。フレコンバッグ内の焼付補修材は、炉の内張りの損傷部に展開した後、炉の熱による有機結合剤中の揮発分の逸散、及び有機結合剤の固定炭素分によるカーボンボンドの形成を伴いながら固化する。以下、この固化したものを焼付補修材の施工体と呼ぶ。
【0004】
特許文献1〜3に開示されるように、資源の有効活用の見地から、使用済みの耐火れんがの破砕物を焼付補修材の一部に再利用することが行われている。具体的には、特許文献1及び2では、使用済みのマグネシア‐カーボン質耐火れんが(以下、マグ‐カーボンれんがという)の破砕物を焼付補修材に配合し、特許文献3は、使用済みのマグネシア‐クロム質耐火れんが(マグ‐クロれんがという)の破砕物を焼付補修材に配合している。
【0005】
特許文献4は、焼付補修材に関する文献ではないが、不定形耐火物に耐火れんが破砕物を配合するに際し、耐火れんが破砕物は、使用済品であっても未使用品であってもよいと説明している(特許文献4の段落0012参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平02−59476号公報
【特許文献2】特開2004−162952号公報
【特許文献3】特開2007−45673号公報
【特許文献4】特開2004−161594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2によると、使用済みのマグ‐カーボンれんがの破砕物を焼付補修材に用いることで、その耐食性を向上できるとされる。その理由は次の通りである。使用済みのマグ‐カーボンれんがは、れんがとしての使用中の受熱で内部に微細気孔を有する。焼付補修材としての使用においては、その微細気孔に有機結合剤が浸透し、れんが破砕物中の炭素成分と、有機結合剤中の固定炭素とが一体化したカーボンボンドが形成されることが、耐食性向上に貢献するとされる(特許文献2の段落0030及び0031参照)。
【0008】
しかし、実際には、耐火れんが破砕物の使用によって焼付補修材の耐食性を向上させることは難しい。本願発明者によると、この主な原因は次の通りと考えられる。
【0009】
上述のように、特に、使用済みの耐火れんがは、内部に微細気孔を有するため、焼付補修材を構成する残部の耐火原料に比べると嵩比重が小さい。また、未使用の耐火れんがであっても、電融マグネシアや焼結マグネシアといった一般的に使用される耐火原料に比べると嵩比重は小さい。このため、使用済品及び未使用品を問わず、耐火れんが破砕物は、施工時に偏析を生じやすい。
【0010】
特許文献2によると、使用済マグ‐カーボンれんが破砕物と残余のマグネシア質原料との嵩比重差は高々1程度であるが(特許文献2の表1参照)、焼付補修材は、他の不定形耐火物と異なり、施工に際して、投入というプロセスを経るため、原料間の僅かな嵩比重の差も偏析の原因となりうると考えられる。
【0011】
具体的には、耐火れんが破砕物は、炉内に投入され、炉内面で山状に展開した焼付補修材の表層部に集中しやすい。耐火れんが破砕物は、破砕品であることからその表面形状が粗いため、耐火れんが破砕物が集中して存在する部分では、耐火れんが破砕物によって石垣状の構造物が構築される。こうして施工体の組織の不均一化及び粗雑化が生じる。
【0012】
この結果、焼付補修材の施工体は、耐火れんが破砕物を主体とする部分と、残余の部分との間で、構造的スポーリングを起こしやすい。即ち、たとえ特許文献2が説明するように、耐火れんが破砕物とマトリクスとの間で連続したカーボンボンドを形成できたとしても、耐火れんが破砕物は溶損による寿命の到来を待たずして脱落する。
【0013】
特許文献2は、使用済マグ‐カーボンれんが破砕物の使用によって被施工面との接着強度が向上する旨の実施例を開示しているが、実験室において、高々200gの焼付補修材を金枠に載せる試験方法では、実際の使用における上記偏析の問題は反映されない。
【0014】
本発明の目的は、耐火れんが破砕物を使用するにも関らず、組織の不均一化及び粗雑化が生じにくい焼付補修材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一観点によれば、耐火性粉体と、有機結合剤とを含み、熱焼失性バッグに収容されて補修対象炉に投入される焼付補修材であって、耐火性粉体100質量%中に、粒径1mm以上の耐火れんが破砕物を最大で50質量%、耐火れんが粉砕物との嵩比重差が0.5以下で粒径1mm以上の球状化処理された球状化粒子を9質量%以上、それぞれ含む焼付補修材が提供される。
【発明の効果】
【0016】
球状化粒子と耐火れんが破砕物との嵩比重が近似するため、施工に際して投入による衝撃を受けた後も、球状化粒子と耐火れんが破砕物との偏析は生じにくい。このため、球状化粒子は、耐火れんが破砕物の粒子間に介在し、耐火れんが破砕物によって石垣状の構造物が構築されることを抑制する。これにより、施工体組織の不均一化及び粗雑化が緩和される。
【0017】
なお、従来、キャスタブル耐火物の分野において、球状化粒子を平均粒径がサブミクロン程度の超微粉域で使用することにより、それよりも粗い粒子間の摩擦を軽減するベアリング効果を得ることは知られている。本発明においても、球状化粒子は、球状化処理されたものである以上、ベアリング効果を奏しうる。
【0018】
しかし、本発明の上記効果は、単にベアリング効果のみによるものではなく、球状化粒子を粒径1mm以上の粗粒域で使用してはじめて得られる。球状化粒子の粒径が1mm未満だと、耐火れんが破砕物の粒子同士を離間させる効果に乏しいため、焼付補修材としての使用においては、耐火れんが破砕物による石垣状の構造物の構築を抑制する効果には不充分である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態による焼付補修材について具体的に説明する。焼付補修材は、耐火性粉体と有機結合剤とを含む。
【0020】
耐火性粉体は、粒径1mm以上の粗粒域、及び粒径1mm未満の微粒域よりなる。粗粒域と微粒域の質量比は特に規定しないが、粒度構成を最密充填構造に近づけ、実用可能な耐食性を得る等の観点から、当業者の技術常識により自ずと定められるであろう。典型的には、耐火性粉体100質量%は、粗粒域:25〜65質量%と、微粒域:35〜75質量%とよりなることが好ましい。
【0021】
本明細書において、粒子の粒径がd以上とは、粒子がJIS‐Z8801に規定する目開きdの篩上に残る粒度であることを意味し、粒子の粒径がd未満とは、粒子が同篩を通過する粒度であることを意味する。
【0022】
粗粒域に、耐火れんが破砕物と、球状化粒子とを配合する。
【0023】
耐火れんが破砕物には、例えば、マグ‐カーボンれんが、及びマグ‐クロれんがから選択される一種以上の破砕物を用いることができる。耐火れんが破砕物は、使用済品、未使用品、又はそれらの混合物のいずれであってもよい。
【0024】
耐火れんが破砕物の嵩比重は、球状化粒子の嵩比重との差が0.5以下であれば特に制限されない。既述のように、一般に、耐火れんが破砕物は通常の耐火原料に比べると嵩比重が小さい。耐火れんが破砕物の嵩比重は、例えば、2.4〜3.0である。
【0025】
本明細書において、嵩比重は、学振法によるマグネシアクリンカーの測定(学振法2)で定められている方法を用いた測定値とする。耐火物業界では、この測定法が一般的である。この測定法は例えば、「耐火物手帳(1981年版)」耐火物技術協会、昭和56年10月31日、第1刷発行、第330〜334頁に記載されている。即ち、耐火れんが破砕物や球状化粒子の嵩比重を、この学振法2に定める方法を用いて測定する。但し、学振法2では、対象粉体の2〜3.36mmの粒度域を測定対象とするが、本明細書では、粒径1mm以上の対象粉体については、粒径1mm以上、25mm未満の粒度域を測定対象とし、粒径1mm未満の対象粉体については、測定対象の粒度域は特に制限せず、粒径1mm未満の粒度域を測定対象とするものとする。
【0026】
耐火れんが破砕物として、できるだけ嵩比重が大きいものを使用することで、球状化粒子として一般の耐火原料又はそれに近い嵩比重をもつ原料を使用することが可能になるとともに、焼付補修材全体としての嵩比重を大きくすることができ、組織の緻密化及び高熱伝導化による焼付け時間の短縮に貢献する。
【0027】
この観点から、耐火れんが破砕物の嵩比重は2.6以上であることが好ましく、2.7以上であることがより好ましい。このような嵩比重の大きな耐火れんが破砕物は、使用済耐火れんがの中から特に劣化の少ない部分を選択し使用するか、又は未使用の耐火れんがの破砕物を使用することで実現することができる。
【0028】
粒径1mm以上の耐火れんが破砕物の、耐火性粉体に占める割合は最大で50質量%とする。50質量%を超えると、耐火れんが破砕物の配合量が多すぎるため、たとえ球状化粒子を併用したとしても、結果的に耐火性粉体に占める粗粒域の割合が高すぎることとなり、耐食性の確保が困難となる。粒径1mm以上の耐火れんが破砕物の、耐火性粉体への配合量の下限は特に制限されない。
【0029】
耐火れんが破砕物を使用する意義について説明する。耐火れんが破砕物は、これが使用済品である場合は、これを焼付補修材に配合することで、リサイクルによって資源を有効活用できるという意義をもつ。未使用品であっても、例えば、耐火れんがの製造工程で発生する屑を使用することで、従来廃棄していた屑を有効活用できるという意義をもつ。また、耐火れんが破砕物が、例えば、マグ‐カーボンれんがのように炭素を含有する耐火れんがの破砕物である場合は、これが使用済品であろうと、未使用品であろうと、これを焼付補修材に配合することで、焼付補修材全体の炭素含有量を高めることに貢献し、その耐食性の向上に寄与しうるという意義をもつ。
【0030】
耐火れんが破砕物の配合量が少なすぎると、これを用いる意義が小さくなる。この観点から、粒径1mm以上の耐火れんが破砕物の、耐火性粉体に占める割合は10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましい。
【0031】
球状化粒子とは、球状化処理された粒子をいう。球状化処理の方法としては、例えば、転動法、加圧成形法、及び高速気流衝撃法等が公知であるが、粒子の形状を球に近づける処理であればこれらに制限されない。
【0032】
転動法とは、対象物を転動させることで球に近づける処理をいう。転動に伴って、粒径が大きくなる成長方式でもよいし、次第に粒子が研磨されて粒径が小さくなる研磨方式でもよい。本手法は、例えば、ロータリーキルン、回転ドラム、回転パン、回転水平円盤等を用いて行うことができる。
【0033】
加圧成形法とは、対象物を加圧成形することで球に近づける処理をいう。本手法は、例えば、ペレタイザやブリケッタを用いて行うことができる。
【0034】
高速気流衝撃法とは、高速気流中で対象粒子に衝撃を付与することで球に近づける処理をいう。本手法は、例えば、奈良機械製作所社製の衝撃処理装置(例えば、型式NHSシリーズ)を用いて行うことができる。
【0035】
球状化処理された粒子は、その球形度が0.7以上であることが好ましく、0.9以上であることがより好ましい。
【0036】
球形度は、実体顕微鏡(例えば、ニコン社製SMZ−10)や走査型電子顕微鏡(例えば、日本電子社製JXA−8600M)で撮影した試料粒子の像を、画像解析装置(例えば、日本アビオニクス社製)に取り込み、次の要領で求める。試料粒子の像から試料粒子の投影面積Sと、周囲長Lとを測定する。円周Lの真円の面積をSとすると、試料粒子の球形度はS/Sと定義される。
【0037】
なお、充分に均一に混合された対象粉体を上記画像解析装置に取り込み、画像上で隣り合う任意の100個の粒子につき球形度を測定し、その平均値が0.7以上である場合、その対象粉体は球状化処理された粒子からなる。
【0038】
球状化粒子の素材は、特に限定されず、例えば、マグネシアクリンカー等のマグネシア質原料、オリビン等のマグネシア‐シリカ質原料、ドロマイト質原料、又はアルミナ質原料等を用いることができる。
【0039】
球状化粒子の嵩比重は、上述した耐火れんが破砕物との嵩比重差が0.5以下であれば特に制限されない。上述したように、耐火れんが破砕物として嵩比重が大きいものを使用する場合は、球状化粒子の嵩比重も大きいことが必要であり、この場合、例えば、マグネシアクリンカー等のマグネシア質原料を用いることができる。また、耐火れんが破砕物として嵩比重が小さいものを使用する場合は、球状化粒子の嵩比重も小さいことが必要であり、この場合、例えば、軽量マグネシアや軽量アルミナ等といった多孔質な耐火原料を用いることができる。
【0040】
球状化粒子と耐火れんが破砕物との嵩比重が近似するため、本焼付補修材は、施工に際して投入による衝撃を受けた後も、球状化粒子と耐火れんが破砕物との偏析が生じにくい。このため、球状化粒子は、耐火れんが破砕物間に介在し、耐火れんが破砕物によって石垣状の構造物が構築されることを抑制する。これにより、施工体組織の不均一化及び粗雑化が緩和される。
【0041】
粒径1mm以上の球状化粒子の耐火性粉体に占める割合は、9質量%以上とする。これより少ないと、球状化粒子による上記効果が得られない。球状化粒子の耐火性粉体に占める割合の上限は特に制限されないが、球状化粒子は粒径1mm以上の粗粒域に配合するため、耐火性粉体に占める粗粒域の割合を適切化する観点から自ずと制限されることは当業者に自明であろう。粒径1mm以上の球状化粒子の耐火性粉体に占める割合は、例えば、20質量%以下であることが好ましい。
【0042】
粗粒域の残部は、例えば、マグネシアクリンカーや電融マグネシア等のマグネシア質原料、ドロマイトクリンカ等のドロマイト質原料、カルシアクリンカ等のカルシア質原料、電融アルミナ、ボーキサイト等のアルミナ質原料、スピネルクリンカ等のスピネル質原料、他の酸化物原料、カーボンブラック等の炭素質原料、炭化珪素質原料、窒化珪素質原料、他の非酸化物原料、並びにこれらの少なくともいずれかを主成分とする使用済耐火物から選択される一種以上を用いることができる。
【0043】
粗粒域は、粒径3mm以上の粒子を含むことが好ましい。仮に本耐火物に亀裂が生じても、その粒子において伝播を阻止できる。粗粒域の最大粒径は特に限定されないが、例えば、8mm未満が好ましく、10mm未満がより好ましい。
【0044】
微粒域を構成する原料は特に限定されず、例えば、粗粒域の場合と同様、上に例示した各原料を用いることができる。なお、微粒域にも耐火れんが破砕物や球状化粒子を配合してもよい。
【0045】
投入時の偏析を緩和する観点から、耐火性粉体における耐火れんが粉砕物及び球状化粒子以外の残部の殆ど、具体的には、その残部の90質量%以上も、耐火れんが破砕物との嵩比重差0.5以下の原料で構成することが好ましい。このことは、例えば、耐火れんが破砕物として高嵩比重のものを使用することで、容易に実現しうる。
【0046】
有機結合剤としては、熱間でカーボンボンドを形成する物質、例えば、樹脂、糖類、ピッチ、タール、他の瀝青から選択される一種以上を用いることができる。樹脂としては、フェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、テルペン樹脂が挙げられる。樹脂と共に、ヘキサメチレンテトラミン等の硬化剤を併用してもよく、この場合は硬化剤も有機結合剤の概念に含めるものとする。糖類としては、グルコース、フルクトース、ガラクトース、及びマンノース等の単糖類や、スクロース、マルトース、ラクトース、セロビオース、及びトレハロース等の二糖類が挙げられる。ピッチ及びタールは、石油系及び石炭系のいずれでもよい。樹脂やピッチと共に、例えば多価アルコール等を含む溶剤を用いてもよく、この場合は溶剤も有機結合剤の概念に含めるものとする。ピッチと樹脂を併用する場合は、両者に相溶性をもつ溶剤が好ましい。
【0047】
有機結合剤としては、ピッチ及び/又はタールを含むことが好ましい。ピッチやタールは、受熱からカーボンボンド化するまでの間の軟化状態が、樹脂や糖類に比べて長く継続する。本発明において上記球状化粒子は、有機結合剤の軟化期間の長短に関らず、耐火れんが破砕物の粒子間を離間させ、耐火れんが破砕物による石垣状の構造物の構築を抑制する効果をもつが、有機結合剤の軟化状態が長く維持されれば、その分、焼付補修材の展開を促進する効果を更に得ることができる。特に、本焼付補修材を炉内に投入後、炉を傾ける場合は、球状化粒子によるベアリング効果が顕著に現れやすい。焼付補修材が薄く展開することで、偏析の問題を防止する効果が一層顕著となる。
【0048】
有機結合剤の添加量は、特に規定しないが、焼付補修材に施工可能な保形性や強度を与える等の観点から、当業者の技術常識により自ずと定められるであろう。典型的には、有機結合剤の使用量は、耐火性粉体100質量%に対する外かけで、2質量%以上が好ましく、3〜15質量%がより好ましい。3質量%以上であることで強度及び保形性を確実に得、15質量%以下であることでさらに耐食性を確保できる。
【0049】
本焼付補修材は、耐火性粉体及び結合剤のみで構成してもよいが、他の添加物をさらに含んでもよい。
【0050】
他の添加物としては、例えば、金属粉、粘性調整剤、有機繊維、金属繊維、及び粒径10mm以上の粗大粒から選択される一種以上が挙げられる。
【0051】
金属粉としては、Fe粉、Cu粉、Al粉、金属Si粉、Fe-Si合金粉が挙げられる。
【0052】
粘性調整剤としては、灯油、重油、クレオソート油、アントラセン油等の石炭又は石油系の油、植物油、動物油、エーテル、カプロラクタム等のラクタム類、アセトアニリドやアセト酢酸アニリド等のアセトアニリド類、ブチルフェノール等のアルキルフェノール類が挙げられる。粘性調整剤は、発塵防止や流動促進の効果をもつ。粘性調整剤の概念からは、上述した結合剤に用いる溶剤は除かれるものとする。
【0053】
有機繊維としては、ビニロン繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、パルプ繊維が挙げられ、作業性の向上、断熱化、及び熱間での応力緩和の効果をもつ。金属繊維としては、ステンレス鋼繊維、Fe繊維、Cu繊維、Al繊維、Ni繊維が挙げられる。
【0054】
本焼付補修材は、熱焼失性バッグに収容されて補修対象炉に投入する方法により施工される。熱焼失性バッグの素材は、炉の熱で焼失するものであれば、特に限定されず、例えば、ポリプロピレンを使用することができる。熱焼失性バッグに収容する焼付補修材の収容量は特に限定されない。本焼付補修材を3〜10kg程度に小口梱包して炉内に投入してもよい。但し、熱焼失性バッグへの収容量が多い場合に特に偏析が深刻となるため、その分、本発明を適用する意義が大きい。具体的には、収容量が、100kg以上の場合に意義が大きく、1t以上の場合に特に意義が大きい。
【実施例】
【0055】
表1に、焼付補修材の実施例及び比較例と評価結果とを示す。
【0056】
焼付補修材を構成する耐火性粉体が、粒径1mm以上の粗粒域:65質量%と、粒径1mm未満の微粒域:35質量%とからなる条件で、耐火れんが破砕物及び球状化粒子等の嵩比重及び粒径等を種々変更した。
【0057】
表1で評価は次の要領で行った。各例の焼付補修材20kgをフレコンバッグに収容し、フレコンバッグごと5m投下させる。床面は、予め約800℃に熱しているものとする。
【0058】
偏析しにくさ:床面への焼付けが完了した施工体の平面視中央部の縦断面を目視観察し、耐火れんが破砕物の偏析しにくさを◎、○、△、×の4段階で相対評価した。
【0059】
せん断強度:床面への焼付けが完了した施工体の平面視中央部を試料として採取し、その試料の高さ方向に関して略中央部の位置におけるせん断強度によって◎、○、△、×の4段階で相対評価した。
【0060】
展開性:床面における焼付補修材の拡がり寸法によって◎、○、△、×の4段階で相対評価した。なお、拡がり寸法は直交する2方向についての直径の平均値とした。
【0061】
易焼付性:フレコンバッグの投下から、焼付補修材中の有機結合剤に由来する発煙が停止するまでの時間の短さによって◎、○、△、×の4段階で相対評価した。
【0062】
【表1】

【0063】
例Aは、耐火れんが破砕物を含むが、球状化粒子を含まない従来の焼付補修材に相当する比較例である。みかけ上、展開性は相対的に良好であるが、施工体の平面視において中央部に粒径1mm以上の耐火れんが破砕物が展開せずに石垣状に堆積し、その石垣状の堆積体から分離してしみだすように、粒径1mm未満のマトリクス部が展開していた。このため、特に、偏析しにくさの点で劣っている。また、石垣状の堆積体の厚さが厚いため、易焼付性に劣る。また、耐火れんが破砕物の偏在に起因して施工体の高さ方向に関する組織の連続性が損なわれたため、せん断強度も相対的に小さい。このような施工体は、実機使用においては構造的スポーリングを生じやすいといえる。
【0064】
例Bは、例Aの粗粒域の一部を、焼付補修材に一般的に使用される嵩比重3.4のマグネシア質原料を球状化処理したものに置換した比較例である。球状化粒子を含むにも関らず、例Aに比べて、偏析しにくさ及びせん断強度の点で改善効果がみられない。また、例Bは球状化粒子を含むにも関らず、施工体表層側への耐火れんが破砕物の偏析の度合いは、例Aよりも悪化していた。このため、例Bのせん断強度は例Aよりも小さい。これは、例Bでは、球状化粒子の嵩比重が耐火れんが破砕物より1.0も大きく、かつ球状化粒子は表面が滑らかで他の粒子との摩擦が小さいため、投下時の衝撃で球状化粒子が耐火れんが破砕物よりも下地側に沈み込んだことに起因すると考えられる。例Bの結果から、単に耐火性粉体における耐火れんが破砕物以外の残部を球状化処理するだけでは、偏析しにくさを緩和できないことがわかる。
【0065】
例C及びDは、例Aにおいて、耐火れんが破砕物以外の残部に、通常は焼付補修材には使用されない嵩比重2.9の軽量マグネシアを球状化処理して配合した比較例であり、例Bに比べると、球状化粒子と耐火れんが破砕物との嵩比重が近似するが、球状化粒子の添加量が少ないため、偏析しにくさ及びせん断強度において改善効果がみられなかった。
【0066】
例E〜Gは、例C及びDよりも球状化粒子を増量した実施例であり、偏析しにくさ及びせん断強度において改善がみられた。これは、球状化粒子の嵩比重が耐火れんが破砕物と近似するのみならず、球状化粒子の配合量が充分であるため、球状化粒子が組織内で耐火れんが破砕物から極度に分離することなく、耐火れんが破砕物と混在したことによる。即ち、耐火れんが破砕物間への球状化粒子の介在により、耐火れんが破砕物の粒子間を離間でき、耐火れんが破砕物による石垣の構築を抑制でき、組織の均一化を達成できた。
【0067】
例C〜Gの結果から、耐火性粉体に占める耐火れんが破砕物の割合が50質量%の場合に、偏析しにくさ及びせん断強度において改善効果を得るためには、球状化粒子は9質量%以上必要であることがわかる。なお、本発明においては、耐火性粉体に占める耐火れんが破砕物の割合を50質量%以下に制限している。耐火性粉体に占める耐火れんが破砕物の割合が50質量%以下であれば、9質量%以上の球状化粒子によって上記各効果が得られることは自明である。
【0068】
例H及びIは、例E〜Gにおいて、耐火性粉体における球状化粒子以外の残部にも、耐火れんが破砕物と嵩比重が近似する軽量マグネシアを配合した実施例であり、偏析しにくさの更なる改善がみられた。
【0069】
但し、例H及びIでは、展開性及び焼付時間は相対的に悪化した。展開性が悪化した理由は、粗粒域を構成する骨材と、微粒域を構成するマトリクスとの分離が一層抑制され、マトリクスのしみだしが抑制されたためである。焼付時間が悪化した理由は、これに加えて、嵩比重の小さい原料を多用したことによると考えられる。即ち、嵩比重の小さい原料は、熱伝導率が小さい。
【0070】
なお、例E〜Iは、展開性及び易焼付性においては許容範囲であるか又は相対的に劣る。しかし、本発明では、それらの特性よりも、偏析しにくさ及びせん断強度を重要視する。即ち、展開性の悪さは、複数回の投入施工によって補うことができる。また、易焼付性の悪さは、施工時間を充分に確保すれば問題とはならない。しかし、偏析しにくさ及びせん断強度は、施工体の耐用寿命を表している。本発明では、仮に展開性及び易焼付性が犠牲になったとしても、偏析しにくさ及びせん断強度の改善効果の方を重要視する。
【0071】
例J〜Lは、例E〜Gにおいて、耐火れんが破砕物として嵩比重の大きい未使用品を使用することで、耐火れんが破砕物と球状化粒子との嵩比重を近似させた実施例であり、偏析しにくさ及びせん断強度において優れている。また、焼付補修材全体としての嵩比重が向上したためか、展開性及び易焼付性においても改善がみられた。
【0072】
例M、N、Oは、それぞれ例J、K、Lにおいて、球状化粒子の素材として、一般にマグネシア質原料として使用される高嵩比重のものを採用したものであり、それぞれ例J、K、Lと同様に、偏析しにくさ又はせん断強度において優れている。また、焼付補修材全体としての嵩比重が大きいため、投下の衝撃による拡がりが大きくて展開性に優れる。また、その分、施工厚みが薄く、かつ高嵩比重の原料は、熱伝導率が大きいため、易焼付性も優れる。
【0073】
例P、Qは、それぞれ例I、Oにおいて、球状化粒子を配合する粒度域を粒径1mm未満の微粒域、具体的には、その中でも粒径75μm未満の超微粒域に変更した比較例であり、少なくともせん断強度に劣る結果となった。これは、球状化粒子の粒径が小さすぎたため、耐火れんが破砕物の粒子同士を離して石垣状の構造物の構築を抑制することができなかったためと考えられる。この結果から、球状化粒子を配合する粒度域は、粒径1mm以上の粗粒域であることが必要といえる。
【0074】
以上、本発明の具体例について説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、種々の組み合わせ及び改良が可能なことは当業者に自明であろう。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の焼付補修材は、熱焼失性バッグに収容されて補修対象炉に投入される施工法に広く利用することができる。例えば、転炉、電気炉、真空脱ガス炉、AOD炉、取鍋、タンディッシュ、高炉樋、その他の溶融金属容器の補修に広く利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火性粉体と、有機結合剤とを含み、熱焼失性バッグに収容されて補修対象炉に投入される焼付補修材であって、前記耐火性粉体100質量%中に、粒径1mm以上の耐火れんが破砕物を最大で50質量%、前記耐火れんが粉砕物との嵩比重差が0.5以下で粒径1mm以上の球状化処理された球状化粒子を9質量%以上、それぞれ含む焼付補修材。
【請求項2】
前記耐火れんが破砕物が、嵩比重2.6以上のマグネシア‐カーボン質れんが破砕物である請求項1に記載の焼付補修材。

【公開番号】特開2012−126610(P2012−126610A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279988(P2010−279988)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【Fターム(参考)】