説明

焼却灰の処理方法

【課題】
焼却灰をセメントの原燃料として有効利用するために、該焼却灰を水に加えスラリー化、その後、固液分離、固形分(ろ過残渣)を洗浄して塩素分を低減するに際し、限られた水量で最も効率的に該塩素量を低減する方法を提供する。
【解決手段】
ろ過残渣の水洗による塩素濃度の低減効果は焼却灰100質量部に対して水500質量部以上では頭打ちになるのに対し、スラリー濃度は低いほど塩素濃度の低減効果が大きいため、スラリー調製及び洗浄に使用できる合計水量をY質量部としたとき、焼却灰100質量部に対して、ろ過残渣を水洗する際に用いる水の量を500〜2000質量部とし、残部の水(Y−500〜Y−2000質量部)を全てスラリーを調製するために用いる。固液分離はフィルタープレスを用いることがろ過効率等の点で好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼却灰の処理方法に関する。詳しくは、セメント製造の原燃料とする際に問題となる塩素量を低減できる焼却灰の処理方法、及びそのための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
都市ゴミ等の焼却飛灰は、その発生量が多い、塩素含有量が多い、重金属を含む、ダイオキシンを含む、発生の場所によって成分が大きく変わるなどの特徴が有り、その利用方法は限られている。
【0003】
その利用方法の一つに、セメントの原燃料とする方法がある。しかしながらセメント原燃料とする場合も無制限に使用できるわけではなく、特に、最終製品であるセメント中の塩素含有量をJIS規格に収めるために、焼却灰を洗浄し、その塩素含有量を減らす必要性がある(特許文献1〜3、非特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−351546号公報
【特許文献2】特開2010−132463号公報
【特許文献3】特開2003−103231号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】城安一、「セメントキルンを用いたごみ焼却灰のパーフェクトリサイクル―ごみ焼却灰のセメント原料化―」、ハイテクインフォメーション、中国技術振興センター発行、平成13年2月28日、第128巻、pp.14−19
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、焼却灰スラリーのろ過後、多量の水を用いてろ過残渣の洗浄を行っても、得られた洗浄灰の塩素量が十分に低下していない場合があるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記課題に鑑み、鋭意検討を行った。その結果、洗浄後の焼却灰中の塩素濃度は、ろ過後の洗浄水量を一定量以上にすると、その後はほとんど変化せず、むしろスラリー調製時のスラリー濃度(スラリー中の焼却灰の割合)によりその大部分が決せられることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、スラリー貯槽中で焼却灰を水と混合してスラリーとする工程、該スラリーを洗浄灰と洗浄水とに分離する工程及びろ過残渣を水洗する工程を含んでなる、焼却灰をセメント原燃料とするための水洗処理方法において、
スラリー調製及び洗浄に使用できる合計水量をY質量部としたとき、
焼却灰100質量部に対して、ろ過残渣を水洗する際に用いる水の量を500〜2000質量部とし、残部の水(Y−500〜Y−2000質量部)を全てスラリーを調製するために用いることを特徴とする焼却灰の水洗処理方法である。
【0009】
他の発明は、スラリー貯槽中で焼却灰を水と混合してスラリーとする工程、該スラリーを洗浄灰と洗浄水とに分離する工程及びろ過残渣を水洗する工程を含んでなる、焼却灰をセメント原燃料とするための水洗処理方法において、
焼却灰100質量部に対して、ろ過残渣を水洗する際に用いる水の量を500〜2000質量部とし、かつ、前記スラリーの焼却灰濃度を10質量%以下とする焼却灰の水洗処理方法である。
【0010】
上記焼却灰の水洗処理方法において、スラリーを洗浄灰と洗浄水とに分離する工程に用いる装置はフィルタープレスであることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、相対的に少量の水で、安定的に塩素含有量の少ない処理済み焼却灰を得ることができる。これにより、該焼却灰をセメント原燃料として使用しても、製造されるセメント中の塩素量を抑制することができ、よって、セメント原燃料として常に多量の焼却灰を使用することが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】焼却灰スラリー濃度を一定にした際の、洗浄水量と塩素含有率を示す図。
【図2】スラリー濃度と塩素含有率を示す図。
【図3】全水量を一定にし、スラリー調整用の水と洗浄用の水との配分比を変化させた際の、スラリー濃度と塩素含有率を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において処理対象とされる焼却灰は特に限定されるものではないが、その発生量が多く、セメント原料以外の有用な用途が実質的に無く、かつ塩素含有量も比較的多い点で都市ゴミ焼却灰を対象とすることが好ましい。
【0014】
都市ゴミの焼却炉から排出される焼却灰のうち、主灰は、主としてストーカー炉の下部より燃え殻として排出される焼却灰であり、冷却焼却後に水と接触するため、水分を20%ないし50%(質量)程度含有する塊状物として得られる。また、その塩素含有量は、0.5ないし5.0%(質量)に及ぶ。一方、飛灰は、ストーカー炉の排ガスや流動床炉の排ガスより補足される微粉であり、一般に5ないし30%(質量)程度の割合で塩素を含有している。
【0015】
上記主灰には、空き缶、針金等の異物が多く含まれる場合があり、これらをあらかじめ除去することが好ましい。また、主灰は塊状物であるため、あらかじめ平均粒径が200μm以下、好ましくは、150μm以下、さらに好ましくは、50ないし100μmとなるように調整することが必要である。さらに、主灰粉砕後においても、未粉砕物や粉砕前に除去しきれていない異物を除去することが好ましい。
【0016】
一方、飛灰は主灰に対して多量のダイオキシン類を含有しているため、予め脱ダイオキシン類処理をされていることが好ましい。
【0017】
脱ダイオキシン類の方法は特に限定されず公知の条件にて行えばよいが、例えば、飛灰を無酸素雰囲気下、300ないし450℃、好ましくは350℃ないし450℃の温度で処理すればよい。上記無酸素雰囲気下とは、酸素が完全に存在しない場合の他に、装置等の構造により不可避的に進入する酸素、被処理物に同伴される酸素等が含有されている態様を含むものである。脱ダイオキシン類は、無酸素雰囲気を窒素ガスによって形成し、加熱機により加熱を行う態様が好ましい。なお、脱ダイオキシン類処理における加熱により、水銀も揮発除去でき、比較的高濃度の水銀を含む都市ゴミ焼却灰の前処理としては有効である。
【0018】
本発明においては、上記の如くして前処理された主灰、飛灰等の焼却灰をそれぞれ、或いは同時に水と混合してスラリー化する。スラリー化の方法は特に限定されるものではなく、公知の方法を適宜選択して行えばよい。
【0019】
本発明においては上記の如き焼却灰を水と混合してスラリーとする。当該スラリー化の方法は特に限定されず、例えば、スラリー貯槽内に、焼却灰及び水を入れて攪拌する方法が挙げられる。
【0020】
本発明においては、上記の如くして前処理された主灰、飛灰等の焼却灰をそれぞれ、或いは同時に水と混合してスラリー化する。スラリー化の方法は特に限定されるものではなく、公知の方法を適宜選択して行えばよい。例えば、スラリー貯槽内に、焼却灰及び水を入れて攪拌する方法が挙げられる。
【0021】
スラリーとする際の水の水温は特に限定されるものではないが、10℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましく、20℃以上が最も好ましい。この際に用いる水としては、一般的な工水、地下水、水道水等を用いることができる。
【0022】
攪拌を行う時間は、全体が均一なスラリーとなる程度であればよく、攪拌装置にもよるが、一般的には5〜60分間程度で十分である。
【0023】
本発明における特徴は、使用可能な全水量から、必要最小限の洗浄水量を確保し、残部の水を全てスラリーを調製するために用い、可能な限りスラリー濃度を低くする点にある。これは前述のとおり洗浄後の焼却灰中の塩素濃度は、ろ過後の洗浄水量にはほとんど依存せず、スラリー調製時のスラリー濃度によりその大部分が決せられるためである。むろん無制限に水が使用できれば、洗浄水を多量に使用してよいが、通常は使用できる水量に制限がある。そこで、本発明においては限られた水を塩素低減効果を最大限に得るために、上述の通り水をスラリー調製水と、ろ過残洗浄水とに振り分けるものである。
【0024】
具体的には図1に示すように、ろ過後のろ過残を洗浄するための洗浄水量としては焼却灰100質量部に対して500質量部以上では、ろ過残の塩素濃度の低減効果は頭打ちとなる傾向が強い。一方、図2に示すように焼却灰スラリーのスラリー濃度を薄くするほど、塩素濃度は低くなる傾向にある。
【0025】
従って、本発明においては該洗浄水量を焼却灰100質量部に対して500質量部以上、好ましくは550質量部以上、より好ましく600質量部以上とする。一方、使用可能な全水量が限定された範囲内でできるだけスラリー調製用の水に回すため上限を2000質量部、好ましくは1800質量部、さらに好ましくは1500質量部以下、特に好ましくは1000質量部以下とする。
【0026】
本発明を他の観点からみると、焼却灰スラリーのスラリー濃度を薄くするほど塩素濃度は低くなるという点に鑑み、該スラリー濃度を10質量%以下、好ましくは7質量%以下とすることにより、焼却灰100質量部に対して500〜2000質量部程度の少量の洗浄水で十分に塩素濃度を低減できるものである。
【0027】
上述の如くしてスラリー化され、洗浄されることにより、焼却灰中の塩素分の大部分は水中に溶解する。本発明においてはスラリーを洗浄灰と洗浄水とに分離することにより、洗浄灰の塩素量を大幅に低減できる。
【0028】
当該分離方法は固液分離の可能な公知の方法を特に限定することなく採用できるが、分離効率、及び分離後の固形分の洗浄が容易な点でフィルタープレスが好ましい。
【0029】
むろんフィルタープレス以外にも、ヌッチェ式吸引ろ過機、ドラムフィルター、ベルトフィルター等、公知ものものが際限なく利用できる。
【0030】
上記フィルタープレス等により水と固形分(ろ過残渣)とに分離した後、分離仕切れなかったろ過残渣に含まれる塩素分(多くはろ別しきれなかった洗浄水中に含まれる)を除去するため、固形分をさらに水洗するが、この際の水量を前記した範囲の量とすることにより総使用水量の削減が可能となる。なおこの洗浄工程における水温は、特に限定されるものではないが、10℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましく、20℃以上が最も好ましい。
【0031】
洗浄方法は、用いた固液分離装置に応じて公知の方法を採用すればよい。例えばフィルタープレスを用いた場合には、脱水ケーキをフィルターで挟んだまま貫通洗浄を行う方法などが挙げられる。
【0032】
上記の如き本発明は、使用可能な水量が限られている際に特に有効であり、スラリー調製及び洗浄に使用できる合計水量が焼却灰100質量部に対して5000質量部以下、特に3000質量部以下の際にその有効性が高い。
【0033】
本発明において、上記洗浄工程で得られた固形分(洗浄灰)は、カルシウム化合物、シリカを主成分とし、かつ塩素分が大幅に低減されているため、セメント製造工場にてセメント原料として使用される。この場合、上記固形分は水分を含有しているため、原料調製行程でセメント原料とともにドライヤーを経てサスペンションプレヒーターに供給することが好ましい。また、本発明で得られる排水は、公知の排水処理を行い処理排水として排出すればよい。
【実施例】
【0034】
以下、実験例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
各実験例における焼却灰中の塩素濃度の測定は、試料の焼却灰を100℃で乾燥後、蛍光X線分析によって測定した。
【0036】
実験例1〜8
スラリー貯層中で、都市ゴミ焼却炉より得られたゴミ焼却灰100質量部に対して水1400質量部(水温25℃)を加えてスラリー濃度6.7質量%の焼却灰スラリーを得た。このスラリーをフィルタープレスに導入し固液分離を行った。さらにろ過残ケーキ(固形分)を、前記ゴミ焼却灰100質量部に対して0〜14000質量部相当の水量で貫通洗浄した。洗浄後の洗浄ケーキの塩素量を測定した結果を、洗浄に際して用いた水量等と共に表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
実験例9〜16
スラリー貯層中で、都市ゴミ焼却炉より得られたゴミ焼却灰100質量部に対して水900質量部(水温18℃)を加えてスラリー濃度10質量%の焼却灰スラリーを得た。このスラリーをフィルタープレスに導入し固液分離を行った。さらにろ過残ケーキ(固形分)を、前記ゴミ焼却灰100質量部に対して0〜4000質量部相当の水量で貫通洗浄した。洗浄後の洗浄ケーキの塩素量を測定した結果を、洗浄に際して用いた水量等と共に表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
実験例1から16の結果を、横軸を洗浄に用いた水量(対焼却灰100質量部)、縦軸を洗浄後の洗浄ケーキの塩素量としてプロットした結果を図1として示す。
【0041】
この図1及び表1、2から読み取れるように、焼却灰100質量部に対して洗浄水が500質量部までは洗浄ケーキの塩素量は低下していくが、洗浄水量をそれ以上増加させても塩素量の低下はない。
【0042】
実験例17〜20
スラリー濃度を変化させてスラリーを調製し、各々フィルタープレスで固液分離を行った後、焼却灰100質量部に対して500質量部以上の洗浄水で洗浄を行った。洗浄後の洗浄ケーキの塩素量を測定した結果を、スラリー濃度等と共に表3及び図2に示す。この図表に示されているように、スラリー濃度が低いほど洗浄ケーキの塩素量は低下していく。
【0043】
【表3】

【0044】
実験例21〜27
100質量部の焼却灰と2900質量部の水を用意し、0乃至2750質量部の水を洗浄水として確保し、残部の水を用いて濃度の異なるスラリーを調製した。各々フィルタープレスで固液分離を行った後、洗浄水で洗浄を行った。洗浄後の洗浄ケーキの塩素量を測定した。結果を表4及び図3に示す。
【0045】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラリー貯槽中で焼却灰を水と混合してスラリーとする工程、該スラリーを洗浄灰と洗浄水とに分離する工程及びろ過残渣を水洗する工程を含んでなる、焼却灰をセメント原燃料とするための水洗処理方法において、
スラリー調製及び洗浄に使用できる合計水量をY質量部としたとき、
焼却灰100質量部に対して、ろ過残渣を水洗する際に用いる水の量を500〜2000質量部とし、残部の水(Y−500〜Y−2000質量部)を全てスラリーを調製するために用いることを特徴とする焼却灰の水洗処理方法。
【請求項2】
スラリー貯槽中で焼却灰を水と混合してスラリーとする工程、該スラリーを洗浄灰と洗浄水とに分離する工程及びろ過残渣を水洗する工程を含んでなる、焼却灰をセメント原燃料とするための水洗処理方法において、
焼却灰100質量部に対して、ろ過残渣を水洗する際に用いる水の量を500〜2000質量部とし、かつ、前記スラリーの焼却灰濃度を10質量%以下とする焼却灰の水洗処理方法。
【請求項3】
スラリーを洗浄灰と洗浄水とに分離する工程に用いる装置がフィルタープレスである請求項1又は2記載の焼却灰の水洗処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−95605(P2013−95605A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236814(P2011−236814)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】