説明

焼却灰の塩素含有量の測定方法、焼却灰のセメント原料化方法及びセメント製造方法

【課題】焼却灰の塩素含有量を迅速に測定して、洗浄工程の時間短縮を図り、焼却灰のセメント原料化の処理効率を高める。
【解決手段】焼却灰を一次洗浄した後、サンプリングして硝酸溶液中に分散することにより含有塩分を溶解し、その溶解液の塩化物イオン量を電量滴定法によって測定し、その測定結果に応じて焼却灰の再度の洗浄の要否を選択し、塩化物イオン量が多い焼却灰を再度洗浄して得る複数回洗浄焼却灰と、塩化物イオン量が少ない焼却灰について再度の洗浄をしない一回洗浄焼却灰とに分別してセメント原料化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、都市ごみ等の焼却灰をセメント原料化の目的で洗浄する際、工程の時間短縮による効率化のため、洗浄液中の塩化物イオン量を迅速に分析する焼却灰の塩素含有量の測定方法、その測定方法を用いて焼却灰をセメント原料化する方法、及びその原料を使用したセメント製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
都市ごみや産業廃棄物の焼却によって生じる焼却灰は、SiO、Al、Fe、CaOなどのセメント原料と同様の成分を含んでいるため、セメント原料としての利用が図られている。しかし一方では、焼却灰には塩素も残留しており、この塩素がセメントキルンの安定操業に悪影響を及ぼし、またセメントの品質を劣化させるため、脱塩素処理してセメント原料化することが行われている。
このような焼却灰をセメント原料化する従来技術として特許文献1記載の技術がある。この特許文献1記載の技術は、焼却灰の脱塩素の手段として水洗処理を施すようにしており、その水洗時のpHを制御した上で複数回洗浄(第一次洗浄、第二次洗浄、さらに必要なら第三次以上の洗浄)を行うことにより、塩素を溶解して除去している。
【特許文献1】特許第3368372号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、焼却灰の塩素含有量は一律ではなく、洗浄1回でセメント原料として使用可能な程度までに塩素を除去できる場合もあれば、2回以上の洗浄を必要とする場合もある。この場合、洗浄回数が1回で済むのか、2回目以降の洗浄を必要とするかは、焼却灰中の残留塩素量を測定して、その測定結果で判断すればよいが、測定値が判明するまでに時間を要するため、通常は、洗浄を2回以上繰り返し行うようにしている。このため、2回洗浄不要なものまで2回以上の洗浄をすることになり、処理効率が悪くなっている。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、焼却灰の塩素含有量を迅速に測定して、洗浄工程の時間短縮を図り、焼却灰のセメント原料化の処理効率を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決するために種々研究を重ね、迅速分析が可能な電量滴定法による測定に最適な前処理条件を見出すことができれば、分析に要する時間の短縮が図れると考え、鋭意研究した結果、溶出条件をある一定の範囲に設定することで、迅速かつ精度良く焼却灰中の残留塩素量を測定する方法を見出し、上記の問題を解決するに至った。
【0005】
すなわち、本発明の焼却灰の塩素含有量の測定方法は、都市ごみ等の焼却灰を硝酸溶液中に分散することにより含有塩分を溶解し、その溶解液の塩化物イオン量を電量滴定法によって測定することを特徴とする。
電量滴定法は、電解液中で銀線の電解酸化により生成する銀イオンによって試料中の塩化物イオンを滴定し、滴定に要した電気量からファラデーの法則に基づき塩化物イオン量を演算するものであり、簡便な方法で、極めて短時間で測定することができるものである。この電量滴定法で塩化物イオン量を測定する場合、焼却灰を電量滴定できる試料を作製する必要があるが、その試料作製に時間を要するようでは電量滴定法を採用する意義が損なわれる。本発明は、焼却灰を硝酸溶液中に分散することにより含有塩分を溶解して、その溶解液を電量滴定の試料とするものであり、硝酸溶液を用いたことにより短時間で試料作製することができる。
【0006】
また、本発明の焼却灰のセメント原料化方法は、都市ごみ等の焼却灰を洗浄してセメント原料化する方法であって、焼却灰を一次洗浄した後、サンプリングして硝酸溶液中に分散することにより含有塩分を溶解し、その溶解液の塩化物イオン量を電量滴定法によって測定し、その測定結果に応じて焼却灰の再度の洗浄の要否を選択し、塩化物イオン量が多い焼却灰を再度洗浄して得る複数回洗浄焼却灰と、塩化物イオン量が少ない焼却灰について再度の洗浄をしない一回洗浄焼却灰とに分別してセメント原料化することを特徴とする。
【0007】
焼却灰の中には複数回洗浄することを必ずしも要しない場合があり、一回の洗浄の後に、塩化物イオン量を測定して、再度の洗浄の要否を判断することにより、洗浄を効率的に行って時間短縮を図ることができる。この場合、通常の焼却灰は少なくとも一回は洗浄が必要であり、一次洗浄の前に測定することとすると、すべての焼却灰について測定することになり、かえって作業が煩雑になるため、一次洗浄後に測定することとした。その測定方法としては、前述したように硝酸溶液に焼却灰を一部溶解して電量滴定の試料を作製するので、試料作製から塩化物イオン量測定までの時間も短くて済み、全体として処理時間を大幅に短縮することができる。
【0008】
そして、本発明のセメント製造方法は、前記セメント原料化方法によって得られた焼却灰をセメントクリンカ製造用原料としてセメント製造設備に投入してセメントを製造することを特徴とする。
事前に適切に脱塩素処理されているので、セメントキルンを安定的に操業することができるとともに、焼却灰のセメント原料化からセメント製造までを計画的に処理することができ、多量の処理を可能にする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、焼却灰を硝酸溶液中に分散して含有塩分を溶解した溶解液を電量滴定の試料とすることにより、短時間で試料作製することができ、迅速分析可能な電量滴定法による測定と相俟って試料作製から測定までの時間を大幅に短縮することができる。そして、この測定方法を用いることにより、焼却灰のセメント原料化に際して、洗浄を効率的に行うことができ、ひいては、焼却灰を計画的かつ多量に処理することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態における焼却灰のセメント原料化方法の処理フローを示している。
このセメント原料化方法では、焼却灰を受け入れ、異物選別機で異物を選別分離した後、一次洗浄し、必要に応じて複数回洗浄した後、洗浄後の焼却灰をセメント原料としてセメント製造工場に出荷するようになっており、一次洗浄した後の焼却灰の含有塩素量を測定して、複数回洗浄するものと、そのまま出荷するものとを分別している。以下、これを順に詳述する。
【0011】
都市ごみ焼却炉等で生じる焼却灰には、空き缶等の金属類やガラス片や陶磁器片などを含んでおり、まず、これらの異物を選別分離する。この異物選別機としては、メッシュスクリーンを利用して大きい異物を選別分離するふるい選別機、比重差を利用して重量物を選別分離するジグ選別機、磁力を利用して金属異物を選別分離する磁選機等が用いられる。
【0012】
そして、これら異物が除去された焼却灰を一次洗浄する。この一次洗浄に使用される一次洗浄槽は、例えば内部にスクレーパ付きコンベアやプロペラが収容されており、投入される焼却灰が各スクレーパの移動やプロペラの撹拌により、洗浄槽の内底面に滞留することなく洗浄される構成である。洗浄液としては、水とpH調整剤として硫酸や硝酸が使用され、洗浄槽内のpHを例えば10程度に維持するように酸の添加量が調整される。焼却灰は、この一次洗浄槽内で例えば2〜4時間コンベアを駆動して撹拌しながら洗浄した後、取り出される。
【0013】
次に、この一次洗浄槽から取り出した焼却灰について、その塩素含有量を測定する。その測定に際しては、電量滴定法が用いられ、その試料を次のようにして作製する。
温度を20±3℃に調整した5〜25%硝酸溶液を用意し、一次洗浄した後の焼却灰からサンプリングして、焼却灰1gに対して硝酸溶液が5〜20mlとなる比率で焼却灰を硝酸溶液中に入れ、15〜30℃を保持したまま、これを電磁撹拌式のスターラー等で攪拌することにより、硝酸溶液中に焼却灰を分散する。
【0014】
硝酸溶液の濃度が5%未満では焼却灰の塩素含有量と測定値の相関関係が悪くなり、15%を越えるとゲル状物質が生成して後のろ過作業に時間を要したり、後の緩衝溶液添加によるpH調整が困難になる傾向があるため、硝酸溶液の濃度は5〜15%内に調整することが望ましく、その中でも、できるだけ正確に10%前後に調整することがより望ましい。また、温度が15℃未満では塩素の溶出が不完全で焼却灰の塩素含有量と測定値の相関関係が悪くなり、30℃を越えるとゲル状物質が生成して後のろ過作業に時間を要する傾向があるため、温度は制御装置のコントロール範囲で20〜25℃に保持することが望ましい。さらに、撹拌時間は5分以上が望ましく、5〜60分とするが、実用的には後述の試験結果で明らかなように5分間で十分である。この際、試料が難溶解性の場合には20〜25%の硝酸溶液で溶解させた後、水を加えて最終的に5〜15%内に調整する。
【0015】
このようにして得られた混濁液をろ過して、そのろ過液に緩衝溶液を加えて希釈する。例えば、ろ過液を1ml量り取り、緩衝溶液10mlで希釈する。そして、電量滴定式塩分測定器を用いて希釈溶液の塩化物イオン量を測定し、焼却灰中の残留塩素量に換算する。
【0016】
この測定結果により、焼却灰の塩素含有量がしきい値以下の場合は、そのままセメント原料としてセメント製造工場に出荷され、塩素含有量がしきい値Sを超えている場合は、複数回洗浄することが行われる。そのしきい値Sとしては、0.2〜0.7%とされ、好ましくは0.2%とされる。
【0017】
セメント製造工場では、受け入れられた焼却灰は、通常のセメントクリンカ用原料(石灰石、粘土、珪石、鉄原料等)とともにセメント原料として原料ミル及びドライヤからプレヒータを経由してセメントキルンに投入される。この焼却灰は、セメント製造工場に受け入れられる前に塩素分の大部分が除去されているので、セメントキルンの操業に悪影響を及ぼすことがなく、したがって、通常の品質と変わらない良質のセメントクリンカを製造することができる。
【実施例】
【0018】
次に、本発明による塩素含有量の測定方法による効果を実証するために行った試験結果について説明する。
焼却灰と硝酸溶液について、その混合比(固液比)、硝酸溶液の濃度、処理温度、攪拌時間を変えながら、種々の試料を作製した。例えば、固液比=1/10の場合、焼却灰30gと硝酸溶液300gとをビーカーに入れてスターラーで所定時間攪拌した後、停止して固形分を沈澱させ、その上澄み液をシリンジで15ml採取し、これを0.45μmの目のフィルターでろ過し、そのろ過液1mlを緩衝溶液に添加して、電量滴定法により塩化物イオン量を測定した。
また、硝酸溶液に代えて、水を用いた試料も作製した。
この場合、焼却灰については、JIS R 5202「ポルトランドセメントの化学分析方法」に基づき、予め塩素含有量を精密に測定しておき、その測定結果とこの実証試験による測定結果とから、その相関係数(r)を求めて、両者を比較した。その結果を表1に示す。相関係数が1に近いほど、従来の精密な測定と非常に類似した値が得られることを示す。
【0019】
【表1】

【0020】
この表1から、5〜15%硝酸溶液に焼却灰を分散して5分以上攪拌することにより、従来の精密な測定との相関係数が1に近く、ほぼ同じ結果を得ることができることがわかる。攪拌時間としては5分あれば十分であり、30分を越えても相関係数の変化はほとんどない。硝酸溶液でなく水を用いた場合には、60分以上かけても相関係数が小さいため、迅速な測定は難しい。
【0021】
また、一次洗浄前の焼却灰、一次洗浄後の焼却灰、二次洗浄後の焼却灰のそれぞれについて、従来の精密な測定方法と本発明の方法とで塩素含有量をそれぞれ測定した。本発明の測定方法では、20℃の10%硝酸溶液で固液比を1/10とした。攪拌時間は5分とした。その結果を図2に示す。図2の横軸が従来の測定方法による塩素含有量であり、縦軸が本発明の方法による測定結果である。図中、Aが一次洗浄前の焼却灰、Bが一次洗浄後の焼却灰、Cが二次洗浄後の焼却灰をそれぞれ示している。
この図2に示すように、本発明の方法は、塩素含有量にかかわらず、従来の精密測定方法とほぼ同じ測定値を得ることができ、正確に測定できることがわかる。しかも、攪拌時間が5分という短時間で十分な測定精度を有しているものである。
【0022】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、焼却灰のセメント原料化の設備をセメント製造工場とは別に設置して、受け入れた焼却灰をセメント原料化した後に、セメント製造工場に向けて出荷するようにしたが、セメント原料化の設備をセメント製造工場内に設置して、連続的に処理するようにしてもよい。また、二次洗浄に関しては、一次洗浄後の残留塩素含有量の測定結果に基づき洗浄液成分や洗浄時間を変えるようにしてもよく、塩素含有量が多い場合には、よりていねいな洗浄をするようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】焼却灰をセメント原料化してセメントを製造するまでの一実施形態を示す処理フローである。
【図2】洗浄前後の焼却灰について従来方法で測定した塩素含有量と本発明の方法による測定値との相関を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
都市ごみ等の焼却灰を硝酸溶液中に分散することにより含有塩分を溶解し、その溶解液の塩化物イオン量を電量滴定法によって測定することを特徴とする焼却灰の塩素含有量の測定方法。
【請求項2】
都市ごみ等の焼却灰を洗浄してセメント原料化する方法であって、
焼却灰を一次洗浄した後、サンプリングして硝酸溶液中に分散することにより含有塩分を溶解し、その溶解液の塩化物イオン量を電量滴定法によって測定し、その測定結果に応じて焼却灰の再度の洗浄の要否を選択し、塩化物イオン量が多い焼却灰を再度洗浄して得る複数回洗浄焼却灰と、塩化物イオン量が少ない焼却灰について再度の洗浄をしない一回洗浄焼却灰とに分別してセメント原料化することを特徴とする焼却灰のセメント原料化方法。
【請求項3】
請求項2記載のセメント原料化方法によって得られた焼却灰をセメントクリンカ製造用原料としてセメント製造設備に投入してセメントを製造することを特徴とするセメント製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−149057(P2010−149057A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330685(P2008−330685)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】