説明

焼却灰の溶融処理方法と溶融処理設備

【課題】溶融排ガス反応工程において必要なアルカリ薬剤の量を軽減できるようにする。
【解決手段】焼却排ガス中の酸性ガス成分の一部とアルカリ薬剤との反応で塩類を生成させる第1焼却排ガス反応工程と、第1分離工程の後に、焼却排ガス中の残りの酸性ガス成分とアルカリ薬剤との反応で塩類を生成させる第2焼却排ガス反応工程とを有し、焼却飛灰と第1焼却排ガス反応工程で生成された塩類とを、第1分離工程において焼却排ガス中から分離し、第1分離工程で分離された焼却飛灰に含まれる重金属成分の量を検出して、検出量が設定量よりも増えた場合はアルカリ薬剤の添加量を増やし、その検出量が設定量よりも減った場合はアルカリ薬剤の添加量を減らすように、第1焼却排ガス反応工程におけるアルカリ薬剤の添加量を調節する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、都市ゴミなどの廃棄物の焼却炉から排出された焼却排ガス中の酸性ガス成分とアルカリ薬剤との反応で塩類を生成させる焼却排ガス反応工程と、焼却飛灰と前記焼却排ガス反応工程で生成された塩類とを焼却排ガス中から分離する第1分離工程と、焼却炉の焼却主灰と前記第1分離工程で分離された焼却飛灰とを溶融すると共に、前記第1分離工程で分離された塩類を酸性ガス成分に分解して、前記焼却主灰又は焼却飛灰に含まれる重金属成分との反応で揮発性を備えた塩化物の重金属化合物を生成させる溶融反応工程と、前記溶融反応工程において排出された溶融排ガス中の酸性ガス成分とアルカリ薬剤との反応で塩類を生成させる溶融排ガス反応工程と、溶融飛灰と前記溶融反応工程で生成された重金属化合物と前記溶融排ガス反応工程で生成された塩類とを溶融排ガス中から分離する第2分離工程とを有する焼却灰の溶融処理方法と溶融処理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
上記焼却灰の溶融処理方法は、焼却排ガス中から焼却飛灰と酸性ガス成分を除去するために、焼却排ガス中の酸性ガス成分とアルカリ薬剤との反応で、焼却排ガス中から塩類を生成する焼却排ガス反応工程と、その生成した塩類と焼却飛灰とを焼却排ガス中から分離する第1分離工程とを設けてある。
また、焼却主灰や焼却飛灰に含まれる重金属成分が高濃度に溶融スラグへ移行すると、そのスラグの埋立処分地等において、雨水や地下水によって固化したスラグから重金属成分が溶出するおそれがある。
また、スラグの有効利用に対する規制により、重金属含有量によっては再利用できないこともある。
このため、溶融反応工程において、焼却飛灰と焼却主灰とを溶融すると共に、第1分離工程で分離された塩類を酸性ガス成分に分解して、その酸性ガス成分と焼却主灰又は焼却飛灰に含まれる鉛などの重金属成分との反応で揮発性を備えた塩化物の重金属化合物を生成させることにより、重金属成分を溶融排ガス中に揮散させて、重金属成分の溶融スラグへの移行を防止している。
そして、溶融反応工程において塩類の分解により生成された酸性ガス成分は、その全量が重金属成分と反応するのではないので、溶融排ガス中には残りの酸性ガス成分と揮散した重金属成分と溶融飛灰とが混じった状態になっている。
そこで、溶融排ガス中から残りの酸性ガス成分と揮散した重金属成分と溶融飛灰とを除去するために、溶融排ガス中の残りの酸性ガス成分とアルカリ薬剤との反応で、溶融排ガス中から塩類を生成させる溶融排ガス反応工程と、溶融飛灰と重金属化合物と溶融排ガス反応工程で生成された塩類とを溶融排ガス中から分離する第2分離工程とを設けてある。
従来の上記焼却灰の溶融処理方法では、焼却排ガス反応工程において焼却排ガス中の酸性ガス成分の全量をアルカリ薬剤と反応させて塩類を生成した後、焼却飛灰と焼却排ガス反応工程において生成した塩類とを分離する第1分離工程を設けている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−311515号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このため、焼却排ガス反応工程において酸性ガス成分と反応させるに必要な量のアルカリ薬剤に加えて、溶融排ガス反応工程においても、大量のアルカリ薬剤を必要とする欠点がある。
つまり、焼却排ガス中の酸性ガス成分の全量をアルカリ薬剤と反応させて生成した塩類が、溶融反応工程において酸性ガス成分に分解されることになるので、溶融反応工程においては、重金属成分と反応させるに必要な量を越える大量の酸性ガス成分が生成されるとともに、重金属成分との反応に使用されなかった酸性ガス成分も溶融排ガス中に大量に残存しているので、溶融排ガス反応工程において、それらの残存酸性ガス成分との反応で塩類を生成させるためのアルカリ薬剤を大量に必要とする。
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、溶融排ガス反応工程において必要なアルカリ薬剤の使用量を低減できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1特徴構成は、廃棄物の焼却炉から排出された焼却排ガス中の酸性ガス成分の一部とアルカリ薬剤との反応で塩類を生成させる第1焼却排ガス反応工程と、焼却飛灰と前記第1焼却排ガス反応工程で生成された塩類とを焼却排ガス中から分離する第1分離工程と、前記第1分離工程の後に、前記焼却排ガス中の残りの酸性ガス成分とアルカリ薬剤との反応で塩類を生成させる第2焼却排ガス反応工程と、焼却炉の焼却主灰と前記第1分離工程で分離された焼却飛灰とを溶融すると共に、前記第1分離工程で分離された塩類を酸性ガス成分に分解して、前記焼却主灰又は焼却飛灰に含まれる重金属成分との反応で揮発性を備えた塩化物の重金属化合物を生成させる溶融反応工程と、前記溶融反応工程において排出された溶融排ガス中の酸性ガス成分とアルカリ薬剤との反応で塩類を生成させる溶融排ガス反応工程と、溶融飛灰と前記溶融反応工程で生成された重金属化合物と前記溶融排ガス反応工程で生成された塩類とを溶融排ガス中から分離する第2分離工程と、前記焼却主灰又は焼却飛灰に含まれる重金属成分の量を検出して、その検出量が設定量よりも増えた場合はアルカリ薬剤の添加量を増やし、その検出量が設定量よりも減った場合はアルカリ薬剤の添加量を減らすように、前記第1焼却排ガス反応工程における前記アルカリ薬剤の添加量を調節する点にある。
【0006】
〔作用及び効果〕
焼却主灰又は焼却飛灰に含まれる重金属成分の量を検出して、その検出量が設定量よりも増えた場合はアルカリ薬剤の添加量を増やし、その検出量が設定量よりも減った場合はアルカリ薬剤の添加量を減らすように、第1焼却排ガス反応工程におけるアルカリ薬剤の添加量を調節する。
よって、第1焼却排ガス反応工程において生成される塩類の量、つまり、第1分離工程において焼却排ガス中から分離して、溶融反応工程において酸性ガス成分に分解される塩類の量を、焼却主灰又は焼却飛灰に含まれる重金属成分の量に見合った量に調節して、溶融反応工程において生成される、重金属成分との反応に使用されない酸性ガス成分の量を減少させることができる。
焼却排ガス中の残りの酸性ガス成分は、第1分離工程の後の第2焼却排ガス反応工程におけるアルカリ薬剤との反応で塩類を生成して、適宜、焼却排ガス中から分離できる。
従って、溶融反応工程において溶融排ガス中に残存する酸性ガス成分の量を少なくすることができ、溶融排ガス反応工程において、それらの残存酸性ガス成分との反応で塩類を生成させるために必要なアルカリ薬剤の使用量を低減できる。
【0007】
本発明の第2特徴構成は、廃棄物の焼却炉から排出された焼却排ガス中の酸性ガス成分の一部とアルカリ薬剤との反応で塩類を生成させる第1焼却排ガス反応工程と、焼却飛灰と前記第1焼却排ガス反応工程で生成された塩類とを焼却排ガス中から分離する第1分離工程と、前記第1分離工程の後に、前記焼却排ガス中の残りの酸性ガス成分とアルカリ薬剤との反応で塩類を生成させる第2焼却排ガス反応工程と、焼却炉の焼却主灰と前記第1分離工程で分離された焼却飛灰とを溶融すると共に、前記第1分離工程で分離された塩類を酸性ガス成分に分解して、前記焼却主灰又は焼却飛灰に含まれる重金属成分との反応で揮発性を備えた塩化物の重金属化合物を生成させる溶融反応工程と、前記溶融反応工程において排出された溶融排ガス中の酸性ガス成分とアルカリ薬剤との反応で塩類を生成させる溶融排ガス反応工程と、溶融飛灰と前記溶融反応工程で生成された重金属化合物と前記溶融排ガス反応工程で生成された塩類とを溶融排ガス中から分離する第2分離工程と、前記溶融反応工程において排出された溶融排ガス中の未反応の酸性ガス成分の量を検出して、その検出量が設定量よりも少ない場合はアルカリ薬剤の添加量を増やし、その検出量が設定量よりも多い場合はアルカリ薬剤の添加量を減らすように、前記第1焼却排ガス反応工程における前記アルカリ薬剤の添加量を調節する点にある。
【0008】
〔作用及び効果〕
溶融反応工程において排出された溶融排ガス中の未反応の酸性ガス成分の量を検出して、その検出量が設定量よりも少ない場合はアルカリ薬剤の添加量を増やし、その検出量が設定量よりも多い場合はアルカリ薬剤の添加量を減らす、つまり、未反応の酸性ガス成分は重金属成分と反応しなかった余剰の酸性ガス成分であるから、その検出量が設定量よりも少ない場合はアルカリ薬剤の添加量を増やして酸性ガス成分に分解される塩類の量を増やし、その検出量が設定量よりも多い場合はアルカリ薬剤の添加量を減らして酸性ガス成分に分解される塩類の量を減らす。
よって、第1焼却排ガス反応工程において生成される塩類の量、つまり、第1分離工程において焼却排ガス中から分離して、溶融反応工程において酸性ガス成分に分解される塩類の量を、焼却主灰又は焼却飛灰に含まれる重金属成分の量に見合った量に調節して、溶融反応工程において生成される、重金属成分との反応に使用されない酸性ガス成分の量を減少させることができる。
焼却排ガス中の残りの酸性ガス成分は、第1分離工程の後の第2焼却排ガス反応工程におけるアルカリ薬剤との反応で塩類を生成して、適宜、焼却排ガス中から分離できる。
従って、溶融反応工程において溶融排ガス中に残存する酸性ガス成分の量を少なくすることができ、溶融排ガス反応工程において、それらの残存酸性ガス成分との反応で塩類を生成させるために必要なアルカリ薬剤の使用量を低減できる。
尚、酸性ガス成分の設定量は零である場合も含み、この場合、未反応の酸性ガス成分の検出量が零のときは、その検出量が設定量よりも少ないと見なして、バグフィルターが目詰まりを起こさない程度の塩類が生成されるようにアルカリ薬剤の添加量を増やす。
【0009】
本発明の第3特徴構成は、前記第1焼却排ガス反応工程において、前記アルカリ薬剤として水酸化カルシウムを使用して、乾式処理により塩類を生成させ、前記第2焼却排ガス反応工程において、前記アルカリ薬剤として水酸化ナトリウムを使用して、湿式処理により塩類を生成させる点にある。
【0010】
〔作用及び効果〕
第1焼却排ガス反応工程において、水酸化ナトリウム等のアルカリ薬剤に比べて潮解し難い水酸化カルシウム、つまり、山元還元の際に乾式の場合は乾燥しなくてよい水酸化カルシウムを反応薬剤として使用し、第1分離工程においてそのカルシウム塩を焼却飛灰と共にバグフィルターで焼却排ガス中から分離するにあたって、バグフィルターの目詰まりを防止しながら分離することができ、第2焼却排ガス反応工程において水に溶け易いナトリウム塩を生成させて、そのナトリウム塩を水溶液の状態で焼却排ガス中から分離できる。
【0011】
本発明の第4特徴構成は、前記溶融排ガス反応工程において、前記アルカリ薬剤として水酸化カルシウムを使用して、乾式処理により塩類を生成させる点にある。
【0012】
〔作用及び効果〕
溶融排ガス中の酸性ガス成分を、山元還元の際の搬送などの取扱いが容易な塩類として取り出すことができる。
【0013】
本発明の第5特徴構成は、焼却炉から排出された焼却排ガス中の酸性ガス成分の一部とアルカリ薬剤との反応で塩類を生成させる第1焼却排ガス反応手段と、焼却飛灰と前記第1焼却排ガス反応手段で生成された塩類とを焼却排ガス中から分離する第1分離手段と、前記第1分離手段で焼却飛灰と塩類とが分離された焼却排ガス中の残りの酸性ガス成分とアルカリ薬剤との反応で塩類を生成させる第2焼却排ガス反応手段と、焼却炉の焼却主灰と前記第1分離手段で分離された焼却飛灰とを溶融すると共に、前記第1分離手段で分離された塩類を酸性ガス成分に分解して、前記焼却主灰又は焼却飛灰に含まれる重金属成分との反応で揮発性を備えた塩化物の重金属化合物を生成させる溶融炉と、前記溶融炉から排出された溶融排ガス中の酸性ガス成分とアルカリ薬剤との反応で塩類を生成させる溶融排ガス反応手段と、溶融飛灰と前記溶融炉で生成された重金属化合物と前記溶融排ガス反応手段で生成された塩類とを溶融排ガス中から分離する第2分離手段と、前記第1焼却排ガス反応手段における前記アルカリ薬剤の添加量を調節可能な調節手段と、前記添加量が前記焼却主灰又は焼却飛灰に含まれる重金属成分の量に見合った量になるように、前記調節手段の作動を制御する制御手段とが設けられている点にある。
【0014】
〔作用及び効果〕
焼却炉から排出された焼却排ガス中の酸性ガス成分の一部とアルカリ薬剤とを第1焼却排ガス反応手段で反応させて、塩類を生成させる。
焼却飛灰と第1焼却排ガス反応手段で生成された塩類とを、第1分離手段で焼却排ガス中から分離する。
第1分離手段で焼却飛灰と塩類とが分離された焼却排ガス中の残りの酸性ガス成分は第2焼却排ガス反応手段でアルカリ薬剤と反応させて、塩類を生成させる。
溶融炉において、焼却炉の焼却主灰と第1分離手段で分離された焼却飛灰とを溶融すると共に、第1分離手段で分離された塩類を酸性ガス成分に分解して、その酸性ガス成分と焼却主灰又は焼却飛灰に含まれる重金属成分との反応で揮発性を備えた塩化物の重金属化合物を生成させる。
溶融炉から排出された溶融排ガス中の酸性ガス成分とアルカリ薬剤とを溶融排ガス反応手段で反応させて、塩類を生成させる。
溶融飛灰と溶融炉で生成された重金属化合物と溶融排ガス反応手段で生成された塩類とを、第2分離手段で溶融排ガス中から分離する。
制御手段は、第1焼却排ガス反応手段におけるアルカリ薬剤の添加量が、焼却主灰又は焼却飛灰に含まれる重金属成分の量に見合った量になるように、第1焼却排ガス反応手段におけるアルカリ薬剤の添加量を調節可能な調節手段の作動を制御する。
従って、第1焼却排ガス反応手段で生成される塩類の量、つまり、第1分離手段で焼却排ガス中から分離して、溶融炉で酸性ガス成分に分解される塩類の量を、焼却主灰又は焼却飛灰に含まれる重金属成分の量に見合った量になるように、制御手段によって能率良く調整できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明による焼却灰の溶融処理方法に使用する溶融処理設備を示す。
溶融処理設備は、都市ゴミなどの一般廃棄物や産業廃棄物(以下、単に廃棄物という。)Aを焼却するストーカー式の焼却炉1と、焼却炉1から排出された焼却排ガスを無害化する焼却排ガス処理部2と、焼却炉1の焼却主灰と焼却飛灰とからなる焼却灰を溶融する表面溶融炉3と、溶融炉3から排出された溶融排ガスを無害化する溶融排ガス処理部4とを設けてある。
【0016】
焼却排ガス処理部2には、焼却炉1から排出された焼却排ガスを冷却する第1冷却器5と、冷却された焼却排ガス中の酸性ガス成分の一部とアルカリ薬剤との反応で塩類を生成させる第1焼却排ガス反応手段6と、焼却飛灰と第1焼却排ガス反応手段6で生成された塩類とを焼却排ガス中から分離する第1分離手段7と、第1分離手段7で焼却飛灰と塩類とが分離された焼却排ガス中の残りの酸性ガス成分とアルカリ薬剤との反応で塩類を生成させる第2焼却排ガス反応手段8とを設けてある。
【0017】
第1焼却排ガス反応手段6は、酸性ガス成分である塩化水素ガス(HCl)の一部とアルカリ薬剤である水酸化カルシウム(Ca(OH)2)とを反応させる乾式処理により、塩類である塩化カルシウム(CaCl2)を生成させるもので、焼却排ガス中に消石灰(水酸化カルシウム)を吹き込み供給する第1薬剤供給装置9を設けて構成してある。
【0018】
第1分離手段7は、焼却排ガス中の焼却飛灰と第1焼却排ガス反応手段6で生成された塩化カルシウムとを捕捉して分離する第1バグフィルターを設けて構成してある。
【0019】
第2焼却排ガス反応手段8は、焼却排ガス中の塩化水素ガスを含む残りの酸性ガス成分の略全部とアルカリ薬剤である水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液とを反応させる湿式処理により、塩類である塩化ナトリウム(NaCl)を生成させるもので、焼却排ガス中に水酸化ナトリウム水溶液を噴霧するシャワーなどの噴霧器10を設けて構成してある。
【0020】
溶融炉3は、焼却炉1の焼却主灰と焼却飛灰とを溶融すると共に、第1バグフィルター7で分離した塩化カルシウムを炉内の1300℃以上の高温雰囲気中で酸性ガス成分である塩化水素ガス(HCl)に分解して、焼却主灰又は焼却飛灰に含まれる鉛(Pb)やカドミウム(Cd),亜鉛(Zn)などとの反応で、揮発性を備えた塩化物の重金属化合物である塩化鉛(PbCl2)や塩化カドミウム(CdCl2),塩化亜鉛(ZnCl2)などを生成させる。
溶融炉3において溶融させた焼却主灰と焼却飛灰は炉外に排出されて急冷固化され、スラグBとして回収される。
【0021】
溶融排ガス処理部4には、溶融炉3から排出された溶融排ガスを冷却する第2冷却器11と、冷却された溶融排ガス中の酸性ガス成分とアルカリ薬剤との反応で塩類を生成させる溶融排ガス反応手段12と、溶融飛灰と溶融炉3で生成された重金属化合物と溶融排ガス反応手段12で生成された塩類とを溶融排ガス中から分離する第2分離手段13とを設けてある。
【0022】
溶融排ガス反応手段12は、溶融炉3において重金属成分との反応に使用されなかった主な酸性ガス成分である塩化水素ガスと、アルカリ薬剤である水酸化ナトリウム又は水酸化カルシウムとの反応で、塩類である塩化ナトリウム又は塩化カルシウムを生成させるもので、溶融排ガス中に水酸化ナトリウム又は水酸化カルシウムを吹き込み供給する第2薬剤供給装置14を設けて構成してある。
【0023】
第2分離手段13は、溶融飛灰と、塩化鉛や塩化カドミウム,塩化亜鉛などの重金属化合物と、溶融排ガス反応手段12で生成された塩化ナトリウム又は塩化カルシウムとを溶融排ガス中から分離するもので、溶融排ガス中の溶融飛灰と重金属化合物と溶融排ガス反応手段12で生成された塩化ナトリウム又は塩化カルシウムとを捕捉して分離する第2バグフィルターを設けて構成してある。
【0024】
溶融排ガス反応手段12においてアルカリ薬剤としての水酸化ナトリウムを供給して塩化水素ガスと反応させた場合、水酸化ナトリウムや生成される塩化ナトリウムが潮解し易く、第2バグフィルター13の目詰まりが生じ易いので、溶融排ガス反応手段12においてはアルカリ薬剤として水酸化カルシウムを供給するのが望ましい。
【0025】
溶融炉3で生成された重金属化合物は、溶融炉3内の高温雰囲気により溶融排ガス中に揮散しているが、第2冷却器11で溶融排ガスを冷却することにより固化させるので、その固化した重金属化合物を第2バグフィルター13で捕捉できる。
【0026】
第1焼却排ガス反応手段6における水酸化カルシウムの添加量を調節可能な調節手段15と、その添加量が焼却飛灰に含まれる重金属成分の量に見合った量になるように、調節手段15の作動を制御する制御手段17とが設けられている。
【0027】
制御手段17は、第1バグフィルター7で分離された焼却飛灰と塩化カルシウムとを溶融炉3に供給する供給路19の途中に、焼却飛灰に含まれる重金属成分の量を検出する検出手段16を設けて、その検出手段16で検出した単位時間当たりの重金属成分の検出量が設定量よりも増えた場合は水酸化カルシウムの添加量を増やし、その検出量が設定量よりも減った場合は水酸化カルシウムの添加量を減らして、水酸化カルシウムの添加量が焼却飛灰に含まれる重金属成分の量に見合った量になるように、調節手段15の作動を制御する。
【0028】
尚、焼却飛灰には、焼却主灰に比べて10倍以上の重金属成分が含まれているので、供給路19の途中に、焼却飛灰に含まれる重金属成分の量を検出する検出手段16を設けるのが望ましいが、焼却炉1や溶融炉3において焼却飛灰や焼却主灰に含まれる重金属成分の量を検出しても良い。
【0029】
第1薬剤供給装置9は、水酸化カルシウムの貯留槽9aを備え、調節手段15は、電動モータMの駆動で貯留槽下部のテーブルフィーダ9bを作動させて、水酸化カルシウムの排出量(添加量)を調節する。
【0030】
検出手段16は、蛍光X線分析装置などにより単位時間当たりの重金属成分の量を検出する。制御手段17は、単位時間当たりの添加量が焼却飛灰に含まれる重金属成分の量に見合った量になるように、テーブルフィーダ9bを作動させる。
【0031】
検出した単位時間当たりの重金属成分の量から、それらの重金属成分の全量に反応させるに見合った単位時間当たりの塩化水素ガスの量が求まり、その求めた量の塩化水素ガスを溶融炉3において単位時間当たり分解生成させるに必要な塩化カルシウムの量が求まる。
【0032】
すなわち、重金属成分が2価の金属元素Mの酸化物MOの場合、下記の反応が起きる。
MO+2HCl→MCl2+H2
2HCl+Ca(OH)2→CaCl2+2H2
つまり、焼却量の廃棄物に含まれる重金属1当量に対して1当量の消石灰が必要であることがわかる。
【0033】
そして、検出した単位時間当たりの重金属成分の量と、その検出量に対応して必要な単位時間当たりの水酸化カルシウムの添加量との関係がメモリなどに予め記憶されており、制御手段17は、検出した単位時間当たりの重金属成分の量から必要な水酸化カルシウムの単位時間当たりの添加量をメモリなどから読み出して、その添加量になるように、テーブルフィーダ9bを作動させる。
【0034】
次に、上記溶融処理設備を使用して実施する本発明による焼却灰の溶融処理方法を説明する。
焼却灰(焼却主灰及び焼却飛灰)の溶融処理方法は、図2に示すように、第1焼却排ガス反応工程と、第2焼却排ガス反応工程と、第1分離工程と、溶融反応工程と、溶融排ガス反応工程と、第2分離工程とを有する。
尚、図中の矢印は、溶融処理の流れを示す。
【0035】
第1,第2焼却排ガス反応工程は、焼却炉1から排出された焼却排ガス中の酸性ガス成分とアルカリ薬剤との反応で塩類を生成させる工程であり、第1焼却排ガス反応工程は、焼却排ガス中の酸性ガス成分の一部とアルカリ薬剤との反応で塩類を生成させ、第2焼却排ガス反応工程は、第1分離工程の後に、焼却排ガス中の残りの酸性ガス成分とアルカリ薬剤との反応で塩類を生成させる。
【0036】
第1焼却排ガス反応工程では、第1薬剤供給装置9により焼却排ガス中にアルカリ薬剤である消石灰(水酸化カルシウム)を吹き込み供給して、酸性ガス成分である塩化水素ガス(HCl)の一部と反応させる乾式処理により、塩類である塩化カルシウム(CaCl2)を生成させる。
【0037】
この第1焼却排ガス反応工程で供給される消石灰の量は、後述する第1分離工程で分離された焼却飛灰に含まれる重金属成分の量を検出手段16により検出して、その単位時間当たりの検出量が設定量よりも増えた場合は水酸化カルシウムの添加量を増やし、その単位時間当たりの検出量が設定量よりも減った場合は水酸化カルシウムの添加量を減らして、添加量が焼却飛灰に含まれる重金属成分の量に見合った量になるように、調節手段15の作動を調整する。
【0038】
第2焼却排ガス反応工程では、噴霧器10により焼却排ガス中にアルカリ薬剤である水酸化ナトリウム水溶液を噴霧して、焼却排ガス中の残りの塩化水素ガス(HCl)や硫黄酸化物(SOX),窒素酸化物(NOX)を含む酸性ガス成分の略全部と反応させる湿式処理により、塩類である塩化ナトリウム(NaCl),硫酸ナトリウム(Na2S04),硝酸ナトリウム(NaNO3)等を回収し、湿式処理後の焼却排ガスは煙突18から大気に放出させる。
【0039】
第1焼却排ガス反応工程と第2焼却排ガス反応工程で使用するアルカリ薬剤の使用量を従来技術に比べて削減できる分、回収された溶融飛灰の重金属含有率が高くなり、容積が小さくなるため、その分、山元還元での処理エネルギーが小さくなり、ランニングコストを低減できる。
【0040】
第1分離工程では、焼却排ガス中の焼却飛灰と第1焼却排ガス反応工程で生成された塩化カルシウム、及び未反応の水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を第1バグフィルター7で捕捉して分離する。
【0041】
溶融反応工程では、溶融炉3において、焼却炉1の焼却主灰と第1分離工程で分離された焼却飛灰とを溶融すると共に、第1分離工程で分離された塩化カルシウムを炉内の1300℃以上の高温雰囲気中で塩化水素ガスに分解して、焼却主灰又は焼却飛灰に含まれる重金属成分である鉛(Pb)やカドミウム(Cd),亜鉛(Zn)などとの反応で、揮発性を備えた塩化物の重金属化合物である塩化鉛(PbCl2)や塩化カドミウム(CdCl2),塩化亜鉛(ZnCl2)などを生成させる。
【0042】
溶融排ガス反応工程では、第2薬剤供給装置14により溶融排ガス中にアルカリ薬剤である水酸化ナトリウム又は水酸化カルシウム(消石灰)を供給して、重金属成分との反応に使用されなかった酸性ガス成分である塩化水素ガスとの反応で、塩類である塩化ナトリウム(NaCl)又は塩化カルシウム(CaCl2)を生成させる。
【0043】
第2分離工程では、第2バグフィルター13で、溶融飛灰と、塩化鉛や塩化カドミウム,塩化亜鉛などの重金属化合物と、溶融排ガス反応工程で生成された塩化ナトリウム又は塩化カルシウム等の塩類を回収し、重金属を山元還元する。
重金属を山元還元する場合は、第2焼却排ガス反応手段8から生成される塩は別途回収したほうが重金属以外のものが混入しないので、山元還元が容易となる。
【0044】
第2バグフィルター13を通過した溶融排ガスは、第2焼却排ガス反応手段8で焼却排ガスと共に湿式処理され、湿式処理後の溶融排ガスは焼却排ガスと共に大気に放出される。
【0045】
尚、本実施形態において、焼却飛灰に含まれる重金属成分の量に加えて、又は、焼却飛灰に含まれる重金属成分の量に代えて、焼却主灰に含まれる重金属成分の量を検出して、その単位時間当たりの検出量が設定量よりも少ない場合は水酸化カルシウムの単位時間当たりの添加量を増やし、その単位時間当たりの検出量が設定量よりも多い場合は水酸化カルシウムの単位時間当たりの添加量を減らすように、第1焼却排ガス反応工程におけるアルカリ薬剤の添加量を調節してもよい。
【0046】
〔第2実施形態〕
図示しないが、第1実施形態において供給路19の途中に設けた焼却飛灰に含まれる重金属成分の量を検出する検出手段16に代えて、溶融反応工程において排出された溶融排ガス中の未反応の酸性ガス成分の量を検出する検出手段を設けてもよい。
【0047】
この場合、未反応の酸性ガス成分の単位時間当たりの検出量が設定量(閾値)よりも少ない場合は水酸化カルシウムの単位時間当たりの添加量を増やし、その単位時間当たり検出量が設定量(閾値)よりも多い場合は水酸化カルシウムの単位時間当たり添加量を減らして、添加量が焼却飛灰に含まれる重金属成分の量に見合った量になるように、調節手段15の作動を制御することにより、第1焼却排ガス反応工程における水酸化カルシウム(アルカリ薬剤)の添加量を調節する。
尚、酸性ガス成分の単位時間当たりの設定量(閾値)は、最低値としておく。つまり、未反応の酸性ガス成分がゼロの場合でも、バグフィルターが目詰まりを起こさない程度の塩類が生成されるように水酸化カルシウム(アルカリ薬剤)を添加する。
その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0048】
〔その他の実施形態〕
1.本発明による焼却灰の溶融処理方法と溶融処理設備は、アルカリ薬剤として、水酸化ナトリウム又は水酸化カルシウムのいずれを使用しても良い。
2.本発明による焼却灰の溶融処理方法と溶融処理設備は、水酸化ナトリウムや水酸化カルシウム以外の各種のアルカリ薬剤を適宜使用しても良い。
3.本発明による焼却灰の溶融処理方法と溶融処理設備は、回転式表面溶融炉、反射式表面溶融炉、放射式表面溶融炉、旋回流式溶融炉、ロータリーキルン式溶融炉、コークスベッド式溶融炉、キルン式溶融炉、流動庄式溶融炉、シャフト炉式溶融炉、電気式溶融炉(交流アーク式溶融炉、電気抵抗式溶融炉、プラズマ式溶融炉、誘導式溶融炉)などの燃焼式溶融炉で焼却灰を溶融処理するものであっても良く、これらの溶融炉には、燃焼空気を導入して燃焼させる場合も含む。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】溶融処理設備の系統図
【図2】溶融処理の流れを示す図
【符号の説明】
【0050】
A 廃棄物
1 焼却炉
3 溶融炉
6 第1焼却排ガス反応手段
7 第1分離手段
8 第2焼却排ガス反応手段
12 溶融排ガス反応手段
13 第2分離手段
15 調節手段
16 検出手段
17 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄物の焼却炉から排出された焼却排ガス中の酸性ガス成分の一部とアルカリ薬剤との反応で塩類を生成させる第1焼却排ガス反応工程と、
焼却飛灰と前記第1焼却排ガス反応工程で生成された塩類とを焼却排ガス中から分離する第1分離工程と、
前記第1分離工程の後に、前記焼却排ガス中の残りの酸性ガス成分とアルカリ薬剤との反応で塩類を生成させる第2焼却排ガス反応工程と、
焼却炉の焼却主灰と前記第1分離工程で分離された焼却飛灰とを溶融すると共に、前記第1分離工程で分離された塩類を酸性ガス成分に分解して、前記焼却主灰又は焼却飛灰に含まれる重金属成分との反応で揮発性を備えた塩化物の重金属化合物を生成させる溶融反応工程と、
前記溶融反応工程において排出された溶融排ガス中の酸性ガス成分とアルカリ薬剤との反応で塩類を生成させる溶融排ガス反応工程と、
溶融飛灰と前記溶融反応工程で生成された重金属化合物と前記溶融排ガス反応工程で生成された塩類とを溶融排ガス中から分離する第2分離工程と、
前記焼却主灰又は焼却飛灰に含まれる重金属成分の量を検出して、その検出量が設定量よりも増えた場合はアルカリ薬剤の添加量を増やし、その検出量が設定量よりも減った場合はアルカリ薬剤の添加量を減らすように、前記第1焼却排ガス反応工程における前記アルカリ薬剤の添加量を調節する焼却灰の溶融処理方法。
【請求項2】
廃棄物の焼却炉から排出された焼却排ガス中の酸性ガス成分の一部とアルカリ薬剤との反応で塩類を生成させる第1焼却排ガス反応工程と、
焼却飛灰と前記第1焼却排ガス反応工程で生成された塩類とを焼却排ガス中から分離する第1分離工程と、
前記第1分離工程の後に、前記焼却排ガス中の残りの酸性ガス成分とアルカリ薬剤との反応で塩類を生成させる第2焼却排ガス反応工程と、
焼却炉の焼却主灰と前記第1分離工程で分離された焼却飛灰とを溶融すると共に、前記第1分離工程で分離された塩類を酸性ガス成分に分解して、前記焼却主灰又は焼却飛灰に含まれる重金属成分との反応で揮発性を備えた塩化物の重金属化合物を生成させる溶融反応工程と、
前記溶融反応工程において排出された溶融排ガス中の酸性ガス成分とアルカリ薬剤との反応で塩類を生成させる溶融排ガス反応工程と、
溶融飛灰と前記溶融反応工程で生成された重金属化合物と前記溶融排ガス反応工程で生成された塩類とを溶融排ガス中から分離する第2分離工程と、
前記溶融反応工程において排出された溶融排ガス中の未反応の酸性ガス成分の量を検出して、その検出量が設定量よりも少ない場合はアルカリ薬剤の添加量を増やし、その検出量が設定量よりも多い場合はアルカリ薬剤の添加量を減らすように、前記第1焼却排ガス反応工程における前記アルカリ薬剤の添加量を調節する焼却灰の溶融処理方法。
【請求項3】
前記第1焼却排ガス反応工程において、前記アルカリ薬剤として水酸化カルシウムを使用して、乾式処理により塩類を生成させ、
前記第2焼却排ガス反応工程において、前記アルカリ薬剤として水酸化ナトリウムを使用して、湿式処理により塩類を生成させる請求項1又は2記載の焼却灰の溶融処理方法。
【請求項4】
前記溶融排ガス反応工程において、前記アルカリ薬剤として水酸化カルシウムを使用して、乾式処理により塩類を生成させる請求項1〜3のいずれか1項記載の焼却灰の溶融処理方法。
【請求項5】
焼却炉から排出された焼却排ガス中の酸性ガス成分の一部とアルカリ薬剤との反応で塩類を生成させる第1焼却排ガス反応手段と、
焼却飛灰と前記第1焼却排ガス反応手段で生成された塩類とを焼却排ガス中から分離する第1分離手段と、
前記第1分離手段で焼却飛灰と塩類とが分離された焼却排ガス中の残りの酸性ガス成分とアルカリ薬剤との反応で塩類を生成させる第2焼却排ガス反応手段と、
焼却炉の焼却主灰と前記第1分離手段で分離された焼却飛灰とを溶融すると共に、前記第1分離手段で分離された塩類を酸性ガス成分に分解して、前記焼却主灰又は焼却飛灰に含まれる重金属成分との反応で揮発性を備えた塩化物の重金属化合物を生成させる溶融炉と、
前記溶融炉から排出された溶融排ガス中の酸性ガス成分とアルカリ薬剤との反応で塩類を生成させる溶融排ガス反応手段と、
溶融飛灰と前記溶融炉で生成された重金属化合物と前記溶融排ガス反応手段で生成された塩類とを溶融排ガス中から分離する第2分離手段と、
前記第1焼却排ガス反応手段における前記アルカリ薬剤の添加量を調節可能な調節手段と、
前記添加量が前記焼却主灰又は焼却飛灰に含まれる重金属成分の量に見合った量になるように、前記調節手段の作動を制御する制御手段とが設けられている溶融処理設備。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−115588(P2010−115588A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−290178(P2008−290178)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】