説明

焼却灰を用いた複合粒子

【課題】本発明の課題は、焼却灰を原料とする炭酸カルシウム被覆粒子を炭酸ガス法によって製造する技術であって、焼却灰、消石灰および炭酸ガスを効率よく反応させ、焼却灰表面が炭酸カルシウムで被覆された複合粒子を効率的に製造する技術を提供することである。
【解決手段】二酸化炭素を含む気体と焼却灰懸濁液とをインジェクターによって混合しつつ反応槽に導入することによって、焼却灰表面を効率的に炭酸カルシウムで被覆することができ、白色度の高い複合粒子を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼却灰を原料とする複合粒子に関する。特に本発明は、白色度やワイヤー摩耗性などに優れ、製紙用材料として好適な複合粒子を、焼却灰を原料として製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全の観点から、産業廃棄物の削減が強く求められている。産業廃棄物の削減は、発電や廃棄物焼却等を行っている全ての企業及び自治体に対する要請であり、紙・パルプ業界もその例外ではない。
【0003】
このような状況の中、焼却灰の取り扱いが大きな社会問題となっている。現在、焼却灰は、その一部が、セメント原料や製鉄用酸化防止剤、混和剤などの再生材料として有効利用されているが、残りは産業廃棄物として埋め立てられることが多い。
【0004】
その一方で、焼却灰の再利用方法の開発も進んでおり、例えば、製紙工程から発生するスラッジの焼却灰を、軽質炭酸カルシウムと反応させ、白色度や磨耗度を改善した後、再び填料または充填剤とする方法が提案されている(特許文献1〜4)。これらの方法は、製紙工程からのスラッジ焼却灰に何らかの処理を行った後、処理した焼却灰を軽質炭酸カルシウム製造工程に用い、表面上に新規結晶を付着させることにより、白色度や磨耗度の改善を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−233851号公報
【特許文献2】特開2000−178024号公報
【特許文献3】特開平08−049186号公報
【特許文献4】特開平09−111681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、炭酸カルシウムの合成方法として、生石灰と炭酸ガスとを反応させることによる炭酸ガス法が知られており、生石灰CaOに水を加えて消石灰Ca(OH)を得る消和工程と、消石灰に炭酸ガスCOを吹き込み炭酸カルシウムCaCOを得る炭酸化工程とによって、軽質炭酸カルシウムが合成される。ここで、得られる炭酸カルシウムの形状や特性は、炭酸カルシウムの合成工程、特に炭酸化工程の反応条件によって変化するため、炭酸化反応を制御し、生成物である炭酸カルシウムの粒子形状や粒子径などをコントロールする技術が求められている。
【0007】
ところで、燃料の変動などにより焼却灰はその組成や形状が変動しやすいため、焼却灰を原料として付加価値の高い材料を製造しようとする場合、反応を十分に制御することが必要となる。すなわち、その組成や形状が比較的一定である消石灰を原料として炭酸カルシウムを製造する場合、原料である消石灰の粒径や不純物量などは一定であるため、反応条件を一般的に管理すれば、生成物である炭酸カルシウムの形状や特性も一定のものが得られる。しかし、焼却灰のようなその組成や形状が一定しない原料を用いる場合、通常以上に反応を制御できることが求められる。
【0008】
従来、炭酸ガス法によって炭酸カルシウムを製造する場合、消石灰懸濁液(石灰乳)を入れた炭酸化反応槽(カーボネーター)に炭酸ガスを吹き込み、消石灰と炭酸ガスとを反応させることが行われていた(ガス吹き込み型カーボネーター)。しかし、消石灰懸濁液に単純に炭酸ガスを吹き込むだけでは気泡の大きさを制御することが難しく、消石灰と炭酸ガスの反応効率を高め、炭酸化反応を均一に行うことが難しかった。そこで、炭酸化反応槽内部に攪拌機を設け、その攪拌機の近くに炭酸ガスを導入することによって、炭酸ガスを細かな気泡とし、消石灰と炭酸ガスとの炭酸化反応を均一に行い、得られる炭酸カルシウムの形状等を制御する技術が知られている(機械攪拌型カーボネーター:『セメント・セッコウ・石灰ハンドブック』(技報堂出版、1995年)495頁)。
【0009】
しかし、機械攪拌型カーボネーターのように、炭酸化反応槽内部に設けた攪拌機で攪拌を行う場合、反応液の濃度が高かったり炭酸化反応が進むと反応液の抵抗が大きく十分な攪拌が困難になるため炭酸化反応を的確に制御することが難しかったり、十分な攪拌を行うには攪拌機に相当な負荷がかかりエネルギー的に不利となることがあった。また、機械攪拌型カーボネーターでは、反応槽内部の攪拌機を十分に機能させるために定期的な洗浄が必要であり、操業面でも負荷が大きい。さらに、従来の方法では、カーボネーターに加えて、攪拌機や、カーボネーターに炭酸ガスを導入するための設備が必要であり、設備面でもコストがかかるものであった。そして、機械攪拌型カーボネーターでは、攪拌機の近くに供給した炭酸ガスを攪拌機によって細かくすることによって消石灰と炭酸ガスとの反応効率を向上させるものの、反応液の濃度が高い場合などは十分に炭酸ガスを微細化できず、炭酸化反応の面でも、生成する炭酸カルシウムの形態等を正確に制御することが難しいことがあった。
【0010】
このような状況に鑑み、本発明の課題は、焼却灰を原料とする炭酸カルシウム被覆粒子を炭酸ガス法によって製造する技術であって、炭酸ガスと消石灰との反応を良好に制御し、焼却灰と炭酸カルシウムとの複合粒子を効率的に製造する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、インジェクターによって焼却灰および消石灰の水性懸濁液と二酸化炭素を含む気体とを混合しつつ反応槽に導入することによって、効率的に焼却灰、消石灰、二酸化炭素とを接触させ、炭酸化反応を良好に制御・促進できることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
本発明のようにインジェクターを用いて焼却灰および消石灰の水性懸濁液と炭酸ガスとを混合しつつ炭酸化反応槽に導入することによって、反応液の濃度や粘度が高い場合であってもインジェクターによって炭酸ガスが十分に微細化されるため、炭酸ガス、消石灰、焼却灰の反応を効率よく行うことができるとともに、炭酸ガスの気泡の大きさを比較的均一に揃えることができるため炭酸ガスと消石灰との反応初期の接触を好適に制御することができるため、焼却灰のような品質にバラツキのある原料を用いても、焼却灰表面が炭酸カルシウムで被覆された粒子を効率的に製造することが可能になる。
【0013】
すなわち、本発明は、これに制限されるものでないが、以下の発明を包含する。
(1) 焼却灰および消石灰を含む水性懸濁液と二酸化炭素を含む気体とを、インジェクターによって混合しつつ反応槽に供給することを含む、焼却灰を炭酸カルシウムで被覆した粒子の製造方法。
(2) 前記焼却灰として、その平均粒子径が1.0〜5.0μmに調整された焼却灰を用いる、(1)に記載の方法。
(3) 粉砕および/または分級によって焼却灰の平均粒子径を1.0〜5.0μmに調整することを含む、(2)に記載の方法。
(4) 焼却灰および消石灰を含む水性懸濁液として、前記反応槽から循環させた反応液を用いる、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、炭酸ガス、焼却灰および消石灰を良好に接触させることができ、焼却灰を原料として、焼却灰が炭酸カルシウムで被覆された複合粒子を効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、機械攪拌型カーボネーターを利用する炭酸カルシウムの製造設備の概略図である(従来技術)。
【図2】図2は、インジェクターを利用する本発明の焼却灰・炭酸カルシウム複合粒子の製造設備の一例を示す概略図である。
【図3】図3は、インジェクターを利用する本発明の焼却灰・炭酸カルシウム複合粒子の製造設備の一例を示す概略図である。
【図4】図4は、実施例1・2で使用した焼却灰(平均粒子径2.8μm)の電子顕微鏡写真である。
【図5】図5は、実施例1で製造した焼却灰・炭酸カルシウム複合粒子の電子顕微鏡写真である。
【図6】図6は、実施例2で製造した焼却灰・炭酸カルシウム複合粒子の電子顕微鏡写真である。
【図7】図7は、実施例3〜5で使用した焼却灰(平均粒子径3.4μm)の電子顕微鏡写真である。
【図8】図8は、実施例3で製造した焼却灰・炭酸カルシウム複合粒子の電子顕微鏡写真である。
【図9】図9は、実施例4で製造した焼却灰・炭酸カルシウム複合粒子の電子顕微鏡写真である。
【図10】図10は、実施例5で製造した焼却灰・炭酸カルシウム複合粒子の電子顕微鏡写真である。
【図11】図11は、比較例1で製造した焼却灰・炭酸カルシウム複合粒子の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明においては、焼却灰および消石灰(水酸化カルシウム)を含む水性懸濁液と二酸化炭素を含む気体とを、インジェクターによって混合しつつ反応槽に導入することによって、焼却灰表面が炭酸カルシウムで被覆された複合粒子を製造する。
【0017】
インジェクター
本発明においてインジェクター(吸引式注入機)とは、給水圧力を利用して気体を注入する装置であり、本発明においては、ポンプなどの液体増圧設備によって消石灰を含有する液体をインジェクターに供給すると、インジェクターにて減圧状態が生じ、二酸化炭素を含む気体が消石灰および焼却灰を含む液体に吸い込まれつつ混合され、反応液が反応槽に供給される。つまり、本発明においては、炭酸化反応の反応物質である消石灰と炭酸ガスとが焼却灰とともにインジェクターによって混合されつつ、反応槽に搬送される。なお、材料を吹き込む装置をインジェクター(injector)、吸い出す装置をエジェクター(ejector)と呼ぶ場合があるが、液体の流れによって生じた減圧状態により材料を吸い込みつつ混合するものであれば、本発明におけるインジェクターに該当する。
【0018】
本発明においては、インジェクターにて発生する引圧によって二酸化炭素が吸い込まれるため、従来の反応装置では不可欠であった二酸化炭素を供給するためのガス増圧設備が不要となる。また本発明においては、インジェクターによって炭酸ガスが微細化され、また、インジェクターから供給された反応液によって反応槽に水流が生じるため、反応槽に特に攪拌機を設置する必要がなく、その点でも設備的に有利である。
【0019】
特に、本発明のようにインジェクターを用いて炭酸ガスを消石灰および焼却灰と混合・接触させることにより、炭酸ガスの気泡を均一に微細化することができるため、炭酸ガスと消石灰との接触界面を大きくして炭酸化反応の効率を向上させるとともに、炭酸化反応が焼却灰の近傍で生じやすいため焼却灰表面を効率的に被覆することができる。この点、従来用いられていた機械攪拌型カーボネーターでは、反応液の濃度が高くなると十分に炭酸ガスを微細化することができなかったが、本発明のようにインジェクターを用いることによって反応液の濃度が高い場合にも炭酸化反応を効率よく行うことができ、また、焼却灰を効率的に炭酸カルシウムで被覆することが可能になる。
【0020】
本発明においてインジェクターの数は、特に制限されず、1つのインジェクターを用いてもよく、複数のインジェクターを用いてもよい。炭酸ガスと消石灰との反応効率に鑑みると、複数のインジェクターを用いることが好ましく、好ましい態様において3つ以上、4つ以上、5つ以上のインジェクターを用いることができる。また、複数のインジェクターを用いる場合は、個々のインジェクターの条件を同じに設定してもよく、別々に設定してもよい。
【0021】
本発明においてインジェクターをカーボネーターに接続する態様は特に制限されないが、例えば、反応槽を上からみた場合、インジェクターを反応槽の中心に向けて設置しても、反応槽の中心から反応槽の接線方向に傾けて設置してもよい。1つの態様において、インジェクターを反応槽の接線方向に傾けて設置すると、インジェクターから反応槽に供給された反応液によって反応槽内部に水流が生じるため炭酸カルシウムの結晶成長を均一かつ効率的に行うことができ好適である。複数のインジェクターを用いる場合、インジェクター吐出流れが互いにぶつかるように配置することもでき、反応効率アップにとっては好適である。
【0022】
本発明においてカーボネーターの形状は特に制限されず、円筒状、円錐状、立方体等でもよい。また、カーボネーター内部の流れをよくする目的で整流板を設置することも出来る。カーボネーター内部循環をよくするために、ポンプ等の増圧装置の吸込み口をカーボネーター下部に設置することが好適である。
【0023】
本発明においてインジェクターの圧力は、用途に応じて適宜設定することができるが、製紙用途に適した炭酸カルシウムを製造する際は、例えば、インジェクターの入口圧を0.01〜0.5MPaとすることが好ましく、0.02〜0.2MPaとすることがより好ましい。インジェクター出口の液面が高ければ、二酸化炭素ガスの反応率が改善されるが、ガスの吸込量が減る反面があり、インジェクター出口の液面を0以下〜2000mmとすることが好適である。
【0024】
一般にインジェクターは、液体流路に加えて1個〜複数個の気体吸込穴を有するが、インジェクターの気体吸込穴の大きさと形状を調整することによって、炭酸化反応を制御することもできる。一つの態様において、インジェクターの空気吸込穴の開口部面積を3〜30000mm/個とすることが好ましく、100〜8000mm/個とすることがより好ましい。
【0025】
本発明においてインジェクターのG/L比は(Gはガス吸込流量Nm/分、Lはインジェクター流体通過流量m/分)、エネルギー効率から、0.1〜5が好ましく、0.2〜2がより好ましい。
【0026】
焼却灰
本発明においては、複合粒子の原料として焼却灰を使用する。原料となる焼却灰は、原料を高温で燃焼処理する既知の処理装置から発生する灰であれば問題なく使用することができる。このような灰の原料として、製紙スラッジ、石炭、紙を含む廃棄物、バイオマス、複合燃料からなる群より選択される1種以上を本発明において使用する。この中では、製紙スラッジおよび/または石炭の焼却灰を使用することがより好ましい。一般に焼却灰は、各種金属及びそれらの酸化物、硫化物、塩化物などの無機物を主に構成されているが、その組成は非常に複雑であり、焼却物や産地によっても種々異なる。焼却灰には、SiO、Al、CaO、MgOなどの無機酸化物、未燃カーボンのような燃焼原料中の有機物の他、ハロゲンや重金属を含んでいることがある。このように焼却灰は、場所、季節などによってその組成が変動するが、工業的に安定して再利用するためには、このような組成が一定しない焼却灰を原料としても一定レベルの製紙用材料を安定して製造できることが要求される。そして、本発明によれば、驚くべきことに、様々な焼却灰を用いて、ワイヤー磨耗度が改善された製紙用材料を製造することができる。つまり、本発明によれば、焼却温度や時間、燃焼設備の形状等の燃焼条件に関係なく、不安定な原料である焼却灰を用いて製紙用材料を安定的に製造することが可能である。
【0027】
本発明において原料とする焼却灰は、単一の出所から生じたものを単独で使用することもでき、また、複数の出所から生じたものを混合して使用することもできる。後者の場合は、焼却灰を生ぜしめた燃焼設備の方式や、灰の原料が異なっていてもよい。
【0028】
本発明において焼却灰を得るための燃焼装置は、特に制限されないが、例えば、ストーカー炉(固定床)、バーナー炉、流動床炉、燃料噴射式炉、サイクロン炉、キルン炉、多段燃焼炉などの内熱燃焼炉や、重油等を熱源にした間接加熱方式の外熱燃焼炉などの燃焼装置を使用することができ、ストーカー炉(固定床)、バーナー炉、流動床炉、キルン炉が好ましい。また、異なる方式の燃焼装置を複数組み合わせて燃料を燃焼させることもできる。さらに、燃焼時間(滞留時間)も、原料の量や酸素条件などに応じて決定することができるが、0.1〜60秒が好ましく、0.2〜30秒がより好ましい。燃焼装置における酸素濃度も条件に応じて適宜決定することができるが、燃焼効率の観点から、2〜15%が好ましく、3〜10%がより好ましい。
【0029】
本発明の製紙用填料の原料として、製紙工程からのスラッジ焼却灰や石炭焼却灰を好適に用いることができる。本発明において、製紙工程からのスラッジ焼却灰(PSA:paper sludge ash)とは、製紙工程から発生するスラッジ(PS:paper sludge)をキルンや熱回収ボイラー等で燃焼させた後の焼却残渣を指し、古紙リサイクル工程や製紙白水から排出された炭酸カルシウム、二酸化チタン、タルク、カオリンのような無機顔料、無機凝集剤である硫酸アルミニウム、さらにインク成分や繊維の一部等を含んでなる。本発明において、製紙工程からのスラッジ焼却灰を原料として製紙用填料を製造すると、製紙工場からの廃棄物を削減することができ、また、輸送コストなどもかからないため極めて有利である。また、製紙スラッジの焼却灰は、その組成が比較的安定している点でも有利である。製紙スラッジの燃焼設備は特に限定されないが、ロータリーキルンやスラッジボイラーなどが挙げられる。
【0030】
本発明の製紙スラッジとしては、例えば、古紙リサイクル工程(DIP工程)、パルプ製造工程、抄紙工程などからのスラッジなどを挙げることができ、これらは、古紙リサイクル工程、パルプ製造工程、抄紙工程などから流失した排水中の固形分を主として構成される。例えば、古紙リサイクル工程からの製紙スラッジであれば、古紙懸濁液スラリーからパルプを取り出した後の廃液を脱水処理して得られるスラッジを挙げることができ、このような製紙スラッジには、カオリンクレーや炭酸カルシウムなどの無機填料および無機顔料に加え、繊維やインク粒子等が含まれる。
【0031】
本発明において石炭焼却灰とは、燃焼設備で発生する石炭の燃えかすを指す。一般に、石炭灰の粒径はフライアッシュでほぼ100μm以下、ボトムアッシュではこれ以上から1mmの大きさのものが多いと言われるが、本発明ではいずれの大きさ、形状の石炭焼却灰を原料として用いてもよい。石炭焼却灰としては、例えば、電力業界などの微粉炭ボイラーから排出される石炭焼却灰や、製紙工場の石炭燃焼設備から得られる石炭焼却灰を本発明の製紙用填料の原料とすることができる。
【0032】
本発明において紙を含む廃棄物とは、家庭・オフィス・製紙工程などで不要となったいわゆる紙くずや古紙などの紙から主に構成させる廃棄物に加えて、紙以外に種々の廃棄物が混入している廃棄物をも含む。例えば、樹脂フィルムなどでコーティングされている紙を原料としても、本発明によれば、ワイヤー摩耗性に優れた製紙用填料を得ることができる。
【0033】
本発明においてバイオマスとは、生物由来の産業資源であり、例えば、廃棄物系バイオマスとしては、紙、家畜糞尿、食品廃棄物、木屑や木粉などの建設廃材、黒液、下水汚泥、生ゴミなど、未利用バイオマスとしては、稲わら、麦わら、籾殻などの農業廃棄物、間伐材・被害木などの林地残材、木材、資源作物、飼料作物などが挙げられる。
【0034】
本発明において複合燃料とは、廃棄物固形燃料(RDF:Refuse Derived Fuel)などのように廃棄物などの材料を燃料化したものであり、燃焼によって主に熱エネルギーを得るために用いられ、廃棄物発電やボイラーなどの燃料として有効活用されている。例えば、RDFは、家庭などで捨てられる生ゴミやプラスチックゴミなどの廃棄物を固形燃料にしたものであり、本発明において好適に使用することができる。また、古紙及び廃プラスチック類を主とした廃棄物から得られるRPF(Refuse Paper & Plastic Fuel)は、廃棄物の内容が明確であるため発熱量がコントロールが容易で含水量が少なく、また、ダイオキシンの発生原因とされたポリ塩化ビニル(PVC)を除外できるため、本発明において特に好適に使用することができる。
【0035】
本発明では、いずれの大きさ、形状の焼却灰を原料として用いてもよいが、焼却灰表面に炭酸カルシウムを被覆する前に、焼却灰の平均粒子径を1.0〜5.0μmに調整することが好ましい。このように焼却灰の平均粒子径を予め調整することによって、反応を均一に制御しやすくなる。焼却灰の平均粒子径は2.2〜4.0μm程度に調整することがより好ましい。焼却灰を2μm以下まで細かくするには粉砕処理に多くのエネルギーが必要になったり、高性能な粉砕機が必要になる一方、上記範囲であれば比較的容易に粒子径を調整できるためである。また、一般に製紙用材料(顔料や填料)として使用される無機粒子は、平均粒径を0.1〜30μmとすることが好ましいとされているが、焼却灰は、前述の各種製紙用無機材料に比べて硬度が高いために、単に前述の粒度範囲にしただけでは、抄紙機のワイヤーを大きく磨耗させてしまうためワイヤー寿命を短縮させたり、設備への負荷が大きく、生産性が著しく低下するという問題があった。本発明においては、炭酸カルシウムで被覆する前の焼却灰について、その平均粒子径を1.0〜5.0μmの範囲にすることによりワイヤー摩耗性を大きく改善するとともに、焼却灰表面に炭酸カルシウムが被覆しやすくして複合粒子の白色度を改善している。
【0036】
本発明において焼却灰の平均粒子径を調整する方法は特に制限されず、公知の方法によることができるが、分級処理や粉砕処理によることが好適である。好ましい態様において、焼却灰を分級によって粗粒分を簡単に除去した後に粉砕によって焼却灰の平均粒子径を調整することができる。
【0037】
本発明における焼却灰の粉砕処理は、種々の方法で行うことができ、粉砕機を用いて粉砕することが好ましく、その粉砕方法は乾式、湿式いずれも用いることができる。粉砕工程に用いる粉砕機としては、ボールミル、ロッドミル等の広義のボールミルや、ビーズミル、タワーミル、アトライター、セイトリーミル、サンドグラインダー、アニュラーミル等の媒体攪拌式粉砕機、コロイドミル、ホモミキサー、ホモジナイザー、インラインミル等の高速回転粉砕機の他に、ジェットミル、乾式ビーズミル、乾式ボールミルのような乾式の粉砕機でも良い。
【0038】
また、分級処理は、粉砕工程の前、後、または粉砕工程中に、粉砕の効率化などを目的として、スクリーン、篩等によって行うことができる。分級手段としては、振動篩、超音波篩、ジェットスクリーン、エアセパレータ、トロンメルスクリーン等が挙げられる。粉砕工程は複数の粉砕機を組み合わせて行ってもよい。この際使用する粉砕機は、前述の通り乾式でも湿式でもよく、乾式粉砕機と湿式粉砕機を組み合わせて使用することもできる。
【0039】
本発明における焼却灰の粉砕を湿式で行う場合、湿式粉砕に先立って焼却灰をスラリー化する。スラリーの濃度は、湿式粉砕を行うことができる濃度であれば特に制限はないが、0.05〜50%が好ましく、1〜40%がより好ましい。0.05%未満では生成される粒子の量が少なくなり効率が悪く、50%を越えるとスラリーの流動性が悪化し粉砕工程の操業性が低下するおそれがある。スラリーを粉砕機に施用する前には、攪拌・分散処理を行って焼却灰粒子をスラリー中に均一に分散させることが望ましい。この攪拌・分散処理は、焼却灰が十分に分散し、極端に凝集していなければ問題はなく、時間や攪拌強度等の制限は特にない。撹拌機または分散機としては、例えばアジテータ、ホモミキサー、ホモジナイザー、ミキサー等をはじめとする、既知の攪拌機または分散機を問題なく使用できる。焼却灰スラリーの溶媒は水系溶媒であることが好ましい。
【0040】
本発明において粉砕工程および/またはスラリー分散処理を行う際に、粘度の調整などを目的として粉砕助剤および/または分散剤を用いることもできる。乾式粉砕に使用する粉砕助剤の種類は特に限定されるものではなく、エタノールやイソプロピルアルコール等のアルコール類や、プロピレングリコール、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、水または水系助剤等既知の粉砕助剤であれば問題無く使用できる。また、湿式粉砕および/またはスラリー分散処理に使用する分散剤の種類も特に限定されるものではなく、アクリル酸やメタクリル酸、ポリアクリル酸、およびその誘導体や塩を構成成分とする水性高分子等、既知の分散剤であれば問題無く使用できる。粉砕助剤/分散剤の添加量は、粒径、粒度分布、スラリー濃度や粘度などに応じて適宜調節される。
【0041】
消石灰(水酸化カルシウム)
本発明においては、消石灰を含む液体がインジェクターに供給される。本発明においては、ポンプなど通常の方法で消石灰を含む液体をインジェクターに供給することができる。
【0042】
本発明において消石灰を含む懸濁液の消石灰濃度は、好ましくは1〜30重量%、より好ましくは2〜20重量%程度である。1%より薄いと反応効率が低く、製造コストが高くなり、30%を超えると粘度が急に上昇し、反応効率が低下する。また、消石灰を含む液体の全体の固形分濃度は、5〜40重量%が好ましく、10〜30重量%がより好ましい。本発明においては、機械式攪拌機(アジテーター)でなくインジェクターによって炭酸ガスを混合するため、反応液の濃度が20重量%を超えるような高濃度であっても、反応液と炭酸ガスを好適に混合することができる。
【0043】
本発明において、消石灰を含む液体のインジェクターへの1本当たりの導入量は、製造設備効率の観点から、0.01〜100m/分が好ましく、0.1〜10m/分がより好ましい。また、インジェクターにおける圧力(入口圧力)は、エネルギー効率の観点から、0.005〜0.5MPaが好ましく、0.02〜0.2MPaがより好ましい。
【0044】
また、消石灰を含む懸濁液の温度は特に制限されないが、例えば、0〜80℃とすることができ、10〜70℃とすることが好ましい。温度が低いと反応効率が低下しコストが高くなる一方、80℃を超えると粗大粒子が多くなる傾向がある。
【0045】
本発明において消石灰は、炭酸カルシウム合成に一般に用いられるものを使用でき、例えば、消石灰を水に混合して調製したり、生石灰(酸化カルシウム)を水で消和(消化)して調製したり、生石灰を焼却灰スラリーに投入し消和して調製することができる。消和する際の条件は特に制限されないが、例えば、CaOの濃度は1重量%以上、好ましくは8重量%以上、温度は20〜100℃、好ましくは30〜100℃とすることができる。また、消和反応槽(スレーカー)はバッチ式であっても連続式であってもよい。なお、本発明においては炭酸化反応槽(カーボネーター)と消和反応槽(スレーカー)とを別々にしてもよく、また、1つの反応槽を炭酸化反応槽および消和反応槽として用いてもよい。さらに、複数の反応槽を直列または並列に連結して使用することもできる。
【0046】
本発明においては、消石灰を含む液体の調製などに水を使用するが、この水としては、通常の水道水、工業用水、地下水、井戸水などを用いることができる他、工業廃水や、本発明で得られた複合粒子スラリーを分離・脱水する際に得られる水を好適に用いることできる。
【0047】
また本発明においては、炭酸化反応槽の反応液を循環させて水酸化カルシウムを含む液体として使用することができる。このように反応液を循環させて、反応液と炭酸ガスとの接触を増やすことにより、反応効率を上げ、所望の複合粒子を得ることが容易になる。
【0048】
二酸化炭素(炭酸ガス)を含む気体
本発明においては、二酸化炭素(炭酸ガス)を含む気体がインジェクターに吸引され、反応液と混合される。本発明によれば、ファン、ブロワなどの気体供給装置がなくとも炭酸ガスを反応液に供給することができ、しかも、インジェクター内部で炭酸ガスが微細化されるため炭酸化反応を効率よく行うことができる。消石灰を含む懸濁液は、ポンプなど通常の方法でインジェクターに供給することができる。
【0049】
本発明において、二酸化炭素を含む気体の二酸化炭素濃度に特に制限はないが、1つの態様として5〜40容量%程度が好ましく、10〜30容量%程度がより好ましい。また、インジェクターに導入する炭酸ガスの量に制限はなく適宜選択することができるが、例えば、消石灰1kgあたり10〜1000L/時の流量の炭酸ガスを用いると好ましい。
【0050】
本発明の二酸化炭素を含む気体は、実質的に純粋な二酸化炭素ガスでもよく、他のガスとの混合物であってもよい。例えば、二酸化炭素ガスの他に、空気、窒素などの不活性ガスを含む気体を、二酸化炭素を含む気体として用いることができる。また、二酸化炭素を含む気体としては、二酸化炭素ガス(炭酸ガス)の他、製紙工場の焼却炉、石炭ボイラー、重油ボイラーなどから排出される排ガスを二酸化炭素含有気体として好適に用いることができる。その他にも、石灰焼成工程から発生する二酸化炭素を用いて炭酸化反応を行うこともできる。
【0051】
助剤など
本発明の複合粒子の製造方法においては、消石灰と二酸化炭素とを反応させることが必要であるが、さらに公知の各種助剤を添加することができる。例えば、キレート剤を炭酸化反応に添加することができ、具体的には、クエン酸、蓚酸、リンゴ酸、コハク酸などのカルボン酸、グルコン酸、酒石酸などのポリカルボン酸、イミノ二酢酸、エチレンジアミン四酢酸などのポリカルボン酸、ポリリン酸、グルタミン酸などのアミノ酸、硫酸やリン酸などの鉱酸、これらの酸の塩などを挙げることができ、これらを単独または複数組み合わせて使用することができる。中でも、酒石酸、リンゴ酸、蓚酸、クエン酸、グルコン酸、ポリリン酸、エチレンジアミン四酢酸、グルコン酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、リン酸3ナトリウム、3−ヒドロキシ−2,2‘−イミノジコハク酸4ナトリウムなどが好ましい。このようなキレート剤は、消石灰に対して、好ましくは0.001〜10%、より好ましくは0.1〜2%の量で添加することができる。
【0052】
また、本発明においては、焼却灰以外に、生成物である炭酸カルシウムに取り込まれて複合粒子を生成するような物質を用いることができる。このような物質としては、パルプ繊維を始めとする繊維状物質や無機粒子を挙げることができ、例えば、製紙工場の排水から回収された繊維状物質を本発明の炭酸化反応に供給してもよい。このような物質を反応槽に供給することにより、種々の複合粒子を合成することができ、また、形状的にも繊維状粒子などを合成することができる。
【0053】
反応条件
本発明において炭酸化反応の条件は、特に制限されず、用途に応じて適宜設定することができる。例えば、炭酸化反応の温度は0〜90℃とすることができ、10〜70℃とすることが好ましい。反応温度は、反応液の温度を温度調節装置によって制御することができ、温度が低いと反応効率が低下しコストが高くなる一方、90℃を超えると粗大な炭酸カルシウム粒子が多くなる傾向がある。
【0054】
また、本発明において複合粒子の製造はバッチ製造とすることもでき、連続製造とすることもできる。好ましい態様において、連続製造では、複数のカーボネーターが直列方式で配列され、最初のカーボネーターに消石灰及び焼却灰を含む溶液を供給し、最終のカーボネーターから複合粒子スラリーが抜かれる。バッチ製造時より、連続製造時のインジェクター稼働率が高い。
【0055】
さらに、炭酸化反応は、反応懸濁液のpHをモニターすることにより制御することができ、反応液のpHプロファイルに応じて、例えばpH9未満、好ましくはpH8以下、より好ましくはpH7のあたりに到達するまで炭酸化反応を行うことができる。あるいは、反応液の電導度をモニターすることにより炭酸化反応を制御することも出来る。電導度が1mS/cm以下に低下するまで炭酸化反応を行うことが好ましい。
【0056】
さらにまた、炭酸化反応は、反応時間によって制御することができ、具体的には、反応物が反応槽に滞留する時間を調整して制御することができる。その他、本発明においては、炭酸化反応槽の反応液を攪拌したり、炭酸化反応を多段反応とすることによって反応を制御することもできる。
【0057】
本発明において、反応生成物である複合粒子は懸濁液として得られるため、必要に応じて、貯蔵タンクに貯蔵したり、脱水、粉砕、分級、熟成、分散などの処理を行うことができる。脱水する場合は、例えば、濾過、沈殿、遠心分離、蒸発脱水、噴霧乾燥などの公知の工程によることができ、用途やエネルギー効率などを考慮して適宜決定すればよい。また、本発明によって得られる複合粒子は、微細な一次粒子が凝集した二次粒子の形態を取ることが多いが、熟成工程によって用途に応じた二次粒子を生成させることができる。
【0058】
本発明においては、得られた生成物に対してふるい分けを行うことができ、例えば、湿式の振動ふるいを用いることができる。濾過機や脱水機についても特に制限はなく、一般的なものを使用することができるが、例えば、フィルタープレス、ドラムフィルター、デカンター、ベルトプレスなどを好適に用いてケーキとすることができる。
【0059】
本発明によって得られた複合粒子は、完全に脱水せずに懸濁液の状態で填料や顔料に配合することもできるが、乾燥して粉体とすることもできる。この場合の乾燥機についても特に制限はないが、例えば、気流乾燥機、バンド乾燥機、噴霧乾燥機などを好適に使用することができる。
【0060】
複合粒子(被覆粒子)
本発明の複合粒子は、種々の用途に用いることができ、例えば、紙、塗料、ポリマー、セメント、セラミックなどの用途における各種充填剤、コーティング剤などに好適に用いることができる。中でも、本発明の複合粒子は、製紙用途に特に好適に用いることができ、製紙用填料、製紙用顔料として極めて好適である。すなわち、本発明によれば、比較的白色度の低い焼却灰表面を白色度の高い炭酸カルシウムで被覆するため、原料の焼却灰に比べて白色度や比散乱係数を高くすることができ、また、ワイヤー摩耗性も大幅に改善されるため、製紙用填料・製紙用顔料として適している。
【0061】
製紙用途に用いる場合、本発明によって得られる複合粒子は、光学特性の観点から0.1〜10μmの平均粒径を有することが好ましく、0.2〜3μmの平均粒径を有することがより好ましい。なお、複合粒子の平均粒子径は、レーザー式の粒度分布計により測定することができ、複合粒子の詳細な形状等は、電子顕微鏡による観察により確認することができる。さらに、スラリーの粘度などから、生成物である複合粒子を定性的に確認することも可能である。
【0062】
また、本発明によって得られる複合粒子は、製紙用途に用いる場合、ブレイン空気透過装置によって測定されるブレイン比表面積であれば、0.4〜10m/gであることが好ましく、1.0〜4.0m/gであることがより好ましい。さらに、本発明によって得られる複合粒子の吸油量は、製紙用途に用いる場合、紙の裏抜けを防止するために、70〜200ml/100gであることが好ましく、80〜150ml/100gであることがより好ましい。なお、本発明によって得られた複合粒子の粒子径や比表面積は、粉砕処理等によって調整することができ、例えば、ビーズミルを用いた湿式または乾式粉砕、超音波分散などを行うことができる。
【0063】
また、本発明の複合粒子を製紙用途に用いる場合、他の各種粉体と組み合わせて使用することができ、例えば、他の重質または軽質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、シリカ、シリケート、硫酸カルシウムなどと併用することができる。
【0064】
本発明の製紙用填料を用いて紙を製造する場合、本発明の複合粒子はワイヤー摩耗性が低いため、一般的な抄紙機を用いる抄紙に使用することができる。本発明の複合粒子は、それ単独で用いることもでき、また、他の製紙用填料と併用することもできる。他の製紙用填料と併用する場合は、公知の填料を単独でまたは適宜2種類以上を組み合わせて使用することができ、例えば、炭酸カルシウム、カオリン(フィラーカオリン、焼成カオリン等)、タルク、含水珪酸(ホワイトカーボン)、含水珪酸塩、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、酸化亜鉛、酸化珪素、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛などの無機填料;塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、尿素/ホルマリン樹脂、メラミン系樹脂、スチレン/ブタジエン系共重合体系樹脂、フェノール樹脂、プラスチック中空粒子等の有機填料;または有機・無機複合填料などを使用することができる。
【0065】
本発明の製紙用填料を用いて紙を製造する場合、各種製紙用薬品を使用することができる。具体的には、必要に応じて、ポリアクリルアミド系高分子、ポリビニルアルコール系高分子、澱粉系高分子(カチオン化澱粉、変性澱粉等)、尿素/ホルマリン樹脂、メラミン/ホルマリン樹脂等の紙力増強剤;アクリルアミド/アミノメチルアクリルアミド共重合物塩、澱粉系高分子(カチオン化澱粉、変性澱粉等)、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキサイド、アクリルアミド/アクリル酸ナトリウム共重合物等の濾水性向上剤または歩留向上剤;硫酸アルミニウム(硫酸バンド);耐水化剤;紫外線防止剤;印刷適性向上剤;退色防止剤等の助剤を使用することができる。これらの助剤は、本発明の焼却灰填料のスラリーに予め添加してから抄紙機に施用してもよく、また、本発明の焼却灰填料のスラリーと別々に抄紙機に施用してもよい。
【0066】
複合粒子の製造工程
本発明の複合粒子の製造手順の一例を、添付の図面に基づいて説明する。図2は、本発明による複合粒子の製造工程の一例を示す概略図であり、図2の製造設備では、消和反応槽(スレーカー)と炭酸化反応槽(カーボネーター)とが独立している。図2の製造設備においては、まず、生石灰(酸化カルシウム)と水が消和設備に供給され、消石灰(水酸化カルシウム)の懸濁液(石灰乳、ライム)が調製され、この際、必要に応じて、消石灰懸濁液を重量異物除去装置に通して異物を除去してもよい。この消石灰懸濁液が必要に応じて貯蔵装置に貯蔵される。
【0067】
消石灰懸濁液や焼却灰が炭酸化反応槽に送られ、そこからポンプなどの液体増圧装置によって消石灰および焼却灰を含む懸濁液がインジェクターに送られる。そして、懸濁液がインジェクターに送られると、それによって生じた引圧によって二酸化炭素を含む気体がインジェクターに吸い込まれ、インジェクター内部で消石灰、焼却灰および炭酸ガスが混合されつつ反応液が炭酸化反応槽に供給される。さらに、炭酸化反応槽内の反応液を循環させて再びインジェクターに供給し、炭酸ガスの微細気泡との反応を行うことによって、炭酸化反応を進行させ、焼却灰表面に炭酸カルシウムを生成させることができる。
【0068】
図3の製造設備では、消和反応槽と炭酸化反応槽とが独立しておらず、消和反応と炭酸化反応とが1つの反応槽で行われるため、設備的に簡便である。図3の製造設備においては、生石灰、焼却灰および水が反応槽に供給され、攪拌機又はインジェクター吐出流れによって消和反応が進み消石灰懸濁液が調製される。この懸濁液がポンプなどの液体増圧装置によってインジェクターに送られ、インジェクターで生じた引圧によって二酸化炭素を含む気体がインジェクターに吸い込まれ、インジェクター内部で懸濁液と炭酸ガスとか混合されつつ反応液が反応槽に供給される。その後、反応槽内の反応液を循環させて再びインジェクターに供給して、炭酸ガスの微細気泡との反応を繰り返し行うことによって、炭酸化反応を進行させ、所望の複合粒子を製造することができる。この態様においても、懸濁液をインジェクターに送液する際に重量異物除去装置に通して異物を除去してもよい。
【実施例】
【0069】
以下、本発明の実施例を具体的に提示し、本発明の内容を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、本明細書において、%および部は特に示さない限り重量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0070】
<製造装置>
以下の実験においては、製造装置として、円筒型反応槽(カーボネーター)、3本のインジェクターを組み込んだユニット1基(株式会社新浜ポンプ製作所HIF−20型ハイフローテーターのインジェクターユニット)、循環ポンプを有する製造装置を用いた(図3)。インジェクターは、1本当たりの液体通過流量が800L/分であり、インジェクターユニットを吐出方向が反応槽の接線と垂直になるように設置した。本反応装置においては、反応槽とインジェクターが送液管で連結されており、反応槽の反応液が循環ポンプによってインジェクターに送液される。
【0071】
<測定方法>
(1)平均粒子径(レーザー法):レーザー回折法により粒度分布を測定した。試料スラリーを、分散剤(ヘキサメタリン酸ソーダ)0.2重量%を添加した純水中に滴下混合して均一分散体とし、レーザー式粒度分布測定機(マルバーン社製マスターサイザー)を使用して平均粒子径を測定した。
(2)ワイヤー磨耗度:リン青銅線円盤(以下ワイヤー)を用いてアインレーナーAT1000磨耗試験機により、ワイヤー摩耗性を測定する。測定に用いるブロンズワイヤーは超音波浴中で5分間洗浄した後、イオン交換水で洗浄し、さらにアセトンにより洗浄を行った。これを105℃で1時間以上乾燥させ、デシケータ中で放冷した後、0.1mgの精度で重量を測定した。このワイヤーを試験円筒機の底に固定し、撹拌機を下ろしてワイヤーに接しさせた。イオン交換水で10%濃度としたスラリーを測定試料とし、試験円筒機に注入した。この状態で、撹拌機を174000回転させて、ワイヤーを摩耗させた。摩耗試験後のワイヤーを、再び超音波浴中で5分間洗浄した後、イオン交換水で洗浄し、さらにアセトンにより洗浄を行った。これを105℃で1時間以上乾燥させ、デシケータ中で放冷した後、0.1mgの精度で重量を測定した。摩耗試験前のワイヤー重量から摩耗試験後のワイヤー重量を差し引き、ワイヤー磨耗度(mg)とした。
(3)ISO白色度:測定光が裏側に透けない程度の厚みを持つよう、試料をリング状の測定器具の中に入れ、約20kg/cmの圧力をかけてペレット状にした。このペレットについて、村上色彩技術研究所CMS−35SPXを用いて、D65光源、10度視野、紫外光を含む条件で白色度を測定した。
(4)比表面積:ブレイン空気透過装置により測定した。
(5)吸油量:JISK5101に基づきアマニ油を用いて測定した。
【0072】
<被覆粒子の製造>
実施例1
焼却灰としては、製紙工程由来のスラッジ(古紙リサイクル工程由来のスラッジ約80重量%、製紙白水由来のスラッジ約20重量%)から得られる焼却灰を用いた。スラッジを、流動床炉を用い、酸素濃度7〜10%、滞留時間0.1〜2秒、800〜850℃という条件下で焼却して焼却灰を得た(平均粒径220μm)。
【0073】
この焼却灰を水に分散させた後、200メッシュの振動スクリーンを用いて湿式分級し、焼却灰から粗粒分を除去、12%の焼却灰スラリーを得た。このスラリーを直列3段式の粉砕機を用いて50L/Mの条件で平均粒径が2.8μmになるまで湿式粉砕した。粉砕後の焼却灰を測定したところ、白色度は41%、ワイヤー摩耗度は88mgだった。図4に、粒子径を調整した焼却灰の電子顕微鏡写真を示す。
【0074】
平均粒子径を2.8μmに調整した焼却灰スラリー(濃度12%)を、カーボネーターに720kg投入し、さらに水を加えて濃度が8%になるまで希釈した。インジェクターガス吸込バルブ閉止の状態で、循環ポンプを運転し、5分間に生石灰45kg(有効成分90%、生成炭酸カルシウム換算72.3kg)を投入した。生石灰投入完了後、更に10分のスレーキング(消和反応)を行った。次いで、開始液温度35℃、インジェクター入口圧0.08MPaの条件下で、炭酸ガス12%容積濃度のボイラー排ガスをインジェクターで吸引しつつ(2.4NM/分)、反応液のpHが8以下になるまで約110分間反応を続けた。
【0075】
この反応により得られた炭酸カルシウム被覆粒子の平均粒子径は3.20μm、比表面積は4.69m/g、白色度は56%、ワイヤー摩耗度は53mgだった。図5に得られた被覆粒子の電子顕微鏡写真を示すが、炭酸カルシウムで被覆されたため、被覆前(図4)と比べて粒子表面に鋭いカドが少なくなっていた。
【0076】
実施例2
実施例1と同様にして得た平均粒子径が2.8μmの焼却灰スラリー(濃度12%)を、カーボネーターに850kg投入し、さらに水を加えて濃度が8%になるまで希釈した。インジェクターガス吸込バルブ閉止の状態で、循環ポンプを運転し、5分間に生石灰47kg(有効成分90%、生成炭酸カルシウム換算76kg)を投入した。生石灰投入完了後、更に10分のスレーキング(消和反応)を行った。次いで、炭酸化助剤としてグルコン酸ナトリウム水溶液(濃度135g/L)を2L添加し、開始液温度35℃、インジェクター入口圧0.08MPaの条件下で、炭酸ガス12%容積濃度のボイラー排ガスをインジェクターで吸引しつつ(2.4NM/分)、反応液のpHが8以下になるまで約115分間反応を続けた。
【0077】
この反応により得られた炭酸カルシウム被覆粒子の平均粒子径は3.50μm、比表面積は5.26m/g、白色度は55%、ワイヤー摩耗度は43mgだった。図6に得られた被覆粒子の電子顕微鏡写真を示すが、炭酸カルシウムで被覆されたため、被覆前(図4)と比べて粒子表面に鋭いカドが少なくなっていた。
【0078】
実施例3
実施例1と同じ焼却灰原料を60メッシュの振動スクリーンを用いて湿式分級し、焼却灰から粗粒分を除去し、17%の焼却灰スラリーを得た。このスラリーを直列3段式の粉砕機を用いて40L/Mの条件で平均粒径が3.4μmになるまで湿式粉砕した。粉砕後の焼却灰を測定したところ、白色度は38%、ワイヤー摩耗度は87mgだった。図7に、粒子径を調整した焼却灰の電子顕微鏡写真を示す。
【0079】
平均粒子径を3.4μmに調整した焼却灰スラリー(濃度17%)を、カーボネーターに540kg投入し、さらに水を加えて濃度が8%になるまで希釈した。インジェクターガス吸込バルブ閉止の状態で、循環ポンプを運転し、5分間に生石灰41kg(有効成分90%、生成炭酸カルシウム換算66kg)を投入した。生石灰投入完了後、更に10分のスレーキング(消和反応)を行った。次いで、開始液温度32℃、インジェクター入口圧0.08MPaの条件下で、炭酸ガス12%容積濃度のボイラー排ガスをインジェクターで吸引しつつ(2.4NM/分)、反応液のpHが8以下になるまで約125分間反応を続けた。
【0080】
この反応により得られた炭酸カルシウム被覆粒子の平均粒子径は3.43μm、比表面積は4.36m/g、白色度は52%、ワイヤー摩耗度は48mgだった。図8に得られた被覆粒子の電子顕微鏡写真を示すが、炭酸カルシウムで被覆されたため、被覆前(図7)と比べて粒子表面に鋭いカドが少なくなっていた。また、被覆前の焼却灰と比較すると、ワイヤー摩耗度が約半分になり、大幅にワイヤー摩耗度が改善された。
【0081】
実施例4
実施例3と同様にして得た平均粒子径が3.4μmの焼却灰スラリー(濃度17%)を、カーボネーターに325kg投入し、さらに水を加えて濃度が5%になるまで希釈した。インジェクターガス吸込バルブ閉止の状態で、循環ポンプを運転し、5分間に生石灰70kg(有効成分90%、生成炭酸カルシウム換算113kg)を投入した。生石灰投入完了後、更に10分のスレーキング(消和反応)を行った。次いで、炭酸化助剤としてグルコン酸ナトリウム水溶液(濃度180g/L)を2L添加し、開始液温度39℃、インジェクター入口圧0.08MPaの条件下で、炭酸ガス12%容積濃度のボイラー排ガスをインジェクターで吸引しつつ(2.4NM/分)、反応液のpHが8以下になるまで約130分間反応を続けた。
【0082】
この反応により得られた炭酸カルシウム被覆粒子の平均粒子径は3.56μm、比表面積は5.33m/g、白色度は60%、ワイヤー摩耗度は25mgだった。図9に得られた被覆粒子の電子顕微鏡写真を示すが、炭酸カルシウムで被覆されたため、被覆前(図7)と比べて粒子表面に鋭いカドが少なくなっていた。
【0083】
実施例5
カーボネーターに水800Lを投入し、インジェクターガス吸込バルブ閉止の状態で、循環ポンプを運転し、5分間に生石灰50kg(有効成分90%、生成炭酸カルシウム換算80kg)を投入した。生石灰投入完了後、更に10分のスレーキング(消和反応)を行った。次いで、炭酸化助剤としてクエン酸水溶液(濃度80g/L)を2L添加し、開始液温度23℃、インジェクター入口圧0.08MPaの条件下で、炭酸ガス12%容積濃度のボイラー排ガスをインジェクターで吸引しつつ(2.4NM/分)、約50分間、炭酸化を行った。炭酸化が約50%進行した時点で、実施例3と同様にして得た平均粒子径が3.4μmの焼却灰スラリー(濃度17%)530kgをカーボネーターに入れた。その後、反応液のpHが8以下になるまで更に約70分間、反応を続けた。
【0084】
この反応により得られた炭酸カルシウム被覆粒子の平均粒子径は4.37μm、比表面積は6.27m/g、白色度は45%、ワイヤー摩耗度は58mgだった。図10に得られた被覆粒子の電子顕微鏡写真を示すが、炭酸カルシウムで被覆されたため、被覆前(図7)と比べて粒子表面に鋭いカドが少なくなっていた。
【0085】
比較例1
図1のような容量250Lのガス吹き込み型カーボネーターに、実施例3と同じ、平均粒子径を3.4μmに調整した焼却灰スラリー(濃度17%)65kgを投入した、さらに水を加えて濃度が8%になるまで希釈した。攪拌機を運転しながら、5分間に生石灰5kg(有効成分90%、生成炭酸カルシウム換算8kg)を投入した。生石灰投入完了後、更に10分のスレーキング(消和反応)を行った。次いで、開始液温度32℃、ガス吹き込み型カーボネーターの下部から、濃度12%容積濃度の炭酸ガスを0.31NM/分で送入し、攪拌しながら、反応液のpHが8以下になるまで約125分間反応を続けた。
【0086】
この反応により得られた炭酸カルシウム被覆粒子の平均粒子径は4.6μm、比表面積は2.40m/g、白色度は46%、ワイヤー摩耗度は61mg、吸油量は102ml/100gだった。図11に得られた被覆粒子の電子顕微鏡写真を示すが、実施例より被覆炭酸カルシウムの粒子が粗い。
【0087】
実施例3に比べ、平均粒子径が大きく、白色度が低いことから、炭酸カルシウム被覆効果が劣ったと考えられる。
【0088】
【表1】

【0089】
以上説明したように、インジェクターを用いて焼却灰および生石灰の懸濁液と炭酸ガスとを混合させつつ反応槽に導入することによって、反応槽に攪拌機を設置しなくても、焼却灰の表面が炭酸カルシウムで被覆された複合粒子を製造することができた。また、反応槽の反応液を循環させてインジェクターに通すことによって炭酸化反応をさらに促進させることができ、所望の特性を有する複合粒子を製造することができた。さらに、インジェクターを用いる本発明によれば、機械攪拌型カーボネーターを用いる製造設備と比較して、攪拌機および炭酸ガス供給設備が不要であるため、本発明は設備的に極めて有利である。また、平均粒子径が3μmより大きい焼却灰を用いた場合も本発明によって得られた複合粒子の性質は優れていた(実施例3〜5)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼却灰および消石灰を含む水性懸濁液と二酸化炭素を含む気体とを、インジェクターによって混合しつつ反応槽に供給することを含む、焼却灰を炭酸カルシウムで被覆した粒子の製造方法。
【請求項2】
前記焼却灰として、その平均粒子径が1.0〜5.0μmに調整された焼却灰を用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
粉砕および/または分級によって焼却灰の平均粒子径を1.0〜5.0μmに調整することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
焼却灰および消石灰を含む水性懸濁液として、前記反応槽から循環させた反応液を用いる、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−206675(P2011−206675A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76801(P2010−76801)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】