説明

焼却炉トリチウムサンプラ

【目的】水分量測定手段の頻繁な校正やそれに伴う水分量測定手段の検出素子の交換を必要としない長期安定性の優れた焼却炉トリチウムサンプラを提供する。
【構成】監視対象排気の吸入側に、排気中の水分を結露させて捕集するための冷却装置14および試料水捕集計量容器15aが配され、その後方に、湿度計または露点を内蔵する水分量測定部12および流量計18が配置されている。試料水捕集計量容器15aに捕集された水分量データと流量計18の流量データから、所定体積の排気中の捕集水分量が算出され、水分量測定部12で得られる冷却装置14を通過した排気中の残存水分量データから、所定体積の排気中の残存水分量が算出され、両者を合算することで所定体積の排気中の全水分量が算出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、原子力発電所等の原子力施設から放出される排気中に含まれるトリチウムの濃度を監視してその値が基準値以下であることを確認するために、排気中に含まれる水分を試料水として採取するトリチウムサンプラに関するものであって、特に水分濃度の高い焼却炉施設用のトリチウムサンプラ(焼却炉トリチウムサンプラ)に関する。
【背景技術】
【0002】
トリチウムサンプラは、排気中に含まれるトリチウムの濃度を監視するために排気中に含まれる水分を試料水として採取する装置である。そのため、トリチウムサンプラでは所定量(例えば1m)の排気中に含まれる水分量を所定の精度で取得することが求められている。排気中に含まれるトリチウム濃度は、この水分量と試料水中のトリチウム濃度とを掛け合わせることによって得られる。試料水中のトリチウム濃度は、液体シンチレータを使う方法等で測定される。
図4は、従来技術によるトリチウムサンプラの一例の構成を示す配管系統図である。
トリチウムサンプラ1は、フィルタ11、水分量測定部12、コンプレッサ13、冷却装置14、試料水捕集容器15、圧力計16および圧力調節弁17で構成されている。
排気筒2からコンプレッサ13の吸気側に吸入された排気は、フィルタ11で塵埃を除去され、湿度計または露点計などから構成される水分量測定部12で水分濃度が測定され、コンプレッサ13で加圧された状態で冷却装置14に送り込まれて冷却され、含有水分の一部または大部分を結露させ、最後に圧力調節弁17を通過して再び排気筒2に戻される。コンプレッサ13による加圧状態は、圧力計16で監視され、圧力調節弁17で調節される。冷却装置14で結露した水分は、試料水捕集容器15に集められ試料水となる。
【0003】
ところで、原子力発電所等の焼却炉から放出される排気中には、焼却によって生成される水分も含まれるので、その水分量は大気より多くなり、更には塩酸や硫酸、硝酸等の酸分も含まれる。このような酸分を含む高湿状態の排気のために、焼却炉トリチウムサンプラはその部品が腐食されやすく、とりわけ、高濃度の水分を含んでいる領域、すなわち、冷却装置14の前段までは腐食されやすい。トリチウムサンプラの部品の中では、特に、水分量測定部12の湿度計または露点計の検出素子が腐食されやすい。それは、湿度計または露点計の検出素子が対象ガスに直接に接することを必要とするからである。
このようなトリチウムサンプラは、特許文献1や特許文献2、特許文献3に開示されている。
【特許文献1】特開昭51−138490号公報
【特許文献2】特開平4−24583号公報
【特許文献3】特開平11−64532号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、従来技術によるトリチウムサンプラを原子力発電所等の焼却炉から放出される排気に適用しようとすると、酸分を含む高湿の排気に水分量測定部12の検出素子(湿度計または露点計)が曝される。一方、トリチウムサンプラでは、所定量の排気中に含まれる水分量を正確に把握することが必要であるので、直接に排気に接する検出素子の特性変化に伴う測定精度の低下は問題であり、この問題を避けるために水分量測定部12は頻繁に校正され、精度を確保できなくなれば検出素子が交換される。この校正および検出素子の交換がトリチウムサンプラの維持コストを高くしている。
この発明の課題は、上記のような問題点を解消して、水分量測定手段の頻繁な校正やそれに伴う水分量測定手段の検出素子の交換を必要としない長期安定性の優れた焼却炉トリチウムサンプラを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、原子力発電所等の焼却炉施設から放出される排気中に含まれるトリチウムの濃度を監視するために、排気中に含まれる水分の一部を冷却手段で結露させて試料水として採取する焼却炉トリチウムサンプラであって、前記冷却手段が結露させた水分を捕集してその量を測定するための試料水捕集計量手段と、前記冷却手段の後方に配置されて冷却手段を通過した排気中の水分量を測定するための水分量測定手段と、前記冷却手段の後方に配置されて排気の流量を測定するための流量計と、を備えている。
排気中の酸分を含む水分の影響を最も受け易い水分量測定手段が、冷却手段の後方に配置されるので、水分量測定手段に対する排気の影響が大幅に緩和される。なお、所定量の排気中に含まれる水分量は、流量計の設置で算出可能となる。すなわち、冷却手段によって結露した排気中の水分量は試料水捕集計量手段で取得され、冷却手段を通過した排気中の水分量は水分量測定手段で取得され、試料水捕集計量手段で取得された水分量に対応する排気量は流量計によって取得されるので、これらの数値から所定量の排気中に含まれる水分量を算出することができる。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明においては、前記冷却手段が結露させた水分を捕集してその量を測定するための試料水捕集計量手段と、前記冷却手段を通過した排気中の水分量を測定するための水分量測定手段と、前記冷却手段の後方に配置されて排気の流量を測定するための流量計と、を備えているので、排気中の酸分を含む水分に対して最も影響を受け易い水分量測定手段が冷却手段の後方に配置され、水分量測定手段に対する排気の影響が大幅に緩和される。なお、所定量の排気中に含まれる水分量は、流量計の設置で算出可能となる。
したがって、この発明によれば、水分量測定手段の頻繁な校正やそれに伴う水分量測定手段の検出素子の交換を必要としない長期安定性の優れた焼却炉トリチウムサンプラを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
この発明による焼却炉トリチウムサンプラを実施するための最良の形態について実施例を用いて説明する。
なお、従来技術と同じ機能の部分には同じ符号を付ける。
【実施例1】
【0008】
図1は、この発明による焼却炉トリチウムサンプラの実施例1の構成を示す配管系統図であり、図3は、この実施例の機能を説明するためのフローチャートである。
焼却炉トリチウムサンプラ1aは、フィルタ11、冷却装置14、試料水捕集計量容器15a、水分量測定部12、流量計18およびポンプ19で構成されている。この実施例と図4に示したトリチウムサンプラの従来例との主な相違点は、水分量測定部12が冷却装置14の後方に配置されている点、流量計18が追加されている点、および排気の吸入のためには最後部に配置されたポンプ19が用いられている点である。
監視対象となる排気は、最後部に配置されたポンプ19によって排気筒2から吸入され、フィルタ11で塵埃を除去され、冷却装置14に送り込まれて冷却され、含有水分の一部または大部分を結露させる。冷却装置14で結露した水分は、試料水捕集計量容器15aに集められて、その量および単位時間当たりの液化量を計測され、試料水捕集計量容器15aから取り出されて試料水となる。冷却装置14を通過した排気は、湿度計または露点計などから構成される水分量測定部12で、冷却装置14では除去されずに残留した水分の量を測定され、流量計18で流量を計測される。この流量から、冷却装置14で結露させた水分量に対応する排気量が算出される。すなわち、冷却装置14で水分を結露させた時間に相当する流量が時間積分されて前記排気量が算出される。ポンプ19を通過した排気は再び排気筒2に戻される。
【0009】
ここで、トリチウムサンプラの必要とする2つの機能である、試料水の抽出および所定体積の排気中の水分量の算出、の内の後者について図3にしたがって詳細に説明する。なお、ここでは説明を簡単にするために所定体積を1mとする。
先ず、冷却装置14で結露して試料水捕集計量容器15aに捕集(排気中の水分の捕集)された水分量の測定(捕集水分量の測定)データから単位時間当たりの捕集水分量a(g)が算出され、且つその際の単位時間当たりの吸入排気量b(m)が、流量計18によって測定(水分捕集排気量の測定)され、その結果として、排気1m当たりの捕集水分量が、「a/b(g/m)」として算出(所定体積の排気中捕集水分量の算出)される。一方、冷却装置14で捕集されなかった排気中の水分は、水分量測定部12で湿度または露点として測定され、同時に排気の温度および圧力も測定(残存水分量の測定)される。すなわち、これらのデータから残存水分(水蒸気)の分圧値が求められ、この分圧値から排気1m当たりの残存水分量が算出(所定体積の排気中残存水分量の算出)される。全水分量は、算出された両水分量の合算で得られる(所定体積の排気中全水分量の算出)。
【0010】
この実施例では、排気がポンプ19で吸入され、従来例のように加圧されていないが、その理由は、焼却炉の排気には多くの水分が含まれているので、加圧冷却でない方法でも必要な量の試料水を得ることできるからである。その上、ポンプ吸入によればポンプ19以降の配管を除いて装置内を負圧に保つので、この実施例の構成は、排気の外部漏出の心配が非常に少ないという利点を有している。
なお、酸分を含む高湿状態の部分である冷却装置14までの配管には、耐食性に優れた樹脂管やテフロン(登録商標)ライニング管が使用されている。
また、水分量測定部12を通過する排気は前段の冷却装置14で冷却されてその湿度が高くなっているので、水分量測定部12を加熱することによって排気の湿度を下げ、検出素子等の腐食を軽減することもある。
【0011】
以上の説明から明らかなように、この実施例によれば、排気中の酸分を含んだ水分による腐食の影響を特に強く受ける水分量測定部12が、冷却装置14の後方に配置されているので、酸分を含んだ水分のかなりの部分が冷却装置14で結露・捕集され、水分量測定部12に到達する排気中には酸分を含んだ水分が冷却装置14の露点に近い量しか含まれなくなる。この結果として、水分量測定部12では結露するような状態になることはなく、水分量測定部12が加熱されると、より乾燥した状態となり、水分量測定部12に対する排気中の酸分を含んだ水分による腐食の影響が大幅に軽減される。したがって、この実施例によれば、水分量測定部12の頻繁な校正やそれに伴う水分量測定部12の検出素子の交換を必要としない長期安定性の優れた焼却炉トリチウムサンプラを提供することができる。
【実施例2】
【0012】
図2は、この発明による焼却炉トリチウムサンプラの実施例2の構成を示す配管系統図である。
焼却炉トリチウムサンプラ1bは、フィルタ11、コンプレッサ13、冷却装置14、試料水捕集計量容器15a、圧力計16、圧力調節弁17、水分量測定部12および流量計18で構成されていて、図4に示したトリチウムサンプラの従来例に近い構成である。この実施例と従来例との主な相違点は、水分量測定部12が冷却装置14の後方に配置されている点および流量計18が追加されている点である。
監視対象となる排気は、コンプレッサ13によって排気筒2から吸入され、フィルタ11で塵埃を除去され、加圧された状態で冷却装置14に送り込まれて加圧冷却され、含有水分の一部または大部分を結露させる。冷却装置14で結露した水分は、試料水捕集計量容器15aに集められ、その量および単位時間当たりの液化量を計測され、試料水捕集計量容器15aから取り出されて試料水となる。冷却装置14を通過した排気は、圧力調節弁17を通過した後、湿度計または露点計などから構成される水分量測定部12で、冷却装置14では除去されずに残留した水分量を測定され、流量計18で流量を計測される。この流量から、冷却装置14で結露させた水分量に対応する排気量が算出される。すなわち、冷却装置14で水分を結露させた時間に相当する流量が時間積分されて前記排気量が算出される。流量計18を通過した排気は再び排気筒2に戻される。コンプレッサ13による加圧状態は、圧力計16で監視され、圧力調節弁17で調節される。
【0013】
この実施例の場合も、実施例1と同様に、図3のフローにしたがって、試料水の抽出および所定体積の排気中の水分量の算出が実行され、水分量測定部12が冷却装置14の後に配置されているので、水分量測定部12の頻繁な校正やそれに伴う水分量測定部12の検出素子の交換を必要としない長期安定性の優れた焼却炉トリチウムサンプラを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明による焼却炉トリチウムサンプラの実施例1の構成を示す配管系統図
【図2】この発明による焼却炉トリチウムサンプラの実施例2の構成を示す配管系統図
【図3】この発明による焼却炉トリチウムサンプラの機能を説明するためのフローチャート
【図4】トリチウムサンプラの従来例の構成を示す配管系統図
【符号の説明】
【0015】
1 トリチウムサンプラ
1a、1b 焼却炉トリチウムサンプラ
11 フィルタ 12 水分量測定部
13 コンプレッサ 14 冷却装置
15 試料水捕集容器 15a 試料水捕集計量容器
16 圧力計 17 圧力調節弁
18 流量計 19 ポンプ
2 排気筒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力発電所等の焼却炉施設から放出される排気中に含まれるトリチウム濃度を監視するために、排気中に含まれる水分の一部を冷却手段で結露させて試料水として採取する焼却炉トリチウムサンプラであって、
前記冷却手段が結露させた水分を捕集してその量を測定するための試料水捕集計量手段と、
前記冷却手段の後方に配置されて冷却手段を通過した排気中に含まれる水分量を測定するための水分量測定手段と、
前記冷却手段の後方に配置されて排気の流量を測定するための流量計と、
を備えている
ことを特徴とする焼却炉トリチウムサンプラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−24768(P2007−24768A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−210072(P2005−210072)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】