説明

焼尽性容器

【課題】従来品と比較して燃焼性及び焼尽性を維持したまま、耐熱性能や耐衝撃性能の強度が向上されており、形状安定性及び寸法安定性に優れ、歩留まりよく安定的に製造することができる焼尽性容器を提供する。
【解決手段】焼尽性容器1は、下端が塞がれ火薬4が充填される筒状の容器本体3と、その上端を嵌合して塞ぐ上蓋2とが、平均繊維径を最大で1.5μmとしつつ平均繊維長を前記平均繊維径で除したアスペクト比を最少でも10とする微細化セルロース繊維を含む繊維成分と、ニトロセルロース成分とを含んで成型されているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火砲を用いて、弾丸などを砲弾射撃したり礼砲・訓練で空包射撃したりする際、発射薬、点火薬などを収容しつつ、火砲砲身の薬室に装填するために使用される焼尽性容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大砲のような火砲の砲弾射撃の際には、発射薬や点火薬のような火薬が薄層の焼尽性容器に封入されて、火砲砲身の薬室に装填され、その上に弾丸が載置される。この火薬が点火されると爆発的な燃焼を引き起こし、その燃焼ガス圧力により弾丸が発射される。空包射撃の際には、弾丸が用いられないが、同様に爆発的な燃焼を引き起こし、砲撃音が発せられる。
【0003】
焼尽性容器は、常に外界に露出しているため、火炎、熱、火花、静電気、閃光、被弾、振動、衝撃などの様々な外因の脅威に、真っ先に曝され、それら外因によって不意に発火などの深刻な影響を受け易い。従って、この焼尽性容器は、発射装薬全体にとって、外因に対し、言わば感度因子となる。そのため、この焼尽性容器は、輸送・保管中、または装填中に、火炎、熱、火花などに耐え得る充分な耐熱性能と、被弾、振動、衝撃などに耐え得る充分な耐衝撃性能との強度が、必要である。さらに、この焼尽性容器は、発射装薬ごと火薬を燃焼させて砲弾射撃したり空包射撃したりする際に砲身内で火薬並みの燃焼速度で燃焼できる燃焼性能と、その砲身内に燃焼残渣を残さない焼尽性能とを、兼ね備えている必要がある。
【0004】
このような焼尽性容器は、主成分であるニトロセルロースと、パルプ繊維や合成樹脂とを水中でスラリー状にし、抄造、圧搾の工程を経て製造される。
【0005】
焼尽性容器の強度向上を図るために、例えば、特許文献1にニトロセルロースのナイトレートエステル基の一部を不活性なエステル基で置換した難燃化ニトロセルロースと、アラミド繊維などの補強用合成繊維との混合物で製造された発射装薬用容器が開示されている。また、特許文献2に草本植物、灌木植物及び喬木植物に由来する天然繊維とニトロセルロースとを含んで成型されている焼尽性容器が開示されている。
【0006】
このような焼尽性容器の強度は、使用する天然繊維や補強用合成繊維の強靭性に依存する。一般的に、焼尽性容器において、これら繊維による強度向上と焼尽性能向上とはトレードオフの関係にある。そのため、焼尽性容器の強度を向上させるには、燃焼成分であるニトロセルロースの含有量を減らし、これら繊維の含有比率を上げる必要がある。しかし、ニトロセルロースの含有量を減らすことは焼尽性能を低下させることとなり、既存の天然繊維や補強用合成繊維の使用だけでは、焼尽性容器の焼尽性を維持したまま、それの強度向上を図るのには限界がある。
【0007】
また繊維として、天然繊維等のパルプ繊維に代え補強用合成繊維のような補強繊維、例えば化学繊維のみを用いることによる、焼尽性容器の強度向上も難しい。その理由は、まず、疎水性の化学繊維では、水中で均一分散できないため、安定して製造することが困難だからである。また、パルプ繊維を介する結合の場合は繊維表面間で水素結合を生じるため、幾許かの強度向上を図ることができるが、一般的に化学繊維を介する結合の場合は繊維表面の摩擦力に拠るのみであるため、例え化学繊維単体の強度が多少なりとも優れていたとしても、焼尽性容器全体で充分に強度を向上させることは難しいからである。さらに、化学繊維の中には、パルプ繊維よりも難燃性を示すものが多くあり、良好な焼尽性を維持することが難しくなってしまう。
【0008】
焼尽性容器の強度を向上させる別の方法としては、焼尽性容器の形状を変え頑健化する方法やその肉厚をより厚くしたり密度を上げたりする方法が挙げられる。例えば、特許文献3にニトロセルロースとクラフトパルプと合成樹脂とを主成分とする焼尽性材料で形成され外周が波打っていることにより頑健性が向上されたケースとキャップとからなる薬剤充填容器が開示されている。これらの方法も焼尽性能の低下を招く上に、焼尽性容器の内容積の縮小により単位容積あたりの発射薬などの充填率の低下や、焼尽性容器の重量の増加などのデメリットを生じてしまう。
【0009】
また、焼尽性容器は、その構成主成分がニトロセルロースやパルプ繊維であるため、温度及び湿度の外的要因により影響を受け易く、寸法や形状が容易く変化してしまう。焼尽性容器同士、又は他の金属製又は樹脂製の部材との組立性・嵌合性を考慮すると、現状以上に、温度及び湿度に対する寸法及び形状安定性が向上していることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平09−89499号公報
【特許文献2】特開2008−175464号公報
【特許文献3】特開2005−140458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、従来品と比較して燃焼性及び焼尽性を維持したまま、耐熱性能や耐衝撃性能が向上されており、形状安定性及び寸法安定性に優れ、歩留まりよく安定的に製造することができる焼尽性容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載された焼尽性容器は、下端が塞がれ火薬が充填される筒状の容器本体と、その上端を嵌合して塞ぐ上蓋とが、平均繊維径を最大で1.5μmとしつつ平均繊維長を前記平均繊維径で除したアスペクト比を最少でも10とする微細化セルロース繊維を含む繊維成分と、ニトロセルロース成分とを含んで成型されていることを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載された焼尽性容器は、請求項1に記載されたものであって、前記繊維成分を9〜70重量%、前記ニトロセルロース成分を20〜90重量%とすることを特徴とする。
【0014】
請求項3に記載された焼尽性容器は、請求項1〜2の何れかに記載されたものであって、前記繊維成分が、パルプ繊維を含むことを特徴とする。
【0015】
請求項4に記載された焼尽性容器は、請求項1〜3の何れかに記載されたものであって、前記繊維成分の100重量部中に、前記微細化セルロース繊維を0.1〜100重量部含むことを特徴とする。
【0016】
請求項5に記載された焼尽性容器は、請求項3に記載されたものであって、前記パルプ繊維が、クラフトパルプ、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチル、エチルセルロース、草本植物に由来する繊維、灌木植物に由来する繊維、喬木植物に由来する繊維、古紙、及びアクリル繊維から選ばれる少なくとも何れかであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の焼尽性容器は、従来のように繊維成分としてニトロセルロースとパルプ繊維とのみを使用した焼尽性容器と比べて、燃焼性及び焼尽性を損なうことなく、焼尽性容器の強度を向上させることができる。焼尽性容器に含まれる微細化セルロース繊維は、その比表面積がパルプ繊維に比べて、極めて大きいため、乾燥成型時の繊維同士の水素結合が極めて多くなり、強度を大きく向上することができる。また、微細化セルロース繊維は天然素材であるパルプ繊維に比べ、繊維自体に現れる構造欠陥が少ないことから、強度の向上に影響を与えている。微細化セルロース繊維は、天然繊維を構成する同素材を主成分とするため、この焼尽性容器の燃焼性及び焼尽性は、微細化セルロース繊維を含まずパルプ繊維を含む焼尽性容器のものとほぼ同等である。
【0018】
また、この焼尽性容器は、微細化セルロース繊維の熱膨張率が石英ガラス並みに低いため、温度に対する寸法安定性を向上させることができる。さらに、パルプ繊維に比べ、乾燥状態の微細化セルロース繊維は微細な繊維同士が強力に凝集し、より緻密な構造を形成するため、水分に対する寸法安定性の抵抗力も向上する。そのため、焼尽性容器の湿度に対する寸法安定性も向上することができる。
【0019】
さらに、この焼尽性容器は、原材料スラリーの分散性の向上により、製造安定性を向上することができる。繊維成分として、常にタンク内を撹拌し続けなければスラリー中の固形分が沈殿してしまい濃度を均一に保てなくなるような従来汎用されていたパルプ繊維のみを含むスラリーに対し、微細化セルロース繊維を含むスラリーは、さほど撹拌力を有することなく、容易にタンク内のスラリーを均一に分散させ続けることができる。これは、水中にて微細化セルロース繊維が極めて高い分散性を有することが要因と考えられ、焼尽性容器の製造安定性に寄与する。
【0020】
また、この焼尽性容器は、歩留まりが良い。この焼尽性容器が、微細化セルロース繊維以外の原材料である合成樹脂及び安定剤を含んでいると、それら合成樹脂や安定剤がそれぞれ繊維に定着、捕集される。微細化セルロース繊維の比表面積が極めて大きいため、合成樹脂の定着率が向上し、微細化セルロース繊維の繊維間がより緻密な構造をとるため、安定剤の捕集率も向上する。微細化セルロース繊維を含まず、従来用いていたパルプ繊維を繊維成分として使用した焼尽性容器に比べ、それの製造時での原材料スラリーのロス分を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明を適用する焼尽性容器の一実施例を示す側面の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の好ましい形態について図1を参照しながら詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0023】
図1に示すように、焼尽性容器1は、容器本体3と上蓋2とが、同様な組成であって、平均繊維径を最大でも1.5μmとしつつ平均繊維長を平均繊維径で除したアスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)を10以上とする微細化セルロース繊維を含む繊維成分と、ニトロセルロース成分とを含んでいるスラリーから、抄造・圧搾されて、成型されているものである。
【0024】
焼尽性容器1は、容器本体3と上蓋2とが、同様な組成で形成されていると、簡素な構成で、充分な燃焼性及び焼尽性と形状安定性及び寸法安定性とを均等に発現することができる。焼尽性容器1は、繊維成分を15〜50重量%、及びニトロセルロース成分を45〜82重量%とすることが好ましい。
【0025】
繊維成分に含まれる微細化セルロース繊維は、木材、非木材、木材や非木材を主原料とするパルプ、コットンや麻などの天然繊維、穀物や果実由来の食物繊維などの植物、海藻類のバロニア、脊索動物のホヤ、及び/またはセルロースを生成するバクテリアなどから選ばれる何れかの原料を由来として得られるものである。
【0026】
微細化セルロース繊維は、その製造方法や解繊方法に限定されず、公知の方法を用いることができ、前記原料を元に化学的解繊、物理的解繊、またはこれらを組み合わせた複合的解繊により得られるものである。例えば、一般的に公知の方法であって、セルロースをリファイナー、高圧ホモジナイザー、媒体撹拌ミル、石臼、グラインダーなどにより磨砕したり、叩解したりすることによって解繊や微細化して製造する方法で得ることができる。化学的解繊としては、例えば、特開2009−243014公報に記載されており、酸処理後洗浄したセルロース系原料をN−オキシル化合物で酸化することで、酸化されたセルロースを解繊処理してナノファイバー化する方法が挙げられる。物理的解繊としては、例えば、特開2008−024788公報に記載されており、ナノファイバー前駆体を機械的に解繊することにより製造する方法が挙げられる。複合的解繊としては、例えば、特開2009−263652公報に記載されており、N−オキシル化合物、及び臭化物、ヨウ化物又はこれらの混合物の存在下で、酸化剤を用いて粉末セルロースを酸化し、超高圧ホモジナイザーを用いて圧力で湿式微粒化処理することによりナノファイバー化させる方法が挙げられる。また、微細化セルロース繊維は、一般に市販されているものであってもよい。
【0027】
微細化セルロース繊維は、平均繊維径が1.5μm以下で、そのアスペクト比が10以上であればよく、例えば、セルロースナノファイバー、微小セルロース繊維、セルロースナノ繊維、ミクロフィブリル化セルロース、微細セルロース、セルロース繊維、微細セルロース繊維、微細繊維状セルロースと指称されるものであってもよい。
【0028】
微細化セルロース繊維として、具体的に、セリッシュ:KY−100G、KY−100S、FD−100F、FD−100G、FD−100S、FD−100M、FD−200L、PC−110S(何れもダイセルファインケム株式会社製;商品名)が挙げられる。
【0029】
微細化セルロース繊維は、その平均繊維径が4nm〜1.5μmであると好ましく、平均繊維長が40nm〜1000μm、アスペクト比が10〜1000であると好ましい。
【0030】
また、これらの微細化セルロース繊維の他に、繊維成分として、パルプ繊維を含有していてもよい。パルプ繊維を含有する場合、繊維成分の100重量部において、微細化セルロース繊維を0.1〜100重量部含むことが好ましい。
【0031】
繊維成分に含まれるパルプ繊維としては、クラフトパルプのようなケミカルパルプであることが好ましいが、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチル、エチルセルロースのようなセルロースからなる繊維であってもよく、草本植物、灌木植物、喬木植物の少なくとも何れかに由来する繊維であってもよく、古紙であってもよく、アクリル繊維であってもよい。
【0032】
草本植物として、ケナフ、アサ、アマ、アバカ、タケ、ワタ、イネ、ムギ、バショウ、及びジュートが挙げられ、灌木植物として、コウゾ、ミツマタ、及びガンピが挙げられ、喬木植物として、パルプの原木となる針葉樹、広葉樹が挙げられる。
【0033】
草本植物の内、ケナフはアオイ科植物、アサは麻とも称されるアサ科植物、アマは亜麻とも称されるアマ科植物、アバカはマニラ麻とも称されるバナナ科植物であって、いずれの乾燥した茎の靭皮部からも、繊維を含有した組織が採取される。またタケは竹とも称されるイネ科植物であって、乾燥した中空木本状茎から、繊維を含有した組織が採取される。ワタは綿とも称されるアオイ科植物で、綿花から繊維を含有した組織が採取される。イネはイネ科イネ属植物であり、ムギは、小麦、大麦、ライ麦、燕麦などのイネ科植物であり、その茎を乾燥して、繊維を含有した組織である藁が採取される。バショウは、バショウ科植物であり、仮茎・葉鞘から、繊維を含有した組織が採取される。ジュートは、黄麻、インド麻、綱麻とも称されるシナノキ科植物で、靱皮から、繊維を含有した組織が採取される。
【0034】
灌木植物の内、コウゾは楮とも称されるクワ科低木植物、ミツマタは三椏とも称されるジンチョウゲ科低木植物、ガンピは雁皮とも称されるジンチョウゲ科低木植物で、いずれの乾燥した樹皮から、繊維を含有した組織が採取される。
【0035】
喬木植物は、針葉樹であっても広葉樹であってもよいが、クラフトパルプの原材であることが好ましい。得られた繊維は、晒し品でも未晒し品でもよく、未晒し品であることが好ましい。
【0036】
古紙は、段ボール古紙や新聞古紙や裁落紙が挙げられ、繊維に解し必要に応じインキ抜きなどの処理を経て抄紙されるものである。
【0037】
アクリル繊維は、アクリロニトリルを主成分とする合成高分子からなる繊維であることが好ましい。
【0038】
植物から採取されたり古紙から回収されたりした組織は、乾燥されてから、裂かれたり解されたり必要に応じ切断されたり、化学的パルプ化処理されたりした後、またアクリル繊維は、適宜裁断された後、平均径5〜40μmで平均長3〜12mmの繊維となる。脱脂綿のように脱脂されてもよい。特に、このような植物に由来するパルプは、水酸基を有し、同じく水酸基を有するニトロセルロースとの相性が良い。そのため、これらが混在しても、互いの馴染みが良く、乾燥時に水酸基同士が脱水し結合するため、その成型品が強い強度を有することができる。一方、水酸基を有しない化学繊維においては、ニトロセルロースと馴染まず、乾燥時に脱水結合せず、強度が見込めない。
【0039】
本発明の焼尽性容器1に含有されるニトロセルロース成分としては、JIS規格に無いものを各省庁で要求事項や試験方法について標準化して定めたものである防衛省規格(NDS)K−4013C(ニトロセルロース砲弾用)で定められた等級I(窒素含有量12.45〜12.75%)や等級II(窒素含有量13.35重量%以上)や等級III(窒素含有量13.10〜13.30重量%)であるニトロセルロースを用いることができる。その総量中の窒素含有率を12.45〜14.14重量%とすることが好ましい。
【0040】
また、焼尽性容器1の容器本体3と上蓋2とは、微細化セルロース繊維やパルプ繊維を含む繊維成分、及びニトロセルロース成分の他に、必要に応じて汎用の添加剤、例えば、バインダー樹脂である合成樹脂や安定剤や定着剤を含有していてもよい。
【0041】
それらの含有量としては0〜10重量%であり、添加剤のうち、例えばバインダー樹脂や安定剤や定着剤を、重量比率で(6〜12):(0.5〜2.0):(0.1〜1.0)であると好ましい。
【0042】
バインダー樹脂としては、具体的に、乳化重合スチレンブタジエンゴムや溶液重合スチレンブタジエンゴムのような合成樹脂が挙げられる。
【0043】
安定剤としては、具体的に、エチルセントラリット(ECL)、アカルダイト(AKII)、ジフェミルアミン(DPA)、2−ニトロジメニルアミン(2NODPA)、フェノール系酸化防止剤アデカスタブAO−80、AO−50(何れも旭電化工業株式会社製;商品名)、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(BHT)、ヒドロキノン(HQ)などが挙げられる。
【0044】
定着剤としては、具体的に、無機系凝集剤(例えば硫酸バンド)、有機系凝集剤(例えば高分子凝集剤)が挙げられる。
【0045】
焼尽性容器の形状は、筒型であれば特に限定されず、円筒状、角筒状、外周が波打った円筒状あってもよく、中空を有するドーナツ状であってもよい。
【0046】
本発明を適用する焼尽性容器は、以下のようにして製造される。
【0047】
微細化セルロース繊維と、ニトロセルロースと、必要に応じてパルプ繊維や添加剤である合成樹脂、安定剤、定着剤とでスラリーを得る。スラリーを漉簀で吸引抄造した後、図1で示す容器本体3のためのもので略円筒形の金型に押し付けて、加熱しながら圧搾して脱水固化させ、円筒状で下端近傍がやや細まった容器本体3を成型する。同様にして、容器本体3の上端に嵌合する上蓋2を成型する。容器本体3に火薬4を充填し、容器本体3の上端近傍の外周に、接着剤を塗った後、容器本体3の上端に上蓋2を嵌合し、焼尽性容器1を得る。
【0048】
本発明を適用する焼尽性容器は、以下のようにして使用される。
【0049】
図1に示すように、砲身5の薬室内の砲尾6側に、焼尽性容器1と、その上に砲弾(不図示)とを装填し、砲尾6に付設されている閉鎖機7により、砲尾6を閉鎖する。砲尾6に設けられた火管(不図示)を発火させると、砲尾6側の焼尽性容器1内にある火薬4の燃焼を誘起する。火薬4の燃焼が開始した部位は非常に迅速に逐次、周りの火薬4の燃焼を誘発する。その結果、火薬4の燃焼は瞬時に爆発的な燃焼となって進行し、燃焼ガスの圧力により、砲弾が押し出され、発射される。
【0050】
焼尽性容器は、焼尽性であるため燃焼残渣を残さずに、完全燃焼するものである。そのため、砲身内やそれの薬室内の壁面は汚染されることがなく清浄が維持される。砲弾発射後、閉鎖機を開け、同様の操作が、繰り返される。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
(調製例及び比較調製例)
焼尽性容器の原材料として、ニトロセルロースと、微細化セルロース繊維(ダイセルファインケム株式会社製;商品名「セリッシュ KY−100G」)と、クラフトパルプ(針葉樹晒しパルプ)と、合成樹脂、安定剤及び定着剤とを、下記表1に示す成分比で混合して、水に懸濁させたスラリーを調製した。このスラリーから、吸引抄造法により、粗筒体を調製し、その粗筒体を125℃に加熱した雄金型に入れ雌金型との金型加熱圧搾により形状φ145mmディスク状で密度約900kg/mの圧搾品である焼尽性容器を成型した。
【0053】
また、比較のため、微細化セルロース繊維を含有しないこと以外は同様にして、従来品である焼尽性容器を比較調製例として得た。
【0054】
(物性評価)
調製例及び比較調製例で得られた焼尽性容器を用い、その物性評価を以下にようにして行った。その評価結果を下記表1に示す。
【0055】
(1)強度評価試験
耐衝撃性能を測定するために、JIS K6251に準じ、引っ張り試験を実施し、その強度を確認した。
【0056】
(2)燃焼性能評価試験
燃焼性能は、容積100ccの密閉ボンブを使用し、装填密度を0.2g/ccで装填し、点火薬で着火し、圧力プロファイルを取得した。得られたデータより、圧力プロファイルの傾きを算出し、燃焼性能として評価した。
【0057】
(3)焼尽性能評価試験
燃焼残渣について、燃焼性能評価試験後の密閉ボンブ内を目視し、未燃の残渣物の有無を確認することにより、焼尽性能を評価した。
【0058】
(4)温度に対する寸法安定性評価試験
試料形状は15×15mmである。まず、温度25℃、湿度60%の状況下で3時間調温・調湿した後、各試料の肉厚を測定した。次に、温度65℃、湿度60%の状況下で3時間調温・調湿した後、各試料の肉厚を測定し、温度25℃に対する肉厚の減少率を求めた。
【0059】
(5)水分に対する寸法安定性評価試験
試料形状は15×15mmである。まず、温度25℃、湿度60%の状況下で肉厚を測定した。その後、ピンセットで試料を摘み、水中(水温25℃、水量500ml)に沈めた。3分経過した後、試料を取り出し、肉厚を測定した。それぞれの測定結果から、含水状況における肉厚の増加率を求めた。
【0060】
【表1】

【0061】
表1において、スラリーの分散安定性は、撹拌停止後から、固形分が完全に沈澱するまでの時間である。
【0062】
表1より、微細化セルロース繊維を使用した焼尽性容器は、従来品と比較しても、その燃焼性及び焼尽性を損なうことなく、強度を増加させることが明らかとなった。なお、特に優れた強度を示した条件は、微細化セルロース繊維とパルプ繊維との存在比が等重量比である調製例2であった。
【0063】
温度及び水分に対する寸法安定性に関しては、微細化セルロース繊維の存在量が増加するほど、寸法安定性は良好になることがわかった。
【0064】
製造性については、微細化セルロース繊維の存在量が増加するほど、スラリーの分散安定性は良好になることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の焼尽性容器は、火薬を重火器の砲身に安全かつ簡便に装填して、砲弾射撃の際や、儀礼用または訓練用の空包射撃の際に、用いられる。
【0066】
この焼尽性容器は、充分な強度を有するので、積み上げて保管したり輸送したり、重い銃弾を射撃するために砲身に積み重ねて装填したりできる。また、この焼尽性容器は、完全に燃え尽き、射撃後のたびに砲身内を清浄する必要が無いので、迅速に連続して射撃するのに有用である。
【符号の説明】
【0067】
1は焼尽性容器、2は上蓋、3は容器本体、4は火薬、5は砲身、6は砲尾、7は閉鎖機である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下端が塞がれ火薬が充填される筒状の容器本体と、その上端を嵌合して塞ぐ上蓋とが、平均繊維径を最大で1.5μmとしつつ平均繊維長を前記平均繊維径で除したアスペクト比を最少でも10とする微細化セルロース繊維を含む繊維成分と、ニトロセルロース成分とを含んで成型されていることを特徴とする焼尽性容器。
【請求項2】
前記繊維成分を9〜70重量%、前記ニトロセルロース成分を20〜90重量%とすることを特徴とする請求項1に記載の焼尽性容器。
【請求項3】
前記繊維成分が、パルプ繊維を含むことを特徴とする請求項1〜2の何れかに記載の焼尽性容器。
【請求項4】
前記繊維成分の100重量部中に、前記微細化セルロース繊維を0.1〜100重量部含むことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の焼尽性容器。
【請求項5】
前記パルプ繊維が、クラフトパルプ、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチル、エチルセルロース、草本植物に由来する繊維、灌木植物に由来する繊維、喬木植物に由来する繊維、古紙、及びアクリル繊維から選ばれる少なくとも何れかであることを特徴とする請求項3に記載の焼尽性容器。

【図1】
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【公開番号】特開2013−68365(P2013−68365A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207383(P2011−207383)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【特許番号】特許第4865929号(P4865929)
【特許公報発行日】平成24年2月1日(2012.2.1)
【出願人】(000232922)日油技研工業株式会社 (67)