焼成ペースト用アクリル樹脂及びその製造方法
【課題】焼成時にフィラーを酸化し難い焼成ペーストを得るためのアクリル樹脂の提供及びその製造方法を提供する。
【解決手段】アルキルメタクリレートを60質量%以上含有する単量体を乳化重合してエマルションを得た後、前記エマルションに還元剤を添加する残存開始剤低減工程を経た後に前記エマルションを乾燥して粉体化する方法、もしくは、前記エマルションを噴霧乾燥した後、得られた粉体を洗浄する残存開始剤低減工程を経た後、得られた湿粉を乾燥して粉体化を行うことによって残存開始剤量が30ppm以下の焼成ペースト用アクリル樹脂。
【解決手段】アルキルメタクリレートを60質量%以上含有する単量体を乳化重合してエマルションを得た後、前記エマルションに還元剤を添加する残存開始剤低減工程を経た後に前記エマルションを乾燥して粉体化する方法、もしくは、前記エマルションを噴霧乾燥した後、得られた粉体を洗浄する残存開始剤低減工程を経た後、得られた湿粉を乾燥して粉体化を行うことによって残存開始剤量が30ppm以下の焼成ペースト用アクリル樹脂。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品の電極、プリント配線板、液晶ディスプレイパネル、プラズマディスプレイパネルの製造等に用いられる焼成ペーストとして有用な焼成用樹脂及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無機物による成形体やそれにより形成されるパターンは、電子材料等の分野において有用なものであるが、このような成形体やパターンを形成する方法としては、従来、金属粉末、金属酸化物粉末、蛍光粉末、ガラスフリット等の無機粉末をバインダー樹脂と混合して焼成ペーストを調整し、このペーストから所定の形状やパターンを形成した後、焼成して有機物を熱分解することにより形成する方法が知られている。
【0003】
この方法に使用されるバインダー成分は、成形加工時の加工性保持や移動時に損傷しないためにフィラーをつなぎ止めるために必要となるもので、最終製品となる前にフィラーを焼結させる際に熱分解により除去される。従って、バインダーに求められる性能としては、良好な熱分解性を有するとともに、各加工時の作業性を満足する必要がある。この加工方法としては、スクリーン印刷やスラリーをドクタープレート等によりシート状に成形する方法や、ディップ法による方法を挙げることができる。
【0004】
特に、スクリーン印刷やディップ法に使用される用途には、焼結させるフィラー成分の充填率を上げるため、含有するバインダー成分を出来るだけ少なくする必要がある。従って、バインダー成分は、低固形分でスクリーン適性やディップ適性を満足する高粘度を発現させる粘性特性が求められる。そこで、バインダー成分としては、ブチラール樹脂やエチルセルロース等を有機溶剤に溶解した溶剤系バインダー樹脂が用いる。
【0005】
しかし、最近の電子材料に用いられる部品に関しては、アルミナのような高温焼成タイプのフィラーからガラス粉体等の低温焼成可能なフィラーがあり、特に低温焼成型のフィラーを焼結させる場合もしくは金属フィラーの酸化防止のため還元性雰囲気中で焼結させる場合は、上記ブチラール樹脂やエチルセルロース樹脂のバインダーではスラッジが発生して焼成不良となり、得られるセラミックもしくは金属導体の特性が低下するという問題があった。そこで、従来のバインダーの欠点を解決するために、焼成性に優れたアクリル樹脂を使ったバインダーが提案されている。
【特許文献1】特開2004−315719号公報
【特許文献2】特開2003−183331号公報例えば、特開2004−315719号公報には、ポリアルキレングリコール構造を持つメタクリレート共重合体の使用が記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1のようなポリアルキレングリコール構造を持ち酸素原子含有量が多いアクリル樹脂を用いた場合や、特許文献2のような重合開始剤の残存するアクリル樹脂を用いた場合、例えばアルミニウムのようなイオン化傾向の高い金属をフィラーとして用いると、金属が酸化され電気抵抗率が上がることがあり、更なる金属導体の特性の向上が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、印刷適性に優れ、かつ焼成時にフィラーを酸化し難い焼成ペーストを得ることの出来るアクリル樹脂の提供及び、その製造方法の実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨はアルキルメタクリレート由来の構成単位を含み、残存開始剤量が30ppm以下である焼成ペースト用アクリル樹脂組成物にある。
【発明の効果】
【0009】
本発明のアクリル樹脂組成物を用いることで、焼成後の金属導体の特性低下が少ない焼成ペーストを作成することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明のアクリル樹脂組成物は、アルキルメタクリレート由来の構成単位を含み、残存開始剤量が30ppm以下である。
アルキルメタクリレート由来の構成単位を含むことにより、印刷適性に優れ、かつ、低温焼成性にも優れた焼成ペーストが得られる。
また、アルキルメタクリレートは、フィラーを酸化する可能性のある酸素原子の含有量が少なく、焼成後の金属導体の特性低下を防ぐことができる。
【0011】
アルキルメタクリレートの具体的な例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート等のモノメタクリレート類を挙げることができる。これらは2種以上を併用することができる。これらの中でも、焼成性の観点から、ブチルメタクリレートを用いることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明のアクリル樹脂組成物は、残存開始剤量が30ppm以下であることが必要である。これは、残存開始剤量を30ppm以下とすることで、焼成時のフィラーの酸化が低減するためである。残存開始剤量の測定方法としては、滴定分析、イオンクロマトグラフィー分析、ガスクロマトグラフィー分析、IR分析、NMR分析等の公知の方法を用い、使用した開始剤に合わせて適宜選択して行うことが出来る。残存開始剤量の好ましい範囲は10ppm以下である。
また、本発明のアクリル樹脂組成物は、アルキルメタクリレート由来の構成単位以外のモノマー由来の構成単位を含んでいても良い。
具体的な例としては、アルキルアクリレート類、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル基を有するビニル重合性モノマー;(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロキシプロピルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロキシエチルテトラヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロキシプロピルテトラヒドロフタル酸、5−メチル−2−(メタ)アクリロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロキシプロピルフタル酸、2−(メタ)アクリロキシエチルシュウ酸、2−(メタ)アクリロキシプロピルシュウ酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、ソルビン酸等のカルボキシル基含有ビニル系モノマー;アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、ホルミルスチロール、ビニルアルキルケトン、(メタ)アクリルアミドピバリンアルデヒド、ジアセトン(メタ)アクリレート、アセトニルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレートアセチルアセテート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、ブタンジオール−1,4−アクリレート−アセチルアセテート、アクリルアミドメチルアニスアルデヒド等のアルデヒド基又はカルボニル基を有するビニルモノマー;(メタ)アクリルアミド、クロトンアミド、N−メチロールアクリルアミド等のアミド基含有ビニル系モノマー;アリルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有ビニル系モノマー;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル系モノマー;アクリロニトリル等のニトリル基含有ビニル系モノマー;ブタジエン等のオレフィン系モノマー;塩化ビニル等のハロゲン化ビニルモノマー等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
さらに、本発明のアクリル樹脂組成物は、印刷適性を向上させるために、ラジカル重合可能な不飽和二重結合を2個以上有する架橋剤成分による架橋構造を有していても良い。
【0014】
架橋剤成分としては、例えば、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸1,3−ブチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸1,4−ブタンジオール、ジ(メタ)アクリル酸1,6−ヘキサンジオール、ジ(メタ)アクリル酸ネオペンチルグリコール、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリル酸エステル、ジ(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ポリテトラメチレングリコール、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリル酸エステル、エトキシレーテッドトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリル酸エステル、プロポキシレーテッドトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリル酸エステル、グリセリントリ(メタ)アクリル酸エステル、エトキシレーテッドグリセリントリ(メタ)アクリル酸エステルを挙げることができる。これらは、粘性増加効果と熱分解性とのバランスに優れるとともに、高粘性化しても糸引きを起こしにくく特に好ましい。これらは2種以上を併用することができる。
【0015】
次に本発明の焼成ペースト用アクリル樹脂組成物の製造方法について説明する。
<重合工程>
本発明では、アルキルメタクリレートを60質量%以上含有する単量体を用いて乳化重合を行いエマルションを得る。
全単量体量に対しアルキルメタクリレートが60質量%以上含まれることで、印刷適性に優れ、かつ、低温焼成性にも優れた焼成ペーストが得られる。
アルキルメタクリレートとしては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート等のモノメタクリレート類を挙げることができる。これらは2種以上を併用することができる。これらの中でも、焼成性の観点から、ブチルメタクリレートを用いることが好ましい。
また、アルキルメタクリレート以外のモノマーを含んでいても良く、具体的な例としては、アルキルアクリレート類、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル基を有するビニル重合性モノマー;(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロキシプロピルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロキシエチルテトラヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロキシプロピルテトラヒドロフタル酸、5−メチル−2−(メタ)アクリロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロキシプロピルフタル酸、2−(メタ)アクリロキシエチルシュウ酸、2−(メタ)アクリロキシプロピルシュウ酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、ソルビン酸等のカルボキシル基含有ビニル系モノマー;アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、ホルミルスチロール、ビニルアルキルケトン、(メタ)アクリルアミドピバリンアルデヒド、ジアセトン(メタ)アクリレート、アセトニルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレートアセチルアセテート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、ブタンジオール−1,4−アクリレート−アセチルアセテート、アクリルアミドメチルアニスアルデヒド等のアルデヒド基又はカルボニル基を有するビニルモノマー;(メタ)アクリルアミド、クロトンアミド、N−メチロールアクリルアミド等のアミド基含有ビニル系モノマー;アリルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有ビニル系モノマー;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル系モノマー;アクリロニトリル等のニトリル基含有ビニル系モノマー;ブタジエン等のオレフィン系モノマー;塩化ビニル等のハロゲン化ビニルモノマー等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
さらに、乳化重合の際に、印刷適性を向上させるために、ラジカル重合可能な不飽和二重結合を2個以上有する架橋剤成分を添加しても良い。
【0016】
架橋剤成分としては、例えば、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸1,3−ブチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸1,4−ブタンジオール、ジ(メタ)アクリル酸1,6−ヘキサンジオール、ジ(メタ)アクリル酸ネオペンチルグリコール、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリル酸エステル、ジ(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ポリテトラメチレングリコール、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリル酸エステル、エトキシレーテッドトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリル酸エステル、プロポキシレーテッドトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリル酸エステル、グリセリントリ(メタ)アクリル酸エステル、エトキシレーテッドグリセリントリ(メタ)アクリル酸エステルを挙げることができる。これらは2種以上を併用することができる。
該架橋剤成分は0.1〜5質量%の範囲で添加することが好ましい。これは、架橋剤成分を0.1質量%以上とすることによって、アクリル樹脂を溶剤に溶解した組成物に高粘性を付与することができ、焼成材として好適に使用することができるためである。好ましくは0.5質量%以上である。また、架橋剤成分を5質量%以下とすることによって、ポリマーに優れた焼成性を付与することができるとともに、溶剤への溶解性が良好となるためである。好ましくは1質量%以下である。
乳化重合を行う場合に用いる開始剤としては特に限定されないが、洗浄の容易さから、水溶性のもののみを用いることが好ましい。水溶性開始剤としては、例えば過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、t−ブチルパーオキサイド等の水溶性有機過酸化物、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]ハイドレート、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]等の水溶性アゾ化合物、過酸化水素等を用いることが出来る。
<残存開始剤低減工程>
本発明では、乳化重合で得られたエマルションに還元剤を添加して前記エマルション中の残存開始剤を分解する方法、あるいは、乳化重合で得られたエマルションを噴霧乾燥した後、得られた粉体を洗浄する方法により、残存開始剤を低減する。
還元剤を添加してエマルション中の残存開始剤を分解する方法の場合、開始剤を分解するための還元剤としては特に限定されないが、例えば、ロンガリット、二酸化チオ尿素、亜硫酸塩類、アスコルビン酸類等を用いることが出来る。
エマルションを噴霧乾燥した後、得られた粉体を洗浄する方法の場合、粉体の洗浄は残存開始剤が溶解する溶媒であれば特に限定されない。例えば水、メタノール等を用いることができるが、取り扱いの点から水が特に好ましい。粉体の重量に対し、少なくとも3倍以上の溶媒を加えて粉体を分散させ、攪拌した後、濾過によって粉体を分離する。さらに攪拌時に分散液を40℃程度まで加熱すると残存開始剤の溶解度を上げることができ、より洗浄効果が向上する点で好ましい。
<乾燥工程>
還元剤を添加して前記エマルション中の残存開始剤を分解する方法の場合、得られたエマルションを噴霧乾燥することで、本発明の焼成ペースト用アクリル樹脂組成物が得られる
エマルションを噴霧乾燥した後、得られた粉体を洗浄する方法の場合、得られた湿粉を乾燥して粉体化することで、本発明の焼成ペースト用アクリル樹脂組成物が得られる。
本発明のアクリル樹脂組成物は、金属粉末、金属酸化物粉末、蛍光粉末、ガラスフリット等の無機粉末等の無機フィラーを用いた焼成ペーストを作成する際に用いることが出来る。中でも、酸化により焼成後の成形物の物性低下を起こしやすい、アルミニウムをフィラーとした、アルミペースト用樹脂として用いることが好ましい。
本発明の焼成ペーストを作成するため有機溶剤としては、特に限定されないが、例えばα、β、γ−ターピネオール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチルー3−エトキシプロピオネート、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、イソホロン、3−メトキシブチルアセテート、ベンジルアルコール、1−オクタノール、1−ノナオール、2−エチル−1−ヘキサノール、1−デカノール、1−ウンデカノール、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。あるいは、塗布後光硬化を行う感光性ペーストとするために、有機オリゴマーを溶剤として用いても良い。
【0017】
以上のように、本発明によれば、アルキルメタクリレートを主成分とし、残存開始剤を低減したアクリル樹脂組成物を、特にアルミニウムのような酸化されやすいフィラーを使う焼成ペースト作成に用いることで、焼成後の物性低下を抑えることが可能な焼成ペーストを得ることが出来る。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の記載において「部」は「質量部」を表す。
【0019】
<各種評価>
(残存開始剤量)
アクリル樹脂組成物中の開始剤を純水で抽出(40℃×1時間)した後、JIS−K8252に基づいた滴定による分析を行い、残存開始剤の定量を行った。
(電気抵抗率)
アクリル樹脂組成物1.5部を、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート8.5部に溶解した。そこへアルミ分散物(旭化成アルミペーストMH−8801)を70部添加、混練してアルミペースト組成物を作成した。得られたアルミペーストを、セラミック基材上に幅0.5mm×厚さ0.03mmとなるようにスクリーン印刷機で印刷後、150℃で30分乾燥した後、750℃で30分間焼成してアルミ導体を作成し、テスターにて抵抗値を測定し抵抗率を算出した。
◎:1.0×10−6Ω・m未満
○:3.0×10−6Ω・m未満
×:3.0×10−6Ω・m以上
<実施例1>
加温、冷却が可能な重合装置に、水100部、シードモノマーを加え、窒素雰囲気中、150rpmで攪拌しながら開始剤0.1部を投入し80℃で1時間間加熱重合し、シード粒子を形成した。この反応液に、脱イオン水25部、乳化剤0.5部、モノマーAを用いたプレ乳化物を2時間かけて滴下した後、80℃で1時間時間過熱重合した。引き続き、脱イオン水25部、乳化剤0.5部、モノマーBを用いたプレ乳化物を反応溶液中に2時間かけて滴下した。滴下終了5分後に還元剤として亜硫酸水素ナトリウム0.05部を添加し、80℃で1時間保持し、乳化重合を終了した。得られた反応液を目開き45μmのナイロン製濾過布により濾過し、エマルションBを得た。
得られたエマルションBをスプレードライヤー(大河原化工機製CL−8型)にて、入り口温度150℃、出口温度60℃で噴霧乾燥し、重合体粉末Bを得た。得られた重合体粉末Bの残存開始剤量は定量下限以下(<1ppm)であった。重合体粉末Bを用いて電気抵抗率を測定したところ、1.23×10−6Ω・mであった。
<実施例2>
加温、冷却が可能な重合装置に、水100部、シードモノマーを加え、窒素雰囲気中、150rpmで攪拌しながら開始剤0.1部を投入し80℃で1時間間加熱重合し、シード粒子を形成した。この反応液に、脱イオン水25部、乳化剤0.5部、モノマーAを用いたプレ乳化物を2時間かけて滴下した後、80℃で1時間時間過熱重合した。引き続き、脱イオン水25部、乳化剤0.5部、モノマーBを用いたプレ乳化物を反応溶液中に2時間かけて滴下した後、80℃で1時間保持し、乳化重合を終了した。得られた反応液を目開き45μmのナイロン製濾過布により濾過し、エマルションCを得た。
得られたエマルションCをスプレードライヤー(大河原化工機製CL−8型)にて、入り口温度150℃、出口温度60℃で噴霧乾燥し、重合体粉末Cを得た。
加温、冷却が可能な装置に、重合体粉末C20部、水100部を投入し、撹拌しながら分散させた。40℃に加熱し、1時間加熱することで粉体の洗浄を行った。この粉体分散液を、桐山ロートを用いてろ過し、重合体湿粉を乾燥することで、重合体粉末C’を得た。得られた重合体粉末C’の残存開始剤量は定量下限以下(<1ppm)であった。重合体粉末C’を用いて電気抵抗率を測定したところ、0.79×10−6Ω・mであった。
<比較例1>
実施例2で得られた重合体粉末Cの洗浄を行わなかったところ、重合体粉末Cの残存開始量は45ppmであった。さらに重合体粉末Cを用いて電気抵抗率を測定したところ、3.21×10−6Ω・mであった。
<比較例2>
加温、冷却が可能な重合装置に、水100部、シードモノマーを加え、窒素雰囲気中、150rpmで攪拌しながら開始剤を投入し80℃で1時間間加熱重合し、コア粒子を形成した。この反応液に、脱イオン水50部、乳化剤1部、モノマーAを用いたプレ乳化物を4時間かけて滴下した。80℃で1時間保持し、乳化重合を終了した。得られた反応液を目開き45μmのナイロン製濾過布により濾過し、エマルションDを得た。
得られたエマルションDをスプレードライヤーにて、入り口温度150℃、出口温度60℃で噴霧乾燥し、重合体粉末Cを得た。得られた重合体粉末Cの残存開始剤量は48ppmであった。重合体粉末Dを用いて電気抵抗率を測定したところ、3.68×10−6Ω・mであった。
【表1】
【表2】
【0020】
以上の結果から明白なように、本発明は、焼成用バインダーとして残存開始剤の少ないアクリル樹脂組成物を用いることで、焼成時のフィラーの酸化を低減することが出来、工業上非常に有益なものである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品の電極、プリント配線板、液晶ディスプレイパネル、プラズマディスプレイパネルの製造等に用いられる焼成ペーストとして有用な焼成用樹脂及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無機物による成形体やそれにより形成されるパターンは、電子材料等の分野において有用なものであるが、このような成形体やパターンを形成する方法としては、従来、金属粉末、金属酸化物粉末、蛍光粉末、ガラスフリット等の無機粉末をバインダー樹脂と混合して焼成ペーストを調整し、このペーストから所定の形状やパターンを形成した後、焼成して有機物を熱分解することにより形成する方法が知られている。
【0003】
この方法に使用されるバインダー成分は、成形加工時の加工性保持や移動時に損傷しないためにフィラーをつなぎ止めるために必要となるもので、最終製品となる前にフィラーを焼結させる際に熱分解により除去される。従って、バインダーに求められる性能としては、良好な熱分解性を有するとともに、各加工時の作業性を満足する必要がある。この加工方法としては、スクリーン印刷やスラリーをドクタープレート等によりシート状に成形する方法や、ディップ法による方法を挙げることができる。
【0004】
特に、スクリーン印刷やディップ法に使用される用途には、焼結させるフィラー成分の充填率を上げるため、含有するバインダー成分を出来るだけ少なくする必要がある。従って、バインダー成分は、低固形分でスクリーン適性やディップ適性を満足する高粘度を発現させる粘性特性が求められる。そこで、バインダー成分としては、ブチラール樹脂やエチルセルロース等を有機溶剤に溶解した溶剤系バインダー樹脂が用いる。
【0005】
しかし、最近の電子材料に用いられる部品に関しては、アルミナのような高温焼成タイプのフィラーからガラス粉体等の低温焼成可能なフィラーがあり、特に低温焼成型のフィラーを焼結させる場合もしくは金属フィラーの酸化防止のため還元性雰囲気中で焼結させる場合は、上記ブチラール樹脂やエチルセルロース樹脂のバインダーではスラッジが発生して焼成不良となり、得られるセラミックもしくは金属導体の特性が低下するという問題があった。そこで、従来のバインダーの欠点を解決するために、焼成性に優れたアクリル樹脂を使ったバインダーが提案されている。
【特許文献1】特開2004−315719号公報
【特許文献2】特開2003−183331号公報例えば、特開2004−315719号公報には、ポリアルキレングリコール構造を持つメタクリレート共重合体の使用が記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1のようなポリアルキレングリコール構造を持ち酸素原子含有量が多いアクリル樹脂を用いた場合や、特許文献2のような重合開始剤の残存するアクリル樹脂を用いた場合、例えばアルミニウムのようなイオン化傾向の高い金属をフィラーとして用いると、金属が酸化され電気抵抗率が上がることがあり、更なる金属導体の特性の向上が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、印刷適性に優れ、かつ焼成時にフィラーを酸化し難い焼成ペーストを得ることの出来るアクリル樹脂の提供及び、その製造方法の実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨はアルキルメタクリレート由来の構成単位を含み、残存開始剤量が30ppm以下である焼成ペースト用アクリル樹脂組成物にある。
【発明の効果】
【0009】
本発明のアクリル樹脂組成物を用いることで、焼成後の金属導体の特性低下が少ない焼成ペーストを作成することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明のアクリル樹脂組成物は、アルキルメタクリレート由来の構成単位を含み、残存開始剤量が30ppm以下である。
アルキルメタクリレート由来の構成単位を含むことにより、印刷適性に優れ、かつ、低温焼成性にも優れた焼成ペーストが得られる。
また、アルキルメタクリレートは、フィラーを酸化する可能性のある酸素原子の含有量が少なく、焼成後の金属導体の特性低下を防ぐことができる。
【0011】
アルキルメタクリレートの具体的な例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート等のモノメタクリレート類を挙げることができる。これらは2種以上を併用することができる。これらの中でも、焼成性の観点から、ブチルメタクリレートを用いることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明のアクリル樹脂組成物は、残存開始剤量が30ppm以下であることが必要である。これは、残存開始剤量を30ppm以下とすることで、焼成時のフィラーの酸化が低減するためである。残存開始剤量の測定方法としては、滴定分析、イオンクロマトグラフィー分析、ガスクロマトグラフィー分析、IR分析、NMR分析等の公知の方法を用い、使用した開始剤に合わせて適宜選択して行うことが出来る。残存開始剤量の好ましい範囲は10ppm以下である。
また、本発明のアクリル樹脂組成物は、アルキルメタクリレート由来の構成単位以外のモノマー由来の構成単位を含んでいても良い。
具体的な例としては、アルキルアクリレート類、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル基を有するビニル重合性モノマー;(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロキシプロピルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロキシエチルテトラヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロキシプロピルテトラヒドロフタル酸、5−メチル−2−(メタ)アクリロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロキシプロピルフタル酸、2−(メタ)アクリロキシエチルシュウ酸、2−(メタ)アクリロキシプロピルシュウ酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、ソルビン酸等のカルボキシル基含有ビニル系モノマー;アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、ホルミルスチロール、ビニルアルキルケトン、(メタ)アクリルアミドピバリンアルデヒド、ジアセトン(メタ)アクリレート、アセトニルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレートアセチルアセテート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、ブタンジオール−1,4−アクリレート−アセチルアセテート、アクリルアミドメチルアニスアルデヒド等のアルデヒド基又はカルボニル基を有するビニルモノマー;(メタ)アクリルアミド、クロトンアミド、N−メチロールアクリルアミド等のアミド基含有ビニル系モノマー;アリルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有ビニル系モノマー;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル系モノマー;アクリロニトリル等のニトリル基含有ビニル系モノマー;ブタジエン等のオレフィン系モノマー;塩化ビニル等のハロゲン化ビニルモノマー等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
さらに、本発明のアクリル樹脂組成物は、印刷適性を向上させるために、ラジカル重合可能な不飽和二重結合を2個以上有する架橋剤成分による架橋構造を有していても良い。
【0014】
架橋剤成分としては、例えば、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸1,3−ブチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸1,4−ブタンジオール、ジ(メタ)アクリル酸1,6−ヘキサンジオール、ジ(メタ)アクリル酸ネオペンチルグリコール、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリル酸エステル、ジ(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ポリテトラメチレングリコール、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリル酸エステル、エトキシレーテッドトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリル酸エステル、プロポキシレーテッドトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリル酸エステル、グリセリントリ(メタ)アクリル酸エステル、エトキシレーテッドグリセリントリ(メタ)アクリル酸エステルを挙げることができる。これらは、粘性増加効果と熱分解性とのバランスに優れるとともに、高粘性化しても糸引きを起こしにくく特に好ましい。これらは2種以上を併用することができる。
【0015】
次に本発明の焼成ペースト用アクリル樹脂組成物の製造方法について説明する。
<重合工程>
本発明では、アルキルメタクリレートを60質量%以上含有する単量体を用いて乳化重合を行いエマルションを得る。
全単量体量に対しアルキルメタクリレートが60質量%以上含まれることで、印刷適性に優れ、かつ、低温焼成性にも優れた焼成ペーストが得られる。
アルキルメタクリレートとしては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート等のモノメタクリレート類を挙げることができる。これらは2種以上を併用することができる。これらの中でも、焼成性の観点から、ブチルメタクリレートを用いることが好ましい。
また、アルキルメタクリレート以外のモノマーを含んでいても良く、具体的な例としては、アルキルアクリレート類、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル基を有するビニル重合性モノマー;(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロキシプロピルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロキシエチルテトラヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロキシプロピルテトラヒドロフタル酸、5−メチル−2−(メタ)アクリロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロキシプロピルフタル酸、2−(メタ)アクリロキシエチルシュウ酸、2−(メタ)アクリロキシプロピルシュウ酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、ソルビン酸等のカルボキシル基含有ビニル系モノマー;アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、ホルミルスチロール、ビニルアルキルケトン、(メタ)アクリルアミドピバリンアルデヒド、ジアセトン(メタ)アクリレート、アセトニルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレートアセチルアセテート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、ブタンジオール−1,4−アクリレート−アセチルアセテート、アクリルアミドメチルアニスアルデヒド等のアルデヒド基又はカルボニル基を有するビニルモノマー;(メタ)アクリルアミド、クロトンアミド、N−メチロールアクリルアミド等のアミド基含有ビニル系モノマー;アリルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有ビニル系モノマー;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル系モノマー;アクリロニトリル等のニトリル基含有ビニル系モノマー;ブタジエン等のオレフィン系モノマー;塩化ビニル等のハロゲン化ビニルモノマー等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
さらに、乳化重合の際に、印刷適性を向上させるために、ラジカル重合可能な不飽和二重結合を2個以上有する架橋剤成分を添加しても良い。
【0016】
架橋剤成分としては、例えば、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸1,3−ブチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸1,4−ブタンジオール、ジ(メタ)アクリル酸1,6−ヘキサンジオール、ジ(メタ)アクリル酸ネオペンチルグリコール、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリル酸エステル、ジ(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ポリテトラメチレングリコール、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリル酸エステル、エトキシレーテッドトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリル酸エステル、プロポキシレーテッドトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリル酸エステル、グリセリントリ(メタ)アクリル酸エステル、エトキシレーテッドグリセリントリ(メタ)アクリル酸エステルを挙げることができる。これらは2種以上を併用することができる。
該架橋剤成分は0.1〜5質量%の範囲で添加することが好ましい。これは、架橋剤成分を0.1質量%以上とすることによって、アクリル樹脂を溶剤に溶解した組成物に高粘性を付与することができ、焼成材として好適に使用することができるためである。好ましくは0.5質量%以上である。また、架橋剤成分を5質量%以下とすることによって、ポリマーに優れた焼成性を付与することができるとともに、溶剤への溶解性が良好となるためである。好ましくは1質量%以下である。
乳化重合を行う場合に用いる開始剤としては特に限定されないが、洗浄の容易さから、水溶性のもののみを用いることが好ましい。水溶性開始剤としては、例えば過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、t−ブチルパーオキサイド等の水溶性有機過酸化物、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]ハイドレート、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]等の水溶性アゾ化合物、過酸化水素等を用いることが出来る。
<残存開始剤低減工程>
本発明では、乳化重合で得られたエマルションに還元剤を添加して前記エマルション中の残存開始剤を分解する方法、あるいは、乳化重合で得られたエマルションを噴霧乾燥した後、得られた粉体を洗浄する方法により、残存開始剤を低減する。
還元剤を添加してエマルション中の残存開始剤を分解する方法の場合、開始剤を分解するための還元剤としては特に限定されないが、例えば、ロンガリット、二酸化チオ尿素、亜硫酸塩類、アスコルビン酸類等を用いることが出来る。
エマルションを噴霧乾燥した後、得られた粉体を洗浄する方法の場合、粉体の洗浄は残存開始剤が溶解する溶媒であれば特に限定されない。例えば水、メタノール等を用いることができるが、取り扱いの点から水が特に好ましい。粉体の重量に対し、少なくとも3倍以上の溶媒を加えて粉体を分散させ、攪拌した後、濾過によって粉体を分離する。さらに攪拌時に分散液を40℃程度まで加熱すると残存開始剤の溶解度を上げることができ、より洗浄効果が向上する点で好ましい。
<乾燥工程>
還元剤を添加して前記エマルション中の残存開始剤を分解する方法の場合、得られたエマルションを噴霧乾燥することで、本発明の焼成ペースト用アクリル樹脂組成物が得られる
エマルションを噴霧乾燥した後、得られた粉体を洗浄する方法の場合、得られた湿粉を乾燥して粉体化することで、本発明の焼成ペースト用アクリル樹脂組成物が得られる。
本発明のアクリル樹脂組成物は、金属粉末、金属酸化物粉末、蛍光粉末、ガラスフリット等の無機粉末等の無機フィラーを用いた焼成ペーストを作成する際に用いることが出来る。中でも、酸化により焼成後の成形物の物性低下を起こしやすい、アルミニウムをフィラーとした、アルミペースト用樹脂として用いることが好ましい。
本発明の焼成ペーストを作成するため有機溶剤としては、特に限定されないが、例えばα、β、γ−ターピネオール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチルー3−エトキシプロピオネート、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、イソホロン、3−メトキシブチルアセテート、ベンジルアルコール、1−オクタノール、1−ノナオール、2−エチル−1−ヘキサノール、1−デカノール、1−ウンデカノール、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。あるいは、塗布後光硬化を行う感光性ペーストとするために、有機オリゴマーを溶剤として用いても良い。
【0017】
以上のように、本発明によれば、アルキルメタクリレートを主成分とし、残存開始剤を低減したアクリル樹脂組成物を、特にアルミニウムのような酸化されやすいフィラーを使う焼成ペースト作成に用いることで、焼成後の物性低下を抑えることが可能な焼成ペーストを得ることが出来る。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の記載において「部」は「質量部」を表す。
【0019】
<各種評価>
(残存開始剤量)
アクリル樹脂組成物中の開始剤を純水で抽出(40℃×1時間)した後、JIS−K8252に基づいた滴定による分析を行い、残存開始剤の定量を行った。
(電気抵抗率)
アクリル樹脂組成物1.5部を、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート8.5部に溶解した。そこへアルミ分散物(旭化成アルミペーストMH−8801)を70部添加、混練してアルミペースト組成物を作成した。得られたアルミペーストを、セラミック基材上に幅0.5mm×厚さ0.03mmとなるようにスクリーン印刷機で印刷後、150℃で30分乾燥した後、750℃で30分間焼成してアルミ導体を作成し、テスターにて抵抗値を測定し抵抗率を算出した。
◎:1.0×10−6Ω・m未満
○:3.0×10−6Ω・m未満
×:3.0×10−6Ω・m以上
<実施例1>
加温、冷却が可能な重合装置に、水100部、シードモノマーを加え、窒素雰囲気中、150rpmで攪拌しながら開始剤0.1部を投入し80℃で1時間間加熱重合し、シード粒子を形成した。この反応液に、脱イオン水25部、乳化剤0.5部、モノマーAを用いたプレ乳化物を2時間かけて滴下した後、80℃で1時間時間過熱重合した。引き続き、脱イオン水25部、乳化剤0.5部、モノマーBを用いたプレ乳化物を反応溶液中に2時間かけて滴下した。滴下終了5分後に還元剤として亜硫酸水素ナトリウム0.05部を添加し、80℃で1時間保持し、乳化重合を終了した。得られた反応液を目開き45μmのナイロン製濾過布により濾過し、エマルションBを得た。
得られたエマルションBをスプレードライヤー(大河原化工機製CL−8型)にて、入り口温度150℃、出口温度60℃で噴霧乾燥し、重合体粉末Bを得た。得られた重合体粉末Bの残存開始剤量は定量下限以下(<1ppm)であった。重合体粉末Bを用いて電気抵抗率を測定したところ、1.23×10−6Ω・mであった。
<実施例2>
加温、冷却が可能な重合装置に、水100部、シードモノマーを加え、窒素雰囲気中、150rpmで攪拌しながら開始剤0.1部を投入し80℃で1時間間加熱重合し、シード粒子を形成した。この反応液に、脱イオン水25部、乳化剤0.5部、モノマーAを用いたプレ乳化物を2時間かけて滴下した後、80℃で1時間時間過熱重合した。引き続き、脱イオン水25部、乳化剤0.5部、モノマーBを用いたプレ乳化物を反応溶液中に2時間かけて滴下した後、80℃で1時間保持し、乳化重合を終了した。得られた反応液を目開き45μmのナイロン製濾過布により濾過し、エマルションCを得た。
得られたエマルションCをスプレードライヤー(大河原化工機製CL−8型)にて、入り口温度150℃、出口温度60℃で噴霧乾燥し、重合体粉末Cを得た。
加温、冷却が可能な装置に、重合体粉末C20部、水100部を投入し、撹拌しながら分散させた。40℃に加熱し、1時間加熱することで粉体の洗浄を行った。この粉体分散液を、桐山ロートを用いてろ過し、重合体湿粉を乾燥することで、重合体粉末C’を得た。得られた重合体粉末C’の残存開始剤量は定量下限以下(<1ppm)であった。重合体粉末C’を用いて電気抵抗率を測定したところ、0.79×10−6Ω・mであった。
<比較例1>
実施例2で得られた重合体粉末Cの洗浄を行わなかったところ、重合体粉末Cの残存開始量は45ppmであった。さらに重合体粉末Cを用いて電気抵抗率を測定したところ、3.21×10−6Ω・mであった。
<比較例2>
加温、冷却が可能な重合装置に、水100部、シードモノマーを加え、窒素雰囲気中、150rpmで攪拌しながら開始剤を投入し80℃で1時間間加熱重合し、コア粒子を形成した。この反応液に、脱イオン水50部、乳化剤1部、モノマーAを用いたプレ乳化物を4時間かけて滴下した。80℃で1時間保持し、乳化重合を終了した。得られた反応液を目開き45μmのナイロン製濾過布により濾過し、エマルションDを得た。
得られたエマルションDをスプレードライヤーにて、入り口温度150℃、出口温度60℃で噴霧乾燥し、重合体粉末Cを得た。得られた重合体粉末Cの残存開始剤量は48ppmであった。重合体粉末Dを用いて電気抵抗率を測定したところ、3.68×10−6Ω・mであった。
【表1】
【表2】
【0020】
以上の結果から明白なように、本発明は、焼成用バインダーとして残存開始剤の少ないアクリル樹脂組成物を用いることで、焼成時のフィラーの酸化を低減することが出来、工業上非常に有益なものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルメタクリレート由来の構成単位を含み、残存開始剤量が30ppm以下である焼成ペースト用アクリル樹脂組成物。
【請求項2】
アルキルメタクリレートを60質量%以上含有する単量体を開始剤を用いて乳化重合しエマルションを得る重合工程と、前記エマルションに還元剤を添加し残存開始剤を低減する工程と、残存開始剤低減工程後のエマルションを乾燥して粉体化を行う乾燥工程を含む請求項1記載の焼成ペースト用アクリル樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
アルキルメタクリレートを60質量%以上含有する単量体を開始剤を用いて乳化重合しエマルションを得る重合工程と、前記エマルションを噴霧乾燥した後、得られた粉体を洗浄し残存開始剤を低減する工程と、残存開始剤を低減する工程で得られた湿粉を乾燥して粉体化を行う乾燥工程を含む請求項1記載の焼成ペースト用アクリル樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の焼成ペースト用アクリル樹脂組成物、無機フィラー、及び有機溶剤を含有する焼成ペースト組成物。
【請求項1】
アルキルメタクリレート由来の構成単位を含み、残存開始剤量が30ppm以下である焼成ペースト用アクリル樹脂組成物。
【請求項2】
アルキルメタクリレートを60質量%以上含有する単量体を開始剤を用いて乳化重合しエマルションを得る重合工程と、前記エマルションに還元剤を添加し残存開始剤を低減する工程と、残存開始剤低減工程後のエマルションを乾燥して粉体化を行う乾燥工程を含む請求項1記載の焼成ペースト用アクリル樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
アルキルメタクリレートを60質量%以上含有する単量体を開始剤を用いて乳化重合しエマルションを得る重合工程と、前記エマルションを噴霧乾燥した後、得られた粉体を洗浄し残存開始剤を低減する工程と、残存開始剤を低減する工程で得られた湿粉を乾燥して粉体化を行う乾燥工程を含む請求項1記載の焼成ペースト用アクリル樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の焼成ペースト用アクリル樹脂組成物、無機フィラー、及び有機溶剤を含有する焼成ペースト組成物。
【公開番号】特開2010−241968(P2010−241968A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92673(P2009−92673)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】
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