説明

焼成容器

【課題】耐熱性、離型性に優れるとともに、耐久性をも備え、焼成時の容器変形を避けるとともに、値段も安価な焼成容器を提供する。
【解決手段】原紙20の両面が耐熱性樹脂層21で被覆された成形用紙22を三次元形状に成形した焼成容器10であって、前記成形の前又は後に、前記成形用紙22のうち内面に相当する面がさらにシリコーン樹脂層23で被覆されるとともに、前記成形後の端縁部には前記耐熱性樹脂層21及び前記シリコーン樹脂層23で被覆されていない非被覆部14が形成され、この非被覆部14から前記原紙20が含有する水分を放出可能に形成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン及び焼き菓子等、生地を焼成して製造する食品の焼成の際に焼き型として用いられる容器に関する。
【背景技術】
【0002】
パンや菓子の中には、生地を所定の形状の焼き型に入れ、必要に応じてその状態で発酵工程を経た後、焼成して製造されるものがある。このような焼き型としては従来アルミニウムのような金属で形成されるものが主であったが、近年は耐熱性のシリコーン樹脂その他の耐熱性樹脂で形成されるもの(特許文献1)、紙とプラスチックとの混合材料であるハイブリッドペーパーを用いたもの、アルミニウムにシリコーン樹脂をコーティングしたもの(特許文献2)、等が提供されている。また、原紙の少なくとも内面側に当たる面にシリコーン被膜を設けたものも開示されている(特許文献3)。またこのような原紙を樋状に形成したものもある(特許文献4)。
【特許文献1】特開2004−242591号公報
【特許文献2】実用新案登録第3129837号公報
【特許文献3】実用新案登録第3140826号公報
【特許文献4】実用新案登録第3149589号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述の従来技術に係る焼き型のうち、シリコーン樹脂製のものは、耐熱性及び離型性に優れるも値段が高いという難点があった。
また、通常紙51%、プラスチック49%のハイブリッドペーパーを用いた場合には、焼成後の離型のために離型油の塗布が必要である。また、発酵工程で湿気を吸い、その後の焼成工程時にその湿気が膨張することで容器が変形することもあった。
シリコーンコーティングのアルミ容器の場合には、焼成後の焼け焦げの除去時又は洗浄時にアルミ自体の変形があり得るともに、使用を重ねるごとに内面にコーティングしていたシリコーンが剥がれ、型の剥離性が悪化するという問題点があった。
【0004】
また、樹脂製の焼き型の場合、離型油と焼成温度との影響で樹脂の劣化が促進され耐久性が著しく低下するとともに、破損した樹脂の破片が焼成後のパン等に付着する等の問題があった。
本件発明は以上の問題点に鑑みなされたもので、耐熱性、離型性に優れるとともに、耐久性をも備え、焼成時の容器変形を避けるとともに、値段も安価な焼成容器を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題に鑑み、本件発明は、原紙20の両面が耐熱性樹脂層21で被覆された成形用紙22を三次元形状に成形した焼成容器10であって、前記成形の前又は後に、前記成形用紙22のうち内面に相当する面がさらにシリコーン樹脂層23で被覆されるとともに、前記成形後の端縁部には前記耐熱性樹脂層21及び前記シリコーン樹脂層23で被覆されていない非被覆部14が形成され、この非被覆部14から前記原紙20が含有する水分を放出可能に形成したことを特徴とする。
「焼成容器10」とは、パン及びケーキ、クッキー等の焼き菓子のような食品を焼成する際に焼き型として用いられる容器であって、必要に応じて、焼成前の生地の発酵工程もその中で実施可能なものをいう。
【0006】
「原紙20」とは、焼成容器10に成形可能な紙材料をいう。たとえば、秤量200〜450g/m2のものが使用される。この原紙20は数重量%、通常7重量%程度の水分を含有している。
「耐熱性樹脂層21」に用いられる樹脂の種類としては、パン、焼き菓子の焼成温度に耐え得るものであれば特に限定はない。たとえば、耐熱温度240℃のポリエチレンテレフタレートや、耐熱温度220℃のポリブチレンテレフタレートなどが使用可能である。
「成形用紙22」とは、上記原紙20の両面が、上記のような耐熱性樹脂層21で被覆されたものをいう。この成形用紙22は、たとえば紙深絞り成形により二次元の成形用紙22を三次元形状にプレス加工し、焼成容器10の形状に成形される。このような容器の形状としては、少なくとも、底面部11と、この底面部11の全周から立ち上がる側面部12とを備えているものである。そしてこの側面部12から外方へ、底面に平行ないし略平行な辺縁部13を設けることとしてもよい。この辺縁部13は下方へ折り下げたような形状としても、また、さらに辺縁を巻き込むような形状としてもよい。また、底面部11の形状としては、焼成される食品の形状に合わせて、円形、四角形、長円形など所望の形状とすることができる。
【0007】
「シリコーン樹脂層23」は、焼成容器10で焼成して形成された食品の離型性を向上させるために容器の内面に相当する面を被覆する層である。このシリコーン樹脂層23としては、非粘着性に富むとともに耐熱性にも優れている上、食品衛生の点でも問題がないシロキサン、たとえばヘキサメチルジシロキサンなどを使用することができる。また、特に、低温硬化シリコーンが好ましく、さらに、好ましくは付加反応型のものを使用することができる。このシリコーン樹脂層23による被覆は、成形用紙22を三次元形状に成形する前に、行っていてもよいし、また、成形の後に行うこととしてもよい。
そして、本発明に係る焼成容器10においては、成形後の端縁部には、耐熱性樹脂層21にもシリコーン樹脂層23にも被覆されていない「非被覆部14」が形成されることとなっている。たとえば、成形用紙22が三次元形状に成形される段階で既に成形用紙22の端縁部が耐熱性樹脂層21にもシリコーン樹脂層23にも被覆されない状態として形成されているものであって、その状態で三次元形状への成形がなされることとしてもよい。また、成形用紙22を三次元形状に成形し、その内面をシリコーン樹脂で被覆した後に、容器の周囲を裁断して耐熱性樹脂にもシリコーン樹脂にも被覆されていない断端を形成することで非被覆部14とすることもできる。
【0008】
このような非被覆部14を形成することで、焼成容器10でパン又は菓子等を焼成する際に、温度上昇により原紙20に含まれている水分がその非被覆部14から放出されることとなる。それによって、原紙20の両面を被覆する耐熱性樹脂層21や、その内面側をさらに被覆するシリコーン樹脂層23が水分放出に伴って剥がれたり変形したりすることを防止することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、上記の通り構成されているので、非被覆部から原紙自体が含有する水分を焼成時に外部へ逃がすことができるので、耐熱性樹脂層及びシリコーン樹脂層の被覆の剥がれが起きない。これにより、耐熱性、離型性に優れるとともに、耐久性をも備え、焼成時の容器変形を避けるとともに、値段も安価な焼成容器を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る焼成容器の一例を斜視図で示す。
【図2】本発明に係る焼成容器を図1のII-II断面で示す(A)とともに,その一部を拡大にて示す(B)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態を図面を参照しつつ以下に説明する。
図1は、本実施の形態に係る焼成容器10の一例を斜視図で示したものである。この焼成容器10は、略正方形の底面部11と、この底面部11から上方へ向かって拡がるように立ち上がる側面部12と、この側面部12から底面部11と略平行に外方へ伸びる辺縁部13とを有するように構成されている。
図1をII-II断面で示したのが図2(A)である。この断面を拡大した図2(B)に示すように、原紙20の内面側及び外面側の両方に、耐熱性樹脂層21がコーティングされている。この原紙20としては、秤量200〜450g/m2、好ましくは250〜350g/m2の紙が使用される。原紙20の厚さは、0.3〜1.0mm、好ましくは0.4〜0.7mmである。紙はバージンパルプを抄紙したものが好ましく用いられる。なお、原紙20は数重量%、通常7重量%程度の水分を含有している。また、耐熱性樹脂層21としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチルペンテン、フッ素樹脂、ポリプロピレンなどの合成樹脂が用いられる。このように、原紙20の両面に耐熱性樹脂層21がコーティングされたものを成形用紙22と称する。
【0012】
成形用紙22を焼成用トレーの形状に成形する際には、通常採用されている成形方法、たとえば成形用紙22の深絞り成形により、図示するような容器の形状に成形される。なお、目的とする食品の形状に応じて、容器の形状を、底面円形、長円形、星形等、所望のものとすることもできる。
そして、この焼成容器10の内面側の、耐熱性樹脂層21の上層を被覆するようにして、低温硬化シリコーン樹脂によるシリコーン樹脂層23が設けられる。このシリコーン樹脂層23の材料としては、付加反応型のシリコーン樹脂が好ましい。付加反応型の低温硬化性シリコーン樹脂は、たとえば、商品名KNS−320、KNS−320A、X−62−1398、X−52−195(信越化学工業)の商品名で市販されているものなどが用いられる。このような低温硬化性シリコーン樹脂をそのまま、あるいは適宜に使用しやすい粘度になるように希釈し、硬化触媒として白金などの金属の塩類を加えよく攪拌して、焼成容器10の内面に塗付する。次いで、低温で加熱する硬化処理に付し、低温硬化性シリコーン樹脂を硬化させシリコーン樹脂層23が形成される。なお、このシリコーン樹脂層23の形成は、容器の成形前の、成形用紙22に対して実施されることとしてもよい。シリコーン樹脂層23を形成させるための、低温硬化性シリコーン樹脂の、成形前又は成形後における成形用紙22への塗布は、刷毛による塗布、あるいは、噴霧などで行うことができる。
【0013】
そして、辺縁部13の端縁は、耐熱性樹脂層21もシリコーン樹脂層23も設けられていない、原紙20の断面が外界に対して露出している。この部分が非被覆部14となっている。この非被覆部14を形成するに当たっては、たとえば以下の方法を取ることができる。
(1)成形用紙22の段階で、容器の内面となる面にシリコーン樹脂層23を形成しておく場合には、
(1−1)深絞り成形前に、成形用紙22を適宜裁断して非被覆部14を形成しておいた状態で、深絞り成形に供するか、
(1−2)深絞り成形の際に辺縁部13の外周を断ち切ることで非被覆部14を形成するか、又は、
(1−3)深絞り成形後に辺縁部13の外周を裁断することで非被覆部14を形成する。
【0014】
(2)成形用紙22を深絞り成形に供した後で、その内面にシリコーン樹脂層23を形成する場合には、
(2−1)シリコーン樹脂層23を形成する際に、辺縁部13の外周にはシリコーン樹脂材料が付着しないようにして非被覆部14を確保しておくか、又は、
(2−2)シリコーン樹脂層23を形成した後に辺縁部13の外周を裁断して非被覆部14を形成する。
この焼成容器10の中に、パンや菓子類の生地を入れ、必要に応じて発酵工程に供してから、オーブンで焼成してパンや菓子類を製造する。なお、先述のとおり原紙20は数重量%、通常7重量%程度の水分を含有しており、焼成工程においてこの水分が蒸発して膨張することになるが、その水蒸気は非被覆部14を通して外界へ放出されることとなっている。そして、上述のとおり内面にシリコーン樹脂層23が形成されているため、焼成された食品を容易に離型することができる。さらに、樹脂層の変形も起こらないので繰り返しの使用にも耐え得ることとなっている。
【実施例1】
【0015】
秤量300g/m2の原紙の両面に、それぞれ厚さ20μmで耐熱温度240℃のポリエチレンテレフタレート(PET)による耐熱性樹脂層でコーティングした成形用紙を、深絞り成形により、直径100mm、深さ30mmの円形の焼成容器に成形した。この焼成容器の内面にKNS−320A(低温硬化性シリコーン樹脂、信越化学工業)をスプレーで塗布し、その後120℃で10分間硬化処理して厚さ10〜50μmのシリコーン樹脂層を形成した。その後、辺縁を切断して非被覆部を形成した。このようにして得られた焼成容器は、約90回、パンの発酵及び焼成工程(焼成温度約220℃、12分間)に反復使用することができた。
【0016】
なお、比較例として、上記と同様の条件で焼成容器を成形するものの、辺縁の切断工程を経ずに非被覆部を形成しない焼成容器を作成したが、これは上記と同条件の発酵及び焼成工程4〜5回でPET層が剥がれて変形し、その後使用不可となった。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は、パン及び焼き菓子等、生地を焼成して製造する食品の焼成の際に焼き型として用いられる容器に利用可能である。
【符号の説明】
【0018】
10 焼成容器 11 底面部
12 側面部 13 辺縁部
14 非被覆部
20 原紙 21 耐熱性樹脂層
22 成形用紙 23 シリコーン樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原紙の両面が耐熱性樹脂層で被覆された成形用紙を三次元形状に成形した焼成容器であって、
前記成形の前又は後に、前記成形用紙のうち内面に相当する面がさらにシリコーン樹脂層で被覆されるとともに、
前記成形後の端縁部には前記耐熱性樹脂層及び前記シリコーン樹脂層で被覆されていない非被覆部が形成され、この非被覆部から前記原紙が含有する水分を放出可能に形成したことを特徴とする焼成容器。
【請求項2】
前記耐熱性樹脂層は、ポリエチレンテレフタレート又はポリブチレンテレフタレートで形成されることを特徴とする請求項1記載の焼成容器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−120547(P2011−120547A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282692(P2009−282692)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(505052917)技研プロセス有限会社 (3)
【Fターム(参考)】