説明

焼成油脂性菓子の製造方法

【課題】本発明は、連続式オーブンを用いた油脂性菓子生地の焼成において、簡便で効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】油脂性菓子生地を焼成するにあたって、流動性を有する状態の油脂性菓子生地を、連続式オーブンに帯状に供給して焼成し、焼成後に切断することによって、簡便で効率的な製造方法が実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は焼成油脂性菓子の製造方法に関し、詳細には連続式オーブンを用いる場合の焼成油脂性菓子の簡便で効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、焼成油脂性菓子を製造する試みはなされている。
特許文献1には、耐熱性の優れた油脂性菓子の製造方法として、チョコレート生地等の油脂性菓子生地を80℃以上にて数秒から数十分間加熱し固化させる油脂性菓子の製造方法が開示されている。焼成される油脂性菓子生地が断続的に成形、型注入あるいは被覆される場合の記載があるが、焼成方法については温度と時間の開示があるのみで、特別な技術的開示は見あたらない。
【0003】
また特許文献2には、焼成による変性、硬化、食感が落ちることを抑えた、噛みだしの柔らかいチョコレート類及び該チョコレート類が使用されている複合菓子類として、ポリグリセリンオレイン酸モノエステルにHLB5以下のポリグリセリンオレイン酸エステルもしくはポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを併用で添加されているチョコレート類が開示されており、その効果として製造工程中に焼成した場合でも、噛みだしから柔らかく良好な食感を保ったチョコレート類を提供することができるとしている。しかし、焼成方法については温度と時間の開示があるのみで、特許文献2にも特別な技術的開示は見あたらない。
【0004】
さらに特許文献3には、シート状焼き菓子と油脂性食品とを複合してなる菓子であって、食べるときに破片等が飛散することなく、手で持ってもベタ付かず、しかも油脂性食品本来の柔らかさも保持された菓子の製造方法として、1枚の厚さが2.0〜10.0mmのシート状焼き菓子の表面の少なくとも一部に、油脂性食品を厚さ1〜15mmで被覆し、この油脂性食品の表層を400〜1200℃の熱源を用いて直火で1〜10秒間焼成して熱変性させることを特徴とする菓子の製造方法が開示されており、その効果として表面が硬く、内部は柔らかい油脂製品で一部又は全面を覆われ、手で食べても手が汚れず、食べるときに破片等が飛散することが防止される、ソフトでサク味のある新規な食感の焼き菓子を提供することができるとしている。しかし、特許文献3も焼成方法については温度と時間の開示があるのみで、特別な技術的開示は見あたらない。
【0005】
したがって上記いずれの従来技術も、連続式オーブンを用いた油脂性菓子生地の焼成において、簡便で効率的な製造方法を提供するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭52−148662号公報
【特許文献2】特開平11−225674号公報
【特許文献3】特開2000−253823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって本発明は、連続式オーブンを用いた油脂性菓子生地の焼成において、簡便で効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意検討した結果、油脂性菓子生地を焼成するにあたって、流動性を有する状態の油脂性菓子生地を、連続式オーブンに帯状に供給して焼成し、焼成後に切断することによって、簡便で効率的な製造方法が実現できるとの知見を得て本発明を完成した。
【0009】
本発明は以下の構成からなる。
(1) 油脂性菓子生地を焼成するにあたって、流動性を有する状態の油脂性菓子生地を、連続式オーブンに帯状に供給して焼成し、焼成後に切断することを特徴とする油脂性菓子の製造方法。
(2) 油脂性菓子生地が油脂の連続層を有する前記(1)に記載の油脂性菓子の製造方法。
(3) 油脂性菓子生地がチョコレートである前記(1)または(2)に記載の油脂性菓子の製造方法。
(4) 油脂性菓子生地の粘度がオーブンへの生地供給時において32000〜50000mPa・sである前記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の油脂性菓子の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の焼成油脂性菓子の製造方法は、油脂性菓子生地を焼成するにあたって、流動性を有する状態の油脂性菓子生地を、連続式オーブンに帯状に供給して焼成し、焼成後に切断することにより、簡便で効率的な製造方法が実現できるので、連続式オーブンを用いた生産における製造方法として好適である。本願製造方法においては、油脂性菓子生地を連続的に帯状に供給するので、定量吐出が可能なデポジッターなどの装置を必要とせず、一定サイズの開口部を有するホッパーがあれば足りる。また、油脂性菓子生地は連続してオーブンに供給されるので、特にオーブンのベルトの進行方向に厚みが均一となり、焼ムラが発生し難い。さらに、一般的に焼き菓子生産の律速段階となることが多い焼成工程において、オーブンの面積を広く使用できるので生産能力が高い。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(定義)
本願において油脂性菓子生地とは、規格上のチョコレート生地に限定されるものではなく油脂性菓子生地を広く意味し、チョコレート類の表示に関する公正競争規約に定めるチョコレート、準チョコレートや、それに該当しないファットクリームなどあらゆる油脂性菓子が使用可能である。したがってチーズクリームなども油脂性菓子生地である。
【0012】
本願において油脂性菓子生地の焼成とは、前記油脂性菓子生地を連続式オーブンで焼成することである。焼成温度はオーブンの内部雰囲気温度である。
【0013】
連続式オーブンとは回分式オーブンに対する言葉で、焼成される物が焼成区間を移動しながら通過するので、焼成される物のオーブンへの供給、オーブンからの取り出しが連続的に可能なオーブンである。
【0014】
帯状とは、一定の幅を維持しながらオーブンのバンドの進行方向に連続する形状を意味する。当該帯は1本でも複数本でもよい。1本の帯状でオーブンバンド全面に供給、焼成し、焼成後に切断する場合、油脂性菓子生地がオーブンのバンド上に隙間なく敷き詰められるので生産効率はより高くなり、焼きムラもさらに少なくなる。
(原料)
【0015】
本願において油脂性菓子の原料は通常の油脂性菓子に用いられるものと同じでよく、砂糖、全粉乳、カカオマス、ココアバター、植物油脂、レシチン等を使用することができる。
その他の原料として、糖質、乳製品、油脂類、ナッツ等の種実類、ジャム等の加工食品、食塩などの塩類、色素、乳化剤、香料、さらにその他の成分も、必要に応じて適宜用いることができる。
【0016】
例えば糖質としては、澱粉、アルファー化澱粉、乳糖、ブドウ糖、果糖、トレハロース、デキストリン、セルロースなどの糖、マルチトールやソルビトールなどの糖アルコールを用いることができる。
【0017】
例えば乳製品としては、脱脂粉乳、クリームパウダー、チーズパウダー、乾燥乳清などが挙げられる。
【0018】
例えば油脂類としては動物、植物もしくは両者由来のテンパリング脂、ノンテンパリング脂又はそれらを混合した代用油脂であり、サル脂、シア脂、パーム油、乳脂、DHA、EPA、ショートニング、マーガリンなどが挙げられる。
【0019】
例えば乳化剤としては ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルなどが挙げられる。
【0020】
例えば香料としては バニリン、バニラ抽出物などが挙げられる。
【0021】
(製法)
本願製法では、例えば次のようにして焼成油脂性菓子を製造することができる。
まず本願の油脂性菓子生地は、例えば、砂糖、乳糖、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー等の粉体原料と、融解させたカカオマス、ココアバター、植物油脂やレシチン等の油性液状原料とを、微粒化に適した油分(通常25〜30重量%)になるよう攪拌混合してペースト状の種生地を得、当該種生地を微粒化し、得られたフレークをコンチングし、ペースト状に液化した後、所望の油分、粘度になるよう更にココアバター、植物油脂等の油脂原料、及び、レシチン等を添加し、攪拌混合して得ることができる。更にこれに、必要に応じ香料、乳化剤等を添加してもよい。
【0022】
油脂性生地の粘度は、オーブンへの生地供給時において32000〜50000mPa・sが好ましい。より好ましくはオーブンへの生地供給時において37000〜43000mPa・sである。粘度の調整は、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルなどを用いて行うことができる。なお本願発明における粘度の測定条件は、B型粘度計を用い、ローターNo.6、測定回転数4rpmである。
【0023】
次に、得られた油脂性菓子生地をオーブンで焼成する。
本願方法は、焼成方法に特徴を有する。本願方法では、油脂性菓子生地を焼成するにあたって、流動性を有する状態の油脂性菓子生地を、連続式オーブンのスチールバンド上に帯状に供給して焼成し、焼成後に切断することを特徴とする。
帯の数は1本でも複数本でもよいが、スチールバンド全面を使用した1本の帯の場合、生産効率はより高くなり、厚みも均一にしやすいので、焼きムラもさらに少なくなる。
切断に使用するカッターは所望の最終形状に応じて選択すればよく、特に限定されない。
焼き上がり後の香味を考えた場合、焼成はオーブン内の雰囲気温度として160〜250℃で行うのが好ましい。焦げ感を出さず焼き上げるには、焼成温度にあわせて焼成時間を適宜調整する必要がある。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を挙げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
実施例1
まず、砂糖44.4重量部、全粉乳26重量部、カカオマス6重量部、ココアバター13重量部、レシチン0.2重量部を攪拌混合してペースト状の種生地を得、続いて当該種生地を微粒化し、得られたフレークをコンチングしてペースト状に液化した後、更にココアバター10重量部、レシチン0.4重量部を添加し、攪拌混合して油脂性菓子生地を得た。更にこれに、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(SYグリスターCRS−75:阪本薬品工業株式会社)を油脂性菓子生地の0.07重量%添加して、32℃における粘度を42500mPa・sに調整した。
【0026】
次に、流動性を有する状態の32℃の油脂性菓子生地をホッパーに移し、連続式オーブンのスチールバンド上に10本の帯状に(1本の帯は幅28mm、厚さ3.5mm、バンドスピード5m/分)ホッパーからの自然落下で供給して180℃で10分間焼成し、焼成後に28mm四方に切断した。
切断後の油脂性菓子は厚みがほぼ均一で、焼け過ぎた部分は見られなかった。
【0027】
比較例1
実施例1と同様にして32℃における粘度が42500mPa・sである油脂性菓子生地を調製した。また、縦、横各28mm、深さ3.5mmの凹部が進行方向に10列に並んだ焼型を用意した。次に、前記油脂性菓子生地を充填機を用いて前記焼型の凹部に満注充填した後、実施例1の連続式オーブンに移送して180℃で10分間焼成した。得られた焼成油脂性菓子の厚みはほぼ均一だったが、焼成油脂性菓子の周辺部に焼け過ぎた部分が少し見られた。用いた前記焼型は、オーブンの進行方向1m中に平均して200個の前記凹部があった。一方、実施例1ではオーブンの進行方向1m分から平均350個以上の油脂性菓子が得られたので、比較例1の生産能力は実施例1の60%以下であった。
【0028】
試験例
実施例1と同じ油脂性菓子生地を得た。更にこれに、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(SYグリスターCRS−75:阪本薬品工業株式会社)を表1のように添加したところ、32℃における粘度は表1のようになった。

【表1】

【0029】
次に、流動性を有する状態の32℃に調整した試験区1〜9の油脂性菓子生地をそれぞれホッパーに移し、連続式オーブンのスチールバンド上に帯状に(1本の帯は幅28mm、厚さ3.5mm、バンドスピード5m/分)ホッパーからの自然落下で供給して180℃で10分間焼成し、スチールバンドへの供給のなめらかさと保形性の観点から適正粘度を評価した。結果を表2に示す。

【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂性菓子生地を焼成するにあたって、流動性を有する状態の油脂性菓子生地を、連続式オーブンに帯状に供給して焼成し、焼成後に切断することを特徴とする油脂性菓子の製造方法。
【請求項2】
油脂性菓子生地が油脂の連続層を有する請求項1に記載の油脂性菓子の製造方法。
【請求項3】
油脂性菓子生地がチョコレートである請求項1または2に記載の油脂性菓子の製造方法。
【請求項4】
油脂性菓子生地の粘度がオーブンへの生地供給時において32000〜50000mPa・sである請求項1〜3のいずれか一項に記載の油脂性菓子の製造方法。