説明

焼成済冷凍パンの製造方法、焼成済冷凍パン

【課題】再加熱処理による表面の焦げが低減されたパンが得られる焼成済冷凍パンの製造方法、及び該製造方法により得られた焼成済冷凍パンの提供。
【解決手段】表面生地における油脂量が10質量%以上の焼成済パンの表面に糖類(単糖を除く)を付着させた後、凍結させることを特徴とする焼成済冷凍パンの製造方法;前記糖類は、糖アルコール類又は二糖類であることが好ましい;前記糖類は、液状であることが好ましい;前記製造方法により得られた焼成済冷凍パン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、喫食前の再加熱時における、焼成済冷凍パン表面の焦げを低減することができる焼成済冷凍パンの製造方法、及び該製造方法により得られた焼成済冷凍パンに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、家庭用や販売店用、飲食店用として焼成済冷凍パンが汎用されている。一般的に焼成済冷凍パンは、通常のパンと同様に原料を混捏して得られた生地を発酵、成形、焼成した後、凍結することにより製造される。このような焼成済冷凍パンは、解凍するのみで簡便に喫食が可能であるという利点を有する。また、焼きたて時と同様の食感や、迅速な解凍を達成するため、焼成済冷凍パンは喫食前にオーブン等によって再加熱される場合が多い。再加熱には、オーブントースター、オーブンや、電子レンジ等のマイクロ波装置が用いられている。
【0003】
このような焼成済冷凍パンとしては、電子レンジ等のマイクロ波装置による加熱時の硬化やべたつきを低減する焼成済冷凍パンとして、吸水シートとマイクロ波を反射する金属シートとを重ねた二重の底面シートを添付してなる電子レンジ加熱処理用焼成済冷凍パンが開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−234292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
オーブントースター、オーブン等を用いてパンを解凍や再加熱した場合、パンの中心部が温まる前に表面が焦げてしまい、外観の美麗さ及び風味が損なわれるという問題があった。また、上記特許文献1に記載の発明はマイクロ波装置による加熱時の食感を改善する発明であって、オーブンやオーブントースターによる表面の焦げを考慮したものではない。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、再加熱処理による表面の焦げが低減されたパンが得られる焼成済冷凍パンの製造方法、及び該製造方法により得られた焼成済冷凍パンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、焼成後凍結前にパンの表面に糖類(単糖を除く)を付着させることにより、オーブン等による再加熱調理時の表面の焦げを低減することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、下記の特徴を有する焼成済冷凍パンの製造方法、及び焼成済冷凍パンを提供するものである。
(1)表面生地における油脂量が10質量%以上の焼成済パンの表面に糖類(単糖を除く)を付着させた後、凍結させることを特徴とする焼成済冷凍パンの製造方法。
(2)前記糖類が、糖アルコール類又は二糖類である(1)の焼成済冷凍パンの製造方法。
(3)前記糖類が、糖溶液である(1)又は(2)の焼成済冷凍パンの製造方法。
(4)(1)〜(3)のいずれかの焼成済冷凍パンの製造方法を用いて得られた焼成済冷凍パン。
【発明の効果】
【0008】
本発明の焼成済冷凍パンの製造方法によれば、再加熱による表面焦げを抑制し、外見の美麗さ及び風味を保った上で、焼成済冷凍パンを中心まで温めることができる。該焼成済冷凍パンの製造方法により得られた焼成済冷凍パンは、再加熱時の表面焦げが低減され、外見の美麗さ及び風味に優れるものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の焼成済冷凍パンの製造方法は、表面油脂量が10質量%以上の焼成済パンの表面に糖類(単糖を除く)を付着させた後、凍結させるものである。
【0010】
本発明における焼成済パンは、一般的なパンのうち、表面生地における油脂量が10質量%以上のものである。
焼成後のパンの表面の油脂量が多いことにより、付着させた液状の糖類がパンの内側に浸透しすぎる、或いは、付着させた粉状等の糖類がパンの表面の水分に溶解してパンの内側に浸透しすぎることがなく、表層の糖類濃度が低下することがないため、本発明の焦げ抑制効果を良好に得ることができる。具体的には、パンの表面生地における油脂量は、10質量%以上であって、10〜40質量%であることが好ましく、10〜30質量%であることがより好ましい。
【0011】
表面油脂量が10質量%以上の焼成済パンとして具体的には、生地中で油脂が多層構造を形成するため油脂量の多いクロワッサン、デニッシュ等のペストリー類、油脂量の多いビスケット生地を有するメロンパン、生地中に多くの油脂が練りこまれたバターロール、ブリオッシュ等が挙げられる。
【0012】
なお、上記のような焼成済パンは、主原料となる穀物粉に、油脂、水、及びイースト、食塩等の各種副原料を加え、混捏して得られる生地を、必要に応じて発酵した後に、焼成することにより製造することができる。
上記穀物粉としては特に限定されるものではなく、例えば、小麦、ライ麦、大麦、米、トウモロコシ等の粉が挙げられる。なかでも安価に入手可能であることから、小麦粉が好ましく、強力粉と薄力粉とを組み合わせて用いることが好ましい。油脂としては、バター、マーガリン、ショートニング等が挙げられる。副原料としては、デンプン類、加工デンプン類、糖類等が挙げられる。
また、本発明における焼成済パンは、穀物粉を主体とする生地のみからなるものであってもよく、果物や野菜、それらの加工品、チョコレート、クリーム、餡、惣菜等のフィリングを内包したものであってもよい。また、本発明における焼成済パンは、1種の生地のみからなるものであってもよく、2種以上の生地を用いて成形してなるものであってもよい。2種以上の生地としては、パン生地と、ビスケット生地との組み合わせ等が挙げられる。
【0013】
焼成済パンの表面に付着する糖類としては、一般的に食用に用いられる、単糖以外の糖類であれば特に限定されるものではなく、二糖類、少糖類、多糖類、糖アルコール類のいずれであってもよい。
本発明における糖類として具体的には、スクロース(ショ糖)、トレハロース、マルトース、ラクトース等の二糖類、マルトオリゴ糖、ラクトスクロース(乳化オリゴ糖)等の少糖類、マルチトール、ソルビトール、キシリトール等の糖アルコール類等が挙げられる。なお本発明における糖類は、単糖以外のものであるが、単糖の糖アルコールであってもよい。
なかでも糖類としては、焦げ低減効果に特に優れることから、二糖類又は糖アルコール類であることが好ましく、スクロース、トレハロース、マルトース、マルチトール又はソルビトールであることがより好ましく、トレハロース、マルトース、マルチトール又はソルビトールであることがさらに好ましい。
これらの糖類は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0014】
糖類の形状は特に限定されるものではなく、粉体物であってもよく、液状であってもよい。液状としては、上記のような糖類を水等に溶解して得られる糖溶液や、デンプンを糖化酵素で糖化して得られる水あめ、還元水あめが挙げられる。本発明における糖類としてはこれらを組み合わせて用いてもよい。なかでも糖類としては、焼成済パンの表面への付着が容易であることから、液状の糖類であることが好ましく、上述した二糖類又は糖アルコール類を水に溶解して得られるものであることがより好ましい。
【0015】
焼成済パンの表面に付着させる糖類の量は、焼成済パンを凍結保存した後、オーブン等を用いて再加熱した際に冷凍焼成済パンの表面の焦げが低減される量であれば特に限定されるものではなく、付着させる糖類の種類、焼成済パンの大きさ、焼成済パンの種類、焼成済パンの再加熱処理の種類や条件を考慮して決定することができるが、焼成済パンの、再加熱時に熱源に晒される面(例えば上面)の全面を覆う程度であることが好ましく、焼成済パン1個あたり粉体の糖類換算で0.1g〜3gであることが好ましい。
【0016】
また、糖類を水に溶解した溶液として付着させる際の糖溶液の濃度は、0.1質量%〜飽和濃度であることが好ましく、0.5〜75質量%であることがより好ましく、1〜70質量%であることが好ましい。上記濃度の糖溶液を、焼成済パンの上面全面を覆う程度に付着させることにより、付着させた糖類のメイラード反応による着色を引き起こすことなく、再加熱時の焦げ低減効果を良好に得ることができる。
なお、多量の糖類や濃度の濃い糖液を焼成済パン表面に付着させた場合、該パンを喫食した際に強い甘みを感じる場合があるため、製造するパンの種類に応じて適宜糖類の量および種類を決定することが好ましい。例えば、糖類の甘さを感じさせないことが好ましいクロワッサンを製造する場合、マルトースやソルビトールであれば10質量%以下の濃度の溶液を、マルチトールであれば50質量%以下の濃度の溶液を用いることが好ましい。
【0017】
焼成済パンの表面に糖類を付着させる方法は特に限定されるものではないが、糖類が粉体状である場合には、焼成済パンに少量の水分を刷毛やローラー等を用いて塗布又はスプレー等で噴霧した後、糖類を塗すことにより糖類を付着させることができる。また、糖類が液状である場合には、焼成済パンに直接糖類を刷毛やローラー等を用いて塗布又はスプレー等で噴霧することにより、付着させることができる。また、粉体状の糖類の付着の際に用いた水や、液状の糖類の含有する水分を揮発させることを目的として、付着の後に乾燥の工程を設けてもよい。乾燥は常法により行うことができる。
焼成済パンの表面への糖類の付着タイミングは、焼成後且つ凍結前であれば特に限定されるものではないが、凍結の直前に行われることが好ましい。
【0018】
上記のようにして糖類を付着させた焼成済パンを凍結する方法は特に限定されるものではなく、常法により行うことができる。例えば冷凍保存の場合、エアーブラスト式凍結法、セミエアーブラスト式凍結法、コンタクト式凍結法等の凍結法に基づくフリーザーを用いて焼成済パンを凍結した後に、−18℃以下で保存する方法や、液化窒素や液化炭酸を噴霧して焼成済パンを凍結した後に、−18℃以下で保存する方法を用いることができる。
【0019】
このようにして製造された焼成済冷凍パンは、再加熱を行った後、喫食することができる。本発明の焼成済冷凍パンは、凍結前にその表面に糖類を付着させることで、喫食前にオーブン等を用いて再加熱を行った場合にも焦げによって表面が再着色することなく、中心まで温めることが可能となる。
なお、本発明の焼成済冷凍パンは、再加熱を行わずに喫食することもできる。
【0020】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0021】
[実験例1]
常法により製造した焼成済メロンパン(表面のビスケット生地7g(焼成前)における油脂量は14.2質量%;1個22g)の表面に表1に示す糖類を付着させた後、急速凍結庫にて凍結し、−18℃で保存して焼成済冷凍メロンパンを製造した。糖類が粉体状の場合は、メロンパン1個あたり約1gの糖類を焼成済パンの上面に直接付着させた(約1g/1個)。また、糖類が液状の場合は、表1に示す濃度の糖液を、刷毛を用いてメロンパン1個当たり約1g上面に塗布した。
7日冷凍保存した後、解凍を行うことなく、740Wの家庭用オーブントースターを用いて3分30秒間再加熱調理を行った。いずれの例においても再加熱後のメロンパンは、芯温が85℃以上に温まっていた。
得られたメロンパンの外観を以下の評価基準に従って4段階で評価し、2以上を合格とした。結果を表1に示す。
4:焦げがほぼなく、外観が非常に良好。
3:僅かに焦げはあるが、外観良好。
2:多少焦げがある。
1:焦げ大。
【0022】
【表1】

【0023】
表1の結果から、表面に糖類を付着させた後に凍結を行った場合、糖類を付着させていない場合に比べて表面の焦げが低減されることが確認できた。
【0024】
[実験例2]
常法により製造した焼成済クロワッサン(表面生地における油脂量は23質量%;1個あたり5g)の表面に表2に示す糖類の30質量%溶液を、刷毛を用いて上面に塗布した(約1g/1個)。その後、急速凍結庫にて凍結し、−18℃で保存して焼成済冷凍クロワッサンを製造した。
7日冷凍保存した後、解凍を行うことなく、520Wの家庭用オーブントースターを用いて再加熱調理を行い、糖類付着なしの例において表面が焦げた時点で再加熱を止めた。いずれの例においても再加熱後のクロワッサンは、芯温が85℃以上に温まっていた。
得られたクロワッサンの外観を上記同様に評価した結果を表2に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
表2の結果から、単糖(グルコース)以外の糖類を付着させた後に凍結を行った場合、糖類を付着させていない場合、水のみを付着させた場合及び単糖を付着させた場合に比べて、表面の焦げが低減されることが確認できた。
【0027】
[実験例3]
表3に示す濃度のソルビトール溶液を用いた以外は実施例2と同様にして、焼成済冷凍クロワッサン再加熱時の外観の評価を行った。結果を表3に示す。
【0028】
【表3】

【0029】
表3の結果から、5質量%以上の濃度のソルビトール溶液の塗布を行うことで、焦げ低減効果が得られ、該効果は20質量%以上の濃度のソルビトール溶液を用いた場合に優れることが確認できた。
【0030】
[実験例4]
表4に示す種類及び濃度の糖液を用いた以外は実施例2と同様にして、焼成済冷凍クロワッサン再加熱時の外観の評価を行った。結果を表4に示す。
なお、「PO−30」(商品名、三菱商事フードテック社製)は、マルチトールを30質量%含有する溶液である。また、表4中の「原液」とは、マルトースは75質量%溶液、ソルビトール及びPO−30は70質量%溶液を示す。
【0031】
【表4】

【0032】
表4の結果から、糖液の濃度が低濃度であっても高濃度であっても、コントロール(水のみ)に比して焦げ防止効果を有することが確認できた
【0033】
[実験例5]
表5に示す濃度のソルビトール溶液を、表5に示す量で塗布した以外は実施例2と同様にして、再加熱時の外観の評価を行った。結果を表5に示す。
【0034】
【表5】

【0035】
表5の結果から、ソルビトール溶液の塗布量が少ないほど、焦げ低減効果に優れることが確認できた。
【0036】
[実験例6]
表6に示す糖液又は水を用いた以外は実施例2と同様にして、焼成済冷凍クロワッサン再加熱時の外観の評価を行った。結果を表6に示す。
【0037】
【表6】

【0038】
表6の結果から、トレハロース溶液が特に良好な焦げ低減効果を示すが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の焼成済冷凍パンの製造方法は、食品製造分野で好適に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面生地における油脂量が10質量%以上の焼成済パンの表面に糖類(単糖を除く)を付着させた後、凍結させることを特徴とする焼成済冷凍パンの製造方法。
【請求項2】
前記糖類が、糖アルコール類又は二糖類である請求項1に記載の焼成済冷凍パンの製造方法。
【請求項3】
前記糖類が、糖溶液である請求項1又は2に記載の焼成済冷凍パンの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の焼成済冷凍パンの製造方法を用いて得られた焼成済冷凍パン。