説明

焼成食品およびその製造方法

【課題】焼成加熱しても溶解せずに形態を保持し、冷却後もやわらかな食感を維持することができるチョコレート含有焼成食品の提供。
【解決手段】β−1,3−グルカンを含有するチョコレート組成物を含有する生地を焼成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョコレート組成物、該組成物を含有する焼成食品およびこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、チョコレートは様々な食品に使用されている。チョコレート製品は、室温より高い温度では熱変性により、原形、風味、食感等がしばしば損なわれるため、食感および保型性を改善する手法が従前検討されている。
【0003】
例えば、特開2002−306077号公報(特許文献1)では、油中水型含水チョコレートにゼラチン水溶液を含有させ、該油中水型含水チョコレートの比重を、水分活性を一定の範囲に調整することを特徴とする、油中水型含水チョコレートの製造方法が報告されている。
【0004】
また、特開2003−9770号公報(特許文献2)では、微結晶セルロースと親水性高分子からなるセルロース複合体を含有する、含水チョコレート組成物が報告されている。
【0005】
また、特開2009−125064号公報(特許文献3)では、セロオリゴ糖をカカオ成分に配合してなるチョコレートが報告されている。
【0006】
また、特開2000−262217号公報(特許文献4)では、澱粉性原料0.5〜5重量%及び水分10〜30重量%を含有する水中油型含水チョコレートが報告されている。
【0007】
しかしながら、チョコレートを室温よりかなり高い温度、例えばオーブンなどで焼成処理する場合、上記方法によっても、沸騰して流出する、形態が損なわれるなどの恐れがある。これに対して、チョコレートの濃度を高めるなどの対処が可能であるが、食感が硬いものとなってしまう。
そのため、焼成菓子にチョコレートを使用する場合、菓子の焼成後に、チョコレートを充填する、または塗布する等の手間が必要である。
したがって、焼成食品の生地に含有させたまま焼成処理に供することができる、すなわち焼成食品の生地焼成後も良好な形状と食感を保持することのできるチョコレート組成物が依然として求められているといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−306077号公報
【特許文献2】特開2003−9770号公報
【特許文献3】特開2009−125064号公報
【特許文献4】特開2000−262217号公報
【発明の概要】
【0009】
本発明は、焼成後も良好な食感と形状を保持し得るチョコレート組成物、該組成物を含有する焼成食品、またはこれらの製造方法を提供することをその目的とする。
【0010】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)β−1,3−グルカンを含有することを特徴とするチョコレート組成物。
(2)β−1,3−グルカンの含有量が1.5〜5重量%である、(1)記載のチョコレート組成物。
(3)チョコレートの含有量が10重量%以上である、(1)または(2)のチョコレート組成物。
(4)β−1,3−グルカンと、チョコレートとの重量比が、1:5〜1:40である、(1)〜(3)のいずれか一項に記載のチョコレート組成物。
(5)(1)〜(4)のいずれか一項に記載のチョコレート組成物を含有する生地を焼成して得られる焼成食品。
(6)前記焼成温度が、100〜300℃である、(5)に記載の焼成食品。
【0011】
本発明によれば、本発明は、焼成後も良好な食感と形状を保持し得るチョコレート組成物、該組成物を含有する焼成食品、またはこれらの製造方法を提供することができる。
【発明の具体的説明】
【0012】
本発明におけるチョコレート組成物は、チョコレートおよびβ−1,3−グルカンを含有する組成物であれば、焼成後の食感および形状の保持に悪影響を及ぼさない限り、他の成分を含有してもよい。
【0013】
本発明に用いられるβ−1,3−グルカンは、D−グルコースを構成糖とし、β−1,3−グルコシド結合してなり、加熱凝固性を有する多糖類である。β−1,3−グルカンの起源は、微生物、動物あるいは植物等、特に限定されない。β−1,3−グルカンとしては、例えば、カードラン、パラミロンまたはパキマンが挙げられるが、好ましくはカードランである。
【0014】
また、本発明に用いられるチョコレートは、日本国規約「チョコレート類の表示に関する公正競争規約」で規定される各種チョコレートまたはその生地をいい、純チョコレート、チョコレート、準チョコレート、純ミルクチョコレート、ミルクチョコレート、準ミルクチョコレートを包含する。
【0015】
チョコレートは、市販品であってもよく、常法に従い製造したものであってもよい。チョコレートは、例えば、カカオマス、油脂類、糖類、乳化剤の原料を任意の割合で混合し、コンチング等の処理を行うことにより得ることができる。テンパリング型、非テンパリング型のいずれでも構わない。
【0016】
チョコレートの製造に使用される油脂類としては、ココアバターやパーム油、サル脂、シア脂、イリッペ脂、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ひまわり油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、魚油、鯨油等の各種植物・動物油脂並びにこれらの水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂から選ばれた1種又は2種以上をあげることができる。
【0017】
チョコレートの製造に使用される糖類としては、砂糖、麦芽糖、ブドウ糖、果糖、乳糖等が挙げられる。
【0018】
チョコレートの製造に使用される乳化剤は、特に限定されないが、必要に応じて粘度上昇を抑制する目的でレシチン、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル等を用いることができる。
【0019】
チョコレート中の各成分の量は、当業者が適宜設定してよいが、好ましい具体例としては、カカオマス7重量%以上、ココアバター3重量%以上、水分3重量%以下、であり、より好ましくは、カカオマス15重量%以上、ココアバター3重量%以上、水分3重量%以下、であり、さらに好ましくは、カカオマス21重量%以上、ココアバター18重量%以上、水分3重量%以下、であり、特に好ましくは、カカオマス35重量%、ココアバター18重量%以上、水分 3重量%以下、である。
【0020】
また、チョコレートは、いわゆる無水のチョコレート類の他に水分を含んだO/W型含水チョコレートやW/O型含水チョコレートであってもよい。
【0021】
本発明におけるチョコレート組成物において、チョコレートおよびβ−1,3−グルカン以外に含まれてよい成分としては、油成分、呈味成分、炭水化物をはじめとする各種食品添加物があげられる。
【0022】
油成分としては、例えば、上記にもあげてあるココアバターやパーム油、サル脂、シア脂、イリッペ脂、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ひまわり油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、魚油、鯨油等の各種植物・動物油脂並びにこれらの水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂などがあげられ、サラダ油、マーガリン、ショートニング、バター、香味オイルなどがあげられる。
【0023】
呈味成分としては、例えば、各種リキュールなどの酒類、香料、風味料、油成分でもある香味オイル、等が挙げられる。
【0024】
炭水化物としては、例えば、加工デンプン、デキストリン、デキストラン、上記糖類、液糖、小麦・米・とうもろこし・そば・あわなどの穀物・雑穀類やその加工品等が挙げられる。
【0025】
他にも色素、気泡剤、pH調整剤、増粘剤、甘味料、食塩、アミノ酸、酵母・酵母エキス、果実・野菜等とその加工品等が挙げられる。
【0026】
チョコレート組成物中のβ−1,3−グルカンの含有量は、特に限定されないが、好ましくは1.5〜5.0重量%であり、より好ましくは2.0〜5.0重量%であり、さらに好ましくは2.5〜4.0重量%である。
【0027】
また、チョコレート組成物中のチョコレートの含有量は、特に限定されないが、好ましくは10重量%以上であり、より好ましくは20〜80重量%であり、さらに好ましくは、30〜70重量%であり、よりさらに好ましくは50〜70重量%であり、特に好ましくは50〜60重量%である。
【0028】
また、チョコレート組成物中の、β−1,3−グルカンと、チョコレートとの重量比は、好ましくは1:5〜1:40であり、より好ましくは1:6〜1:35であり、さらに好ましくは1:15〜1:25である。
【0029】
本発明におけるチョコレート組成物は、β−1,3−グルカン、加熱溶解したチョコレート、および、所望の各種添加物を50〜65℃で適宜混合、撹拌し、必要に応じて型枠や袋状の容器等に入れ、約90℃で20分以上程度加熱して製造することができる。ここで、各種成分の混合の順番は特に限定されず、例えば、β−1,3−グルカンおよび各種添加物を含有する懸濁液を、チョコレートに添加してよく、チョコレートを懸濁液に添加してもよい。
【0030】
チョコレート組成物の成型は、上記の型自体で成型してもよく、ワイヤーカット成型、モールド成型、棒状成型、デポジット成型、シート成型等のいずれでもよく、また、機械成型であっても手成型であってもよい。
【0031】
本発明における焼成食品としては、例えば、パン、クッキー、まんじゅう、ドーナッツ、パイ、ピザ、スポンジケーキ等の、穀物生地を焼成して製造される食品があげられる。
【0032】
穀物生地としては、例えば、小麦粉生地、ライ麦生地、大麦生地、オーツ麦生地等の穀物生地があげられる。
【0033】
本発明の焼成食品は、穀物生地にチョコレート組成物を加える、または生地を成型した後に、チョコレート組成物を加えるなどして、生地にチョコレート組成物を含有させる以外は、通常の焼成食品の製造方法に準じて製造することができる。
【0034】
本発明で用いるチョコレート組成物は、焼成食品の生地に加えてもよいし、焼成後に加えてもよい。
【0035】
本発明のチョコレート組成物を用いる際、破砕や粉砕して用いることもできるが、本発明のチョコレート組成物は焼成後も形状を保持することができるという特徴を有するため、破砕、粉砕等を行わずに用いることが好ましい。
【0036】
穀物生地の焼成温度は、各焼成食品の通常の焼成温度に準じて設定すればよく、例えば、100〜300℃程度の焼成温度が汎用されるが、好ましくは、120〜250℃であり、より好ましくは150〜200℃である。また、焼成時間は、好ましくは10分間以上であり、より好ましくは15〜120分間であり、さらに好ましくは15〜60分間である。
【0037】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの例示に限定されない。
【実施例】
【0038】
実施例1
表1に記載の配合比(重量%)で各成分を室温(20℃)で混合・撹拌し、β−1,3−グルカン(カードラン、キリン協和フーズ社製)の懸濁液を調製した。
【表1】

【0039】
次に、β−1,3−グルカン懸濁液に湯煎で溶かしたチョコレート(カカオ分73%、砂糖26.5%、ココアパウダー4.5%、レシチン、および天然バニラを含有する)を表2に記載の配合比(重量%)で添加し、55〜60℃で15分間、撹拌してチョコレート組成物を得た。
【表2】

【0040】
次に、チョコレート組成物を包材に分注し、包材ごと90℃で20分間加熱した後、20℃以下まで冷却して成型した。成型したチョコレート組成物を包材から取り出し、約1〜2センチメートル角の棒状に裁断した。裁断したチョコレート組成物3本と、別途常法に準じて調製した同様の大きさの棒状のクッキー生地3本とを交互に合わせ、輪切りに裁断したときに市松模様状になるミックスクッキーの生地を作成した。
それぞれのミックスクッキー生地を輪切りにして、アルミホイルを敷いた耐熱プレートに載せ、余熱した180℃のオーブンで10〜15分間焼成し、ミックスクッキーを得た。
【0041】
得られたミックスクッキーについて、訓練されたパネラー5名により、以下の基準に従って形体観察と官能検査を行った。
【0042】
焼成後の保型:
◎:形が保たれており、生地からの分離も見られない。
○:形はある程度保たれているが、生地からの分離がわずかに見られる。
×:形が保たれていない。
【0043】
焼成後の食感:
◎:良好な食感である。生チョコレートのような食感・口どけ。
○:ほぼ良好な食感であるが、わずかに硬い。
△:もちもちしていて、チョコレートというよりもグミ的な食感。
×:形が保たれず、食感の評価ができない
【0044】
結果を、表3に示す。
【表3】

【0045】
表3に示すとおり、カードランを含有するチョコレート組成物はミックスクッキー生地を焼成した後も良好な食感および形状を保持していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
β−1,3−グルカンを含有することを特徴とする、チョコレート組成物。
【請求項2】
β−1,3−グルカンの含有量が1.5〜5重量%である、請求項1記載のチョコレート組成物。
【請求項3】
チョコレートの含有量が10重量%以上である、請求項1または2記載のチョコレート組成物。
【請求項4】
β−1,3−グルカンと、チョコレートとの重量比が、1:5〜1:40である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のチョコレート組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のチョコレート組成物を含有する生地を焼成して得られる焼成食品。
【請求項6】
前記焼成温度が、100〜300℃である、請求項5に記載の焼成食品。