説明

焼成食品用艶出し剤および焼成食品の製造方法

【課題】パン等の食品生地表面に鶏卵液を塗布した後、焼成して卵蛋白被膜を形成し、食品表面に艶を付与することが行われているが、天然食品である鶏卵の品質むらにより、安定して均一な艶を付与し難いという問題があった。鶏卵液を塗布した場合と同様の光沢、色調を有し、しかも鶏卵液による被膜よりもソフトで色むらのない均一な被膜を形成することができるとともに、長期間使用しても蛋白凝固による粘度上昇が抑制され、焼成食品に長期間均一な艶を付与することができる焼成食品用艶出し剤を提供する。
【解決手段】油脂が水中に乳化分散された水中油型乳化物中に、蛋白質、アミノ酸、還元糖を含有する焼成食品用艶出し剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン類、焼き菓子類等の焼成食品の表面に艶を付与するための焼成食品用艶出し剤および焼成食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、パン生地等の食品表面に鶏卵液を塗布した後、焼成することにより卵蛋白の被膜を形成させることで、パン等の表面に艶を付与することが行われていた。しかしながら天然食品である鶏卵には衛生上の問題とともに、品質ムラがあるため安定して均一な艶を付与し難く、また形成される被膜が硬いため食感が低下し易いという問題があり、鶏卵に代わる艶出し剤が求められていた。このような要求に対し、カゼイン含有蛋白、融点20℃以下の油脂及び糖類を含む水中油型乳化物からなる艶出し剤(特許文献1)、分離大豆蛋白質、液状油脂、水が特定の割合でO/W型に乳化されている焼成食品用艶出し剤(特許文献2)、液状油脂、乳清蛋白質、寒天を含み、O/W型に乳化されている焼成食品用艶出し剤(特許文献3)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−136258号公報
【特許文献2】特開平10−108616号公報
【特許文献3】特開2008−148599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記従来の艶出し剤は、焼成食品の表面に光沢を付与することはできるが、鶏卵液を塗布して焼成した時のような焼き色を同時に付与することはできなかった。また、パン等の発酵製品の表面は酸性となっているため、蛋白質を含有する艶出し剤では、塗布を繰り返すうちに、艶出し剤に酸が混入し、蛋白質が凝集して粘度が高くなって均一な塗布が困難となり、均一で良好な焼き色を付与することができないという問題があった。本発明は、これら従来の艶出し剤の有する問題を解決した焼成食品用艶出し剤および焼成食品の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち本発明は、
(1)油脂が水中に乳化分散された水中油型乳化物中に、蛋白質、アミノ酸、還元糖を含有することを特徴とする焼成食品用艶出し剤、
(2)アミノ酸0.25〜0.75重量%、還元糖0.25〜0.75重量%含有し、且つアミノ酸と還元糖の重量比率が1:0.5〜6である上記(1)の焼成食品用艶出し剤、
(3)還元糖がブドウ糖であり、アミノ酸がグリシンである上記(1)又は(2)の焼成食品用艶出し剤、
(4)油脂が水中に乳化分散された水中油型乳化物中に、蛋白質、アミノ酸、還元糖とともに、更にアルカリ物質を含有することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかの焼成食品用艶出し剤、
(5)上記(1)〜(4)のいずれかの焼成食品用艶出し剤を、焼成食品用生地に、生地100重量部当たり、0.4〜0.9重量部を塗布して生地を焼成することを特徴とする焼成食品の製造方法、
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の焼成食品用艶出し剤は、ロールパン等のパン製品に対して、パン製造のホイロ後に生地表面に塗布し、焼成することにより、鶏卵使用の膜よりもソフトでかつ色むらがなく均一に、また、光沢および色調は鶏卵と同様な被膜が形成される。また、長期間使用しても蛋白凝固による艶出し剤の粘度上昇が抑制されるため、均一な光沢を長期間付与することができ、均一で光沢、色調に優れた焼成食品を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の艶出し剤において用いられる油脂としては、融点が20℃以下で、室温において液状の油脂が好ましい。このような液状油脂としては例えば、大豆油、ナタネ油、綿実油、コーン油、サフラワー油、パーム油、ヤシ油、ひまわり油、ピーナッツ油、オリーブ油、米糠油等の液状植物性油脂、或いは上記液状植物性油脂の硬化油からの液状分別油、牛脂、豚油、魚油等の動物性油脂やその硬化油からの液状分別油、或いは上記液状植物性油脂や液状分別油の1種又は2種以上をエステル交換した液状エステル交換油等が挙げられる。さらにこれらの液状油脂をウインタリングし、固形脂やロウ分を除去した油脂の1種又は2種以上の混合物が好ましい。−15℃〜0℃でウインタリングを行って高融点成分を析出、分別することにより、更に艶の良い被膜が形成されやすくなり、油脂原料として大豆油、ナタネ油、パーム油を用いると艶を与える食品の風味を損なうことがない。艶出し剤中の油脂の割合は、5〜20重量%、より好ましくは5〜15重量%となるように油脂を添加すると、食感がソフトで、保存安定性が向上するので好ましい。
【0008】
蛋白質としては、大豆由来の分離大豆蛋白、濃縮大豆蛋白や乳由来の脱脂粉乳や全脂粉乳、ホエーパウダ、カゼイン等の乳蛋白等が挙げられるが、その中でも乳化性の高い分離大豆蛋白が好ましい。艶出し剤中の蛋白質の含有割合は、2〜12重量%が好ましい。
【0009】
アミノ酸としては、グリシン、アラニン、セリン、アスパラギン酸、グルタミン酸等が挙げられるが、グリシン単独あるいはグリシンと他のアミノ酸との組み合わせが好ましい。また還元糖としては、ブドウ糖、麦芽糖、フラクトース、キシロース、蔗糖等が挙げられるが、ブドウ糖単独あるいはブドウ糖と他の還元糖との組み合わせが好ましい。特にアミノ酸としてグリシン、還元糖としてブドウ糖を組みあわせて用いると、少量でも卵液を塗布した場合と同等の色調を焼成食品に付与できるとともに、艶出し剤の保管時の変色も少ないため好ましい。
【0010】
本発明の艶出し剤において、アミノ酸の配合量が多いと着色度が強すぎ、少ないと着色度が弱くなる。また還元糖の配合量が多い場合にも着色度が強すぎたり、焼成後の製品の表面がべた付き易くなる虞があり、少ないと着色度が弱くなる虞がある。本発明の焼成食品用艶出し剤は、アミノ酸を0.25〜0.75重量%、還元糖を0.25〜0.75重量%含有し、かつアミノ酸と還元糖の重量比が、アミノ酸:還元糖=1:0.5〜6であることが、卵を塗布した場合により近い色調を付与できるとともに焼成後の製品表面のべたつきが少ないため好ましい。
【0011】
本発明の艶出し剤は、油脂が水中に乳化分散された水中油型乳化物中に、蛋白質、アミノ酸、還元糖とともに、更にアルカリ物質を含有していても良い。アルカリ物質としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸2水素ナトリウム等が挙げられるが、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムが好ましい。パン生地の発酵によりパン生地表面に酸性物質が生成するが、艶出し剤中に更にアルカリ物質が配合されていると、刷毛等により艶出し剤の塗布を繰り返し行い、パン生地表面の酸性物質が艶出し剤中に混入した場合でも、酸によって艶出し剤中の蛋白質が凝集する虞がなく、艶出し剤の粘度を長期間、製造直後と同等の粘度に保持することができる。このため繰り返し使用しても均一な塗布性、優れた被膜形成性能を有する。アルカリ物質の配合割合は、艶出し剤100重量部当たりに対して0.1〜1.0重量部が好ましく、特に0.3〜0.6重量部が好ましい。艶出し剤の粘度は、刷毛等で均一に塗布することができるとともに、塗布した艶出し剤の液だれや液たまりが生じにくい、鶏卵と同程度の40mPa・s以上、80mPa・s未満が好ましい。艶出し剤の粘度が40mPa・s未満の場合、更にアルカリ物質を配合すると粘度を上昇させて40mPa・s以上、80mPa・s未満に調整することができ、艶出し剤中の油脂量が少ない場合でも、最適な粘度に調整が可能であり、パン表面の被膜がよりソフトなパンを得ることが出来る。
【0012】
本発明の焼成食品艶出し剤は、蛋白質、アミノ酸、還元糖を加えた水相に、油相を添加、攪拌して水中油型に乳化して得ることができる。アルカリ物質は通常、乳化後に添加することが好ましい。得られた乳化物は殺菌処理が施されて製品化される。
【0013】
本発明の焼成食品用艶出し剤は、焼成食品用の生地に、生地重量100重量部に対して0.4〜0.9重量%を塗布して焼成することにより、表面に艶のある焼き色を付与した焼成食品を得ることができる。またアルカリ物質を含有する場合には、生地重量の0.2〜0.5重量%を塗布して焼成することで表面に艶のある焼き色を付与した焼成食品を得ることができ、生地に対して少ない使用量で効果的に艶のある焼き色を付与することができる。
【実施例】
【0014】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
実施例1〜11、比較例1〜4
表1に示す配合により、水に蛋白質、還元糖、アミノ酸を添加してホモミキサーで攪拌混合した後、75℃まで昇温して10分間攪拌して水相とした。この水相に表1に示す量の油脂を添加して5分間攪拌乳化し、表1に示す量の炭酸ナトリウムを添加し(実施例1、比較例4は炭酸ナトリウムを添加せず)、更に5分間攪拌した後、高圧ホモミキサーにかけて調製したものを艶出し剤とした。尚、比較例1〜3は、還元糖、アミノ酸の一方又は両方を添加せずに水相とした他は、実施例と同様の工程を経て調製したものを艶出し剤とした。また比較例4は水相に油脂を添加して乳化しなかった他は、実施例と同様の工程を経て調製したものを艶出し剤とした。各艶出し剤の粘度、安定性(乳化物である実施例1〜11、比較例1〜3のみ)、耐酸性を表1にあわせて示す。
【0015】
【表1】

【0016】
※1 日清オイリオ製 大豆分離蛋白
※2 フォンテラジャパン製 カゼイン
※3 ナタネ油
※4 粘度はB型粘度計により、No.1のローターを使用し、スピード20で30秒後に測定した。
○:40mPa・s以上、80mPa・s未満
△:30mPa・s以上、40mPa・s未満又は80mPa・s以上、120mPa・s未満
×:30mPa・s未満又は120mPa・s以上
※5 安定性は乳化物を60℃で1時間保管した後の乳化状態を目視判定した。
○:全く分離なし。
△:若干の分離が認められる。
×:明らかな分離が認められる。
※6 耐酸性は、艶出し剤150gを攪拌しながら、4%クエン酸溶液を10秒間隔で1mlづつ添加していき、凝集物の発生するまでに添加したクエン酸溶液量を測定し、下記基準で評価した。
◎:クエン酸添加量25ml以上
○:クエン酸添加量15ml以上、24ml以下
△:クエン酸添加量5ml以上、14ml以下
×:クエン酸添加量4ml以下
【0017】
各艶出し剤を用いてドックパンを焼成し、艶出し剤によりドックパンに形成された被膜の性状を評価した。ドックパンは下記配合の生地を用いて調製し、ホイロ後に艶出し剤0.4gを塗布し、200℃で8分焼成した時の艶出し剤の被膜の性状を評価した。結果を表2に示す。
【0018】
ドックパン生地配合(重量部)
強力粉 90
薄力粉 10
砂糖 20
食塩 0.8
脱脂粉乳 3
全卵 12
油脂 8
イースト 3.5
イーストフード 0.1
水 50
【0019】
【表2】

【0020】
※7 被膜の艶は、全卵0.4gを塗布して焼成したドックパンの艶と比較し、
○:全卵の場合と同様の艶があり、艶が均一である。
△:全卵の場合よりも若干艶が劣り、艶の均一性も劣る。
×:全卵の場合よりも明らかに艶が劣り、不均一である。
※8 着色度合いは、全卵0.4gを塗布して焼成したドックパンの艶と比較し、
◎:全卵の場合と同様の焼き色がある。
○:全卵の場合よりも若干焼き色が濃いか、薄い。
△:全卵の場合よりも明らかに焼き色が濃いか、薄い。
×:着色していない。
※9 被膜の硬さはクリープメーターにより、40%圧縮、速度1mm/秒、プランジャー、直径5mm棒の条件で、焼成したドックパンの被膜の表面を3カ所測定し、その平均値を全卵の場合と比較して評価した。
○:全卵の場合の破断荷重値よりも低く、その差が30gf以上である。
△:破断荷重が全卵の場合の値よりも低いが、その差が30gf未満である。
×:破断荷重が全卵の場合の値よりも高い。
※10 被膜表面に触れたときのべたつきの状態を、全卵の場合を基準として以下のように評価した。
○:全卵の場合と同様にべたつきがない。
△:全卵の場合よりも若干べたつきがある。
×:全卵の場合よりも明らかにべたつきがある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂が水中に乳化分散された水中油型乳化物中に、蛋白質、アミノ酸、還元糖を含有することを特徴とする焼成食品用艶出し剤。
【請求項2】
アミノ酸0.25〜0.75重量%、還元糖0.25〜0.75重量%含有し、且つアミノ酸と還元糖の重量比率が1:0.5〜6である請求項1記載の焼成食品用艶出し剤。
【請求項3】
還元糖がブドウ糖であり、アミノ酸がグリシンである請求項1又は2記載の焼成食品用艶出し剤。
【請求項4】
油脂が水中に乳化分散された水中油型乳化物中に、蛋白質、アミノ酸、還元糖とともに、更にアルカリ物質を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の焼成食品用艶出し剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の焼成食品用艶出し剤を、焼成食品用生地に、生地100重量部当たり、0.4〜0.9重量部を塗布して生地を焼成することを特徴とする焼成食品の製造方法。

【公開番号】特開2012−235722(P2012−235722A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105802(P2011−105802)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000114318)ミヨシ油脂株式会社 (120)
【Fターム(参考)】