説明

焼成食品用艶出し剤

【課題】 従来、焼成食品の艶出し剤として鶏卵が用いられていたが、鶏卵により形成される皮膜は硬いとともに、鶏卵は品質にムラがあり安定して均一な艶を付与し得なかった。また鶏卵に代わる艶だし剤も種々提案されているが、鶏卵同様に形成される皮膜が硬かったり、食品添加物を使用するため近年の消費者の健康志向にそぐわない等の問題があった。本発明は泡立ちが少なく水に均一に分散させることが容易であり、艶が良好で均一な皮膜を形成することができる焼成食品用艶出し剤を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明の水中油型乳化物は、液状油脂、乳清蛋白、寒天を含み、水中油型に乳化されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン類、焼き菓子類等の焼成食品の表面に艶を付与するための焼成食品用艶出し剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、パン生地等の食品表面に鶏卵液を塗布した後、焼成することにより卵蛋白の被膜を形成させることで、パン等の表面に艶を付与することが行われていた。しかしながら天然食品である鶏卵には品質ムラがあるため、安定して均一な艶を付与し難いとともに、形成される被膜が硬いため食感が低下し易いという問題があり、鶏卵に代わる艶出し剤が求められていた。このような要求に対し、乳蛋白とカラギーナンを有効成分とする艶出し剤(特許文献1)、蛋白含有量が85重量%以上の乳清蛋白濃縮物と消泡作用のある乳化剤とを含む艶出し剤(特許文献2)、カゼイン含有蛋白、融点20℃以下の油脂及び糖類を含む水中油型乳化物からなる艶出し剤(特許文献3)等が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開平8−173089号公報
【特許文献2】特開2001−309745号公報
【特許文献3】特開2002−136258号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特許文献1に記載されている艶出し剤は、固形であり、溶液で使用する場合には、溶液で溶解希釈するという工程が増える、さらに乳蛋白の種類によって溶解性が悪く、適性な粘度の均一な溶液を得ようとすると溶解方法も工夫する必要があり、コスト高、あるいは手間がかかるといった問題がある。しかも鶏卵同様に形成される被膜が硬く焼成食品の食感が低下する虞があった。一方、特許文献2記載の艶出し剤は、乳清蛋白濃縮物を使用しているために消泡作用のある界面活性剤の併用が必須であり、また特許文献3に記載の艶出し剤では、カゼイン蛋白による安定な被膜を形成させるためには溶融塩の併用が必要であるが、近年、消費者の健康志向、天然志向の高まりにより乳化剤や溶融塩等の食品添加物を使用しない艶出し剤が望まれていた。本発明はこれら従来の艶出し剤の有する問題を解決した艶出し剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち本発明は、
(1)液状油脂、乳清蛋白、寒天を含み、水中油型に乳化されていることを特徴とする焼成食品用艶出し剤、
(2)寒天がゼリー強度10〜50g/cmのものである上記(1)の焼成食品用艶出し剤、
(3)25℃における粘度が20〜150mPa・sである上記(1)又は(2)の焼成食品用艶出し剤、
(4)乳清蛋白がゲル強度8.0〜18.0N/cm(15% 水ゲル)である上記(1)〜(3)のいずれかの焼成食品用艶出し剤、
を要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の艶出し剤は、乳清蛋白を使用しており、水に均一に分散させることが容易であり、艶出し剤として艶が、良好で且つ均一でソフトな皮膜形成が実現される。また、カゼイン蛋白のように可容化するための食品添加物である溶融塩(リン酸塩等)も必要ない。本発明の艶出し剤は、乳清蛋白を含んでいるにもかかわらず、寒天を併用したことにより、製造の際の攪拌時の泡立ちを抑制することができ、消泡性の乳化剤を使用する必要がなく、最近の添加物不使用で健康志向に合致したものである。さらに温度に対する液粘度の変化を抑制することが出来るため、均一な膜形成が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の艶出し剤における液状油脂としては、融点が20℃以下で、室温において液状の油脂が用いられる。このような液状油脂としては例えば、大豆油、ナタネ油、綿実油、コーン油、サフラワー油、パーム油、ヤシ油、ひまわり油、ピーナッツ油、オリーブ油、米糠油等の液状植物性油脂、或いは上記液状植物性油脂の硬化油からの液状分別油、牛脂、豚油、魚油等の動物性油脂やその硬化油からの液状分別油、或いは上記液状植物性油脂や液状分別油の1種又は2種以上をエステル交換した液状エステル交換油等が挙げられる。さらにこれらの液状油脂をウインタリングし、固形脂やロウ分を除去した油脂の1種又は2種以上の混合物が好ましい。−15℃〜0℃でウインタリングを行って高融点成分を析出、分別することにより、更に艶の良い被膜が形成されやすくなり、油脂原料として大豆油、ナタネ油、パーム油を用いると艶を与える食品の風味を損なうことがない。
【0008】
本発明において用いる乳清蛋白は、牛乳からカゼイン態、乳脂肪、脂溶性ビタミンなどを除いた水溶液であり、乳清蛋白濃縮物(WPC)、乳清分離蛋白(WPI)等を用いることができる。乳清蛋白は、その製造法としてイオン交換、限外濾過、濃縮によって得られるが、それらの条件、蛋白の変性度合いによってゲル強度が異なるものが得られる。本願の乳清蛋白としてはゲル強度が8.0〜18.0N/cm(15% 水ゲル)のものが好ましく、より好ましくは11.0〜15.0N/cm(15% 水ゲル)であり、ゲル強度が11.0〜15.0N/cm(15% 水ゲル)のものを用いると、艶が更に向上するため好ましい。ゲル強度は、乳清蛋白15重量%を含む蛋白水溶液をケーシング充填の後に、80℃で40分間加熱し、その後、10℃まで冷却し、3cm幅にカットしてカードメーターで測定し、この時の値をゲル強度とする。
【0009】
本発明において用いる寒天としては、寒天を酸処理することで分子を一部切断した低ゼリー強度のものが好ましく、ゼリー強度10〜50g/cm、特に20〜40g/cmのものが好ましい。低ゼリー強度の寒天は、通常の寒天よりも柔らかい特殊な寒天であり、例えば伊那食品工業株式会社製のUX−30(商品名)等が挙げられる。上記ゼリー強度は、日寒式測定法に基づき、寒天1.5重量%水溶液を20℃で15時間放置して凝固したゲルの硬さを測定し、寒天ゲル表面1cm当たり20秒間耐えうる最大荷重(g)とした。ゼリー強度が10g/cm未満の寒天を用いた場合には、温度による艶出し剤の粘度変化(冷蔵温度帯から常温温度帯の温度変化に伴う粘度変化)が大きく、特に常温温度帯で適正に塗布して付着するだけの粘性が確保できなくなる。ゼリー強度が50g/cmを超える寒天を用いると、艶出し剤の粘度が高くなって流動性が阻害される結果、均一な塗布が行い難くなる。
【0010】
本発明の艶出し剤は、水相と油相とを水中油型に乳化して得られるが、水相としては水に乳清蛋白及び寒天を溶解させたものが用いられる。水相は、乳清蛋白5.0〜14.0重量%、寒天0.01〜0.2重量%の割合で含有するように調製することが好ましく、特に乳清蛋白6.0〜13.0重量%、寒天0.05〜0.15重量%の割合で含有するように調製することが好ましい。水相中の乳蛋白の割合が5.0重量%未満の場合には充分な被膜が形成され難く、艶も劣る虞があり、乳清蛋白の割合が14.0重量%を超えると被膜が硬くなって食感を低下させる虞がある。また寒天の割合が0.01重量%未満であると粘性が低く、付着性が不良となるためパン等に使用した場合、流れ落ちてしまう虞があり、0.2重量%を超えると粘性が高く、均一に塗布できないため艶にムラが出来てしまう虞がある。
【0011】
上記水相及び油相を65〜75℃に保持し、水相に油相を添加してプロペラミキサー、ホモミキサー等により予備乳化した後、高圧ホモゲナイザーによって微細な水中油型乳化物とし、その後、通常、殺菌、冷却工程を経て本発明の艶出し剤が得られる。水相と油相の割合は、水相85〜70重量%に対し、油相15〜30重量%が好ましく、特に水相80〜75重量%に対し、油相20〜25重量%が好ましい。油相の割合が15重量%未満では充分な艶が得られないとともに被膜が硬くなる虞があり、30重量%を超えると被膜形成が阻害される虞がある。
【0012】
本発明の艶出し剤は、25℃における粘度が20〜150mPa・sであることが好ましく、40〜100mPa・sがより好ましい。艶出し剤は通常、常温で塗布して使用されるが、粘度が20mPa・s未満のものは塗布した表面から流れ易く、塗布部とそうでない部分の境目に液溜まりが発生し、パン表面の水分が不均一になるため焼成後、境目部分のクラストに窪みができ、商品価値が低下する虞がある。一方、粘度が150mPa・sを超えると、均一に塗布することが困難となるとともに焼成食品の表面に班や皺が生じて商品価値の低下をきたす虞がある。本発明の艶出し剤は、乳化サイズ、油脂量、蛋白、寒天の量を増減することによって塗布するのに適性な粘度に調整することができる。
【実施例】
【0013】
実施例1〜4、比較例1〜4
表1に示す組成の水相と油相とを65℃に保持し、水相に油相を添加してホモミキサーで予備乳化した後、高圧ホモゲナイザーによって150kg/cmで乳化した。次いで145℃±5℃で4秒間DSI殺菌した後、予冷設定温度50±5℃、本冷設定温度5±2℃のプレート冷却機で80℃/分の速度で10℃まで冷却して水中油型に乳化し、艶出し剤を得た。得られた艶出し剤の粘度を表1に示す。粘度測定には、東京計器社製B型粘度計、ロータNo.1を用いて測定した。各艶出し剤を、ホイロ後のロールパン生地表面に、刷毛により0.3g/個の割合で塗布し、200℃のオーブンで10分間焼成し、次いで室温で30分放冷した。艶出し剤製造の際の泡立ち性、パン表面の艶、皮膜の均一性、皮膜の食感について各々評価し、その結果より総合評価した。艶および食感については全卵と比較して評価した。結果を表2に示す。
【0014】
【表1】

【0015】
※1乳清蛋白1:三栄源エフエフアイ株式会社製:ミルプロLG ゲル強度3.4N/cm、蛋白含量76.4重量%
※2乳清蛋白2:三栄源エフエフアイ株式会社製:ミルプロ142 ゲル強度12.7N/cm、蛋白含量77.6重量%
※3乳清蛋白3:三栄源エフエフアイ株式会社製:ミルプロH ゲル強度14.4N/cm、蛋白含量80.3重量%
※4寒天1:伊那食品工業株式会社製:ウルトラ寒天AX−100 ゲル強度100g/cm
※5寒天2:伊那食品工業株式会社製:ウルトラ寒天UX−30 ゲル強度30g/cm
【0016】
【表2】

【0017】
※6パンの艶の評価
◎:全卵よりも明らかに艶がある。
○:全卵とほぼ同等の艶がある。
△:全卵よりも若干艶が劣る。
×:全卵よりも明らかに艶が劣る。
※7皮膜の均一性の評価
◎:塗布時に液だれ、液溜まりを起こさず塗りムラがない。
○:塗布時に液だれ、液溜まりを起こさず、ほとんど塗りムラがない。
△:塗布時に液だれ若しくは液溜まりがあり、塗りムラがある。
×:塗布時に液だれ及び液溜まりがあり、明らかに塗りムラがある。
※8皮膜の食感の評価
◎:全卵よりも明らかにソフトな食感である。
○:全卵とほぼ同等の硬さの食感である。
△:全卵よりも若干硬い食感である。
×:全卵よりも明らかに硬い食感である。
※9艶出し剤製造の際の泡立ち性の評価
○:泡立ちが認められるも、10分未満静置すれば殆ど泡が消える。
△:泡立ちが認められるも、10分以上、30分以内静置すれば殆ど泡が消える。
×:泡立ちが認められ、30分以上静置しても殆ど泡が消えない。
※10総合評価
◎:各項目の評価が◎又は○で、◎が2つ以上のもの。
○:各項目の評価が◎又は○で、◎が0〜1つのもの。
△:各項目の評価に×がなく、△が1つ以上のもの。
×:各項目の評価に×が1つ以上あるもの。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状油脂、乳清蛋白、寒天を含み、水中油型に乳化されていることを特徴とする焼成食品用艶出し剤。
【請求項2】
寒天がゼリー強度10〜50g/cmのものである請求項1記載の焼成食品用艶出し剤。
【請求項3】
25℃における粘度が20〜150mPa・sである請求項1又は2記載の焼成食品用艶出し剤。
【請求項4】
乳清蛋白がゲル強度8.0〜18.0N/cm(15% 水ゲル)である請求項1〜3のいずれかに記載の焼成食品用艶出し剤。