説明

焼成食品用艶出剤

【課題】焼成食品の本来の風味・食感を損ねることなく、食品素材或いは食品の表面に塗布され、焼成、加熱によって得られる焼成食品に艶を付与する焼成食品用艶出剤を提供する。
【解決手段】水と油脂とトランスグルタミナーゼ処理した乳清タンパク質とからなる水中油型乳化物であって、食品素材又は食品の表面に塗布され焼成又は加熱されることで艶を発現する焼成食品用艶出剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品素材或いは食品表面等に塗布され、焼成、加熱によって得られる焼成食品に艶を付与することができる焼成食品用艶出剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食品素材としては、焼き饅頭、パイ、クッキーなどの焼き菓子類及びロールパンなどのパン類などの生地、その他、加熱、焼成されて完成する食品の加熱、焼成前の状態のものがある。食品には、食品素材を加熱、焼成して完成したもの、さらに本来加熱、焼成によって完成するものではないが、別途艶出しのために加熱、焼成される食品全般が含まれる。艶出しのためにそれら食品素材、食品を加熱、焼成したものを焼成食品という。
【0003】
焼成食品の表面に焼成により艶を付与する艶出剤としては、現在でも鶏卵が一般的に使用されている。しかしながら、鶏卵は天然素材であり、衛生的な保管、冷凍による場合の解凍など作業性が煩雑であることに加え、焼成後に艶ムラが発生する上、焼成により艶を発現すものの塗布部は硬い被膜となるため食感が良くなかった。
【0004】
その他、焼成食品用の艶出剤としては、特許文献1の「焼成食品用艶出剤」が公開されている。特許文献1の発明は、「分離大豆蛋白質、液状油脂及び水が、分離大豆蛋白質2〜12重量%、液状油脂15〜30重量%、水83〜58重量%の割合で含有され、O/W型に乳化されていることを特徴とするもので、本発明において分離大豆蛋白質は微酵素分解タイプが好ましい。また油脂は0.5〜3μ以下の平均粒径の微粒子で分散していることが好ましい。」というものである。
【0005】
しかしながら、特許文献1の発明では、大豆由来の成分を使用しているため、焼成後、大豆臭があり、焼成食品の本来の風味を低下させてしまう。さらに、製造工程において、大豆蛋白質を溶解させるために、溶解液の塩濃度を高める必要があり、作業が煩雑で製造コストが高いものになっていた。
【0006】
他方、牛乳由来のカゼインタンパク質、乳清タンパク質なども艶出剤として検討されている。しかしながら、カゼインタンパク質では水溶液への溶解性が悪く、大豆蛋白質と同様に、製造時に溶解液を高い塩濃度にする必要があった。また、乳清タンパク質では、製造時の撹拌に泡立ちが起こる(起泡性が高い)ため、製造作業の観点から消泡性のある乳化剤の添加が必要不可欠であった。添加物としての乳化剤の使用は、近年の消費者の健康志向、天然志向より、なるべく使用しないもの、或いは使用量を減じたものが望まれる傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−108616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、焼成食品の本来の風味・食感を損ねることなく、食品素材或いは食品の表面に塗布され、焼成、加熱によって得られる焼成食品に艶を付与する焼成食品用艶出剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、
(1)
水と油脂とトランスグルタミナーゼ処理した乳清タンパク質とからなる水中油型乳化物であって、食品素材又は食品の表面に塗布され焼成又は加熱されることで艶を発現することを特徴とする焼成食品用艶出剤の構成とした。
(2)
前記油脂が2〜40重量%の範囲、前記トランスグルタミナーゼ処理した乳清タンパク質が2〜12重量%の範囲であることを特徴とする(1)に記載の焼成食品用艶出剤の構成とした。
(3)
前記トランスグルタミナーゼの添加量が乳清タンパク質1g当たり0.1〜100ユニットであることを特徴とする(1)又は(2)に記載の焼成食品用艶出剤の構成とした。
(4)
食品素材又は食品の表面に塗布されて焼成又は加熱により焼成食品の表面に艶を発現させる艶出剤の製造方法であって、乳清タンパク質水溶液にトランスグルタミナーゼを添加し、所定時間反応させ、加熱してトランスグルタミナーゼを熱失活させ、油脂を添加して、O/W型に乳化したことを特徴とする焼成食品用艶出剤の製造方法の構成とした。
(5)
食品素材又は食品の表面に塗布されて焼成又は加熱により焼成食品の表面に艶を発現させる艶出剤の製造方法であって、乳清タンパク質水溶液に油を添加して、O/W型に乳化し、トランスグルタミナーゼを添加し、所定時間反応させ、加熱してトランスグルタミナーゼを熱失活させてなることを特徴とする焼成食品用艶出剤の製造方法の構成とした。
(6)
(1)〜(3)のいずれかに記載の焼成食品用艶出剤、(4)又は(5)に記載の焼成食品用艶出剤の製造方法によって得られる焼成食品用艶出剤を食品素材又は食品の表面に塗布して、焼成又は加熱してなることを特徴とする焼成食品の構成とした。なお、本発明である焼成食品用艶出剤を塗布する方法としては、はけ塗り(食品素材又は食品に対して焼成食品用艶出剤をはけ等の付着手段で塗り付ける方法。)、スプレー(噴霧装置等を用いて本発明を食品素材又は食品に噴きつける方法。)等を列挙できるが、特に限定されない。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、トランスグルタミナーゼ処理により乳清タンパク質が架橋化(重合、分子内結合)するため乳清タンパク質の起泡性が低下し、かつ乳化安定性が向上するので、添加物表示義務のある乳化剤を使用する必要がない。さらに、焼成食品本来の風味・食感を損ねることもなく、食品素材又は食品表面に塗布され、焼成、加熱されることより焼成食品の表面に艶を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明である焼成食品用艶出剤の配合組成の一例である。
【図2】本発明である焼成食品用艶出剤の製造フローを示す図である。
【図3】本発明である焼成食品用艶出剤の他の製造フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
図1に、配合例1、2を示した。トランスグルタミナーゼは、タンパク質中のグルタミン残基とリジン残基との間に架橋形成(イソペプチド結合)を触媒する。当該架橋形成は、タンパク質−タンパク質間、或いは同一分子内の何れでも起こる。トランスグルタミナーゼとしてはカルシウム非依存性のものとカルシウム依存性のものがある。カルシウム依存性のトランスグルタミナーゼを使用する場合、乳清、ホエー濃縮物、粉末ホエーにはカルシウムが存在するので、改めて添加することを要しない。但し、機能性及び経済性の点から、好ましくはカルシウム非依存性のものがよい。
【0014】
乳清とは、乳(主に牛乳)から乳脂肪分やカゼインなどを概ね除去した水溶液である。乳精は、乳漿或いはホエイ又はホエーとも言われる。乳清は、チーズの製造時に、固形物と分離された液状副産物として、またヨーグルトを静置したときに上部に溜る上澄みとして知られる。乳清タンパク質は、β−ラクトグロブリン、α−ラクトアルブミンが主成分として、ラクトフェリン、血清アルブミン、免疫グロブリンなどから構成される。
【0015】
加工されていない牛乳には、タンパク質が3重量%前後存在し、全タンパク質の内、乳清タンパク質は約20重量%存在するとされる。ウシの成熟乳においては、乳清タンパク質は約0.6%存在することとなる。乳清から水分を除去して濃度を高めたもの(ホエー濃縮物)、粉末状にしたもの(粉末ホエー)も流通しており、本発明の乳清タンパク質として使用することができる。勿論乳清も乳清タンパク質源として直接本発明に使用できる。
【0016】
即ち、ホエー濃縮物、粉末ホエーに水を加えて乳清タンパク質の濃度を調整した水溶液、乳清を濃縮して乳清タンパクの濃度を調整した水溶液及び乳清は、乳清タンパク質水溶液である。
【0017】
さらに、本発明には、乳清タンパク質を酵素などで切断したもの又は/及び修飾したもの或いはアミノ基を他のアミノ基、他の置換基に置換したものも乳清タンパク質として使用することもできる。
【0018】
トランスグルタミナーゼ処理した乳清タンパク質とは、上記乳清タンパク質において、タンパク質相互間及び同一分子内でランダムにグルタミン残基とリジン残基と架橋化させたものであり、乳清タンパク質にトランスグルタミナーゼ処理して得ても、予めトランスグルタミナーゼ処理した乳清タンパク質を粉末化したものを水に所定の濃度で溶解したものでもよい。
【0019】
トランスグルタミナーゼ処理した乳清タンパク質は、O/W乳化物中に2〜12重量%の濃度になるように存在させることが好ましい。トランスグルタミナーゼ処理した乳清タンパク質の組成量が、2重量%より低濃度であると、乳化が不安定で他の乳化剤の補助を必要とし、12重量%より高濃度であると本発明である乳化物の粘度が高くなり、汎用性、作業性が低下する。
【0020】
本発明に使用する油脂は、食用に使用されている油脂であればよく、特に限定されない。油脂の添加量は、2〜40重量%が好ましい。油脂の添加量が、2重量%より低いと艶が低く、40重量%より高いと、本発明である乳化物の粘度が高くなり、汎用性、作業性が低下する。
【0021】
水の最大添加量は、トランスグルタミナーゼ処理乳清タンパク2重量%、油脂10重量%とした場合に、88重量%とすることができ、他の添加物を使用することを要しない。勿論、糖類、香料、保存料、調味料、酸味料、着色料などの添加物、副原料を使用してもよい。その他、澱粉、ゲル化剤或いは増粘多糖類を使用して本発明の粘度を調整してもよい。
【実施例2】
【0022】
図2に、本発明の製造方法を示した。実施例2の製造方法では、先ず、乳清タンパク質水溶液に、トランスグルタミナーゼを添加して、所定時間酵素反応を行い、乳清タンパク質に架橋化反応を起こさせる。次に、当該水溶液加熱してトランスグルタミナーゼを熱失活させる。
【0023】
トランスグルタミナーゼは、味の素(株)製「アクティバ」TG−Kを使用した。反応条件は乳清タンパク1gあたり1ユニットの酵素を使用し、反応温度50℃、反応時間5時間とした。
【0024】
本発明に使用するトランスグルタミナーゼの活性単位は、次のように測定され、かつ定義される。即ち、ベンジルオキシカルボニル−L−グルタミニルグリシンとヒドロキシルアミンを基質として反応を行い、生成したヒドロキサム酸をトリクロロ酢酸存在下で鉄錯体に変換させた後、525nmの吸光度で、その量を測定する。1分間に1マイクロモルのヒドロキサム酸を生成する酵素量をトランスグルタミナーゼの活性単位、1ユニットと定義する。この測定法(いわゆるハイドロキサメート法)の詳細は既に報告されている通り(例えば、特許第2572716号公報参照)である。
【0025】
そのようにしてトランスグルタミナーゼ処理した乳清タンパク質水溶液に、油脂を添加して撹拌し(T.Kホモミキサー(プライミクス(株)、3000rpm、10分)、水中油(O/W)型に乳化して本発明である焼成食品用艶出剤(O/W乳化物)を得る。乳化時の温度は30〜70℃が好ましい。
【0026】
乳化方法は、従来から使用されている乳化装置、例えば、ホモゲナイザー、撹拌機等が使用でき、O/W乳化物となる。乳化粒子が細かいほど乳化が安定であるので、攪拌機で初期乳化後、ホモゲナイザーで油滴の粒径を調整することが好ましい。
【0027】
なお、ここでは、乳清タンパク質水溶液からの製法について記載したが、勿論、予め乳清タンパク質水溶液をトランスグルタミナーゼ処理して、水分を除去し、乾燥して、トランスグルタミナーゼ処理した乳清タンパク質粉末を水に溶解させたものに、油脂を乳化させてもよい。
【0028】
そして、艶出しを目的とする焼成前の食品素材又は食品の表面に本発明を塗布して焼成する。すると、焼成後に、本発明である焼成食品用艶出剤を塗布した部分に鶏卵と同様に艶が付与される。
【実施例3】
【0029】
図3に、本発明の他の製造方法を示した。原料、乳化、反応、使用方法については実施例2と同様であるので、その説明を省略した。
【0030】
実施例2の製法では、上述のように、先ず、乳清タンパク質水溶液に、油脂を添加して、O/W乳化物に乳化させる。その後、O/W乳化物にトランスグルタミナーゼを添加して、所定時間酵素反応を行い、乳清タンパク質に架橋化反応を起こさせる。次に、当該水溶液を加熱してトランスグルタミナーゼを熱失活させ、本発明である焼成食品用艶出剤(O/W乳化物)を得る。
【0031】
実施例3の製造方法では、実施例2がトランスグルタミナーゼ処理後に乳化するのに対して、実施例3の乳化後に架橋化を起こさせるため、乳化力は従来の乳清タンパク質と同じであり、トランスグルタミナーゼ処理後は気泡が抑えられる。さらに、実施例3の完成品の乳化物の粘度は、実施例2に比べ上昇し、他のゲル化剤、増粘多糖類を使用することなく、食品素材又食品の表面への塗布に、好適な粘度を発現する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と油脂とトランスグルタミナーゼ処理した乳清タンパク質とからなる水中油型乳化物であって、
食品素材又は食品の表面に塗布され焼成又は加熱されることで艶を発現することを特徴とする焼成食品用艶出剤。
【請求項2】
前記油脂が2〜40重量%の範囲、前記トランスグルタミナーゼ処理した乳清タンパク質が2〜12重量%の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の焼成食品用艶出剤。
【請求項3】
前記トランスグルタミナーゼの添加量が乳清タンパク質1g当たり0.1〜100ユニットであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の焼成食品用艶出剤。
【請求項4】
食品素材又は食品の表面に塗布されて焼成又は加熱により焼成食品の表面に艶を発現させる艶出剤の製造方法であって、
乳清タンパク質水溶液にトランスグルタミナーゼを添加し、所定時間反応させ、加熱してトランスグルタミナーゼを熱失活させ、油脂を添加して、O/W型に乳化したことを特徴とする焼成食品用艶出剤の製造方法。
【請求項5】
食品素材又は食品の表面に塗布されて焼成又は加熱により焼成食品の表面に艶を発現させる艶出剤の製造方法であって、
乳清タンパク質水溶液に油を添加して、O/W型に乳化し、トランスグルタミナーゼを添加し、所定時間反応させ、加熱してトランスグルタミナーゼを熱失活させてなることを特徴とする焼成食品用艶出剤の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の焼成食品用艶出剤、請求項4又は請求項5に記載の焼成食品用艶出剤の製造方法によって得られる焼成食品用艶出剤を食品素材又は食品の表面に塗布して、焼成又は加熱してなることを特徴とする焼成食品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−94147(P2013−94147A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242236(P2011−242236)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000165284)月島食品工業株式会社 (22)
【Fターム(参考)】