説明

焼灼状態通知装置

【課題】心筋アブレーション治療に際して、患部の焼灼状態を容易かつ確実に判断することが可能な焼灼状態通知装置を提供する。
【解決手段】心筋に接触された電極カテーテル120と体表面に貼付された対極板140間の通電時に、電極カテーテル120と対極板140間の生体インピーダンスの値を取得する生体インピーダンス取得部320と、生体インピーダンス取得部320により取得された生体インピーダンスの変化に応じて通知音を変化させる制御信号を出力する通知音出力制御部340と、通知音出力制御部340からの制御信号に基づいて通知音を出力する通知音出力部290とを備えている。これにより、通知音を聞くだけで患部の焼灼状態を直感的に把握できる。それゆえ、患部の焼灼状態を容易かつ確実に判断することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼灼状態通知装置に関し、例えば、不整脈等の治療を行うため、心筋に接触された電極カテーテルと体表面に貼付された対極板との間に高周波電流を通電する高周波出力装置に用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、不整脈等の治療を行うため、経皮的に心臓内に電極カテーテル(アブレーションカテーテル)を挿入し、高周波電流を通電することにより患部を焼灼する心筋アブレーション治療が知られている。心筋アブレーション治療を行う場合、予備的に電気生理学的検査が行われる。電気生理学的検査では、心臓内部に電極カテーテルを入れ、電気刺激装置を用いて心筋に刺激を加えながら心臓内各部の電位を記録して、刺激伝導系の検査や不整脈の誘発・停止等を行う。これにより、患部である焼灼位置のマッピング(同定)を行う。
【0003】
心筋アブレーション治療では、術者である医師が電極カテーテルを操作し、その電極のある先端部を心臓内で少しずつ移動させていく。このとき、電極カテーテルの先端電極位置は、X線カメラにより撮像される。医師は、X線モニタに映し出された映像を見て、電極位置を確認する。そして、オペレータは、医師の指示に応じて、高周波通電スイッチを操作して焼灼位置への通電をオン・オフする。ポリグラフ(心電位モニタ装置)などに表示される心電図に現われる諸波形から通電の効果がないと判れば、医師の指示に応じて、焼灼位置への通電を断つ。この操作を、電極位置を変えながら、通電の効果が現われるまで繰り返す。そして、通電の効果が現われれば、高周波通電を続け、患部の焼灼を行う。
【0004】
なお、治療部位の温度を正確に検出することができ、初心者であっても、過度の加熱や焼灼を防止することができるようにした技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1に記載の技術では、加熱用電極が装着してある第1カテーテルと、温度センサが装着してある第2カテーテルとを備え、温度測定用の第2カテーテルと治療用の第1カテーテルとを別の位置に配置する。そして、温度センサからの出力信号に基づき第1カテーテルの加熱用電極に印加される電力を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−325916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来の心筋アブレーション治療における患部の焼灼状態については、高周波通電において患部の温度、患部へ供給される高周波電力、患部の生体インピーダンスおよび通電時間に基づいて医師が判断していた。具体的には、医師は、温度、高周波電力、生体インピーダンスおよび通電時間が表示される表示部を目視するとともに、オペレータが当該表示部を見て読み上げた温度、高周波電力、生体インピーダンスおよび通電時間を聞くことによって、患部の焼灼状態についての総合的な判断を行っていた。
【0007】
しかしながら、上述のように、心筋アブレーション治療の際、電極位置を示すX線モニタやポリグラフなどに表示される心電図に加えて、温度、高周波電力、生体インピーダンスおよび通電時間を表示する表示部も見なければならないので、医師の負担が大きく、通電遮断のタイミングを適正に指示するのが困難であった。
【0008】
本発明は、このような問題を解決するために成されたものであり、心筋アブレーション治療に際して、患部の焼灼状態を容易かつ確実に判断することが可能な焼灼状態通知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る焼灼状態通知装置は、心筋に接触された電極カテーテルと体表面に貼付された対極板間の通電時に、前記電極カテーテルと前記対極板間の生体インピーダンスの値を取得する生体インピーダンス取得部と、
前記生体インピーダンス取得部により取得された前記生体インピーダンスの変化に応じて通知音を変化させる制御信号を出力する通知音出力制御部と、
前記通知音出力制御部からの制御信号に基づいて通知音を出力する通知音出力部と、
を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、通知音を聞くだけで患部の焼灼状態を直感的に把握できる。それゆえ、患部の焼灼状態を容易かつ確実に判断することができる。また、オペ室内に出力される通知音を聞くことによって、術者やオペレータ以外の医師等も患部の焼灼状態を容易かつ確実に判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施の形態におけるアブレーションシステムの構成例を示すブロック図である。
【図2】本実施の形態における高周波出力装置の動作例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本実施の形態におけるアブレーションシステム100の構成例を示すブロック図である。
【0013】
アブレーションシステム100は、電極カテーテル120、対極板140および高周波出力装置160を備えて構成されている。電極カテーテル120と高周波出力装置160との間は電気的に接続されている。また、対極板140と高周波出力装置160との間は電気的に接続されている。なお、高周波出力装置160は、本発明の焼灼状態通知装置として機能する。
【0014】
電極カテーテル120には、高周波出力装置160から高周波電流が供給される。なお、電極カテーテル120は、心筋アブレーション治療の前に、医師により、患者の治療部位(心筋)まで移動される。
【0015】
電極カテーテル120は、先端部に例えばサーミスタ等の温度測定回路130を内蔵している。温度測定回路130は、治療部位の温度を測定し、測定した温度の値を高周波出力装置160に出力する。
【0016】
対極板140は、心筋アブレーション治療の前に、医師により、患者の体表面(背面)に貼付される。その後、オペレータの操作により、高周波出力装置160は、高周波電流を電極カテーテル120に供給する。その結果、電極カテーテル120と治療部位との間に高周波電流が通電され、ジュール熱が発生し、治療部位が焼灼される。高周波出力装置160から供給された高周波電流は、電極カテーテル120、患者の治療部位および対極板140を経て、最終的に高周波出力装置160に帰還する。
【0017】
次に、高周波出力装置160の構成について説明する。図1に示すように、高周波出力装置160は、操作受付部200、通電制御部220、生体インピーダンス算出部240、表示制御部260、表示部280、通知音出力部290、生体インピーダンス取得部320および通知音出力制御部340を備えて構成されている。通知音出力部290は、通知音信号生成部291およびスピーカ292を備えて構成されている。
【0018】
操作受付部200は、図示しない操作部(例えば、操作スイッチ)を介して、高周波出力装置160に対する各種操作を受け付ける。操作受付部200が受け付ける操作は、例えば、アブレーション条件(出力電力、出力電圧など)の設定操作、アブレーションの実行指示操作およびアブレーションの停止指示操作などである。操作受付部200は、高周波出力装置160に対する各種操作を受け付けた場合、操作内容を通電制御部220に通知する。
【0019】
通電制御部220は、アブレーションの実行指示操作を受け付けた旨の通知を操作受付部200から受けた場合、電極カテーテル120に対する高周波電流の出力を開始する。また、通電制御部220は、アブレーションの停止指示操作を受け付けた旨の通知を操作受付部200から受けた場合、電極カテーテル120に対する高周波電流の出力を終了する。また、通電制御部220は、高周波電流の出力を開始してから終了するまでの通電時間を表示制御部260に出力する。
【0020】
また、通電制御部220は、高周波電流の出力を行っている間、電流測定回路(図示せず)により測定された高周波電流の値と、電圧測定回路(図示せず)により測定された高周波電圧の値とを生体インピーダンス算出部240に出力する。また、通電制御部220は、高周波電流の値と高周波電圧の値とを乗算することによって高周波電力の値を求め、その求めた高周波電力の値を表示制御部260に出力する。
【0021】
生体インピーダンス算出部240は、通電制御部220から出力された高周波電圧の値を高周波電流の値で除算することによって治療部位(すなわち、電極カテーテル120が心筋に接触している部分)の生体インピーダンスの値を算出する。そして、生体インピーダンス算出部240は、算出した生体インピーダンスの値を表示制御部260および生体インピーダンス取得部320に出力する。
【0022】
表示制御部260は、温度測定回路130から出力された温度の値、通電制御部220から出力された高周波電力の値、同じく通電制御部220から出力された通電時間の値および、生体インピーダンス算出部240から出力された生体インピーダンスの値を表示部280にそれぞれ表示する。表示部280は、例えば、デジタル表示器である。
【0023】
生体インピーダンス取得部320は、生体インピーダンス算出部240から出力された生体インピーダンスの値を取得し、その取得した生体インピーダンスの値を通知音出力制御部340に出力する。
【0024】
通知音出力制御部340は、生体インピーダンス取得部320により取得された生体インピーダンスの変化に応じて通知音を変化させる制御信号を出力する。本実施の形態では、通知音出力制御部340は、生体インピーダンスの変化に応じて通知音の周波数を変化させる制御信号を出力する。
【0025】
通知音出力部290は、通知音出力制御部340からの制御信号に基づいて通知音を出力する。具体的には、通知音出力部290が備える通知音信号生成部291は、通知音出力制御部340から出力された制御信号に基づいて通知音信号を生成する。生成された通知音信号は、通知音出力部290が備えるスピーカ292から出力される。
【0026】
次に、本実施の形態における高周波出力装置160の動作について説明する。図2は、本実施の形態における高周波出力装置160の動作例を示すフローチャートである。図2における各処理は、高周波出力装置160の制御周期に連動して行われる処理である。なお、既に、電極カテーテル120に対する高周波電流の出力が通電制御部220により開始されているものとする。
【0027】
まず、生体インピーダンス取得部320は、生体インピーダンス算出部240から出力された生体インピーダンスの値を取得し、その取得した生体インピーダンスの値を通知音出力制御部340に出力する(ステップS100)。
【0028】
次に、通知音出力制御部340は、生体インピーダンス取得部320により取得された生体インピーダンスの変化に応じて通知音を変化させる制御信号を出力する(ステップS120)。
【0029】
最後に、通知音出力部290は、通知音出力制御部340からの制御信号に基づいて通知音を出力する(ステップS140)。ステップS140の処理が完了することによって、高周波出力装置160は、図2における処理を終了する。
【0030】
以上詳しく説明したように、本実施の形態の高周波出力装置160は、心筋に接触された電極カテーテル120と体表面に貼付された対極板140間の通電時に、電極カテーテル120と対極板140間の生体インピーダンスの値を取得する生体インピーダンス取得部320と、生体インピーダンス取得部320により取得された生体インピーダンスの変化に応じて通知音を変化させる制御信号を出力する通知音出力制御部340と、通知音出力制御部340からの制御信号に基づいて通知音を出力する通知音出力部290とを備えている。
【0031】
このように構成した本実施の形態によれば、患部の焼灼状態を表す重要な指標である生体インピーダンスの変化に応じて異なる通知音が出力される。これにより、医師は、表示部280に表示される多くの情報(温度、高周波電力、生体インピーダンスおよび通電時間)を見たり、オペレータの読み上げを聞いたりしなくても、通知音を聞くだけで患部の焼灼状態を直感的に把握できる。それゆえ、患部の焼灼状態を容易かつ確実に判断することができる。また、オペ室内に出力される通知音を聞くことによって、術者やオペレータ以外の医師等も患部の焼灼状態を容易かつ確実に判断することができる。
【0032】
以上に説明した実施の形態による高周波出力装置160の機能は、ソフトウェアによって実現される。実際には、高周波出力装置160がCPUあるいはMPU、RAM、ROMなどを備えたコンピュータとして構成され、RAMやROMに記憶されたプログラムが動作することによって実現できる。なお、本実施の形態の機能を果たすように動作させるプログラムを例えばCD−ROMのような記録媒体に記録し、高周波出力装置160に読み込ませることによって実現することも可能である。
【0033】
なお、上記実施の形態では、生体インピーダンスの変化に応じて通知音を変化させる態様として通知音の周波数を変化させる例について説明したが、本発明はこれに限らない。例えば、生体インピーダンスの上昇に応じて通知音の周波数を段階的または徐々に高い周波数に変化させても良い。また、生体インピーダンスの変化に応じて通知音の音色を変化させるようにしても良い。その一態様として、生体インピーダンスの値が高いほど出力間隔が短い通知音を不連続的に出力しても良い。また、生体インピーダンスの変化に応じて通知音の音量を変化させても良い。
【0034】
また、上記実施の形態では、生体インピーダンスの変化に応じて通知音を変化させる例について説明したが、生体インピーダンスの変化に応じて異なる表示態様で当該生体インピーダンスの値を表示部280に表示しても良い。また、生体インピーダンスの値を表示させるのではなく、表示の明暗や色彩の変化により生体インピーダンスの変化を通知しても良い。つまり、上記実施の形態のように聴覚のみならず、視覚を使うことによって患部の焼灼状態を直感的に把握できるようにしても良い。
【0035】
その他、上記実施の形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0036】
100 アブレーションシステム
120 電極カテーテル
130 温度測定回路
140 対極板
160 高周波出力装置
200 操作受付部
220 通電制御部
240 生体インピーダンス算出部
260 表示制御部
280 表示部
290 通知音出力部
291 通知音信号生成部
292 スピーカ
320 生体インピーダンス取得部
340 通知音出力制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心筋に接触された電極カテーテルと体表面に貼付された対極板間の通電時に、前記電極カテーテルと前記対極板間の生体インピーダンスの値を取得する生体インピーダンス取得部と、
前記生体インピーダンス取得部により取得された前記生体インピーダンスの変化に応じて通知音を変化させる制御信号を出力する通知音出力制御部と、
前記通知音出力制御部からの制御信号に基づいて通知音を出力する通知音出力部と、
を備えた焼灼状態通知装置。
【請求項2】
前記通知音出力制御部は、前記生体インピーダンスの変化に応じて前記通知音の周波数を変化させる制御信号を出力する請求項1に記載の焼灼状態通知装置。
【請求項3】
前記通知音出力制御部は、前記生体インピーダンスの上昇に応じて前記通知音の周波数を段階的または徐々に高い周波数に変化させる制御信号を出力する請求項2に記載の焼灼状態通知装置。
【請求項4】
前記通知音出力制御部は、前記生体インピーダンスの変化に応じて前記通知音の音色を変化させる制御信号を出力する請求項1に記載の焼灼状態通知装置。
【請求項5】
前記通知音出力制御部は、前記生体インピーダンスの変化に応じて前記通知音の音量を変化させる請求項1〜4の何れか1項に記載の焼灼状態通知装置。


【図1】
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【図2】
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