説明

焼結体の製造方法

【課題】セッターの劣化を防止しつつ、焼結密度の高い焼結体を製造可能な焼結体の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の焼結体の製造方法は、金属粉末と有機バインダーとを含む組成物を、所定の形状に成形し、成形体を得る成形工程と、SiO(シリカ)を含むセッター(治具)を炉内に備えた焼成炉を用いて、成形体を焼成し、焼結体を得る焼成工程とを有し、焼成工程において、焼成炉の炉内雰囲気を不活性ガス雰囲気とし、かつ、炉内圧力を0.1kPa以上100kPa以下に設定するとともに、焼成工程における昇温過程において、途中で炉内圧力を上昇させることを特徴とする。また、炉内圧力の上昇は、炉内温度が900℃以上1200℃以下の温度範囲にあるときに行われるのが好ましく、炉内圧力の上昇により、炉内圧力を35kPa以下から、35kPa超とするのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属粉末を含む成形体を焼結して金属製品を製造するに際し、成形体の製造方法として、例えば、金属粉末と有機バインダーとを混合、混練し、この混練物を用いて射出成形する金属粉末射出成形(MIM:Metal Injection Molding)法が知られている。
MIM法により製造された成形体は、脱脂処理(脱バインダー処理)において有機バインダーが除去された後、焼成することにより、焼結体となる。
【0003】
成形体を焼成する際には、脱脂された成形体を焼成炉内に配置し、減圧下または不活性ガス存在下で加熱する。これにより、金属粉末の粒子同士の間で拡散現象が生じ、これにより成形体が徐々に緻密化して焼結に至る。
ところで、脱脂された成形体は、一般に「セッター」と呼ばれるトレー状の治具に載せられ、セッターごと焼成炉内に配置されて焼成される。セッターは、ムライト等の各種セラミックス材料で構成されており、十分な耐熱性を有している。
特許文献1には、ムライトを含むセラミックス材料で構成されたセラミックスセッターが開示されている。
【0004】
しかしながら、上記のようなセラミックスセッターを繰り返し焼成プロセスに用いると、セラミックス材質の酸素欠乏により、経時的にセッターが劣化し、割れや変形等の不具合を生じることが問題となっている。
また、セラミックス材質の酸素欠乏により、焼結体の焼結密度が十分に上がらないということも問題になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−145672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、セッターの劣化を防止しつつ、焼結密度の高い焼結体を製造可能な焼結体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の焼結体の製造方法は、金属粉末と有機バインダーとを含む組成物を、所定の形状に成形し、成形体を得る成形工程と、
シリカを含む治具を炉内に備えた焼成炉を用いて、該成形体を焼成し、焼結体を得る焼成工程と、を有し、
前記焼成工程において、前記焼成炉の炉内雰囲気を不活性ガス雰囲気とし、かつ、炉内圧力を0.1kPa以上100kPa以下に設定するとともに、前記焼成工程における昇温過程において、途中で前記炉内圧力を上昇させることを特徴とする。
これにより、セッターの劣化を防止しつつ、焼結密度の高い焼結体を製造することができる。
【0008】
本発明の焼結体の製造方法では、前記焼成工程における昇温過程の途中で、前記焼成炉の炉内温度が900℃以上1200℃以下であるときに、前記炉内圧力を上昇させることが好ましい。
これにより、SiOおよびSiの揮発を防止し、SiOおよびSiによって正常な焼結が阻害されるのをより確実に防止することができる。
【0009】
本発明の焼結体の製造方法では、前記焼成工程における昇温過程において、前記炉内圧力を35kPa以下とする第1の昇温過程と、前記炉内圧力を35kPa超とする第2の昇温過程とを有することが好ましい。
これにより、セッターの劣化防止と、焼結体の品質向上とを高度に両立することができる。
【0010】
本発明の焼結体の製造方法では、前記焼成工程において、前記炉内を減圧しつつ、前記炉内に不活性ガスを導入することにより、炉内圧力を調整することが好ましい。
これにより、炉内雰囲気が常時入れ替わることになるため、例えば成形体(脱脂体)や炉壁から脱離したガスを速やかに外部に排出することができ、成形体(脱脂体)の汚染を防止することができる。
【0011】
本発明の焼結体の製造方法では、前記不活性ガスは、アルゴンを主成分とするガスであることが好ましい。
アルゴンは、不活性ガスの中でもとりわけ反応性が低く、かつ、比較的安価で入手が容易である。また、空気と比重差が比較的小さいため、炉内で偏在し難いという利点もある。このため、成形体(脱脂体)から放出されたガス等が炉内に拡散せず、成形体(脱脂体)の周囲に留まってしまい、再び成形体(脱脂体)に吸着してしまうのを防止することができる。
【0012】
本発明の焼結体の製造方法では、前記金属粉末は、ステンレス鋼粉末であり、
前記焼成工程における焼成条件は、最高温度1000℃以上1400℃以下×0.5時間以上8時間以下であることが好ましい。
これにより、結晶組織が必要以上に肥大化するのを防止することができる。その結果、微小な結晶組織を有し、機械的特性および化学的特性に優れた焼結体が得られる。
【0013】
本発明の焼結体の製造方法では、前記焼成工程後に、前記シリカを含む治具を、酸化性雰囲気下で加熱処理する工程を有することが好ましい。
これにより、SiOの還元が抑制されるとともに、抑制し切れず生成してしまったSiOおよびSiを再び酸化させることができるので、セッターの劣化をより確実に防止することができる。そして、再生処理を施したセッターを焼成工程において用いることにより、より高品質の焼結体を製造することができる。
【0014】
本発明の焼結体の製造方法では、前記加熱処理における加熱温度は、1200℃以上1600℃以下であることが好ましい。
これにより、セッターの劣化を防止しつつ、SiOおよびSiを確実に酸化させることができる。
本発明の焼結体の製造方法では、前記加熱処理は、加圧された雰囲気下で行われることが好ましい。
これにより、加熱中のSiOおよびSiの揮発をより確実に防止しつつ、SiOおよびSiを酸化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】バッチ式の焼成炉内に、セッターに載せられた脱脂体を配置した状態を示す斜視図である。
【図2】焼成工程における炉内温度の経時変化の例および炉内圧力の経時変化の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の焼結体の製造方法の好適実施形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
本発明の焼結体の製造方法は、金属粉末と有機バインダーとを含む組成物を調製する組成物調製工程と、組成物を所定の形状に成形し、成形体を得る成形工程と、成形体中から有機バインダーを除去して脱脂体を得る脱脂工程と、SiO(シリカ)を含むセッター(治具)を炉内に備えた焼成炉を用いて、脱脂体(成形体)を焼成し、焼結体を得る焼成工程とを有する。
【0017】
そして焼成工程において、焼成炉の炉内雰囲気を不活性ガス雰囲気とし、かつ、炉内圧力を0.1kPa以上100kPa以下に設定するとともに、焼成工程における昇温過程において、途中で炉内圧力を上げるよう調整することを特徴とする。
このような方法によれば、セッター内のSiOの還元が防止されるため、脱脂体(成形体)の汚染が防止される。その結果、焼結密度の高い焼結体を製造することができる。
【0018】
以下、本発明の焼結体の製造方法について、各工程を順に説明する。
[1]組成物調製工程
まず、金属粉末と有機バインダーとを用意し、これらを混練機により混練し、混練物(組成物)を得る。この混練物(コンパウンド)中では、金属粉末が均一に分散している。
また、金属粉末と有機バインダーとは、互いに化学反応しないものが好ましく用いられる。
【0019】
金属粉末を構成する金属材料としては、例えば、Mg、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Pd、Ag、In、Sn、Sn、Ta、W、またはこれらの合金が挙げられる。
合金としては、例えば、ステンレス鋼、ダイス鋼、高速度工具鋼、低炭素鋼、パーメンジュール、Fe−Ni合金、Fe−Ni−Co合金等の各種Fe系合金、各種Ni系合金、各種Cr系合金等が挙げられる。
【0020】
また、ステンレス鋼としては、例えば、SUS304、SUS316、SUS317、SUS329、SUS410、SUS430、SUS440、SUS630等が挙げられる。
また、組成の異なる2種類以上の金属粉末を混合して用いてもよい。これにより、従来、鋳造では製造できなかったような合金組成の焼結体をも製造することもできる。また、新規な機能や複数の機能を有する焼結体を容易に製造することができ、焼結体の機能・用途の拡大を図ることができる。
【0021】
金属粉末の平均粒径は、特に限定されないが、3μm以上30μm以下程度であるのが好ましく、5μm以上20μm以下程度であるのがより好ましい。金属粉末の平均粒径が前記範囲内の値であることにより、混練物の流動性が高いものとなり、優れた成形性(成形のし易さ)を示す混練物を得ることができる。その結果、成形工程において成形体の密度が向上し、最終的に機械的特性および寸法精度に優れた焼結体を得ることができる。
【0022】
なお、前記下限値より平均粒径が小さい金属粉末は、製造することが困難である。また、金属粉末の平均粒径が前記上限値を上回ると、焼結体の結晶組織が大きくなり、焼結体の機械的特性が低下するおそれがある。
このような金属粉末としては、例えば、アトマイズ法(例えば、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、高速回転水流アトマイズ法等)、還元法、カルボニル法、粉砕法により製造されたものが用いられる。このうち、アトマイズ法により製造されたものが好ましく用いられる。アトマイズ法によれば、極めて微小な金属粉末を効率よく製造することができる。このため、この金属粉末を原料粉末として用いることにより、微細な結晶組織を有し、機械的強度に優れた焼結体を確実に得ることができる。
また、アトマイズ法で製造された金属粉末は、真球に近い球形状をなしているため分散性や流動性に優れており、成形時に混練物を成形型に充填する際には、その充填性を高めることもできる。したがって、成形工程において、複雑で微細な形状の成形体を容易に形成可能である。
【0023】
有機バインダーとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、またはこれらの共重合体等の各種樹脂や、各種ワックス、パラフィン、高級脂肪酸(例:ステアリン酸)、高級アルコール、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を混合して用いることができる。
このうち、有機バインダーとしては、ポリオレフィンを主成分とするものが好ましい。ポリオレフィンは、還元性ガスによる分解性が比較的高い。このため、ポリオレフィンを有機バインダーの主成分として用いた場合、より短時間で確実に成形体の脱脂を行うことができる。
【0024】
また、有機バインダーの含有量は、混練物全体の2重量%以上20重量%以下程度であるのが好ましく、5重量%以上10重量%以下程度であるのがより好ましい。有機バインダーの含有率が前記範囲内であることにより、成形性よく成形体を形成することができるとともに、密度を高め、成形体の形状の安定性等を特に優れたものとすることができる。また、これにより、成形体と脱脂体との大きさの差、いわゆる収縮率を小さくすることができる。その結果、脱脂体および焼結体の寸法精度を向上させることができる。
また、混練物中に、可塑剤が添加されていてもよい。この可塑剤としては、例えば、フタル酸エステル(例:DOP、DEP、DBP)、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、セバシン酸エステル等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0025】
さらに、混練物中には、金属粉末、有機バインダー、可塑剤の他に、例えば、酸化防止剤、脱脂促進剤、界面活性剤等の各種添加物を必要に応じ添加することができる。
混練条件は、用いる金属粉末の組成や粒径、有機バインダーの組成、およびこれらの配合量等の諸条件により異なるが、その一例を挙げれば、混練温度:50℃以上200℃以下程度、混練時間:15分以上210分以下程度とすることができる。
【0026】
また、混練物は、必要に応じ、ペレット(小塊)化される。ペレットの粒径は、例えば、1mm以上15mm以下程度とされる。
なお、金属粉末と有機バインダーとを含む組成物は、混練物の形態ではなく、各種造粒法により製造された造粒粉の形態であってもよい。このような形態は、成形工程における成形方法に応じて適宜選択される。
【0027】
[2]成形工程
次に、混練物を成形して、目的の焼結体と同形状の成形体を製造する。
成形体の製造方法(成形方法)は、特に限定されず、例えば、金属粉末射出成形(MIM:Metal Injection Molding)法、圧縮成形(圧粉成形)法、押出成形法等が挙げられるが、この中でも、金属粉末射出成形法が好ましい。
このMIM法は、比較的小型のものや、複雑で微細な形状の成形体をニアネット(最終形状に近い形状)で製造することができ、用いる金属粉末の特性を十分に生かすことができるという利点を有する。このため、本発明を適用する上でその効果が有効に発揮される成形体を得ることができる。
【0028】
以下、成形方法の一例として、MIM法による成形体の製造について説明する。
まず、組成物調製工程で得られた混練物を用いて、射出成形機により射出成形し、所望の形状、寸法の成形体を製造する。この場合、成形型の選択により、複雑な形状の成形体をも容易に製造することができる。
このようにして得られた成形体は、有機バインダー中に、金属粉末がほぼ均一に分散した状態となっている。
【0029】
なお、製造される成形体の形状寸法は、以後の脱脂および焼結による成形体の収縮分を見込んで決定される。
射出成形の成形条件としては、用いる金属粉末の金属組成や粒径、有機バインダーの組成およびこれらの配合量等の諸条件により異なるが、その一例を挙げれば、材料温度は、好ましくは80℃以上200℃以下程度、射出圧力は、好ましくは2MPa以上30MPa以下(20kgf/cm以上300kgf/cm以下)とされる。
【0030】
[3]脱脂工程
成形工程で得られた成形体に対し、脱脂処理(脱バインダー処理)を施し、脱脂体を得る。
この脱脂処理は、例えば、大気、酸素のような酸化性ガス、水素、一酸化炭素のような還元性ガス、窒素、ヘリウム、アルゴンのような不活性ガス、またはこれらの1種または2種以上を含有する混合ガス等を含む雰囲気中、または減圧雰囲気中で、熱処理を行うことによりなされる。
【0031】
この場合、熱処理の条件は、有機バインダーの分解開始温度等によって若干異なるが、好ましくは温度100℃以上750℃以下程度で0.5時間以上40時間以下程度、より好ましくは温度150℃以上600℃以下程度で1時間以上24時間以下程度とされる。
また、このような熱処理による脱脂は、種々の目的(例えば、脱脂時間の短縮等の目的)で、複数の工程(段階)に分けて行ってもよい。この場合、例えば、前半を低温で、後半を高温で脱脂するような方法や、低温と高温を繰り返し行う方法等が挙げられる。また、後述する焼成工程において脱脂と焼成とを連続して行う場合には、脱脂のみを行う本工程を省略することもできる。
【0032】
また、脱脂処理は、有機バインダーや添加剤中の特定成分を所定の溶媒(液体、気体等の流体)を用いて溶出させることにより行うようにしてもよい。
なお、有機バインダーは、脱脂処理によって完全に除去されなくてもよく、例えば、脱脂処理の完了時点で、その一部が残存していてもよい。
以上のようにして、脱脂体を形成することにより、形状保持性(保型性)に優れた脱脂体を得ることができる。
【0033】
[4]焼成工程
脱脂工程で得られた脱脂体を、焼成炉等により焼成する。これにより、脱脂体を焼結させ、焼結体を得る。
この焼結により、金属粉末の粒子同士の界面で拡散が生じ、粒成長して結晶組織を形成する。これにより、全体的に緻密で高密度の焼結体が得られる。
焼成炉の形態には、例えば、連続炉、バッチ炉等が挙げられるが、特に限定されない。焼成の際には、脱脂体はトレー状のセッターに載せられ、セッターごと焼成炉内に配置される。
【0034】
図1は、バッチ式の焼成炉内に、セッターに載せられた脱脂体を配置した状態を示す斜視図である。
図1に示す焼成炉1は、箱状の筐体2と、筐体2の一面を覆うよう設けられ、筐体2の内部空間を開閉することのできる蓋体3とを有している。
筐体2の内部にはヒーター(図示せず)が配置されており、筐体2内を加熱することができる。
【0035】
また、筐体2には、内部のガスを外部に排出する排気手段(図示せず)、および、内部にガスを導入する給気手段(図示せず)が設けられている。これらの排気手段および給気手段により、筐体2の内部雰囲気の組成および圧力を所望の条件に制御することができる。
排気手段としては、排気ポンプのような強制排気手段の他、単なるリークバルブのような自発的な排気手段も用いられる。また、給気手段としては、ガスボンベ、ガスタンク等が挙げられる。
【0036】
図1に示す筐体2内には、トレー状のセッター4が設けられており、またセッター4上には脱脂体5が配置されている。
焼成時には、蓋体3を閉じて筐体2内を封止状態にした後、脱脂体5は、セッター4上に載せられたまま加熱されて焼結に至る。
脱脂体の焼成に用いられるセッターは、一般に、ムライトのような、SiOを含むセラミックス材料で構成されたトレー状の容器である。SiOを含むセラミックスは耐熱衝撃性に優れることから、高温での加熱に曝される焼成プロセスにおいても、セッターの割れや変形等を確実に防止することができる。このため、このようなセッターは、繰り返し焼成プロセスに供することができる点で有用である。
【0037】
上記のような利点がある一方、上記のセッターは、特に減圧下、還元性ガス雰囲気下、不活性ガス雰囲気下等の非酸化性雰囲気下における焼成プロセスに供されると、経時的に劣化し、割れや変形等の不具合を生じるという問題を抱えていた。
本発明者は、SiO(シリカ)を含むセッター(治具)が劣化するメカニズムについて鋭意検討を重ねた。
【0038】
その結果、セッターに含まれたSiOは非酸化性雰囲気下における焼成時に還元され易く、有機バインダーの炭化によって生じた脱脂体中の炭素とSiOの酸素とが結合するとともに、SiOは還元されてSiOに変化することを見出した。SiOはSiOに比べて揮発性が高いことから、焼成時に焼成炉内に飛散し、成形体表面に付着し易い。本発明者は、SiOのようなケイ素系物質が付着すると、成形体が汚染されることとなり、正常な焼結が阻害されることを明らかにした。特に、減圧下で焼成する場合には、ケイ素系物質の揮発が促進されるため、上記の問題が顕在化する。
【0039】
また、SiOが還元されると、セッターを構成するセラミックスの組成が変化する。セッターは繰り返し使用されるため、焼成に供されるたびにセッター中のSiOが徐々に減少していき、セッターの機械的特性が低下すると考えられる。
上記メカニズムに基づき、本発明者は、焼成炉内の最適な条件を見出し、この条件で焼成することにより、セッターの劣化を防止しつつ、高品質の焼結体を製造可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0040】
本発明者が見出した条件は、焼成炉の炉内雰囲気を不活性ガス雰囲気とし、かつ、炉内圧力を0.1kPa以上100kPa以下に設定するとともに、焼成時の昇温過程において、途中で炉内圧力を上げるよう調整するものである。
このような条件で脱脂体を焼成すると、SiOの還元が抑制されるとともに、組成物中の金属粉末の変質・劣化を併せて抑制することができる。その結果、セッターの劣化防止と、焼結体の品質向上とを両立することができる。
【0041】
また、炉内雰囲気を不活性ガス雰囲気にすることにより、雰囲気が還元性を有しないので、SiOの還元と金属粉末の酸化が抑制される。
なお、炉内圧力が前記下限値未満になると、SiOおよびSiが特に揮発し易くなり、正常な焼結を阻害する。一方、炉内圧力が上昇すると、SiOおよびSiの揮発が抑制されるものの、炉内圧力が高い分だけ相対的に炉内の酸素分圧が上昇する。そして、炉内圧力が前記上限値を超えると、金属粉末の酸化が特に促進され、焼結体の酸化を招いてしまう。
【0042】
また、焼成時の昇温過程において、途中で炉内圧力を上げるよう調整することにより、セッターの劣化防止と、焼結体の品質向上との両立を図ることができる。
上述した不活性ガスとしては、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン等が挙げられるが、これらの中でも特にアルゴンが好ましく用いられる。アルゴンは、不活性ガスの中でもとりわけ反応性が低く、かつ、比較的安価で入手が容易であるためである。また、空気と比重差が比較的小さいため、炉内で偏在し難いという利点もある。このため、脱脂体から放出されたガス等が炉内に拡散せず、脱脂体の周囲に留まってしまい、再び脱脂体に吸着してしまうのを防止することができる。
【0043】
また、必要に応じて、これらを主成分とする混合ガスを用いるようにしてもよい。この場合、混合ガス中の不活性ガスの濃度は、80体積%以上であるのが好ましい。
また、焼成時の炉内圧力は、前述したように0.1kPa以上100kPa以下(0.75Torr以上750Torr以下)とされるが、好ましくは0.5kPa以上50kPa以下(3.75Torr以上375Torr以下)とされる。
【0044】
ここで、焼成工程における炉内温度の経時変化の例および炉内圧力の経時変化の例をそれぞれ図2に示す。この図2を参照しつつ、焼成工程について詳述する。
本実施形態では、焼成工程の一例として、焼成工程の昇温過程が、予備の昇温過程S、第1の昇温過程Sおよび第2の昇温過程Sの大きく3つの昇温過程に分かれている場合を例に説明する。
【0045】
(予備の昇温過程S
まず、予備の昇温過程Sでは、室温から徐々に昇温し、一定温度Tに保持することにより、脱脂体中に残存する有機バインダーが確実に除去される。
この予備の昇温過程Sにおける温度Tは、有機バインダーが分解する温度であればよく、例えば500℃以上700℃以下であるのが好ましい。
【0046】
また、温度Tの保持時間は、温度Tに応じて適宜設定されるものの、例えば0.5時間以上8時間以下であるのが好ましく、1時間以上4時間以下であるのがより好ましい。
また、予備の昇温過程Sにおける炉内圧力Pは、特に限定されず、0.1kPa以上100kPa以下であればよい。
【0047】
なお、この予備の昇温過程Sは、必要に応じて設ければよく、焼成工程に供される脱脂体に有機バインダーがほとんど残存していない場合には、省略することもできる。また、予備の昇温過程Sを設けた場合であっても、また設けない場合であっても、有機バインダーは完全に除去されるわけではなく、例えば炭素のような有機バインダーの構成元素が残存する。
【0048】
(第1の昇温過程S
次いで、炉内温度を徐々に高め、一定温度Tで保持する。
この第1の昇温過程Sにおける温度Tは、前記温度Tより高く、900℃以上1200℃以下であるのが好ましく、950℃以上1150℃以下であるのがより好ましい。温度Tを前記範囲内に設定することにより、脱脂体中に残存している炭素と、金属粉末の各粒子表面に存在している酸化物とを、効率よく結合させることができる。その結果、酸化物の還元が進み、脱脂体中の酸素含有率が低下する。このような状態になると、金属粉末の焼結性が向上し、最終的に高密度の焼結体が得られるようになる。
なお、温度Tと温度Tとの差は、200℃以上400℃以下であるのが好ましい。
【0049】
また、温度Tの保持時間は、温度Tに応じて適宜設定されるものの、例えば0.5時間以上8時間以下であるのが好ましく、1時間以上4時間以下であるのがより好ましい。
また、第1の昇温過程Sに移行するとともに、炉内を減圧し、炉内圧力をPまで低下させる。
【0050】
このように第1の昇温過程Sにおいて、炉内圧力を相対的に低くすることにより、金属粉末の酸化を確実に抑制することができる。特に、炉内圧力をPまで低下させることにより、脱脂体の内部に残留した空気、二酸化炭素、水分等を効率的に除去することができるので、焼結体の焼結密度向上に寄与する。また、この温度領域では、SiOがまだ還元され難く、SiOおよびSiが揮発するおそれも少ないため、炉内圧力Pまで低くしてもSiOおよびSiによる汚染を抑えることができる。
【0051】
なお、炉内の減圧操作は、予備の昇温過程Sの最終段階で行ってもよく、予備の昇温過程Sから第1の昇温過程Sに移行する途中で行ってもよい。
また、第1の昇温過程Sにおける炉内圧力Pは、35kPa以下であるのが好ましい。これにより、第1の昇温過程Sでは、金属粉末の酸化反応がより確実に抑えられ、焼結体の品質低下を防止することができる。
【0052】
さらに、炉内圧力をPで維持した後、第1の昇温過程S1の最終段階で炉内圧力を上昇させる。高温の温度領域においては、SiOの還元が進み易いが、炉内圧力を相対的に高くすることにより、SiOおよびSiの揮発が抑制される。特に前述の温度T付近は、金属酸化物の還元効率が比較的高いだけでなく、SiOの還元が始まる温度でもある。このため、第1の昇温過程Sの最終段階で炉内圧力を上昇させることにより、酸素含有率が十分に低下した脱脂体に対して、その後の焼結を阻害するSiOおよびSiが生成するのを確実に防止することができる。
【0053】
なお、炉内の昇圧操作は、後述する第2の昇温過程Sの初期段階で行ってもよく、第1の昇温過程Sから第2の昇温過程Sに移行する途中で行ってもよい。
上述したような昇圧操作の結果、炉内圧力はPとなり、この圧力で維持される。
昇圧操作後の炉内圧力Pは、35kPa超であるのが好ましい。このように炉内圧力を操作することにより、セッターの劣化防止と、焼結体の品質向上とを高度に両立することができる。すなわち、昇圧前(35kPa以下)においては、金属粉末の酸化反応がより確実に抑えられ、焼結体の品質低下を防止することができ、一方、昇圧後(35kPa超)においては、焼結を阻害するSiOおよびSiの揮発がより確実に抑えられ、正常な焼結が可能になる。
【0054】
なお、第1の昇温過程Sにおいて保持される炉内圧力Pと、第2の昇温過程Sにおいて保持される炉内圧力Pとの差は、特に限定されないものの、好ましくは10kPa以上100kPa以下とされ、より好ましくは20kPa以上80kPa以下とされる。
また、炉内圧力をPからPに昇圧する場合、昇圧操作は、炉内温度が900℃以上1200℃以下の温度範囲にあるときに行われるのが好ましい。この温度範囲は、本発明者は、金属粉末の還元が完了する温度範囲と、SiOおよびSiが揮発し始める温度範囲とが、重複する温度範囲として見出したものである。そして、この温度範囲に基づき、本発明では、焼成工程における昇温過程の途中で、この温度範囲において炉内圧力を上昇させることにより、正常な焼結が阻害されるのをより確実に防止することができる。
なお、上記温度範囲は、より好ましくは950℃以上1150℃以下とされる。
【0055】
(第2の昇温過程S
次いで、炉内温度をさらに高め、一定温度Tで保持する。
この第2の昇温過程Sにおける温度(焼成温度)Tは、前記温度Tより高く、焼成工程における最高温度であり、金属粉末の組成に応じて適宜設定されるものの、例えばステンレス鋼粉末の場合、1000℃以上1400℃以下であるのが好ましく、1100℃以上1300℃以下であるのがより好ましい。このような温度で脱脂体を焼成することにより、結晶組織が必要以上に肥大化するのを防止することができる。その結果、微小な結晶組織を有し、機械的特性および化学的特性に優れた焼結体が得られる。
【0056】
なお、焼成温度が前記下限値を下回ると、全体または部分的に焼結が不十分となるため、得られる焼結体の機械的特性や表面粗さが低下するおそれがある。一方、焼成温度が前記上限値を上回ると、焼結が必要以上に進行することとなり、結晶組織が肥大化し、得られる焼結体の機械的特性が低下するおそれがある。
また、温度Tと温度Tとの差は、100℃以上400℃以下であるのが好ましい。
また、焼成時間は、焼成温度に応じて適宜設定されるものの、例えば0.5時間以上8時間以下であるのが好ましく、1時間以上4時間以下であるのがより好ましい。
【0057】
一方、第2の昇温過程Sにおいて保持される炉内圧力Pを、前述したように35kPa超とすることにより、炉内温度Tが高温であっても、SiOの還元を確実に抑制することができる。これにより、前記還元に伴って生じるSiO及びSiが金属粉末の表面に付着して、粒子間の原子拡散が阻害されてしまうのを抑制することができる。その結果、正常な焼結が可能になり、高密度の焼結体を製造することができる。
【0058】
以上のような焼成工程を経ることにより、セッターの劣化を防止しつつ、焼結密度の高い高品質の焼結体を製造することができる。
なお、本発明には、前述したように、炉内のガスを外部に排出する排気手段と、炉内にガスを導入する給気手段とを有する焼成炉が好ましく用いられる。
これらの排気手段および給気手段は、必要に応じてその動作が協調的に制御されることにより、炉内圧力を所望の圧力に設定することを可能にする。このようにすれば、炉内雰囲気が常時入れ替わることになるため、例えば脱脂体や炉壁から脱離したガスを速やかに外部に排出することができ、脱脂体の汚染を防止することができる。
【0059】
[5]セッター再生工程
また、必要に応じて、使用したセッターを再利用に適した状態とするため、セッターに再生処理を施すようにしてもよい。
上述したような焼成工程によれば、SiOおよびSiの揮発が抑制されるものの、セッター中のSiOがSiOおよびSiに還元される反応は防ぎ切れない。このため、セッター中には揮発し易いSiOが残存する。
【0060】
ところが、セッターは繰り返し焼成工程に供されるため、そのたびにセッター中に残存したSiOが徐々に揮発し、最終的にはセッター中のSiOが失われてしまうこととなる。このようになるとセッターの機械的特性および耐熱衝撃性が損なわれ、割れや変形等の不具合が生じることとなる。
そこで、本発明では、焼成工程後のセッターに再生処理を施す。
【0061】
セッターの再生処理は、焼成工程後のセッターに対して酸化性雰囲気下で加熱処理を施すことにより行う。これにより、セッター中のSiOが酸化され、再びSiOに戻る。その結果、揮発し易いSiOが相対的に揮発し難いSiOへと変化して、セッターが安定化する。すなわち、再生処理によれば、SiOの還元が抑制されるとともに、抑制し切れず生成してしまったSiOを再び酸化させることができるので、セッターの劣化をより確実に防止することができる。そして、再生処理を施したセッターを焼成工程において用いることにより、より高品質の焼結体を製造することができる。
【0062】
この加熱処理における加熱温度は、1200℃以上1600℃以下であるのが好ましく、1300℃以上1500℃以下であるのがより好ましい。加熱温度を前記範囲内とすれば、セッターの劣化を防止しつつ、SiOを確実に酸化させることができる。
また、加熱時間は、加熱温度に応じて適宜設定されるものの、例えば0.5時間以上8時間以下であるのが好ましく、1時間以上4時間以下であるのがより好ましい。
加熱処理が行われる酸化性雰囲気としては、例えば、酸素ガス雰囲気、大気雰囲気等が挙げられる。
【0063】
また、加熱処理は、好ましくは加圧された雰囲気下で行われる。加圧された雰囲気下であれば、加熱中のSiOの揮発をより確実に防止しつつ、SiOを酸化させることができる。
加熱処理の雰囲気の圧力は、大気圧超であればよく、好ましくは150kPa以上、より好ましくは200kPa以上とされる。このような圧力であれば、SiOの揮発がより確実に抑えられるため、セッターの劣化を十分に防止することができる。
以上のようにしてセッターを再利用に適したものに再生することができる。
以上、本発明の焼結体の製造方法について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0064】
1.焼結体の製造
(実施例1)
[1]まず、平均粒径10μmのパーメンジュール粉末(エプソンアトミックス社製)と、ポリプロピレンとワックスの混合物(有機バインダー)とを、質量比で9:1となるよう秤量して混合し、混合原料(組成物)を得た。
[2]次に、この混合原料を混練機で混練し、コンパウンドを得た。
【0065】
[3]次に、このコンパウンドを、以下に示す成形条件で、射出成形機にて成形し、成形体を作製した。
<成形条件>
・材料温度:150℃
・射出圧力:11MPa(110kgf/cm
【0066】
[4]次に、得られた成形体に対して、以下に示す脱脂条件で熱処理(脱脂処理)を施し、脱脂体を得た。
<脱脂条件>
・加熱温度 :500℃
・加熱時間 :2時間
・加熱雰囲気:窒素ガス
【0067】
[5]次に、得られた脱脂体を、トレー状のセッター(ムライトセラミックス製)上に載せ、トレーごとバッチ式焼成炉内に配置した。そして、以下に示す焼成条件で焼成し、焼結体を得た。なお、用いた焼成炉は、排気ポンプとガスボンベとが接続されており、常時、排気と給気とがそれぞれ連続的に行うことで、炉内圧力を一定に保持し得るよう構成されている。
【0068】
<焼成条件>
予備の昇温過程
・炉内温度T :600℃×1時間
・炉内圧力P :70kPa
・炉内雰囲気 :アルゴンガス(100%)
第1の昇温過程
・炉内温度T :1000℃×1時間
・炉内圧力P :30kPa
・炉内雰囲気 :アルゴンガス(100%)
第2の昇温過程
・炉内温度T :1200℃(焼成温度)×3時間
・炉内圧力P :100kPa
・炉内雰囲気 :アルゴンガス(100%)
【0069】
(実施例2〜8)
焼成条件を表1に示すように変更した以外は、それぞれ、実施例1と同様にして焼結体を得た。
(比較例1〜4)
焼成条件を表1に示すように変更した以外は、それぞれ、実施例1と同様にして焼結体を得た。
【0070】
(比較例5)
昇温過程の途中で炉内圧力を上げることなく、以下の焼成条件で焼成するようにした以外は、実施例1と同様にして焼結体を得た。
<焼成条件>
・炉内温度T :1200℃×3時間
・炉内圧力P :30kPa
・炉内雰囲気 :アルゴンガス(100%)
(比較例6)
炉内雰囲気を窒素ガス(100%)に変更した以外は、実施例1と同様にして焼結体を得た。
【0071】
2.焼結体の評価
2.1 焼結密度の測定
各実施例および各比較例で得られた焼結体について、それぞれの焼結密度を測定した。なお、焼結密度の測定は、アルキメデス法(JIS Z 2501に規定)に準じた方法により行った。
そして、測定された焼結密度を、以下の評価基準に基づいて評価した。
【0072】
<焼結密度の評価基準>
◎:焼結密度が8.1g/cm以上である
○:焼結密度が8.05g/cm以上8.1g/cm未満である
△:焼結密度が8.0g/cm以上8.05g/cm未満である
×:焼結密度が8.0g/cm未満である
また、測定された焼結密度と、各鋼種の真密度とから、各実施例および各比較例の相対密度を算出した。
【0073】
2.2 酸素含有率の測定
各実施例および各比較例で得られた焼結体について、酸素窒素同時分析装置(LECO社製、TC−300型)により酸素含有率を測定した。
そして、測定された酸素含有率を、以下の評価基準に基づいて評価した。
<酸素含有率の評価基準>
◎:酸素含有率が特に低い
○:酸素含有率がやや低い
△:酸素含有率がやや高い
×:酸素含有率が特に高い
以上、2.1および2.2の評価結果を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
表1から明らかなように、各実施例で得られた焼結体は、各比較例で得られた焼結体に比べて、焼結密度が高く、かつ酸素含有率が低いことが認められた。
また、実施例8では、第1の昇温過程における炉内温度Tがやや低かったために、脱脂体中の炭素の除去が進まず、焼結密度があまり上がらなかったものと思われる。
また、比較例3では、炉内圧力が高いために、酸素含有率が高くなり、それとともに焼結密度が上がらなかったと考えられる。
さらに、比較例4では、還元性ガス雰囲気下で焼成を行ったことにより、SiOの生成が促進され、焼結が阻害されたものと思われる。
【0076】
3.セッターの再生
焼結体の製造に用いたセッターに対して、以下の処理条件で再生処理を施した。
<再生処理条件>
・加熱温度 :1400℃×3時間
・加熱雰囲気:大気(空気)雰囲気(200kPa)
【0077】
4.セッターの評価
実施例1の焼成条件で、20回繰り返し焼成工程に用いたセッターに対して、上述した再生処理を施したものと、施していないものとについて、それぞれ三点曲げ強度および耐熱衝撃性を評価した。
その結果、再生処理を施したものについては、施していないものに比べて、三点曲げ強度および耐熱衝撃性のいずれも良好であった。
また、再生処理を施したセッターを用いて、実施例1と同様にして焼結体を製造したところ、実施例1の評価結果よりも焼結密度の高い焼結体が得られた。
【符号の説明】
【0078】
1……焼成炉 2……筐体 3……蓋体 4……セッター 5……脱脂体 S……第1の昇温過程 S……第2の昇温過程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末と有機バインダーとを含む組成物を、所定の形状に成形し、成形体を得る成形工程と、
シリカを含む治具を炉内に備えた焼成炉を用いて、該成形体を焼成し、焼結体を得る焼成工程と、を有し、
前記焼成工程において、前記焼成炉の炉内雰囲気を不活性ガス雰囲気とし、かつ、炉内圧力を0.1kPa以上100kPa以下に設定するとともに、前記焼成工程における昇温過程において、途中で前記炉内圧力を上昇させることを特徴とする焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記焼成工程における昇温過程の途中で、前記焼成炉の炉内温度が900℃以上1200℃以下であるときに、前記炉内圧力を上昇させる請求項1に記載の焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記焼成工程における昇温過程において、前記炉内圧力を35kPa以下とする第1の昇温過程と、前記炉内圧力を35kPa超とする第2の昇温過程とを有する請求項1または2に記載の焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記焼成工程において、前記炉内を減圧しつつ、前記炉内に不活性ガスを導入することにより、炉内圧力を調整する請求項1ないし3のいずれかに記載の焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記不活性ガスは、アルゴンを主成分とするガスである請求項1ないし4のいずれかに記載の焼結体の製造方法。
【請求項6】
前記金属粉末は、ステンレス鋼粉末であり、
前記焼成工程における焼成条件は、最高温度1000℃以上1400℃以下×0.5時間以上8時間以下である請求項1ないし5のいずれかに記載の焼結体の製造方法。
【請求項7】
前記焼成工程後に、前記シリカを含む治具を、酸化性雰囲気下で加熱処理する工程を有する請求項1ないし6のいずれかに記載の焼結体の製造方法。
【請求項8】
前記加熱処理における加熱温度は、1200℃以上1600℃以下である請求項7に記載の焼結体の製造方法。
【請求項9】
前記加熱処理は、加圧された雰囲気下で行われる請求項7または8に記載の焼結体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−236468(P2011−236468A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109033(P2010−109033)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】