説明

焼結体層積層物

【課題】親水性層と疎水性層が積層され、吸水機能の長期持続性と低溶出性を兼ね備えるとともに、片面で吸収した水を反対面に透過させることなく、成形性、耐衝撃性、機械的強度および吸水時の寸法安定性に優れ、かつ、全体として良好な通気性を有する焼結体層積層物の提供。
【解決手段】少なくとも親水性層と疎水性層とを有し、各層が直接に接合されて積層され、かつ、厚み方向の通気抵抗が300〜2000mmAqであるポリオレフィン多孔質焼結体層積層物であって、該親水性層が、ホスホリルコリン基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、スルホン酸基またはその塩から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する親水性のエチレン性不飽和基含有モノマーをグラフトさせた親水性ポリオレフィン焼結体であることを特徴とする焼結体層積層物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は焼結体層積層物に関する。さらに詳しくは、親水性層と疎水性層が積層されたポリオレフィン多孔質焼結体層の積層物であって、吸水機能の長期持続性と低溶出性を兼ね備えるとともに、片面で吸収した水を反対面に透過させることなく、成形性、耐衝撃性、機械的強度および吸水時の寸法安定性に優れ、かつ、全体として良好な通気性を有する焼結体層積層物に関する。
【背景技術】
【0002】
連続空孔を有するポリオレフィン樹脂粒子の多孔質焼結体は、流体の濾過機能、透過機能、誘導機能等の優れた特徴を有しており、フィルター、散気管、液体の誘導材等として広く利用されている。特に、親水化されたポリエチレンを主体とする親水性多孔質焼結体は、その吸水機能を利用して、水の吸収、拡散、発散、透過、誘導等の用途に役立てられており、特許文献1に記載のポリオレフィン焼結体等が例示される。
ところで、吸水機能を有する多孔質体としては、親水化を施された合成繊維の布や不織布、アスベスト布あるいは天然繊維の布帛、紙等の繊維素材、親水化を施された熱可塑性樹脂の中空糸膜や微多孔膜、金属やセラミックスの焼結体、吸水性高分子材料等も挙げられるが、ポリオレフィン樹脂粒子の多孔質焼結体は、吸水時の膨潤等による寸法変化が極めて小さい、成形体としての高い強度を維持する、複雑な形状にも対応できる等の利点が全て備わっていることから、様々な用途への展開が期待されている。
【0003】
一方、冷蔵庫野菜室の結露水吸収体等のように、片面のみ吸水機能が求められる用途に親水性多孔質焼結体を使用すると、上部食品からの食汁をも吸収してしまい、汚染され易い。そこで、親水性層と疎水性層とを持った複合材が種々検討されてきた。簡便な方法として、親水性多孔質焼結体と疎水性多孔質焼結体とを熱あるいは接着剤等で接着する方法等が例示されるが、多孔質焼結体の特徴である通気性が損なわれてしまう恐れがあり、好ましくない。親水性多孔質焼結体と疎水性多孔質焼結体とを重ねて使用することも可能であるが、この場合には、該二層を密着させるための工夫が必要となる。特許文献2には、親水性多孔質焼結体と疎水性樹脂薄膜の組み合わせが開示されているが、樹脂薄膜では強度の観点から補強せざるを得ず、なおかつ、細孔が小さい上に親水性多孔質焼結体と融着させる必要があることから、通気性が大きく損なわれてしまう。
この他にも、例えば特許文献3等に記載されているように、特定の親水性層と疎水性層を一体化する方法が提案されている。しかしながら、焼結体層積層物の吸水機能としては、単に濡れ性を向上させるだけでなく、成形体としての強度および吸水時の寸法安定性を保ちながら毛細管現象を利用して自発的に水を吸い上げ保持し、かつ繰り返し使用できることが求められており、これらの要求を満たすためには、吸水機能の向上と成形体としての基本物性の双方からアプローチする必要があった。
【0004】
【特許文献1】特公平4−28021号公報
【特許文献2】特開昭62−36143号公報
【特許文献3】特許2577462号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたものであって、親水性層と疎水性層が積層され、吸水機能の長期持続性と低溶出性を兼ね備えるとともに、片面で吸収した水を反対面に透過させることなく、成形性、耐衝撃性、機械的強度および吸水時の寸法安定性に優れ、かつ、全体として良好な通気性を有する焼結体層積層物を提供することを目的とす
る。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、親水性層と疎水性層が積層された特定のポリオレフィン多孔質焼結体層積層物において、該親水性層として特定の親水性ポリオレフィン焼結体を用いることによって、吸水機能の長期持続性と低溶出性を兼ね備えるとともに、片面で吸収した水を反対面に透過させることなく、成形性、耐衝撃性、機械的強度および吸水時の寸法安定性に優れ、かつ、全体として良好な通気性を有する焼結体層積層物が容易に得られることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0007】
すなわち、本発明は下記の通りである。
(1)少なくとも親水性層と疎水性層とを有し、各層が直接に接合されて積層され、かつ、厚み方向の通気抵抗が300〜2000mmAqであるポリオレフィン多孔質焼結体層積層物であって、該親水性層が、ホスホリルコリン基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、スルホン酸基またはその塩から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する親水性のエチレン性不飽和基含有モノマーをグラフトさせた親水性ポリオレフィン焼結体からなる層であることを特徴とする焼結体層積層物。
(2)親水性のエチレン性不飽和基含有モノマーのグラフト率が、0.01〜50%であることを特徴とする、上記(1)に記載の焼結体層積層物。
(3)ホスホリルコリン基を有する親水性のエチレン性不飽和基含有モノマーが、下記一般式(1)
【0008】
【化1】

(上記一般式(1)中、Rは水素原子又はメチル基、nは2〜10の整数である。)
で示されるメタクリロイルオキシアルキルホスホリルコリン又はアクリロイルオキシアルキルホスホリルコリンから選ばれる少なくとも1種のモノマーであることを特徴とする、上記(1)又は(2)に記載の焼結体層積層物。
【0009】
(4)ホスホリルコリン基を有する親水性のエチレン性不飽和基含有モノマーが、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンであることを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の焼結体層積層物。
(5)焼結体層積層物がポリオレフィン樹脂粒子の焼結体からなり、該ポリオレフィン樹脂粒子がエチレンの単独重合体又はエチレンと炭素数が3以上のオレフィンとの共重合体であることを特徴とする、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の焼結体層積層物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、親水性層と疎水性層が積層され、吸水機能の長期持続性と低溶出性を兼ね備えるとともに、片面で吸収した水を反対面に透過させることなく、成形性、耐衝撃性、機械的強度および吸水時の寸法安定性に優れ、かつ、全体として良好な通気性を有する焼結体層積層物が容易に得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本願発明について具体的に説明する。なお、本発明において「重合」という語は
単独重合のみならず共重合を包含した意味で用いられることがあり、また、「重合体」という語は単独重合体のみならず、共重合体を包含した意味で用いられることがある。
本発明における焼結体層積層物とは、ポリオレフィン樹脂粒子を焼結成形したポリオレフィン多孔質焼結体の積層物であり、少なくとも親水性層と疎水性層とを有し、各層が直接に接合されている。
なお、本発明において、各層が直接に接合されている状態とは、原料粉体以外の物を介在させることなく接合された状態をいう。接合された積層物は一体化した状態にある。
本発明において、グラフトとは幹となるポリオレフィンの分子鎖に任意のエチレン性不飽和基含有モノマーが化学的に結合する反応を意味する。
【0012】
本発明に用いるポリオレフィン樹脂粒子としては、粒子状のポリオレフィンであれば特に限定されないが、焼結成形に好適な粒子が容易に得られる、焼結成形が容易であり賦形性に優れる、適度に柔らかく適度に剛性がある、耐薬品性に優れる、焼結体に成形した後も加工性に優れる、素材の吸湿性および吸水性が低いことにより吸水時の寸法安定性に優れる、エチレン性不飽和基含有モノマーをグラフトさせる際のラジカル保持率に優れる等の理由から、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン等の単独重合体、エチレンやプロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体、エチレンと酢酸ビニルの共重合体、エチレンとアクリル酸、メタクリル酸およびこれらのエステルとの共重合体であることが好ましく、エチレンの単独重合体あるいはエチレンと炭素数3以上のオレフィンとの共重合体であることが特に好ましい。
【0013】
エチレンと共重合する炭素数3以上のオレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン、ビニルシクロヘキサン等が挙げられ、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンが特に好ましい。このうちのいくつかを組み合わせて、エチレンと共重合することもできる。また、ブタジエン、イソプレン等のジエンの共存下にオレフィンを重合することも可能であり、さらにはジエンを重合することも可能である。
本発明に用いるポリオレフィン樹脂粒子は、重合によって得られた樹脂粒子をそのまま用いても良いし、分級して用いても良い。また、粒子以外の形状に賦形した物を機械粉砕、冷凍粉砕、化学粉砕等の公知の方法によって粉砕し、得られた樹脂粒子をそのまま用いても良いし、分級して用いても良い。
【0014】
本発明に用いるポリオレフィン樹脂粒子の形状について、特に制限はない。真球状でも不定形でもよく、一次粒子からなるものでも、一次粒子が複数個凝集し一体化した二次粒子でも、二次粒子をさらに粉砕したものでも構わない。
本発明に用いるポリオレフィン樹脂粒子の製造方法について特に制限はなく、一般的に用いられている溶液法、高圧法、高圧バルク法、スラリー法、気相法のいずれの製造方法を用いても良いが、オレフィン重合触媒を用いた重合によって直接ポリオレフィン樹脂粒子が得られるスラリー法または気相法を用いることが好ましく、特にスラリー法を用いることが好ましい。製造時の重合圧力について特に制限はなく、通常はゲージ圧として0.1MPa〜300MPaであるが、スラリー法の場合には常圧〜10MPaが好ましい。重合温度について特に制限はなく、通常は25℃〜300℃であるが、スラリー法の場合には25℃〜120℃が好ましく、50℃〜100℃が特に好ましい。スラリー法の溶媒としては、通常使用される不活性炭化水素溶媒が用いられ、例えば、イソブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、または、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素等が挙げられる。
【0015】
本発明におけるポリオレフィン樹脂粒子の平均粒径とは累積重量が50%となる粒子径、すなわちメディアン径であり、特に制限はないが、焼結体層積層物として通気性を確保
し、かつ、吸水機能を十分に発揮するには、10〜1000μmの範囲にあることが好ましく、30〜500μmの範囲にあることが特に好ましい。
本発明におけるポリオレフィン樹脂粒子の嵩密度とは、該ポリオレフィン樹脂粒子に滑剤等の添加剤を添加することなくJIS K 6892に準じて測定した値であり、特に制限はないが、焼結体層積層物として通気性を確保し、かつ、吸水機能を十分に発揮するには、0.20〜0.55g/cmの範囲にあることが好ましく、0.22〜0.50g/cmの範囲にあることが特に好ましい。
本発明におけるポリオレフィン樹脂粒子の密度とは、ポリオレフィン樹脂粒子のプレスシートから切り出した切片を用い、JIS K 7112に準じて測定した値であり、特に制限はないが、焼結体層積層物としての柔軟性を損なわずに剛性や耐薬品性を確保するには、0.850〜0.970g/cmの範囲にあることが好ましく、0.920〜0.960g/cmの範囲にあることが特に好ましい。
【0016】
本発明におけるポリオレフィン樹脂粒子の融点は、PERKIN ELMER社製示差走査熱量分析装置Pyris1を用いて測定した。サンプル8.4mgを50℃で1分保持した後、10℃/分の速度で200℃まで昇温し、その際に得られる融解曲線において最大ピークを示す温度を融点とした。
本発明におけるポリオレフィン樹脂粒子の粘度平均分子量とはポリマー溶液の比粘度から求めた極限粘度を粘度平均分子量に換算した値であり、特に制限はないが、焼結成形時に空孔の形成を阻害する要因となる樹脂の流動が少なく、かつ、隣り合うポリオレフィン樹脂粒子の融着性に優れるため、5万〜700万の範囲にあることが好ましく、10万〜500万の範囲にあることがより好ましく、20万〜400万の範囲にあることが特に好ましい。
【0017】
本発明における焼結体層積層物は、各層が直接に接合され一体化した状態にある。このため、接着等の二次加工を施す必要がなく、親水性層と疎水性層との積層物が得られる。また、各層が一体化しているため、焼結体本来の特性である通気性は損なわれない。
本発明において親水性層と疎水性層を直接に接合させて積層するには、親水性層又は疎水性層をあらかじめ予備成形し、その上にもう一方の層の原料を散布して全体を焼結する方法、親水性層の原料又は疎水性層の原料を散布し、その上にもう一方の原料を下層が乱れない様に散布して全体を焼結する方法等が例示される。なお、上記方法等の組み合わせによって3層以上にすることも可能である。
【0018】
本発明における焼結体は、ポリオレフィン樹脂粒子を所望の形状に堆積もしくは金型内に充填した後、粒子間に間隙を残しつつ無加圧または加圧の状態で融点以上に加熱することによって得られる。ポリオレフィン樹脂粒子の表層が加熱融着することによって、連続空孔を容易に形成することができる。金型内に充填する方法としては、例えばバイブレートリパッカー等の振動式の充填装置を用いることができる。振動充填させる際の振幅が粒子に与える影響は比較的少ないものの、長時間の振動負荷によって粒径の小さな粒子が下部に沈み込むという粒子の再分配を引き起こす可能性があることから、振動充填に要する時間は充填装置に合わせて必要最小限にすることが好ましい。金型の材質について特に制限はなく、例えば鉄、ステンレス、真鍮、アルミニウム等が用いられるが、耐久性があり、熱容量が小さく、軽量で取扱いが容易であることから、アルミニウムが好ましい。金型の形状は、2枚の平板を平行に配した板用の物、直径の異なる円筒状のものを二重に配した円筒用の物等、粒子の充填が可能であれば特に制限はない。
【0019】
本発明において焼結成形を行う際の加熱方法としては、温度制御が可能であれば特に制限はなく、例えば熱風乾燥機、電気誘電加熱、電気抵抗加熱等の方法を用いることができる。加熱温度は、ポリオレフィン樹脂粒子の融点付近で、粒子同士が十分に溶着する温度で、かつ、樹脂が流動し、粒子間隙を埋めることのない温度であれば特に制限はない。例
えば、ポリエチレンの場合、110〜220℃の範囲にあることが好ましく、120〜180℃の範囲にあることが特に好ましい。
本発明における焼結体層積層物の表面あるいは内部に、布、織物、編み物、不織布、穴あきフィルム、微多孔膜、金網等、本発明の吸水機能を阻害しないものを複合化することも可能である。また、一部分に非透湿性あるいは非透水性のフィルム、膜等を設けて、吸収した水分の影響を周囲に及ぼさないようにすることも可能である。さらに、着色、印刷等により意匠性を持たせることも可能である。なお、必要に応じて、熱安定剤、耐候剤、界面活性剤、帯電防止剤、吸臭剤、脱臭剤、防かび剤、抗菌剤、香料、フィラー等を添加して焼結成形しても良い。これら添加剤を加える際には、流動パラフィン等の展着剤を用いることも可能である。
【0020】
本発明における焼結体層積層物の連続空孔とは、焼結体のある面からその他の面へ連続している空孔である。この空孔は、直線的であっても曲線的であっても良い。また、全体が均一な寸法であっても良いし、例えば表層と内部、あるいは一方の表層と他方の表層とで空孔の寸法を変えたものであっても良い。
本発明における親水性層と疎水性層の厚みは、各々0.5mm以上であることが好ましく、1mm以上であることがより好ましい。この条件を満たすことにより、焼結体層積層物の強度を確保し、親水性層の吸水性と疎水性層の撥水性を十分に機能させることができる。また、本発明において、親水性層と疎水性層とが積層された全体の厚みは、1〜30mmであることが好ましく、1〜10mmであることがより好ましい。この条件を満たすことにより、焼結体層積層物としての通気性を十分に確保し、かつ、吸水機能を十分に発揮することができる。
【0021】
本発明における焼結体層積層物の平均空孔率とは、以下の式に従って算出された値であり、特に制限はないが、焼結体層積層物として通気性を確保し、かつ、吸水機能を十分に発揮するには、20〜60容積%であることが好ましく、25〜55容積%であることが特に好ましい。
平均空孔率(容積%)=[(真の密度−見掛けの密度)/真の密度]×100
ここで、真の密度(g/cm)とはポリオレフィン樹脂粒子の密度であり、見かけの密度(g/cm)とは焼結体層積層物の重量を焼結体層積層物の外寸から算出した容積で割った値である。なお、焼結体層積層物の空孔は全体に均一であっても良いし、不均一であっても良い。
【0022】
本発明における焼結体層積層物の平均空孔径とは、水銀圧入法により測定した値であり、特に制限はないが、焼結体層積層物として通気性を確保し、かつ、吸水機能を十分に発揮するには、1〜150μmであることが好ましく、10〜100μmであることが特に好ましい。
本発明における親水性のエチレン性不飽和基含有モノマーとは、大気圧下で25℃の純水に0.5重量%混合した際に均一溶解し、かつ、エチレン性不飽和基、すなわちグラフト反応が生じるための重合性二重結合を有しているモノマーである。また、少なくとも1つ以上の重合性二重結合を有する化合物であれば良く、それ自身が重合してマクロマーとなるものであっても良い。
本発明における親水性のエチレン性不飽和基含有モノマーは、ホスホリルコリン基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、スルホン酸基またはその塩から選ばれる少なくとも1種の官能基を有することを特徴としている。
本発明におけるホスホリルコリン基を有する親水性のエチレン性不飽和基含有モノマーとは、
【0023】
【化2】

で示されるリン脂質類似構造を有し、かつ、エチレン性不飽和基、すなわちグラフト反応が生じるための重合性二重結合を有しているモノマーである。また、少なくとも1つ以上の重合性二重結合を有する化合物であれば良く、それ自身が重合してマクロマーとなるものであっても良い。ホスホリルコリン基は、細胞膜を構成する脂質の極性基と同様の化学構造を有していることから、親水性に優れるとともに、良好な生体親和性を示す。
【0024】
本発明におけるホスホリルコリン基を有する親水性のエチレン性不飽和基含有モノマーとしては、例えば、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2−アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、3−メタクリロイルオキシプロピルホスホリルコリン、3−アクリロイルオキシプロピルホスホリルコリン、4−メタクリロイルオキシブチルホスホリルコリン、4−アクリロイルオキシブチルホスホリルコリン、5−メタクリロイルオキシペンチルホスホリルコリン、5−アクリロイルオキシペンチルホスホリルコリン、6−メタクリロイルオキシヘキシルホスホリルコリン、6−アクリロイルオキシヘキシルホスホリルコリン、7−メタクリロイルオキシヘプチルホスホリルコリン、7−アクリロイルオキシヘプチルホスホリルコリン、8−メタクリロイルオキシオクチルホスホリルコリン、8−アクリロイルオキシオクチルホスホリルコリン、9−メタクリロイルオキシノニルホスホリルコリン、9−アクリロイルオキシノニルホスホリルコリン、10−メタクリロイルオキシデシルホスホリルコリン、10−アクリロイルオキシデシルホスホリルコリン、2−メタクリロイルオキシプロピルホスホリルコリン、2−アクリロイルオキシプロピルホスホリルコリン等のメタクリロイルオキシアルキルホスホリルコリン又はアクリロイルオキシアルキルホスホリルコリン、2−メタクリロイルオキシエトキシエチルホスホリルコリン、2−アクリロイルオキシエトキシエチルホスホリルコリン、2−メタクリロイルオキシジエトキシエチルホスホリルコリン、2−アクリロイルオキシジエトキシエチルホスホリルコリン、2−メタクリロイルオキシトリエトキシエチルホスホリルコリン、2−アクリロイルオキシトリエトキシエチルホスホリルコリン、2−メタクリロイルオキシテトラエトキシエチルホスホリルコリン、2−アクリロイルオキシテトラエトキシエチルホスホリルコリン、2−メタクリロイルオキシペンタエトキシエチルホスホリルコリン、2−アクリロイルオキシペンタエトキシエチルホスホリルコリン、2−メタクリロイルオキシヘキサエトキシエチルホスホリルコリン、2−アクリロイルオキシヘキサエトキシエチルホスホリルコリン、2−メタクリロイルオキシヘプタエトキシエチルホスホリルコリン、2−アクリロイルオキシヘプタエトキシエチルホスホリルコリン、2−メタクリロイルオキシオクタエトキシエチルホスホリルコリン、2−アクリロイルオキシオクタエトキシエチルホスホリルコリン、2−メタクリロイルオキシノナエトキシエチルホスホリルコリン、2−アクリロイルオキシノナエトキシエチルホスホリルコリン、ビニルホスホリルコリン、アリルホスホリルコリン、ブテニルホスホリルコリン、ペンテニルホスホリルコリン、ヘキセニルホスホリルコリン、ヘプテニルホスホリルコリン、オクテニルホスホリルコリン、ノネニルホスホリルコリン、デセニルホスホリルコリン、ω−メタクリロイルオキシエチレンホスホリルコリン、ω−アクリロイルオキシエチレンホスホリルコリン、ω−メタクリロイルポリオキシエチレンホスホリルコリン、ω−アクリロイルポリオキシエチレンホスホリルコリン、2−アクリルアミドエチルホスホリルコリン、3−アクリルアミドプロピルホスホリルコリン、4−アクリルアミドブチルホスホリルコリン、5−アクリルアミドペンチルホスホリルコリン、6−アクリルアミドヘキシルホスホリルコリン、7−アクリルアミドヘプチルホスホリルコリン、8−アクリルアミドオクチルホ
スホリルコリン、9−アクリルアミドノニルホスホリルコリン、10−アクリルアミドデシルホスホリルコリン、ω−メタクリルアミドポリオキシエチレンホスホリルコリン、ω−アクリルアミドポリオキシエチレンホスホリルコリン、2−(p−スチリルオキシ)エチルホスホリルコリン、4−(p−スチリルオキシ)ブチルホスホリルコリン、2−(p−スチリル)ホスホリルコリン、2−(p−スチリルメチル)ホスホリルコリン、2−(p−ビニルベンジルオキシ)エチルホスホリルコリン、2−(p−ビニルベンジル)エチルホスホリルコリン、2−(p−ビニルベンゾイルオキシ)エチルホスホリルコリン、2−(ビニルオキシカルボニル)エチルホスホリルコリン、2−(アリルオキシカルボニル)エチルホスホリルコリン等が挙げられるが、下記一般式(1)
【0025】
【化3】

(上記一般式(1)中、Rは水素原子又はメチル基、nは2〜10の整数である。)
で示されるメタクリロイルオキシアルキルホスホリルコリン又はアクリロイルオキシアルキルホスホリルコリンが好ましく、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンが特に好ましい。これらのエチレン性不飽和基含有モノマーは1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0026】
本発明におけるヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、スルホン酸基またはその塩から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する親水性のエチレン性不飽和基含有モノマーとしては、例えば、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、グリセリンモノメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイルオキシプロピルメタクリレート、各種脂肪酸変性グリシジルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ポリ(エチレングリコール−テトラメチレングリコール)モノアクリレート、ポリ(エチレングリコール−テトラメチレングリコール)モノメタクリレート、ポリ(プロピレングリコール−テトラメチレングリコール)モノアクリレート、ポリ(プロピレングリコール−テトラメチレングリコール)モノメタクリレート、3−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、アリルアルコール等のヒドロキシル基を有するモノマー、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸等のカルボキシル基を有するモノマー、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート等のアミノ基を有するモノマー、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、N−ビニルアセトアミド、N−メチル−N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン等のアミド基を有するモノマー、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸リチウム、スチレンスルホン酸アンモニウム等のスルホン酸基またはその塩を有するモノマー等が挙げられ、これらのエチレン性不飽和基含有
モノマーは1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。また、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルソルベート、グリシジルメタイタコナート、エチルグリシジルマレアート、グリシジルビニルスルホナート等のエポキシ基を有するモノマー、酢酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪酸ビニルエステル、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、tert−ブチルアクリレート、シクロペンチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、n−ステアリルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、tert−ブチルメタクリレート、シクロペンチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、n−ステアリルメタクリレート等のアクリル酸またはメタクリル酸のエステル、アクリル酸クロリド、アクリル酸ブロミド、メタクリル酸クロリド、メタクリル酸ブロミド等のアクリル酸またはメタクリル酸のハライド、アクロレイン等の不飽和アルデヒド等を用いても良く、グラフトさせた後にこれらのモノマーに含まれる活性官能基を親水性官能基によって置換しても良い。
【0027】
本発明における親水性ポリオレフィン焼結体は、ポリオレフィン樹脂粒子を焼結成形した後に親水性のエチレン性不飽和基含有モノマーをグラフトさせて得ても良いし、あらかじめポリオレフィン樹脂粒子に親水性のエチレン性不飽和基含有モノマーをグラフトさせた後に焼結成形して得ても良い。
なお、あらかじめポリオレフィン樹脂粒子に親水性のエチレン性不飽和基含有モノマーをグラフトさせた後に焼結成形する場合には、溶着力を高めるために親水性のエチレン性不飽和基含有モノマーをグラフトさせていないポリオレフィン樹脂粒子を混合してから焼結成形しても良い。
親水性のエチレン性不飽和基含有モノマーをグラフトさせたポリオレフィン樹脂粒子とグラフトさせていないポリオレフィン樹脂粒子との混合は、ヘンシェルミキサー、タンブラー混合機、レディースミキサー、高速流動型混合機、V型混合機等を用いて実施することができるが、混合の際に粒子が帯電しないように装置、混合条件等を選択することが好ましい。粒子が帯電すると粒子同士の凝集が発生しやすくなり、均一な混合が難しくなることがある。アースや送風式除電装置等によって粒子搬送時の静電気を除電することが好ましい。
【0028】
親水性のエチレン性不飽和基含有モノマーをグラフトさせたポリオレフィン樹脂粒子とグラフトさせていないポリオレフィン樹脂粒子との混合比率について特に制限はないが、焼結体層積層物を構成する多孔質体としての強度と吸水機能を両立するには、前者が10〜70重量%の範囲にあることが好ましく、30〜60重量%の範囲にあることが特に好ましい。
本発明において親水性のエチレン性不飽和基含有モノマーをグラフトさせる方法としては、ラジカルを開始点として親水性のエチレン性不飽和基含有モノマーを導入し得る方法であれば特に制限はなく、例えば、コロナ放電やグロー放電により発生するプラズマによる方法、オゾンに代表されるような活性ガスによる方法、ベンゾフェノン、アセトフェノン等の光増感剤と紫外線等の活性光線による方法、電離放射線による方法、各種ラジカル開始剤による方法等が挙げられるが、均一性に優れることから活性光線又は電離放射線の照射によってラジカルを生成させる方法が好ましい。なお、本発明における電離放射線とは、物質と作用して電離現象を起こすことができる放射線であり、例えば、γ線、X線、β線、電子線、α線等が挙げられるが、工業生産に向いており、かつ、特に均一にラジカルを生成させることができるγ線が好ましい。
【0029】
本発明における電離放射線の照射線量は、親水性のエチレン性不飽和基含有モノマーをグラフトさせるのに十分なラジカルの生成量が得られ、不必要な架橋や部分的な分解が起こらない経済的な照射線量であれば特に制限はないが、ラジカルが均一に生成し、焼結体
層積層物を構成する多孔質体の剛性や耐薬品性に及ぼす影響も少ないことから、1kGy〜1000kGyの範囲にあることが好ましく、5kGy〜500kGyの範囲にあることがより好ましく、10kGy〜300kGyの範囲にあることが特に好ましい。
本発明において電離放射線を照射する方法としては、ポリオレフィン樹脂粒子またはその焼結体と親水性のエチレン性不飽和基含有モノマーの共存下に電離放射線を照射する同時照射法と、あらかじめポリオレフィン樹脂粒子またはその焼結体に電離放射線を照射した後、親水性のエチレン性不飽和基含有モノマーと接触させる前照射法に大別され、特に制限はないが、モノマーの単独重合物の生成が少ない前照射法が好ましい。
【0030】
本発明の前照射法において、ラジカルが生成したポリオレフィン樹脂粒子またはその焼結体と親水性のエチレン性不飽和基含有モノマーとの接触は、気相で行っても液相で行っても良く、特に制限はないが、より均一にグラフトさせることができる液相で行う方法が好ましい。また、均一性を高めるために、親水性のエチレン性不飽和基含有モノマーはあらかじめ溶媒中に溶解させてから用いることが好ましい。
本発明において親水性のエチレン性不飽和基含有モノマーを溶解させる溶媒としては、均一溶解できるものであれば良く、特に制限はないが、ポリオレフィン樹脂の膨潤度が小さいものを用いることが好ましい。中でも、膨潤度が10%以下の溶媒が好ましく、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、tert−ブタノール等のアルコール類、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトンや2−ブタノン等のケトン類、水、あるいはそれらの混合物等が挙げられる。なお、本発明における膨潤度とは、溶媒中に1時間浸漬したポリオレフィン樹脂粒子の平均粒径と、浸漬前のポリオレフィン樹脂粒子の平均粒径との差を、浸漬前のポリオレフィン樹脂粒子の平均粒径で割った値である。
【0031】
本発明の前照射法においてラジカルを生成させたポリオレフィン樹脂粒子の焼結体は、親水性のエチレン性不飽和基含有モノマーと接触させる前に、反応容器中で脱気することが好ましい。脱気した反応容器に親水性のエチレン性不飽和基含有モノマーを吸引導入することにより、焼結体の空孔内部にまで均一にグラフトさせることができる。脱気する際の反応容器内の真空度は0〜1340Paの範囲にあることが好ましく、0〜134Paの範囲にあることがより好ましく、0〜13.4Paの範囲にあることが特に好ましい。
本発明において電離放射線を照射する際の温度について、特に制限はないが、生成したラジカルの失活が抑制されるため、−150〜0℃の範囲にあることが好ましく、−100〜−30℃の範囲にあることが特に好ましい。なお、本発明の前照射法においてラジカルを生成させた後は、親水性のエチレン性不飽和基含有モノマーと接触させるまでの間、−10℃以下の低温に保つことが好ましい。低温に保たない場合には、ラジカルが急速に減衰し、例えば、25℃の室温で30分経過するとその数は半分になる。さらに、ラジカルが微量の吸着酸素と反応し、焼結体の耐熱性や耐薬品性を損なうこともある。
【0032】
本発明において親水性のエチレン性不飽和基含有モノマーをグラフトさせる際の温度は、ポリオレフィン樹脂粒子の融点未満であれば特に制限はないが、0〜100℃の範囲にあることが好ましく、5〜90℃の範囲にあることがより好ましく、10〜80℃の範囲にあることが特に好ましい。グラフトさせる際の温度が0℃より低い場合には、反応速度が遅く、反応が不均一に進行することがある。グラフトさせる際の温度が100℃よりも高い場合には、モノマーの単独熱重合物が生成して、焼結体の空孔が閉塞することがあり、さらにはそれらが使用時に流出する恐れもある。
本発明においてラジカルが生成したポリオレフィン樹脂粒子またはその焼結体と親水性のエチレン性不飽和基含有モノマーとを液相で接触させる場合、親水性のエチレン性不飽和基含有モノマーの液相濃度について特に制限はないが、親水性ポリオレフィン焼結体の空孔を閉塞させずに十分な親水性を得るには、0.3〜30容積%の範囲にあることが好ましく、1.0〜20容積%の範囲にあることがより好ましく、2.0〜15容積%であ
ることが特に好ましい。なお、液相の量について特に制限はないが、工業生産の観点からポリオレフィン樹脂粒子またはその焼結体1gに対して2×10−6〜5×10−3の割合で用いることが好ましく、3×10−6〜2×10−3の割合で用いることが特に好ましい。
【0033】
本発明では、ポリオレフィン樹脂粒子からなる多孔質焼結体の実用的な透過性能を維持したまま、吸水機能の発現に十分な量のエチレン性不飽和基含有モノマーをグラフトさせる。従って、親水性ポリオレフィン焼結体のグラフト率は0.01〜50%の範囲にあることが好ましく、0.05〜40%の範囲にあることがより好ましく、0.10〜30%の範囲にあることが特に好ましい。
本発明におけるグラフト率とは、以下の式に従って算出された値である。
グラフト率(%)=[(グラフト後の重量−グラフト前の重量)/グラフト前の重
量]×100
なお、溶着力を高めるために親水性のエチレン性不飽和基含有モノマーをグラフトさせていないポリオレフィン樹脂粒子を混合してから焼結成形する場合は、上記式における分母の「グラフト前の重量」をグラフトさせていないポリオレフィン樹脂粒子も含めたポリオレフィン樹脂粒子の総重量とする。
本発明における水滴吸収時間とは、大気圧下、25℃にて、水平に静置した縦50mm、横50mm、厚さ2mmの焼結体の中央に、高さ20mmの位置から35μlの水滴を滴下し、全量が焼結体内部に吸収されるまでに要する時間である。本発明における水滴吸収時間について、特に制限はないが、焼結体層積層物として吸水機能を十分に発揮するには、30秒以下であることが好ましく、10秒以下がより好ましく、5秒以下が特に好ましい。
【0034】
また、本発明における水の吸い上げ高さとは、大気圧下、25℃にて、厚さ2mm、幅10mm、高さ100mmの焼結体の下部20mmを25℃の水中に垂直に浸漬し、浸漬してから1分後の毛細管現象による水の吸い上げ距離を測定した値である。本発明における水の吸い上げ高さについて、特に制限はないが、焼結体層積層物として吸水機能を十分に発揮するには、1分間で5mm以上であることが好ましく、10mm以上がより好ましく、15mm以上が特に好ましい。
本発明における焼結体層積層物の特徴として挙げられる吸水機能の持続性を確認するには、例えば、60℃温水可溶成分を除去した後の水滴吸収時間と水の吸い上げ高さを測定すれば良い。ここで、60℃温水可溶成分を除去する方法について説明する。まず、ユニット型恒温槽が備え付けられた60℃の温水循環槽中に測定対象となる焼結体層積層物を7時間浸漬する。その後、焼結体層積層物の空孔に残存した水分を除去し、乾燥させる。この操作を計3回繰り返すことによって60℃温水可溶成分を除去する。界面活性剤や親水性ポリマー等の60℃温水可溶成分をコーティングすることによって焼結体層積層物の親水性層を得た場合には、この除去方法によって吸水機能が失われることになる。
【0035】
本発明における60℃温水可溶成分を除去した後の水滴吸収時間について、特に制限はないが、焼結体層積層物として吸水機能を十分に発揮するには、30秒以下であることが好ましく、10秒以下がより好ましく、5秒以下が特に好ましい。
本発明における60℃温水可溶成分を除去した後の、本発明における水の吸い上げ高さについて、特に制限はないが、焼結体層積層物として吸水機能を十分に発揮するには、1分間で5mm以上であることが好ましく、10mm以上がより好ましく、15mm以上が特に好ましい。
本発明において使用する水は、ろ過、蒸留、逆浸透、およびイオン交換のいずれか、または、これらの組み合わせによって不純物や金属イオン等を除去し、抵抗率で5万Ω・cm以上の純水を用いることが望ましい。
【0036】
本発明における焼結体層積層物の通気抵抗とは、後述する方法に基づいて測定した圧力損失の値であり、特に制限はないが、焼結体層積層物として通気性を確保し、かつ、吸水機能を十分に発揮するには、300〜2000mmAqであることが好ましく、400〜1500mmAqであることがより好ましく、500〜1000mmAqであることが特に好ましい。
次に、実施例および比較例によって本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
[平均空孔率の測定]
本発明の実施例および比較例における平均空孔率は、以下の式に従って算出した。
平均空孔率(容積%)=[(真の密度−見掛けの密度)/真の密度]×100
ここで、真の密度(g/cm)とはポリオレフィン樹脂粒子の密度であり、見かけの密度(g/cm)とは焼結体の重量を焼結体の外寸から算出した容積で割った値である。
[平均空孔径の測定]
本発明の実施例および比較例における平均空孔径は、株式会社島津製作所製自動ポロシメータオートポアIV9510を用いて求めた。測定条件は、低圧部測定範囲0.54〜40psia、低圧部測定点数46点、高圧部測定範囲50〜6000psia、高圧部測定点数43点とした。
【0038】
[60℃温水可溶成分の除去]
本発明の実施例および比較例における60℃温水可溶成分の除去は、以下の方法によって行った。まず、タイテック株式会社製サーモミンダーSH−12を取り付けた、縦335mm、横190mm、深さ155mmの内容積を有するポリ水槽に、8000cmの水を入れて60℃に設定し、この温水循環槽中に測定対象となる焼結体を7時間浸漬した。その後、焼結体の空孔に残存した水分を除去し、乾燥させた。この操作を計3回繰り返すことによって60℃温水可溶成分を除去した。なお、本発明の実施例および比較例における水は、イオン交換水(岡山汽水工業有限会社製、採水時の抵抗率が200万Ω・cm以上)を使用した。
【0039】
[水滴吸収時間の測定]
本発明の実施例および比較例における水滴吸収時間は、大気圧下、25℃にて、水平に静置した縦50mm、横50mm、厚さ2mmの焼結体の中央に、エッペンドルフ株式会社製マイクロピペットを用いて高さ20mmの位置から35μlの水滴を滴下し、全量が焼結体内部に吸収されるまでの時間を測定することによって求めた。
[水の吸い上げ高さの測定]
本発明の実施例および比較例における水の吸い上げ高さは、大気圧下、25℃にて、厚さ2mm、幅10mm、高さ100mmの焼結体の下部20mmを25℃の水中に垂直に浸漬し、浸漬してから1分後の毛細管現象による水の吸い上げ距離を測定することによって求めた。
【0040】
[平均粒径の測定]
本発明におけるポリオレフィン樹脂粒子の平均粒径とは累積重量が50%となる粒子径、すなわちメディアン径である。
本発明の実施例および比較例におけるポリオレフィン樹脂粒子の平均粒径は、株式会社島津製作所製SALD−2100を用い、メタノールを分散媒として測定することによって求めた。
[嵩密度の測定]
本発明の実施例および比較例におけるポリオレフィン樹脂粒子の嵩密度は、該ポリオレ
フィン樹脂粒子に滑剤等の添加剤を添加することなく、JIS K 6892に準じて測定することによって求めた。
【0041】
[密度の測定]
本発明の実施例および比較例におけるポリオレフィン樹脂粒子の密度は、ポリオレフィン樹脂粒子のプレスシートから切り出した切片を120℃で1時間アニーリングし、その後25℃で1時間冷却したものを密度測定用サンプルとして用い、JIS K 7112に準じて測定することによって求めた。なお、ポリオレフィン樹脂粒子のプレスシートは、縦60mm、横60mm、厚み2mmの金型を用い、ASTM D 1928 Procedure Cに準じて作成した。
【0042】
[粘度平均分子量の測定]
本発明の実施例および比較例におけるポリオレフィン樹脂粒子の粘度平均分子量は、以下に示す方法によって求めた。まず、20cmのデカリン(デカヒドロナフタレン)にポリマー10mgをいれ、150℃で2時間攪拌してポリマーを溶解させた。その溶液を135℃の恒温槽で、ウベローデタイプの粘度計を用いて、標線間の落下時間(t)を測定した。同様に、ポリマー5mgの場合についても測定した。ブランクとしてポリマーを入れていない、デカリンのみの落下時間(t)を測定した。以下の式に従って求めたポリマーの比粘度(ηsp/C)をそれぞれプロットして濃度(C)とポリマーの比粘度(ηsp/C)の直線式を導き、濃度0に外挿した極限粘度(η)を求めた。
ηsp/C=(t/t−1)/0.1
この極限粘度(η)から以下の式に従い、粘度平均分子量(Mv)を求めた。
Mv=5.34×10η1.49
【0043】
[通気抵抗の測定]
本発明の実施例および比較例における吸引用シートの通気抵抗は、以下に示す方法によって求めた。まず、内径6mmの塩ビホースを用い、流量計、圧力計、および内径20mmのゴムカップを図1のように接続した。25℃にて1kg/cmの圧縮空気を50ノルマルリットル/分の流量で流し、ゴムカップの縁全面がふさがれるようにして焼結シートに密着させ、圧力計が示す値を測定した。1枚の焼結シートについて等間隔に計6点測定して平均値を算出し、通気抵抗とした。
【0044】
[実施例1]
厚さ2mmのアルミニウム板を用いて、外寸が厚さ6mm、幅112mm、高さ108mm、内寸が厚さ2mm、幅100mm、高さ100mmの金型を作成した。金型の上蓋となるアルミニウム板を外し、30秒間バイブレーターで振動を与えながら、平均粒径が277μm、嵩密度が0.45g/cm、密度が0.955g/cm、粘度平均分子量が30万である高密度ポリエチレンパウダー(旭化成ケミカルズ株式会社製サンファインTM SH821)を充填した。上蓋を元に戻した後、150℃のオーブンで25分間加熱して平板状の焼結体を作成した。
【0045】
ベンゾフェノン(アルドリッチ社製)1gをアセトン1000cmに溶解した溶液に上記の焼結体を1分間遮光下で浸漬した後、取り出した焼結体を遮光した状態で1時間減圧乾燥した。2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(日本油脂株式会社製)の0.25mmol/cm水溶液を作成し、40℃にて30分間窒素バブリングして溶存酸素を除去した。この溶液1200cm中にベンゾフェノンのアセトン溶液で処理した上記の焼結体を固定して60℃とし、高圧水銀ランプUVL−400HA(理工科学産業株式会社製)を用いて紫外線を90分間照射した。その後、蒸留水1200cmとメタノール(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)1200cmにそれぞれ25℃で8時間浸漬させて洗浄し、この洗浄操作を計3回繰り返した後、乾燥させることによって、グ
ラフト率0.40%の親水性多孔質焼結体を得た。
【0046】
次に、厚さ2mmのアルミニウム板を用いて、外寸が厚さ8mm、幅112mm、高さ108mm、内寸が厚さ4mm、幅100mm、高さ100mmの金型を作成した。金型の上蓋となるアルミニウム板を外して上記の親水性多孔質焼結体を挿入した後、金型を厚み方向に45度傾けて空間部をつくり、その空間部に平均粒径が277μm、嵩密度が0.45g/cm、密度が0.955g/cm、粘度平均分子量が30万である高密度ポリエチレンパウダー(旭化成ケミカルズ株式会社製サンファインTM SH821)を30秒間バイブレーターで振動を与えながら充填した。上蓋を元に戻した後、150℃のオーブンで25分間加熱して平板状の焼結体層積層物を得た。
得られた焼結体層積層物の親水性層面に、高さ20mmの位置から35μlの水滴を滴下したところ、水滴は吸収された。一方、疎水性層面にも同様に水滴を滴下したが、水は吸収されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によって得られる焼結体層積層物は、親水性層と疎水性層が積層され、吸水機能の長期持続性と低溶出性を兼ね備えるとともに、片面で吸収した水を反対面に透過させることなく、成形性、耐衝撃性、機械的強度および吸水時の寸法安定性に優れ、かつ、全体として良好な通気性を有しており、例えば、冷蔵庫野菜室の結露水吸収体として使用する場合、親水性層は野菜室の結露水を吸収し野菜室に水滴を落とすこと無く、貯蔵されている野菜を長持ちさせる機能を有し、疎水性層は上部食品からの食汁等が親水性層に染み込まないように、あるいは冷蔵庫器壁に付着した結露水が親水性層に落下して吸収されるのを防ぐ機能を有する。また、該焼結体層積層物は良好な通気性を有することから野菜室内の水蒸気が過飽和になることを防ぎ、更には冷気の循環を良くし、冷却効率を上げることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明において通気抵抗を測定する設備の構成を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも親水性層と疎水性層とを有し、各層が直接に接合されて積層され、かつ、厚み方向の通気抵抗が300〜2000mmAqであるポリオレフィン多孔質焼結体層積層物であって、該親水性層が、ホスホリルコリン基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、スルホン酸基またはその塩から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する親水性のエチレン性不飽和基含有モノマーをグラフトさせた親水性ポリオレフィン焼結体からなる層であることを特徴とする焼結体層積層物。
【請求項2】
親水性のエチレン性不飽和基含有モノマーのグラフト率が、0.01〜50%であることを特徴とする、請求項1に記載の焼結体層積層物。
【請求項3】
ホスホリルコリン基を有する親水性のエチレン性不飽和基含有モノマーが、下記一般式(1)
【化1】

(上記一般式(1)中、Rは水素原子又はメチル基、nは2〜10の整数である。)
で示されるメタクリロイルオキシアルキルホスホリルコリン又はアクリロイルオキシアルキルホスホリルコリンから選ばれる少なくとも1種のモノマーであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の焼結体層積層物。
【請求項4】
ホスホリルコリン基を有する親水性のエチレン性不飽和基含有モノマーが、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の焼結体層積層物。
【請求項5】
焼結体層積層物がポリオレフィン樹脂粒子の焼結体からなり、該ポリオレフィン樹脂粒子がエチレンの単独重合体又はエチレンと炭素数が3以上のオレフィンとの共重合体であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の焼結体層積層物。

【図1】
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【公開番号】特開2009−113315(P2009−113315A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288276(P2007−288276)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】