説明

焼結材の封孔処理方法

【課題】焼結材の表面を荒くさせたり、損傷させたりすることなく、低コストで、焼結材の焼結工程後の空孔を塞ぐ。
【解決手段】封孔処理装置2から噴射する粒子を焼結材1よりも低硬度かつ低融点の粒子(例えば、錫(Sn))とする。Snは硬度が1.5(モース硬度)、融点が232℃であり、本発明で用いる粒子として最も適している。また、封孔処理装置2から噴射する粒子の粒子径を5〜50μmとする。封孔処理装置2から粒子Pが噴射され、焼結材1の表面に叩きつけられると、その時の摩擦熱で粒子Pが溶け、焼結材1の焼結工程後の空孔(1h)に流れ込み、その空孔(1h)を塞ぐ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、焼結材の焼結工程後の空孔を当該焼結材の表面に粒子を叩きつけることによって塞ぐ焼結材の封孔処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、粉末金属を材料とする焼結金属(焼結材)は、形状自由度が高く、量産性にも優れていることから、多くの機械部品に使用されている。しかしながら、粉末金属を材料として製造されるため、その内部や表面に空孔を含む欠点を有し、強度や耐久性が劣る。そこで、焼結材の製造工程において、焼結材の焼結工程後の空孔を塞いで強度や耐久性の向上を図る技術が種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、硬さがHRc60以上、粒子径がφ0.250mm未満の噴射材(粒子)を使用し焼結材の表面をブラスト処理することによって、焼結材の焼結工程後の空孔を塞ぐようにしている。
【0004】
また、特許文献2では、ショットピーニング法またはショットブラスト法によって、焼結材の焼結工程後の空孔を塞ぐようにしている。この特許文献2に示されたショットピーニング法またはショットブラスト法では、ショットと呼ばれる鋼球(粒子)を焼結体の表面に叩きつけることにより、焼結材の焼結工程後の空孔を潰す。
【0005】
また、特許文献3では、焼結材に錫メッキを施した後、硬質球(粒子)を用いたショットピーニングにより錫メッキ層を圧縮させて、焼結材の焼結工程後の空孔を塞ぐようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−105409号公報
【特許文献2】特開平9−194908号公報
【特許文献3】特開2003−328010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1〜3では、何れも焼結材よりも硬い硬質粒子を焼結材の表面に叩きつけて焼結材を変形させて空孔を塞いでおり、硬度が比較的低い焼結材に関しては、表面を荒くさせたり、損傷させる等、強度改善にはならず逆効果となってしまうケースが生じるという問題があった。
【0008】
また、特許文献3では、焼結材の表面に錫メッキを施してから、ショットピーニングにより錫メッキ層を圧縮させるようにしているため、製造工程内にメッキ工程が必要となり、コスト増が否めない。
【0009】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、焼結材の表面を荒くさせたり、損傷させたりすることなく、低コストで、焼結材の焼結工程後の空孔を塞ぐことが可能な焼結材の封孔処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するために本発明は、焼結材の焼結工程後の空孔を当該焼結材の表面に粒子を叩きつけることによって塞ぐ焼結材の封孔処理方法において、焼結材の表面に叩きつける粒子を焼結材よりも低硬度かつ低融点の材料としたものである。
【0011】
この発明では、焼結材よりも低硬度かつ低融点の材料を粒子とし、この粒子を焼結材の表面に叩きつける。すなわち、ショットピーニングによって、硬質粒子ではなく、低硬度かつ低融点の粒子を焼結材の表面に叩きつける。この場合、焼結材の表面に叩きつけられた粒子は、その時の摩擦熱で溶けて焼結材の空孔内に流れ込む。
【0012】
本発明において、焼結材の表面に叩きつける粒子は、焼結材よりも低硬度かつ低融点であればよく、例えば錫(Sn)とすることが考えられる。Snは硬度が1.5(モース硬度)、融点が232℃であり、本発明で用いる粒子として最も適している。また、本発明において、焼結材の表面に叩きつける粒子は、その粒子径が5〜50μmであることが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、焼結材の表面に叩きつける粒子を焼結材よりも低硬度かつ低融点の材料としたので、焼結材の表面に叩きつけられた粒子がその時の摩擦熱で溶けて焼結材の空孔内に流れ込むものとなり、焼結材の表面を荒くさせたり、損傷させたりすることなく、低コストで、焼結材の焼結工程後の空孔を塞ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る焼結材の封孔処理方法を説明するための図である。
【図2】焼結材の表面に封孔処理装置から噴射された粒子が叩きつけられる様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明に係る焼結材の封孔処理方法を説明するための図である。同図において、1は焼結工程後の焼結材、2はこの焼結材1に対して封孔処理を行う封孔処理装置である。
【0016】
なお、焼結材1としては、鉄系焼結材料(硬度HRF30以上)や銅系焼結材料(硬度HRH40以上)など、後述する封孔処理装置2から噴射する粒子よりも硬い材料であれば各種の材料が適用可能である。
【0017】
この実施の形態において、封孔処理装置2は、焼結材1の表面に対してショットピーニングを行うことにより、すなわち焼結材1の表面に粒子を叩きつけることによって、焼結材1の焼結工程後の空孔を塞ぐ。ここで、従来は封孔処理装置2から噴射する粒子を硬質粒子としていたが、本実施の形態では、焼結材1よりも低硬度かつ低融点の粒子とする。
【0018】
本実施の形態において、封孔処理装置2から噴射する粒子は錫(Sn)としている。Snは硬度が1.5(モース硬度)、融点が232℃であり、本発明で用いる粒子として最も適している。また、本実施の形態において、封孔処理装置2から噴射する粒子の粒子径は5〜50μmとしている。本発明で用いる粒子の粒子径は、5〜50μmが最適である。
【0019】
図2に焼結材1の表面に封孔処理装置2から噴射された粒子Pが叩きつけられる様子を示す。同図(a)は粒子Pが叩きつけられる前の状態を示し、同図(b)は叩き付けられた時の状態を示し、同図(c)は叩きつけられた後の状態を示す。なお、図2において、1hは焼結材1の焼結工程後の空孔を示す。
【0020】
封孔処理装置2から粒子Pが秒速150m程度で噴射され(図2(a))、焼結材1の表面に叩きつけられると(図2(b))、その時の摩擦熱で粒子Pが溶ける。すなわち、粒子Pは焼結材1よりも低融点であるので、叩きつけられた時の摩擦熱で粒子Pが溶ける。また、粒子Pは焼結材1よりも低硬度であるので、叩きつけられた時の衝撃で変形する。このため、粒子Pが叩きつけられても、焼結材1の表面が荒くなることがなく、損傷が与えられることもない。
【0021】
焼結材1の表面に叩きつけられ、その時の摩擦熱で溶けた粒子Pは、焼結材1の空孔1hに流れ込む(図2(c))。焼結材1の表面には、次々に粒子Pが叩き付けられ、その時の摩擦熱で溶けた粒子Pが焼結材1の空孔1hに次々に流れ込む。このようにして、空孔1hが摩擦熱で溶けた粒子Pで埋まり、空孔1hが塞がれる。
【0022】
なお、図2では、1つの空孔1hを代表して説明しているが、焼結材1の他の空孔1hでも同様にして摩擦熱で溶けた粒子Pが流れ込み、その空孔1hが塞がれるものとなる。このようにして、本実施の形態では、焼結材1の表面を荒くさせたり、損傷させたりすることなく、焼結材1の焼結工程後の空孔を塞ぐことができる。また、本実施の形態では、特許文献3に示されたようなメッキ工程を必要とせず、低コストで、焼結材1の焼結工程後の空孔を塞ぐことができる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の焼結材の封孔処理方法は、例えば電動操作器で使用している歯車、シャフト、ジョイントなどを焼結材とし、これら焼結材の焼結工程後の空孔を塞ぐ方法として利用することが可能である。
【符号の説明】
【0024】
1…焼結材、1h…空孔、2…封孔処理装置、P…粒子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結材の焼結工程後の空孔を当該焼結材の表面に粒子を叩きつけることによって塞ぐ焼結材の封孔処理方法において、
前記焼結材の表面に叩きつける粒子を前記焼結材よりも低硬度かつ低融点の材料とした
ことを特徴とする焼結材の封孔処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載された焼結材の封孔処理方法において、
前記焼結材の表面に叩きつける粒子は、錫である
ことを特徴とする焼結材の封孔処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された焼結材の封孔処理方法において、
前記焼結材の表面に叩きつける粒子は、その粒子径が5〜50μmである
ことを特徴とする焼結材の封孔処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−21245(P2011−21245A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167630(P2009−167630)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(000006666)株式会社山武 (1,808)
【Fターム(参考)】