説明

焼結鉱の製造方法

【課題】 結晶水を含む粉鉄鉱石を焼結原料として使用する焼結鉱製造プロセスにおいて、凝結材として使用する無煙炭又は粉コークスの使用量を削減すること、並びに焼結鉱の生産性を向上しかつ被還元性を向上することによって高炉プロセスにおける還元材比を低減することを可能とする焼結鉱の製造方法を提供する。
【解決手段】 焼結鉱製造プロセスにおいて焼結原料として使用するピソライト鉱石またはマラマンバ鉱石などの結晶水を含む粉鉄鉱石の一部もしくは全部を、高炉ガス等の還元性ガスを用いて流動層等の還元炉で予備還元し、粉鉄鉱石中の結晶水を除去するとともに、粉鉄鉱石中のヘマタイトをマグネタイト乃至はウスタイトまで還元し、この予備還元粉鉱石とその他粉鉄鉱石、雑鉄源、副原料、返鉱及び凝結材と配合した原料を焼結鉱製造プロセスで使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼製造プロセスにおける焼結鉱の製造方法に関し、特に、結晶水を含む粉鉄鉱石を焼結原料に使用する焼結鉱の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
焼結鉱製造プロセスでは、粉鉄鉱石、並びに焼結工場系内及び焼結工場系外で発生する篩下粉、ダスト、ミルスケール等の鉄分を含む原料(雑鉄源)、石灰石などの造滓材(副原料)を焼結原料としている。前記焼結原料はそれぞれ異なった化学成分からなるので、高炉操業に適した化学成分の焼結鉱を製造するために、前記焼結原料それぞれの使用割合を適切に配合している。前記焼結原料を適切に配合したものにコークス、石炭等の凝結材を加えて配合原料とする。現在、一般に行われているドワイトロイド(DL)式焼結機の焼結プロセスでは、前記配合原料からなる充填層の下方を負圧とし、上方から下方に空気を流通させて配合原料中の凝結材を燃焼させて、発生した燃焼熱により粉鉱石等の鉄分を含む原料と副原料を焼結して塊成化した焼結鉱を製造する。この焼結鉱を高炉では主要な原料として使用する。
【0003】
揮発分の高い石炭は焼結鉱製造プロセスでの凝結材として使用することができないので、粉状のコークス又は無煙炭等が混合されて、凝結材として使用される。凝結材に使用するコークスは、粒径が小さくて高炉に使用するには不適当なコークスを、さらに粉砕して凝結材として適当な粒径にして焼結鉱製造プロセスで使用する。粒径が小さく高炉使用に不適当とされるコークスの量は、焼結プロセスで必要とされる凝結材量に対して少ないため、不足する量を無煙炭で補っている。
【0004】
また、近年、焼結鉱製造プロセスの粉鉄鉱石原料として使用されてきた赤鉄鉱石等の供給量が減少し、結晶水を含む粉鉄鉱石であるローブリバー鉱石、ヤンディクージナ鉱石などのピソライト鉱石、またはウェストアンジェラス鉱石などのマラマンバ鉱石などの使用量が増えている。これらの結晶水を含む粉鉄鉱石を焼結鉱製造プロセスの原料として使用すると、粉鉄鉱石中の結晶水の熱分解に熱が必要なため、熱の供給源である凝結材の使用量が増大する。
【0005】
特許文献1には結晶水を含む鉄鉱石を還元した還元鉄の利用方法として、該還元鉄を高炉原料として使用する高炉操業方法が記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開平9−165607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
無煙炭の埋蔵量は瀝青炭や亜瀝青炭に比較して少なく、市場が小さいため、安定的な購入が難しく、将来的にはその絶対量が不足すると考えられる。無煙炭供給量が不足すると、本来高炉で使用可能な大きさのコークスを粉砕して凝結材量を確保することになる。その結果、コークス炉を新設したり高価な粘結性の高い原料炭使用量を増やしたりしてコークス生産量を増加すること、あるいは高価なコークスを購入することが必要となり、費用の上昇を招き経済的でない。
【0008】
結晶水を含む粉鉄鉱石の使用量を増やす場合には、粉鉄鉱石中の結晶水の熱分解に熱が必要なため凝結材比を上昇することが必要である。その結果、凝結材比の上昇によって凝結材の燃焼によって発生する熱量が大きくなり、配合原料からなる充填層内で焼結反応が進行する過程で該充填層内に凝結材の燃焼発熱によって形成される高温領域が拡大し融液が過剰に生成するために、焼結層での通気抵抗が上昇し、凝結材の燃焼に必要な空気の供給が阻害されるため焼結鉱の生産性が悪化する。さらに、過剰に生成した融液によって焼結鉱の気孔量が減少し、焼結鉱の被還元性が悪化して高炉使用時の還元材比上昇を招き、経済性が悪化する。
【0009】
結晶水を含む鉄鉱石を還元し、金属鉄を含む還元率30%以上の還元鉄を、焼結鉱製造プロセスに使用せずに、高炉プロセスに直接使用することによって、高炉生産性を高め、高炉でのコークス比を低減することを可能とする高炉操業方法が特許文献1に記載されている。金属鉄を含む還元率30%以上の還元鉄を製造するためには、還元能力の高い還元ガスを使用する必要があり、該特許文献1の実施例ではH2が80%の還元ガス又は天然ガスを改質して製造したH2が50%でCOが35%の還元ガスを使用している。このような還元ガスを製造するコストは高く製造する還元鉄の価格は高いものとなる。該特許文献1は、このように高炉で直接使用するものであり、焼結鉱の製造プロセスにおける凝結材比の低減や、焼結鉱の被還元性の改善を目的とするものではない。
【0010】
本発明においては、焼結鉱製造プロセスにおける凝結材比を減少し無煙炭又は粉コークス使用量を削減すること、並びに焼結鉱の生産性を向上すること及び焼結鉱の被還元性を向上することによる高炉プロセスにおける還元材比を低減することを可能とする焼結鉱の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
(1)結晶水を含む鉄鉱石を、還元性ガスを用いて還元し、得られる還元鉱石を焼結原料に使用して焼結鉱を製造することを特徴とする焼結鉱の製造方法。
(2)前記結晶水を含む鉄鉱石が、ピソライト鉱石又はマラマンバ鉱石の少なくともいずれかであることを特徴とする前記(1)記載の焼結鉱の製造方法。
(3)前記還元を、流動層を用いて行うことを特徴とする前記(1)又は(2)記載の焼結鉱の製造方法。
(4)前記還元に用いる還元性ガスとして、高炉ガスを部分酸化したガスを使用することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の焼結鉱の製造方法。
(5)前記部分酸化する高炉ガスに事前に、転炉ガス、コークス炉ガス、天然ガス、液化石油ガス、その他高炉ガスよりも発熱量の高いガスより選ばれる一種以上を加えることを特徴とする前記(4)記載の焼結鉱の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、結晶水を含む粉鉄鉱石の一部を焼結前に還元(予備還元)して、粉鉄鉱石中の結晶水を除去するとともに、粉鉄鉱石中のヘマタイトをマグネタイト乃至はウスタイトまで還元し、この予備還元粉鉱石を焼結鉱製造プロセスで使用することによって、凝結材比を減少し、焼結鉱の生産性と被還元性を向上することができる。焼結鉱製造プロセスにおいては、凝結材比を削減することにより、高価でかつ供給不安のある無煙炭の使用量を削減することができる。さらに、被還元性良好な焼結鉱の生産量を増やすことが可能となるため、高炉プロセスにおいては、還元材比を低減し、高価なコークスや微粉炭の使用量を低減することができる。また、焼結プロセスにおける凝結材比の削減と高炉プロセスにおける還元材比の低減によって、製銑プロセス全体のCO2発生量を抑制し地球温暖化防止に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
焼結鉱製造プロセスで使用する粉鉄鉱石は通常10mm程度以下である。焼結鉱製造プロセスで使用する粉鉄鉱石のうち、豪州から輸入されるローブリバー鉱石、ヤンディクージナ鉱石などのピソライト鉱石、またはウェストアンジェラス鉱石などのマラマンバ鉱石は結晶水を含んでいる。ピソライト鉱石は8%程度、マラマンバ鉱石は3%以上の結晶水を含んでいる。
【0014】
本発明の焼結鉱の製造方法は第1に、結晶水を含む鉄鉱石を、還元性ガスを用いて還元し、得られる還元鉱石を焼結原料に使用して焼結鉱を製造することを特徴とする。
【0015】
前述のとおり、結晶水を含む粉鉄鉱石を焼結鉱製造プロセスの原料として使用すると、粉鉄鉱石中の結晶水の熱分解に熱が必要なため、熱の供給源である凝結材の使用量が増大するという問題があった。還元性ガスを用いて鉄鉱石を還元すると、還元に適する温度においては鉄鉱石中の結晶水を同時に除去することができる。そのため、得られた還元鉱石を焼結原料に使用することにより、凝結材比を減少することができる。これに伴い、高価な無煙炭の使用量を削減できるとともに、焼結層での通気抵抗が減少し、焼結鉱の生産性が改善される。さらに焼結鉱の気孔量が増大するので、焼結鉱の被還元性が改善される。
【0016】
また、還元鉱石を原料に用いて製造した焼結鉱は、被還元性が良好であるため、高炉での還元材比を低減し、高価なコークスや微粉炭の使用量を低減することができる。
【0017】
本発明においては第2に、焼結原料として使用する結晶水を含む鉄鉱石として、好適には、ピソライト鉱石又はマラマンバ鉱石の少なくともいずれかを含む鉄鉱石を用いる。
【0018】
本発明の焼結鉱の製造方法は第3に、前記還元を、流動層を用いて行うことを特徴とする。
【0019】
鉄鉱石を還元するプロセスにはシャフト炉やロータリーキルンなどを用いることも可能であるが、焼結鉱製造プロセスで使用する豪州から輸入されるローブリバー鉱石、ヤンディクージナ鉱石などのピソライト鉱石またはマラマンバ鉱石は通常10mm程度以下の粉状なので、これらの粉鉄鉱石をそのまま還元して焼結原料として使用可能な粉状の還元鉱石を製造するプロセスとしては流動層が適している。以下、還元プロセスとして流動層を用いる場合を例にとって、図1の例に基づいて本発明の内容を説明する。
【0020】
図1において、原料の粉鉄鉱石11を流動層還元炉1に供給し、還元ガス15によって還元を行う。流動層還元炉1で得られた還元鉱石19を他の原料(鉄鉱石、雑鉄源、副原料、返鉱及び凝結材20)と混合して配合原料21とし、焼結機本体5に装入される。焼結機本体5から排出された焼結鉱23は破砕されて篩い7で篩われて篩い上の高炉原料として適した粒径の成品焼結鉱24と篩下の細かな返鉱25とに分けられる。
【0021】
本発明は第4に、還元に用いる還元性ガスとして、高炉ガスを部分酸化したガスを使用する。還元に用いる還元性ガスとして、転炉ガス、コークス炉ガス、天然ガス、液化石油ガスを部分酸化したガスを用いることもできるが、転炉ガス、コークス炉ガス、天然ガス、液化石油ガスよりも安価な高炉ガスを部分酸化したガスを使用すると特に好ましい。高炉ガスをそのまま還元ガスとして用いることも可能であるが、高炉ガスを部分燃焼すると、高温の還元ガスが得られるので、鉄鉱石の還元に必要な温度まで流動層反応温度を昇温することが容易であるが、高炉ガスをそのまま還元ガスとして用いようとすると、鉄鉱石の還元に必要な温度まで流動層反応温度を昇温するのに、高炉ガスの予熱温度を高くしたり鉄鉱石を高温まで予熱するなど設備負荷が大きくなり設備コストの上昇を招き経済的でないからである。また、高炉ガスに限らず、上述した転炉ガス、コークス炉ガス等を使用する場合にも、高炉ガスと同様に部分燃焼して高温の還元ガスとして使用することが好ましい。
【0022】
図1に示す例において、流動層還元炉排ガス16の顕熱を利用して熱交換器2で高炉ガス12が予熱される。予熱した予熱高炉ガス13を、さらに部分燃焼炉3において空気14により部分燃焼させて還元ガス15を得る。還元ガス15はCOガス、CO2ガスおよびN2ガスを主成分とする。こうして得られた還元ガス15を流動層還元炉1に供給し、流動層還元炉1においてピソライト鉱石またはマラマンバ鉱石などの結晶水を含む粉鉄鉱石11を還元する。
【0023】
流動層還元炉1の上部から排出される流動層還元炉排ガス16は、前述のとおり熱交換機2で高炉ガス12の予熱に利用され、その後さらに残存する熱交換器排ガス17の顕熱は廃熱回収装置4で蒸気回収に利用され、廃熱回収装置排ガス18は系外で処理される。
【0024】
本発明は第5に、還元ガス15の温度を上げたり、還元能力を高めたりする必要があるときは、高炉ガス12または予熱高炉ガス13の少なくともいずれかに、転炉ガス、コークス炉ガス、天然ガス、液化石油ガス、その他高炉ガスよりも発熱量の高いガスより選ばれる一種以上を加える。
【0025】
還元反応は700℃程度よりも低い温度では還元速度が遅いので、還元温度は700℃以上にした方が高い還元率を得るには都合が良い。ピソライト鉱石またはマラマンバ鉱石などの結晶水は350℃程度から分解を始めるので、700℃以上の温度で還元処理を行うことで結晶水も同時に除去される。鉱石は還元雰囲気で1200℃程度以上に加熱されると部分的に溶融して粒子同士が融着するため、1200℃程度よりも低い温度で還元処理することが望ましい。原料とする高炉ガス12を熱交換機2で昇温して予熱高炉ガス13とし、さらに部分燃焼炉3で部分燃焼して温度を上昇して高温の還元ガス15とするので、上記還元温度を確保する上での熱量を還元ガス15の顕熱として供給することができる。
【0026】
高炉ガス12を部分燃焼させて製造した還元ガス15は、COガス分率に対するCO2ガス分率の比が高くかつH2ガス分率に対するH2Oガス分率の比が高いので鉄鉱石を金属鉄まで還元するだけの還元能力はないが、ウスタイトまで還元することは可能である。ただし、還元温度が低いときは還元速度が遅いので、ヘマタイトからマグネタイトまでは速やかに還元されるものの、マグネタイトからウスタイトまでの還元に時間がかかる。したがって、高炉ガス12を部分燃焼させて製造した還元ガス15によりピソライト鉱石またはマラマンバ鉱石などの結晶水を含む粉鉄鉱石11を流動層還元炉1で還元すると、結晶水が除去され、主としてマグネタイトからウスタイトまでの間に還元された還元鉱石19を得ることができる(一部金属鉄も存在することがある)。
【0027】
鉄鉱石を還元するプロセスとして、前述のとおり、焼結鉱製造プロセスで使用する豪州から輸入されるローブリバー鉱石、ヤンディクージナ鉱石などのピソライト鉱石またはマラマンバ鉱石は通常10mm程度以下の粉状なので、これらの粉鉄鉱石をそのまま還元して焼結原料として使用可能な粉状の還元鉱石を製造するプロセスとしては流動層が適している。しかしながら、上記ピソライト鉱石またはマラマンバ鉱石には、少量ではあるものの10mm以上から20mm程度までの大きさの鉱石も混在する。このように粒度分布幅の大きな粉鉄鉱石を還元する流動層としては気泡流動層よりも循環流動層がより適している。気泡流動層では、ガス流速を粒子の流動開始速度以上かつ終末速度以下に制御して、流動層内での粒子の流動状態を良好に担保すると同時に流動層から粒子の飛散を抑制する必要があるため、粒子の粒度分布が大きいと対応できない。循環流動層とは飛散した粒子をサイクロンで捕集して粒子を流動層内に循環するプロセスなので、大きなガス流速で運転することが可能な流動層プロセスである。循環流動層が適している理由は、サイクロンの捕集限界の微粒子から大きなガス流速に応じた粗大粒子まで処理することができるので、粒度分布幅の大きな粒子を使用することが可能だからである。
【0028】
10mm程度以下の粉状の上記ピソライト鉱石またはマラマンバ鉱石を使用して循環流動層で還元する場合、還元ガスの空塔速度が低すぎると流動層下部に粗粒が偏積して圧力変動の大きな状態(スラッギング状態)になり還元効率が低下し、還元ガスの空塔速度が高すぎると流動層内は粒子滞在量が少ない希薄な状態となり還元効率が低下する。従って、安定した流動状態を得るためには、還元ガスの空塔速度は4m/s程度から15m/s程度までにすることが望ましい。
【0029】
本発明においては図1に示すように、結晶水を含む鉄鉱石11を還元性ガス15を用いて還元し、得られる還元鉱石19を焼結原料に使用して焼結鉱23を製造する。還元鉱石19を焼結原料に使用すると、焼結プロセスにおいて焼結原料は酸素を含有する高温ガス雰囲気にさらされるので、還元鉱石19は酸化されて発熱する。従って、還元鉱石酸化による酸化熱として供給される熱量に相当する分だけ、凝結材の燃焼によって発生する熱量を減らすことが可能である。すなわち還元鉱石を焼結原料に使用することにより焼結での凝結材使用量を減らすことが可能になる。還元鉱石の還元率が高いほど、還元鉱石単位質量当たり酸化するときに発生する熱量は大きいので、還元鉱石の使用量が一定のときは還元率が高いほど凝結材使用量の低減効果は大きい。また、還元鉱石の還元率が同じときは、還元鉱石の使用量が多いほど酸化発熱量は大きくなるので、凝結材使用量の低減効果は大きい。さらに、還元鉱石を製造する過程で結晶水が除去されているので、還元鉱石を使用することにより、結晶水分解に必要な熱量を供給するための凝結材の使用が不要となるので、この分の凝結材の使用量を減らすことも可能になる。
【0030】
焼結プロセスでの還元鉱石の酸化においては、鉄鉱石自体が発熱するため酸化反応熱が鉄鉱石温度の上昇に直接的に作用するのに対して、凝結材の燃焼においては高温の燃焼ガス及び燃焼過程における高温の凝結材粒子からの伝熱によって鉄鉱石が昇温するため、還元鉱石の酸化による発熱量よりもより多くの凝結材発熱量と昇温時間を要する。
【0031】
したがって、還元鉱石を使用する場合に比べて還元鉱石を使用しない場合は、焼結材の燃焼によって焼結層内に形成される高温燃焼領域が大きくなる。すなわち、焼結原料層中の昇温パターンは、図2に示すように還元鉱石を使用しない場合の昇温パターン32よりも還元鉱石を使用する場合の昇温パターン31の方が昇温速度が大きくかつ冷却速度が大きくなる。その結果、過剰な融液の生成を抑制し、生成した融液による気孔の閉塞が抑制できるので、還元鉱石を使用すると被還元性の高い焼結鉱を製造することが可能になる。
【0032】
さらに、結晶水を含むピソライト鉱石又はマラマンバ鉱石をそのまま焼結原料として使用することに代えて、還元鉱石19を使用すると、焼結中に結晶水由来の蒸気の発生量が減少し、且つ結晶水の熱分解に必要な凝結材の使用量低下に伴って、凝結材の燃焼と還元鉱石の酸化によって形成される高温燃焼領域が減少し、過剰な融液の生成が抑制されるため、図1に示す焼結層22の圧力損失が低下する。そのため、焼結主排ガス吸引ブロワー6の吸引負圧一定では単位時間当たりに焼結層22に吸引される空気量が増し、焼結主排ガス26量が増加すること、並びに還元鉱石19の使用により焼結層22中の昇温パターンが、図2に示したように昇温速度が大きくかつ冷却速度が大きくなるので焼結完了時間が短くなることにより、焼結機本体5のパレットスピードを上昇することができる。その結果、焼結鉱の生産性向上が可能となる。
【0033】
還元鉱石の還元率が30%を越えると、通常、還元鉱石は金属鉄を多く含むようになる。800℃程度よりも高い温度で還元し、金属鉄を多く含む還元率が30%を越える還元鉱石を製造した場合、還元鉱石に生成する金属鉄は気孔率の低い緻密な組織となり、還元鉱石の再酸化速度が遅くなり焼結層22でのヒートパターンがブロードになるため好ましくない。
【0034】
一方、800℃程度よりも低い温度で還元し、金属鉄を多く含む還元率が30%を越える還元鉱石を製造した場合、還元鉱石に生成する金属鉄は気孔が多い組織となり、再酸化しやすく、還元鉱石を焼結機本体5に装入する前に還元鉱石が燃焼するおそれがある。
【0035】
すなわち、金属鉄を多く含む還元率が30%を越える還元鉱石を製造した場合、焼結鉱製造プロセスで、還元温度が800℃程度よりも高い温度で還元鉱石を製造すると焼結層22でのヒートパターンがブロードになったり、還元温度が800℃程度よりも低い温度で還元鉱石を製造すると焼結機本体5に装入する前に還元鉱石が燃焼したりするなど、前記のような不都合が生じる。したがって還元率が30%以下の還元鉱石とすることが望ましい。なお、特許文献1にあるように還元率が30%を越える金属鉄を含む還元鉱石は高炉で使用することにより高炉で使用するコークス量を低減することが可能なので、この場合は該還元鉱石を焼結鉱製造プロセスで使用するよりも高炉で使用する方が経済性に優れている。
【0036】
還元ガスの酸化度(OD:%)を還元ガス中のH2濃度(H2%:vol%)、H2O濃度(H2O%:vol%)、CO濃度(CO%:vol%)、及びCO2濃度(CO2%:vol%)を用いて以下のように定義する。
OD=(H2O%+CO2%)/(H2%+H2O%+CO%+CO2%)×100
【0037】
還元ガスのODが低いとき、還元ガス中のH2濃度とCO濃度の和が大きく、還元ガスの還元能力は大きい。還元ガス15のODが20%程度よりも低いと、還元鉱石19中に金属鉄を多く含むようになる。還元鉱石19中に金属鉄が多量に生成することを抑制し、焼結層22でのヒートパターンがブロードになることを回避したり、焼結機本体5に装入する前に還元鉱石19が燃焼することを回避するためには、還元ガス15のODを20%程度以上にして、還元鉱石19中に含まれる金属鉄の量を少なくすることが望ましい。
【0038】
高炉ガス12のODは平均的に40〜50%なので、高炉ガス12を部分燃焼して還元ガス15を製造するときには、高炉ガス12のODよりも高くなり、還元ガス15のODが20%程度よりも小さくなることはない。また、高炉ガス12に高炉ガスより発熱量の高い製鉄副産ガスを混合することにより、高炉ガスのみから還元ガス15を製造するよりもODが小さく還元能力の優れた還元ガスを製造することが可能となり、流動層還元炉1における還元鉱石19の生産性を上昇することができるようになるが、還元率を30%超とせず、金属鉄を多く生成しないようにするためには、還元ガス15のODを20%程度以上にすることが望ましい。一方、還元ガス15のODが70%程度よりも高くなると還元の進行が遅くなり、還元鉱石の還元率が低くなったり還元鉱石の生産性が低下したりするので、還元ガス15のODを70%程度以下にすることが望ましい。
【実施例】
【0039】
通常の焼結鉱の製造方法と比較して、本発明の、結晶水を含む粉鉄鉱石の一部を予備還元して、粉鉄鉱石中の結晶水を除去するとともに、粉鉄鉱石中のヘマタイトを主としてマグネタイト乃至はウスタイトまで還元し、この予備還元粉鉱石を使用する、焼結鉱の製造方法の実施例を以下に示す。
【0040】
焼結鉱の被還元性を表す指標として、JISM8713により還元率を測定した。
【0041】
配合原料は粉鉄鉱石、雑鉄源、副原料、返鉱及び凝結材からなる。結晶水を含む粉鉄鉱石として、本発明例、比較例ともに、ピソライト鉱石の一種であるローブリバー粉鉄鉱石を用いた。ローブリバー粉鉄鉱石は配合原料の16mass%を占めた。
【0042】
(比較例)
粉鉄鉱石について本発明の還元を行わず、そのまま焼結原料として焼結プロセスに用いた。成品焼結鉱を1トン製造するのに使用する配合原料は1477kgである。凝結材は成品焼結鉱1トン当たり60.2kg使用した。このうち、無煙炭使用量は成品焼結鉱1トン当たり18.4kgであった。
【0043】
還元率は65%であり、焼結鉱の生産性は単位時間当たり及び単位焼結面積当たり1.50t/h/m2であった。
【0044】
高炉で溶銑を生産するに当たり、焼結鉱、塊鉄鉱石及びペレットからなる主原料を溶銑1トン当たり1620kg使用し、焼結鉱はそのうちの1245kgであった。このとき成品焼結鉱を溶銑1トン当たり1402kg生産しており、この差分は高炉装入までに篩われた篩下の粉焼結鉱であり、これは焼結原料として再使用された。
【0045】
高炉で溶銑を年間400万トン生産するのに、成品焼結鉱を年間561万トン生産し、無煙炭を年間10.3万トン使用し、ローブリバー粉鉄鉱石を年間107.8万トン使用した。このとき、高炉で使用したコークス及び微粉炭を合わせた還元材の使用量は溶銑1トン当たり490kgであった。
【0046】
(本発明例)
図3に基づいて本発明例を説明する。流動層還元炉として、第1流動層還元炉42及び第2流動層還元炉41からなる循環流動層を用いた。空塔速度を7m/sとする。
【0047】
第1流動層還元炉42においてローブリバー粉鉄鉱石51を900℃で還元して還元鉱石1(52)とし、第2流動層還元炉41において還元鉱石1(52)を900℃で還元して還元鉱石2(53)とした。
【0048】
昇圧高炉ガス54を、熱交換器44により予熱して予熱後の昇圧高炉ガス55とし、部分燃焼炉45で昇圧空気56を使用して部分燃焼させて還元ガス57を製造し、第1流動層還元炉42に供給した。上記熱交換器44においては、第2流動層還元炉42の排ガス60を燃焼器43で昇圧空気61により燃焼した燃焼排ガス62を用いて昇圧高炉ガス54を予熱した。
【0049】
第1流動層還元炉42に供給するローブリバー粉鉄鉱石51の結晶水は、降水、散水等によって鉄鉱石粒子の表面、鉄鉱石粒子間の空隙、鉄鉱石粒子内の気孔等に存在する水分(付着水と呼ぶ)の無い乾燥後の状態で、8mass%であり、実際の付着水は4mass%であった。本発明例においては、付着水4%を含むローブリバー粉鉄鉱石51の質量1042kgを循環流動層で還元するのに際して、温度975℃、OD=56%の還元ガス57を1244Nm3製造して使用した。昇圧高炉ガス(1140Nm3)54を熱交換器44により711℃に予熱し、次いで部分燃焼炉で部分燃焼させて、温度975℃、OD=56%の還元ガス57を1244Nm3製造した。
【0050】
第2流動層還元炉41では、この還元ガス57により還元鉱石1(52)を還元して還元率22%の還元鉱石2(53)を864kg製造した。
【0051】
第1流動層還元炉42では、第2流動層還元炉41の排ガス58を導入して還元ガスとして用い、ローブリバー粉鉄鉱石51を900℃で還元して還元鉱石1(52)を製造する。第1流動層還元炉42での還元温度を900℃に保つために、第1流動層還元炉42に昇圧空気59を344Nm3導入して部分燃焼させた。
【0052】
第1流動層還元炉42の排ガス60はローブリバー粉鉄鉱石51の結晶水や付着水を含み、1667Nm3になった。この第1流動層還元炉42の排ガス60は、未燃ガス成分を含むので、前述のとおり燃焼器43で昇圧空気6184Nm3により完全燃焼し989℃に昇温されて、熱交換器44で昇圧高炉ガス54を予熱し熱交換器から熱交換器排ガス63として排出される。熱交換器排ガス63は廃熱回収装置46で蒸気回収されて廃熱回収装置排ガス64となり、次いで冷却除塵装置47で処理されて冷却除塵装置排ガス65となり、さらに圧力回収装置48で電力回収された圧力回収後排ガス66は系外で処理された。
【0053】
還元鉱石2(53)は、鉄鉱石、雑鉄源、副原料、返鉱及び凝結材81と混合されて配合原料82となる。配合原料82は焼結機本体71に装入されて焼結層83を形成する。焼結機本体71から排出された焼結鉱84は破砕されて篩い73で篩われて篩い上の高炉原料として適した粒径の成品焼結鉱85と篩下の細かな返鉱86とに分けられた。焼結主排ガス87は焼結主排ガス吸引ブロワー72で吸引され、その後脱塵、脱硫、脱硝等の排ガス処理された。
【0054】
本発明例においては、比較例と同様にローブリバー粉鉄鉱石が配合原料の16mass%を占める。本発明例においては、このローブリバー粉鉄鉱石を上述のとおりに還元し、こうして得られた還元鉱石を配合原料の一部として配合した。その結果、無煙炭を使用することなく、成品焼結鉱1トン当たりの凝結材使用量41.8kgで焼結鉱を製造することができた。この凝結材使用量は、比較例の凝結材使用量から無煙炭使用量を除いた量に相当する。
【0055】
このとき、焼結鉱の被還元性を表すJISM8713により測定した還元率は68%となり、比較例の該還元率65%よりも3ポイント上昇し、焼結鉱の被還元性を向上することができた。また、焼結鉱の生産性は単位時間当たり及び単位焼結面積当たり1.58t/h/m2となり、比較例の該生産性1.50t/h/m2よりも0.08t/h/m2上昇し、生産性を向上することができた。
【0056】
113.2万トンのローブリバー粉鉄鉱石を上述のとおりに予備還元し、予備還元した還元鉱石を配合原料の一部として焼結鉱を製造することにより、被還元性が3ポイント向上した成品焼結鉱を年間589万トン生産することができた。
【0057】
その結果、高炉で溶銑を年間400万トン生産するのに、溶銑1トン当たり焼結鉱を1307kg使用することができ、比較例の溶銑1トン当たりの焼結鉱使用量1245kgよりも焼結鉱使用量を増やすとともに被還元性の劣る塊鉄鉱石を減らすことができた。
【0058】
焼結鉱の被還元性の改善と焼結鉱使用割合の上昇により、高炉で使用したコークス及び微粉炭を合わせた還元材の使用量は溶銑1トン当たり482kgになり、比較例の還元材使用量の溶銑1トン当たり490kgよりも、還元材使用量を溶銑1トン当たり8kg低減できた。
【0059】
比較例では、凝結材を成品焼結鉱1トン当たり60.2kg使用し、成品焼結鉱を年間561万トン生産しているので、凝結材を年間33.8万トン使用している。一方、本発明例では、凝結材を成品焼結鉱1トン当たり41.8kg使用し、成品焼結鉱を年間589万トン生産しているので、凝結材を年間24.6万トン使用している。したがって、比較例に対し、本発明例では、凝結材使用量を年間9.2万トン削減している。
【0060】
比較例では、還元材を溶銑1トン当たり490kg使用し、溶銑を年間400万トン生産しているので、還元材を年間196万トン使用している。一方、本実施例では、還元材を溶銑1トン当たり482kg使用し、溶銑を年間400万トン生産しているので、還元材を年間192.8万トン使用している。したがって、比較例に対し、本実施例では、還元材使用量を年間3.2万トン削減している。
【0061】
本実施例では、比較例に対しCO2発生源である凝結材と還元材の使用量の合計を年間12.4万トン削減しており、その分CO2発生量を削減することができた。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の還元鉱石を用いる焼結鉱の製造方法の一例を示す図である。
【図2】本発明に関わる焼結機本体上の焼結原料層の昇温曲線の一例を示す図である。
【図3】本発明の実施例の還元鉱石を用いる焼結鉱の製造方法を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
1:流動層還元炉
2:熱交換器
3:部分燃焼炉
4:廃熱回収装置
5:焼結機本体
6:焼結主排ガス吸引ブロワー
7:篩い
11:ピソライト鉱石、マラマンバ鉱石等の結晶水を含む粉鉄鉱石
12:高炉ガス
13:予熱高炉ガス
14:空気
15:還元ガス
16:流動層還元炉排ガス
17:熱交換器排ガス
18:廃熱回収装置排ガス
19:還元鉱石
20:鉄鉱石、雑鉄源、副原料、返鉱及び凝結材
21:配合原料
22:焼結層
23:焼結鉱
24:成品焼結鉱
25:返鉱
26:焼結主排ガス
31:ピソライト鉱石またはマラマンバ鉱石を予備還元した還元鉱石を配合した焼結原料層の昇温曲線
32:通常原料を配合した焼結原料層の昇温曲線
41:第1流動層還元炉
42:第2流動層還元炉
43:燃焼器
44:熱交換器
45:部分燃焼炉
46:廃熱回収装置
47:冷却除塵装置
48:圧力回収装置
51:ローブリバー粉鉄鉱石
52:還元鉱石1
53:還元鉱石2
54:昇圧高炉ガス
55:予熱昇圧高炉ガス
56:昇圧空気
57:還元ガス
58:流動層還元炉2排ガス
59:昇圧空気
60:流動層還元炉1排ガス
61:昇圧空気
62:燃焼排ガス
63:熱交換器排ガス
64:廃熱回収装置排ガス
65:冷却除塵後排ガス
66:圧力回収後排ガス
71:焼結機本体
72:焼結主排ガス吸引ブロワー
73:篩い
81:鉄鉱石、雑鉄源、副原料、返鉱及び凝結材
82:配合原料
83:焼結層
84:焼結鉱
85:成品焼結鉱
86:返鉱
87:焼結主排ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶水を含む鉄鉱石を、還元性ガスを用いて還元し、得られる還元鉱石を焼結原料に使用して焼結鉱を製造することを特徴とする焼結鉱の製造方法。
【請求項2】
前記結晶水を含む鉄鉱石が、ピソライト鉱石又はマラマンバ鉱石の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1記載の焼結鉱の製造方法。
【請求項3】
前記還元を、流動層を用いて行うことを特徴とする請求項1又は2記載の焼結鉱の製造方法。
【請求項4】
前記還元に用いる還元性ガスとして、高炉ガスを部分酸化したガスを使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の焼結鉱の製造方法。
【請求項5】
前記部分酸化する高炉ガスに事前に、転炉ガス、コークス炉ガス、天然ガス、液化石油ガス、その他高炉ガスよりも発熱量の高いガスより選ばれる一種以上を加えることを特徴とする請求項4記載の焼結鉱の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−249725(P2009−249725A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−102550(P2008−102550)
【出願日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】