説明

焼結銀ペースト材料及び半導体チップ接合方法

【課題】低温で金属接合する焼結Agペーストにおいて、貴金属部材に対するのと同様に、非貴金属部材にも高強度に金属接合可能な焼結Agペーストの組成と、高強度の接合部を得る接合方法を提供すること。
【解決手段】焼結Agペースト中に、雰囲気に関係なく熱分化し易い有機銀錯体溶液を添加した材料とし、さらにAg粒子を焼結させる前の工程で非貴金属面を非酸化雰囲気でAgメタライズ化し、その後、酸化雰囲気でAg粒子を焼結させる工程とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体分野で用いられる高耐熱の鉛フリー接合材料と接合方法に係り、例えば、300℃以下の低温かつ無加圧の接合プロセスでCuやNiの非貴金属部材と強固に接合し、高耐熱で熱・電気伝導性に優れた接合部が得られる焼結銀ペースト材料とその材料による半導体チップ接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
欧州が提唱した環境規制により、電機・電子分野における鉛入りはんだの使用が制限され、基板実装用のはんだは全て鉛フリー化された。しかし、パワー系デバイスのチップ接合に用いられる高鉛含有の高温はんだ(融点>260℃)は、代替え材料が開発されていないため、未だに使われている。このため、高温に耐える鉛フリーの接続材料を開発することが急務となっている。
【0003】
現状、高鉛はんだ代替えの鉛フリー接続材料として最も有力な候補に、金属接合タイプの導電性ペースト材料が挙げられる。この代表的な導電性ペースト材料として、ナノサイズのAg粒子を溶媒中に分散したナノAg粒子ペースト(特許文献1)と、ミクロンサイズの銀粒子と有機溶剤をスラリー状に混錬したマイクロAg粒子ペースト(特許文献2)が知られている。
【0004】
ナノAg粒子ペーストは、Ag粒子の凝集を防いで分散性を確保するために、有機保護膜を表面に形成しており、加熱により保護膜を分解・除去させて低温焼結させている。ナノAg粒子は非常に活性であるため、CuやNiに対しても荷重を加えて密着を確保すればある程度の強度で接合可能だが、荷重を加えない条件では接合強度が非常に弱くなる。また、ペースト焼結時には、体積収縮が大きく局所的に大きなボイドを形成するので、接合欠陥を抑制するために荷重を加えて接合する必要がある。
【0005】
一方、マイクロAg粒子ペーストは、大気中加熱(200〜300℃)によって容易に焼結が進行し、荷重を加えなくても10MPa以上の接合強度が容易に得られる。しかし、接合可能な対象材料が、200〜300℃の大気中加熱では酸化しないAuやAgなどの貴金属材料に限られ、CuやNiに対しては数MPa以下の強度しか得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−095510号公報
【特許文献2】国際公開WO2006/126614
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
半導体を組み立てる金属部材は、そのほとんどが電気と熱をよく伝えるCuから作られており、接合面の材質は通常Cuである。また、加熱による酸化劣化が問題となる部材ではCu表面にNiめっきが施されており、接合面の材質はNiとなっている。
【0008】
高鉛はんだは、CuやNiによく濡れる(なじみがよい)ため、これらの部材に対して半導体チップの接合を問題なく行える。高鉛はんだ代替えの高導電性Agペーストを用いて無加圧の条件で接合する場合は、金属部材に貴金属めっきを施す必要があり、部材コストの上昇が問題となる。
【0009】
CuあるいはNi部材をマイクロAg粒子ペーストを用いて無加圧条件で接合する場合は、加熱過程で部材表面が酸化するため焼結Agと接合せず、必要な強度が得られないという問題がある。
【0010】
部材の酸化を防ぐために非酸化雰囲気で加熱焼成すると、マイクロAg粒子表面に付着している有機成分が500℃以下の温度では分解・除去できないため、Ag粒子同士の焼結が進行せず、接合できないという問題がある。
【0011】
本発明の第1の目的は、CuやNiなどの非貴金属部材に対しても無加圧の接合条件で10MPa以上の強度で半導体チップを金属的に接合可能な焼結型マイクロAg粒子ペースト材料を提供することである。そして、本発明の第2の目的は、そのAg粒子ペーストを用いてCuやNiに半導体チップを10MPa以上の強度で接合する無加圧条件の接合方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の目的を達成するために、平均粒径が0.1〜2.0μmサイズのAg粒子を80〜90wt%含み、オクチル酸銀やネオデカン酸銀、各種カルボン酸銀などの有機銀錯体の溶液を5〜20wt%含み、必要に応じてC,H,Oから成る有機溶剤を0〜10wt%含むスラリー状のAgペーストとした。また、液状組成物全体のAg含有量を30wt%以上とした。
【0013】
Agペースト中に有機銀錯体溶液を添加したことにより、非貴金属部材の接合面を銀を含む溶液で覆うことになる。化学的に不安定な有機銀錯体は加熱過程でAgと有機配位子に分離し、分離したAgが液体中を浮遊して移動し最初に接触した金属面に付着していく。非貴金属表面にもAgが付着していく。
【0014】
非貴金属部材を下側に配置すると、液体は自重で下側に流れるためAgの堆積・付着量が多くなる。上側のチップ裏面電極は貴金属メタライズされているので、有機銀錯体が全て分解し液体の有機配位子や有機溶媒が揮発・消失した後でも、Ag粒子の焼結挙動によってAgが堆積した下側の非貴金属部材や上側のチップ裏面電極とを金属的に接合することが可能となる。
【0015】
無加圧条件で焼結した銀焼結層の組織は、空孔が多いポーラスな組織となるが、銀で3次元的なネットワークを形成して金属的に結合しているので、強度は容易に10MPaを越える値が得られる。
【0016】
Ag粒子の含有比率を80〜90wt%としているのは、80wt%より少ないとペーストの粘度が小さくなって流れやすくなり、厚い接合層の形成が困難となって熱膨張率が異なるSiとCuの接合部の冷却時の熱ひずみが大きくなり、接合層にクラックが生じたり、高い残留応力のため破断強度が小さくなるなどの不具合が生じるためである。
【0017】
また、90wt%より多くなると、有機銀錯体溶液と混錬したときの粘度が高くなり過ぎて、接合部への供給が困難となったり、チップを搭載した時のペーストの流れが悪くなって接合領域へペーストが広がらなくなるため、採用できないのである。
【0018】
有機銀錯体溶液の量を5〜20wt%とし、液体全体のAg含有量を30wt%以上としたのは、下側に配置された非貴金属部材の接合面全面を有機銀錯体から分離したAgで覆うために必要な最少量であるためである。
【0019】
以上のように、Ag粒子と有機銀錯体溶液で構成したAgペーストは、非貴金属のNiやCuに対してメタライズ効果を有しているので、貴金属と同等の接合性を確保することができ、低コスト部材を用いた鉛フリー半導体装置を提供できる。
【0020】
第2の目的を達成するために、CuやNiの接合部材と半導体チップ間に本発明によるAgペーストを供給した後、第1の加熱プロセスとして還元雰囲気中で300〜500℃の温度に加熱し非貴金属部材の接合面をAgでメタライズし、第2の加熱プロセスとして酸化雰囲気中で180〜300℃に温度に加熱してAg粒子を焼結させて両部材間を金属的に接合する2段階加熱プロセスとした。
【0021】
Cu部材の場合には、さらに第3の加熱プロセスとして還元雰囲気中で200〜400℃の温度に加熱して酸化したCuを還元する工程を追加した。
【0022】
まず、有機銀錯体溶液とマイクロAg粒子を混合したペーストを接合部に供給し、還元雰囲気中で300〜500℃に加熱処理することにより、ペースト中の有機銀錯体が加熱分解してAg成分が周辺の金属部材表面に付着・堆積する。
【0023】
このときの対象材料は、非貴金属の酸化性金属であっても還元雰囲気に曝されているため活性な金属面が保持され、容易にAgと金属結合して強固なAgメタライズ膜が形成される。Ag粒子は還元雰囲気中の加熱では焼結が進行せず、粒子形状を維持した状態で未接合のままである。
【0024】
次に、酸化雰囲気中で180〜300℃に加熱処理することにより、Ag粒子表面の有機物保護膜が酸化分解して除去され、Ag粒子同士やAg粒子とチップ裏面の貴金属電極、Ag粒子とAgメタライズ膜が形成された酸化性の金属部材の融合が進行して金属的な接合が達成される。Ni部材の場合は300℃以下では酸化がほとんど進まず、Agでメタライズされていない領域の金属部材に酸化による劣化は生じない。
【0025】
しかし、Cu部材の場合には、Cuが雰囲気に曝されている領域の酸化が進行して黒褐色に変色するため、Ag粒子が焼結して接合が完了後、必要に応じてさらに還元雰囲気の中で加熱処理を行い、酸化したCuの還元を行って接合工程を終了する。
【0026】
以上のように、300℃以下の温度域で耐酸化性に優れるNiなどの金属に対しては2段階の加熱プロセスを採用することにより、また180℃以上の温度域で酸化が進行するCuなどの金属に対しては3段階の加熱プロセスを採用することにより、非貴金属部材に対しても無加圧の接合条件で貴金属の場合と同等の接合強度10MPa以上の接合を達成することが可能となるのである。
【発明の効果】
【0027】
本発明において、Agペースト材料の構成を平均粒径が0.1〜2.0μmサイズのAg粒子:80〜90wt%、有機銀錯体溶液:5〜20wt%、高沸点の有機溶材:0〜10wt%としたことにより、接合部材が非貴金属材料であっても有機銀錯体溶液のAgメタライズ膜形成作用によって、貴金属部材と同様の金属接合が可能となるのである。
【0028】
また、接合工程を還元雰囲気の加熱プロセスと酸化雰囲気の加熱プロセスの2段階加熱プロセスとしたことにより、非貴金属部材とAgメタライズ膜の密着強度およびAg粒子の焼結接合強度を10MPa以上の高強度とすることが可能となり、貴金属の場合と同様の焼結接合が可能となるのである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明による焼結Agペーストの組成範囲を示す一実施例。
【図2】本発明の焼結Agペーストによる接合過程を示す図。
【図3】本発明の焼結Agペーストによる接合部断面の一例。
【図4】従来及び本発明の焼結Agペーストの特性を示す一実施。
【図5】本発明によるNi部材の接合方法を示す一実施例。
【図6】本発明によるCu部材の接合方法を示す一実施例。
【図7】本発明によるパワー半導体パッケージの組み立て方法を示す実施例。
【図8】本発明によるパワー半導体パッケージの断面構造を示す一実施例。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施例について図面を用いて詳細に説明する。
【0031】
図1は、本発明による焼結Agペースト材料のマイクロAg粒子と有機銀錯体溶液と有機溶媒の3元組成図を示す。
【0032】
マイクロAg粒子は、略球状で平均粒径が0.1〜2.0μmの範囲、最大粒径が10μmを越えないサイズの粉体であり、一般に市販されている還元法で製造されたAg粉である。マイクロAg粒子の平均粒径は、ペーストの銀粒子群を倍率1万〜5万の走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影し、そのSEM画像でエリアを限定し、表面の全景が銀粒子の直径を測定して平均粒径を計算する。測定可能な銀粒子数が50個以上となるようにエリアサイズを決めている。
【0033】
有機銀錯体溶液は、ネオデカン酸銀、オレイン酸銀、リノール酸銀、カプリル酸銀、カプリン酸銀、ミリスチン酸銀、2メチルプロパン酸銀、2メチルブタン酸銀、2エチルブタン酸銀、2エチルヘキサン酸銀などの各種脂肪酸銀塩を沸点が150℃以上の有機溶媒に溶かした溶液であり、有機溶剤は、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、メチルエチルケトン、イソホロン、テレピネオール等の沸点が150℃以上の溶剤からなる。マイクロAg粒子の含有量は80〜90wt%、有機銀錯体溶液の含有量は5〜20wt%、有機溶剤の含有量は0〜10wt%の範囲で選択される組成としている。
【0034】
図2は、図1で示す組成の焼結Agペーストを用いてNiめっき部材に半導体チップを接合するときの接合過程を模式的に示す。
【0035】
図2において、Cu部材1の表面には、Niめっき膜2が形成されており、半導体チップ3の裏面電極には最表面にAu蒸着膜4が形成されている。図2(1)において、接合部材間には有機溶剤を含む有機銀錯体溶液6とマイクロAg粒子5から成る焼結Agペーストが供給されている。
【0036】
図2(2)において、非酸化雰囲気中で400℃に加熱処理し、焼結Agペースト中の有機銀錯体溶液から金属Agを析出させてNiめっき面上に堆積させ、Agメタライズ膜7を形成する。このとき有機溶剤やAgと分離した有機銀錯体の有機成分は揮発・消失させる。
【0037】
図2(3)において、酸化雰囲気中で250℃に加熱処理し、有機銀錯体の残存有機成分やマイクロAg粒子表面に吸着していた有機保護膜を酸化により分解・除去し、Ag粒子の焼結挙動を促して上下の部材をポーラスな焼結Ag層8,9を介して金属的接合している。
【0038】
図3は、Niめっき部材側の接合組織を示す断面図である。Niめっき膜と接する焼結Ag層は、有機銀錯体溶液から析出したAgが堆積してできた層(有機銀錯体+Ag粒子の焼結層)であるので、大きな空孔は無く、微細なボイドがあるものの比較的緻密なAg層を形成し、その上はマイクロAg粒子が焼結した層(Ag粒子焼結層)であるので、粒子間の空隙が空孔として残存し、ポーラス度の高いAg層を形成した組織となる。
【0039】
本実施例によれば、焼結Agペースト中に有機銀錯体溶液を添加しているので、接合部材が非貴金属材料であっても加熱プロセスの前段において有機銀錯体から析出した活性なAgが非貴金属と金属結合してその表面を覆う。したがって、その後のマイクロAg粒子が焼結する工程で、半導体チップのAu裏面電極と、接合面がAgでメタライズされた非貴金属部材とを、焼結銀層を介して強固に接合することができる。すなわち、本発明の焼結Agペーストを用いれば、貴金属でメタライズした金属部材と同様に低コストの非貴金属部材の高強度の接合が可能となる。
【0040】
図4は、焼結Agペーストの構成と組成を変えて試作した材料のペースト供給性と供給後の形状維持性に関するペースト機能と、接合部材Ag,Ni,Cuに対する接合強度を評価した結果を示す。
【0041】
接合プロセスは、部材がAgの場合は大気中で250℃-1h(1時間)の加熱処理のみを行う。部材がNiの場合には最初に(N2+H2)の還元雰囲気中で400℃-10分の加熱処理を行い、次に大気中で250℃-1hの加熱処理を行う2段階処理を行っている。部材がCuの場合には最初に(N2+H2)の還元雰囲気中で400℃-10分の加熱処理を行い、次に大気中で250℃-1hの加熱処理を行い、最後に(N2+H2)の還元雰囲気中で350℃-30分の加熱処理を行う3段階処理を行っている。
【0042】
図4において、水素有機銀錯体溶液を含まないAgペーストNo.9は、ペースト機能とAgへの接合性に優れるが、非貴金属のNiやCuには接合性が悪い。Ag粒子の量が75wt%以下のAgペーストNo.1,2,3では液体の比率が高いため粘度が低くなり、厚い接合層の形成が困難となって熱膨張差が大きい半導体チップとCuベースの金属部材の接合では残留応力が大きくなり、相対的に破断強度が低くなるという問題がある。
【0043】
また、Ag粒子の量が95wt%のAgペーストNo10では、粘度が高くなり過ぎて、ディスペンサー等による供給性の低下と半導体チップを搭載した時のAgペーストとチップの密着性低下が問題となり、その結果、接合強度も低くなるという問題がある。
【0044】
Ag粒子の量が80〜90wt%であり有機銀錯体溶液を5〜20wt%含むAgペーストNo.4〜8では、ペースト機能並びにAg及び非貴金属NiやCu部材に対する接合強度で満足する結果が得られている。
【0045】
焼結Agペーストに粒子径が5〜500μmのAgCu,Al,Mg,Ni,Mo,Wなどの導電性粒子を添加したAgペーストNo.11〜15では、Ag粒子と導電性粒子の合計が95wt%のNo.11について粘度が高くなり過ぎてペースト機能と接合強度ともに悪くなっている。
【0046】
そして、Ag粒子の量が75wt%以下のNo.14,15では、金属粒子の総量が85wt%であるのでペースト機能は良好だが、金属結合を得るAg粒子の量が不足しているため接合強度がやや低下するという問題がある。そして、金属粒子の総量が90wt%のNo.12,13は、ペースト機能と接合強度で満足できる結果が得られている。
【0047】
本実施例によれば、焼結AgペーストNo.4〜8を用いることにより、同じペーストで金属部材の種類を選ばず接合できるため、接合材料を1種類のAgペーストで済ますことができ、組み立て工程の材料交換作業が不要となって多種類の部材を同一ラインで生産可能となり、生産性向上に役立つ。
【0048】
また、粒子径の大きい導電性粒子を添加した焼結AgペーストNo.12,13を用いることにより、接合層の厚さや傾きを制御することが容易となり、接合品質の安定した接合が可能となる。また、導電性粒子にCu粒子を用いた場合にはペーストの低コスト化が図れ、AlにNi/Auめっきを施した粒子の場合にはペーストの軽量化とAlの柔らかい性質によって歪吸収性能に優れた接合部を提供できるという効果もある。
【0049】
なお、図4における大粒径の導電性粒子は、導電性に優れる金属粒子を用いた場合を示したが、重量含有率は低くなるが体積含有率がほぼ同等となるように耐熱樹脂コアで金属コートした導電性粒子を用いてもよい。
【0050】
図5は、NiめっきのCuリードフレームにトランジスターチップをダイボンディングする場合の接合手順と接合部の断面状況を示す図である。図5において、Niめっきされたフレーム11のダイパッド領域に、焼結Agペースト12をディスペンサーで所定量供給する(ステップS101)。焼結Agペースト12の組成は、0.1〜2.0μmのマイクロAg粒子が90wt%、有機銀錯体が8wt%、有機溶剤が2wt%である。ディスペンサーによるペースト12の供給は、チップサイズに応じて多点塗布としている。これは、粘度が比較的高く流動性が低いペースト12をチップ13の下に高充填密度で均一に供給するためである。
【0051】
トランジスターチップ13の搭載は、軽くスクラブをかけながら緩やかに押し付け、ダイパッド面からの高さが一定の高さまで水平を保持して押し込んで終了する(ステップS102)。チップ搭載後は、チップ13に荷重など加えずフリーな状態で、還元雰囲気の加熱炉で300〜500℃に加熱し、有機銀錯体を熱分解して(ステップS103)、ペースト供給領域のNiめっき面をAg焼結膜14でコーティングする。加熱時間は温度によるが、10分〜30分程度である。
【0052】
その後、大気雰囲気の炉に移して180〜300℃の温度に加熱し、未焼結状態のAg粒子を焼結させて(ステップS104)、Niめっきフレーム11と裏面に貴金属電極を形成したトランジスターチップ13とを、焼結Ag層15を介して金属的にダイボンディングしている。
【0053】
本実施例においては、Niめっきリードフレーム11に、鉛フリーの接続材料を用いてトランジスターチップ13をダイボンディングできるため、低コストで鉛フリーのトランジスターパッケージの組み立てが可能となる。
【0054】
図6は、めっきレスのCuリードフレームにトランジスターチップをダイボンディングする場合の接合手順と接合部の断面状況を示す。図6において、Cuフレーム21のダイパッド領域に焼結Agペースト22をディスペンサーで所定量供給する(ステップS201)。
【0055】
焼結Agペースト22の組成は、0.1〜2.0μmのマイクロAg粒子が90wt%、有機銀錯体が8wt%、有機溶剤が2wt%である。ディスペンサーによるペースト22の供給はチップサイズに応じて多点塗布としている。トランジスターチップ23の搭載は、軽くスクラブをかけながら押し付け、ダイパッド面からの高さが一定の高さとなるように水平を保持して押し込んで終了する(ステップS202)。
【0056】
チップ搭載後は、チップ23に荷重など加えずフリーな状態で、還元雰囲気の加熱炉で300〜500℃に加熱し(ステップS203)、有機銀錯体を熱分解してペースト供給領域のCu面をAg焼結膜24でコーティングする。
【0057】
その後、大気雰囲気の炉に移して180〜250℃の温度に加熱し、未焼結状態のAg粒子を焼結させて(ステップS204)、Cuフレーム21と裏面に貴金属電極を形成したトランジスターチップ23とを、焼結Ag層25を介して金属的にダイボンディングしている。その後さらに、還元雰囲気の炉に移して250〜350℃に加熱処理し(ステップS205)、Cu表面のCu酸化膜26を還元処理している。
【0058】
本実施例においては、Cuリードフレーム21に鉛フリーの接続材料を用いてトランジスターチップ23をダイボンディングできるため、低コストで鉛フリーのトランジスターパッケージの組み立てが可能となる。
【0059】
図7は、本発明の焼結Agペーストを用いてNiめっきリードフレームのパワー半導体パッケージを組み立てる組み立て手順を示す図である。図7において、裏面電極にAgやAuのメタライズ処理をした半導体デバイスとCuリードフレームの少なくとも上下面にNiめっきを施したNiめっきCuリードフレームを用意する(ステップS301、S302)。
【0060】
そして、NiめっきCuリードフレームのダイパッド上に、マイクロAg粒子と有機銀錯体溶液とCuにAgめっきした導電性粒子と有機溶剤とからなる焼結Agペーストを供給し、チップを押し付けながらペーストをチップ下に均一に分布させる(ステップS303)。
【0061】
ペーストの量は、チップ搭載高さが150〜200μmとなる量とする。チップ搭載後(ステップS304)、リードフレームを窒素と水素を混合した還元雰囲気炉に搬送し、300〜500℃の温度で5〜30分程度焼成処理を行う(ステップS305)。
【0062】
その後、リードフレームを大気雰囲気の加熱炉に移し200〜300℃の温度で10〜100分程度焼結処理を行う(ステップS306)。ダイボンディングを終了した後、半導体デバイスの表側の制御用Al電極及び主電流用Al電極と外部取り出し用の各金属リード間をAlワイヤあるいはAlリボンで超音波接合により結線する(ステップS307)。
【0063】
次に、焼結Ag接合部のフィレットの1または2辺に熱硬化型の液状樹脂を塗布し、40〜80℃の温度に昇温・保持して低粘度化した液状樹脂を毛細管現象でポーラスなAg焼結層に含浸させる。その後に、180〜230℃の温度に加熱して樹脂を硬化または半硬化処理する(ステップS308)。
【0064】
そして、リードフレームの外部取り出し用金属リードとダイパッドの裏面を露出させるように熱硬化タイプの封止樹脂をトランスファーモールドし、加熱硬化処理する(ステップS309)。樹脂から露出した金属部分に化学洗浄の前処理をしてはんだめっきを行い(ステップS310)、最後にリードを切断成型して(ステップS311)、パワー半導体パッケージを完成している。
【0065】
図8は、組み立てたパワー半導体パッケージの断面構造の一実施例を示す。図において、半導体デバイスのSiチップ31の裏面には最表面が貴金属で構成された裏面電極32が形成され、回路面にはAl膜で構成された主電極33と制御電極34が形成されている。
【0066】
Niめっき38が施されたリードフレームのダイパッド35の上に、Siチップ31がポーラスなAgの焼結層40を介して金属接合によりダイボンディングされている。焼結層40の厚さは150μm、空隙率は40%で、焼結層40内の空隙部の多くの領域とフィレット周囲にはフィレットを含まない樹脂41が充填・形成されている。
【0067】
Siチップ31上の主電極33と外部取り出しの主電極用金属リード37の間、及び制御電極34と制御電極用金属リードの間は、Alワイヤ42でボンディングされて結線されている。Siチップ31とAlワイヤ42とダイボンディング部とリードフレームの一部がフィラーを含むエポキシ樹脂43で封止され、露出した金属部分にはSnベースの鉛フリーはんだ合金44,45がめっきされている。
【0068】
本実施例によれば、パワー半導体パッケージのダイボンディングが鉛を含まない焼結Agで行われ、金属露出部も鉛を含まない低融点合金めっきで構成されているため、環境に有害な物質を含まない半導体パッケージを提供できる。
【0069】
また、ダイボンディングの焼結Ag厚さを150μmと厚くし、さらに樹脂を含浸・硬化処理して補強しているため、ダイボンディング部の温度サイクル信頼性を大幅に向上でき、また、Agの金属的な接合としているので、熱や電気伝導性に優れた接続部になり、損失が少なく高信頼な半導体パッケージを提供できる。
【0070】
本発明によれば、焼結Agペースト中の有機銀錯体溶液は、ペーストが塗布された領域の非貴金属面を覆っており、非貴金属の接合面全面をムラ無くAgで被覆することができる。この工程を非酸化雰囲気で行うと。清浄な非貴金属の金属原子とAg原子が金属結合できるため、強固な膜が形成され、酸化雰囲気でAg粒子を焼結したときに、この酸化しないAg膜と焼結Agは金属結合するため、非貴金属部材に対して強固な接合が可能となる。
【符号の説明】
【0071】
1 Cu部材
2 Niめっき膜
3 半導体チップ
4 Au蒸着膜
5 マイクロAg粒子
6 有機銀錯体溶液
7 Agメタライズ膜
8、9 焼結Ag層
11 Niめっきフレーム
12、22 焼結Agペースト
13、23 トランジスターチップ
14、24 Ag焼結膜
15、25 焼結Ag層
21 Cuフレーム
26 Cu酸化膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略球状銀粒子と有機銀錯体とをスラリー状に混練した構成を有することを特徴とする焼結銀ペースト材料。
【請求項2】
前記略球状銀粒子の平均粒径が0.1〜2.0μmであることを特徴とする請求項1に記載の焼結銀ペースト材料。
【請求項3】
前記有機銀錯体を溶解する有機溶剤を添加してスラリー状に混練したことを特徴とする請求項1又は2に記載の焼結銀ペースト材料。
【請求項4】
平均粒径が0.1〜2.0μmの前記略球状銀粒子を80〜90wt%含み、前記有機銀錯体を5〜20wt%含み、150℃以上の沸点を持ちC,H,Oから構成される前記有機溶剤を0〜10wt%含むことを特徴とする請求項3に記載の焼結銀ペースト材料。
【請求項5】
前記有機銀錯体は、150℃以上の沸点を持ちC,H,Oから構成される有機溶剤に、液状の脂肪酸銀化合物あるいは固体の脂肪酸銀塩を溶解した溶液であり、全体の液状成分中の銀含有量が30wt%以上であることを特徴とする請求項3又は4に記載の焼結銀ペースト材料。
【請求項6】
平均粒径が10〜500μmの高導電性粒子を0〜10wt%添加してスラリー状に混錬した構成を有することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の焼結銀ペースト材料。
【請求項7】
高導電性粒子がAg,Cu,Al,Mg,Ni,Mo,Wのいずれかをコア粒子とし、その最表面がAg,Au,Pdのいずれかの材料で構成されていることを特徴とする請求項6に記載の焼結銀ペースト材料。
【請求項8】
平均粒径が10〜500μmで表面に貴金属膜を形成した樹脂粒子を0〜2wt%添加してスラリー状に混錬した構成を有することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の焼結銀ペースト材料。
【請求項9】
半導体チップをダイパッドにダイボンディングする半導体チップ接合方法において、
Ni表面のダイパッド上に、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の焼結銀ペースト材料を供給し、
該焼結銀ペースト材料の上に半導体チップを押しつけて搭載し、
還元雰囲気中で300〜500℃に加熱処理し、
酸化雰囲気中で180〜300℃に加熱処理することを特徴とする半導体チップ接合方法。
【請求項10】
Ni表面のダイパッド上に有機銀錯体を塗布し、該有機銀錯体の上に、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の焼結銀ペースト材料を供給することを特徴とする請求項9に記載の半導体チップ接合方法。
【請求項11】
半導体チップをダイパッドにダイボンディングする半導体チップ接合方法において、
Cu表面のダイパッド上に、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の焼結銀ペースト材料を供給し、
該焼結銀ペースト材料の上に半導体チップを押しつけて搭載し、
還元雰囲気中で300〜500℃に加熱処理し、
酸化雰囲気中で180〜300℃に加熱処理し、
還元雰囲気中で200〜400℃に加熱処理することを特徴とする半導体チップ接合方法。
【請求項12】
Cu表面のダイパッド上に有機銀錯体を塗布し、該有機銀錯体の上に前記焼結銀ペースト材料を供給することを特徴とする請求項11に記載の半導体チップ接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−249257(P2011−249257A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123774(P2010−123774)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】