説明

焼菓子用離型性改良剤、焼菓子生地、焼菓子、及び、焼菓子の離型性改良方法

【課題】焼菓子生地に添加使用する焼菓子用離型性改良剤であって、得られる焼菓子の風味に影響を与えることがなく、離型性を改良することができる焼菓子用離型性改良剤を提供すること。
【解決手段】
下記成分(A)を0.2〜20.0質量%、及び、下記成分(B)を含有し、その含有量の比が質量基準で0.001≦(B)/(A)≦10であり、水分含量が20〜98質量%のゲルからなる焼菓子用離型性改良剤。
(A)アルギン酸及び/又はアルギン酸塩
(B)カルシウム

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は焼菓子において、その焼菓子生地に配合することで離型性を改良することができる焼菓子用離型性改良剤、該焼菓子用離型性改良剤を含有する焼菓子生地、該焼菓子生地を焼成した焼菓子、及び、焼菓子の離型性改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
焼菓子生地を焼成する場合、水分含有量が低い焼菓子生地、たとえばクッキー生地やショートブレッド生地等は常温でも保型性を有するため、通常は展板に積置して焼成する。そして、水分含有量が多い焼菓子生地、たとえばスポンジケーキ生地やバターケーキ生地、マフィン生地等は常温で流動性を有するため、展板上に絞って焼成したり、カップ状の型展板やパウンドケーキ型、スポンジケーキ型などの金属製あるいは樹脂製の焼型や、カップケーキ型、マフィン型等の紙製の焼型に充填して焼成する。
【0003】
ここで、これらの焼菓子生地を焼成する場合、通常は、展板や焼型に離型油を塗布して焼成するが、特に水分含有量が多い焼菓子生地を焼成する場合、展板や焼型からの離型性は極めて悪いものである。そこで、離型性を改良するために離型油の塗布量を増やすと、離型油が高温で加熱されることによって生じる異味が焼菓子についてしまう問題や、焼菓子の焼型との接触面がフライ菓子のようになってしまい商品価値が低下してしまう問題も生じる。
【0004】
このため、離型油の量を減じても離型性の高い焼菓子生地を得る方法として、焼菓子生地に離型性を改良する食品素材を添加することが考えられた。たとえば、カルシウム塩をケーキ生地に添加する方法(たとえば特許文献1参照)や、ケーキ生地のpHをアルカリ性とする食品素材を添加する方法(たとえば特許文献2参照)などが提案された。
【0005】
しかし、特許文献1に記載の方法は、ケーキ生地中の塩類の量の微妙なコントロールに依存しているため、リーンな配合の焼菓子の場合は高い効果を得られるが、乳製品や卵製品等を多く含有するリッチな配合の焼菓子の場合はほとんど効果が得られない問題があり、特許文献2に記載の方法は、焼菓子の内相が粗くなり焼痩せしやすく、また食感や風味が悪化する問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開平2−92229号公報
【特許文献2】特開平5−23097号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は、焼菓子生地に添加使用する焼菓子用離型性改良剤であって、得られる焼菓子の内相、風味に影響を与えることがなく、離型性を改良することができる焼菓子用離型性改良剤を提供することにある。また、本発明の目的は、焼成時の離型性が良好で、焼き痩せがなく、内相が良好で、食感と風味が良好な焼菓子を得ることができる焼菓子生地、および、該特特徴を有する焼菓子を提供することにある。さらに本発明の目的は、焼菓子の内相、風味に影響することなく離型性を改良することができる焼菓子の離型性改良方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、鋭意検討を重ねた結果、特定の2成分を含有し、特定水分含量のゲルを焼菓子生地に添加すると、上記目的を解決可能であることを見出した。
すなわち、下記成分(A)を0.2〜20.0質量%、及び、下記成分(B)を含有し、その含有量の比が質量基準で0.001≦(B)/(A)≦10であり、水分含量が20〜98質量%のゲルからなる焼菓子用離型性改良剤、該焼菓子用離型性改良剤を含有する焼菓子生地、該焼菓子生地を焼成した焼菓子、及び、下記成分(A)を0.2〜20.0質量%、及び、該焼菓子用離型性改良剤を焼菓子生地に配合することを特徴とする焼菓子の離型性改良方法を提供するものである。
(A)アルギン酸及び/又はアルギン酸塩
(B)カルシウム
【発明の効果】
【0009】
本発明の焼菓子用離型性改良剤は、焼菓子生地に添加すると、焼菓子の風味に影響を与えることがなく、離型性を改良することができる。また本発明の焼菓子生地は焼成時の離型性が良好で、風味・内相とも良好な焼菓子を得ることができる。さらに本発明の焼菓子は、内相・風味とも良好で、焼き痩せもない。さらに本発明の焼菓子の離型性改良方法では、離型油塗布量が少なくても十分な離型性を得ることができ、また得られる焼菓子の内相・風味が良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の焼菓子用離型性改良剤の好ましい実施形態について詳述する。
【0011】
本発明の焼菓子用離型性改良剤は、下記成分(A)及び成分(B)を含有する。
(A)アルギン酸及び/又はアルギン酸塩
(B)カルシウム
【0012】
ここで、上記アルギン酸としては、コンブやワカメに代表される褐藻類から抽出された多糖類があげられ、上記アルギン酸塩としては、カルシウム塩以外の該アルギン酸の塩であって、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、さらには鉄、スズ等の金属塩などが可能であるが、食品に用いることから食品添加物である塩を選んで使用し、好ましくは、水への溶解度が高いこと、下記(C)ナトリウムの給源としても使用可能な点から、ナトリウム塩が好ましい。
【0013】
本発明の焼菓子用離型性改良剤において、上記(A)アルギン酸及び/又はアルギン酸塩の含有量は、好ましくは0.2〜20.0質量%、より好ましくは0.4〜10.0質量%、さらに好ましくは0.6〜6.0質量%である。
【0014】
また、上記(A)成分が下記の(A1)成分と(A2)成分の混合物であると、解れ性が良好なゲルとなるため、下に述べる流動ゲルの形態とする操作を行なわずとも、焼菓子生地に添加した場合に、均質に生地中に分散させることが可能な点から好ましい。
(A1)高粘性アルギン酸及び/又は高粘性アルギン酸塩
(A2)低粘性アルギン酸及び/又は低粘性アルギン酸塩
【0015】
本発明の焼菓子用離型性改良剤において上記(A1)成分と、上記(A2)成分の質量比率は、好ましくは(A1):(A2)=99:1〜20:80、より好ましくは99:1〜30:70、さらに好ましくは 99:1〜50:50とする。(A1):(A2)において(A2)の質量比率が1よりも少ないとゲルが硬くなりすぎ、(A1):(A2)において(A2)の質量比率が80よりも多いとゲルの強度が低下して、共に解れ性が良好なゲルとならず、焼菓子生地に添加した際に、焼菓子生地の硬さによっては離型性の改良が為されないおそれがある。
【0016】
ここで、上記(A1)高粘性アルギン酸及び/又は高粘性アルギン酸塩(以下高粘性アルギン酸類ということもある)とは、B型粘度計で、pH7、25℃及び30rpmの条件下で測定したとき、上記(A1)高粘性アルギン酸及び/又は高粘性アルギン酸塩の1質量%水溶液の粘度が、好ましくは10mPa・sを超えるもの、さらに好ましくは100mPa・sを超えるものである。
【0017】
また、上記(A2)低粘性アルギン酸及び/又は低粘性アルギン酸塩(以下低粘性アルギン酸類ということもある)とは、B型粘度計で、pH7、25℃及び30rpmの条件下で測定したとき、上記(A2)低粘性アルギン酸類の10質量%水溶液の粘度が、好ましくは1〜700mPa・s、さらに好ましくは1〜100mPa・s、最も好ましくは1〜60mPa・sのものである。
【0018】
また上記と同じ条件下で粘度を測定したとき、上記(A2)低粘性アルギン酸類の1質量%水溶液の粘度が、好ましくは1mPa・s以上10mPa・s未満、さらに好ましくは1mPa・s以上8mPa・s以下、最も好ましくは1mPa・s以上7mPa・s以下のものである。
【0019】
ここで、上記低粘性アルギン酸としては、高粘性アルギン酸より分子量の少ないアルギン酸や、構成糖類においてグルロン酸よりマンニュロン酸の比率が高いアルギン酸があげられ、上記低粘性アルギン酸塩としては、低粘性アルギン酸の塩であって、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、さらには鉄、スズ等の金属塩などが可能であるが、食品に用いることから食品添加物である塩を選んで使用し、好ましくは、水への溶解度が高いこと、下に記す(C)ナトリウムの給源としても使用可能な点から、ナトリウム塩が好ましい。
【0020】
なお、低粘性アルギン酸類のみでゲルを形成することは極めて困難であり、たとえ得られたとしても、得られるゲルの強度は極めて弱いものである。
【0021】
本発明で使用する(B)カルシウムとしては、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、クエン酸カルシウム、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム、パントテン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、グルタミン酸ンカルシウム等の各種カルシウム製剤のほか、牛乳、脱脂乳、脱脂粉乳、全粉乳、カゼイン、ホエイ、ホエイパウダー、ホエイ蛋白質濃縮物、蛋白質濃縮ホエイパウダー、ミルクカルシウム、乳清カルシウム、乳清ミネラル等のカルシウムを含有する乳製品や、鶏卵殻粉末等の、カルシウムを含有する食品が挙げられ、これらのうちの一種、又は2種以上を使用することができる。
【0022】
本発明では、上記の中でも、カルシウムの徐放性の点から、製造時の混合液の増粘を考慮することなく、安定して製造可能な点、さらには、上記(A)アルギン酸及び及び/又はアルギン酸塩を多く配合することが可能であり、結果として、より離型性の高い焼菓子用離型性改良剤を得ることが可能な点で、カルシウムを含有する食品を使用することが好ましく、特に、風味が良好である点で、牛乳、脱脂乳、脱脂粉乳、全粉乳、カゼイン、ホエイ、ホエイパウダー、ホエイ蛋白質濃縮物、蛋白質濃縮ホエイパウダー、ミルクカルシウム、乳清ミネラル等の、カルシウムを含有する乳製品を使用することが好ましい。
【0023】
本発明において、(B)カルシウムの含有量は、(A)の含有量と密接な関係があり、質量基準で0.001≦(B)/(A)≦10、好ましくは0.005≦(B)/(A)≦1、さらに好ましくは0.01≦(B)/(A)≦0.1である。(B)/(A)が0.001より少ないとゲルが形成されず、また1より多いと均質なゲルとならないため、共に安定してゲルが得られないことに加え、離型性の改良が為されない。
【0024】
なお、上記(B)カルシウムの含有量は、下記乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料としてカルシウムを含有するものを用いた場合は、これらに含有されるカルシウムを含むものである。さらに、その他の原料に含まれるカルシウム分も含めて算出する。
【0025】
また、(B)カルシウムの含有量は上記範囲内であれば特に制限はないが、風味が良好である点で好ましくは0.01〜5質量%、より好ましくは0.03〜2質量%とすることが好ましい。
【0026】
本発明では、(C)ナトリウムを使用すると、よりゲル強度の高いゲルが得られる点で好ましい。
【0027】
本発明で使用する(C)ナトリウムの由来としては、(A)で使用するアルギン酸ナトリウムや、乳酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、パントテン酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム等の各種ナトリウム製剤のほか、牛乳、脱脂粉乳、全粉乳、カゼイン、ホエイ、ホエイパウダー、ホエイ蛋白質濃縮物、蛋白質濃縮ホエイパウダー、乳清ミネラル、その他乳製品、また、食塩、岩塩、その他ナトリウムを含有する食品素材等が挙げられる。本発明では、好ましくはアルギン酸ナトリウムと食塩を併用することが、風味が良好であり、広く各種食品に適用可能な点で好ましい。
【0028】
本発明において、(C)ナトリウムの含有量は、質量基準で、好ましくは0.01≦ (C)/(A)≦1.0、より好ましくは0.03≦(C)/(A)≦0.8、さらに好ましくは0.05≦(C)/(A)≦0.5である。なお、(C)ナトリウムの含有量には、上記(A)アルギン酸塩として使用するアルギン酸ナトリウム由来のナトリウム含量も含むものとする。
【0029】
本発明では、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が該固形分を基準として2質量%以上である乳原料を使用すると、より解れ性が良好なゲルとなるため、下に述べる流動ゲルの形態とする操作を行なわずとも、焼菓子生地に添加した場合に、均質に生地中に分散させることが可能な点から好ましい。なお該乳原料としては、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が、該固形分を基準として、3質量%以上である乳原料を使用することが好ましく、さらに好ましくは4質量%以上、最も好ましくは5〜40質量%である乳原料を使用する。
【0030】
上記乳由来の固形分中のリン脂質とは、乳由来の固形分中に含まれる乳由来のリン脂質のことを指す。
【0031】
また、上記乳原料は、液体状でも、粉末状でも、濃縮物でも構わない。但し、溶剤を用いて乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上となるように濃縮した乳原料は、風味上の問題から、本発明においては、上記乳原料として用いないのが好ましい。
【0032】
乳由来のリン脂質を含有する乳原料の固形分中のリン脂質の定量方法としては、例えば下記の定量方法が挙げられる。但し、抽出方法等については乳原料の形態等によって適正な方法が異なるため、下記の定量方法に限定されるものではない。
【0033】
まず、乳由来のリン脂質を含有する乳原料の脂質をFolch法を用いて抽出する。次いで、抽出した脂質溶液を湿式分解法(日本薬学会編、衛生試験法・注解2000 2.1食品成分試験法に記載の湿式分解法に準じる)にて分解した後、モリブデンブルー吸光度法(日本薬学会編、衛生試験法・注解2000 2.1食品成分試験法に記載のリンのモリブデン酸による定量に準じる)によりリン量を求める。求められたリン量から、以下の計算式を用いて、乳由来のリン脂質を含有する乳原料の固形分100g中のリン脂質の含有量(g)を求める。
【0034】
リン脂質(g/100g)=〔リン量(μg)/(乳由来のリン脂質を含有する乳原料−乳由来のリン脂質を含有する乳原料の水分(g))×25.4×(0.1/1000)
上記乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が該固形分を基準として2質量%以上である乳原料としては、例えば、クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分が挙げられる。該クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分は、通常のクリームからバターを製造する際に生じるいわゆるバターミルクとは組成が大きく異なり、リン脂質を多量に含有しているという特徴がある。バターミルクは、その製法の違いによって大きく異なるが、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が、通常0.5〜1.5質量%程度であるのに対して、上記クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分は、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が、大凡2〜15質量%であり、多量のリン脂質を含有している。
【0035】
本発明において、上記乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料として、通常のクリームからバターを製造する際に生じるいわゆるバターミルクそのものを用いることはできないが、バターミルクを乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上となるように濃縮した濃縮物、あるいはその乾燥物を用いることは可能である。
【0036】
上記クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる上記水相成分の製造方法の一例を以下に説明する。
【0037】
上記クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の製造方法は、例えば以下の通りである。
【0038】
先ず、牛乳を遠心分離して得られる脂肪濃度30〜40質量%のクリームをプレートで加温し、遠心分離機によってクリームの脂肪濃度を70〜95質量%まで高める。次いで、乳化破壊機で乳化を破壊し、再び遠心分離機で処理することによってバターオイルが得られる。本発明で用いることができる上記水相成分は、最後の遠心分離の工程でバターオイルの副産物として発生するものである。
【0039】
一方、上記バターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の製造方法は、例えば以下の通りである。
【0040】
先ず、バターを溶解機で溶解し、熱交換機で加温する。これを遠心分離機で分離することによってバターオイルが得られる。本発明で用いることができる上記水相成分は、遠心分離の工程でバターオイルの副産物として発生するものである。該バターオイルの製造に用いられるバターとしては、通常のものが用いられる。
【0041】
本発明で用いることができる上記水相成分としては、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が該固形分を基準として2質量%以上であれば、上記クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分をそのまま用いてもよく、また、噴霧乾燥、濃縮、冷凍等の処理を施したものを用いてもよい。
【0042】
但し、乳由来のリン脂質は、高温加熱するとその機能が低下するため、上記加温処理や上記濃縮処理中あるいは殺菌等により加熱する際の温度は、100℃未満であることが好ましい。
【0043】
また、本発明では、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が該固形分を基準として2質量%以上である乳原料として、上記乳原料中のリン脂質の一部又は全部がリゾ化されたリゾ化物を使用することもできる。該リゾ化物は、上記乳原料をそのままリゾ化したものであってもよく、また上記乳原料を濃縮した後にリゾ化したものであってもよい。また、得られたリゾ化物に、さらに濃縮あるいは噴霧乾燥処理等を施してもよい。
【0044】
上記乳原料の一部又は全部として、上記リゾ化物を本発明で用いることにより、より離型性を改良させることができる。
【0045】
乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が該固形分を基準として2質量%以上である乳原料中のリン脂質をリゾ化するには、ホスホリパーゼAで処理すればよい。ホスホリパーゼAは、リン脂質分子のグリセロール部分と脂肪酸残基とを結びつけている結合を切断し、この脂肪酸残基を水酸基で置換する作用を有する酵素である。ホスホリパーゼAは、作用する部位の違いによってホスホリパーゼA1とホスホリパーゼA2とに分かれるが、ホスホリパーゼA2が好ましい。ホスホリパーゼA2の場合、リン脂質分子のグリセロール部分の2位の脂肪酸残基が選択的に切り離される。
【0046】
本発明において、上記乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が該固形分を基準として2質量%以上である乳原料を、固形分として、好ましくは0.1〜8質量%、さらに好ましくは0.5〜7質量%、最も好ましくは1〜4質量%含有する。
【0047】
尚、上記乳原料の起源となる乳としては、牛乳、ヤギ乳、ヒツジ乳、人乳等の乳を例示することができるが、特に牛乳が好ましい。
【0048】
本発明の焼菓子用離型性改良剤は、油脂を、好ましくは1〜60質量%、さらに好ましくは5〜30質量%、最も好ましくは10〜25質量%含有する。油脂を含有することにより、より解れ性が良好なゲルとなるため、下に述べる流動ゲルの形態とする操作を行なわずとも、焼菓子生地に添加した場合に、均質に生地中に分散させることが可能な点から好ましい。
【0049】
本発明で用いることのできる油脂としては特に限定されないが、例えばパーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、カカオ油、サフラワー油、乳脂、牛脂、豚脂、魚油、鯨油等の各種の植物油脂、動物油脂およびこれらの水素添加、分別およびエステル交換処理から一または二以上の処理を行った加工油脂や、MCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、全脂粉乳、加糖全脂粉乳等の油脂を含有する食品素材があげられる。本発明ではこれらの油脂の中から選ばれた1種または2種以上を使用することができる。
【0050】
なお、本発明では、油脂を含有する場合、水中油型乳化の形態で含有することが好ましく、その際の油脂粒径は、油滴の体積基準のメディアン径が好ましくは10μm以下、更に好ましくは5μm以下、より好ましくは3μmである。10μmを越えると、良好な解れ性が得られないおそれがあることに加え、保存時の乳化安定性が低下してしまうおそれがある。
【0051】
なお、本発明の焼菓子用離型性改良剤において、水分含量は、20〜98質量%、好ましくは35〜90質量%、さらに好ましくは40〜90質量%である。水分含量が20質量%より少ないか、98質量%より多いと、十分な強度のゲルを得られない。また、水分含量が98質量%より多いと、保存中に水分離が生じやすくなる問題もある。なお、ここでいう水とは、水道水や天然水などの配合水に加え、牛乳、液糖などの各種原料に含まれる水分も含めたものとする。
【0052】
本発明では、必要に応じ、上記(A)アルギン酸及び/又はアルギン酸塩以外のゲル化剤や安定剤、乳化剤、金属イオン封鎖剤、糖類・甘味料、澱粉類、上記乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が該固形分を基準として2質量%以上である乳原料以外の乳や乳製品、卵製品、穀類、無機塩、有機酸塩、キモシン等の蛋白質分解酵素、トランスグルタミナーゼ、ラクターゼ(β−ガラクトシダーゼ)、α―アミラーゼ、グルコアミラーゼ等の糖質分解酵素、ジグリセライド、植物ステロール、植物ステロールエステル、果汁、濃縮果汁、果汁パウダー、乾燥果実、果肉、野菜、野菜汁、香辛料、香辛料抽出物、ハーブ、直鎖デキストリン・分枝デキストン・環状デキストン等のデキストリン類、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品、その他各種食品素材、着香料、苦味料、調味料等の呈味成分、着色料、保存料、酸化防止剤、pH調整剤、強化剤等を配合してもよい。
【0053】
上記(A)アルギン酸及び/又はアルギン酸塩以外のゲル化剤や安定剤としては、ペクチン、LMペクチン、HMペクチン、海藻抽出物、海藻エキス、寒天、グルコマンナン、ローカストビーンガム、グアーガム、ジェランガム、タラガントガム、キサンタンガム、カラギーナン、カードラン、タマリンドシードガム、カラヤガム、タラガム、トラガントガム、アラビアガム、カシアガムの中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。
【0054】
上記(A)アルギン酸及び/又はアルギン酸塩以外のゲル化剤や安定剤の含有量は、好ましくは4質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下とする。上記アルギン酸類以外のゲル化剤や安定剤の含有量が4質量%よりも多いと、ゲル強度が低下したり、良好な耐熱性が得られなかったり、更には、ゲルを添加した食品が粘性を呈したりするなど食感に違和感を呈しやすいので好ましくない。
【0055】
上記乳化剤は、焼菓子用離型性改良剤が油脂を含有する場合や、また、飲食品に老化防止やさらに高い食感改良効果(とくにソフト性・歯切れ)などの効果を付加するために必要に応じ添加するものであり、その具体例としては、レシチン、酵素処理レシチンなどの天然乳化剤、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の合成乳化剤が挙げられる。本発明の本発明の焼菓子用離型性改良剤では、風味や、消費者の間に広まっている天然志向に応える観点から、上記乳化剤のうち、合成乳化剤を用いないことが好ましく、さらに好ましくは上記の天然乳化剤や合成乳化剤などの乳化剤を用いないのが好ましい。
【0056】
上記金属イオン封鎖剤は、一般にアルギン酸ゲルを製造する際に、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、鉄イオン等の二価の金属イオンを封鎖するために添加するものであり、本発明では(B)カルシウムを被包して、アルギン酸類との反応を制御するために、必要に応じ使用するものである。その具体例としては、ピロリン酸四ナトリウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、ウルトラポリリン酸ナトリウム、第三リン酸カリウム等の各種リン酸塩、並びにクエン酸、酒石酸等の有機酸塩類、及び炭酸塩等の無機塩類、さらには、これらの金属イオン封鎖剤を含有する食品素材が挙げられる。
【0057】
本発明では、これらの各種金属イオン封鎖剤の中から選ばれた1種又は2種以上を、目的に応じて用いることができるが、本発明の焼菓子用離型性改良剤では、金属イオン封鎖剤を使用せずとも製造可能であること、また、風味の面から、金属イオン封鎖剤を使用しないことが好ましい。
【0058】
上記pH調整剤は、(B)カルシウムとして、カルシウムを含有する食品を用いた場合などに、カルシウムを水相中に溶出させるために、必要に応じ使用するものであり、その具体例としては、クエン酸、乳酸、グルコン酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、酢酸、氷酢酸、フィチン酸、アジピン酸、コハク酸、グルコノデルタラクトン、アスコルビン酸が挙げられ、これらを単独で用いるか、又は二種以上を組み合わせて用いる。また、これらのpH調整剤を含有する食品素材の形で本発明の焼菓子用離型性改良剤に含有させてもよい。本発明では、これらの各種pH調整剤の中から選ばれた1種又は2種以上を、目的に応じて用いることができる。
【0059】
上記pH調整剤の含有量は、本発明の焼菓子用離型性改良剤中、好ましくは0〜1質量%である。
【0060】
上記糖類は、焼菓子に甘味を付与する場合や、また、離型性に加え、老化防止やソフト性などの効果を付加するために必要に応じ添加するものであり、その具体例としては、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、酵素糖化水飴、乳糖、還元澱粉糖化物、異性化液糖、ショ糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、ソルビトール、還元乳糖、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖等が挙げられる。また、上記甘味料としては、スクラロース、アセスルファムカリウム、ステビア、アスパルテーム等が挙げられる。これらの糖類及び甘味料は、単独で用いることもでき、又は二種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0061】
上記糖類及び上記甘味料の含有量は、固形分として好ましくは0〜50質量%、さらに好ましくは0〜30質量%、最も好ましくは0〜20質量%である。
【0062】
なお、上記その他の原料は、合計として、好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下、最も好ましくは20質量%以下とする。30質量%を超えると、ゲル強度が著しく低下し、焼菓子生地に添加した際に、得られる焼菓子に十分な離型性改良効果を付与することができなくなる恐れがあるからである。
【0063】
本発明の焼菓子用離型性改良剤は上記成分(A)及び成分(B)を含有するゲルからなるものである。
【0064】
本発明におけるゲルとは、水や温水に溶けずに均一に分散するものであり、水に溶解してしまうものはゾルであるから、本発明の効果は得られない。また、上記(A)成分と(B)成分を粉末の状態のまま焼菓子生地に添加しても本発明の効果は得られない。
【0065】
なお、上記成分(A)及び成分(B)を含有するゲルのゲル強度は、使用する焼菓子生地の粘度に合わせ、(A)成分の含有量や、(A)成分と(B)成分の比率を適宜調整することで調整することもできるが、得られた固形のゲルをホモジナイザー等の均質化機を用いてせん断加工して流動状〜ペースト状の、流動ゲルの形態としてもよい。
【0066】
なお、焼菓子生地に添加した際の分散性が良好であることから、上述のとおり、(A)成分として(A1)(A2)成分を併用したもの、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が該固形分を基準として2質量%以上である乳原料を含有するもの、及び、油脂を含有するもの、のうちの少なくとも1種のものであると、固形のゲルの形態であっても、焼菓子生地に添加、混合する際に、より解れ性が良好なゲルとなるため、上述の流動ゲルの形態とする操作を行なわずとも、焼菓子生地に添加した場合に、均質に生地中に分散させることが可能な点から好ましい。
【0067】
次に、本発明の焼菓子用離型性改良剤の製造方法について述べる。
【0068】
下記成分(A)を0.2〜20.0質量%、及び、下記成分(B)を含有し、その含有量の比が質量基準で0.001≦(B)/(A)≦10であり、水分含量が20〜98質量%である混合液を、ゲル化させることにより得ることができる。また、得られたゲルは、必要に応じ、ホモジナイザー等の均質化機を用いてせん断加工して流動状〜ペースト状の、流動ゲルの形態とする。
(A)アルギン酸及び/又はアルギン酸塩
(B)カルシウム
【0069】
ゲル化させる方法としては特に限定されず、公知の方法を適宜選択可能である。
【0070】
ここで、油脂を使用する場合には、上記混合液に、油相を添加して、水中油型に乳化して使用する。この場合上記成分(A)アルギン酸及び/又はアルギン酸塩は油相中に分散させてから添加することが、ダマにならず均一に分散する点、及びより解れ性の良好なゲルが得られる点で好ましい。なお、上記水中油型とは水中油中水型を含むものである。
【0071】
また、pH調整剤や(C)ナトリウムを使用する場合は、上記成分(A)アルギン酸及び/又はアルギン酸塩を添加する前の水相にあらかじめ溶解しておくことが好ましい。
【0072】
さらに、上記混合液は、ゲル化前に必要に応じて加熱殺菌を行なうことができる。該加熱殺菌の方法としては、インジェクション式、インフュージョン式、マイクロ波等の直接加熱方式、又は、バッチ式、プレート式、チューブラー式、掻き取り式等の間接加熱方式があり、UHT、HTST、LTLT等の60〜160℃の加熱処理を行なえば良い。
【0073】
上記均質化において、使用する均質化機としては、例えば、ケトル型チーズ乳化釜、ステファンミキサーの様な高速せん断乳化釜、スタティックミキサー、インラインミキサー、ホモゲナイザー、コロイドミル、ディスパーミル等が挙げられ、好ましくは1〜200MPa、さらに好ましくは5〜150MPa、最も好ましくは10〜100MPaの均質化圧力にて均質化を行なう。この均質化処理は、2段バルブ式ホモゲナイザーを用いて、例えば、1段目10〜100MPa、2段目0〜10MPaの均質化圧力にて行なっても良い。
【0074】
また、得られた本発明の焼菓子用離型性改良剤は、必要に応じて冷却しても良い。冷却方法は、例えば、適当な容器に充填した後に、水浴、氷浴、冷蔵庫、冷凍庫等で冷却する方法も挙げられる。
【0075】
本発明の焼菓子用離型性改良剤は、このようにして得られたゲルを、離型性改良のために焼菓子生地に配合するものである。
【0076】
ここで、なぜ、上述のゲルからなる本発明の焼菓子用離型性改良剤が、焼菓子生地に練込使用した際に離型性が改良されるかは定かではないが、おそらく、該ゲルは熱不可逆性であることから、焼菓子製造時に焼菓子生地を焼成するときの加熱により含まれる澱粉類の糊化を制御して、糊化澱粉の粘性増加を抑制しているためと考えられる。
【0077】
次に、本発明の焼菓子生地について述べる。
【0078】
本発明の焼菓子生地は、上記焼菓子用離型性改良剤を好ましくは0.1〜30質量%、より好ましくは0.5〜15質量%、さらに好ましくは0.5〜12質量%含有するものである。
【0079】
上記の焼菓子生地としては、例えば、クッキー生地、ショートブレッド生地、マフィン生地、バターケーキ生地、スポンジケーキ生地、ドライケーキ生地、クラッカー生地、プレッツェル生地等様々なタイプの焼菓子類の生地に用いることができる。
【0080】
なお、上記焼菓子用離型性改良剤の焼菓子生地への添加方法及び混合方法は、特に限定されず、焼菓子生地の製法や物性、あるいは焼菓子用離型性改良剤のゲル強度などの物性にあわせ適宜選択することができる。たとえば、焼菓子の生地製造時に原料の一種として添加する方法でも、できあがった焼菓子生地に添加して混合する方法でもよい。
【0081】
次に、本発明の焼菓子について述べる。
【0082】
本発明の焼菓子は、上記焼菓子生地を焼成したものであり、内相や風味に影響することなく離型性が改良されているため、外観が良好で、さらに歯切れが改良された焼菓子である。
【0083】
次に、本発明の離型性改良方法について述べる。
【0084】
本発明の離型性改良方法は、上述の焼菓子用離型性改良剤を焼菓子生地に配合するものである。
【0085】
なお、上記焼菓子用離型性改良剤の焼菓子生地への配合方法は、特に限定されず、焼菓子生地の製法や物性、あるいは焼菓子用離型性改良剤のゲル強度などの物性にあわせ適宜選択することができる。たとえば、焼菓子の生地製造時に原料の一種として添加する方法でも、できあがった焼菓子生地に添加して混合する方法でもよい。
【0086】
なお、焼菓子用離型性改良剤の焼菓子生地への配合量は上述のとおり、焼菓子生地中に、上記焼菓子用離型性改良剤を好ましくは0.1〜30質量%、より好ましくは0.5〜15質量%、さらに好ましくは0.5〜12質量%となる量である。
【実施例】
【0087】
次に、実施例及び比較例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、これらは本発明を何ら制限するものではない。
【0088】
<焼菓子用離型性改良剤の製造>
〔実施例1〕
塩化カルシウム(カルシウム含量27質量%)0.2質量部、ホエイパウダー(カルシウム含量0.6質量%、ナトリウム含量0.4質量%)3質量部、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(乳固形分38質量%、乳固形分中のリン脂質の含有量4.89質量%、カルシウム含量0.35質量%、ナトリウム含量0.2質量%)5.5質量部を水67質量部に溶解した。さらに乳酸0.1質量部、食塩(ナトリウム含量39質量%)0.5質量部、乳糖10質量部を添加し、十分に撹拌して混合液を得た。
一方、パーム油12質量部に、高粘性アルギン酸ナトリウム(B型粘度計でpH7、25℃、30rpmの条件下で測定したときの1質量%水溶液の粘度が、150mPa・s、ナトリウム含量9.7質量%)0.5質量部、高粘性アルギン酸(B型粘度計でpH7、25℃、30rpmの条件下で測定したときの1質量%水溶液の粘度が、50mPa・s)0.3質量部、低粘性アルギン酸ナトリウム(B型粘度計でpH7、25℃、30rpmの条件下で測定したときの1質量%水溶液の粘度が、50mPa・s、且つ、10質量%水溶液の粘度が500mPa・s、ナトリウム含量9.7質量%)0.5質量部、低粘性アルギン酸(B型粘度計でpH7、25℃、30rpmの条件下で測定したときの1質量%水溶液の粘度が、50mPa・s、且つ、10質量%水溶液の粘度が500mPa・s)0.4質量部を添加、分散し、油相を調製した。
【0089】
上記混合液に、上記油相を添加、乳化し水中油型組成物とし、これを掻取式熱交換器にて90℃で1分間加熱殺菌し、掻取式熱交換器にて60℃に冷却した。次いでイズミフードマシナリー製2段式ホモゲナイザーにて均質化後、ポリエチレン袋に密封し、20℃まで24時間かけて冷却しゲル化させ、(B)カルシウムとして、カルシウム製剤とカルシウムを含有する食品を併用し、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が該固形分を基準として2質量%以上である乳原料を5.5質量%含有し、油脂を12質量%含有し、水分を70.5質量%含有し、金属イオン封鎖剤を含有しない、本発明の焼菓子用離型性改良剤を得た。
【0090】
得られた本発明の焼菓子用離型性改良剤は、(A)アルギン酸及び/又はアルギン酸塩を1.7質量%、(B)カルシウムを0.092質量%、(C)ナトリウムを0.319質量%含有し、且つ、その含有量の比が質量基準で、(A1):(A2)=47:53、(B)/(A)=0.054、(C)/(A)=0.188であった。
【0091】
確認のため、得られた固形のゲルを水に投入し、ホモジナイザーを使用して攪拌したところ、溶解することなく、破砕された微細ゲルが分散した状態となったことから、ゾルではなくゲルであることが確認できた。
【0092】
〔実施例2〕
アルギン酸類として、高粘性アルギン酸ナトリウム(B型粘度計でpH7、25℃及び30rpmの条件下で測定したときの1質量%水溶液の粘度が、150mPa・s)1.5質量部のみを使用し、水を69.2質量部とした以外は、実施例1と同様の配合、製法で、実施例2の焼菓子用離型性改良剤を得た。
【0093】
得られた実施例2の焼菓子用離型性改良剤は、(A)アルギン酸及び/又はアルギン酸塩を1.5質量%、(B)カルシウムを0.092質量%、(C)ナトリウムを0.364質量%含有し、且つ、その含有量の比が質量基準で、(B)/(A)=0.061、(C)/(A)=0.242であった。なお、水分含量は72.7質量%であった。
【0094】
確認のため、得られた固形のゲルを水に投入し、ホモジナイザーを使用して攪拌したところ、溶解することなく、破砕された微細ゲルが分散した状態となったことから、ゾルではなくゲルであることが確認できた。
【0095】
〔実施例3〕
実施例2で得られたゲルを、ホモジナイザーを用いて、高速2分破砕し、流動ゲルである実施例3の焼菓子用離型性改良剤を得た。
【0096】
〔比較例1〕
高粘性アルギン酸ナトリウム(B型粘度計でpH7、25℃、30rpmの条件下で測定したときの1質量%水溶液の粘度が、150mPa・s、ナトリウム含量9.7質量%)0.5質量部、高粘性アルギン酸(B型粘度計でpH7、25℃、30rpmの条件下で測定したときの1質量%水溶液の粘度が、50mPa・s)0.3質量部、低粘性アルギン酸ナトリウム(B型粘度計でpH7、25℃、30rpmの条件下で測定したときの1質量%水溶液の粘度が、50mPa・s、且つ、10質量%水溶液の粘度が500mPa・s、ナトリウム含量9.7質量%)0.5質量部、低粘性アルギン酸(B型粘度計でpH7、25℃、30rpmの条件下で測定したときの1質量%水溶液の粘度が、50mPa・s、且つ、10質量%水溶液の粘度が500mPa・s)0.4質量部を混合し、粉末状の混合物を得た。
【0097】
〔比較例2〕
実施例1における、高粘性アルギン酸ナトリウム0.5質量部、高粘性アルギン酸0.3質量部、低粘性アルギン酸ナトリウム0.5質量部、及び、低粘性アルギン酸0.4質量部をすべて無添加とし、キサンタンガム1.7質量部を添加した以外は、実施例1と同様にして、比較例1の焼菓子用離型性改良剤を得た。
【0098】
確認のため、得られた固形のゲルを水に投入し、ホモジナイザーを使用して攪拌したところ、溶解したところから、該組成物はゲルではなくゾルであることが判った。
【0099】
〔比較例3〕
キサンタンガム1.7質量部に代えてゼラチン1.7質量部に変更した以外は、比較例2と同様にして、比較例3の焼菓子用離型性改良剤を得た。
【0100】
確認のため、得られた固形のゲルを水に投入し、ホモジナイザーを使用して攪拌したところ、溶解せず分散したところから、該組成物はゲルであることが判った。
【0101】
<バターケーキの製造>
〔実施例4〕
バター100質量部、及び、上白糖100質量部をミキサーボウルに投入し、卓上ミキサーでビーターを使用して低速1分、高速5分クリーミングした。次いで低速でミキシングしながら、全卵(正味)90質量部、及び、液糖10質量部を2分かけてゆっくり加え、さらに低速1分ミキシングし、ここに、薄力粉100質量部とベーキングパウダー1質量部、及び、実施例1で得られた焼菓子用離型性改良剤20質量部を添加、低速1分混合し、実施例4のバターケーキ生地を得た。なお、該バターケーキ生地は上記焼菓子用離型性改良剤を4.8質量%含有するものであった。
【0102】
得られたバターケーキ生地は、離型油をごく薄く塗布した金属製フィナンシェ型展板(24個用)に流し込み、上火180℃、下火170℃で10分間焼成した。
【0103】
〔実施例5〕
実施例1で得られた焼菓子用離型性改良剤に代えて実施例2で得られた焼菓子用離型性改良剤を使用した以外は実施例4と同様の配合と製法により実施例5のバターケーキ生地を得て、同様に上火180℃、下火170℃で10分間焼成した。
【0104】
〔実施例6〕
実施例1で得られた焼菓子用離型性改良剤に代えて実施例3で得られた焼菓子用離型性改良剤を使用した以外は実施例4と同様の配合と製法により実施例5のバターケーキ生地を得て、同様に上火180℃、下火170℃で10分間焼成した。
【0105】
〔比較例4〕
バター100質量部、比較例1で得られた粉末状の混合物0.26質量部、及び、上白糖100質量部をミキサーボウルに投入し、卓上ミキサーでビーターを使用して低速1分、高速5分クリーミングした。次いで低速でミキシングしながら、全卵(正味)100質量部を2分かけてゆっくり加え、さらに低速1分ミキシングし、比較例4のバターケーキ生地を得た。
【0106】
〔比較例5〕
実施例1で得られた焼菓子用離型性改良剤に代えて比較例2で得られた焼菓子用離型性改良剤を使用した以外は実施例4と同様の配合と製法により比較例5のバターケーキ生地を得て、同様に上火180℃、下火170℃で10分間焼成した。
【0107】
〔比較例6〕
実施例1で得られた焼菓子用離型性改良剤に代えて比較例3で得られた焼菓子用離型性改良剤を使用した以外は実施例4と同様の配合と製法により比較例6のバターケーキ生地を得て、同様に上火180℃、下火170℃で10分間焼成した。
【0108】
〔比較例7〕
焼菓子用離型性改良剤を全く使用しない以外は、実施例4と同様の配合と製法により比較例7のバターケーキ生地を得て、同様に上火180℃、下火170℃で10分間焼成した。
【0109】
<バターケーキの離型性テスト>
焼成後すぐに、展板を反転させ、ショックを与えて離型した。型に付着した焼菓子生地を目視により下記の4段階に評価し、結果を表1に記載した。
◎+:24個のうち24個がきれいに離型した。
◎:24個のうち12個〜23個がきれいに離型した。残りのものは離型したが、若干生地が焼型に残った。
○:24個のうち1個〜11個がきれいに離型し、残りのものは離型したが、若干生地が焼型に残った。
△:24個全てが離型したが、その全て、若干生地が焼型に残った。
×:24個のうち離型しないものがあった。
【0110】
<食感の評価試験>
さらに、得られたバターケーキは、袋に詰めて25℃で7日静置したのち、厚さ15mmにスライスし、食感(ソフト性・歯切れ性)についてパネルテストを行なった。
【0111】
なお、パネルテストは、11人のパネラーにバターケーキを試食させ、バターケーキの歯切れ感について、5段階に評価し、その結果を表2に記載した。
◎:ソフトで歯切れ感が極めて良好な食感であった。
○:ソフトで歯切れ感が良好な食感であった。
△:ソフトであるが歯切れ感が不良であった。
×:歯切れ感は良好であるが、ソフト感が不良であった。
××:ソフト性、歯切れ感共に不良であり、ねちゃつく食感であった。
【0112】
<内相の評価試験>
さらに、得られたバターケーキは、袋に詰めて25℃で7日静置したのち、厚さ15mmにスライスし、内相について評価を行なった。
【0113】
なお、該評価は、下記評価基準に従って3段階に評価し、その結果を表2に記載した。
○:良好な内相であった。
△:やや目がつまり不良な」内相であった。
×:目がつまりまた不均質な極めて不良な内相であった。
【0114】
【表1】

【0115】
【表2】

【0116】
表1の結果からわかるとおり、実施例1〜3の本発明の焼菓子用離型性改良剤を焼菓子生地に添加した実施例4〜7の本発明の焼菓子生地は、焼菓子用離型性改良剤を使用しない比較例7の焼菓子生地に比べあきらかに焼成後の離型性が改良されていることがわかる。さらに、得られた焼菓子(バターケーキ)は、表2の結果からわかるとおり焼菓子用離型性改良剤を使用しないで得られた比較例7の焼菓子(バターケーキ)に比べ、食感が改良されていることがわかる。
【0117】
それに対し、焼菓子用離型性改良剤をまったく使用しない比較例7の焼菓子生地は、焼成後の離型性が悪く、食感についてもソフトではあるが歯切れ感がないものであった。
【0118】
また、アルギン酸及びアルギン酸塩を粉末の形態で焼菓子生地に添加した比較例1の焼菓子生地は、焼成後の離型性は比較例7の焼菓子生地に比べ改良効果がまったくなく、また、食感についても比較例7の焼菓子(バターケーキ)に比べ改良効果は全くなかった。
また、アルギン酸及びアルギン酸塩に代えて、キサンタンガム(比較例2)を使用して得られた比較例5の焼菓子生地は、焼成後の離型性は比較例7の焼菓子生地に比べても悪化し、また、食感についても比較例7の焼菓子(バターケーキ)に比べて、ねちゃつきがあり、内相についても不良であった。
【0119】
また、アルギン酸及びアルギン酸塩に代えて、ゼラチン(比較例3)を使用して得られた比較例6の焼菓子生地は、焼成後の離型性は比較例7の焼菓子生地に比べ改良効果がまったくなく、また、食感についても比較例7の焼菓子(バターケーキ)に比べ改良効果は全くなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)を0.2〜20.0質量%、及び、下記成分(B)を含有し、その含有量の比が質量基準で0.001≦(B)/(A)≦10であり、水分含量が20〜98質量%のゲルからなる焼菓子用離型性改良剤。
(A)アルギン酸及び/又はアルギン酸塩
(B)カルシウム
【請求項2】
(A)成分が下記の(A1)成分と(A2)成分の混合物であり、(A1):(A2)=99:1〜20:80であることを特徴とする請求項1記載の焼菓子用離型性改良剤。
(A1)高粘性アルギン酸及び/又は高粘性アルギン酸塩
(A2)低粘性アルギン酸及び/又は低粘性アルギン酸塩
【請求項3】
(C)ナトリウムを含有し、それらの含有量の比が質量基準で0.01≦(C)/(A)≦1.0であることを特徴とする請求項1又は2記載の焼菓子用離型性改良剤。
【請求項4】
乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が該固形分を基準として2質量%以上である乳原料を、固形分として0.1〜8質量%含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の焼菓子用離型性改良剤。
【請求項5】
(B)カルシウムとして、カルシウムを含有する食品を使用したことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の焼菓子用離型性改良剤。
【請求項6】
さらに、油脂を1〜60質量%含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の焼菓子用離型性改良剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の焼菓子用離型性改良剤を含有する焼菓子生地。
【請求項8】
請求項7記載の焼菓子生地を焼成した焼菓子。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の焼菓子用離型性改良剤を焼菓子生地に配合することを特徴とする焼菓子の離型性改良方法。

【公開番号】特開2009−201470(P2009−201470A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−49707(P2008−49707)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】