説明

焼菓子

【課題】 適度の硬さで食感が良好で且つ光沢に優れる焼菓子を製造するための新たな方法を提供する。
【解決手段】 小麦粉、米粉、トウモロコシ粉、大麦粉、ライ麦粉などの穀粉と、パン酵母などの発泡成分と、ベーキングパウダーと、その他配合物とを含有するドウ組成物を所望形状に成形し、該成形物にヒドロキシプロピルセルロース水溶液を刷毛塗りまたはスプレー噴霧し、オーブンで焙焼して、ビスケットやスポンジケーキなどを得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼菓子に関する。より詳細に、本発明は、食感が良好で且つ光沢に優れる焼菓子に関する。
【背景技術】
【0002】
パン、スポンジケーキ、ビスケット、ドーナッツなどの焼菓子の製造では、穀粉類などを含有して成るドウ組成物を成型し、該成型物を焙焼する。焼菓子の硬さ、食感、外観などを調整するために、例えば、水溶性セルロースエーテルが添加されたドウ組成物が用いられていた(特許文献1)。また、表面光沢を高めるために、卵黄や牛乳などを成型されたドウ組成物に塗布し、焙焼することが行われていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−218409号公報
【特許文献2】特開昭57−50847号公報
【特許文献3】特開2007−77242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ドウ組成物へのセルロース等の添加によって、硬さ、食感、外観などをある程度調整できる。しかし、ドウ組成物を調製する際の温度や湿度、焙焼時の温度や湿度などによって焼菓子の出来具合に微妙なばらつきが生じる。
そこで、本発明は、食感が良好で且つ光沢に優れる焼菓子を製造するための新たな方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
チューイングガム、キャンディー、ゼリービーン、ピーナッツなどの食品の無糖コーティングとして、ヒドロキシプロピルセルロースなどの被膜形成剤とアラビヤガムなどの結合剤とを使用することが提案されている(特許文献2)。撥水性の高い表面を有する対象物、例えば、ピーナッツなどの食品に対して均一にコーティングできるものとして、ヒドロキシプロピルセルロースとエタノールを含有する液状の組成物が提案されている(特許文献3)。
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、ドウ組成物の表面にヒドロキシアルキルセルロースを付着させ、次いで焙焼することを含む製法によって、食感が良好で且つ光沢に優れる焼菓子が得られることを見出した。また、このようにして得られた焼菓子は、従来の焼菓子よりも外部衝撃に対する強度が高いことを見出した。本発明は、これらの知見に基づきさらに検討を重ねることによって完成するに至ったものである。
【0007】
すなわち、本発明は以下の態様を包含するものである。
〔1〕 焙焼されたヒドロキシアルキルセルロースが表面に付着している焼菓子。
〔2〕 焙焼されたヒドロキシアルキルセルロースからなる膜で表面が被覆されている焼菓子。
〔3〕 焼菓子がビスケットである前記〔1〕または〔2〕に記載の焼菓子。
〔4〕 ヒドロキシアルキルセルロースがヒドロキシプロピルセルロースである前記〔1〕〜〔3〕のいずれか一つに記載の焼菓子。
【0008】
〔5〕 ドウ組成物の表面にヒドロキシアルキルセルロースを付着させ、次いで焙焼することを含む、焼菓子の製法。
〔6〕 ドウ組成物の表面にヒドロキシアルキルセルロース溶液を塗布し、次いで焙焼することを含む、焼菓子の製法。
〔7〕 ドウ組成物の表面にヒドロキシアルキルセルロース溶液を噴霧し、次いで焙焼することを含む、焼菓子の製法。
〔8〕 ドウ組成物をヒドロキシアルキルセルロース溶液に漬け、次いで焙焼することを含む、焼菓子の製法。
〔9〕 ヒドロキシアルキルセルロース溶液が水溶液である前記〔6〕〜〔8〕のいずれか一つに記載の製法。
〔10〕 ドウ組成物は穀粉を含むものである前記〔5〕〜〔9〕のいずれか一つに記載の製法。
〔11〕 穀粉が、小麦粉、米粉、トウモロコシ粉、大麦粉またはライ麦粉である前記〔10〕に記載の製法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製法によれば、適度の硬さで食感が良好で且つ光沢に優れる焼菓子が得られる。また、本発明の製法によれば、外部衝撃に対する焼菓子の強度を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の焼菓子は、焙焼されたヒドロキシアルキルセルロースが表面に付着しているもの、または焙焼されたヒドロキシアルキルセルロースからなる膜で表面が被覆されているものである。
【0011】
ヒドロキシアルキルセルロースは、例えば、原料のセルロースに、水酸化ナトリウムを作用させてアルカリセルロースとし、次いでアルカリセルロースとアルキレンオキサイドとを置換反応させることによって得られる。置換反応の後、反応液に、酢酸や塩酸などの酸を加えて水酸化ナトリウムを中和し、次いで精製することができる。この置換反応によってセルロースのグルコース環単位中の−OH基の一部または全部が−O−(R−O)m−H基に置換される。ここでRは2価のアルキル基を表す。mは1以上の自然数である。
【0012】
ヒドロキシアルキルセルロースは、ヒドロキシアルキル基(−(R−O)m−H)の含有量が40〜80重量%の範囲にあることが好ましく、53〜78重量%の範囲にあることがより好ましい。なお、ヒドロキシアルキル基の含有量は、USP24(米国薬局方)による方法などによって求めることができる。
【0013】
置換反応に用いられるアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドなどを挙げることができる。これらのうち、本発明ではプロピレンオキサイドが好ましく用いられる。プロピレンオキサイドを用いて置換反応させると、ヒドロキシプロピルセルロースが得られる。
【0014】
ヒドロキシアルキルセルロースは、2%水溶液の20℃における粘度が、2.0〜4000mPa・sの範囲にあることが好ましく、2.0〜2000mPa・sの範囲にあることがより好ましく、2.0〜1000mPa・sの範囲にあることがさらに好ましい。粘度はヒドロキシアルキルセルロースの重合度を表す指標である。ヒドロキシアルキルセルロースは、焙焼温度に至るまでの加熱によってゲル状となるものが好ましい。詳細は不明だが、このゲルによって焼菓子に、硬さ、光沢、食感などが加わるのであろうと推測する。
【0015】
本発明の焼菓子の製法は、ドウ組成物の表面にヒドロキシアルキルセルロースを付着させ、次いで焙焼することを含むものである。
【0016】
ドウ組成物は、パン、カステラ、スポンジケーキ、シフォンケーキ、ビスケット等を製造する際に調製される公知のものと同じものである。ドウ組成物は、穀粉を含む。穀粉としては、小麦粉、米粉、大麦粉、ライ麦粉、トウモロコシ粉、コーンスターチ、テフ粉、ひえ粉などのイネ科穀物の粉;きな粉(大豆粉)、ヒヨコマメ粉、エンドウマメ粉などの豆類の粉;蕎麦粉、アマランサス粉などの擬穀類の粉;片栗粉、葛粉、タピオカ粉、馬鈴薯粉、コンニャク粉、などの芋類・根菜から得られる粉;栗粉、どんぐり粉などの木の実の粉などを挙げることができる。これらのうち、小麦粉、米粉、トウモロコシ粉、大麦粉またはライ麦粉が好ましい。
【0017】
ドウ組成物には、穀粉以外に、発泡成分(パン酵母(ドライ又はペースト状イースト)、ベーキングパウダー(炭酸塩とグルコノデルタラクトン等の酸性物質の組み合わせ製剤))等の粉を含有してもよい。さらに、必要に応じて食塩、砂糖、バター、ショートニング、マーガリン、卵製品、乳製品、グルテン、イーストフード、ドウコンディショナー、香料、着色剤等を含有してもよい。
【0018】
ドウ組成物の調製は、穀粉とその他の配合物とを水や牛乳等で練り混ぜる常法が採用し得る。ドウ組成物は、所望の形状に成型することができる。
【0019】
ドウ組成物の表面にヒドロキシアルキルセルロースを付着させる手法としては、ドウ組成物の表面にヒドロキシアルキルセルロース溶液を刷毛等で塗布する方法、ドウ組成物の表面にヒドロキシアルキルセルロース溶液を噴霧する方法、ドウ組成物をヒドロキシアルキルセルロース溶液に漬ける方法などがある。ヒドロキシアルキルセルロース溶液は取扱いのしやすさから水溶液であることが好ましい。
ヒドロキシアルキルセルロース溶液における、ヒドロキシアルキルセルロースの濃度は、特に限定されないが、通常1〜20%、好ましくは2〜10%である。
【0020】
ヒドロキシアルキルセルロース溶液には、ヒドロキシアルキルセルロース以外の成分が含まれていてもよい。該成分としては、増粘剤、油脂、糖質、調味料、乳化剤、香料、色素などを挙げることができる。
【0021】
増粘剤としては、キサンタンガム、グァーガム、ローカストビーンガム、カラギナン、トラガントガム、タマリンドシードガム、タラガム、カラヤガム、脱アシル型ジェランガム、ネイティブ型ジェランガム、アラビアガム、マクロホモプシスガム、寒天、ゼラチン、HMペクチン、L M ペクチン、カードラン、グルコマンナン、アルギン酸、アルギン酸塩、微結晶セルロース、大豆多糖類、ラムザンガム、ウエランガム、サイリウムシードガム、プルラン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース誘導体、等を挙げることができる。
【0022】
油脂としては、バター、生クリーム等の乳脂肪分、植物油脂あるいはこれらの分別油脂、硬化油脂、エステル交換油脂等の中から一種又は二種以上を併用することができる。植物油脂の例としては、大豆油、菜種油、綿実油、コーン油、ひまわり油、オリーブ油、サフラワー油、パーム油、パーム核油及びヤシ油を挙げることができる。
【0023】
糖質としては、砂糖の他には、例えば、乳糖、麦芽糖、ブドウ糖、果糖、転化糖、水飴、粉末水飴、還元麦芽水飴、蜂蜜、トレハロース、トレハルロース、ネオトレハロース、パラチノース、D − キシロース等の糖類; キシリトール、ソルビトール、マルチトール、エリスリトール等の糖アルコール類を挙げることができる。また、サッカリンナトリウム、サイクラメート及びその塩、アセスルファムカリウム、ソーマチン、アスパルテーム、スクラロース、アリテーム、ステビア抽出物に含まれるステビオサイドなどの高甘味度甘味料等も添加してもよい。
【0024】
調味料としては、塩、砂糖、グリシン、グルタミン酸ナトリウムなどのアミノ酸系調味料や、クエン酸、酢酸などの有機酸類を挙げることができる。
【0025】
乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル(蒸留モノグリセライド、反応モノグリセライド、ジ・トリグリセライド、有機酸モノグリセライド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル等)及び、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ユッカ抽出物、サポニン、ステアロイル乳酸塩( ナトリウムもしくはカルシウム) 、ポリソルベート及び大豆レシチン、卵黄レシチン、酵素処理レシチン等を挙げることができる。また、ビタミン、カルシウム、鉄、DHAの栄養剤等を併用することも可能である。
【0026】
ドウ組成物の表面にヒドロキシアルキルセルロースを付着させた後、焙焼する。焙焼温度は、焼菓子の種類に応じて、適宜選択でき、通常150〜200℃、好ましくは160〜190℃である。ドウ組成物は、この焙焼によって、スポンジケーキ、ビスケット、ドーナッツなどに焼成される。
【実施例】
【0027】
次に、実施例を示して、本発明をより詳細に説明する。但し、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0028】
実施例
薄力粉およびベーキングパウダーをそれぞれ篩にかけた。無塩バター50重量部に上白糖60重量部および塩0.5重量部を加え、クリーム状になるまですり混ぜた。篩っておいた薄力粉120重量部およびベーキングパウダー1.5重量部を加え、さっくり切るように混ぜ合わせた。少し粉気が残る感じのところで混ぜるのを止めた。
これに牛乳40重量部を加えて混ぜ合わせた。ラップに包んで冷蔵庫で1時間寝かせた。冷蔵庫から取り出して、3mmの厚さに延ばし、円形状に型抜きした。
型抜きしたドウ組成物に、5%ヒドロキシプロピルセルロース水溶液をスプレー散布した。170℃のオーブンで12分間焙焼して、ビスケットを得た。
【0029】
比較例
型抜きしたドウ組成物に水をスプレー散布した以外は、実施例と同じ手法でビスケットを得た。
【0030】
成人男女5人づつが試食し、光沢、硬さ、食感および外観について、評価した。
その結果、評価者全員から、実施例で得られたビスケットは、比較例で得られたビスケットに比べ、光沢があり、硬さが増し、ビスケット特有の食感が増したとの回答を得た。また、評価者全員から、実施例で得られたビスケットは、表面に白っぽい光沢感があり、食欲をそそられる外観を有するとの回答を得た。
この結果は、表面に付着したヒドロキシアルキルセルロースが、水分の蒸発、熱伝導性などに影響し、ドウ組成物の焼成状態に変化をもたらしたからであろうと推測する。
【0031】
実施例の手法で得られたビスケットおよび比較例の手法で得られたビスケットそれぞれ17枚について、1枚ずつを1mの高さから大理石板へ自然落下させた。ビスケット17枚のうちで割れた枚数を計測した。結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
上記の試験において割れたビスケットの破片数の分布を調べた。結果を表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
表1および表2の結果から、実施例の手法で得られたビスケットは、落下の衝撃に対する強度が増していることがわかる。このことから、実施例の手法によれば、ビスケット製造時の歩留まり率の改善が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焙焼されたヒドロキシアルキルセルロースが表面に付着している焼菓子。
【請求項2】
焙焼されたヒドロキシアルキルセルロースからなる膜で表面が被覆されている焼菓子。
【請求項3】
焼菓子がビスケットである請求項1または2に記載の焼菓子。
【請求項4】
ヒドロキシアルキルセルロースがヒドロキシプロピルセルロースである請求項1〜3のいずれか一つに記載の焼菓子。
【請求項5】
ドウ組成物の表面にヒドロキシアルキルセルロースを付着させ、次いで焙焼することを含む、焼菓子の製法。
【請求項6】
ドウ組成物の表面にヒドロキシアルキルセルロース溶液を塗布し、次いで焙焼することを含む、焼菓子の製法。
【請求項7】
ドウ組成物の表面にヒドロキシアルキルセルロース溶液を噴霧し、次いで焙焼することを含む、焼菓子の製法。
【請求項8】
ドウ組成物をヒドロキシアルキルセルロース溶液に漬け、次いで焙焼することを含む、焼菓子の製法。
【請求項9】
ヒドロキシアルキルセルロース溶液が水溶液である請求項6〜8のいずれか一つに記載の製法。
【請求項10】
ドウ組成物は穀粉を含むものである、請求項5〜9のいずれか一つに記載の製法。
【請求項11】
穀粉が、小麦粉、米粉、トウモロコシ粉、大麦粉またはライ麦粉である請求項10に記載の製法。

【公開番号】特開2012−170433(P2012−170433A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38035(P2011−38035)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】