説明

焼込損失(bakingloss)を低下させるための改変されたコムギ粉の使用

本発明は、焼き上げ損失を低下させるためのコムギ粉の使用に関するものである。コムギ粉は、遺伝的にまたは化学的にリン酸化されたデンプンを含むことが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼き上げ剤を使用せずに焼き上げ損失(baking loss)を低下させるための、改変されたコムギ粉の使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
焼き上げられた製品の品質は、複数の因子:原材料および製法;原体の活性化、精密検査、ならびにまた発酵および焼き上げの条件によって影響される。
【0003】
コムギの種類の選択は、タンパク質含有量および湿グルテン含有量等の焼き上げ品質、焼き上げられた体積および沈降値の特性に大きく影響する。
【0004】
(焼き出し損失とも呼ばれる)焼き上げ損失は、当業者によって、焼き上げ中の生地または生地片の重量の損失を意味するものと採用される。主として、これは、蒸発した生地水であり、そしてまた最小の程度まで、アルコール、有機酸およびエステル等の他の揮発性構成成分でもあり;それゆえ、当業者は、等しく「水分の損失」という。
【0005】
最高温度が効いているため、焼き上げ損失は、縁領域(硬皮)において最大である焼き上げ中の生地片における温度経過を並行して進行する。さらに、焼き上げ損失は、焼き上げられた製品の大きさまたは焼き上げられた製品の表面積に大きく依存する。百分率で比較的小さな焼き上げられた製品の焼き上げ損失は、比較的大きな焼き上げられた製品よりも大きい。ベーカリー製品の大きさおよび形状に加え、他の因子も効果を有する:例えば、生地加工および膨らみ具合、硬皮画分、焼き上げ時間およびオーブンの温度。
【0006】
平均焼き上げ損失は、小さな焼き上げ製品で18〜22%、1000gのパンで13%、および2000gのパンで11%である。
【0007】
高い焼き上げ損失は、焼き上げ業者の焼き上げ製造量に不利な効果を及ぼし、したがってまた、販売される焼き上げられた製品の重量および数にも不利な効果を及ぼす。
【0008】
さらに、焼き上げ加工中の水分の損失は、焼き上げられた製品の鮮度に不利な影響を及ぼし、それにより、焼き上げられた製品はより早く劣化し、いわば古くなる。
【0009】
これが順に、焼き上げられた製品の風味を損ない、したがって、「口当たり」と呼ばれるものを損なう。
【0010】
それゆえ、生地製品の製造において焼き上げ損失を低下させ、改良された風味、改良された口当たりおよびまた焼き上げ業者の焼き上げ製造量等の特性を増大させる大きな必要性がある。
【0011】
本発明は、焼き上げ損失を低下させるためのC-6-P少なくとも2μmol/デンプンgのリン酸塩含有量を有するコムギ粉の使用に関するものである。
【0012】
本発明の脈絡において、「リン酸塩含有量」という表現は、コムギ粉のグルコース単量体の「6」位の炭素原子の位置で結合するリン酸塩基の含有量を意味するものとして採用される。原理上、デンプン中で、グルコース単位のC2、C3およびC6の位置が、インビボでリン酸化可能である。本発明の脈絡において、C6位におけるリン酸塩含有量(=C-6-P含有量)は、後述に記載される(Nielsen et al., 1994, Plant Physiol. 105, 111-117に記載の)光学酵素検査を使用するグルコース6リン酸の測定を介して測定される。
【0013】
本発明の脈絡において、「C-6-P少なくとも2μmol/デンプンgのリン酸塩含有量」という表現は、グルコース単量体の「6」位の炭素原子位置で結合するリン酸塩基の含有量が、デンプン1gあたり少なくとも2μmolであることを意味する。
【0014】
さらなる実施態様において、使用されるコムギ粉は、リン酸塩含有量が、C-6-リン酸少なくとも2μmol/デンプンgであるような様式で改変される。好ましい態様において、コムギ粉は、C-6-リン酸2〜10μmol/デンプンgの、特に好ましくはC-6-リン酸2〜8μmol/デンプンgの、および非常に特に好ましくはC-6-リン酸4〜6μmol/デンプンgの含有量を有する。
【0015】
コムギ粉は、多様な加工によって改変されるリン酸塩含有量を有することが可能であり、例えば、コムギ植物の遺伝的改変によって、または抽出されたデンプンの化学的リン酸化によって、これが達成可能である。
【0016】
好ましい使用において、本発明下にあるコムギ粉が改変された。特に好ましい実施態様において、本発明下にあるコムギ粉が遺伝的に改変された。本発明の脈絡において、「遺伝的に改変されたコムギ粉」とは、コムギ粉が、遺伝的に改変されたコムギ植物の穀粒に由来し、その遺伝的改変が、対応する遺伝的に改変されていないコムギ植物のリン酸塩含有量と比較して、デンプンのリン酸塩含有量が増大するに至ることを意味する。改変されていないコムギ粉において、リン酸塩は、デンプン中でまったく検出不可能であり、または痕跡量を検出可能である。
【0017】
さらなる好ましい使用において、ジャガイモ(ソラナム・トゥベローサム(Solanum tuberosum))由来のR1遺伝子(α−グルカン水二キナーゼ、E.C.2.7.9.4;Lorberth et al. (1998) Nature Biotechnology 16: 473-477)を発現するコムギ植物が使用された。ヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、配列番号1および配列番号2に報告される。これらの植物の生産は、特許出願WO02/34923(実施例1および2)に広範に記載される。
【0018】
さらなる好ましい実施態様において、本発明下にあるコムギ粉のデンプンが、化学薬によってリン酸化され、このリン酸化は、化学的にリン酸化されていない対応するコムギ植物のリン酸塩含有量と比較して、リン酸塩含有量の増大を生じた。
【0019】
焼き上げ加工において、焼き上げ剤の添加は、従来手法である。焼き上げ剤は、当業者によって、体積、製造量、風味、鮮度の保持および/または生地の加工において向上を引起す物質を意味するものとして採用される。従来の焼き上げ剤は、例えば、大豆粉、キサンタン、カルボキシメチルセルロースまたはペクチンである。これらの焼き上げ剤はまた、焼き上げ損失を低下させるために使用可能でもある。しかしながら、前記焼き上げ剤の使用は、さらなる経費を生じ、たいていの場合、多かれ少なかれ、生地の加工および焼き上げ加工の複雑な適用を要する。さらに、食品に関する法律の下では、これらの焼き上げ剤を添加物として表示することが必要とされる。
【0020】
大豆は、大豆粉としてまたは大豆レシチンとして添加される。大豆レシチンは、乳化剤として作用するが、改良された水結合は、大豆粉末に関して記載される。大豆粉のコムギ粉への添加はとりわけ、Stauffer(2002, American Soybean Association, Europe and Maghreb)によって研究されている。Staufferは、コムギ粉に対して大豆粉末を3〜5%添加することで、焼き上げ損失が0.5〜1.5%ほど低下することを記載する。
【0021】
キサンタン(E415)は、細菌キサントモナス・カムペストリス(Xanthomonas campestris)によるグルコースまたはショ糖の発酵によって、生物工学的加工において産生される天然多糖である。キサンタンは、例えば、食品産業および建設材産業において増粘剤および安定化剤としてならびにまた塗料および化粧品中の乳剤のために、多面的な方法で使用可能である。食品産業において、とりわけ酵母により膨張する焼き上げられた製品においてグルテン代用品としても使用される。Sidhu and Bawa 2002(Int. Journal of Food Properties 5(1): 1-11)は、コムギ粉に対する0.2%のキサンタンの添加によって、吸水が59〜60.8%増大し、0.5%のキサンタンの添加によって62%まで増大したことを記す。生地の製造量は、0.4〜2.9%ほど増大し(0.1%および0.5%のキサンタンの添加)、パンの製造量は、0.7〜2.0%ほど増大した。しかしながら、著者らの記載に従った0.3%超のキサンタンの添加とともに、パンの品質は低下した(「わずかにガム状」)。
【0022】
ペクチン(E440)は、植物(リンゴの搾りかす、ビートのコゼット(cossette)、柑橘類の果皮)から得られる多糖であり、ゲル化剤としておよび食物繊維としても使用される。Yaseenら(2001, Polish J. of Food and Nutrition Sc. 10/51 (4): 19-25)は、パンの老化防止剤としてのペクチンの効果を記載する。Yaseen et al.の研究によると、1〜2%のペクチンの添加によって、焼き上げ損失が1〜1.5%ほど低下し、1.5%超のペクチンの画分が、パンの体積および安定性に及ぼす負の効果をむしろ有する。
【0023】
カルボキシメチルセルロース(=CMC;E466)は、植物繊維の構造的に化学的に改変された結晶であり、いわば、灰汁またはクロロ酢酸で処理されたセルロースである。CMCはとりわけ、ゲル化剤および増粘剤として使用され、また保水系としても使用され、したがって、食品の鮮度を長期化するよう機能する。Sidhu and Bawa(2000, Int. Journal of Food Properties 3(3): 407-419)は、コムギ粉に対する0.1〜0.5%のCMCの添加に関して、吸水がコントロールと比較して、1.4〜8.6%増大することを観察した。固有の体積およびさらなる製造量は、0.7〜3.3%ほど増大し、1%超である製造量は、0.3%超のCMCの添加によって達成されたが、著者らによる記述によると、これに伴い、パンの品質が低下した(「わずかにガム状」)。
【0024】
好ましい実施態様において、本発明に従った使用において、コムギ粉は、遺伝的に改変されたデンプンを含む。
【0025】
さらなる実施態様において、焼き上げ損失を低下させる焼き上げ剤の同時使用をせずに焼き上げ損失を低下させるためのC-6-P少なくとも2μmol/デンプンglのリン酸塩含有量を有するコムギ粉の使用が実施される。
【0026】
好ましい実施態様において、改変されたコムギ粉の、非常に特に好ましくは遺伝的に改変されたコムギ粉の使用が実施される。
【0027】
さらなる実施態様において、本発明に従った使用において、使用される穀粉は、多様な穀粉の混合物を含み、この穀粉混合物は、C-6-P少なくとも2μmol/デンプンgのリン酸塩含有量を有する。
【0028】
好ましい実施態様において、混合物は、少なくとも1つの改変された穀粉と少なくとも1つの改変されていない穀粉との混合物である。
【0029】
さらなる好ましい実施態様において、本発明に従った組成物において、使用される穀粉は、2つ以上の異なる改変された穀粉から構成される。
【0030】
さらに好ましい実施態様において、改変された穀粉は、遺伝的に改変された穀粉である。
【0031】
定性的に異なる穀粉から構成される穀粉の使用は、焼き上げ加工に関して完全に通例どおりである。最終製品に応じて、混合物は、(定性的に)異なるコムギ粉の混合物、またはコムギ粉と他の穀粉もしくは他の植物由来のデンプン、例えばコーンスターチとの混合物であり得る。通例どおり、焼き上げ業者用の穀粉混合物は、すでに穀類粉砕機中で構成される。
【0032】
「焼き上げ業者」とは、本脈絡において、穀粉をベーカリー製品へ加工する企業のいずれかの種類である。「穀類粉砕機」とは、穀類が穀粉へ加工される、機械的に作動される粉砕機械装置を意味するものとして採用されるべきである。
【0033】
驚くべきことに、本発明に従った使用において、改変されたコムギ粉からの焼き上げられた製品における焼き上げ加工後の重量損失としての焼き上げ損失は、改変されていないコムギ粉から製造された焼き上げられた製品においてよりも、0.1〜10%ほど低いことが発見された。
【0034】
さらに有利な実施態様において、重量損失は、0.1〜8%ほど、好ましくは0.2〜5%ほど、特に好ましくは0.5〜3%ほど、および非常に特に好ましくは1.0〜2.5%ほど低下する。
【0035】
「重量損失」とは、当業者によって、水の蒸発による焼き上げ中の焼き上げ損失を意味するものとして採用される。重量損失(=焼き上げ損失)は、原理上、生地重量を基としており、パン重量に対する生地重量の比である。重量損失は、以下のように算出される。
【0036】
焼き上げ損失=(生地重量−パン重量)/生地重量×100
【0037】
遺伝的に改変されたコムギ粉から製造された焼き上げられた製品の重量損失は、改変されていないコムギ粉から製造された焼き上げられた製品よりも、百分率として低いことが発見され、これは、バゲットの場合において最も明確に発見された(14.1〜16.1%)。
【0038】
本発明の脈絡において、「焼き上げられた製品」という表現は、焼き上げられていない、あらかじめ焼き上げられた、または末端利用者によって焼き上げられる、異なる「状態」であり得る生地片に関する広範な用語を意味するものとして採用されるべきである。
【0039】
当業者は、必要とされる全成分、またはそれから既に形成されており、まだ焼き上げられてない(焼き上げられていない生地片と呼ばれる)生地片を含む、焼き上げられた製品(例えば、ロール)の製造用の生地を意味するものとして焼き上げられていない生地を採用する。対照的に、あらかじめ焼き上げられた生地は、改良された保存のため、または消費者向けの簡素化のため、既定された条件下で製造元の構内で(複数の工程を通例どおり含み得る)第一の焼き上げ手法を通過した生地片を意味するものとして採用される。完成のため、最終消費者によるさらなる焼き上げ操作が必要とされる。末端利用者によって焼き上げられた生地片は、対応して新鮮に焼き上げられた、専門業者の商取引によって販売されるものであり、またはあらかじめ焼き上げられた生地片の最終的な焼き上げ操作によって消費者自身によって製造されるものである。
【0040】
本発明の脈絡において、本発明で記載される遺伝的に改変されたコムギ粉から製造された焼き上げられた製品全部(ロール、白パン(=WPB)、バゲット、ハンバーガー用丸パン)は、言語学的な簡素化のため、集約的な表現である「TAABにより焼き上げられた製品」と命名される。
【0041】
それとは対照的に、野生型の焼き上げられた製品は、対応する遺伝的に改変されていない穀粉(=野生型穀粉)から製造されるものを意味するものとして採用される。
【0042】
本発明の脈絡において「対応する」という表現は、複数の文献の比較において、互いに比較される問題の文献が、同一条件下で考えられたことを意味する。この脈絡において、「対応する」という表現は、互いに比較される焼き上げられた製品が、同一条件下で製造および検査されたことを意味する。使用される穀粉に関して、「対応する」という表現は、使用される穀粉が最終的に得られた植物が、同一栽培条件下で生育したことを意味する。
【0043】
本発明の脈絡において、「野生型コムギ粉」という表現は、これが、改変されていない野生型の小麦植物由来の穀類から製造された穀粉であることを意味する。これらの小麦植物は、本発明に従った使用のために遺伝的に改変された前記小麦植物のための出発材料として機能し、すなわち、リン酸塩含有量の増大に至る導入された遺伝的改変と離れた、それらの遺伝的情報は、遺伝的に改変されたコムギ植物のものに相当する。
【0044】
本発明のさらなる使用では、焼き上げ加工後の水分損失としての焼き上げ損失が、改変されていないコムギ粉から製造された焼き上げられた製品におけるよりも1〜20%ほど低い。
【0045】
さらに有利な実施態様において、水分損失は、1.0〜15%ほど、好ましくは1.5〜10%ほど、特に好ましくは2〜8%ほど、および非常に特に好ましくは2〜5%ほど低下する。
【0046】
本発明の脈絡において、水分損失(生地中の水分を基にした%水分損失)は、焼き上げ加工後に生じた液体損失を意味するものとして採用される。
【0047】
遺伝的に改変された穀粉由来の生地、または改変されていない(野生型の)穀粉由来の生地の製造のため、同一の生地の一致度を最終的に得るために、穀粉の同一量に水の異なる量を添加した。製造され、焼き上げられていない生地片は、同一の重量を有するが、水の異なる量を含有する。後述のように方法の部分において、ファリノグラフ(farinograph)(ICC標準115/1)を使用して、生地の一致度を測定した。
【0048】
生地中に存在する水の量に関する上述の重量損失(=水の蒸発による焼き上げ損失)を基にして、実際の%水分損失が算出可能である:
【0049】
水分損失(%)=(生地重量−パン重量)/生地重量×100
【0050】
驚くべきことに、本発明の結果は、焼き上げ剤を添加しなくても、焼き上げ損失の有意な低下を示す。生地中に存在する水を基にした水分損失は、対応する野生型の焼き上げられた製品に関するよりも、改変されたTAABコムギ粉から製造された焼き上げられた全製品に関して低い。水の損失は、バゲットにおいて最も大きく低下した:野生型のバゲットは、35.1%の水分損失を呈したのに対し、TAABバゲットにおいては、30.1%に過ぎず、そして野生型に関する46.9%と比較して、ロールでは45.1%であった。
【0051】
したがって、本発明は、添加物を使用して報告された研究とは有意に顕著であり、すなわち、本発明における焼き上げ損失は、有意に低い。
【0052】
さらに、驚くべきことに、本発明に従った使用において、TAABにより焼き上げられた製品は、パンの湿度が増大することが発見された。増大したパンの湿度は、より長期の鮮度の保持および焼き上げられた製品の良好な風味に有利な効果を及ぼす。パンの湿度は、焼き上げられた製品の種類および焼き上げの過程に依存する。
【0053】
焼き上げられた製品の湿度は、以下のように乾燥後に算出される:
【0054】
湿度(%)=(初期重量−終止重量)/初期重量×100
【0055】
本発明に従った使用の場合、パンの湿度は、焼き上げられた製品全体の水分含有量を意味するものとして採用され、すなわち、パンくずとパン皮との間に区別はなされず、後者は、パンくずよりも明らかに湿度が低い。理想的には、パンの湿度は、0.5〜5%ほど増大する。好ましい実施態様において、TAABにより焼き上げられた製品のパンの湿度は、1〜5%ほど、特に好ましくは1.5〜4%ほど、および非常に特に好ましくは1.5〜3%ほど増大する。
【0056】
さらに好ましい実施態様において、本発明に従った使用において、コムギ粉は、遺伝的に改変されたデンプンを含む。
【0057】
本発明において、「遺伝的に改変されたデンプン」という表現は、遺伝的に改変されていない野生型植物由来のコムギデンプンと比較して、リン酸塩含有量が増大するような様式で遺伝子工学方法を使用して、遺伝的に改変されたデンプンのリン酸塩含有量に関して改変されたコムギデンプンを指す。このため、ジャガイモ(ソラナム・トゥベローサム)由来のR1遺伝子は、WO02/034923に記載されるように、コムギ(トリチカム・アエスチバム(Triticum aestivum))に形質転換された。
【0058】
さらなる実施態様において、遺伝的に改変されたコムギデンプンは、そのリン酸塩含有量が、C-6-リン酸2〜10μmol/デンプンgであるような様式で変化する。好ましい態様において、デンプンは、C-6-リン酸2〜8μmol/デンプンg、非常に特に好ましくはC-6-リン酸4〜6μmol/デンプンgの含有量を有する。
【0059】
同様に、TAABにより焼き上げられた製品の場合、野生型の焼き上げられた製品の生地製造量と比較して、生地製造量の増大が観察された。生地製造量は、当業者によって、穀粉100部分を基にした生地重量を意味するものとして採用される。本発明のさらなる態様において、TAAB生地の生地製造量は、野生型の生地と比較して1〜10%ほど、好ましくは2〜8%ほど、特に好ましくは3〜5%ほど増大する。
【0060】
さらに、本発明に従った使用において、改変されたコムギ粉から製造された焼き上げられた製品の場合の焼き上げ製造量は、改変されていないコムギ粉から製造された焼き上げられた製品と比較して、1〜10%ほど増大する。
【0061】
本発明の脈絡において、焼き上げ製造量は、穀粉100部分を基にして達成される焼き上げ製品の重量を意味するものとして採用される。さらなる好ましい態様において、焼き上げ製造量は、2〜10%ほど、特に好ましくは3〜8%ほど、非常に特に好ましくは4〜6%ほど増大する。
【0062】
焼き上げ製造量における最大の増大は、バゲットに関して得られ、この場合、TAABにより焼き上げられた製品の製造量は、野生型の焼き上げられた製品の製造量よりも5%高かった。
【0063】
材料および方法
実施例において、以下の方法を使用した。本発明に従った加工を実施するためにこれらの方法が使用可能であり、前記方法は、本発明の具体的な実施態様であるが、これらの方法に本発明を制限するものではない。記載される方法を改変することによって、および/または個々の方法部分を変法部分によって置換することによって、前記方法が、同一の様式で本発明を実施可能であることは、当業者に公知である。
【0064】
1.TAAB穀粉の製造のための植物材料
ジャガイモ(ソラナム・トゥベローサム)からR1遺伝子(α−グルカン水二キナーゼ、E.C.2.7.9.4;Lorberth et al. (1998) Nature Biotechnology 16: 473-477)を発現するコムギ植物(トリチカム・アエスチバム)を使用した。これらの植物の実際の生産(配列番号1で使用される配列、形質転換法、使用されるベクター、遺伝子導入植物の選択)は、特許出願WO02/34923(実施例1および2中)において広範に記載される。R1遺伝子のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、配列番号1および配列番号2に報告される。形質転換は、Becker et al., 1994, Plant J. 5(2): 229-307の方法に従って進行した。
【0065】
これらのコムギ植物(TAAB-40A-11-8系)から、完熟した穀類を収穫した。これらの穀類、前記穀類から得られた穀粉およびまたデンプンを、化学的および流体力学的に研究した。使用されるコントロールは、同一栽培条件下で生育した改変されていない野生型種であるFloridaのコムギ植物であった。
【0066】
植物の生育:
あらかじめ春化した後、戸外で種子を播種した。
使用される植物を以下のとおり生育および栽培した:
植物保護:種子を播種する前に、種子材料をイミダクロプリド(Gaucho, Bayer)で前処理し、昆虫による損傷を撲滅した(100cc/種子材料100kg)。
発芽前除草剤:ジフルフェニカン(Brodal)、250cc/ha;
除草剤(発芽後):メトスルフロンメチル(=スルホニル尿素誘導体;適用:6.7g/ha;DuPont)およびジカンバ(適用:0.12L/ha);
防かび剤:エポキシコナゾール(Allegro、適用:0.85L/ha);
施肥:尿素(NH22CO:開花まで125kg/ha;その後100kg/ha。
【0067】
2.TAAB穀粉の生産
Buhler-Mahlautomat(Gebr. Buhler Maschinenfabrik, Uzwill, Switzerland)を使用して、TAAB40A-11-8系のコムギ粉200kgを挽いた。コムギ粉200kgは、穀粉型550の140kgを生産した(収率70%)。
【0068】
3.デンプンの抽出
ICC標準155に記載されるとおり、Perten-Glutomatic機(Perten Instruments)によって、蒸留水を使用して、コムギ粉からコムギデンプンを単離した。アセトンでデンプンを抽出し、2〜3日間空気乾燥させた後、乳鉢で粉末に挽いた。
【0069】
4.湿度測定
湿度計(Sartorius, Gottingen, Germany)を使用して、パン試料の湿度を測定する。重量がもはや減少しなくなるまで、115℃で試料を乾燥する。算出は、次式に従って進行する:
【0070】
湿度(%)=(初期重量−終止重量)/初期重量×100
【0071】
5.C6位におけるリン酸化デンプン含有量(C6-P含有量)の測定
デンプン中で、グルコース単位のC3位およびC6位は、リン酸化可能である。(Nielsen et al., 1994, Plant Physiol. 105: 111-117によって記載されるように)デンプンのC6-P含有量を測定するため、95℃で連続的に振盪しながら、0.7M HClの500μL中でコムギデンプン100mgを4時間加水分解した。その後、原体を13000rpmで10分間遠心分離し、懸濁された物質および濁度から、フィルターメンブレン(0.45μM)によって上清を精製した。透明な加水分解産物20μLを180μLのイミダゾール緩衝液(300mMイミダゾール、pH7.4;7.5mM MgCl2、1mM EDTAおよび0.4mM NADP)と混合した。光度計で340nmで、測定を実施した。基礎吸着測定後、グルコース6リン酸脱水素酵素(ロイコノストク・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)由来、Boehringer Mannheim)2単位を添加することによって、酵素反応を開始した。吸着における変化は、6-ホスホノグルコン酸塩およびNADPHを形成するためのグルコース6リン酸およびNADPの等モル反応を基にしており、NADPHは、上述の波長で測定される。平衡状態に到達するまで、反応を追跡した。本測定の結果は、加水分解物中でのグルコース6リン酸の含有量である。同一の加水分解産物から、遊離したグルコース含有量を基にして、加水分解の程度を測定した。これを使用して、グルコース6リン酸の含有量を、新鮮重量由来の加水分解されたデンプン画分と関連付ける。これに関し、加水分解産物10μLを0.7MのNaOH10μLによって中和した後、水で1:100に希釈した。この希釈液4μLを測定緩衝液(100mMイミダゾールpH6.9;5mM MgCl2、1mM ATP、0.4mM NADP)196μLと混合し、基礎吸着の測定のために使用した。酵素混合物(ヘキソキナーゼ1:10;測定緩衝液中の酵母由来のグルコース6リン酸脱水素酵素1:10)2μLを添加し、平衡状態まで340nmで反応を追跡した。測定原理は、第一の反応に相当する。
【0072】
本測定結果は、加水分解の経過における出発材料中に存在するデンプンから遊離したグルコースの量(mg)を与える。
【0073】
その後、加水分解されたデンプンmgあたりのグルコース6リン酸の含有量を表すために、両測定結果を関連付ける。この算出によって、試料の新鮮重量に対してグルコース6リン酸の量を関連付ける場合以外において、グルコース6リン酸の量は、グルコースに完全に加水分解されたデンプンのその一部を基にするのみであり、したがって、グルコース6リン酸に関する源と考慮されるべきでもある。
【0074】
6.穀粉の分析データ
International Association for Cereal Science and Technology(=ICC/www.icc.or.at)またはAmerican Association of Cereal Chemists(AACC/www.aaccnet.org)の標準的な方法によって、TAAB穀粉およびまた野生型コムギ粉を分析した。各場合に使用される標準を括弧内に列挙する。個々のインターネットのページ上で請求可能であるため、本発明で再度記載されないであろう。以下のパラメータを研究した:
1.灰含有量(ICC標準104/1)
2.タンパク質含有量(ICC標準105/2)
3.湿グルテン含有量(ICC標準137/1)
4.グルテン指数(ICC標準155)
5.沈降値(ICC標準116/1)
6.デンプン損傷の程度(AACC法76-31)
7.フォーリングナンバー(falling number)
8.ファリノグラフ(ICC標準115/1)
【0075】
7.焼き上げ実験手法
Bayer BioScience GmbH(Potsdam, Germany)で標準的な方法に従って、焼き上げ実験を実施した。このため、遺伝的に改変されたコムギ植物由来の穀粉だけでなく、コントロールとしての野生型コムギ植物由来の穀粉も使用した。
【0076】
図1は、多様な焼き上げ加工の概略図を示す。本場合において使用されるものを、7.1〜7.4の下で記載する。
【0077】
【表1】

【0078】
焼き上げ実験の組成物および方法:
7.1 前焼きされた凍結バゲット
【0079】
【表2】

【0080】
ミキサー:螺旋型ミキサー(Diosna, 22I - Diosna Dierks & Sohne GmbH, Osnabruck
/Germany)
混合:速度1(100rpm)で2分間
速度2(200rpm)で3分間
所望の生地温度は、24℃である。
活性化:20分間
分割:生地を115gの生地片に分割し、手で丸め、所定の長さに成形する
生地片の活性化:成形されたひと塊のパンをバゲット型中に配置し、24℃および相対湿
度87%で、発酵キャビネット中で90分間発酵させる。
焼き上げ:240℃で30秒
210℃で2.00分
200℃で15.30分
焼き上げ工程中、バゲットにH2Oの80mLを噴霧した。
凍結:前焼きしたバゲットを-70℃で1時間凍結した後、-18℃で超低温冷凍庫中に保存
する
焼き上げ:1週間保存した後、前焼きしておいたバゲットを215℃で12分間最終焼き上げ
する。
【0081】
7.2 ロール
【0082】
【表3】

【0083】
混合:速度1(100rpm)で2分間
速度2(200rpm)で3分間
所望の生地温度=27℃
活性化:20分間
規模:生地を成形プレート上に配置し、分割し丸める機械を使用して、30片の生地へ分
割する
生地片の活性化:分割および成形された生地を有する生計プレートを、32℃および87%の相対湿度で、発酵キャビネット中で35分間保存する
焼き上げ:240℃で30秒
210℃で2.00分
200℃で15.30分
焼き上げ加工中、ロールにH2Oの80mLを噴霧する。
【0084】
7.3 白パン(WPB)のための出発材料および生地
【0085】
【表4】

【0086】
ミキサー:McDuffeeボールおよび捏ね上げ用フォーク付属品を備えたHobart A-120ミキ
サー(Hobart Corporation/OH/USA)
出発材料:速度1(=104rpm)で成分を1分間混合する
速度1でさらに1分間混合する
混合後の生地温度:26±1℃
発酵:発酵は、ホイルで覆われた容器中で29℃で4時間進行する
生地:混合ボール中で速度1(=104rpm)で30秒間、生地成分を混合する
出発材料を添加し、速度1(=104rpm)でさらに30秒間混合する
最適なグルテンの発達(指の間で生地を圧搾することで認識可能)のため、速度
2(194rpm)で生地を混合する
理想的な生地温度は、26±1℃である
活性化時間:覆われた容器中で29℃で20分間、生地を活性化する
原体あたり2個の塊に分割する
中間発酵: 生地片(524g)を室温で10分間活性化する
成形:ローラー成形機
寸法:上部ロール:0.87cm;下部ロール:0.67cm;
圧縮プレート:3.1cm;圧縮プレート幅:23cm
発酵:43℃および81.5%の相対湿度の発酵キャビネット中のパン型中に、成形された塊
を配置する
生地は、パン型の上部縁の最大1.5cm上部にまで膨張すべきである。
焼き上げ:215℃で20分間
パン型寸法(概算値):上部(内側):25×10.8cm
下部(外側):24.1×7.6cm.
深さ(内側):7cm
【0087】
7.2 ハンバーガー用丸パンのための出発材料および生地
【0088】
【表5】

【0089】
ミキサー:McDuffeeボールおよび捏ね上げ用フォーク付属品を備えたHobart A-120ミキ
サー(Hobart Corporation/OH/USA)
生地の混合:速度1(104rpm)で成分を1分間混合する
速度1(104rpm)で成分をさらに1分間混合する
混合した後、混合生地の温度は、26±1℃であるべきである
発酵:発酵は、ホイルで覆われた容器中で29℃で3.5時間進行する
パン生地:混合ボール中で速度1(=104rpm)で30秒間、生地成分を混合する
混合生地を添加し、速度1でさらに30秒間混合する
速度2(194rpm)で最適なグルテンの発達まで生地を混合する
理想の生地温度は、26±1℃である
活性化時間:覆われた容器中で29℃で10分間、完全に混合された生地を活性化する
中間段階:生地を56gの小片に分割し、それを丸底形にする
生地片の活性化:成形された塊をパン型中に配置し、43℃および90%の相対湿度の発酵
キャビネット中に導入する
生地は、3.6cmまで膨張すべきである
焼き上げ:224℃で11分間
パンの寸法:重量(g)および容積(cc);測定は、焼き上げ30分後に開始する。
【実施例】
【0090】
実施例1:遺伝的に改変されたコムギ植物の生産
コムギ植物の形質転換に使用されるベクターpUbiR1を、WO02/034923(実施例1)において記載されるとおり作製した。同様に、WO02/034923(実施例2)において、ジャガイモ(ソラナム・トゥベローサム)由来のR1遺伝子を運搬する遺伝的に改変された小麦植物の生産が記載される。
【0091】
本発明に従った加工のため、TAAB 40A-11-9系の遺伝的に改変された小麦植物を使用した。本系のおよびまた改変されていないコムギ「Florida」(以後、「野生型」と命名)の種子材料をアルゼンチンで播種および収穫されるよう植え付けした。
【0092】
実施例2:改変されていない穀粉と比較した遺伝的に改変された系のコムギ粉の特性の編集
ICCまたはAmerican Association of Cereal Chemists(AACC)の標準的な方法に従って、コムギ粉の分析を実施した。以下のパラメータを研究した:
1.灰含有量(ICC標準104/1)
2.タンパク質含有量(ICC標準105/2)
3.湿グルテン含有量(ICC標準137/1)
4.グルテン指数(ICC標準155)
5.沈降値(ICC標準116/1)
6.損傷したデンプン(AACC法76-31)
7.フォーリングナンバー(AACC法22-08)
8.ファリノグラフ(ICC標準115/1)
【0093】
【表6】

【0094】
分析データの比較は、品質パラメータを保持する改変されたTAAB穀粉が、改変された野生型穀粉よりも高い水分吸収値を有することを示す。
【0095】
実施例3:野生型と比較した遺伝的に改変された系のコムギデンプンの特性の編集
【0096】
【表7】

【0097】
実施例4:焼き上げ実験の結果
【0098】
【表8】

【0099】
焼き上げ損失は、水の蒸発による焼き上げ中の重量の損失である。百分率における焼き上げ損失は、基本的に生地を基にしており、以下のように算出される:
【0100】
焼き上げ損失(%)=(生地重量−パン重量)/生地重量×100
【0101】
結果は、改変されたコムギ粉からのベーカリー製品の重量損失が、野生型によるよりも百分率として低いことを示す。
【0102】
生地中に存在する水分量に重量損失を関連付けることによって、実際の水分損失が算出可能である:
【0103】
水分損失(%)=(生地重量−パン重量)/生地水分×100
【0104】
水分損失は、同一の生地の一致度を得るために、異なる穀粉およびその水分結合能力とは異なる、水の添加の高さから算出される。改変されたコムギ粉のベーカリー製品の液体損失はまた、改変されていない穀粉から製造されるベーカリー製品のものより低い。
【0105】
改変されたコムギ粉から製造された全てのベーカリー製品についての体積を基にしたパンの湿度は、改変されていないコムギ粉からのベーカリー製品によるものより有意に高かった。増大したパンの湿度は、ベーカリー製品の改良された鮮度保持(延長した保存期間)に有利な効果を及ぼす。
【0106】
湿度を、以下のとおり算出した:
【0107】
湿度(%)=(初期重量−終重量)/初期重量×100

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼き上げ損失を低下させる焼き上げ剤の同時使用をせずに焼き上げ損失を低下させるための、C-6-P少なくとも2μmol/デンプンgのリン酸塩含有量を有するコムギ粉の使用。
【請求項2】
改変されたコムギ粉が使用された、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
改変されたコムギ粉からの焼き上げられた製品における焼き上げ加工後の重量損失としての焼き上げ損失が、改変されていないコムギ粉から製造された焼き上げられた製品におけるよりも0.1〜10%ほど低い、請求項1または2のいずれかに記載の使用。
【請求項4】
焼き上げ加工後の水分損失としての焼き上げ損失が、改変されていないコムギ粉から製造された焼き上げられた製品におけるよりも1〜20%ほど低い、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
改変されたコムギ粉から製造される焼き上げられた製品における焼き上げ生産量が、1〜10%ほど増大する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
コムギ粉が、遺伝的に改変されたデンプンを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。

【公表番号】特表2009−537159(P2009−537159A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−511420(P2009−511420)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【国際出願番号】PCT/EP2007/004649
【国際公開番号】WO2007/134877
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(507203353)バイエル・クロップサイエンス・アーゲー (172)
【氏名又は名称原語表記】BAYER CROPSCIENCE AG
【Fターム(参考)】