説明

焼酎粕を利用した成長促進物質及びα−トコフェロールの抽出方法

【課題】焼酎粕に含まれる成長促進物質やα-トコフェロールを抽出する。
【解決手段】焼酎粕を固液分離して得られる液体部分又はその濃縮液のpHを8.9〜9.1に調整する第1工程と、その後、液体部分又はその濃縮液に対してヘキサン抽出を行う第2工程と、ブトキシブチルアルコール及び/又はα-トコフェロールを含む画分を分離する第3工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼酎粕に含まれる成長促進物質及びα-トコフェロールを抽出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、焼酎の生産量が飛躍的に増大し、それに伴って莫大な焼酎粕が排出されるようになった。焼酎粕の処理は、従来は海洋投棄することにより安易に解決されていたが、近年、環境への配慮などにより法的規制が厳しくなり、陸上での処理を余儀なくされている。一方で焼酎粕の有効な利用方法についても種々検討がなされ、例えば、固液分離法により焼酎粕を固体部分と液体部分とに分離し、多くの有機成分を含む固体部分をそのまま飼料化することで、配合飼料とし使用されている。また、液体部分についても飼料に用いるために種々の検討がなされている(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、焼酎粕を固液分離した後の液体部分には、成長促進物質やα-トコフェロールといった極めて貴重な物質が含まれていることが指摘されている(非特許文献1)。しかしながら、これら成長促進物質やα-トコフェロールを抽出する技術、特にこれら成長促進物質やα-トコフェロールを高収率で抽出する技術は知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−188520号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本畜産学会報80(1)、35-39、2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、焼酎粕に含まれる成長促進物質やα-トコフェロールを抽出することができる方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するため、本発明者らが鋭意検討した結果、焼酎粕を固液分離した後の液体部分やこれを濃縮した濃縮液を、所定のpHとすることで直接抽出できることを見いだし、本発明を完成するに至った。本発明は以下を包含する。
【0008】
(1)焼酎粕を固液分離して得られる液体部分又はその濃縮液のpHを8.9〜9.1に調整する第1工程と、その後、液体部分又はその濃縮液に対してヘキサン抽出を行う第2工程と、ブトキシブチルアルコール及び/又はα-トコフェロールを含む画分を分離する第3工程とを含む成長促進物質及び/又はα-トコフェロールの抽出方法。
(2)上記第1工程では上記液体部分又はその濃縮液のpHを9.0に調整することを特徴とする(1)記載の成長促進物質及び/又はα-トコフェロールの抽出方法。
(3)上記第3工程では、メタクリル系有機高分子化合物からなる充填剤を使用したカラムクロマトグラフィを利用してブトキシブチルアルコール及び/又はα-トコフェロールを分離することを特徴とする(1)記載の成長促進物質及び/又はα-トコフェロールの抽出方法。
(4)上記カラムクロマトグラフィは、移動相としてヘキサン:エタノール=94:6の溶媒を使用することを特徴とする(3)記載の成長促進物質及び/又はα-トコフェロールの抽出方法。
(5)上記ブトキシブチルアルコール及び/又はα-トコフェロールを含む画分は、292nmの吸収波長を有する画分として分離されることを特徴とする(1)記載の成長促進物質及び/又はα-トコフェロールの抽出方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、成長促進物質やα-トコフェロールといった有用な物質を、焼酎粕の液体部分若しくはその濃縮液から抽出することができる。これら成長促進物質やα-トコフェロールといった有用な物質は、飼料添加剤や食品添加剤等として幅広く利用することができる。このように、本発明を利用することによって、焼酎粕、その液体部分及びその濃縮液を有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る成長促進物質及び/又はα-トコフェロールの抽出方法の一例を示すフローチャートである。
【図2】本発明に係る成長促進物質及び/又はα-トコフェロールの抽出方法を適用して得られたグロマトグラムである。
【図3】実施例1で得た成長促進物質における成長促進作用(A:浅胸筋重量及びB:3-メチルヒスチジン量)を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明に係る成長促進物質及び/又はα-トコフェロールの抽出方法は、図1に示すように、焼酎粕を固液分離して得られる液体部分又はその濃縮液のpHを調整する工程1、pH調整後の液体部分又はその濃縮液に対してヘキサン抽出を行う工程2、ヘキサン層を回収してカラムクロマトグラフィにより成長促進物質及び/又はα-トコフェロール画分を回収する工程3から構成される。
【0012】
ここで、焼酎粕とは、焼酎の製造過程で生じる蒸留残渣であれば良く、甘藷、米、麦、黒糖等の焼酎の原料を限定するものではない。特に、本発明では、甘藷を原料とする芋焼酎の製造過程で生じる蒸留残査を焼酎粕として使用することが好ましい。
【0013】
また、焼酎粕から液体成分を分離するには、固液分離手段を適用する。固液分離手段としては、何ら限定されることなく、例えばデカンター、圧搾機、ろ過装置などを適宜単独又は組み合わせて使用することができる。また、得られた液体成分は、本発明に係る抽出方法にそのまま利用しても良いが、所定割合の水分を除去して濃縮液としても良い。濃縮液としては、例えば、水分含量が約50〜70%(重量比)となるように濃縮された濃縮液を使用することができる。また、濃縮液は、例えば、数ヶ月といった期間貯蔵された後に使用することもできるし、上記液体成分を濃縮した直後に使用することもできる。
【0014】
焼酎粕から分離した液体成分を濃縮するには、特に限定されず、従来公知の濃縮手段を使用することができる。濃縮手段としては、例えば蒸留塔を有する濃縮装置、詳細には複数の蒸留塔を有する多重効用型濃縮装置を使用することができる。
【0015】
工程1では、液体部分又はその濃縮液のpHを8.9〜9.1に調整するが、好ましくは液体部分又はその濃縮液のpHを9.0に調整する。特に限定されないが、液体部分又はその濃縮液に対してアルカリ溶液を添加することで、そのpHをこの範囲に調節することができる。アルカリ溶液としては、特に限定されないが、例えば水酸化ナトリウム溶液や水酸化カリウム溶液等を使用することができる。
【0016】
次に、工程2では、pH調整後の液体部分又はその濃縮液に対して所定量のヘキサンを添加し、ヘキサン抽出を行う。ヘキサンの添加量は、特に限定されないが、例えば、液体部分又はその濃縮液に対して当量以上、好ましくは当量とする。特に、pH調整後の液体部分又はその濃縮液にヘキサンを添加した後、十分に撹拌することが好ましい。これにより、液体部分又はその濃縮液に含まれている成長促進物質及びα-トコフェロールをヘキサン層に溶解させることができる。
【0017】
次に、工程3では、先ず、成長促進物質及びα-トコフェロールを溶解したヘキサン層を回収する。具体的には、遠心分離によってヘキサン層と液体部分又は濃縮液とを分離する。工程3では、ヘキサン層のみを回収し、回収したヘキサン層を定法に従って水洗(複数回、行っても良い)する。その後、工程3では、所定のカラムを用いたカラムを用いたカラムクロマトグラフィによって、回収したヘキサン層に含まれる成長促進物質及び/又はα-トコフェロールを単離することができる。このようなカラムクロマトグラフィにおいて、成長促進物質及び/又はα-トコフェロールを含む画分は、292nmにおける吸光度を指標にして特定することができる。これら成長促進物質及びα-トコフェロールは、292nmに吸収波長を有するためである。
【0018】
なお、工程3では、成長促進物質及びα-トコフェロールの両者を含む単一の画分を分離しても良いし、成長促進物質及びα-トコフェロールのうちいずれか一方を含む画分を分離しても良い。
【0019】
工程3においては、特に、三菱化学株式会社製のセパビーズSP2MGSを充填剤として使用したカラムクロマトグラフィを適用することが好ましい。セパビーズSP2MGSは、メタクリル系高分子化合物であり、平均粒径150μmを有する均一粒径品である。このSP2MGSを充填剤として使用したカラムクロマトグラフィにおいては、特に移動相をヘキサン:エタノール=94:6とした溶媒を使用することが好ましい。
【0020】
また、工程3においては、成長促進物質を含む画分及びα-トコフェロールを含む画分若しくは両者を含む画分のそれぞれからヘキサンを除去することにより、成長促進物質及びα-トコフェロールを単離することができる。ヘキサンを除去するには、例えば減圧留去等の手法を使用することができる。より具体的に、例えば30〜60℃の温度で減圧蒸留することでヘキサンを除去し、目的とする成長促進物質及びα-トコフェロールを乾固した状態で得ることができる。
【0021】
以上のようにして、焼酎粕を固液分離して得られる液体部分又はその濃縮液に含まれる、成長促進物質及びα-トコフェロールを単離精製することができる。ここで、成長促進物質とは、下記構造式を有するブトキシブチルアルコールである。
【0022】
【化1】

【0023】
この成長促進物質は、筋肉増進効果及び骨格筋タンパク質の分解抑制効果を有する物質である。なお、骨格筋タンパク質の分解抑制効果については、後述の実施例において詳細に説明するが、例えば血漿中の3-メチルヒスチジン量を指標とすることができる。供試物質の投与により血漿中の3-メチルヒスチジン量が低下していれば、当該供試物質に骨格筋タンパク質分解抑制効果があるとされる。
【0024】
また、α-トコフェロールは、ビタミンEとしても知られている。α-トコフェロールは、医薬品、食品、飼料などへの添加剤として利用することができる。α-トコフェロールを添加剤として利用する場合、疾病の治療効果、栄養の補給効果、酸化防止効果を得ることができる。
【0025】
本発明に係る成長促進物質及びα-トコフェロールの抽出方法は、上述したように、焼酎粕を固液分離して得られる液体部分又はその濃縮液といった液体からヘキサンといった溶媒で目的物質を抽出する、いわゆる液液抽出を行うものである。本発明では、焼酎粕を固液分離して得られる液体部分又はその濃縮液のpHを上記の範囲に調整することで、液液抽出により成長促進物質及びα-トコフェロールを抽出できるといった知見を得るに至った。本発明に係る成長促進物質及びα-トコフェロールの抽出方法を適用することによって、焼酎粕といった廃棄物を有効に利用することができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0027】
〔実施例1〕
先ず、水分約60%の焼酎粕濃縮液を以下のように調整した。すなわち、焼酎粕(水分約95%)を遠心分離(3000rpm、15分)した後、減圧濃縮装置を用いて50〜70℃で濃縮した。
【0028】
以上のようにして得られた焼酎粕濃縮液400mlに対して、10NNaOHを50ml加え、pHを9に調整した。次に、これにヘキサン400mlを加え、よく混合した。その後、遠心分離(3000rpm、10分)してヘキサン層を上清として分離した。分離したヘキサン層を回収し、ヘキサン層を水洗した。
【0029】
水洗後のヘキサン層を、充填剤として三菱化学社製SP2MGSを用いたカラムクロマトグラフィ(流速;0.3ml/min/cm2、移動相;ヘキサン:エタノール=94:6、カラム温度;25℃)に供した。成長促進物質(ブトキシブチルアルコール)及びα―トコフェロールは共に292nmの吸光度によりモニターできるため、292nmに吸収波長を有する画分を特定した。その後、特定した画分を減圧下(99hPa)、30℃で処理することでヘキサンを除去し、成長促進物質及びα-トコフェロールをそれぞれ得ることができた。図2に、成長促進物質及びα-トコフェロールの分離パターンを示した。図2中、ピークBが成長促進物質であり、ピークCがα-トコフェロールであり、ピークAは不明である。
【0030】
〔実施例2〕
本実施例では、実施例1で得た成長促進物質を飼料に添加し、当該飼料を給餌することによる成長促進作用を検討した。
【0031】
15日齢のブロイラー雛にトウモロコシおよび大豆粕を主体とする飼料に焼酎粕濃縮液(水分60%)4%に相当するヘキサン抽出物(実施例1)を混合して、12日間、自由摂取させ、試験最終日(27日齢)に屠殺、採血の後、解剖して浅胸筋を取り出し、重量を測定した。血液にはヘパリンを加えて遠心分離(3000rpm)、血漿を得た。
【0032】
また、血漿に含まれる3-メチルヒスチジン量に基づいて、骨格筋タンパク質分解の程度を判断することができる。すなわち、血漿中の3-メチルヒスチジン量が有意に低下していれば、骨格筋の分解が抑制されていると判断できる。血漿中の3-メチルヒスチジン量は以下のように測定した。すなわち、血漿にスルホサリチル酸を加え、徐タンパクした後、HPLCにより3−メチルヒスチジンを定量した。
【0033】
上述した浅胸筋重量の測定結果及び血漿中の3-メチルヒスチジン量の測定結果を図3に示した。なお、図3Aは、コントロール動物と実施例1で得た成長促進物質を給餌した動物とについて飼料浅胸筋重量を測定した結果を示した。図3Bは、コントロール動物と実施例1で得た成長促進物質を給餌した動物とについて血漿中の3-メチルヒスチジン量を測定した結果を示した。
【0034】
図3に示すように、実施例1で得た成長促進物質を給餌した動物では、コントロールと比較して浅胸筋重量が有意に増加し、血漿中の3-メチルヒスチジン量が有意に低下していることが判った。この結果から、実施例1に記載した手法により、焼酎粕から固液分離した液体成分の濃縮液成長促進効果を有する物質を単離できることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼酎粕を固液分離して得られる液体部分又はその濃縮液のpHを8.9〜9.1に調整する第1工程と、
その後、液体部分又はその濃縮液に対してヘキサン抽出を行う第2工程と、
ブトキシブチルアルコール及び/又はα-トコフェロールを含む画分を分離する第3工程とを含む成長促進物質及び/又はα-トコフェロールの抽出方法。
【請求項2】
上記第1工程では上記液体部分又はその濃縮液のpHを9.0に調整することを特徴とする請求項1記載の成長促進物質及び/又はα-トコフェロールの抽出方法。
【請求項3】
上記第3工程では、メタクリル系有機高分子化合物からなる充填剤を使用したカラムクロマトグラフィを利用してブトキシブチルアルコール及び/又はα-トコフェロールを分離することを特徴とする請求項1記載の成長促進物質及び/又はα-トコフェロールの抽出方法。
【請求項4】
上記カラムクロマトグラフィは、移動相としてヘキサン:エタノール=94:6の溶媒を使用することを特徴とする請求項3記載の成長促進物質及び/又はα-トコフェロールの抽出方法。
【請求項5】
上記ブトキシブチルアルコール及び/又はα-トコフェロールを含む画分は、292nmの吸収波長を有する画分として分離されることを特徴とする請求項1記載の成長促進物質及び/又はα-トコフェロールの抽出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−163827(P2011−163827A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24586(P2010−24586)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(504258527)国立大学法人 鹿児島大学 (284)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】