説明

煙突内部の表面処理方法

【課題】本発明は、錆の発生を防ぐ化学的な処理において、赤錆の再発および塗料の剥離、飛散の懸念を払拭する、煙突内面の新規な処理方法について提案することを目的とする。
【解決手段】煙突内部の鉄素地上に発生した赤錆層の厚みを30μm以下に調整した後、該赤錆層上に錆置換液を20μm未満の塗布厚で塗布し、赤錆層を黒錆化した黒錆層とし、次いで黒錆層上にコーティング剤を塗布してコーティング層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、煙突、特にゴミ焼却炉からの排気を大気へ放出する煙突の内部に発生した酸化鉄、中でも水分と酸素が鉄素地と結合することによって、発生する赤錆が煙突の外側に飛散するのを防止すると共に、赤錆の再発生を抑制するために施す煙突内部の表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
煙突の内部では、結露や雨水などの水分が煙突の素材である鉄素地に付着し、空気中の酸素と結合することによって、いわゆる赤錆と呼ばれる酸化鉄(以下、赤錆という)が発生する。この赤錆が煙突の外側に飛散すると、環境汚染を招くことから、この赤錆に関する様々な対策がなされている。
【0003】
例えば、防錆塗料による一般的な対策は、まず、赤錆の発生した煙突内面にケレンと呼ばれる下地処理を施すことによって、赤錆、さらには古い塗膜や汚れを除去し、その後防錆塗料、すなわち、樹脂系塗料や鉛丹錆止め塗料などを鉄素地面に塗布し、乾燥させ、塗膜を形成させるものである。
【0004】
しかし、従来の防錆塗料を使用するには、まず下地処理として鉄素地上に発生した赤錆を、ブラスト工法などによって完全に除去する、1種ケレンを施すことが前提となるため、その手間やコストが非常に掛かることが問題であった。
【0005】
また、防錆塗料による塗膜は数百μmもの厚みがあり、焼却炉の立ち上げや休止時期に、煙突内面の温度が変化することに伴って、塗膜が伸縮するが、この伸縮の繰り返しによって、塗膜がひび割れ、これが進展して塗膜が剥がれ飛散してしまう。すなわち、塗膜が剥がれると、本来の錆止め効果が失われることは勿論、塗膜の飛散によって再度環境汚染を招く可能性もある。
【0006】
さらに、防錆塗料は乾燥時間が長いものが多く、中には、塗装後1週間の養生期間が必要なものもあり、防錆塗料による処理中の休止期間を経た焼却炉の運転再開に支障を来たしている。また、防錆塗料は、シンナーを主成分とした希釈剤と混合させなければ使用ができない2液性のものや、有機溶剤を使用しているものも多く、この種の防錆塗料を使用する場合は、作業環境における危険性が高く、また作業効率は低くなることが避けられなかった。
【0007】
そこで、ケレン等の下地処理を行うことなしに赤錆による問題を解消する手段として、特許文献1には、赤錆に、りん酸を主成分とした鉄系金属用除錆剤を塗布することによって、赤錆を化学的に変化させ、継続的な赤錆の発生を防止する方策が提案されている。
【特許文献1】特許第2892571号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、煙突は、メンテナンスなどのために、運転を休止することがあり、その際、煙突内部に結露が発生する。また、煙突停止時にも、雨水によって水分が煙突内面に付着することがある。このような場合に、上述の特許文献1に記載の手法によっても、赤錆の再発を確実に防止することが難しいところに残る問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、錆の発生を防ぐ化学的な処理において、赤錆の再発の懸念を払拭する、煙突内面の新規な処理方法について提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述したように、煙突の運転の休止期間に発生する結露や、煙突停止中の雨水などの水分は、赤錆にりん酸を主成分とした鉄系金属用除錆剤を塗布することによる処理後にも依然として悪影響を及ぼす。
【0011】
そこで、発明者らは、赤錆の再発を防止する方策を鋭意検討した結果、下地処理を厳密に規制した上で錆置換液を所定厚みで塗布することが、有利であるとの新規知見を得た。さらに、コーティング剤を使用することが、水分による悪影響を防止するための有効な手段であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の要旨構成は次の通りである。
(1) 煙突内部の鉄素地上に発生した赤錆層の厚みを30μm以下に調整した後、該赤錆層上に錆置換液を20μm未満の塗布厚で塗布し、赤錆層を黒錆化した黒錆層とし、次いで該黒錆層上にコーティング液を塗布してコーティング層を形成することを特徴とする煙突内部の表面処理方法。
【0013】
(2)前記錆置換液は、りん酸系塗料であることを特徴とする前記(1)に記載の煙突内部の表面処理方法。
【0014】
(3)前記コーティング液は、セラミック系塗料であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の煙突内部の表面処理方法。
【0015】
(4)前記煙突の少なくとも開口部分に、面状発熱ヒーターを巻き付けることを特徴とする前記(1)ないし(3)のいずれかに記載の煙突内部の表面処理方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、煙突内部に発生した赤錆を黒錆化により安定させる際の下地処理を規制することおよび防水性を付与することによって、赤錆の再発生を確実に防止することができる。従って、煙突の外側に赤錆が飛散することを確実かつ長期にわたって防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の煙突内部の表面処理方法について詳しく説明する。
本発明は、煙突の鉄素地上に発生した赤錆が幾層にも重なって生成する酸化鉄層(以下、赤錆層という)に下地処理および錆置換液を施し、次いで、コーティング剤を塗布する工程を基本とした表面処理方法である。すなわち、鉄素地上に発生した赤錆層の厚さを調整した後、錆置換液を、塗布厚を調整しながら、赤錆層に塗布し、赤錆層を黒錆化した酸化鉄層(以下、黒錆層という)にすることによって、赤錆を形態の安定したマグネタイト、いわゆる黒錆として、安定化させ、錆の進行を抑制している。さらに、黒錆層の表面にコーティング剤を塗布することによってコーティング層を形成し、黒錆層に防水性を付与することによって、水分による悪影響を防止していることが特徴である。
【0018】
ここで、本発明の煙突内部の表面処理方法において、まず、煙突内部に発生した赤錆層に下地処理を施すに当たり、該赤錆層の、厚みを30μm以下に調整することが肝要である。
【0019】
すなわち、赤錆層の厚みを30μm以下とした理由は、30μmを超えると錆置換液の浸透力が弱く、赤錆層を完全に黒錆化することができないからである。
【0020】
そして、赤錆層の厚みを30μm以下とすれば良いことから、赤錆層は完全に除去する必要はない。すなわち、1種ケレンと呼ばれている下地処理を施す必要がなく、例えば、3種ケレン程度の軽い下地処理を施すことによって厚みを30μm以下にすることができるため、手間やコストが掛からない。なお、鉄素地上に発生した赤錆層の厚みが30μm以下である場合、ガスの煤塵や浮き錆等、表面に付着した汚れを軽くこすり落とす程度の処理で十分であり、浮き錆が発生していなければ下地処理の必要はない。
【0021】
次に、下地処理を施した赤錆層上に錆置換液を20μm未満の塗布厚で塗布することによって、赤錆層を黒錆化した黒錆層とすることが肝要である。
【0022】
ここで、錆置換液を塗布するに当たり、その塗布厚を20μm未満に調整した理由は、赤錆層から黒錆層にするための錆置換液の量が20μm未満であり、20μm以上では、塩が発生し、十分な防錆効果が得られないからである。
【0023】
さらに、下地処理を施した赤錆層に錆置換液を塗布することによって、錆置換液が赤錆層の内部に浸透し、赤錆と錆置換液が化学反応することによって、黒錆層に変化する。この黒錆層は、塗料の膜とは異なり、錆が鉄素地と一体化するため、黒錆が煙突外部へ飛散することはない。また、黒錆層は緻密な構造をしており、空気との接触は回避され、さらなる赤錆の発生を抑制することができる。
【0024】
そして、下地処理を施した赤錆層に塗布する錆置換液は、りん酸系塗料とすることが好ましい。すなわち、りん酸系塗料を使用することによって、赤錆とりん酸が化学反応し、りん酸鉄に変化する。このりん酸鉄は、赤錆の発生を継続的に防止する効果があるため、表面処理を施す際に使用する錆置換液としては、りん酸系塗料を使用することが好ましい。
【0025】
さらに、りん酸系塗料は赤錆層と反応することによって、塗膜を形成しないため、煙突の内部から外側へ、塗膜が飛散することが防止できる。また、りん酸系塗料は、樹脂系塗料や鉛丹錆止め塗料などと比べ養生期間が短くて済む利点がある。すなわち、樹脂系塗料や鉛丹錆止め塗料などと比べ、焼却炉の運転再開までの期間である養生期間が短くて済むことになる。
【0026】
そして、りん酸系塗料は、希釈剤や他の有機溶剤と混合する必要がなく、水溶性であるため爆発や人体への悪影響などがなく安全である。ここで、表面処理を施す際の錆置換液には、様々な錆置換液があり、中でも、有機溶剤を含有している錆置換液が多く使用されている。しかし、有機溶剤を含有している錆置換液は、作業性、特に閉所空間における作業性においては、人体に悪影響を及ぼす危険性があり、安全性を十分に考慮した作業としなければならない。また、有機溶剤は引火性があるため、爆発の危険性もあり、十分に注意が必要である。従って、錆置換液は、りん酸系塗料を使用することが好ましい。なお、りん酸系塗料には様々なものがあるが、例えば、オルトりん酸を主成分とする、塗料メタリフレ((登録商標)、製造元:(株)シンキ)が好適である。
【0027】
さらに、黒錆層の表面にコーティング剤を塗布し、コーティング層を形成することが肝要である。すなわち、黒錆層の表面にコーティング層を形成することによって、煙突の結露や雨水などの水分による悪影響が黒錆層に及ぶのを防ぐことができる。
【0028】
また、黒錆層に塗布するコーティング剤は、セラミックス系塗料を適用することが好ましい。すなわち、セラミックス系塗料は、耐熱性、熱伸縮性および防水性に優れており、セラミックス系塗料を使用し黒錆層上にコーティング層を形成することによって、結露や雨水などの水分による悪影響を防ぐことができる。なお、セラミックス系塗料には様々なものがあるが、例えば、珪酸化合物10〜70%、金属化合物10〜70%、硬化促進作用剤2〜10%、無機顔料5〜15%の混合物からなる、商品名SG-2000-CR(T)(製造元:(株)クリエイティブライフ)が好適である。
【0029】
さらに、煙突の少なくとも開口部分に面状発熱ヒーターを巻き付けることが好ましい。ここで、少なくとも開口部分とは、煙突の最上端となる頂上部から、少なくとも全長の20%の範囲に面状発熱ヒーターを巻き付けることが好ましい。
【0030】
すなわち、煙突の開口部分において、煙突の運転停止時は、煙突は雨の影響が受け易く、結露が起こり易い。そこで、面状発熱ヒーターを煙突の外側に巻き付けてバンドやビスで固定し、その上面に保温材を巻き付けることによって、外部への熱の放射を妨げ、外部からの冷気を防御する。その結果、雨水や結露を防ぎ、水分を排除することができるため煙突を防錆することができる。さらに、下地処理、錆置換液およびコーティング剤による表面処理並びに面状発熱ヒーターによる保温処理を施すことによって、煙突の長寿命化を実現することが可能となる。
【実施例】
【0031】
煙突の内部の鉄素地に代替して、大きさが150×70mmの試験片を用いて、実験を行った。すなわち、該試験片に発生させた厚み100μmの赤錆層に、3種ケレンを施して表1に示す厚さにし、次いで、下記する錆置換液を塗布し赤錆層を黒錆層に変化させ、この黒錆層に変化させた試験片に下記する条件の屋外暴露を施し、錆および外観の変化を調査するために経過観察を行った。その結果を表1に示す。また、黒錆に変化させた試験片および黒錆に変化させた試験片にコーティング剤を塗布した試験片に、下記する条件のサイクル試験を施し、錆および外観の変化を調査するために経過観察を行った。その結果を表2に示す。
【0032】
なお、表1に記載の錆置換液塗布後の厚みは、ケット科学研究所製:LE-900
(精度±1μm)の計測器を用いて、鉄板上の5点を計測し、その平均値を黒錆層の厚みとした。なお、試験片の厚みは含めないものとする。ここで、試験片上に発生した赤錆層の厚みは、均一でないため、錆置換液を塗布した後の厚みも均一とはならない。そこで、厚みが近似する位置の5点を計測し、その平均値を算出することによって、厚みを比較した。なお、厚みの誤差は±5μm以内とする
【0033】
錆置換液には、オルトりん酸、界面活性剤、精製水を混合物としたりん酸系塗料を使用し、表1に記載の塗布厚とした。さらに、錆置換液を塗布した後、15時間、乾燥させ黒錆化した。
【0034】
そして、コーティング剤は、上記した、商品名SG-2000-CR(T)(製造元:(株)クリエイティブライフ)を塗布し、15時間、乾燥させてコーティング層を形成した。
【0035】
さらに、屋外暴露の条件は、太平洋沿岸地域にて暴露試験台に試験片を10日間放置し、5日毎に観測した。
【0036】
また、コーティング剤の効果の確認については、錆置換液のみ塗布し、黒錆化した試験片と錆置換液およびコーティング剤を塗布した試験片を、湿度95%かつ温度50℃の湿潤状態から、湿度20%かつ温度20℃の乾燥状態を1サイクルとした試験を4サイクル施すことによって調査した。なお、湿潤状態を8時間施した後、乾燥状態に移行し、乾燥状態を16時間施した後、湿潤状態に移行したものとして試験を行った。
【0037】
そして、表1および表2において、錆の評価はJIS K 5600-8-1であり、外観の評価はJIS K 5600-8-3に記載の評価基準に準拠したものとする。なお、数値は小さいほうが良結果であるものとする。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
煙突内部の鉄素地上に発生した赤錆層の厚みを30μm以下に調整した後、該赤錆層上に錆置換液を20μm未満の塗布厚で塗布し、赤錆層を黒錆化した黒錆層とし、次いで該黒錆層上にコーティング液を塗布してコーティング層を形成することを特徴とする煙突内部の表面処理方法。
【請求項2】
前記錆置換液が、りん酸系塗料であることを特徴とする請求項1に記載の煙突内部の表面処理方法。
【請求項3】
前記コーティング液が、セラミックス系塗料であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の煙突内部の表面処理方法。
【請求項4】
前記煙突の少なくとも開口部分に、面状発熱ヒーターを巻き付けることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の煙突内部の表面処理方法。

【公開番号】特開2008−157522(P2008−157522A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−345641(P2006−345641)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(591008823)株式会社カナエ (14)
【Fターム(参考)】