説明

照光式押釦スイッチ用部材

【課題】 発光領域の絶縁性を維持し、ほぼ設計通りの輝度を安定的に発することのできる照光式押釦スイッチ用部材を提供する。
【解決手段】 透明電極層12、発光体層13、誘電体層14、対向電極層15の順に積層された面発光体部4を備えたELシート5の透明電極層12をキートップ本体2の天面部18側に配置して、キートップ本体2の三次元形状を形成する芯材3の上面と側面とを覆うようにして、ELシート5の平面部から隆起した少なくとも一つ以上のキートップ部6を形成した照光式押釦スイッチ用部材1において、透明電極層12と対向電極層15との間に、少なくとも一つのイオン拡散防止層17を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、携帯電話、PDA等の移動体通信機器やCDプレーヤー、MDプレーヤー、小型テープレコーダー、又は自動車に搭載される小型電気・電子機器の照光式押釦スイッチ用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、移動体通信機器等の入力装置では、照光式押釦スイッチが利用されている。この種の装置で押釦スイッチに用いる照光式押釦スイッチ用部材では、夜間時の使用において押釦スイッチの機能を示した表示部を照光するいわゆる照光機能が必要とされている。
【0003】
携帯電話等の入力装置に用いられる押釦スイッチ用部材としては、発光する表示部をキートップの天面部側に設けたものであって、表示部に自発光する面発光体部を備えたELシートを採用する技術が開示されている(特許文献1を参照)。
【0004】
このELシートを採用したものは、基材フィルム上に形成された着色層上に、導電性ポリマーからなる透明電極層、無機EL等の発光体層、誘電体層、対向電極層が順次積層されて得られた面発光体部を備えたELシートをキートップ形状に成形加工されることにより押釦スイッチ用部材が得られる。
【特許文献1】特開2004−6105号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記したような従来の押釦スイッチ用部材に用いられていたELシートにおいては、駆動時間、すなわちELシートの発光時間の経過と共に、対向電極層の金属フィラーや、透明電極層内の臭素、塩素を始めとする不純物がイオン化しさらに拡散され、その結果、透明電極層と背面電極層間の絶縁性の劣化を招き、輝度の低下、部分的な短絡による黒点の発生、さらには不点灯が発生するという不具合があった。そして、この現象は高湿下においてはさらに促進されるものである。
【0006】
そこで、この発明は、従来のELシートを採用した押釦スイッチ用部材の問題点を解消すべく、発光領域の絶縁性を維持し、ほぼ設計通りの輝度を安定的に発することのできる照光式押釦スイッチ用部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を実現するため、請求項1に係る発明では、透明電極層、発光体層、誘電体層、対向電極層の順に積層された面発光体部を備えたELシートの前記透明電極層をキートップの天面側に配置して、前記キートップの三次元形状を形成する芯材の上面と側面とを覆うようにして前記ELシートの平面部から隆起した少なくとも一つ以上のキートップ部を形成した照光式押釦スイッチ用部材において、前記透明電極層と前記対向電極層との間に、少なくとも一つのイオン拡散防止層を設けたことを特徴としている。
【0008】
また、請求項2に係る発明では、請求項1の構成に加えて、前記イオン拡散防止層は合成樹脂にニッケル又はカーボンを主成分とする導電性フィラーを分散させたものであって、かつ前記イオン拡散防止層を前記対向電極層に接して設けていることを特徴としている。
【0009】
また、請求項3に係る発明では、請求項1又は2の構成に加えて、前記イオン拡散防止層は前記誘電体層に用いられる誘電体よりも誘電率の低い誘電体を合成樹脂に分散させたものであって、かつ前記イオン拡散防止層を前記誘電体層に接して設けていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
上記のような構成により、請求項1に係る発明によれば、透明電極層と対向電極層との間にイオン拡散防止層を有しているから、対向電極層の金属フィラーや、透明電極層内の臭素、塩素を始めとする不純物がイオン化しさらに拡散されることが未然に防止されるため、発光領域に当たる透明電極層と対向電極層間の絶縁性が維持されるので、長時間の使用に際してほぼ設計通りの輝度を安定的に発する照光式押釦スイッチ用部材を提供できる。
【0011】
また、請求項2に記載の発明によれば、イオン拡散防止層は合成樹脂にニッケル又はカーボンを主成分とする導電性フィラーを分散させたものであって、かつイオン拡散防止層を対向電極層に接して設けているので、請求項1の効果に加えて、透明電極層の導電性能を補償することができる。
【0012】
また、請求項3に記載の発明によれば、イオン拡散防止層は誘電体層に用いられる誘電体よりも誘電率の低い誘電体を合成樹脂に分散させたものであって、かつイオン拡散防止層を誘電体層に接して設けているので、請求項1又は2の効果に加えて、耐湿性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、この発明の実施の形態に係る照光式押釦スイッチ用部材を示した要部断面図である。
【0014】
図1に示した実施の形態に係る照光式押釦スイッチ用部材1は、キートップ本体2を形成する芯材3と、芯材3の上面及び側面を覆うようにして形成された面発光体部4を備えたELシート5からなり、キートップ部6の実質的な形状は芯材3が決定している。また、芯材3の下面には固定接点7に対応した金属皿バネ等の可動接点8を押圧するための、突起状の押圧子9が設けられている。
【0015】
芯材3の材料としては、ポリカーボネート、アクリル、ABS等の硬質樹脂或いはシリコーンゴム等のエラストマーを用いることができる。
【0016】
ELシート5は、基材フィルム10、加飾層11、透明電極層12、発光体層13、誘電体層14、対向電極層15、保護層16の順に積層されており、透明電極層12と対向電極層15の間には少なくとも一つのイオン拡散防止層17が設けられている。対向する透明電極層12、対向電極層15の2極の電極間に交流電圧を印加することにより、2極に挟まれた発光体層13中の蛍光体が励起し、発光する。なお、ELシート5は透明電極層12のある基材フィルム10側が照光式押ボタンスイッチ用部材1のキートップ本体2の表皮となるよう配置されている。
【0017】
基材フィルム10の素材としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、アクリル、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリフェニルサルファイト、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル等の各種樹脂を挙げることができる。また、ポリスチレン系、ポリエステル系、ポリアミド系の熱可塑性エラストマーを用いてもよい。これらは単独重合体でもよく、共重合体でもよい。また、アロイ等の変性物も使用できる。基材フィルム10の厚みは12〜500μmが一般的である。
【0018】
基材フィルム10の裏側には加飾層11が設けられており、キートップ本体2の天面部18に相当する箇所には、文字、符号又は図柄等の表示部19が形成され、表示部19の透過率の差により、面発光体部4の照光時、表示部19が視認されやすいように構成されている。例えば、透過率の低い塗膜で文字、記号を形成し、透過率の高い塗膜で背景を形成することにより、背景を照光する構成とすることができる。また、透過率の高い塗膜で文字、記号を形成し、透過率の低い塗膜で背景を形成することにより、文字、記号を中心に照光する構成とすることができる。
【0019】
加飾層11の裏側には、ELシート5の一方の電極となる透明電極層12が設けられている。透明電極層12としては成形時の延伸に耐え得る材料を用いる必要性があり、例えば、導電性ポリマーを用いることができる。特に、透明性を有する高導電性のポリピロール、ポリチオフェン又はポリアニリン等の誘導体が好ましい。なお、透明電極層12の前後には、透明電極層12に隣接する層との接着性を高めるための接着層(図示せず)を設けることもできる。接着層の材料としてはポリエステル系、アクリル系、ウレタン系の樹脂や、各種ゴム等が挙げられる。
【0020】
必要に応じて、発光領域以外の透明電極層12上にカーボン、銀等の、不透過ではあるが導電性の高い補助電極(図示せず)を積層し、透明電極層12の導電性能を補償してもよい。
【0021】
透明電極層12の裏側で発光の必要な箇所に形成される発光体層13としては、例えば、アルミナ等の防湿処理を施した硫化亜鉛等の無機蛍光体粉を合成樹脂(エラストマーも含む)中に分散させたものを用いることができる。合成樹脂としてはフッ素系、ポリエステル系、アクリル系、エポキシ系が挙げられ、これらは、単独重合体でもよく、共重合体でもよい。また、単独でも組み合わせて用いてもよい。誘電率の高い合成樹脂を用いることにより、発光体層13をより高輝度に発光させることが可能となる。
【0022】
発光体層13の裏側には、誘電体層14が設けてられている。誘電体層14には、例えば、チタン酸バリウム、チタン酸カリウム、酸化チタン等の高い誘電率を持つ誘電体紛を、発光体層13と同様の合成樹脂の全固形分(合成樹脂、誘電体、その他の添加剤等)100質量部に対して40〜90質量部、分散させたものを用いることができる。このような高誘電物質を用いると発光効率を上げることができる。
【0023】
誘電体層14の裏側には、ELシート5の他方の電極を形成する対向電極層15が設けられている。対向電極層15には導電性能を優先させた銀等の導電性フィラーを採用し、イオン拡散防止層17を用いることにより、環境安定性の良好なELシート5を得ることができる。
【0024】
導電性フィラーとしては金、銀、銅、カーボン若しくはニッケル又はこれらの合金を用いることができる。その中でも導電性に優れた銀が好ましい。合成樹脂としては、ポリエステル系、アクリル系、ウレタン系、フッ素系、シリコーン系、又はエポキシ系の各種樹脂を挙げることができる。これらの樹脂は、単独重合体でもよく、共重合体でもよい。また、単独でも組み合わせて用いてもよい。
【0025】
さらに、対向電極層15の上には、これまで積層した各層を覆う保護層16が形成される。保護層16は電気的に絶縁する機能と、芯材3と接着する機能を併せ持つ層である。
【0026】
透明電極層12と対向電極層15の間には、透明電極層12や対向電極層15から溶出される不純物イオンの拡散を防止するためのイオン拡散防止層17が少なくとも一つ設けられる。イオン拡散防止層17は、層間での不純物イオンの拡散を遅延、又は捕捉する機能を持ち、電気的に安定な層でなければならない。無色又は淡色透明な材料であれば透明電極層12と発光体層13の間に設けてもよいが、発光体層13よりも下側、すなわち対向電極層15側にイオン拡散防止層17を設けることにより、材料の色を気にすることなく、発光体の劣化を効率よく防止することが可能となる。
【0027】
例えば、カーボン又はニッケルを主成分とする導電性フィラーを合成樹脂中に分散させた材料をイオン拡散防止層17として誘電体層14と対向電極層15の間に用いることにより、透明電極層12や対向電極層15から溶出する不純物イオンの通過、拡散を防止し、絶縁劣化を防ぐことができ、長期に渡り発光信頼性を維持することが可能となる。また、このイオン拡散防止層17の固形分100質量部に対して導電性フィラーを3〜50質量部とし、合成樹脂量を導電性フィラーに対して多く配合することにより、成形性にも優れたイオン拡散防止層17を得ることができる。導電性フィラーとしては電気的に安定なカーボン又はニッケルが好ましいが、抵抗値を下げる目的で、少量の他の金属類を混入させることは構わない。合成樹脂としては、ポリエステル系、アクリル系、ウレタン系、フッ素系、シリコーン系、又はエポキシ系の各種樹脂を挙げることができる。これらの樹脂は、単独重合体でもよく、共重合体でもよい。また、単独でも組み合わせて用いてもよい。これらの中でもフッ素系、エポキシ系等の吸湿率の低い樹脂が好ましい。
【0028】
また、発光効率の減衰を最小限に留め、絶縁性能を強化するには、合成樹脂に誘電体を分散させたイオン拡散防止層17を誘電体層14に接して設けることができる。イオン拡散防止層17自体の誘電率を誘電体層14の誘電率よりも小さく設定することにより、発光効率は多少犠牲にするものの、透明電極層12や対向電極層15から溶出する不純物イオンの通過、拡散を防止し、絶縁劣化を防止でき、長期に渡り発光信頼性を維持することが可能となる。その方法としては、合成樹脂への誘電体の添加量を制御してもよいし、誘電率の低い誘電体又は合成樹脂を用いてもよい。
【0029】
誘電体の添加量としては、合成樹脂に少量の誘電体を添加することでもイオン拡散防止の効果は得られるが、単純に誘電体の添加量を少なくすると、イオン拡散防止層17の絶縁性が上がり、電気的には安定になるが、一方、発光体層への電界が低下して輝度が低下してしまう。そのため、膜厚を薄く制御し、一定の静電容量を維持することが好ましい。逆に、イオン拡散防止層17の全固形分100質量部に対して誘電体が70質量部を超えるとイオン拡散防止層17自体の延性が低下し、成形時にフィルムに追従し難くなるため、クラックや断線が生じやすく、輝度の低下や不点灯の原因となってしまう。イオン拡散防止層17の全固形分100質量部に対して40〜60質量部の誘電体を合成樹脂に分散させたイオン拡散防止層17を用いると、成形性もよく、膜厚のバラつきの影響も大きく受けずに済む。
【0030】
イオン拡散防止層17の材料としては誘電体層14と同様のものを用いることができるが、誘電体層14よりも誘電体の配合量を意図的に少なくすることにより、発光効率は多少犠牲にするものの、透明電極層12や対向電極層15から溶出する不純物イオンの通過、拡散を防止し、絶縁劣化を防止でき、長期に渡り発光信頼性を維持することが可能となる。誘電体の中でも絶縁性の高い酸化チタン等の誘電体を用いることにより、透明電極層12と対向電極層15との層間の絶縁性が上がり好ましい。絶縁性と誘電率は相反しており、イオン拡散防止層17の誘電率としては、誘電体層14に用いられる誘電体の70%以下程度の誘電率を持つ誘電体を用いることが好ましい。さらに、イオン交換体を添加することにより不純物イオンを効率よく捕捉することが可能となる。合成樹脂としては、ポリエステル系、アクリル系、ウレタン系、フッ素系、シリコーン系、又はポリエポキシ系の各種樹脂を挙げることができる。これらの樹脂は、単独重合体でもよく、共重合体でもよい。また、単独でも組み合わせて用いてもよい。これらの中でもフッ素系等の吸湿率の低い樹脂が好ましい。
【0031】
また、誘電体は添加せず、合成樹脂のみでもイオン拡散防止層16を構成することができる。イオン拡散防止層16に誘電体を添加する時と同じく、合成樹脂のみで構成する場合も、厚くしてしまうと、抵抗値は上がり、誘電率が下がってしまうため、薄膜に形成することが好ましい。イオン拡散防止を効果的に作用させるためには均一な膜である必要性があるため、現実的には0.1〜10μm程度の厚みとなる。なお、この構成は誘電体層14に隣接する層に設けることができる。無色透明な樹脂を用いる場合には、透明電極層12と発光体層13の間に形成してもよい。
【0032】
これらのイオン拡散防止層17は目的に応じ、単層で用いてもよく、複層で用いてもよい。
加飾層11、透明電極層12、発光体層13、誘電体層14、対向電極層15、保護層16等の各層の積層方法としては、例えば、転写法、スプレー法、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、パッド印刷等が挙げられる。
【0033】
このようにして得られた賦形加工前のELシート5を、基材フィルム10が外側に向くようにキートップ形状に切削加工された凹金型にセットし、圧空成形、真空成形、プレス成形等により所望のキートップ形状に成形加工され、照光式押釦スイッチ用部材1の中間成形体を得る。次いで、キートップ裏側の凹部に熱可塑性若しくは熱硬化性、光、電子線又は反応硬化性の樹脂を注入し、硬化させることで照光式押釦スイッチ用部材1の完成品を得る。その他、予め準備しておいた芯材3に成形加工されたELシート5を嵌合一体化する方法を採用してもよい。
【実施例】
【0034】
[実施例1]
【0035】
上記実施の形態に従い、具体的な照光式押釦スイッチ用部材1を製作した。
【0036】
厚さ125μmのポリカーボネートのアロイフィルム(バイホール/バイエル社製)を基材フィルムとし、これに着色インク(ノリファンHTR/プロール社製)をスクリーン印刷し、加飾層11を形成した。加飾層11の裏には接着層(IPS000/帝国インキ(株)製)をスクリーン印刷し、その上に透明電極層12として導電性ポリマー(Orgacon P3040/アグファ社製)をスクリーン印刷した。次いで、透明電極層12上の発光領域以外の箇所に銀ペースト(JEF−6022SS/日本アチソン(株)製)で補助電極層(回路)をスクリーン印刷した。透明電極層12上には、接着層としてメジウムインク(JELCON AD−HM6/十条ケミカル(株)製)をスクリーン印刷した。その後、発光が必要な箇所に発光体インク(8155N ELミディアム/デュポン社製)をスクリーン印刷し、発光体層13を形成した。誘電体層14としては、フッ素ゴム(ダイエルG501/ダイキン工業(株)製)をメチルエチルケトンに溶解した溶媒に、フッ素ゴム100質量部に対して250質量部の誘電率1200のチタン酸バリウム(BT100P/富士チタン工業(株)製)を分散させたものをスクリーン印刷した。イオン拡散防止層17としてはELカーボンペースト(7152 ELカーボンペースト/デュポン社製)を用いスクリーン印刷で平均膜厚み3μmのイオン拡散防止層17を形成した。さらに、その上に対向電極層15として銀ペースト(JEF−6022SS/日本アチソン(株)製)をスクリーン印刷した。さらに、保護層として、PC系インク(ノリファンHTR/プロール社製)を印刷し賦形加工前のELシート5を得た。
【0037】
得られたELシート5を、キー形状に切削加工された金型の凹金型に基材フィルム10面が金型側になるようにセットし、型温120℃、成形時間15秒の条件でプレス成形を行った。
【0038】
成形加工が施されたELシート5のキートップ部6内側にはポリカーボネート系樹脂(ユーピロン/三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)を射出成形により注入して芯材3を形成し、照光式押釦スイッチ用部材1を得た。
【0039】
得られた照光式押釦スイッチ用部材1に交流電圧を印加し、発光させたところ、成形加工による電極の抵抗値上昇が抑制されたことにより、複数のキートップ本体2がほぼ均一の明るさで発光することが確認された。照光式押釦スイッチ用部材1が得られた。定電圧電源100V、400Hz駆動時の初期輝度は105cd/mであった。
【0040】
また、得られた照光式押釦スイッチ用部材1を、温度60℃、湿度95%の高温高湿環境下、定電圧電源を用い100V、400Hzの条件で連続発光駆動させたまま放置し、外観の変化を観察したところ、連続点灯開始後、576時間で黒点発生を確認した。なお、照光式押釦スイッチ用部材1としては、一般的に各種環境下において240時間以上の耐久性が求められているため、十分に要求を満たしているものと判断した。
[実施例2]
【0041】
実施例2は、イオン拡散防止層17以外は実施例1と同一の構成、同一の製造方法で製作し、実施例1と同一の試験を行った。
【0042】
実施例2では、フッ素ゴム(G501/ダイキン化学工業(株)製)をメチルエチルケトンに溶解したものを溶媒とし、フッ素ゴムを100質量部に対して誘電率100の酸化チタンを50質量部分散させたものをスクリーン印刷し、平均膜厚3μmのイオン拡散防止層17を設けた。
[実施例3]
【0043】
実施例3は、イオン拡散防止層17以外は実施例1と同一の構成、同一の製造方法で製作し、実施例1と同一の試験を行った。
【0044】
実施例3では、フッ素ゴム(G501/ダイキン化学工業(株)製)をメチルエチルケトンに溶解したものを溶媒とし、フッ素ゴムを100質量部に対して50重量部の酸化チタンを分散させたものをスクリーン印刷し、平均膜厚3μmの第一イオン拡散防止層を設けた。さらに、カーボンペースト(7152 ELカーボンペースト/デュポン社製)を用い、スクリーン印刷で平均膜厚3μmの第二イオン拡散防止層を設けた。
[実施例4]
【0045】
実施例4は、イオン拡散防止層17以外は実施例1と同一の構成、同一の製造方法で製作し、実施例1と同一の試験を行った。
【0046】
実施例4では、フッ素ゴム(G501/ダイキン化学工業(株)製)をメチルエチルケトンに溶解したものをスクリーン印刷し、平均膜厚3μmのイオン拡散防止層を設けた。
[比較例1]
【0047】
比較例1は、イオン拡散防止層17以外は実施例1と同一の構成、同一の製造方法で製作し、実施例1と同一の試験を行った。
【0048】
比較例1では、イオン拡散防止層17の代わりに、誘電体層14と同じ材料を用い、平均膜厚み3μmの層をスクリーン印刷で形成した。
[比較例2]
【0049】
比較例2は、イオン拡散防止層17以外は実施例1と同一の構成、同一の製造方法で製作し、実施例1と同一の試験を行った。
【0050】
比較例2では、イオン拡散防止層17は設けずに照光式押釦スイッチ用部材1を製作した。
【0051】
以上のような実施例1〜4及び比較例1、2に対して、実施例1で説明した同一の条件で性能試験を行った。その結果は、表1のとおりである。
【0052】
【表1】

【0053】
つまり、実施例1〜4の試験結果から、初期輝度の大きいものほど、黒点の発生時間が短くなる傾向が確認された。しかし、実施例1〜4のいずれの場合であっても、連続点灯開始後240時間以内では黒点の発生が確認されず、高温高湿下においても信頼性の高い照光式押釦スイッチ用部材が得られた。このような特性を基に、製品の使用用途、製品のクリアランス・高さ等の成形要素、駆動条件の制約等を勘案し、適宜イオン拡散防止層の材料を選定すればよいといえる。
【0054】
一方、比較例1、2のイオン拡散防止層を設けない構成では、黒点が240時間以内に発生してしまった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】この発明の実施の形態に係る照光式押釦スイッチ用部材の一例を示した要部断面図である。
【図2】同実施の形態の面発光体部の詳細を示した要部断面図である。
【符号の説明】
【0056】
1は照光式押釦スイッチ用部材
2はキートップ本体
3は芯材
4は面発光体部
5はELシート
6はキートップ部
10は基材フィルム
12は透明電極層
13は発光体層
14は誘電体層
15は対向電極層
17はイオン拡散防止層
18は天面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明電極層、発光体層、誘電体層、対向電極層の順に積層された面発光体部を備えたELシートの前記透明電極層をキートップの天面側に配置して、前記キートップの三次元形状を形成する芯材の上面と側面とを覆うようにして前記ELシートの平面部から隆起した少なくとも一つ以上のキートップ部を形成した照光式押釦スイッチ用部材において、前記透明電極層と前記対向電極層との間に、少なくとも一つのイオン拡散防止層を設けたことを特徴とする照光式押釦スイッチ用部材。
【請求項2】
前記イオン拡散防止層は合成樹脂にニッケル又はカーボンを主成分とする導電性フィラーを分散させたものであって、かつ前記イオン拡散防止層を前記対向電極層に接して設けていることを特徴とする請求項1に記載の照光式押釦スイッチ用部材。
【請求項3】
前記イオン拡散防止層は前記誘電体層に用いられる誘電体よりも誘電率の低い誘電体を合成樹脂に分散させたものであって、かつ前記イオン拡散防止層を前記誘電体層に接して設けていることを特徴とする請求項1又は2に記載の照光式押釦スイッチ用部材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−79863(P2006−79863A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−260216(P2004−260216)
【出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【出願人】(000132518)株式会社セコニック (22)
【Fターム(参考)】