説明

照射方法と、その方法を実行する装置

本発明は、対象物(34)を照射する装置(1)を起動する方法(41)に関する。対象物(34)は、少なくとも1つの照射される標的体積領域(14,20)と、少なくとも1つの保護される体積領域(10,16,17,21)とを含む。保護される体積領域(10,16,17,21)に対して少なくとも1つの信号線量値(30,31)が規定される。対象物(34)の照射(43)中、保護される体積領域(10,16,17,21)に導入された線量が判定され(44)、導入された線量が保護される体積領域(10,16,17,21)の少なくとも1つの箇所(25)で少なくとも1つの信号線量値(30,31)を超えた場合、直ちに信号が出力される(47,48)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの照射される標的体積領域(ターゲットボリューム)と、少なくとも1つの保護される体積領域(ボリューム)とを有する対象物を照射する装置を起動する方法に関する。更に、本発明は、対象物を照射する照射装置を起動する制御ユニットと、対象物を照射する照射装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
今日、多くの種々の技術分野で対象物の照射が実行されている。それぞれの用途で具体的に要求される条件に応じて、広範囲にわたる照射方法や、多様な種類の放射が使用される。
【0003】
従って、例えばいくつかの技術分野では、対象物の表面領域全体を可能な限り均一に照射することが必要である。
【0004】
これに対し、他の技術分野においては、照射される対象物の特定の部分は、原則として高い特定の線量で照射されなければならないが、対象物の他の部分は、まったく照射されないか又はごくわずかに照射されるだけである。その一例は、電磁放射(場合によっては、すべてX線範囲に入る放射)を使用するマイクロプロセッサの構造化と、撮像マスクの構造化である。
【0005】
更に別の技術分野では、照射の線量分布は2次元平面のみならず、3つの空間次元のすべてで構造化されなければならない。適用可能であれば、時間変化を伴う3次元構造化照射が実行されなければならない(いわゆる4次元構造化照射)。そのような照射方法により、照射される対象物の中に位置する特定の1つの体積領域に相対的に高い特定の線量を導入することが可能になる。これに対し、照射される標的体積領域を取り囲む領域は、相対的に低い線量に暴露される。そのような対象物処理の例は、材料科学、高密度集積素子の製造(特にマイクロプロセッサや、メモリチップなど)、ナノ構造化機構の製造で見られる。
【0006】
3次元照射方法又は4次元照射方法を利用するもう1つの技術分野は、医療技術の分野である。この場合、人体の特定の体積領域、例えば腫瘍を可能な限り高い線量に暴露することは同様に必要であるが、その周囲の組織が暴露される線量は可能な限り低く抑えられるべきであり、周囲の組織はまったく暴露されないのが好ましい。このことは、周囲の組織が、例えば1つ以上の重要な臓器(技術用語では、通常「危険臓器」の略語であるOARと呼ばれる)のような組織である場合に特に当てはまる。そのような危険臓器は、例えば、脊髄、主要な血管(例えば、大動脈)又は神経節である。
【0007】
照射される対象物の「深部に至るまでの」所望の選択的照射は、例えば、多くの異なる方向から照射を行うことにより実行可能である。この場合、種々の方向から入射するすべてのビームは、照射される対象物の特定の1点又は特定の標的ゾーンで交差する。その結果、種々の方向から入射したビームの交差箇所では総線量が高くなるが、この交差箇所以外の線量は相対的に低い。
【0008】
対象物の「深部に至るまでの」上記のような選択的照射を実現する別の方法は、物質を通過する間に、可能な限り顕著なピークを有するエネルギー損失特性を示すある特定の種類の放射を選択することから成る。このような放射の例は、陽子、イオン、重イオンである。この種の放射は、物質を通過する際に、まず単位長さ当たりで相対的に低いエネルギー損失を示すので、そこに蓄積される放射線量は相対的に低い。これに対し、放射エネルギーの大部分は、いわゆるブラッグピークで蓄積されるので、照射される対象物に導入される線量はその部分で非常に高くなる。その結果、照射される対象物の「中心」に、相対的に鮮鋭に境界を規定された標的点が形成される。そのような標的点(又は技術用語では「ボクセル」と呼ばれるある特定の体積要素)の寸法は、例えばわずか1mmの範囲内である。例えば、走査方法により、好ましくはいわゆるラスタ走査方法によって、特定の輪郭を有する照射される標的体積領域が選択的に照射される。この場合、標的体積領域は、複数のいわゆるラスタ点に分割される。この過程で、パーティクルビーム(ブラッグピークを考慮に入れる)は、照射される標的体積領域を順次通過していく。X−Y平面(いわゆる等エネルギー平面)における偏向は、パーティクルビームを側方へ偏向するスキャナ磁石により防止される。パーティクルビームのエネルギーを変化させ、それによってブラッグピークを移動することにより、深度を変更可能である。「従来の」走査方法の場合、パーティクルビームは、標的体積領域に沿ってほぼ連続的に移動されるが、ラスタ走査方法では、パーティクルビームは、常にラスタ点又はボクセルに向けられ、ある特定の時間そこにとどまる。当該ボクセルに導入された線量が特定の値に到達すると、直ちにパーティクルビームは次のボクセルへ移動する。
【0009】
重イオンが使用される場合、対象物に導入される線量をある特定の体積領域に制限することは相対的に適正に実現できるが、標的点の前方又は後方に位置する実際には照射されてはならない対象物、特にパーティクルビームに沿って位置する対象物がある特定の線量に暴露されるという事態は避けがたい。これは、特に、照射される標的領域の前方にある領域に当てはまる。
【0010】
原則として、現在利用可能な方法を使用する照射計画の作成に際しては、危険臓器の保護が必要とされる。しかし、照射中に起こる動きの影響を適切に予測できない場合は多い。従って、動きが影響を与えた場合、標的体積領域及び/又は特に危険臓器における実際の線量蓄積は、影響を受けた後になって初めて評価できる。まだ続行されると思われる部分照射に関してのみ、介入手段を講じることができる。しかし、特に、臨界組織(critical tissue)領域(例えば、肺又は心臓などの臓器)に腫瘍がある場合又は腫瘍のごく近くに臨界組織がある場合には、これは大きな問題である。「通常の」臓器の場合、実際には無用である組織の破壊がある程度許容されるのは事実であるが、臨界組織(OAR)の場合には、どのような損傷であっても、絶対に回避されるである。従来、臨界組織の付近にある腫瘍がまったく治療されないままに終ってしまうか、又は治療は行われても重大な副作用を伴う場合が多かった。
【0011】
特に、当該対象物が動く場合、とりわけ、対象物が自然に動いてしまう場合、例えば、臨界組織内にあるか又はその付近にある腫瘍のような放射の影響を受けやすい領域又はその付近にある標的体積領域の照射は特に大きな問題である。この場合、照射される標的体積領域を取り囲む対象物は、並進運動するだけではなく、回転運動し且つ/又は変形を伴って運動する。そのため、例えば標的体積領域又は保護される体積領域に対するビーム位置が変化した場合(走査方法によって、又は特にガントリが使用される場合の入射ビームの方向の変化によって)、標的体積領域を取り囲む対象物は、例えば入射パーティクルビームの領域における「自然の」運動が原因となって照射を受けてしまう可能性がある。特に、先に作成された照射計画で意図されていたのとは異なる照射を受ける可能性がある。その結果、照射を受けた組織はある特定の量の損傷を受けることになるが、例えばその組織が特に保護される組織(例えば、OAR)である場合、特に大きな問題になる。
【発明の概要】
【0012】
従って、本発明の目的は、現在の方法と比較して改善された対象物を照射する装置を起動する方法を提案することである。更に、本発明の目的は、従来技術と比較して改善され、対象物を照射する照射装置を起動するように機能する制御ユニットを提案することと、従来の技術と比較して改善され、対象物を照射するように機能する照射装置を提案することである。
【0013】
本発明は上記の目的を達成する。上記の目的は、独立請求項の特徴を有する方法と、起動装置と、照射装置とによって達成される。
【0014】
対象物を照射する装置を起動する方法であって、対象物は、少なくとも1つの照射される標的体積領域と、少なくとも1つの保護される体積領域とを有し、保護される体積領域に対して少なくとも1つの信号線量値が規定され、対象物の照射中、保護される体積領域に導入された線量が判定され、保護される体積領域の少なくとも1つの箇所で導入された線量が少なくとも1つの信号線量値を超えた場合、直ちに少なくとも1つの信号が放出される方法が提案される。保護される体積領域は、基本的には、照射される対象物のうち、照射される標的体積領域の外側に位置するあらゆる体積領域である。しかし、特に照射される標的体積領域の内側で(特にその縁部で)十分に高い線量を確保できるように、「保護される体積領域」という用語は、いわゆる安全余裕の外側に位置する体積領域を表すことも可能である。安全余裕は、照射される標的体積領域の周囲に位置し且つ定義された厚さを有する層を構成する。更に、保護される体積領域は、放射の影響を極めて受けやすく且つ/又は他の理由により(例えば、当該体積領域に非常に重要な要素が存在しているという理由により)可能な限り大きな範囲で放射から保護されなければならない対象物の体積領域とされることも可能である。
【0015】
いくつかの(例えば、2つ、3つ、4つ、5つ又はそれ以上の)照射される標的体積領域及び/又はいくつかの保護される体積領域が互いに離間して存在しているような状況も当然考えられる。それに加えて又はそれに代わる状況として、保護される体積領域がいくつかある場合、それらの体積領域のうち2つ、又はある特定の割合の体積領域、あるいはすべての体積領域がそれぞれ異なる信号線量値を有することも同様に起こりうる。この場合、照射手順は、複雑な構造に非常に適している。詳細には、例えばOARのように放射の影響を受けやすい体積領域は非常に広い範囲で確実に保護され、それと同時に、照射される体積領域は可能な限り確実に適切に照射される。
【0016】
照射の種類は、ビームの方向に対して垂直な1つ、2つ又は3つ以上の方向に相対的に狭い範囲で放射されるのが好ましいパーティクルビームである。パーティクルビームは、収束ビームであるのが特に好ましい。パーティクルビームは「均質な」パーティクルビーム、特に、例えば炭素イオンのような1種類のイオンを含むパーティクルビームであるのが通常好ましいが、2つ以上の異なる種類のイオンの混合物からパーティクルビームを構成することも考えられる。パーティクルの例は、特に、光子、レプトン及び/又はハドロンである。詳細には、パーティクルは、パイ中間子、電子、陽電子、陽子、イオン及び/又は重イオンである。「重イオン」という用語は、通常、3以上の原子番号及び/又は5以上の質量数を有するイオンを表す。それらのビームのすべては、少なくとも場合によっては及び/又は少なくとも一部で、少なくともほぼ連続して放射される(言い換えれば、ビームは、少なくともある特定の期間にわたりほぼ一様なビーム強度を有する)。しかし、少なくとも1つの強度変調ビームを使用しつつ、少なくとも場合によっては及び/又は少なくとも一部で照射を実行することも可能である。更に、これは、0に等しくない静止質量を伴うパーティクルを有するパーティクルビームだけではなく、光子を有するビームも表す。この点に関して、強度変調光子ビームを使用する可能性について特に触れておくべきである(例えば、いわゆる強度変調放射線治療(IMRT)に使用可能である)。
【0017】
照射される対象物は、基本的には、特に、例えば少なくとも一部が半導体材料から形成された工作物のような所望のあらゆる対象物である。更に、この工作物は、患者に対する技術装置の効果をシミュレートするために医療用装置で使用されるいわゆる「ファントム」であることも同様に可能である。そのようなファントムは、医療用装置、特に照射装置の開発に使用されるだけでなく、特に装置の構成を検査又は改良するため及び/又は装置の適正な機能を確保するためにも使用される。例えば、機器の欠陥に起因する傷害、更には致命的な事故を排除できるように、治療の開始時に日常的にそのようなファントムが使用される。ファントムは、照射計画の妥当性を検査する目的でも使用可能である。言うまでもなく、対象物は、動物、人間、又は一般的に生物組織であることも可能である。特に人間及び/又は動物の場合、保護される体積領域は、通常組織及び/又は臨界組織(例えば、脊髄)又は臓器(例えば、肺又は心臓のようないわゆる危険臓器(OAR))である。照射される標的体積領域は、特に腫瘍である。本発明により提案されている方法によれば、体積領域に導入される線量は、継続して、言い換えれば、特に治療中にとりわけ照射中に、好ましくは治療中をほぼ通して制御される。詳細には、線量は、必要に応じて監視され、変更される。保護される体積領域に導入される線量は、少なくとも場合によっては且つ/又は少なくとも所定の領域で、空間分解方式で監視されるのが特に好ましい。これにより、方法は特に高レベルの安全性を確保できる。詳細には、少なくとも照射される体積領域及び/又は保護される体積領域の個別領域に線量が蓄積されている間、どの時点であっても、信号線量値に達するか又は達しそうになったならば、直ちに、例えばパーティクルビームの強度のような照射パラメータの変更などの適切な手段を開始できる。これにより、特に患者の臨界組織に関して患者を最大限に保護できる。従来技術においては、治療過程の完了後に(言い換えれば、例えば、走査方法の場合、保護される体積領域がすべて走査され終わった後に初めて)、保護される体積領域に導入された線量が検査される。しかし、特にいくつかの好ましくない境界条件が重なった場合、この時点での検査でははるかに遅く、その結果、例えば臨界信号線量値を既に大幅に超えてしまっている場合もある。従って、原則として本発明により提案される方法は、そのような従来の方法と比較して相当に高いレベルの安全性を実現する。
【0018】
本発明の方法によれば、治療中、例えば身体の動きによって起こった線量蓄積の変化にオンラインで応答することが特に可能である。すなわち、保護される構造、特に保護される体積領域において線量閾値を超える事態を防止することが可能である。
【0019】
少なくとも1つの信号線量値は、警告線量値及び/又は超えてはならない最大線量である。警告線量値は、特に、直ちに徹底した措置を講じることが絶対に必要とは限らない線量値である。この時点では重大な状況を引き起こすことなく更にある特定の線量を導入可能であるので、原則としてそのような警告線量値に対しては種々の応答方法がある。例えば、警告線量値に達した場合、それに対応して次の照射を変更できる。これに対して、超えてはならない最大線量は、これを超えると、例えば重症障害のような容易ならぬ結果が起こると考えられるため、どのような場合であっても決して超えてはならない値である。複数の信号線量値、特に複数の警告線量値(これを特にまったく同一の体積領域に適用可能である)を規定することも可能であり、関連して起こりうるリスクに基づき、場合に応じて適切な手段が講じられるのはもちろんである。特に多くの異なる臨界体積領域が存在する場合、それぞれ異なる信号値又は異なる信号値群を定義できることは言うまでもない。尚、関連する信号線量値は、一定の値(例えば、5Gyなど)である必要はない。信号線量値は、例えばいわゆる線量−体積ヒストグラム(DVH)から収集される。そのようなDVHは、保護される体積領域がその全面領域にわたり照射されようとしている場合に許容される限界線量は、保護される体積領域が相対的に狭い部分領域で照射に(特に点状に)暴露されるだけである場合と比較して低くなるという理解に基づく。
【0020】
詳細には、放出される信号によって、照射手順が終了し且つ/又は照射手順が中断され且つ/又は引き続き実行される照射手順の少なくとも一部が変更されるように、少なくとも照射される標的体積領域の少なくとも一部及び/又は保護される体積領域の少なくとも一部に導入される線量が減少されるように、方法は実行される。「照射手順の中断」という用語は、特に、数秒、数分、数時間、数日、数週間又は数ヶ月という広い範囲のある特定の期間の休止を表す。例えば、腫瘍の治療の場合、この時間は、患者をその休止期間中に回復させるために又は照射に使用されている装置を再調整するために使用される。例えば、この休止期間は、新たな照射計画を立案するために、又は照射計画を適切に適応させるために、患者の位置を変更するために及び/又はガントリを調整するために利用される。更に、方法を継続して実行し、照射続行中に、例えばオンラインで照射計画を再計算すること及び/又は適応させることも可能であり、あるいは照射続行中に(例えば、患者を移動することにより及び/又はガントリを移動することにより)パーティクルビームに関する患者の位置を変更することも可能である。特に、超えてはならない最大線量に数値が達した場合、更にはそれを超えてしまった場合には、照射手順を終了することが賢明である。警告線量値に達しただけである場合又はそれを超えただけである場合は、「より穏当な」対策(例えば、まだ続行中である照射手順の少なくとも一部を変更すること及び/又は照射手順を中断し、後に再開すること)が特に推奨される。照射計画又は入射ビームの方向を変更するのとは別に、例えばいわゆる「ゲーティング」、すなわちパーティクルビームの周期的なオン/オフ切り替え及び/又は照射パラメータの変更を伴ういわゆる「再走査」のような他の手段を開始することも可能である。
【0021】
導入線量は、少なくとも場合によっては又は少なくとも一部で投与線量及び/又は蓄積線量であると好都合である。投与線量は、通常実際に実行された放射を測定することにより判定され(パーティクルビームの場合、例えばビームを測定することにより、特にビーム位置及び/又はビーム強度及び/又はビームエネルギーを測定することにより判定される)、投与線量は、少なくとも部分的にそれらの測定値を使用することにより計算される。従って、原則として投与線量の判定は測定値を含むが、導入線量は、通常照射される対象物において直接判定されるのではなく、間接的に判定されるだけである。これに対し蓄積線量の場合、導入線量は照射される対象物、特に標的体積領域において及び/又は保護される体積領域において直接判定され、この判定を実行するために、例えば埋め込み検出器が使用されるか、あるいは、いわゆるPET(PETは、光子放出断層撮影を表す)のような外部検出器(言い換えれば、埋め込み式ではない検出器)が使用される。しかし、導入線量が少なくとも場合によっては及び/又は少なくとも一部で照射装置などの制御データに基づいて、例えば動きを伴う対象物の場合の標的体積領域、特に動きを伴う標的体積領域及び/又は保護される体積領域の運動の測定を利用して判定されることも可能であるのはもちろんである。
【0022】
保護される体積領域に導入された線量及び/又は照射される標的体積領域に導入された線量が少なくとも一部で及び/又は少なくとも場合によっては当該体積領域及び/又はビームにおいて測定された少なくとも1つの測定値を使用して判定される場合、本発明の方法が実行されると特に好都合である。この場合ビームにおいて判定される測定値は、特にビーム位置、ビームの大きさ、ビーム形状、ビーム強度及び/又はビームエネルギーである。このように現在の測定値を使用(少なくとも一部で)することにより、方法の精度は更に向上される。ビーム強度は、特にいわゆる集積ビーム強度である。当該体積領域で測定値が判定される場合、埋め込み測定装置及び/又は埋め込み式ではない測定装置(例えば、光子放出断層撮影、PET)が必要に応じて使用される。
【0023】
照射される対象物が少なくとも場合によっては及び/又は少なくとも所定の領域で動く場合、特に少なくとも場合によっては及び/又は少なくとも所定の領域で自然に動く場合、本発明を使用すると同様に好都合である。この場合、特に照射される標的体積領域及び/又は保護される体積領域は、少なくとも場合によっては及び/又は少なくとも所定の領域で動き、詳細には、少なくとも場合によっては及び/又は少なくとも所定の領域で互いに対して動く。「動き」という用語は、並進運動を指すだけでなく、特に関連する体積領域及び/又はそれらの領域の間に位置する体積領域の回転運動及び/又は伸縮運動も含む。そのような体積領域の動きがある場合、照射方法又は照射装置に課される条件は非常に厳しいが、本発明により提案される方法によれば、照射される対象物(例えば、適用可能であれば、特別に保護される組織領域、特に患者のOAR)を含む患者)を非常に高レベルで保護することが可能である。患者の腫瘍の照射の場合、例えば、腫瘍が肺、心臓及び/又は腸の領域に(又はその付近に)位置している状況も考えられる。単なる一例として、肺の中にある腫瘍(又は、別のいわゆる臨床標的体積領域(CTV))を観察すべき場合、腫瘍の領域は、動くだけではなく、脊髄や動きを伴う縦隔の付近にあり、更には拍動する心臓の付近にあることも考えられる。脊髄、縦隔、心臓は、すべて極めて重要であり、従って最大限の注意を払って治療されなければならない組織又は臓器である。
【0024】
少なくとも場合によっては及び/又は少なくとも所定の領域で、照射される対象物の少なくとも一部の位置が測定されるように、特に少なくとも一部で又は少なくとも場合によっては、撮像方法を使用して測定されるように方法を実行することも可能である。詳細には、測定される対象物の部分は、少なくとも1つの照射される標的体積領域及び/又は少なくとも1つの保護される体積領域である。照射される対象物の少なくとも一部の位置がわかったならば、照射は更に精密に調整され(特に照射手順の開始時)、更に、適用可能であれば、照射中に起こる照射される標的体積領域及び/又は保護される体積領域の動きが記録され、考慮される。いわゆる「運動緩和方法」、特に当該技術分野では「ビーム追跡」として知られている方法では、照射される対象物の少なくとも一部の位置(従って、それらの部分の動き)をほぼ連続的に監視すること(技術用語ではmotion tracking(動き追跡)又はtumor tracking(腫瘍追跡)という)が特に有益である。追跡方法は、任意に、例えばいわゆる「ゲーティング」方法のような別の方法でもよい。上記の方法と、例えばゲーティング又は再走査のような他の方法との組み合わせも同様に考えられる。
【0025】
特に動きの測定が実行される場合、現在の照射及び/又はそれ以降の照射手順(の一部)に関して、測定値及び/又は測定値から得られた結果を考慮に入れることが推奨される。これは、例えばビーム誘導を変更すること、走査を変更すること、照射計画を適応させることなどにより実行可能である。その結果、照射品質は場合によってはかなり大幅に向上する。
【0026】
照射が走査手順の形で、特にラスタ走査手順の形で行われるように、方法が実施されると特に好都合である。通常、走査手順は、主線量が導入される場所がほぼ連続的に、少なくとも場合によっては変更されるように実行される。例えば、1つの「照射ライン」から次の照射ラインへ変更される場合及び/又は等エネルギー平面が変更される場合などに、ある特定の中断が起こることもありうる。これに対し、ラスタ走査手順の場合、通常ビームは、1つの照射点から次の照射点へ「突然」移動する。通常、各照射点で、ある特定の(部分)照射線量に達するまで、ビームはその照射点に、ある特定の時間とどまる。詳細には、走査手順及び/又はラスタ走査手順を少なくとも場合によっては及び/又は少なくとも所定の領域で強度変調方式により実行することも可能である。万全を期するために、走査手順及び/又はラスタ走査手順を特定の時点でのみ実行すること及び/又は所定の領域でのみ実行することも可能であるとここで指摘しておくべきである。
【0027】
数回の部分照射手順の形で、特に数回の部分走査及び/又は数回の再走査手順の形で及び/又はゲーティング方法を使用することにより照射が実行されると、方法を更に好都合に改善できる。「ゲーティング方法」という用語は、通常、測定された対象物及び/又は標的体積領域及び/又は照射前にわかっている対象物及び/又は標的体積領域の動きの関数としてパーティクルビームが変調方式でオン/オフ切り替えされることを表す。このオン/オフ切り替えは、例えばビームを調整することにより到達できる領域の外側へ腫瘍(又は照射される別の体積領域)が短時間ずれてしまった場合に実行可能である。しかし、詳細には、ゲーティングは、腫瘍のある特定の運動状態の間に限って(例えば、呼気の終了時に)照射ビームがオンされることによって、動きが照射に与える影響を低減する技術である。
【0028】
ビームを一時的にオフさせる局所的な変動は、特にゲーティング方法と追跡方法とを組み合わせて使用している場合には相対的に稀にしか発生しない。いわゆる再走査手順が使用されている場合、導入される総線量は、通常、数回の部分手順に分割されるので、腫瘍(又は照射される体積領域)の動きは、統計平均内で平均化される。「分割照射」という用語は、通常、時間の経過に伴って、治療(照射)を互いに関してずらして実行される数回の部分照射手順に分割することを表す。分割照射における2回の部分照射手順の間の時間間隔は、通常、数時間又は数日の範囲内であるが、数週間及び/又は数ヶ月に及ぶ場合もある。このように数回の部分照射手順に分割することにより、多くの場合、特に医療の分野では方法の効果が更に向上し、患者のストレスを低減して方法を実施できることも多い。
【0029】
更に、対象物を照射する照射装置を起動する制御ユニットが提案される。制御ユニットは、少なくとも場合によっては、上述の方法を実行するように構成され、設定される。制御ユニットは、上述の利点と、特徴とを同様に有する。詳細には、以上の説明の中に記載されるように(適用可能であれば、適切な適応を伴って)制御ユニットを改善することが可能である。制御ユニットは、所望の態様でハードウェアを介して機能が実現されるあらゆる装置であり、且つ/又はソフトウェアを介して機能が実現される装置である。それらを組み合わせた形も考えられる。すなわち、いくつかの機能はハードウェアにより実現され、他の機能はソフトウェアにより実現されるような組み合わせである。ソフトウェアを介して実現される場合、制御ユニットは、1つ以上のコンピュータ又はコンピュータ部品を備える。これは、特にパーソナルコンピュータ(PC)、メインフレーム、ワークステーション又はシングルボードコンピュータを指す。複数の異なるコンピュータ又はコンピュータ部品に計算負荷を分散することも同様に可能である。
【0030】
更に、前述のような構造を含む少なくとも1つの制御ユニットを有する対象物を照射する照射装置が提案される。この場合も、照射装置は、上述の特徴と、利点とを同様に有する。更に、照射装置は先の説明中に記載されたように改善される。
【0031】
詳細には、照射装置は、少なくとも1つの測定装置、特に少なくとも1つのビーム測定装置及び/又は少なくとも1つの運動測定装置を有することが可能である。ビーム測定装置は、特に、ビーム位置測定装置、ビーム強度測定装置及び/又はビームエネルギー測定装置として構成される。詳細には、ビーム測定装置は、少なくともある特定の領域で、イオン化チャンバ装置及び/又はマルチワイヤチャンバとして構成される。そのような構成要素は、通常、照射装置が対象物を照射するために使用された場合に照射装置の照射精度を向上する。正確に言えば、提案される構成要素は、通常、照射精度の改善に非常に大きな影響を及ぼす。イオン化チャンバ装置とマルチワイヤ装置とは、それらが実行すべき測定作業に見合う価値があることが判明しており、また、容易に入手できる(市販もされている)。
【0032】
加速装置は、例えば、特に少なくとも1つの線形加速器、少なくとも1つのシンクロトロン及び/又は少なくとも1つのサイクロトロンを有するパーティクル加速器である。ここで挙げた加速装置(並びに他の加速装置)の組み合わせも同様に考えられる。例えば、シンクロトロンは、通常、前段加速器として線形加速器を有する。加速装置は、標的体積領域の照射に必要とされるビームパラメータを有するパーティクルビームを供給する。しかし、加速装置は、ビームを発生するレーザ装置を有する加速器であるか、あるいは「誘電体壁(DWA)」と呼ばれる加速器である。しかし、本発明に係る方法と、本発明に係る照射装置は、治療ビームを供給するための方法にはほとんど依存しない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
以下に、添付の図面を参照して、有利な実施形態に基づき本発明を更に詳細に説明する。同一の要素又は類似する要素は、同一の図中符号により示される。
【図1】照射システムを示す概略図である。
【図2】患者の肺の領域に位置する照射される腫瘍を、その付近に位置する臨界組織領域を含めて示す概略図である。
【図3】標的体積領域の標的点と、保護される体積領域の記録点とを示す概略図である。
【図4】第2の位置にある標的体積領域の標的点と、保護される体積領域の記録点とを示す概略図である。
【図5a】、
【図5b】、
【図5c】運動の影響を受けた収束イオンビームの種々の線量入力を示す概略図である。
【図6】線量−体積ヒストグラムの一例を示す図である。
【図7】制御要素を有する照射装置の一実施形態を示す概略図である。
【図8】照射方法のシーケンスを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1は、例えば患者の身体34内部の腫瘍を含む病変組織14のような身体34の一部領域を照射するためにパーティクルビーム8を使用する照射システム1の一実施形態の構成を示す概略図である。使用されるパーティクルは、特に、例えば陽子、パイ中間子、ヘリウムイオン、炭素イオン、ネオンイオンなどや、それらのパーティクルのうち2つ以上のパーティクルの混合物のようなイオン(通常は陽イオン)であるが、必要に応じて他のパーティクルも使用される。
【0035】
通常、上記のようなパーティクルはパーティクル源2において発生される。図1に示され、照射装置1として示される照射システム1の実施形態には、2つのパーティクル源2、例えば2つのECRイオン源が設けられるので、2種類のパーティクルを発生できる。これにより、短時間のうちにそれら2種類のパーティクルを切り替えることができる。適用可能であれば、2つのパーティクル源2を同時に動作させることにより、2種類のパーティクルの混合物を同時に発生することも可能である。2種類のパーティクルの切り替えを可能にするために、パーティクル源2と前段加速器4との間にスイッチング磁石3が配置される。2つのパーティクル源2により発生されるパーティクルが同時に前段加速器4へ搬送されることにより、パーティクル混合物が形成されるモードでも、スイッチング磁石3は動作可能である。
【0036】
一方又は双方のパーティクル源2により発生され、適用可能であれば、スイッチング磁石3によって選択されたパーティクルは、前段加速器4において第1のエネルギーレベルまで加速される。前段加速器4は、例えば線形加速器(LINAC)として構成される。前段加速後、パーティクルは、例えばシンクロトロン又はサイクロトロンとして構成された加速器リング5に送り込まれる。加速器リング5において、パーティクルは、相対的に低い第1の初期エネルギーレベルから照射に必要とされる種類の高いエネルギーに加速される。パーティクルが加速器リング5を出た後、高エネルギービーム搬送システム6は、パーティクルビーム8を1つ以上の照射スペース7へ搬送する。
【0037】
照射スペース7において、加速されたパーティクルは、照射される対象物34、特に人体34に向けて照射される。この人体は例えば、検査台上に仰臥した患者である。構成に応じて、パーティクルビーム8は、一定の方向から人体34に照射される(いわゆる「固定ビーム」スペース)か、又は種々の方向から照射される。種々の方向から照射を実行するために、軸10に関して回転可能なガントリ9が設けられる。図1に示される実施形態の照射システム1の場合、実施される治療の大半について回転可能なガントリ9は必ずしも必要ではないことが経験上わかっているので、合わせて3つの照射スペース7に対して1つのガントリ9のみが設けられている。回転可能なガントリ9に要するコストは多大であるので、このような構成により、かなりのコスト削減を実現できる。照射スペース7のいずれにもガントリ9を設けないこと、あるいは照射スペース7の多く又はすべてにガントリ9を設けることも同様に可能であるのは言うまでもない。
【0038】
更に、図1は、照射スペース7で放出されるパーティクルビーム8を示す。
【0039】
照射される人体34の一例として、図2は、肺12の高さの患者の胸部11の横断面図を示す。図2は、2つの肺葉13を示し、2つの肺葉13のうち一方は腫瘍14を含む。この腫瘍14は、照射システム1により照射される標的体積領域20を構成する。照射システム1による照射が実行される場合、その目的は、十分に高い線量、特にパーティクル線量、好ましくはイオン線量に腫瘍14の領域をさらすことにより、腫瘍14の領域を損傷又は破壊することである。
【0040】
更に、図2は、3つの重要な構造15,16,17(技術用語では危険臓器(OAR)と呼ばれる場合もある危険構造)を示す。正確に言えば、それらの構造は、脊髄が内部を走っている脊柱17と、大動脈16と、縦隔15とである。
【0041】
治療中に患者は呼吸するので、胸部11のある特定の部位が動く。この動きは、図2にいくつかの矢印により示される。詳細には、腫瘍14と縦隔15とが大きく動く。これは、脊柱17及び/又は大動脈16がまったく動かないか又は動けないことを必ずしも意味しない。しかし、通常脊柱17と大動脈16との動きは、縦隔15又は肺葉13にある腫瘍14の場合と比べてかなり小さい。
【0042】
特に軟組織の領域では、組織構造の動きは並進運動にとどまらない。原則として、回転運動(回転)及び/又は伸縮運動(組織構造の伸張又は収縮)が見られる。特に、回転運動と伸縮運動とが少なくとも部分的に重なり合った場合、そのような動きによって問題は更に複雑になる。
【0043】
図2は、当該身体部分14,15,16,17と関連するラスタ18,19を更に示す。腫瘍14の場合、このラスタは、ラスタ走査治療の範囲内でパーティクルビーム18の照射を受ける標的ラスタ18である。これに対し、保護される組織構造15,16,17の場合、このラスタは、当該組織構造15,16,17の照射(実際には望ましくないか又は回避されるべき)が記録される記録ラスタ19である。
【0044】
図3及び図4は、図2に示される状況を更に簡略化して再度示す概略図である。この点に関して、簡潔にするため、図3及び図4は、照射される1つの標的体積領域20と、(特定して)保護される1つの臨界組織21とを示すのみである。図3及び図4において、標的体積領域の内側領域22は、左上から右下に向かう斜線により示される断面領域によって表される。内側領域22は、例えば実際の腫瘍領域14、言い換えれば実際に病変を含む組織である。この腫瘍を高度の確実性をもって完全に破壊できるようにするために、実際の内側領域22の周囲に、同様に高い放射線量に暴露される安全余裕領域23を規定するのが通常の手順である。図3及び図4は、破線の形で示されるいわゆる等線量領域24を示す。この場合、等線量領域24の中に位置する領域は、最大線量の95%以上に相当する線量に暴露される。
【0045】
更に、図3及び図4は、臨界組織領域21を更に示す。臨界組織領域21の場合にも、標的体積領域20と同様に、実際に保護される臓器組織を取り囲む内側領域50がある。安全上の理由から、内側領域50も同様に安全余裕領域51により取り囲まれる。従って、内側領域50と安全余裕領域51とは、臨界組織領域21の体積領域を形成する。標的体積領域20の領域並びに臨界組織領域21の領域には、有限体積要素25,26のアレイとして構成されたラスタ18,19がある。対応するターゲットラスタ18,19は、原則として3次元的に延在する。この場合、個別の体積要素25,26は、所望のどのようなアレイの形にも配列できる。例えば、直方体ラスタ、矩形ラスタ、六角形ラスタ又は他のラスタが可能である。
【0046】
標的体積領域20の領域内に、通常は多数の標的点25から構成される標的ラスタ18がある。各標的点又は各ラスタ点25にパーティクルビーム8が入射する。この目的を達成するために、パーティクルビーム8は、スキャナ磁石35,36により(いわゆる等エネルギー平面49内で)側方へ移動される。それぞれ異なる等エネルギー平面49に到達できるように、照射される人体34に印加されるパーティクルビーム8のエネルギーを適切な装置37によって変化させることができる。対象の標的点25に対して、単位時間中に流れるパーティクル数と、標的点25に向かってパーティクルビーム8が照射される時間間隔の長さとにより、パーティクル数とそれに対応する関連線量とが定義される。図3及び図4の白丸は、パーティクルビーム8の照射目標となっていないか、又はごく少数のパーティクルにしか暴露されない標的点25を示す。黒丸は多数のパーティクルに暴露される標的点25を示す。
【0047】
記録ラスタ19は臨界組織領域21の領域内にある。記録ラスタ19を構成する有限体積要素26は、通常、技術用語ではボクセル26と呼ばれる。標的点25とは異なり、ボクセル26は、一般にパーティクルビーム8の照射を受けない。しかし、パーティクルビーム8が標的体積領域20に向かう途中に臨界組織領域21を通過する場合、少量であるとはいえ、ある程度の線量が関連する組織領域に蓄積されてしまう。この線量負荷は1つのボクセル26と関連して記録される。
【0048】
図3に示される標的体積領域20と臨界組織領域21との離間距離は、図4に示される離間距離とは異なる。そのような距離の変動は、例えば患者の呼吸運動によってもたらされる。図4に示されるように、標的体積領域20と臨界組織領域21とが互いにすぐ隣接している場合、パーティクルビーム8による照射は、標的体積領域21において不均衡に高くて望ましくない(重大な影響又は危険を及ぼすことも考えられる)照射線量蓄積を極めて容易に引き起こす。しかし、本発明により提案される方法によれば、臨界組織領域21の周囲の広い範囲でパーティクルビーム8により供給される照射入力は、ボクセル26ごとに記録ラスタ19に記録される。合計演算によって、ボクセル26ごとの相線量入力を判定できる。図4に示される例の場合、臨界組織領域21と標的体積領域20との間の境界領域における照射入力は非常に高いので、個々のボクセル26で信号値(警告線量)を超えた。その結果、標的ラスタ18の個々の標的点25の照射強度が低減された(これは、個々の標的点25が黒丸ではなく、白丸で示されるようになっていることからわかる)。これにより、図4に示される実施形態において、臨界組織領域21に隣接する領域で、照射される標的体積領域20の安全余裕領域23が著しく縮小されるという効果的な結果が得られた。
【0049】
しかし、患者の呼吸によって臨界組織領域21と標的体積領域20とが更に離れた場合、影響を受けていた標的点25は高線量の走査手順に再び含まれることになるので、再び図3に示されるような状況になる。
【0050】
図5は、標的点25の前方に位置するボクセルが入射パーティクルビーム8により、ある特定の線量にどのようにして暴露されるかを示す。重イオンパーティクルビーム8の照射エネルギーの大部分は、いわゆるブラッグピーク27で放射され、線量の多くは標的25(又は標的体積領域21)に照射されるが、標的点25の前方に位置するボクセル26aと、標的点25の背後に位置するボクセル26b(図5には、標的点25の背後に1つのボクセル26bしか示されていない)とに、ある特定の線量が導入される。図5からわかるように、標的点25の前方に位置するボクセル26aに入射する線量は、標的点25の背後に位置するボクセル26bに入射する線量より通常高い。
【0051】
図5b及び図5cは、実際にはパーティクルビーム8の照射を受けていなかった種々のボクセル26が線量入力を受けるようになる原因が組織部分28の並進運動だけではないことを示す(特に、図5b及び図5cとの比較を参照)。この点に関して、図5bは、ビーム位置を運動に適応させない(ビーム追跡を伴わない)状況を示し、図5cは、ビーム追跡を伴う状況を示す。図5cにおいて、図5aと同一のボクセルでブラッグピークが再び現れていることがわかる。図5は、実際にはパーティクルビーム8に暴露されていなかったまったく異なるボクセル26が組織部分28の回転によって線量入力を受けることになる状況を特に示す。詳細には、ビーム追跡が使用されている場合でも、ボクセル26の線量負荷は変化する可能性があることが明らかになる。本発明に係る方法によれば、標的点25(又は標的体積領域21)の外側に位置する個々のボクセル26ごとの線量入力がオンラインで継続して記録され、更に事例ごとに導入される累積総線量も記録されるのが好ましい。ある特定の値(例えば、警告線量値及び/又は警報線量値)を超えた場合、例えば個々の標的点25を「スイッチオフ」するなどの適切な手段が講じられる(特に、図3と比較して図4を参照)。
【0052】
図5bにおいて、標的体積領域20又は標的点25の動き(例えば、呼吸運動)によって、パーティクルビーム8は、「実際に」意図されていた標的点25から短時間外れる。このずれにより、図5bの場合でボクセル1つ分の長さの(短い)ビーム偏移が起こる。従って、これは、異なるボクセル26と標的点25が共に照射される事例である。図5cにおいて、追跡方法を再び適用すると、「実際に」意図されていた標的点25が再び照射されるようになる。
【0053】
図5bに示される状況と図5cに示される状況とにおいて(当然のことながら、図5aに示される状況も含まれる)、実際に(種々のレベルで)照射を受けたボクセル28又は標的点25のすべてに対する線量の値が検出される。図5bに示される「欠陥照射」は考慮され、パーティクルビーム8による次の走査手順で適切に修正されたビーム誘導/照射計画によって補償されるのが好ましい。詳細には、「欠陥照射」に対して必要とされる補償は、同一の照射手順及び/又は1回以上の後続する照射手順においてオンラインで実行可能である。
【0054】
図6は、信号値(特に、警告値30及び/又は最大値31)が必ずしも一定の数値の形でなくてもよいことを示す。信号を放出させる線量値30,31の大きさを照射体積領域(例えば、危険臓器の照射体積領域など)の大きさの関数として変化させることも可能である(付随的に好ましい)。このような相反関係は、いわゆる線量−体積ヒストグラム(DVH)29の形で周知である。典型的な一例が図6に示される。この場合、横軸32に沿って線量が%単位で示され、縦軸33に沿って相対照射済み体積分率及び/又は照射される体積領域の分率が示される。図6の曲線31は、例えば照射される標的体積領域のDVHを示す。曲線30は保護される体積領域が受ける最大線量を示す。従って、曲線30は保護される体積領域に対する最大値を構成する。そこで、この最大値に対して警告値を判定できる。DVHからわかるように、相対的に狭い体積領域に限定されるのであれば、高い線量値も許容される。しかし、当該領域が全面にわたり照射される場合、特にほぼ完全に照射される場合、警告信号(警告値)をトリガする許容値と、最大信号(最大値)をトリガする許容値とは、相当に低くなる。例えば、危険臓器の各部に対して最大値を定義しておくのが一般的である。例えば、40Gyの「V20」最大値は、最高の線量で影響を受ける危険臓器の20%が40Gyを少なくとも完全に超えてはならないことを規定する。警告値は特に最大値の50%〜90%である。
【0055】
図7は、先に提示された照射システム1を再度概略的に示す。図1及び図7は同一の照射システム1を示すが、各概略図は照射システム1の異なる構成要素に焦点を合わせている。照射システム1により発生され、加速器リング5から取り出されたパーティクルビーム8は、照射スペース7に配置された照射される人体34へ高エネルギービーム搬送システム6を介して搬送される。照射される人体34は、照射される人体領域14(図2に更に詳細に示される)又は照射されてはならない人体領域(特に感度の高い組織構造15,16,17を含む)を含む。矢印Aにより示されるように、人体34は動き、特に自然に動く(個々の組織領域28の互いに対して自然に起こる移動、回転、伸縮)。
【0056】
照射される標的体積領域20の領域に位置する(図3、図4を参照)標的ラスタ18のすべての標的点25にビームを到達させるために、まず、垂直スキャナ磁石36と水平スキャナ磁石35とが設けられる。それらの磁石は、照射される人体34の等エネルギー平面49の中でパーティクルビーム8の作用場所を側方へ(言い換えれば、パーティクルビーム8の方向をZとした場合に、X方向とY方向に)移動するために使用される。本実施形態においてエネルギー吸収器37として構成されるパーティクルビームエネルギー適応装置37によって、パーティクルビーム8の作用場所はZ方向に変更される。図7に示されるエネルギー吸収器37は、エネルギー吸収材料から成る複数の楔形要素から構成される。図7の上下部分に配置された楔は互いに接合され、楔ブロックを形成する。エネルギー吸収器37の2つの楔ブロックは、サーボモータ(図示せず)により互いに接離される。2つの楔ブロックの互いに対する位置に応じて、パーティクルビーム8は、楔ブロックの楔を形成しているエネルギー吸収材料を異なる距離で通過することになる。パーティクルビーム8は、エネルギー吸収器37を通過する際の距離に対応する量のエネルギーを失うので、人体34に入射するパーティクルビーム8のエネルギーをエネルギー吸収器37によって(ある特定の限度内で)急速に変化させることができる。
【0057】
スキャナ磁石35,36とエネルギー吸収器37との間に、種々の検出器38が配置される。検出器38の中には、ガス充満マルチワイヤチャンバとして構成されるものもあるが、逆に、いわゆるイオン化チャンバとして構成されるものもある。検出器38により、パーティクルビーム8の位置と、パーティクルビーム8のエネルギー(エネルギー吸収器37を通過する前のエネルギー)とを判定できる。エネルギー吸収器37の起動信号と関連して(これにより、例えば、適切な測定装置によって楔ブロックの位置を判定できる)、人体34に入射するパーティクルビーム8のエネルギーを判定することも可能である。
【0058】
スキャナ磁石35,36と、エネルギー吸収器37と、検出器38とが図示されているのとは異なる順に配列されてもよいことは言うまでもない。制御ユニット40は、前述の制御信号と測定値により人体34中の種々のボクセル26に導入された線量(特に適用線量)を判定することが可能である。これは、照射される標的体積領域21に導入された線量を表すだけではなく、特に臨界組織領域21及び/又は他の組織領域に導入された(実際には望ましくない)線量も含む。導入線量はボクセル26ごとに記録されるので、関連情報を空間的に分解された形で利用可能である。個別の線量を加算することにより、照射手順の実行中のどの時点においても、種々のあらゆる組織領域のボクセル26ごとの累積線量がほぼ遅延なく読み取られる。この目的を達成するために使用される方法は、特に、本出願人が2009年11月26日に特許出願として出願番号第10 2009 055 902.7によりドイツ特許商標庁に提出した名称「Method and device for controlling the dose administration during irradiation」の特許出願(出願人整理番号P286)に記載された方法である。本出願の開示内容には、ドイツ特許出願第10 2009 055 902.7号の全内容が参考として含まれる。
【0059】
累積導入線量がある特定の限界値(警告値/最大値)を超えた場合、制御ユニット40により、それを表す信号が放出される。この場合、信号値は照射された体積領域の大きさによって決まる(図6を参照)。
【0060】
照射の精度を更に改善するために、図7に示される照射システム1には、更にPET39(PETは光子放出断層撮影装置を表す)が設けられる。PETは、特に人体34に蓄積した線量の測定を可能にする。PET39が空間分解方式及び/又は時間分解方式で測定可能である場合、対応する測定値も空間分解方式(直接)及び/又は時間分解方式で使用可能である。PET39が空間分解方式で測定できない場合であっても、その他の測定信号と制御信号を使用することにより、間接的に空間分解測定を実行可能である(精度は限定される)。
【0061】
直接線量測定の代わりに又はそれに加えて、特に対象物及び/又は対象物に含まれる標的体積領域及び/又は保護される体積領域の動きを測定可能である。これに基づき、好ましくは4次元照射計画(4D照射計画)と関連させて、照射中にオンラインで導入線量が判定される。
【0062】
前述のように、制御ユニット40は、信号が発生又は放出されているか否かに応じて、適用可能であれば、どの信号が発生又は放出されているかに応じて異なる応答を示す。最大信号が発生又は放出されている場合、制御ユニット40は、例えばパーティクルビーム8を急速に遮断させる。これに対し、警告線量値に達したか又はそれを超えただけである場合、制御ユニット40は、ラスタ走査方法の後続部分を適切に適応させる。これは、例えばゲーティングにより、再走査により及び/又は照射計画を変更することにより実行可能である。照射計画すべてを再計算するには一般に非常に長い時間(通常は数時間の範囲内)を要するので、照射計画を単純に修正することが可能である。この点に関して、上記のドイツ特許出願第10 2009 055 902.7号の方法が使用される。
【0063】
最後に、図8は、提案される照射方法41について考えられる別の流れ図を概略的に示す。照射方法41において、まず、設定照射値42が想定される。この設定照射値42は、例えば一般に周知の照射計画の形で存在している。設定照射値42の値に基づき、照射システム1の個別の構成要素が適切に起動され(43)、その結果、1つ又はいくつかの標的点25又は標的体積領域20に適切な線量が導入される。発生されたパーティクルビーム8に基づき、照射システム1の設定値起動及び/又は照射システム1の測定値(特に、パーティクルビーム8及び/又は「直接測定」39の測定値)を使用することにより、空間分解方式で線量入力が判定される(44)。この処理において、判定44は、照射される人体34のあらゆる領域に対して、特に照射される人体34の中で保護される臨界体積領域21に対して(必ずしもこれに限定されない)実行されるのが好ましい。その後、判定された線量値(同様に空間分解方式で判定されるのが好ましい)が検査される(45)。検査手順45の結果に応じて、その後に実行される照射方法41に差異が生じる。信号線量値(特に警告線量値及び/又は最大線量値)を超えていなかった場合、方法は変更なく継続される(46)。すなわち、当初の設定照射値42(又はそれより前の時点で任意に変更されていた設定照射値47)に従って照射は継続される。この場合、例えば当初の設定照射値42に従って腫瘍14に蓄積される線量に既に達しているという理由により、照射方法41が終了されることもある。
【0064】
これに対し、警告線量値を超えていた場合、照射計画(言い換えれば当初の設定照射値42又は以前に変更されていた計画47)は変更される。この変更は、照射中にオンラインで実行されるのが好ましく、照射される対象物が変更後の治療計画に基づいて照射されるという処理である。変更は可能であれば、照射される人体34の領域において放射線量値をそれ以上上昇させないという目標、又は警告信号の発生につながり且つ/又は相対的に高い導入線量(特に警告線量値を上回る)を蓄積させてしまうわずかな線量上昇も起こさないという目標を特に有する。
【0065】
これに対し、検査ステップ45で、既に最大線量に達していたことが明らかになった場合、方法41は直ちに終了される(48)。その後、主治医の承認を受けて初めて、その後の治療が実行されるのが好ましい。それ以降の治療の利点とリスクは、症例ごとに比較検討されなければならない。
【0066】
図1〜図8に関連して説明した方法ステップ及び/又は装置の詳細は、単独で使用され、実現され且つ/又は本明細書中に明示して説明された組み合わせ以外の組み合わせで使用され、実現される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物(34)を照射する装置(1)を起動する方法(41)であって、
前記対象物(34)は、少なくとも1つの照射される標的体積領域(14,20)と、少なくとも1つの保護される体積領域(10,16,17,21)とを有し、
前記保護される体積領域(10,16,17,21)に対して少なくとも1つの信号線量値(30,31)が規定され、前記対象物(34)の照射(43)中、前記保護される体積領域に導入された線量が判定され(44)、前記保護される体積領域(10、16、17、21)の少なくとも1つの箇所(25)で前記導入された線量が少なくとも1つの信号線量値(30,31)を超えた場合、直ちに少なくとも1つの信号が放出される(47,48)ことを特徴とする方法(41)。
【請求項2】
前記少なくとも1つの信号線量値(30,31)は、警告線量値(30)及び/又は超えてはならない最大線量(31)であることを特徴とする請求項1に記載の方法(41)。
【請求項3】
前記放出された信号(47,48)は、前記照射手順を中止させ(48)且つ/又は前記照射手順を中断させ(47)且つ/又は継続して実行される前記照射手順の少なくとも一部を変更させ(47)、特に、前記保護される体積領域(10,16,17,21)及び/又は前記照射される標的体積領域(14,20)に導入される線量を減少させることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法(41)。
【請求項4】
前記導入された線量は、少なくとも場合によっては又は少なくとも一部で投与線量及び/又は蓄積線量であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法(41)。
【請求項5】
前記保護される体積領域(10,16,17,21)に導入された線量及び/又は前記照射される標的体積領域(14,20)に導入された線量は、少なくとも一部で且つ/又は少なくとも場合によっては、当該体積領域(10,14,16,17,20,21)及び/又はビーム(8)において測定された少なくとも1つの測定値(38,39)を使用して判定され、前記ビーム(8)で測定された前記測定値(38,39)は、特にビーム位置、ビームの大きさ、ビームの形状、ビーム強度及び/又はビームエネルギーであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法(41)。
【請求項6】
前記照射される対象物(34)は、少なくとも場合によっては及び/又は少なくとも所定の領域内で動き(A)、特に少なくとも場合によっては及び/又は少なくとも所定の領域内で自然に動き、特に前記照射される標的体積領域(14,20)及び/又は前記保護される体積領域(10,16,17,21)は、少なくとも場合によっては及び/又は少なくとも所定の領域内で動き、特に少なくとも場合によっては及び/又は少なくとも所定の領域内で互いに対して動くことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方法(41)。
【請求項7】
少なくとも場合によっては及び/又は少なくとも所定の領域内で、前記照射される対象物(34)の少なくとも部分(10,14,16,17,20,21)の位置は、特に少なくとも一部で撮像方法(39)を使用して測定されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項、特に請求項6に記載の方法(41)。
【請求項8】
前記照射は、走査手順(35,36)、特にラスタ走査手順の形で実行されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の方法(41)。
【請求項9】
前記照射は、いくつかの部分照射手順(46,47)の形で、特にいくつかの分割照射手順及び/又はいくつかの再走査手順の形で且つ/又はゲーティング方法を採用することにより実行されることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項、特に請求項8に記載の方法(41)。
【請求項10】
対象物(34)を照射する照射装置(1)を起動する制御ユニット(40)であって、
少なくとも場合によっては、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の方法(41)を実施するように構成され、設定されることを特徴とする制御ユニット(40)。
【請求項11】
対象物(34)を照射する照射装置(1)であって、請求項10に記載の少なくとも1つの制御ユニット(40)を有することを特徴とする照射装置(1)。
【請求項12】
少なくとも1つの測定装置(37,38,39)、特に少なくとも1つの運動測定装置(39)及び/又は少なくとも1つのビーム測定装置(37,38)、特に、少なくともある特定の領域内でイオン化チャンバ装置(38)として構成されるのが好ましいビーム位置測定装置(38)、ビーム強度測定装置(38)及び/又はビームエネルギー測定装置(37)を有することを特徴とする請求項11に記載の照射装置(1)。

【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図5a】
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【図5b】
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【図5c】
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【公表番号】特表2013−512708(P2013−512708A)
【公表日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−541501(P2012−541501)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際出願番号】PCT/EP2010/068716
【国際公開番号】WO2011/067324
【国際公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(509255749)ジーエスアイ ヘルムホルツツェントゥルム フュア シュヴェリオーネンフォルシュング ゲーエムベーハー (7)
【氏名又は名称原語表記】GSI Helmholtzzentrum fur Schwerionenforschung GmbH
【住所又は居所原語表記】Planckstrasse 1 64291 Darmstadt GERMANY
【Fターム(参考)】