照明光通信システム用の送信装置
【課題】照明としての性能が高く、かつ通信速度が速い新規な照明光通信システムおよびこの照明光通信用システムに好適に適用可能な送信装置。
【解決手段】送信データに基づいて変調された変調光を出射する照明用光源を備える送信装置であって、照明用光源は、陽極52と、陰極58と、陽極および陰極間に設けられ、かつそれぞれが発光層を含む複数の発光部(56A、56B)と、発光部に挟持されて配置される電荷発生層57とを含んで構成される有機エレクトロルミネッセンス素子26を備える、照明光通信システム用の送信装置。
【解決手段】送信データに基づいて変調された変調光を出射する照明用光源を備える送信装置であって、照明用光源は、陽極52と、陰極58と、陽極および陰極間に設けられ、かつそれぞれが発光層を含む複数の発光部(56A、56B)と、発光部に挟持されて配置される電荷発生層57とを含んで構成される有機エレクトロルミネッセンス素子26を備える、照明光通信システム用の送信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明光を利用してデータを伝送する照明光通信システムおよびこの照明光通信用システムに好適に適用可能な送信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高速通信技術の進展とともに、光を伝送媒体として用いた屋内無線通信技術が利用されるようになってきた。特に、伝送媒体として赤外線を用いたLAN(Local Area Network)が、オフィスや家庭に普及してきている。
【0003】
しかしながら、赤外線を用いた無線データ通信では、送信装置と受信装置との間に存在する遮蔽物によって通信に支障が生じるという問題がある。また、信号電力が小さいため、データ通信、すなわち信号の送受信が不安定になり易いという問題がある。
【0004】
前述した赤外線通信にかかる問題を解決する通信方式として、照明用光源からの光をデータの伝送媒体に用いた通信方式(照明光通信)が考えられている。照明光の光源としては、化合物半導体系の白色発光ダイオード(以下、白色LED(LED:Light Emitting Diode)という場合がある)が用いられている。
白色LEDを用いた照明は、蛍光灯といった従来の照明と比較して、長寿命、小型、低消費電力といった優れた特長を有している。非特許文献1および特許文献1には、このような白色LEDの特長に着目した照明光通信システムが開示されている。
【0005】
【非特許文献1】「可視光通信に適した変調方式の実験的検討」(信学技報IEICE Technical Report OCS2005-19(2005-5)第43〜48頁 社団法人 電子情報通信学会)
【特許文献1】特開2003−318836号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
照明光通信には、通信に求められる特性と照明に求められる特性とを両立させることが要求される。通信としては高い伝送速度が求められており、照明としては低消費電力が求められており、従ってその光源には、例えば高い応答速度と高い発光効率とが求められている。
前述したように蛍光灯などの照明と比較して、白色LEDは照明として優れた特徴を有している。しかしながら、上記照明光通信に用いられる白色LEDは、例えば半導体レーザと比較するとその応答速度が低い。特に照明に利用される白色LEDには、蛍光体を使用するタイプのものが主に用いられているが、蛍光体を使用するタイプの白色LEDは、蛍光体不使用のものと比較すると応答速度が低い。従って白色LEDを用いた従来の照明光通信では、伝送速度が必ずしも十分とはいえない。
【0007】
そこで、本発明の目的は、伝送速度および発光効率が高い新規な照明光通信システムおよびこの照明光通信用システムに好適に適用できる送信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した課題を解決するために、本発明では、下記の構成を採用した。
〔1〕 送信データに基づいて変調された変調光を出射する照明用光源を備える送信装置であって、前記照明用光源は、陽極と、陰極と、前記陽極および前記陰極間に設けられ、かつそれぞれが発光層を含む複数の発光部と、該発光部に挟持されて配置される電荷発生層とを含んで構成される有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子という場合がある)を備える、照明光通信システム用の送信装置。
〔2〕 前記電荷発生層は、仕事関数が3.0eV以下の金属、その化合物、およびイオン化ポテンシャルが5.5eV以下の電子供与性の有機物からなる群から選ばれる1種類以上と、仕事関数が4.0eV以上の化合物の1種類以上とを含んでなる、〔1〕に記載の送信装置。
〔3〕 前記照明用光源は、それぞれの発光面積が10−8cm2から10−1cm2である複数の前記有機エレクトロルミネッセンス素子を備える、〔1〕または〔2〕に記載の送信装置。
〔4〕 前記照明用光源が、前記変調光を出射する通信用の有機エレクトロルミネッセンス素子と、非変調光を出射する照明用の有機エレクトロルミネッセンス素子とを備える〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の送信装置。
〔5〕 前記通信用の有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層が、蛍光を発光する発光材料を用いて形成され、かつ前記照明用の有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層が、リン光を発光する発光材料を用いて形成されてなる〔4〕に記載の送信装置。
〔6〕 前記電荷発生層が、仕事関数が3.0eV以下の金属、その化合物、およびイオン化ポテンシャルが5.5eV以下の電子供与性の有機物からなる群から選ばれる1種類以上を含む第1の層と、仕事関数が4.0eV以上の化合物の1種類以上を含む第2の層とを含んでなり、前記第1の層が、第2の層よりも前記陽極寄りに配置される、〔1〕から〔5〕のいずれかに記載の送信装置。
〔7〕 前記電荷発生層は、仕事関数が3.0eV以下の金属、その化合物、およびイオン化ポテンシャルが5.5eV以下の電子供与性の有機物からなる群から選ばれる1種類以上と、仕事関数が4.0eV以上の化合物の1種類以上とが混合されてなる、〔1〕から〔6〕のいずれかに記載の送信装置。
〔8〕 波長550nmの光に対する前記電荷発生層の光透過率が、30%以上である、〔1〕から〔7〕のいずれかに記載の送信装置。
〔9〕 前記仕事関数が3.0eV以下の金属が、アルカリ金属、およびアルカリ土類金属からなる群から選択される、〔1〕から〔8〕のいずれかに記載の送信装置。
〔10〕 前記仕事関数が4.0eV以上の化合物が遷移金属酸化物である〔1〕から〔9〕のいずれかに記載の送信装置。
〔11〕 前記発光層は、重量平均分子量が1万から1000万である高分子発光材料を含む、〔1〕から〔10〕のいずれかに記載の送信装置。
〔12〕 変調光を出射する照明用光源を備える〔1〕から〔11〕のいずれか一項に記載の送信装置と、前記照明用光源から出射された前記変調光を受光して電気信号に変換し、該電気信号を復調して受信データを生成する受信装置とを具備する照明光通信システム。
【発明の効果】
【0009】
本発明の照明光通信システム用の送信装置においては、複数の発光部を積層したマルチフォトン型の有機EL素子を含む照明用光源を用いることにより、電流効率が高くなり、ひいては発光効率がより高くなる。さらにマルチフォトン型の有機EL素子は、各発光部から放射される光が積算された光を利用するので、1つの発光部を有する有機EL素子と比較すると、等量の光量を取り出す場合には、各発光部が放射する光の光量をそれぞれ抑制することができる。よって、マルチフォトン型の有機EL素子の場合には、各発光部に流れる電流量を低減することができるため、各発光部にかかる負荷を低減することができる。この負荷の低減により、発光部の劣化の進行を抑制することができる。結果として、有機EL素子の素子寿命を向上させることができる。またマルチフォトン型の有機EL素子には複数の発光部を仕切る電荷発生層が設けられるので、この1または複数の電荷発生層と、陽極と、陰極とによって、キャパシタの直列接続が擬似的に構成されることになり、結果としてRC時定数がより小さくなる。よって、応答速度のさらなる高速化を実現することができる。このような有機EL素子を含む照明用光源を用いることにより、伝送速度および発光効率が高い照明光通信システム用の送信装置を実現することができる。さらにこのような送信装置と受信装置とを備える照明光通信システムにより、高速通信が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図を参照して、本発明の実施形態につき説明する。なお、各図は、発明が理解できる程度に、構成要素の形状、大きさおよび配置が概略的に示されているに過ぎない。本発明は以下の記述によって限定されるものではなく、各構成要素は本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。なお、以下の説明に用いる各図において、同様の構成要素については同一の符号を付して示し、重複する説明を省略する場合がある。また、有機EL素子を備える装置においては電極のリード線等の部材も存在するが、本発明の説明にあっては直接的に要しないため記載を省略している。層構造等の説明の便宜上、下記に示す例においては基板を下に配置した図と共に説明がなされるが、本発明の有機EL素子およびこれを搭載した有機EL装置は、必ずしもこの配置で、製造または使用等がなされるわけではない。なお以下の説明において基板の厚み方向の一方を上または上方といい、厚み方向の他方を下または下方という場合がある。
【0011】
〈照明光通信システムの構成例(1)〉
図1を参照して、本発明の照明光通信システムの構成例につき説明する。図1は、照明光通信システムの構成を概略的に説明するブロック図である。
【0012】
図1に示すように、照明通信システム10は、送信装置20と受信装置30とを備えている。送信装置20は、照明用光源22を備えている。照明用光源22は、送信されるべき送信データに基づいて変調された変調光を出射する。変調光とは、点滅制御された光または光量制御された光をいい、変調方式としては、アナログ変調方式(AM、FMなど)、デジタル変調方式、パルス変調方式、およびスペクトラム拡散方式などが用いられる。
【0013】
照明用光源22は、それぞれが有機EL素子26を備える1または複数の発光ユニット24を含んで構成される。本実施の形態では照明用光源22は、1つの発光ユニット24を備える。また発光ユニット24は、有機EL素子26に接続され、かつ当該有機EL素子26の動作を制御する制御回路28をさらに備える。制御回路28と有機EL素子26とは電気的に接続されている。
【0014】
有機EL素子26は、照明光のみ、または照明光および信号光の双方を生成して出射する。有機EL素子26および制御回路28の具体的な構成については後述する。
【0015】
受信装置30は、受光部32と復調部34とを備える。受信装置30は、照明用光源22から出射された変調光を受光して、受信データを生成する。
【0016】
受光部32は、図示しない光電変換装置を内蔵しており、受光した変調光を電気信号に変換する。復調部34は、受光部32によって光電変換された電気信号から、元のデータ(送信データ)を復調して受信データを生成する。
【0017】
送信装置20がデータを送信する場合には、送信すべきデータ、すなわち送信データが制御回路28に供給される。送信データの供給を受けた制御回路28は、供給されたデータに基づいて有機EL素子26の動作を制御する。
【0018】
こうして、送信データに対応して変調された変調光が有機EL素子26、すなわち発光ユニット24から出射される。有機EL素子26を高速に点滅させたり、その光量を高速で変化させたりしても、視覚的には感知されないので、通信用に使用したとしても有機EL素子26はほぼ一定の光量で光っているように見える。したがって、有機EL素子26から出射された変調光は、人に違和感を与えることなく、そのまま照明光としても利用することができる。
【0019】
〈照明光通信システムの構成例(2)〉
図2および図3を参照して、本発明の照明光通信システムの他の構成例につき説明する。
【0020】
1Gbps程度以上の大容量の伝送を行なうためには、送信装置20において多数の発光ユニット24を二次元的に配列し、これらを互いに並列的に動作させればよい。このような並列システムを従来のLEDを用いて実現するためには、多数のLEDを二次元的に配列し、分割器との配線接続を行なう必要があり、システムとして大型にならざるを得なかった。
【0021】
白色LEDに代えて有機EL素子を用いると、完成した個々の発光ユニット24を配線ボード上に後付けして配列するのではなく、例えば制御回路28が形成されたTFT(Thin Film Transistor)基板上に複数の有機EL素子26を直接的に作りこむことができるので、発光ユニット24が二次元的に配置された集積デバイスを基板上に最初から製造できる。したがって分割器などの他の素子を加えても非常にコンパクトな送信装置20を実現できる。
【0022】
図2および図3は、本発明の照明通信システムの構成例を概略的に説明するブロック図である。
【0023】
図2に示すように、この照明光通信システム10は、図1を参照して既に説明した構成を基本として、有機EL素子26および制御回路28からなる発光ユニット24並びに受光部32の組を複数組備えている。送信装置20の照明用光源22において、複数の発光ユニット24は、二次元的に配置されている。また、制御回路28は、直列/並列変換回路29をさらに含み、受信装置30は、レンズ36と並列/直列変換回路38とをさらに含んでいる。
【0024】
なお、図示例の送信装置20および受信装置30において、直列/並列変換回路29を制御回路28に組み込む構成としたが、直列/並列変換回路29を、制御回路28の外部に設ける構成とすることもできる。この場合、直列/並列変換回路29から生成されるパラレル信号に基づいて、制御回路28が各有機EL素子26を制御してもよい。
【0025】
送信装置20の直列/並列変換回路29は、送信データであるシリアルデータを複数のパラレルデータに分割し、分割されたパラレルデータを個々の有機EL素子26にそれぞれ供給する。この送信装置20の直列/並列変換回路29の動作を含めた制御回路28の制御によって、各有機EL素子26は、各々に与えられるパラレルデータに基づいて、変調された変調光を出射する。出射された変調光は、レンズ36によって空間的に分離され、対応する各受光部32の光電変換装置において光電変換され、さらに変換された電子信号は図示しないA/Dコンバータによってデジタル化され、受信装置30の並列/直列変換回路38によってシリアルデータに変換される。復調部34は、このシリアルデータを復調することにより受信データを生成して出力する。
【0026】
このように、複数の有機EL素子26を並列的に駆動することによって、大容量のデータを高速で伝送することができる。
【0027】
図2に示した送信装置20において、有機EL素子26の制御(変調制御を含む)は、外部駆動回路としてのドライバICを用いて行ってもよい。図2に示した送信装置20においては、複数の有機EL素子26を単一の制御回路28で動作制御している。
【0028】
図3に示すように、複数の有機EL素子26それぞれを個別に制御する複数の制御回路28を、各有機EL素子26に対応させて接続する構成とすることもできる。この場合には、照明用光源22は、1つの有機EL素子26および1つの制御回路28を1組として一体的に形成した発光ユニット24を複数組備える。なお、複数の有機EL素子26を1つの構成単位とする素子群に、各有機EL素子26をグループ分けしたときに、同じ素子群に含まれる複数の有機EL素子26と該有機EL素子26に接続される制御回路28とからなる発光ユニット24群を、サブ光源23という場合がある。後述するように、サブ光源23ごとに発光を制御することにより、各有機EL素子26を素子群ごとに駆動することができる。このように1つの素子群に含まれる複数の有機EL素子26を単位として駆動することにより、素子群単位としての光強度(信号強度)が大きくなるので、例えばノイズの多い環境で使用する場合や各有機EL素子26の光量が少ない場合であっても、正確に信号を伝送することができ、エラービットレートの小さい照明用光通信システムを実現することができる。
【0029】
有機EL素子26と一体的に作り込まれる制御回路28の構成要素の一例としていわゆる薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)を用いることができる。薄膜トランジスタとしては、ポリシリコントランジスタ、アモルファスシリコントランジスタ、有機半導体材料を用いた有機トランジスタ等が知られている。こうした薄膜トランジスタから構成される制御回路28と有機EL素子26とを一体的に形成することで、送信装置20の一層の小型化が可能になる。
【0030】
次に、図4を参照して、前述した照明光通信システム10の送信装置20の構成例として、いわゆるアクティブマトリクス型として構成された照明用光源22について説明する。
【0031】
アクティブマトリクス型とは、有機EL素子26および制御回路28を一体的に構成した発光ユニット24をマトリクス状に配列し、複数の有機EL素子26それぞれの駆動制御を有機EL素子26の近傍にそれぞれ作り込まれた制御回路28によって行うタイプをいう。
【0032】
有機EL素子26を用いてアクティブマトリクス型の照明用光源22を構成した場合には、有機EL素子の駆動方法は、電流プログラム方式および電圧プログラム方式の二種類に大別される。「電流プログラム方式」とは、データ線に対するデータの供給を電流レベルで行う方式をいい、「電圧プログラム方式」とは、データ線に対するデータの供給を電圧レベルで行う方法をいう。
【0033】
図4は、本発明のアクティブマトリクス型の照明用光源を用いた照明光通信システムの概略的な説明図である。
【0034】
送信装置20が備える照明用光源22は、前述したように例えばTFTを構成要素とする制御回路28により有機EL素子26を駆動する、いわゆるアクティブマトリクス型の装置である。
【0035】
この照明用光源22には、m×n(記号「m」、「n」はそれぞれ自然数を表す)個の発光ユニット24が平面上においてm行n列のマトリクス状に配列される。すなわち格子縞の交点上に各発光ユニット24がそれぞれ配置される。
【0036】
照明用光源22は、それぞれが図4において行方向に延在するとともに、互いに列方向に間隔をあけて配置されるn本の走査線Yからなる走査線群Y1〜Ynを有する。
【0037】
また、照明用光源22は、列方向に延在するとともに、互いに行方向に間隔をあけて配置されるm本のデータ線Xからなるデータ線群X1〜Xmを有する。走査線群Y1〜Ynとデータ線群X1〜Xmとは、基板の厚み方向の一方から見て格子縞を形成している。
【0038】
基板の厚み方向の一方から見て、走査線Yとデータ線Xとにより形成される格子縞の複数の交点近傍には、画素領域51が設けられており、各画素領域51それぞれに1つの発光ユニット24が配置されている。換言すると、複数の発光ユニット24が、画素領域51ごとにマトリクス状に配置されている。
【0039】
図4においては、それぞれの有機EL素子26に対して所定の電圧Vdd,Vssを供給する電源線等が省略されている。
【0040】
図5および図6を参照して、発光ユニット24が備える制御回路28の好適な構成例につき説明する。
【0041】
図5は電流プログラム方式における発光ユニット24が備える制御回路28を示す回路図である。図6は電圧プログラム方式における発光ユニット24が備える制御回路28を示す回路図である。
【0042】
図5および図6に示すように、発光ユニット24は、有機EL素子26と、この有機EL素子26を除く回路部分である制御回路28とを備えている。
【0043】
〈電流プログラム方式〉
図5に示すように、制御回路28は、4つのトランジスタT1、T2、T3およびT4、送信データを保持するデータ保持手段であるキャパシタC、電源電圧(供給手段)Vdd、基準電圧(供給手段)Vss並びにこれらを互いに接続する信号線を含んでいる。
【0044】
図5では、トランジスタT1、T2、およびT4をnチャネル型トランジスタとし、トランジスタT3をpチャネル型トランジスタとした例を示してある。
【0045】
トランジスタT1のゲート電極は、走査信号SELが供給される所定の1本の走査線Yに電気的に接続されている。トランジスタT1のソース電極は、データ電流Idataが供給される所定の1本のデータ線Xに電気的に接続されている。トランジスタT1のドレイン電極は、トランジスタT2のソース電極に電気的に接続されている。
【0046】
トランジスタT1のドレイン電極およびトランジスタT2のソース電極は、プログラミングトランジスタであるトランジスタT3のドレイン電極およびトランジスタT4のドレイン電極に電気的に共通接続されている。
【0047】
トランジスタT2のゲート電極は、トランジスタT1のゲート電極と同じく、走査信号SELが供給される走査線Yに電気的に共通接続されている。トランジスタT2のドレイン電極は、キャパシタCの一方の電極と、トランジスタT3のゲート電極とに電気的に共通接続されている。
【0048】
キャパシタCの他方の電極には電源電圧Vddが印加される。また、トランジスタT3のソース電極には、電源電圧Vddが印加される。キャパシタCの他方の電極とトランジスタT3のソース電極とには、電源電圧Vddが印加されている。
【0049】
トランジスタT4のゲート電極には駆動信号GPが入力される。トランジスタT4のドレイン電極には有機EL素子26のアノード(陽極)が電気的に接続されている。また、有機EL素子26のカソード(陰極)には、電源電圧Vddよりも低電圧である基準電圧Vssが印加されている。
【0050】
〈電圧プログラム方式〉
電圧プログラム方式についても、送信装置の全体的な構成については既に説明した通りである。しかしながら、この場合には、データ電圧(信号)Vdataをデータ線Xにそのまま出力するため、データ線Xに電気的に接続されているデータ線駆動回路44(図4)の可変電流源が不要になる。ここでは、いわゆるCC(Conductance Control)法と称される構成例につき説明する。
【0051】
図6に示すように、発光ユニット24は、有機EL素子26、トランジスタT1、T4およびT5、データ保持手段であるキャパシタC、電源電圧(供給手段)Vdd、基準電圧(供給手段)Vss並びにこれらを互いに接続する信号線を含んでいる。図6にはトランジスタT1、T4およびT5を、すべてnチャネル型とした例を示してある。
【0052】
いわゆるスイッチングトランジスタであるトランジスタT1のゲート電極は、走査信号SELを供給する所定の走査線Yに電気的に接続されている。トランジスタT1のドレイン電極は、データ電圧(信号)Vdataを供給する所定のデータ線Xに電気的に接続されている。トランジスタT1のソース電極は、データ保持手段であるキャパシタCの一方の電極に電気的に接続されている。
【0053】
トランジスタT1のソース電極とキャパシタCの一方の電極とは、いわゆる駆動トランジスタであるトランジスタT4のゲート電極に、電気的に共通接続されている。
【0054】
キャパシタCの他方の電極には基準電位Vssが印加されている。また、トランジスタT4のドレイン電極には電源電圧Vddが印加されている。トランジスタT4のソース電極は、いわゆる制御トランジスタであるトランジスタT5のドレイン電極に電気的に接続されている。
【0055】
トランジスタT5には、駆動信号GPが入力される。トランジスタT5は、駆動信号GPによって導通制御される。トランジスタT5のソース電極は、有機EL素子26のアノードに電気的に接続されている。この有機EL素子26のカソードには、基準電圧Vssが印加されている。
【0056】
前述した構成例では、データを保持する回路要素、すなわちデータ保持手段の好適例として、キャパシタを用いる例を説明したが、キャパシタの代わりに、多ビットのデータを記憶可能なメモリ装置(SRAM等)を用いることもできる。
【0057】
図7を参照して、図5および図6を参照して説明した発光ユニット24の動作につき説明する。図7は、発光ユニット24の動作タイミングチャートである。
【0058】
ここで、走査線駆動回路42(図4)による走査線Y1から走査線Ynの線順次走査によって、所定の発光ユニット24の選択が開始されるタイミングをt0とする。また、発光ユニット24の選択が次に開始されるタイミングをt2とする。期間t0〜t2は、前半のプログラミング期間t0〜t1と、後半の駆動期間t1〜t2とに分けられる。
【0059】
〈電流プログラム方式(図5に示した回路構成)における動作〉
前半のプログラミング期間t0〜t1では、キャパシタCに対する送信データの書き込みが行われる。まず、タイミングt0において、走査信号SELが走査線Yに入力される。これにより、走査線Yが高レベル(以下、Hレベルという場合がある)に立ち上がる。スイッチング素子として機能するトランジスタT1およびT2が共にオン(導通)する。すると、データ線XとトランジスタT3のドレイン電極とが電気的に接続される。これにより、トランジスタT3は、自己のゲート電極と自己のドレイン電極とが電気的に接続されたダイオード接続となる。
【0060】
トランジスタT3は、データ線Xより供給されたデータ電流Idataを自己のチャネルに流す。これにより、データ電流Idataに応じた電圧がゲート電圧Vgとして発生する。トランジスタT3のゲート電極に接続されたキャパシタCには、発生したゲート電圧Vgに応じた電荷が蓄積される。これにより、キャパシタCには、蓄積された電荷量に相当するデータ(送信データ)が書き込まれる。
【0061】
プログラミング期間t0〜t1において、トランジスタT3は、自己のチャネルを流れるデータ信号に基づいて、キャパシタCに対するデータの書き込みを行うプログラミングトランジスタとして機能する。また、この期間中、駆動信号GPが低レベル(以下、Lレベルという場合がある)に維持されているため、トランジスタT4はオフ(非導通)のままである。したがって、有機EL素子26に対する駆動電流の経路はトランジスタT4により遮断される。よって、有機EL素子26は発光しない。
【0062】
続く駆動期間t1〜t2では、駆動電流が有機EL素子26を流れ、有機EL素子26の輝度の設定が行われる。まず、タイミングt1において、走査信号SELがLレベルに立ち下がり、トランジスタT1およびT2がいずれもオフする。これにより、データ電流Idataが供給されるデータ線XとトランジスタT3のドレイン電極とが電気的に分離され、トランジスタT3のゲート電極とドレイン電極との間も電気的に分離される。
トランジスタT3のゲート電極には、キャパシタCの蓄積電荷に応じたゲート電圧Vgが印加され続ける。タイミングt1における走査信号SELの立ち下がりと同期(同一タイミングであるとは限らない)して、それ以前はLレベルだった駆動信号GPがHレベルに立ち上がる。
【0063】
これにより、電源電圧Vddから基準電圧Vssに向かって、トランジスタT3およびT4と有機EL素子26とに連なる駆動電流の経路が形成される。有機EL素子26を流れる駆動電流は、トランジスタT3のチャネル電流に相当し、その電流レベルは、キャパシタCの蓄積電荷に基づくゲート電圧Vgによって制御される。
【0064】
駆動期間t1〜t2において、トランジスタT3は、有機EL素子26に駆動電流を供給する駆動トランジスタとして機能する。結果として、有機EL素子26は、この駆動電流に応じて、換言すれば、キャパシタCに保持されたデータに基づいて変調された発光強度で発光する。
【0065】
〈電圧プログラム方式(図6に示した回路構成)における動作〉
まず、タイミングt0において、所定の走査線Yに、走査線信号SELが入力される。すると、走査線Yは、Hレベルに立ち上がり、トランジスタT1がオンする。よって、データ線Xに供給されたデータ電圧Vdataが、トランジスタT1を介して、キャパシタCの一方の電極に印加される。
【0066】
これにより、データ電圧Vdata相当の電荷がキャパシタCに蓄積される(送信データが書き込まれる。)。なお、タイミングt0からタイミングt1までの期間において、駆動信号GPはLレベルに維持される。よって、制御トランジスタT5はオフのままである。したがって、有機EL素子26に対する駆動電流の電流経路が遮断されるため、前半の期間t0〜t1において、有機EL素子26は発光しない。
【0067】
前半の期間t0〜t1に続く後半の期間t1〜t2では、キャパシタCに蓄積された電荷に応じた駆動電流が有機EL素子26を流れる。これにより、有機EL素子26が発光する。タイミングt1では、走査信号SELがLレベルに立ち下がる。
【0068】
これにより、トランジスタT1がオフする。よって、キャパシタCの一方の電極に対するデータ電圧Vdataの印加が停止するが、キャパシタCの蓄積電荷によって、トランジスタT4のゲート電極にはゲート電圧Vg相当が印加される。タイミングt1における走査信号SELの立ち下がりと同期して、それ以前はLレベルだった駆動信号GPは、Hレベルに立ち上がる。
【0069】
これにより、発光ユニット24の選択が開始されるタイミングt2に至るまでHレベルが維持される。よって、駆動電流の電流経路が形成される。これにより、有機EL素子26は、キャパシタCに保持されたデータに基づいて変調された発光強度で発光する。
【0070】
図4を参照して既に説明したように、照明用光源22を駆動するための駆動回路は、走査線駆動回路42とデータ線駆動回路44とによって構成されており、両者は、図示しない上位装置による同期制御下、互いに協働して動作する。
【0071】
走査線駆動回路42は、シフトレジスタ、出力回路等を主体に構成されており、走査線Y1〜Ynに走査信号SELを出力することによって、走査線Y1〜Ynを所定の選択順序で順番に選択する線順次走査を行う。走査信号SELは、HレベルまたはLレベルの2値的な信号レベルをとり、データの書込対象となる行(走査線Yの1ラインに接続される複数の発光ユニット24)に対応する走査線YはHレベルとされ、これ以外の走査線YそれぞれはLレベルとされる。
【0072】
そして、1垂直走査期間(1F)において、所定の選択順序で、それぞれの行が順番に選択されていく。なお、走査線駆動回路42は、走査信号SEL以外に、トランジスタを導通制御する駆動信号GP(またはそのベース信号)も出力する。この駆動信号GPによって、駆動期間、すなわち、発光ユニット24に含まれる有機EL素子26の輝度設定を行う期間が設定される。
【0073】
データ線駆動回路44は、走査線駆動回路42による線順次走査と同期して、データ線X1〜Xmそれぞれに対するデータ信号の供給を電流ベースで行う。前述した電流プログラム方式の場合には、データ線駆動回路44は、発光ユニット24より出射される変調光の変調度合いを規定するデータ(データ電圧Vdata)をデータ電流Idataへと変換する可変電流源を含む。データ線駆動回路44は、1水平走査期間(1H)において、今回データを書き込む行に対するデータ電流Idataの一斉出力と、次の水平走査期間で書き込みを行う行に関するデータの点順次的なラッチとを同時に行う。
【0074】
ある水平走査期間において、データ線Xの本数に相当するm個のデータが順次ラッチされる。そして、次の水平走査期間において、ラッチされたm個のデータは、データ電流Idataに変換された上で、それぞれのデータ線X1〜Xmに対して一斉に出力される。
【0075】
図8を参照して、サブ光源23の構成につき説明する。図8は、サブ光源の構成例を説明する照明光通信システムの概略的な説明図である。
【0076】
送信装置20のサブ光源23は、照明用光源22に含まれる複数の発光ユニット24が複数のグループに区分けされることにより規定される。図示例では、複数の発光ユニット24が4つに区分けされて、第1サブ光源23A、第2サブ光源23B、第3サブ光源23Cおよび第4サブ光源23D(以下、それぞれサブ光源A、サブ光源B、サブ光源Cおよびサブ光源Dという場合がある)とされている。なお、iおよびjは1以上の任意の正数であり、かつmおよびnは2以上の任意の正数である。第1サブ光源23A、第2サブ光源23B、第3サブ光源23Cおよび第4サブ光源24Dに含まれる発光ユニット24の数は、互いに同一であっても、互いに異なっていてもよい。また、サブ光源23同士の発光ユニット24の数が同数である場合において、発光ユニット24の配置形態は、サブ光源23単位で同一であっても、異なっていてもよい。また離散的に離れて配置されている発光ユニット24を同一の発光ユニット24に属する発光ユニット24とするグループ分けをしてもよく、このようなグループ分けを行うことにより、たとえサブ光源23単位で明滅などしたとしても、局所的な光量の低下を抑制することができ、照明としての性能の低下を抑えることができる。
【0077】
第1サブ光源23A、第2サブ光源23B、第3サブ光源23Cおよび第4サブ光源24Dに含まれる発光ユニット24の数を、ここではi=j=4かつm=n=8、すなわち互いに同数である16とした例を説明する。第1サブ光源23A、第2サブ光源23B、第3サブ光源23Cおよび第4サブ光源23Dそれぞれが含む発光ユニット24は、この例では4×4のマトリクス状に配置されている。
【0078】
第1サブ光源23Aおよび第2サブ光源23Bの発光ユニット24は、走査線Y1〜Yj(Y4)(走査線群Yabという場合がある)に電気的に接続される。また、第3サブ光源23Cおよび第4サブ光源23Dの発光ユニット24は、走査線Yj+1〜Yn(Y5〜Y8)(走査線群Ycdという場合がある)に電気的に接続される。
【0079】
また、第1サブ光源23Aおよび第3サブ光源23Cの発光ユニット24は、データ線X1〜Xi(X4)(データ線群Xacという場合がある)に電気的に接続される。また、第2サブ光源23Bおよび第4サブ光源23Dの発光ユニット24は、データ線Xi+1〜Xm(X5〜X8)(データ線群Xbdという場合がある)に電気的に接続される。
【0080】
次に、図4、図8および図9を参照して、複数のサブ光源にグループ分けされた照明用光源を備える照明光通信システムの動作につき説明する。
【0081】
走査線駆動回路42およびデータ線駆動回路44(図4)は、照明用光源22に設定された第1サブ光源23A、第2サブ光源23B、第3サブ光源23Cおよび第4サブ光源23Dにおいて、各サブ光源23単位で、複数のサブ光源23を独立的に駆動する。
【0082】
同一のサブ光源23に属する複数の発光ユニット24は、本実施形態では、すべて同一の発光状態になるように制御される。異なるサブ光源23同士については互いに独立的に制御され得る。よって、この場合には、照明用光源22に、4つの独立した伝送チャネルが形成されることになる。
【0083】
走査線Y1〜Yj、すなわち走査線群Yabが選択されている状態でデータ線X1〜Xi、すなわちデータ線群Xacに供給されたデータ(すべて同一の電流レベルである)は、第1サブ光源23Aの各発光ユニット24に共通して供給される。
【0084】
これによって、第1サブ光源23Aの発光状態が制御される。また、この状態でデータ線Xi+1〜Xm、すなわちデータ線群Xbdに供給されたデータは、第2サブ光源23Bの各発光ユニット24に共通に供給される。これによって、第2サブ光源23Bの発光状態が制御される。
【0085】
走査線Yj+1〜Yn、すなわち走査線群Ycdが選択されている状態でデータ線X1〜Xi、すなわちデータ線群Xacに供給されたデータは、第3サブ光源23Cの各発光ユニット24に共通に供給される。
【0086】
これによって、第3サブ光源23Cの発光状態が制御される。また、この状態でデータ線Xi+1〜Xm、すなわちデータ線群Xbdに供給されたデータは、第4サブ光源23Dの各発光ユニット24に共通に供給される。これによって、第4サブ光源23Dの発光状態が制御される。
【0087】
図9は、照明光通信システムの動作を説明するタイミングチャートである。
【0088】
図8に示す構成において、最上段に配置されている走査線Y1から最下段に配置されている走査線Ynに向かって、n本の走査線Yが順次選択されていくものとする。
【0089】
この場合には、照明用光源22全体に対して、送信データのデータ書き込みを行うのに要する1フレーム期間t0〜t2は、前半の第1サブ光源23Aおよび第2サブ光源23Bの選択期間t0〜t1と、後半の第3サブ光源23Cおよび第4サブ光源23Dの選択期間t1〜t2とに分けられる。
【0090】
第1サブ光源23Aおよび第2サブ光源23Bの選択期間t0〜t1は、走査線群Yabに属する走査線Y1の選択が開始されてから走査線Yjの選択が終了するまでの期間に相当する。
【0091】
この期間t0〜t1において、データ線群Xacには第1サブ光源23A用の送信データDaが共通して供給され、この送信データDaに応じたレベルにデータ線群Xacが維持される。
【0092】
データ線群Xacには、第1サブ光源23Aのみならず第3サブ光源23Cも接続されているが、走査線群Ycdが非選択のため、第3サブ光源23Cは電気的に分離されている。したがって、データ線群Xacに供給された送信データDaは、第1サブ光源23Aにのみ供給され、これに応じた書き込みが第1サブ光源23Aにおいて行われる。
【0093】
また、この期間t0〜t1において、データ線群Xbdには第2サブ光源23B用の送信データDbが共通して供給され、この送信データDbに応じたレベルにデータ線群Xbdが維持される。
【0094】
データ線群Xbdには、第2サブ光源23Bのみならず第4サブ光源23Dも接続されているが、走査線群Ycdが非選択のため、第4サブ光源23Dは電気的に分離されている。したがって、データ線群Xbdに供給された送信データDbは、第2サブ光源23Bにのみ供給され、これに応じた書き込みが第2サブ光源23Bにおいて行われる。
【0095】
第3サブ光源23Cおよび第4サブ光源23Dの選択期間t1〜t2は、走査線群Ycdに属する走査線Yj+1の選択が開始されてから走査線Ynの選択が終了するまでの期間に相当する。この期間t1〜t2において、データ線群Xacには第3サブ光源23C用の送信データDcが共通して供給され、この送信データDcに応じたレベルにデータ線群Xacが維持される。
【0096】
ここで、データ線群Xacに接続された第1サブ光源23Aは、走査線群Yabが非選択のため電気的に分離されている。したがって、データ線群Xacに供給された送信データDcは、第3サブ光源23Cにのみ供給され、これに応じた書き込みが第3サブ光源23Cにおいて行われる。
【0097】
また、期間t1〜t2において、データ線群Xbdには第4サブ光源23D用の送信データDdが共通して供給され、この送信データDdに応じたレベルにデータ線群Xbdが維持される。このとき、データ線群Xbdに接続された第2サブ光源23Bは、走査線群Yabが非選択のため電気的に分離されている。したがって、データ線群Xbdに供給された送信データDdは、第4サブ光源23Dにのみ供給され、これに応じた書き込みが第4サブ光源23Dにおいて行われる。
【0098】
なお、図9においては、同一のサブ光源23に対応する走査線群を順次走査するケースを例示したが、駆動回路の駆動能力を十分に確保できることを条件として、サブ光源23ごとに対応する走査線群を同時に一括選択することもできる。
【0099】
ここで、前述した図5および図6に示すように制御回路28を構成しておけば、電流プログラム方式および電圧プログラム方式のいずれにおいても、第1サブ光源23A、第2サブ光源23B、第3サブ光源23Cおよび第4サブ光源23Dの独立的な駆動を実現することができる。
【0100】
〈有機EL素子の構成例〉
有機EL素子は、自由なサイズ設計が可能、超小型化が可能、高速応答が可能といった優れた特長を有する。有機EL素子を、照明光通信に利用する場合には、個々の素子面積はより小さいものが好適である。個々の素子面積が小さいほど、有機EL素子の静電容量は小さくなる傾向にあるので、応答速度を規定する素子のRC時定数も同様に小さくなり、ひいては有機EL素子の面積が小さくなるほどその応答速度が速くなるからである。
【0101】
素子面積(発光面積)は、10-8cm2以上1cm2以下とするのがよく、好ましくは10-8cm2以上10-1cm2以下とするのがよく、さらに好ましくは10-8cm2以上10-2cm2以下とするのがよい。
【0102】
従来のLEDでは、半導体基板にLEDを形成した後、半導体基板を分割して個々のチップとし、配線が形成された回路基板にチップを取り付けて使用する。チップにはLEDを回路基板に接続する際に必要となる接続部位が設けられるので、チップの大きさはLEDよりも大きくなる。またLEDのチップとしては、台座および樹脂レンズなどが必要となるため、実際に発光する部分よりも大きな素子となる。さらにそのチップを回路基板に実装するためには、基板側にも接続部位を設ける必要があるので、チップよりも大きい実装面積が必要となり、LED自体が小さいものであったとしても、送信装置の小型化には自ずと限界がある。
【0103】
これに対して、有機EL素子の場合には、例えば素子の動作を制御する制御回路および配線などが形成された基板上に素子を直接的かつ配線と一体的に形成することができる。すなわち、従来のLEDのようには有機EL素子自体の大きさよりも大きい実装面積を必要とせず、発光ユニットの高集積化が容易であり、送信装置の小型化を実現することができる。そして、基板に作り込まれた有機EL素子をそのまま動作させて利用できるので、設計上の自由度が高く、素子の小型化が比較的容易である。以上のような理由から、有機EL素子は、照明光通信用の発光素子として極めて好適である。
【0104】
大容量データの高速通信を可能にするためには、複数の発光ユニットからデータを並列的に送信することが好ましく、そのためには、複数の発光ユニットを配列する必要がある。
【0105】
また、従来のLEDの場合には、送信装置における照明用光源の強度変調は、ドライバIC(IC:Integrated Circuit)といった外部制御回路を用いて行う必要があった。そのため、送信装置を構成するユニットの小型化が困難であった。
【0106】
これに対して、有機EL素子の場合には、発光層を含む発光部の近傍に薄膜トランジスタ等の変調素子からなる制御回路を一体的に形成することができる。制御回路と有機EL素子とを、例えば積層して一体化すれば、発光ユニットの小型化が容易である。
【0107】
このように、有機EL素子を用いることにより、発光ユニットのさらなる小型化や集積化が可能であり、有機EL素子と制御回路との積層構造も容易に製造できるので、高速大容量の照明光通信に対応した送信装置の小型化を実現することができる。
【0108】
有機EL素子としては、蛍光発光型(一重項遷移)とリン光発光型(三重項遷移)が知られているが、本実施形態では、どちらを使用してもよい。
【0109】
有機EL素子は、その発光のメカニズムによって、蛍光発光(一重項励起状態からの発光)型とリン光発光(三重項励起状態からの発光)型とに分けられる。一般に、蛍光発光型はリン光発光型よりも発光の減衰時間が短く、室温(20℃程度)では蛍光発光型で約10ns程度、リン光発光型で約1μs程度である。したがって、どちらを用いても、素子単体で1Mbps程度の伝送速度までの信号通信に対応可能である。
【0110】
また、本発明の実施形態において、蛍光発光型の有機EL素子およびリン光発光型の有機EL素子の双方を混載した集積デバイスを照明用光源として用いてもよい。有機EL素子を小さくし、RC時定数を小さくして応答速度を上げても、発光の減衰時間で規定される速度以上に応答速度を上げることはできないが、蛍光発光型は、リン光発光型よりも応答速度をより速くできるので、高速な通信用途に適しているといえる。リン光発光型は、蛍光発光型よりも発光効率をより高くできるので、照明用途に適している。
【0111】
有機EL素子は発光層材料を素子ごとに選択的に分けて形成できる。よって、照明用光源において、例えば照明用の有機EL素子をリン光発光型とし、通信用の有機EL素子を蛍光発光型とするというように、照明用光源が、送信データに基づいて変調された変調光を出射する通信用の有機EL素子と、非変調光を出射する照明用の有機EL素子とを含んで構成されてもよい。
【0112】
この場合には、蛍光発光型の有機EL素子には、照明機能および通信機能の双方を担わせて、送信すべき送信データに基づいて変調された変調光を出射する通信用の有機EL素子としてこれを用いるのがよい。また、リン光発光型の有機EL素子には、照明機能のみを担わせて、一定の非変調光を出射する照明用の有機EL素子としてこれを用いるのがよい。
【0113】
これら照明用の有機EL素子および通信用の有機EL素子は、前述したサブ光源ごとにいずれかの有機EL素子を選択して設ける構成としてもよい。また、単一のサブ光源内に照明用の有機EL素子および通信用の有機EL素子を混在させてもよい。
【0114】
これにより、照明効率の向上と通信の高速化とを両立した照明システムが構築できる。ただし、このような構成では、照明からの全光量に対して、通信情報が重畳された光、すなわち信号光の割合が小さくなる。したがって、受信装置として、光の強度変化に敏感なシステムが必要になる。全光量に対する蛍光、すなわち信号光の割合としては、1%以上50%以下であることが望ましい。
【0115】
一般照明を用いて照明光通信を行う場合には、照明用光源は白色であることが望ましい。有機EL素子で白色光を得るためには、1つの素子内部にR素子、G素子、およびB素子の発光層を積層する方法がある。
【0116】
これらの白色光を発光する有機EL素子は、従来の蛍光体を用いた、いわゆる白色LEDのような電流注入による青色発光→蛍光体励起→黄色発光というプロセス非経由で、電流注入直接再結合により複数の波長の発光を出射する。そのため、従来の蛍光体を用いた白色LEDよりも応答速度がより速いという特長があり、照明光通信システムに好適である。
【0117】
図10を参照して、送信装置に好適に適用可能な有機EL素子26の構成例につき説明する。
【0118】
図10は、有機EL素子の概略的な断面図である。なお、陰極より外側の構造については、図示およびその詳細な説明を省略する。
本実施形態の有機EL素子は、TFT基板50上に設けられている。ここでは、いわゆるアクティブマトリクス方式の面光源として基板50上に形成された1つの有機EL素子26の構成を説明する。
【0119】
有機EL素子26は、マトリクス状に設定された複数の画素領域51それぞれに設けられる(図4参照)。
【0120】
有機EL素子26は、陽極52と、陰極58と、陽極52および陰極58間に設けられ、かつそれぞれが発光層を含む複数の発光部と、発光部に挟持されて配置される電荷発生層57とを有する。
【0121】
有機EL素子26は、2個以上、すなわち複数の発光部を備える。有機EL素子26のとりうる構成例を以下に示す。
(i)陽極52/第1の発光部56A/電荷発生層57/第2の発光部56B/陰極58
(ii)陽極52/第1の発光部56A/(電荷発生層/発光部)×n−1/陰極58
【0122】
ここで記号「/」は、記号「/」を挟む層が隣接して積層されていることを表す。また記号「n」は、2以上の正数を表し、「(電荷発生層/発光部)×n−1」は、電荷発生層と発光部とからなる積層体が、n−1段積層されていることを表す。換言すると、有機EL素子26は、n層の発光部と、発光部に挟持されて配置されるn−1層の電荷発生層57とを含む。
【0123】
図10に示すように、本実施の形態では、有機EL素子26は、第1の発光部56Aおよび第2の発光部56Bの2個の発光部と、これら2つの発光部に挟持される電荷発生層57とを備える。電荷発生層57は、第1の発光部56A上に設けられる第1電荷発生層57Aと、この第1電荷発生層57A上に設けられる第2電荷発生層57Bとを有している(詳細は後述する)。
【0124】
有機EL素子26は、通常、(i)または(ii)の構成において、陽極52が最も基板50寄りに配置するように基板上に設けられる。図示例では陽極52は、基板50の第1主面50a上に設けられている。なお、有機EL素子26は、(i)または(ii)の構成において、陰極58が最も基板50寄りに配置するように基板上に設けられてもよい。本実施の形態の有機EL素子26は、基板50上に、陽極52と、正孔注入層54および第1の発光層53からなる第1の発光部56Aと、第1電荷発生層57Aおよび第2電荷発生層57Bからなる電荷発生層57と、第2の発光層59からなる第2の発光部56Bと、陰極58とがこの順に積層されて構成される。
【0125】
<基板>
本実施形態の有機EL素子26が設けられる基板50は、第1主面50aおよび第1主面50aと対向する第2主面50bを有している。基板50は、有機EL素子26を形成する際に変化しないものであればよく、例えばガラス、プラスチック、シリコン基板、これらを積層したものなどが用いられる。基板50としては、市販のものが使用可能である。また公知の方法により基板50を製造することもできる。なお本実施の形態では、基板50にはTFT基板を用いている。TFT基板としては、例えば市販のものを利用することができる。
【0126】
<陽極>
有機EL素子26は、発光部から出射された光を大気といった外部環境に取り出す必要があるので、陽極52および陰極58のうちの少なくとも一方が透光性を有する電極によって構成される。本実施の形態では、陽極52側から光を取り出す、すなわちボトムエミッション型の構成の有機EL素子26について説明する。
【0127】
本実施の形態の有機EL素子26の陽極52としては、透光性を示す電極とすることが陽極52を通して出射光を取り出せるため好ましい。かかる電極としては、電気伝導度の高い金属酸化物、金属硫化物および金属などの薄膜を用いることができ、光透過率の高いものが好適に用いられる。具体的には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO、インジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide:略称IZO)、金、白金、銀、および銅などからなる薄膜が用いられ、これらの中でもITO、IZO、または酸化スズからなる薄膜が好適に用いられる。陽極52の作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法などを挙げることができる。また、陽極52として、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などの有機の透明導電膜を用いてもよい。
【0128】
なお、例えば陽極52側から出射光を取り出さない、いわゆるトップエミッション型の構成を有する有機EL素子26の場合などには、光を反射させる材料を用いて陽極52を形成してもよく、材料としては、仕事関数3.0eV以上の金属、金属酸化物、金属硫化物が好ましい。
【0129】
陽極52の膜厚は、出射光の透過性と電気伝導度とを考慮して、適宜選択することができるが、例えば10nm〜10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
【0130】
<電荷発生層>
電荷発生層57は、陽極52と陰極58とに電圧を印加したときに、電荷(正孔と電子)を発生し、電荷発生層57に対して陽極52側に隣接する第1の発光部56Aに電子を注入するとともに、電荷発生層57に対して陰極58側に隣接する第2の発光部56Bに正孔を注入する層として機能する。このように陽極52および陰極58から注入される電荷に、電荷発生層57から発生する電荷が加えられるので、注入した電流に対する発光効率(電流効率)が向上する。
【0131】
本実施の形態の有機EL素子26においては、図10に示すように、この電荷発生層57が第1の発光部56Aおよび第2の発光部56Bに狭持され、これら第1の発光部56A及び第2の発光部56Bを仕切っている。
【0132】
本実施の形態における電荷発生層57は、仕事関数が3.0eV以下の金属、その化合物、およびイオン化ポテンシャルが5.5eV以下の電子供与性の有機物からなる群から選ばれる1種類以上(以下、A材料という場合がある)と、仕事関数が4.0eV以上の化合物の1種類以上(以下、B材料という場合がある)とを含むことが好ましい。電荷発生層57は、A材料を単独で用いるよりも、B材料と組合せて用いることにより、電荷を効率的に発生することができる。
【0133】
仕事関数が3.0eV以下の金属の化合物とは、金属自体の仕事関数が3.0eV以下であり、かつ化合物自体の仕事関数が3.0eV以下である化合物をさす。仕事関数が前述の範囲を満たす材料を電荷発生層57が含まない場合には、有効な電荷注入が起こりにくくなるおそれがある。
【0134】
電荷発生層57を構成する仕事関数が3.0eV以下の金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、および希土類金属からなる群から選択することができる。中でもアルカリ金属およびアルカリ土類金属が好ましい。アルカリ金属としては、リチウム(Li)(2.93eV)、ナトリウム(Na)(2.36eV)、カリウム(K)(2.28eV)、ルビジウム(Rb)(2.16eV)、およびセシウム(Cs)(1.95eV)が好ましく、アルカリ土類金属としては、カルシウム(Ca)(2.9eV)およびバリウム(Ba)(2.52eV)が好ましい(カッコ内は仕事関数を示す)。これらの中では、Liがより好ましい。また、電荷発生層57を構成する仕事関数が3.0eV以下の金属の化合物としては、前述の金属の酸化物、ハロゲン化物、フッ化物、ホウ化物、窒化物、炭化物等が挙げられる。
【0135】
イオン化ポテンシャルが5.5eV以下の電子供与性の有機物としては、アリールアミン化合物であるのが好ましい。この様なアリールアミン化合物の例としては、特に限定はないが、例えば、N,N,N’,N’−テトラフェニル−4,4’−ジアミノフェニル、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(3−メチルフェニル)−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)プロパン、N,N,N’,N’−テトラ−p−トリル−4,4’−ジアミノビフェニル、ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)フェニルメタン、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(4−メトキシフェニル)−4,4’−ジアミノビフェニル、N,N,N’,N’−テトラフェニル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ビス(ジフェニルアミノ)クオードリフェニル、4−N,N−ジフェニルアミノ−(2−ジフェニルビニル)ベンゼン、3−メトキシ−4’−N,N−ジフェニルアミノスチルベンゼン、N−フェニルカルバゾール、1,1−ビス(4−ジ−p−トリアミノフェニル)−シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ジ−p−トリアミノフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン、ビス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)−フェニルメタン、N,N,N−トリ(p−トリル)アミン、4−(ジ−p−トリルアミノ)−4’−[4(ジ−p−トリルアミノ)スチリル]スチルベン、N,N,N’,N’−テトラフェニル−4,4’−ジアミノ−ビフェニルN−フェニルカルバゾール、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル、4,4’’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]p−ターフェニル、4,4’−ビス[N−(3−アセナフテニル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル、1,5−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ナフタレン、4,4’−ビス[N−(9−アントリル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル、4,4’’−ビス[N−(1−アントリル)−N−フェニル−アミノ]p−ターフェニル、4,4’−ビス[N−(2−フェナントリル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル、4,4’−ビス[N−(8−フルオランテニル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル、4,4’−ビス[N−(2−ピレニル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル、4,4’−ビス[N−(2−ペリレニル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル、4,4’−ビス[N−(1−コロネニル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル、2,6−ビス(ジ−p−トリルアミノ)ナフタレン、2,6−ビス[ジ−(1−ナフチル)アミノ]ナフタレン、2,6−ビス[N−(1−ナフチル)−N−(2−ナフチル)アミノ]ナフタレン、4.4’’−ビス[N,N−ジ(2−ナフチル)アミノ]ターフェニル、4.4’−ビス{N−フェニル−N−[4−(1−ナフチル)フェニル]アミノ}ビフェニル、4,4’−ビス[N−フェニル−N−(2−ピレニル)−アミノ]ビフェニル、2,6−ビス[N,N−ジ(2−ナフチル)アミノ]フルオレン、4,4’’−ビス(N,N−ジ−p−トリルアミノ)ターフェニル、ビス(N−1−ナフチル)(N−2−ナフチル)アミン、4,4’−ビス[N−(2−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)、スピロ−NPB、スピロ−TAD、2−TNATAなどがある。さらに、従来有機EL素子の作製に使用されている公知のものを適宜用いることができる。またさらに、該アリールアミン化合物はガラス転移点が90℃以上であるアリールアミン化合物であることが、素子の耐熱性の観点から望ましい。上記、α−NPD、スピロ−NPB、スピロ−TAD及び2−TNATAはガラス転移点が90℃以上である、好適な化合物の例である。
【0136】
仕事関数が4.0eV以上の化合物としては、仕事関数が4.0eV以上の無機または有機化合物が選ばれる。仕事関数が4.0eV以上の無機化合物としては、遷移金属酸化物が望ましく、遷移金属酸化物の中でも、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、マンガン(Mn)、テクネチウム(Tc)、レニウム(Re)などの酸化物が好ましく、V2O5がより好ましい。
【0137】
仕事関数が4.0eV以上の有機化合物としては、後の工程で用いられる塗布液に溶解しにくく、かつ仕事関数が3.0eV以下の金属またはその化合物から電子を受け取りやすい電子受容性の材料が好ましい。さらに好ましくは、仕事関数が3.0eV以下の金属またはその化合物と電荷移動錯体を形成することが好ましい。このような材料の例として、テトラフルオロ−テトラシアノキノジメタン(4F−TCNQ)が挙げられる。
【0138】
電荷発生層57は、以下の2通りの構造をとり得る。
(i)電荷発生層57が、A材料を含む第1電荷発生層57Aと、B材料を含む第2電荷発生層57Bとを含む(積層構造:図10参照)。
(ii)電荷発生層57が、A材料とB材料とが混合された層である(混合層)。
【0139】
図10に示すように、積層構造とする場合には、第1電荷発生層57Aを、第2電荷発生層57Bよりも陽極52寄りに配置することが好ましい。
【0140】
混合層とする場合には、共蒸着などの手法により、2種類の材料が混合した層を一度に形成する方法や、第1電荷発生層57Aを構成する材料を極めて薄く形成することにより、連続膜になる前の島状の離散的な構造を形成し、この島状構造の上に第2電荷発生層57Bを形成することにより混合層とする方法、などを用いて混合層を形成することができる。
【0141】
本発明の効果を十分に得るためには、第1電荷発生層57Aの厚さは10nm以下が好ましく、より好ましくは6nm以下である。また、第2電荷発生層57Bの厚さは、2nm以上100nm以下が望ましく、さらに望ましくは4nm以上80nm以下である。
【0142】
本実施形態の電荷発生層57は、さらに第3の層として、透明導電性薄膜を含んでいてもよい。透明導電性薄膜としては、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、インジウムスズ酸化物(ITO)などを用いることができる。
【0143】
本実施形態の電荷発生層57の光透過率は、発光部から出射される光に対して高い透過率を有することが望ましい。十分に光を取り出し、十分な輝度を得るためには、波長550nmでの透過率が30%以上であることが好ましく、さらに好ましくは50%以上である。
【0144】
<発光部>
次に発光部について説明する。発光部は、少なくとも発光層を含んで構成される。なお発光部は発光層のみによって構成されていてもよく、また無機層を含んでいてもよい。発光部は、マルチフォトン型ではない有機EL素子、すなわち1層の発光層を有する通常の有機EL素子のうちの、陽極52と陰極58とに挟持された部分と同様の構成を有する。
【0145】
発光部は、必要に応じて発光層以外の層を有している場合がある。発光部を構成する層のうちで、発光層を基準にして陽極52側に設けられる層としては、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層などを挙げることができる。正孔注入層と正孔輸送層との両方の層が設けられる場合には、電荷発生層または陽極52に接する層を正孔注入層といい、この正孔注入層を除く層を正孔輸送層という。
【0146】
図10に示されるように、本実施形態の発光部のうち、陽極52寄りに設けられる第1の発光部56Aは、陽極52に接して設けられる正孔注入層54と、正孔注入層54に接して設けられる第1の発光層53とを含んでいる。正孔注入層54は、電荷発生層57または陽極52からの正孔注入効率を改善する機能を有する層である。正孔輸送層は、陽極、電荷発生層、正孔注入層または陽極により近い正孔輸送層からの正孔注入を改善する機能を有する層である。電子ブロック層は、電子の輸送を堰き止める機能を有する層である。なお正孔注入層、および/または正孔輸送層が電子の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が電子ブロック層を兼ねることがある。
【0147】
発光部を構成する層のうち、発光層を基準にして陰極58側に設けられる層としては、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層などを挙げることができる。電子注入層と電子輸送層との両方の層が設けられる場合、陰極58に接する層を電子注入層といい、この電子注入層を除く層を電子輸送層という。
【0148】
電子注入層は、陰極58または電荷発生層57からの電子注入効率を改善する機能を有する層である。電子輸送層は、陰極58、電荷発生層、電子注入層または陰極により近い電子輸送層からの電子注入を改善する機能を有する層である。正孔ブロック層は、正孔の輸送を堰き止める機能を有する層である。なお電子注入層、および/または電子輸送層が正孔の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が正孔ブロック層を兼ねることがある。
【0149】
正孔ブロック層が正孔の輸送を堰き止める機能を有することは、例えばホール電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
【0150】
発光部のとりうる構成の具体的な例を以下に示す。
a)発光層
b)正孔注入層/発光層
c)正孔注入層/発光層/電子注入層
d)正孔注入層/発光層/電子輸送層/電子注入層
e)正孔注入層/正孔輸送層/発光層
f)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層
g)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層
h)発光層/電子注入層
i)発光層/電子輸送層/電子注入層
なお以上のa)〜i)の構成では、左側が陽極52寄りの層であり、右側が陰極58寄りの層である。
【0151】
有機EL素子が有する複数の発光部は、互いに同じ層構成であってもよく、また互いに異なる層構成であってもよい。図10に示す本実施形態の陽極52側の第1の発光部56Aは、b)の構成、すなわち正孔注入層と発光層との積層体によって構成され、正孔注入層54が発光層に対して陽極寄りに積層された構成を有し、第2の発光部56Bは、a)の構成、すなわち単一の発光層のみから構成されている。
以下、発光部を構成する各層についてさらに詳しく説明する。
【0152】
<正孔注入層>
正孔注入層54を構成する正孔注入材料としては、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、および酸化アルミニウムなどの酸化物や、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、アモルファスカーボン、ポリアニリン、およびポリチオフェン誘導体などを挙げることができる。
【0153】
正孔注入層54の成膜方法としては、例えば正孔注入材料を含む溶液からの成膜を挙げることができる。溶液からの成膜に用いられる溶媒としては、正孔注入材料を溶解させるものであれば特に制限はなく、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテートなどのエステル系溶媒、および水を挙げることができる。
【0154】
溶液からの成膜方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法などの塗布法を挙げることができる。
【0155】
正孔注入層の膜厚は、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように適宜設定され、少なくともピンホールが発生しないような厚さが必要であり、あまり厚いと、素子の駆動電圧が高くなってしまうおそれがある。従って正孔注入層の膜厚は、例えば1nm〜1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0156】
<正孔輸送層>
正孔輸送層を構成する材料としては、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリピロール若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、またはポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体などが例示される。
【0157】
これらの中で、正孔輸送層に用いる正孔輸送材料として、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミン化合物基を有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、又はポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体等の高分子正孔輸送材料が好ましく、さらに好ましくはポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体である。低分子の正孔輸送材料の場合には、高分子バインダーに分散させて用いることが好ましい。
【0158】
正孔輸送層の成膜の方法に制限はないが、低分子正孔輸送材料では、高分子バインダーとの混合溶液からの成膜による方法が例示される。また、高分子正孔輸送材料では、溶液からの成膜による方法が例示される。
【0159】
溶液からの成膜に用いる溶媒としては、正孔輸送材料を溶解させるものであれば特に制限はない。溶媒として、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン等の塩素系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート等のエステル系溶媒が例示される。
【0160】
溶液からの成膜方法としては、溶液からのスピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法等の塗布法を用いることができる。パターン形成が容易であるという点で、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法が好ましい。
【0161】
混合する高分子バインダーとしては、電荷輸送を極度に阻害しないものが好ましく、また可視光に対する吸収が強くないものが好適に用いられる。高分子バインダーとしては、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサン等が例示される。
【0162】
正孔輸送層の膜厚としては、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択すればよいが、少なくともピンホールが非発生となる厚さが必要であり、あまり厚いと、素子の駆動電圧が高くなってしまうおそれがある。従って、正孔輸送層の膜厚としては、例えば1nmから1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0163】
<発光層>
発光層は、本発明においては有機発光層であることが好ましく、通常、主として蛍光またはリン光を発光する有機物(低分子化合物及び/又は高分子化合物)を有する。なお、さらにドーパント材料を含んでいてもよい。本発明において用いることができる発光層を形成する材料としては、例えば以下のものが挙げられる。発光色としては、赤、青、緑の3原色の発光以外に、中間色や白色の発光が例示される。
【0164】
(色素系材料)
色素系材料としては、例えば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマー、ナフタレン誘導体、アントラセン若しくはその誘導体、ポリメチン系、キサンテン系、シアニン系、テトラフェニルシクロペンタジエン若しくはその誘導体などが挙げられる。
【0165】
(金属錯体系材料)
金属錯体系材料としては、例えば、イリジウム錯体、白金錯体等の三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体など、中心金属に、Al、Zn、BeなどまたはTb、Eu、Dyなどの希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを有する金属錯体などを挙げることができる。
【0166】
(高分子系材料)
高分子系材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、上記色素体や金属錯体系発光材料を高分子化したものなどが挙げられる。
【0167】
上記発光性材料のうち、青色に発光する材料としては、ジスチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、およびそれらの重合体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体やポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0168】
また、緑色に発光する材料としては、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0169】
また、赤色に発光する材料としては、クマリン誘導体、チオフェン環化合物、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることが出来る。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0170】
(ドーパント材料)
発光層中に発光効率の向上や発光波長を変化させるなどの目的で、ドーパントを添加することができる。このようなドーパントとしては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾンなどを挙げることができる。なお、このような発光層の厚さは、通常約20〜2000Åである。
【0171】
有機物を含む発光層の成膜方法としては、溶液から成膜する方法、真空蒸着法、転写法などを用いることができる。溶液からの成膜に用いる溶媒の具体例としては、前述の溶液から正孔輸送層を成膜する際に正孔輸送材料を溶解させる溶媒と同様の溶媒が挙げられる。
溶液から成膜する際に溶液を塗布する方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法等の塗布法を用いることができる。パターン形成や多色の色分けが容易であるという点で、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法が好ましい。また、昇華性の低分子化合物の場合は、真空蒸着法を用いることができる。さらには、レーザーによる転写や熱転写により、所望のところのみに発光層を形成する方法も用いることができる。
【0172】
本発明の有機EL素子26では、複数個の発光部の少なくとも一つにおいて発光層は高分子発光材料を含有することが好ましい。高分子発光材料の重量平均分子量は1万から1000万が好ましく、さらに好ましくは2万から500万である。また高分子発光材料は有機溶剤に対して可溶性を有することが好ましい。高分子発光層の厚みとしては、5nmから300nmが例示され、30〜200nmが好ましく、さらに好ましくは40〜15nmである。
【0173】
(混色、白色)
本実施形態の有機EL素子26は、同時に発光する複数の発光部を含むため、各々の発光部の発光波長を互いに異なるようにすることによって、混色により有機EL素子26から取り出される出射光の色を、各発光部から発せられる光の色とは別の色とすることが可能である。例えば補色の関係にある2色の組合せや、RGBなど3色の混色、または4色以上の混色によって、取り出される光の色を白色とすることができる。各発光部の発光波長を互いに異なるようにすることによって、所期の発光色を有する出射光を取り出すことができるので、設計の自由度が向上する。
【0174】
<電子輸送層>
電子輸送層としては、公知のものが使用でき、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン若しくはその誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、ナフトキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタン若しくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン若しくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、または8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体等が例示される。
【0175】
これらのうち、オキサジアゾール誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、又は8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体が好ましく、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、ベンゾキノン、アントラキノン、トリス(8−キノリノール)アルミニウム、ポリキノリンがさらに好ましい。
【0176】
電子輸送層の成膜法としては特に制限はないが、低分子電子輸送材料では、粉末からの真空蒸着法、又は溶液若しくは溶融状態からの成膜による方法が、高分子電子輸送材料では溶液又は溶融状態からの成膜による方法がそれぞれ例示される。溶液又は溶融状態からの成膜時には、高分子バインダーを併用してもよい。溶液から電子輸送層を成膜する方法としては、前述の溶液から正孔輸送層を成膜する方法と同様の成膜法があげられる。
【0177】
電子輸送層の膜厚としては、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択すればよいが、少なくともピンホールが発しないような厚さが必要であり、あまり厚いと、素子の駆動電圧が高くなってしまうおそれがある。従って、電子輸送層の膜厚としては、例えば1nmから1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0178】
<電子注入層>
電子注入層は、電子輸送層と陰極58との間、または発光層と陰極58との間に設けられる。電子注入層としては、発光層の種類に応じて、アルカリ金属やアルカリ土類金属、或いは金属を1種類以上含む合金、或いは金属の酸化物、ハロゲン化物及び炭酸化物、或いは前記物質の混合物などが挙げられる。アルカリ金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、酸化リチウム、フッ化リチウム、酸化ナトリウム、フッ化ナトリウム、酸化カリウム、フッ化カリウム、酸化ルビジウム、フッ化ルビジウム、酸化セシウム、フッ化セシウム、炭酸リチウム等が挙げられる。また、アルカリ土類金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、酸化カルシウム、フッ化カルシウム、酸化バリウム、フッ化バリウム、酸化ストロンチウム、フッ化ストロンチウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。電子注入層は、2層以上を積層したものであってもよい。具体的には、LiF/Caなどが挙げられる。電子注入層は、蒸着法、スパッタリング法、印刷法等により形成される。電子注入層の膜厚としては、1nm〜1μm程度が好ましい。
【0179】
<陰極>
本実施の形態の有機EL素子26で用いる陰極58の材料としては、仕事関数が小さく発光層への電子注入が容易な材料であり、電気伝導度が高く、可視光反射率の高い材料が好ましい。陰極の材料として金属では、アルカリ金属やアルカリ土類金属、遷移金属や周期表の13族金属を用いることができる。例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウムなどの金属、又は前記金属のうち2つ以上の合金、又はそれらのうち1つ以上と、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、錫のうち1つ以上との合金、又はグラファイト若しくはグラファイト層間化合物等が用いられる。合金の例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、カルシウム−アルミニウム合金などが挙げられる。また、陰極58として透明導電性電極を用いることができ、例えば導電性金属酸化物や導電性有機物などを用いることができる。具体的には、導電性金属酸化物として酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITOやIZO、導電性有機物としてポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などの有機の透明導電膜を用いてもよい。なお、陰極58を2層以上の積層構造としてもよい。なお、電子注入層が陰極58として用いられる場合もある。
【0180】
陰極58の膜厚は、電気伝導度や耐久性を考慮して、適宜選択することができるが、例えば10nmから10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
【0181】
陰極58の作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、また金属薄膜を圧着するラミネート法等が用いられる。
【0182】
(キャビティ効果)
積層する層の順番や数、および各層の厚さについては、発光効率や素子寿命を勘案して適宜用いることができるが、キャビティ効果(光の干渉効果)を考慮することが好ましい。具体的には、陽極52と陰極58とに挟持された積層体の厚さが、発光部が出射する出射光の波長を積層体の平均屈折率で割った値の1/4の整数倍であることが好ましい。このような関係が満足される構成では、光の干渉効果により光取り出し効率が最大となるためである。この関係は厳密に成立しているときに効果が最大となるが、誤差はあっても効果は認められ、おおむね積層体の厚さが、発光波長を平均屈折率で割った値の1/4の整数倍の±20%以内であればよい。さらに実質的に発光している部位と、光を反射する方の反射性電極(本実施の形態では陰極58)との距離が、発光波長を平均屈折率で割った値の1/4の整数倍となる場合に光の干渉効果が最大となるので好ましい。有機EL素子が、発光色が異なる複数の発光部からなる場合は、どれか一つの波長に対して前記の関係が成り立つように膜厚を制御することが好ましい。あるいは2つの波長に対して層厚の関係が前述したように同時に成り立つように層厚を制御してもよい。
【0183】
以上説明したマルチフォトン型の有機EL素子では、マルチフォトン型ではない有機EL素子に比べると、電流効率が高くなり、ひいては発光効率が高くなる。またマルチフォトン型の有機EL素子は、各発光部から放射される光が積算された光を利用するので、マルチフォトン型ではない有機EL素子に比べると、等量の光を取り出す場合に、各発光部が放射する光の光量を抑制することができる。これによって、マルチフォトン型の有機EL素子の場合には、各発光部に流れる電流量を低減することができるため、各発光部の負荷を低減することができる。この負荷の低減により、発光部の劣化の進行を抑制することができる。結果として有機EL素子の素子寿命を向上することができる。
【0184】
また、マルチフォトン型の有機EL素子は、基板の厚み方向に発光部を積層するので、実装面積を増大させることなく、発光部の積層数を増加させることができる。したがって実装面積を増大させることなく、発光光量の多い有機EL素子を実現することができ、結果として所期の光量で発光する小型の有機EL素子を容易に実現することができ、ひいては小型の送信装置を実現することができる。また有機EL素子には複数の発光部を仕切る電荷発生層が設けられるので、この1または複数の電荷発生層と、陽極と、陰極とによって、キャパシタの直列接続が擬似的に構成されることになり、結果としてRC時定数がより小さくなる。これによって応答速度の高い有機EL素子を実現することができる。このような有機EL素子を含む照明用光源を用いることにより、伝送速度および発光効率が高い照明光通信システム用の送信装置を実現することができる。さらにこのような送信装置と受信装置とを備える照明光通信システムにより、高速通信が可能となる。
【0185】
なお高分子発光材料は低分子発光材料に比べると溶媒への溶解性が高いので、塗布法で発光層を形成する材料として適している。したがって高分子発光材料を用いて発光層を形成する場合、該発光層は、工程の簡易さの観点からも塗布法で形成することが好ましい。発光層などの発光部を塗布法で形成する場合には、ウェットプロセスに対する耐性の観点から、仕事関数が3.0eV以下の金属およびその化合物の1種類以上と、仕事関数が4.0eV以上の化合物の1種類以上とを含んでなることが好ましい。
【実施例】
【0186】
以下、作製例および参考例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の例示に限定されるものではない。
【0187】
作製例1〜2および参考例1〜4では、2つの発光部、すなわち第1の発光部56Aと第2の発光部56Bとを1つの電荷発生層57で仕切った構造の有機EL素子を作製した。仕事関数4.0eV以上のV2O5を用いて電荷発生層を形成し、その効果を確認した。
【0188】
<作製例1> (ITO/PEDOT/MEH−PPV/Li/V2O5/MEH−PPV/LiAl)
作製例1における有機EL素子の作製例を、図10を参照しながら説明する。図10に示す有機EL素子26において、陽極52として利用するITO膜を、スパッタ法により150nmの厚みで形成したガラス基板50に、BYTRON製のPEDOT/PSS溶液をスピンコート法により40nmの厚みで成膜し、窒素雰囲気下において200℃で熱処理して正孔注入層54とした。ついで、これに発光材料としてAldrich社製の重量平均分子量が約20万のMEH−PPV(ポリ(2−メトキシ−5−(2’−エチル−ヘキシロキシ)−パラ−フェニレンビニレン)の1重量%トルエン溶液を作製し、これをPEDOT/PSSが製膜された基板上にスピンコートして90nmの膜厚で第1の発光層53を製膜した。正孔注入層54と第1の発光層53との積層体を第1の発光部56Aとする。
【0189】
この上に真空蒸着法により、電荷発生層57としてLi(仕事関数:2.93eV)、V2O5(仕事関数:4eV以上)を順次それぞれ、2nm、20nmの厚みで形成し、第1電荷発生層57A、第2電荷発生層57Bを成膜した。ここでLiの蒸着はAl−Li合金(Li含有率0.05%)を用い、Alが飛びはじめる前の数十秒間、先に飛ぶLiのみを蒸着することで行い、その直後にV2O5の蒸着を行った。
【0190】
さらに、V2O5膜上に、MEH−PPVの1重量%トルエン溶液をスピンコートし
て、90nmの膜厚で第2の発光層59(第2の発光部56B)を製膜した。さらにこの上に真空蒸着法により陰極58としてAl−Li合金を100nm形成した。以上により2つの発光部を1つの電荷発生層57で仕切った構造の有機EL素子26を作製した。
得られた素子に直流電圧を印加したところ、発光開始電圧12V、最大輝度80cd/m2であった。
電流効率は0.072cd/Aであり、下記の比較例1の素子(0.037cd/A)に比べて1.95倍に増大した。
【0191】
<参考例1>
比較のために、作製例1において電荷発生層57と第2の発光部56Bとを非形成とする以外は作製例1と同様にして、図11に示すように第1の発光層53が1つだけの有機EL素子26を作製した。図中の図10に示した符号と同一の符号は、図10におけるものと同様である。参考例1における有機EL素子26に直流電圧を印加したところ、発光開始電圧5.5V、最大輝度52cd/m2であった。電流効率は0.037cd/Aであった。
【0192】
<参考例2>
電荷発生層57として、膜厚30nmのV2O5の1層のみからなるものを用いたことを除いて、作製例1と同様の構成として有機EL素子を作製した。得られた素子の発光開始電圧は40Vであったが発光しなかった。
【0193】
<作製例2>(異なる色の発光部の積層体からなる混色素子)
作製例1における発光層であるMEH−PPVの代わりに、緑色の光を発光する下記構造式(1)で示す高分子発光材料1(略称F8−TPA−BT)からなる高分子発光層を含む第1の発光部56Aと、電荷発生層57とを形成した後、PEDOT/PSS層を形成し、引き続いて青色の光を発光する下記構造式(2)で示す高分子発光材料2(略称F8−TPA−PDA)からなる高分子発光層を含む第2の発光部56Bを成膜した後、作製例1と同様にして陰極58を形成して、2つの発光部からの発光波長が異なる素子を作製した。
【0194】
高分子材料1
【化1】
【0195】
高分子材料2
【化2】
【0196】
<参考例3、4> (作製例2の比較、緑と青の発光層のみからなる単一素子)
作製例2との比較のため、ITO/PEDOT/発光層/陰極(Li/Al)の構造の発光部1つからなる素子を、緑色発光層材料F8−TPA−BT(参考例3)、青色発光材料F8−TPA−PDA(参考例4)の場合の2つを作製した。
【0197】
比較例3、4の駆動電圧はそれぞれ3.6V、5.4Vであるのに対し、作製例2では8.0Vとなり2つのユニットを積層した素子の予想に近い電圧を示した。また作製例2の素子では2つの層からの混色により、スペクトルが広くなり白がかった緑色の発光が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0198】
【図1】照明光通信システムの概略的説明図である。
【図2】照明光通信システムの概略的説明図(2)である。
【図3】照明光通信システムの概略的説明図(3)である。
【図4】照明光通信システムの概略的説明図(4)である。
【図5】電流プログラム方式の発光ユニットの回路図である。
【図6】電圧プログラム方式の発光素子の回路図である。
【図7】発光ユニットの動作説明図である。
【図8】照明光通信システムの概略的説明図(5)である。
【図9】照明用光源の動作説明図である。
【図10】有機EL素子の概略的な断面図(1)である。
【図11】有機EL素子の概略的な断面図(2)である。
【符号の説明】
【0199】
10:照明光通信システム
20:送信装置
22:照明用光源
24:発光ユニット
23:サブ光源
23A:第1サブ光源
23B:第2サブ光源
23C:第3サブ光源
23D:第4サブ光源
26:有機EL素子
28:制御回路
29:直列/並列変換回路
30:受信装置
32:受光部
34:復調部
36:レンズ
38:並列/直列変換回路
42:走査線駆動回路
44:データ線駆動回路
50:基板
50a:第1主面
50b:第2主面
51:画素領域
52:陽極
53:第1の発光層
54:正孔注入層
56A:第1の発光部
56B:第2の発光部
57:電荷発生層
57A:第1電荷発生層
57B:第2電荷発生層
58:陰極
59:第2の発光層
X:データ線
Y:走査線
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明光を利用してデータを伝送する照明光通信システムおよびこの照明光通信用システムに好適に適用可能な送信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高速通信技術の進展とともに、光を伝送媒体として用いた屋内無線通信技術が利用されるようになってきた。特に、伝送媒体として赤外線を用いたLAN(Local Area Network)が、オフィスや家庭に普及してきている。
【0003】
しかしながら、赤外線を用いた無線データ通信では、送信装置と受信装置との間に存在する遮蔽物によって通信に支障が生じるという問題がある。また、信号電力が小さいため、データ通信、すなわち信号の送受信が不安定になり易いという問題がある。
【0004】
前述した赤外線通信にかかる問題を解決する通信方式として、照明用光源からの光をデータの伝送媒体に用いた通信方式(照明光通信)が考えられている。照明光の光源としては、化合物半導体系の白色発光ダイオード(以下、白色LED(LED:Light Emitting Diode)という場合がある)が用いられている。
白色LEDを用いた照明は、蛍光灯といった従来の照明と比較して、長寿命、小型、低消費電力といった優れた特長を有している。非特許文献1および特許文献1には、このような白色LEDの特長に着目した照明光通信システムが開示されている。
【0005】
【非特許文献1】「可視光通信に適した変調方式の実験的検討」(信学技報IEICE Technical Report OCS2005-19(2005-5)第43〜48頁 社団法人 電子情報通信学会)
【特許文献1】特開2003−318836号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
照明光通信には、通信に求められる特性と照明に求められる特性とを両立させることが要求される。通信としては高い伝送速度が求められており、照明としては低消費電力が求められており、従ってその光源には、例えば高い応答速度と高い発光効率とが求められている。
前述したように蛍光灯などの照明と比較して、白色LEDは照明として優れた特徴を有している。しかしながら、上記照明光通信に用いられる白色LEDは、例えば半導体レーザと比較するとその応答速度が低い。特に照明に利用される白色LEDには、蛍光体を使用するタイプのものが主に用いられているが、蛍光体を使用するタイプの白色LEDは、蛍光体不使用のものと比較すると応答速度が低い。従って白色LEDを用いた従来の照明光通信では、伝送速度が必ずしも十分とはいえない。
【0007】
そこで、本発明の目的は、伝送速度および発光効率が高い新規な照明光通信システムおよびこの照明光通信用システムに好適に適用できる送信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した課題を解決するために、本発明では、下記の構成を採用した。
〔1〕 送信データに基づいて変調された変調光を出射する照明用光源を備える送信装置であって、前記照明用光源は、陽極と、陰極と、前記陽極および前記陰極間に設けられ、かつそれぞれが発光層を含む複数の発光部と、該発光部に挟持されて配置される電荷発生層とを含んで構成される有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子という場合がある)を備える、照明光通信システム用の送信装置。
〔2〕 前記電荷発生層は、仕事関数が3.0eV以下の金属、その化合物、およびイオン化ポテンシャルが5.5eV以下の電子供与性の有機物からなる群から選ばれる1種類以上と、仕事関数が4.0eV以上の化合物の1種類以上とを含んでなる、〔1〕に記載の送信装置。
〔3〕 前記照明用光源は、それぞれの発光面積が10−8cm2から10−1cm2である複数の前記有機エレクトロルミネッセンス素子を備える、〔1〕または〔2〕に記載の送信装置。
〔4〕 前記照明用光源が、前記変調光を出射する通信用の有機エレクトロルミネッセンス素子と、非変調光を出射する照明用の有機エレクトロルミネッセンス素子とを備える〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の送信装置。
〔5〕 前記通信用の有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層が、蛍光を発光する発光材料を用いて形成され、かつ前記照明用の有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層が、リン光を発光する発光材料を用いて形成されてなる〔4〕に記載の送信装置。
〔6〕 前記電荷発生層が、仕事関数が3.0eV以下の金属、その化合物、およびイオン化ポテンシャルが5.5eV以下の電子供与性の有機物からなる群から選ばれる1種類以上を含む第1の層と、仕事関数が4.0eV以上の化合物の1種類以上を含む第2の層とを含んでなり、前記第1の層が、第2の層よりも前記陽極寄りに配置される、〔1〕から〔5〕のいずれかに記載の送信装置。
〔7〕 前記電荷発生層は、仕事関数が3.0eV以下の金属、その化合物、およびイオン化ポテンシャルが5.5eV以下の電子供与性の有機物からなる群から選ばれる1種類以上と、仕事関数が4.0eV以上の化合物の1種類以上とが混合されてなる、〔1〕から〔6〕のいずれかに記載の送信装置。
〔8〕 波長550nmの光に対する前記電荷発生層の光透過率が、30%以上である、〔1〕から〔7〕のいずれかに記載の送信装置。
〔9〕 前記仕事関数が3.0eV以下の金属が、アルカリ金属、およびアルカリ土類金属からなる群から選択される、〔1〕から〔8〕のいずれかに記載の送信装置。
〔10〕 前記仕事関数が4.0eV以上の化合物が遷移金属酸化物である〔1〕から〔9〕のいずれかに記載の送信装置。
〔11〕 前記発光層は、重量平均分子量が1万から1000万である高分子発光材料を含む、〔1〕から〔10〕のいずれかに記載の送信装置。
〔12〕 変調光を出射する照明用光源を備える〔1〕から〔11〕のいずれか一項に記載の送信装置と、前記照明用光源から出射された前記変調光を受光して電気信号に変換し、該電気信号を復調して受信データを生成する受信装置とを具備する照明光通信システム。
【発明の効果】
【0009】
本発明の照明光通信システム用の送信装置においては、複数の発光部を積層したマルチフォトン型の有機EL素子を含む照明用光源を用いることにより、電流効率が高くなり、ひいては発光効率がより高くなる。さらにマルチフォトン型の有機EL素子は、各発光部から放射される光が積算された光を利用するので、1つの発光部を有する有機EL素子と比較すると、等量の光量を取り出す場合には、各発光部が放射する光の光量をそれぞれ抑制することができる。よって、マルチフォトン型の有機EL素子の場合には、各発光部に流れる電流量を低減することができるため、各発光部にかかる負荷を低減することができる。この負荷の低減により、発光部の劣化の進行を抑制することができる。結果として、有機EL素子の素子寿命を向上させることができる。またマルチフォトン型の有機EL素子には複数の発光部を仕切る電荷発生層が設けられるので、この1または複数の電荷発生層と、陽極と、陰極とによって、キャパシタの直列接続が擬似的に構成されることになり、結果としてRC時定数がより小さくなる。よって、応答速度のさらなる高速化を実現することができる。このような有機EL素子を含む照明用光源を用いることにより、伝送速度および発光効率が高い照明光通信システム用の送信装置を実現することができる。さらにこのような送信装置と受信装置とを備える照明光通信システムにより、高速通信が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図を参照して、本発明の実施形態につき説明する。なお、各図は、発明が理解できる程度に、構成要素の形状、大きさおよび配置が概略的に示されているに過ぎない。本発明は以下の記述によって限定されるものではなく、各構成要素は本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。なお、以下の説明に用いる各図において、同様の構成要素については同一の符号を付して示し、重複する説明を省略する場合がある。また、有機EL素子を備える装置においては電極のリード線等の部材も存在するが、本発明の説明にあっては直接的に要しないため記載を省略している。層構造等の説明の便宜上、下記に示す例においては基板を下に配置した図と共に説明がなされるが、本発明の有機EL素子およびこれを搭載した有機EL装置は、必ずしもこの配置で、製造または使用等がなされるわけではない。なお以下の説明において基板の厚み方向の一方を上または上方といい、厚み方向の他方を下または下方という場合がある。
【0011】
〈照明光通信システムの構成例(1)〉
図1を参照して、本発明の照明光通信システムの構成例につき説明する。図1は、照明光通信システムの構成を概略的に説明するブロック図である。
【0012】
図1に示すように、照明通信システム10は、送信装置20と受信装置30とを備えている。送信装置20は、照明用光源22を備えている。照明用光源22は、送信されるべき送信データに基づいて変調された変調光を出射する。変調光とは、点滅制御された光または光量制御された光をいい、変調方式としては、アナログ変調方式(AM、FMなど)、デジタル変調方式、パルス変調方式、およびスペクトラム拡散方式などが用いられる。
【0013】
照明用光源22は、それぞれが有機EL素子26を備える1または複数の発光ユニット24を含んで構成される。本実施の形態では照明用光源22は、1つの発光ユニット24を備える。また発光ユニット24は、有機EL素子26に接続され、かつ当該有機EL素子26の動作を制御する制御回路28をさらに備える。制御回路28と有機EL素子26とは電気的に接続されている。
【0014】
有機EL素子26は、照明光のみ、または照明光および信号光の双方を生成して出射する。有機EL素子26および制御回路28の具体的な構成については後述する。
【0015】
受信装置30は、受光部32と復調部34とを備える。受信装置30は、照明用光源22から出射された変調光を受光して、受信データを生成する。
【0016】
受光部32は、図示しない光電変換装置を内蔵しており、受光した変調光を電気信号に変換する。復調部34は、受光部32によって光電変換された電気信号から、元のデータ(送信データ)を復調して受信データを生成する。
【0017】
送信装置20がデータを送信する場合には、送信すべきデータ、すなわち送信データが制御回路28に供給される。送信データの供給を受けた制御回路28は、供給されたデータに基づいて有機EL素子26の動作を制御する。
【0018】
こうして、送信データに対応して変調された変調光が有機EL素子26、すなわち発光ユニット24から出射される。有機EL素子26を高速に点滅させたり、その光量を高速で変化させたりしても、視覚的には感知されないので、通信用に使用したとしても有機EL素子26はほぼ一定の光量で光っているように見える。したがって、有機EL素子26から出射された変調光は、人に違和感を与えることなく、そのまま照明光としても利用することができる。
【0019】
〈照明光通信システムの構成例(2)〉
図2および図3を参照して、本発明の照明光通信システムの他の構成例につき説明する。
【0020】
1Gbps程度以上の大容量の伝送を行なうためには、送信装置20において多数の発光ユニット24を二次元的に配列し、これらを互いに並列的に動作させればよい。このような並列システムを従来のLEDを用いて実現するためには、多数のLEDを二次元的に配列し、分割器との配線接続を行なう必要があり、システムとして大型にならざるを得なかった。
【0021】
白色LEDに代えて有機EL素子を用いると、完成した個々の発光ユニット24を配線ボード上に後付けして配列するのではなく、例えば制御回路28が形成されたTFT(Thin Film Transistor)基板上に複数の有機EL素子26を直接的に作りこむことができるので、発光ユニット24が二次元的に配置された集積デバイスを基板上に最初から製造できる。したがって分割器などの他の素子を加えても非常にコンパクトな送信装置20を実現できる。
【0022】
図2および図3は、本発明の照明通信システムの構成例を概略的に説明するブロック図である。
【0023】
図2に示すように、この照明光通信システム10は、図1を参照して既に説明した構成を基本として、有機EL素子26および制御回路28からなる発光ユニット24並びに受光部32の組を複数組備えている。送信装置20の照明用光源22において、複数の発光ユニット24は、二次元的に配置されている。また、制御回路28は、直列/並列変換回路29をさらに含み、受信装置30は、レンズ36と並列/直列変換回路38とをさらに含んでいる。
【0024】
なお、図示例の送信装置20および受信装置30において、直列/並列変換回路29を制御回路28に組み込む構成としたが、直列/並列変換回路29を、制御回路28の外部に設ける構成とすることもできる。この場合、直列/並列変換回路29から生成されるパラレル信号に基づいて、制御回路28が各有機EL素子26を制御してもよい。
【0025】
送信装置20の直列/並列変換回路29は、送信データであるシリアルデータを複数のパラレルデータに分割し、分割されたパラレルデータを個々の有機EL素子26にそれぞれ供給する。この送信装置20の直列/並列変換回路29の動作を含めた制御回路28の制御によって、各有機EL素子26は、各々に与えられるパラレルデータに基づいて、変調された変調光を出射する。出射された変調光は、レンズ36によって空間的に分離され、対応する各受光部32の光電変換装置において光電変換され、さらに変換された電子信号は図示しないA/Dコンバータによってデジタル化され、受信装置30の並列/直列変換回路38によってシリアルデータに変換される。復調部34は、このシリアルデータを復調することにより受信データを生成して出力する。
【0026】
このように、複数の有機EL素子26を並列的に駆動することによって、大容量のデータを高速で伝送することができる。
【0027】
図2に示した送信装置20において、有機EL素子26の制御(変調制御を含む)は、外部駆動回路としてのドライバICを用いて行ってもよい。図2に示した送信装置20においては、複数の有機EL素子26を単一の制御回路28で動作制御している。
【0028】
図3に示すように、複数の有機EL素子26それぞれを個別に制御する複数の制御回路28を、各有機EL素子26に対応させて接続する構成とすることもできる。この場合には、照明用光源22は、1つの有機EL素子26および1つの制御回路28を1組として一体的に形成した発光ユニット24を複数組備える。なお、複数の有機EL素子26を1つの構成単位とする素子群に、各有機EL素子26をグループ分けしたときに、同じ素子群に含まれる複数の有機EL素子26と該有機EL素子26に接続される制御回路28とからなる発光ユニット24群を、サブ光源23という場合がある。後述するように、サブ光源23ごとに発光を制御することにより、各有機EL素子26を素子群ごとに駆動することができる。このように1つの素子群に含まれる複数の有機EL素子26を単位として駆動することにより、素子群単位としての光強度(信号強度)が大きくなるので、例えばノイズの多い環境で使用する場合や各有機EL素子26の光量が少ない場合であっても、正確に信号を伝送することができ、エラービットレートの小さい照明用光通信システムを実現することができる。
【0029】
有機EL素子26と一体的に作り込まれる制御回路28の構成要素の一例としていわゆる薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)を用いることができる。薄膜トランジスタとしては、ポリシリコントランジスタ、アモルファスシリコントランジスタ、有機半導体材料を用いた有機トランジスタ等が知られている。こうした薄膜トランジスタから構成される制御回路28と有機EL素子26とを一体的に形成することで、送信装置20の一層の小型化が可能になる。
【0030】
次に、図4を参照して、前述した照明光通信システム10の送信装置20の構成例として、いわゆるアクティブマトリクス型として構成された照明用光源22について説明する。
【0031】
アクティブマトリクス型とは、有機EL素子26および制御回路28を一体的に構成した発光ユニット24をマトリクス状に配列し、複数の有機EL素子26それぞれの駆動制御を有機EL素子26の近傍にそれぞれ作り込まれた制御回路28によって行うタイプをいう。
【0032】
有機EL素子26を用いてアクティブマトリクス型の照明用光源22を構成した場合には、有機EL素子の駆動方法は、電流プログラム方式および電圧プログラム方式の二種類に大別される。「電流プログラム方式」とは、データ線に対するデータの供給を電流レベルで行う方式をいい、「電圧プログラム方式」とは、データ線に対するデータの供給を電圧レベルで行う方法をいう。
【0033】
図4は、本発明のアクティブマトリクス型の照明用光源を用いた照明光通信システムの概略的な説明図である。
【0034】
送信装置20が備える照明用光源22は、前述したように例えばTFTを構成要素とする制御回路28により有機EL素子26を駆動する、いわゆるアクティブマトリクス型の装置である。
【0035】
この照明用光源22には、m×n(記号「m」、「n」はそれぞれ自然数を表す)個の発光ユニット24が平面上においてm行n列のマトリクス状に配列される。すなわち格子縞の交点上に各発光ユニット24がそれぞれ配置される。
【0036】
照明用光源22は、それぞれが図4において行方向に延在するとともに、互いに列方向に間隔をあけて配置されるn本の走査線Yからなる走査線群Y1〜Ynを有する。
【0037】
また、照明用光源22は、列方向に延在するとともに、互いに行方向に間隔をあけて配置されるm本のデータ線Xからなるデータ線群X1〜Xmを有する。走査線群Y1〜Ynとデータ線群X1〜Xmとは、基板の厚み方向の一方から見て格子縞を形成している。
【0038】
基板の厚み方向の一方から見て、走査線Yとデータ線Xとにより形成される格子縞の複数の交点近傍には、画素領域51が設けられており、各画素領域51それぞれに1つの発光ユニット24が配置されている。換言すると、複数の発光ユニット24が、画素領域51ごとにマトリクス状に配置されている。
【0039】
図4においては、それぞれの有機EL素子26に対して所定の電圧Vdd,Vssを供給する電源線等が省略されている。
【0040】
図5および図6を参照して、発光ユニット24が備える制御回路28の好適な構成例につき説明する。
【0041】
図5は電流プログラム方式における発光ユニット24が備える制御回路28を示す回路図である。図6は電圧プログラム方式における発光ユニット24が備える制御回路28を示す回路図である。
【0042】
図5および図6に示すように、発光ユニット24は、有機EL素子26と、この有機EL素子26を除く回路部分である制御回路28とを備えている。
【0043】
〈電流プログラム方式〉
図5に示すように、制御回路28は、4つのトランジスタT1、T2、T3およびT4、送信データを保持するデータ保持手段であるキャパシタC、電源電圧(供給手段)Vdd、基準電圧(供給手段)Vss並びにこれらを互いに接続する信号線を含んでいる。
【0044】
図5では、トランジスタT1、T2、およびT4をnチャネル型トランジスタとし、トランジスタT3をpチャネル型トランジスタとした例を示してある。
【0045】
トランジスタT1のゲート電極は、走査信号SELが供給される所定の1本の走査線Yに電気的に接続されている。トランジスタT1のソース電極は、データ電流Idataが供給される所定の1本のデータ線Xに電気的に接続されている。トランジスタT1のドレイン電極は、トランジスタT2のソース電極に電気的に接続されている。
【0046】
トランジスタT1のドレイン電極およびトランジスタT2のソース電極は、プログラミングトランジスタであるトランジスタT3のドレイン電極およびトランジスタT4のドレイン電極に電気的に共通接続されている。
【0047】
トランジスタT2のゲート電極は、トランジスタT1のゲート電極と同じく、走査信号SELが供給される走査線Yに電気的に共通接続されている。トランジスタT2のドレイン電極は、キャパシタCの一方の電極と、トランジスタT3のゲート電極とに電気的に共通接続されている。
【0048】
キャパシタCの他方の電極には電源電圧Vddが印加される。また、トランジスタT3のソース電極には、電源電圧Vddが印加される。キャパシタCの他方の電極とトランジスタT3のソース電極とには、電源電圧Vddが印加されている。
【0049】
トランジスタT4のゲート電極には駆動信号GPが入力される。トランジスタT4のドレイン電極には有機EL素子26のアノード(陽極)が電気的に接続されている。また、有機EL素子26のカソード(陰極)には、電源電圧Vddよりも低電圧である基準電圧Vssが印加されている。
【0050】
〈電圧プログラム方式〉
電圧プログラム方式についても、送信装置の全体的な構成については既に説明した通りである。しかしながら、この場合には、データ電圧(信号)Vdataをデータ線Xにそのまま出力するため、データ線Xに電気的に接続されているデータ線駆動回路44(図4)の可変電流源が不要になる。ここでは、いわゆるCC(Conductance Control)法と称される構成例につき説明する。
【0051】
図6に示すように、発光ユニット24は、有機EL素子26、トランジスタT1、T4およびT5、データ保持手段であるキャパシタC、電源電圧(供給手段)Vdd、基準電圧(供給手段)Vss並びにこれらを互いに接続する信号線を含んでいる。図6にはトランジスタT1、T4およびT5を、すべてnチャネル型とした例を示してある。
【0052】
いわゆるスイッチングトランジスタであるトランジスタT1のゲート電極は、走査信号SELを供給する所定の走査線Yに電気的に接続されている。トランジスタT1のドレイン電極は、データ電圧(信号)Vdataを供給する所定のデータ線Xに電気的に接続されている。トランジスタT1のソース電極は、データ保持手段であるキャパシタCの一方の電極に電気的に接続されている。
【0053】
トランジスタT1のソース電極とキャパシタCの一方の電極とは、いわゆる駆動トランジスタであるトランジスタT4のゲート電極に、電気的に共通接続されている。
【0054】
キャパシタCの他方の電極には基準電位Vssが印加されている。また、トランジスタT4のドレイン電極には電源電圧Vddが印加されている。トランジスタT4のソース電極は、いわゆる制御トランジスタであるトランジスタT5のドレイン電極に電気的に接続されている。
【0055】
トランジスタT5には、駆動信号GPが入力される。トランジスタT5は、駆動信号GPによって導通制御される。トランジスタT5のソース電極は、有機EL素子26のアノードに電気的に接続されている。この有機EL素子26のカソードには、基準電圧Vssが印加されている。
【0056】
前述した構成例では、データを保持する回路要素、すなわちデータ保持手段の好適例として、キャパシタを用いる例を説明したが、キャパシタの代わりに、多ビットのデータを記憶可能なメモリ装置(SRAM等)を用いることもできる。
【0057】
図7を参照して、図5および図6を参照して説明した発光ユニット24の動作につき説明する。図7は、発光ユニット24の動作タイミングチャートである。
【0058】
ここで、走査線駆動回路42(図4)による走査線Y1から走査線Ynの線順次走査によって、所定の発光ユニット24の選択が開始されるタイミングをt0とする。また、発光ユニット24の選択が次に開始されるタイミングをt2とする。期間t0〜t2は、前半のプログラミング期間t0〜t1と、後半の駆動期間t1〜t2とに分けられる。
【0059】
〈電流プログラム方式(図5に示した回路構成)における動作〉
前半のプログラミング期間t0〜t1では、キャパシタCに対する送信データの書き込みが行われる。まず、タイミングt0において、走査信号SELが走査線Yに入力される。これにより、走査線Yが高レベル(以下、Hレベルという場合がある)に立ち上がる。スイッチング素子として機能するトランジスタT1およびT2が共にオン(導通)する。すると、データ線XとトランジスタT3のドレイン電極とが電気的に接続される。これにより、トランジスタT3は、自己のゲート電極と自己のドレイン電極とが電気的に接続されたダイオード接続となる。
【0060】
トランジスタT3は、データ線Xより供給されたデータ電流Idataを自己のチャネルに流す。これにより、データ電流Idataに応じた電圧がゲート電圧Vgとして発生する。トランジスタT3のゲート電極に接続されたキャパシタCには、発生したゲート電圧Vgに応じた電荷が蓄積される。これにより、キャパシタCには、蓄積された電荷量に相当するデータ(送信データ)が書き込まれる。
【0061】
プログラミング期間t0〜t1において、トランジスタT3は、自己のチャネルを流れるデータ信号に基づいて、キャパシタCに対するデータの書き込みを行うプログラミングトランジスタとして機能する。また、この期間中、駆動信号GPが低レベル(以下、Lレベルという場合がある)に維持されているため、トランジスタT4はオフ(非導通)のままである。したがって、有機EL素子26に対する駆動電流の経路はトランジスタT4により遮断される。よって、有機EL素子26は発光しない。
【0062】
続く駆動期間t1〜t2では、駆動電流が有機EL素子26を流れ、有機EL素子26の輝度の設定が行われる。まず、タイミングt1において、走査信号SELがLレベルに立ち下がり、トランジスタT1およびT2がいずれもオフする。これにより、データ電流Idataが供給されるデータ線XとトランジスタT3のドレイン電極とが電気的に分離され、トランジスタT3のゲート電極とドレイン電極との間も電気的に分離される。
トランジスタT3のゲート電極には、キャパシタCの蓄積電荷に応じたゲート電圧Vgが印加され続ける。タイミングt1における走査信号SELの立ち下がりと同期(同一タイミングであるとは限らない)して、それ以前はLレベルだった駆動信号GPがHレベルに立ち上がる。
【0063】
これにより、電源電圧Vddから基準電圧Vssに向かって、トランジスタT3およびT4と有機EL素子26とに連なる駆動電流の経路が形成される。有機EL素子26を流れる駆動電流は、トランジスタT3のチャネル電流に相当し、その電流レベルは、キャパシタCの蓄積電荷に基づくゲート電圧Vgによって制御される。
【0064】
駆動期間t1〜t2において、トランジスタT3は、有機EL素子26に駆動電流を供給する駆動トランジスタとして機能する。結果として、有機EL素子26は、この駆動電流に応じて、換言すれば、キャパシタCに保持されたデータに基づいて変調された発光強度で発光する。
【0065】
〈電圧プログラム方式(図6に示した回路構成)における動作〉
まず、タイミングt0において、所定の走査線Yに、走査線信号SELが入力される。すると、走査線Yは、Hレベルに立ち上がり、トランジスタT1がオンする。よって、データ線Xに供給されたデータ電圧Vdataが、トランジスタT1を介して、キャパシタCの一方の電極に印加される。
【0066】
これにより、データ電圧Vdata相当の電荷がキャパシタCに蓄積される(送信データが書き込まれる。)。なお、タイミングt0からタイミングt1までの期間において、駆動信号GPはLレベルに維持される。よって、制御トランジスタT5はオフのままである。したがって、有機EL素子26に対する駆動電流の電流経路が遮断されるため、前半の期間t0〜t1において、有機EL素子26は発光しない。
【0067】
前半の期間t0〜t1に続く後半の期間t1〜t2では、キャパシタCに蓄積された電荷に応じた駆動電流が有機EL素子26を流れる。これにより、有機EL素子26が発光する。タイミングt1では、走査信号SELがLレベルに立ち下がる。
【0068】
これにより、トランジスタT1がオフする。よって、キャパシタCの一方の電極に対するデータ電圧Vdataの印加が停止するが、キャパシタCの蓄積電荷によって、トランジスタT4のゲート電極にはゲート電圧Vg相当が印加される。タイミングt1における走査信号SELの立ち下がりと同期して、それ以前はLレベルだった駆動信号GPは、Hレベルに立ち上がる。
【0069】
これにより、発光ユニット24の選択が開始されるタイミングt2に至るまでHレベルが維持される。よって、駆動電流の電流経路が形成される。これにより、有機EL素子26は、キャパシタCに保持されたデータに基づいて変調された発光強度で発光する。
【0070】
図4を参照して既に説明したように、照明用光源22を駆動するための駆動回路は、走査線駆動回路42とデータ線駆動回路44とによって構成されており、両者は、図示しない上位装置による同期制御下、互いに協働して動作する。
【0071】
走査線駆動回路42は、シフトレジスタ、出力回路等を主体に構成されており、走査線Y1〜Ynに走査信号SELを出力することによって、走査線Y1〜Ynを所定の選択順序で順番に選択する線順次走査を行う。走査信号SELは、HレベルまたはLレベルの2値的な信号レベルをとり、データの書込対象となる行(走査線Yの1ラインに接続される複数の発光ユニット24)に対応する走査線YはHレベルとされ、これ以外の走査線YそれぞれはLレベルとされる。
【0072】
そして、1垂直走査期間(1F)において、所定の選択順序で、それぞれの行が順番に選択されていく。なお、走査線駆動回路42は、走査信号SEL以外に、トランジスタを導通制御する駆動信号GP(またはそのベース信号)も出力する。この駆動信号GPによって、駆動期間、すなわち、発光ユニット24に含まれる有機EL素子26の輝度設定を行う期間が設定される。
【0073】
データ線駆動回路44は、走査線駆動回路42による線順次走査と同期して、データ線X1〜Xmそれぞれに対するデータ信号の供給を電流ベースで行う。前述した電流プログラム方式の場合には、データ線駆動回路44は、発光ユニット24より出射される変調光の変調度合いを規定するデータ(データ電圧Vdata)をデータ電流Idataへと変換する可変電流源を含む。データ線駆動回路44は、1水平走査期間(1H)において、今回データを書き込む行に対するデータ電流Idataの一斉出力と、次の水平走査期間で書き込みを行う行に関するデータの点順次的なラッチとを同時に行う。
【0074】
ある水平走査期間において、データ線Xの本数に相当するm個のデータが順次ラッチされる。そして、次の水平走査期間において、ラッチされたm個のデータは、データ電流Idataに変換された上で、それぞれのデータ線X1〜Xmに対して一斉に出力される。
【0075】
図8を参照して、サブ光源23の構成につき説明する。図8は、サブ光源の構成例を説明する照明光通信システムの概略的な説明図である。
【0076】
送信装置20のサブ光源23は、照明用光源22に含まれる複数の発光ユニット24が複数のグループに区分けされることにより規定される。図示例では、複数の発光ユニット24が4つに区分けされて、第1サブ光源23A、第2サブ光源23B、第3サブ光源23Cおよび第4サブ光源23D(以下、それぞれサブ光源A、サブ光源B、サブ光源Cおよびサブ光源Dという場合がある)とされている。なお、iおよびjは1以上の任意の正数であり、かつmおよびnは2以上の任意の正数である。第1サブ光源23A、第2サブ光源23B、第3サブ光源23Cおよび第4サブ光源24Dに含まれる発光ユニット24の数は、互いに同一であっても、互いに異なっていてもよい。また、サブ光源23同士の発光ユニット24の数が同数である場合において、発光ユニット24の配置形態は、サブ光源23単位で同一であっても、異なっていてもよい。また離散的に離れて配置されている発光ユニット24を同一の発光ユニット24に属する発光ユニット24とするグループ分けをしてもよく、このようなグループ分けを行うことにより、たとえサブ光源23単位で明滅などしたとしても、局所的な光量の低下を抑制することができ、照明としての性能の低下を抑えることができる。
【0077】
第1サブ光源23A、第2サブ光源23B、第3サブ光源23Cおよび第4サブ光源24Dに含まれる発光ユニット24の数を、ここではi=j=4かつm=n=8、すなわち互いに同数である16とした例を説明する。第1サブ光源23A、第2サブ光源23B、第3サブ光源23Cおよび第4サブ光源23Dそれぞれが含む発光ユニット24は、この例では4×4のマトリクス状に配置されている。
【0078】
第1サブ光源23Aおよび第2サブ光源23Bの発光ユニット24は、走査線Y1〜Yj(Y4)(走査線群Yabという場合がある)に電気的に接続される。また、第3サブ光源23Cおよび第4サブ光源23Dの発光ユニット24は、走査線Yj+1〜Yn(Y5〜Y8)(走査線群Ycdという場合がある)に電気的に接続される。
【0079】
また、第1サブ光源23Aおよび第3サブ光源23Cの発光ユニット24は、データ線X1〜Xi(X4)(データ線群Xacという場合がある)に電気的に接続される。また、第2サブ光源23Bおよび第4サブ光源23Dの発光ユニット24は、データ線Xi+1〜Xm(X5〜X8)(データ線群Xbdという場合がある)に電気的に接続される。
【0080】
次に、図4、図8および図9を参照して、複数のサブ光源にグループ分けされた照明用光源を備える照明光通信システムの動作につき説明する。
【0081】
走査線駆動回路42およびデータ線駆動回路44(図4)は、照明用光源22に設定された第1サブ光源23A、第2サブ光源23B、第3サブ光源23Cおよび第4サブ光源23Dにおいて、各サブ光源23単位で、複数のサブ光源23を独立的に駆動する。
【0082】
同一のサブ光源23に属する複数の発光ユニット24は、本実施形態では、すべて同一の発光状態になるように制御される。異なるサブ光源23同士については互いに独立的に制御され得る。よって、この場合には、照明用光源22に、4つの独立した伝送チャネルが形成されることになる。
【0083】
走査線Y1〜Yj、すなわち走査線群Yabが選択されている状態でデータ線X1〜Xi、すなわちデータ線群Xacに供給されたデータ(すべて同一の電流レベルである)は、第1サブ光源23Aの各発光ユニット24に共通して供給される。
【0084】
これによって、第1サブ光源23Aの発光状態が制御される。また、この状態でデータ線Xi+1〜Xm、すなわちデータ線群Xbdに供給されたデータは、第2サブ光源23Bの各発光ユニット24に共通に供給される。これによって、第2サブ光源23Bの発光状態が制御される。
【0085】
走査線Yj+1〜Yn、すなわち走査線群Ycdが選択されている状態でデータ線X1〜Xi、すなわちデータ線群Xacに供給されたデータは、第3サブ光源23Cの各発光ユニット24に共通に供給される。
【0086】
これによって、第3サブ光源23Cの発光状態が制御される。また、この状態でデータ線Xi+1〜Xm、すなわちデータ線群Xbdに供給されたデータは、第4サブ光源23Dの各発光ユニット24に共通に供給される。これによって、第4サブ光源23Dの発光状態が制御される。
【0087】
図9は、照明光通信システムの動作を説明するタイミングチャートである。
【0088】
図8に示す構成において、最上段に配置されている走査線Y1から最下段に配置されている走査線Ynに向かって、n本の走査線Yが順次選択されていくものとする。
【0089】
この場合には、照明用光源22全体に対して、送信データのデータ書き込みを行うのに要する1フレーム期間t0〜t2は、前半の第1サブ光源23Aおよび第2サブ光源23Bの選択期間t0〜t1と、後半の第3サブ光源23Cおよび第4サブ光源23Dの選択期間t1〜t2とに分けられる。
【0090】
第1サブ光源23Aおよび第2サブ光源23Bの選択期間t0〜t1は、走査線群Yabに属する走査線Y1の選択が開始されてから走査線Yjの選択が終了するまでの期間に相当する。
【0091】
この期間t0〜t1において、データ線群Xacには第1サブ光源23A用の送信データDaが共通して供給され、この送信データDaに応じたレベルにデータ線群Xacが維持される。
【0092】
データ線群Xacには、第1サブ光源23Aのみならず第3サブ光源23Cも接続されているが、走査線群Ycdが非選択のため、第3サブ光源23Cは電気的に分離されている。したがって、データ線群Xacに供給された送信データDaは、第1サブ光源23Aにのみ供給され、これに応じた書き込みが第1サブ光源23Aにおいて行われる。
【0093】
また、この期間t0〜t1において、データ線群Xbdには第2サブ光源23B用の送信データDbが共通して供給され、この送信データDbに応じたレベルにデータ線群Xbdが維持される。
【0094】
データ線群Xbdには、第2サブ光源23Bのみならず第4サブ光源23Dも接続されているが、走査線群Ycdが非選択のため、第4サブ光源23Dは電気的に分離されている。したがって、データ線群Xbdに供給された送信データDbは、第2サブ光源23Bにのみ供給され、これに応じた書き込みが第2サブ光源23Bにおいて行われる。
【0095】
第3サブ光源23Cおよび第4サブ光源23Dの選択期間t1〜t2は、走査線群Ycdに属する走査線Yj+1の選択が開始されてから走査線Ynの選択が終了するまでの期間に相当する。この期間t1〜t2において、データ線群Xacには第3サブ光源23C用の送信データDcが共通して供給され、この送信データDcに応じたレベルにデータ線群Xacが維持される。
【0096】
ここで、データ線群Xacに接続された第1サブ光源23Aは、走査線群Yabが非選択のため電気的に分離されている。したがって、データ線群Xacに供給された送信データDcは、第3サブ光源23Cにのみ供給され、これに応じた書き込みが第3サブ光源23Cにおいて行われる。
【0097】
また、期間t1〜t2において、データ線群Xbdには第4サブ光源23D用の送信データDdが共通して供給され、この送信データDdに応じたレベルにデータ線群Xbdが維持される。このとき、データ線群Xbdに接続された第2サブ光源23Bは、走査線群Yabが非選択のため電気的に分離されている。したがって、データ線群Xbdに供給された送信データDdは、第4サブ光源23Dにのみ供給され、これに応じた書き込みが第4サブ光源23Dにおいて行われる。
【0098】
なお、図9においては、同一のサブ光源23に対応する走査線群を順次走査するケースを例示したが、駆動回路の駆動能力を十分に確保できることを条件として、サブ光源23ごとに対応する走査線群を同時に一括選択することもできる。
【0099】
ここで、前述した図5および図6に示すように制御回路28を構成しておけば、電流プログラム方式および電圧プログラム方式のいずれにおいても、第1サブ光源23A、第2サブ光源23B、第3サブ光源23Cおよび第4サブ光源23Dの独立的な駆動を実現することができる。
【0100】
〈有機EL素子の構成例〉
有機EL素子は、自由なサイズ設計が可能、超小型化が可能、高速応答が可能といった優れた特長を有する。有機EL素子を、照明光通信に利用する場合には、個々の素子面積はより小さいものが好適である。個々の素子面積が小さいほど、有機EL素子の静電容量は小さくなる傾向にあるので、応答速度を規定する素子のRC時定数も同様に小さくなり、ひいては有機EL素子の面積が小さくなるほどその応答速度が速くなるからである。
【0101】
素子面積(発光面積)は、10-8cm2以上1cm2以下とするのがよく、好ましくは10-8cm2以上10-1cm2以下とするのがよく、さらに好ましくは10-8cm2以上10-2cm2以下とするのがよい。
【0102】
従来のLEDでは、半導体基板にLEDを形成した後、半導体基板を分割して個々のチップとし、配線が形成された回路基板にチップを取り付けて使用する。チップにはLEDを回路基板に接続する際に必要となる接続部位が設けられるので、チップの大きさはLEDよりも大きくなる。またLEDのチップとしては、台座および樹脂レンズなどが必要となるため、実際に発光する部分よりも大きな素子となる。さらにそのチップを回路基板に実装するためには、基板側にも接続部位を設ける必要があるので、チップよりも大きい実装面積が必要となり、LED自体が小さいものであったとしても、送信装置の小型化には自ずと限界がある。
【0103】
これに対して、有機EL素子の場合には、例えば素子の動作を制御する制御回路および配線などが形成された基板上に素子を直接的かつ配線と一体的に形成することができる。すなわち、従来のLEDのようには有機EL素子自体の大きさよりも大きい実装面積を必要とせず、発光ユニットの高集積化が容易であり、送信装置の小型化を実現することができる。そして、基板に作り込まれた有機EL素子をそのまま動作させて利用できるので、設計上の自由度が高く、素子の小型化が比較的容易である。以上のような理由から、有機EL素子は、照明光通信用の発光素子として極めて好適である。
【0104】
大容量データの高速通信を可能にするためには、複数の発光ユニットからデータを並列的に送信することが好ましく、そのためには、複数の発光ユニットを配列する必要がある。
【0105】
また、従来のLEDの場合には、送信装置における照明用光源の強度変調は、ドライバIC(IC:Integrated Circuit)といった外部制御回路を用いて行う必要があった。そのため、送信装置を構成するユニットの小型化が困難であった。
【0106】
これに対して、有機EL素子の場合には、発光層を含む発光部の近傍に薄膜トランジスタ等の変調素子からなる制御回路を一体的に形成することができる。制御回路と有機EL素子とを、例えば積層して一体化すれば、発光ユニットの小型化が容易である。
【0107】
このように、有機EL素子を用いることにより、発光ユニットのさらなる小型化や集積化が可能であり、有機EL素子と制御回路との積層構造も容易に製造できるので、高速大容量の照明光通信に対応した送信装置の小型化を実現することができる。
【0108】
有機EL素子としては、蛍光発光型(一重項遷移)とリン光発光型(三重項遷移)が知られているが、本実施形態では、どちらを使用してもよい。
【0109】
有機EL素子は、その発光のメカニズムによって、蛍光発光(一重項励起状態からの発光)型とリン光発光(三重項励起状態からの発光)型とに分けられる。一般に、蛍光発光型はリン光発光型よりも発光の減衰時間が短く、室温(20℃程度)では蛍光発光型で約10ns程度、リン光発光型で約1μs程度である。したがって、どちらを用いても、素子単体で1Mbps程度の伝送速度までの信号通信に対応可能である。
【0110】
また、本発明の実施形態において、蛍光発光型の有機EL素子およびリン光発光型の有機EL素子の双方を混載した集積デバイスを照明用光源として用いてもよい。有機EL素子を小さくし、RC時定数を小さくして応答速度を上げても、発光の減衰時間で規定される速度以上に応答速度を上げることはできないが、蛍光発光型は、リン光発光型よりも応答速度をより速くできるので、高速な通信用途に適しているといえる。リン光発光型は、蛍光発光型よりも発光効率をより高くできるので、照明用途に適している。
【0111】
有機EL素子は発光層材料を素子ごとに選択的に分けて形成できる。よって、照明用光源において、例えば照明用の有機EL素子をリン光発光型とし、通信用の有機EL素子を蛍光発光型とするというように、照明用光源が、送信データに基づいて変調された変調光を出射する通信用の有機EL素子と、非変調光を出射する照明用の有機EL素子とを含んで構成されてもよい。
【0112】
この場合には、蛍光発光型の有機EL素子には、照明機能および通信機能の双方を担わせて、送信すべき送信データに基づいて変調された変調光を出射する通信用の有機EL素子としてこれを用いるのがよい。また、リン光発光型の有機EL素子には、照明機能のみを担わせて、一定の非変調光を出射する照明用の有機EL素子としてこれを用いるのがよい。
【0113】
これら照明用の有機EL素子および通信用の有機EL素子は、前述したサブ光源ごとにいずれかの有機EL素子を選択して設ける構成としてもよい。また、単一のサブ光源内に照明用の有機EL素子および通信用の有機EL素子を混在させてもよい。
【0114】
これにより、照明効率の向上と通信の高速化とを両立した照明システムが構築できる。ただし、このような構成では、照明からの全光量に対して、通信情報が重畳された光、すなわち信号光の割合が小さくなる。したがって、受信装置として、光の強度変化に敏感なシステムが必要になる。全光量に対する蛍光、すなわち信号光の割合としては、1%以上50%以下であることが望ましい。
【0115】
一般照明を用いて照明光通信を行う場合には、照明用光源は白色であることが望ましい。有機EL素子で白色光を得るためには、1つの素子内部にR素子、G素子、およびB素子の発光層を積層する方法がある。
【0116】
これらの白色光を発光する有機EL素子は、従来の蛍光体を用いた、いわゆる白色LEDのような電流注入による青色発光→蛍光体励起→黄色発光というプロセス非経由で、電流注入直接再結合により複数の波長の発光を出射する。そのため、従来の蛍光体を用いた白色LEDよりも応答速度がより速いという特長があり、照明光通信システムに好適である。
【0117】
図10を参照して、送信装置に好適に適用可能な有機EL素子26の構成例につき説明する。
【0118】
図10は、有機EL素子の概略的な断面図である。なお、陰極より外側の構造については、図示およびその詳細な説明を省略する。
本実施形態の有機EL素子は、TFT基板50上に設けられている。ここでは、いわゆるアクティブマトリクス方式の面光源として基板50上に形成された1つの有機EL素子26の構成を説明する。
【0119】
有機EL素子26は、マトリクス状に設定された複数の画素領域51それぞれに設けられる(図4参照)。
【0120】
有機EL素子26は、陽極52と、陰極58と、陽極52および陰極58間に設けられ、かつそれぞれが発光層を含む複数の発光部と、発光部に挟持されて配置される電荷発生層57とを有する。
【0121】
有機EL素子26は、2個以上、すなわち複数の発光部を備える。有機EL素子26のとりうる構成例を以下に示す。
(i)陽極52/第1の発光部56A/電荷発生層57/第2の発光部56B/陰極58
(ii)陽極52/第1の発光部56A/(電荷発生層/発光部)×n−1/陰極58
【0122】
ここで記号「/」は、記号「/」を挟む層が隣接して積層されていることを表す。また記号「n」は、2以上の正数を表し、「(電荷発生層/発光部)×n−1」は、電荷発生層と発光部とからなる積層体が、n−1段積層されていることを表す。換言すると、有機EL素子26は、n層の発光部と、発光部に挟持されて配置されるn−1層の電荷発生層57とを含む。
【0123】
図10に示すように、本実施の形態では、有機EL素子26は、第1の発光部56Aおよび第2の発光部56Bの2個の発光部と、これら2つの発光部に挟持される電荷発生層57とを備える。電荷発生層57は、第1の発光部56A上に設けられる第1電荷発生層57Aと、この第1電荷発生層57A上に設けられる第2電荷発生層57Bとを有している(詳細は後述する)。
【0124】
有機EL素子26は、通常、(i)または(ii)の構成において、陽極52が最も基板50寄りに配置するように基板上に設けられる。図示例では陽極52は、基板50の第1主面50a上に設けられている。なお、有機EL素子26は、(i)または(ii)の構成において、陰極58が最も基板50寄りに配置するように基板上に設けられてもよい。本実施の形態の有機EL素子26は、基板50上に、陽極52と、正孔注入層54および第1の発光層53からなる第1の発光部56Aと、第1電荷発生層57Aおよび第2電荷発生層57Bからなる電荷発生層57と、第2の発光層59からなる第2の発光部56Bと、陰極58とがこの順に積層されて構成される。
【0125】
<基板>
本実施形態の有機EL素子26が設けられる基板50は、第1主面50aおよび第1主面50aと対向する第2主面50bを有している。基板50は、有機EL素子26を形成する際に変化しないものであればよく、例えばガラス、プラスチック、シリコン基板、これらを積層したものなどが用いられる。基板50としては、市販のものが使用可能である。また公知の方法により基板50を製造することもできる。なお本実施の形態では、基板50にはTFT基板を用いている。TFT基板としては、例えば市販のものを利用することができる。
【0126】
<陽極>
有機EL素子26は、発光部から出射された光を大気といった外部環境に取り出す必要があるので、陽極52および陰極58のうちの少なくとも一方が透光性を有する電極によって構成される。本実施の形態では、陽極52側から光を取り出す、すなわちボトムエミッション型の構成の有機EL素子26について説明する。
【0127】
本実施の形態の有機EL素子26の陽極52としては、透光性を示す電極とすることが陽極52を通して出射光を取り出せるため好ましい。かかる電極としては、電気伝導度の高い金属酸化物、金属硫化物および金属などの薄膜を用いることができ、光透過率の高いものが好適に用いられる。具体的には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO、インジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide:略称IZO)、金、白金、銀、および銅などからなる薄膜が用いられ、これらの中でもITO、IZO、または酸化スズからなる薄膜が好適に用いられる。陽極52の作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法などを挙げることができる。また、陽極52として、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などの有機の透明導電膜を用いてもよい。
【0128】
なお、例えば陽極52側から出射光を取り出さない、いわゆるトップエミッション型の構成を有する有機EL素子26の場合などには、光を反射させる材料を用いて陽極52を形成してもよく、材料としては、仕事関数3.0eV以上の金属、金属酸化物、金属硫化物が好ましい。
【0129】
陽極52の膜厚は、出射光の透過性と電気伝導度とを考慮して、適宜選択することができるが、例えば10nm〜10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
【0130】
<電荷発生層>
電荷発生層57は、陽極52と陰極58とに電圧を印加したときに、電荷(正孔と電子)を発生し、電荷発生層57に対して陽極52側に隣接する第1の発光部56Aに電子を注入するとともに、電荷発生層57に対して陰極58側に隣接する第2の発光部56Bに正孔を注入する層として機能する。このように陽極52および陰極58から注入される電荷に、電荷発生層57から発生する電荷が加えられるので、注入した電流に対する発光効率(電流効率)が向上する。
【0131】
本実施の形態の有機EL素子26においては、図10に示すように、この電荷発生層57が第1の発光部56Aおよび第2の発光部56Bに狭持され、これら第1の発光部56A及び第2の発光部56Bを仕切っている。
【0132】
本実施の形態における電荷発生層57は、仕事関数が3.0eV以下の金属、その化合物、およびイオン化ポテンシャルが5.5eV以下の電子供与性の有機物からなる群から選ばれる1種類以上(以下、A材料という場合がある)と、仕事関数が4.0eV以上の化合物の1種類以上(以下、B材料という場合がある)とを含むことが好ましい。電荷発生層57は、A材料を単独で用いるよりも、B材料と組合せて用いることにより、電荷を効率的に発生することができる。
【0133】
仕事関数が3.0eV以下の金属の化合物とは、金属自体の仕事関数が3.0eV以下であり、かつ化合物自体の仕事関数が3.0eV以下である化合物をさす。仕事関数が前述の範囲を満たす材料を電荷発生層57が含まない場合には、有効な電荷注入が起こりにくくなるおそれがある。
【0134】
電荷発生層57を構成する仕事関数が3.0eV以下の金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、および希土類金属からなる群から選択することができる。中でもアルカリ金属およびアルカリ土類金属が好ましい。アルカリ金属としては、リチウム(Li)(2.93eV)、ナトリウム(Na)(2.36eV)、カリウム(K)(2.28eV)、ルビジウム(Rb)(2.16eV)、およびセシウム(Cs)(1.95eV)が好ましく、アルカリ土類金属としては、カルシウム(Ca)(2.9eV)およびバリウム(Ba)(2.52eV)が好ましい(カッコ内は仕事関数を示す)。これらの中では、Liがより好ましい。また、電荷発生層57を構成する仕事関数が3.0eV以下の金属の化合物としては、前述の金属の酸化物、ハロゲン化物、フッ化物、ホウ化物、窒化物、炭化物等が挙げられる。
【0135】
イオン化ポテンシャルが5.5eV以下の電子供与性の有機物としては、アリールアミン化合物であるのが好ましい。この様なアリールアミン化合物の例としては、特に限定はないが、例えば、N,N,N’,N’−テトラフェニル−4,4’−ジアミノフェニル、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(3−メチルフェニル)−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)プロパン、N,N,N’,N’−テトラ−p−トリル−4,4’−ジアミノビフェニル、ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)フェニルメタン、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(4−メトキシフェニル)−4,4’−ジアミノビフェニル、N,N,N’,N’−テトラフェニル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ビス(ジフェニルアミノ)クオードリフェニル、4−N,N−ジフェニルアミノ−(2−ジフェニルビニル)ベンゼン、3−メトキシ−4’−N,N−ジフェニルアミノスチルベンゼン、N−フェニルカルバゾール、1,1−ビス(4−ジ−p−トリアミノフェニル)−シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ジ−p−トリアミノフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン、ビス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)−フェニルメタン、N,N,N−トリ(p−トリル)アミン、4−(ジ−p−トリルアミノ)−4’−[4(ジ−p−トリルアミノ)スチリル]スチルベン、N,N,N’,N’−テトラフェニル−4,4’−ジアミノ−ビフェニルN−フェニルカルバゾール、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル、4,4’’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]p−ターフェニル、4,4’−ビス[N−(3−アセナフテニル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル、1,5−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ナフタレン、4,4’−ビス[N−(9−アントリル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル、4,4’’−ビス[N−(1−アントリル)−N−フェニル−アミノ]p−ターフェニル、4,4’−ビス[N−(2−フェナントリル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル、4,4’−ビス[N−(8−フルオランテニル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル、4,4’−ビス[N−(2−ピレニル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル、4,4’−ビス[N−(2−ペリレニル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル、4,4’−ビス[N−(1−コロネニル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル、2,6−ビス(ジ−p−トリルアミノ)ナフタレン、2,6−ビス[ジ−(1−ナフチル)アミノ]ナフタレン、2,6−ビス[N−(1−ナフチル)−N−(2−ナフチル)アミノ]ナフタレン、4.4’’−ビス[N,N−ジ(2−ナフチル)アミノ]ターフェニル、4.4’−ビス{N−フェニル−N−[4−(1−ナフチル)フェニル]アミノ}ビフェニル、4,4’−ビス[N−フェニル−N−(2−ピレニル)−アミノ]ビフェニル、2,6−ビス[N,N−ジ(2−ナフチル)アミノ]フルオレン、4,4’’−ビス(N,N−ジ−p−トリルアミノ)ターフェニル、ビス(N−1−ナフチル)(N−2−ナフチル)アミン、4,4’−ビス[N−(2−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)、スピロ−NPB、スピロ−TAD、2−TNATAなどがある。さらに、従来有機EL素子の作製に使用されている公知のものを適宜用いることができる。またさらに、該アリールアミン化合物はガラス転移点が90℃以上であるアリールアミン化合物であることが、素子の耐熱性の観点から望ましい。上記、α−NPD、スピロ−NPB、スピロ−TAD及び2−TNATAはガラス転移点が90℃以上である、好適な化合物の例である。
【0136】
仕事関数が4.0eV以上の化合物としては、仕事関数が4.0eV以上の無機または有機化合物が選ばれる。仕事関数が4.0eV以上の無機化合物としては、遷移金属酸化物が望ましく、遷移金属酸化物の中でも、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、マンガン(Mn)、テクネチウム(Tc)、レニウム(Re)などの酸化物が好ましく、V2O5がより好ましい。
【0137】
仕事関数が4.0eV以上の有機化合物としては、後の工程で用いられる塗布液に溶解しにくく、かつ仕事関数が3.0eV以下の金属またはその化合物から電子を受け取りやすい電子受容性の材料が好ましい。さらに好ましくは、仕事関数が3.0eV以下の金属またはその化合物と電荷移動錯体を形成することが好ましい。このような材料の例として、テトラフルオロ−テトラシアノキノジメタン(4F−TCNQ)が挙げられる。
【0138】
電荷発生層57は、以下の2通りの構造をとり得る。
(i)電荷発生層57が、A材料を含む第1電荷発生層57Aと、B材料を含む第2電荷発生層57Bとを含む(積層構造:図10参照)。
(ii)電荷発生層57が、A材料とB材料とが混合された層である(混合層)。
【0139】
図10に示すように、積層構造とする場合には、第1電荷発生層57Aを、第2電荷発生層57Bよりも陽極52寄りに配置することが好ましい。
【0140】
混合層とする場合には、共蒸着などの手法により、2種類の材料が混合した層を一度に形成する方法や、第1電荷発生層57Aを構成する材料を極めて薄く形成することにより、連続膜になる前の島状の離散的な構造を形成し、この島状構造の上に第2電荷発生層57Bを形成することにより混合層とする方法、などを用いて混合層を形成することができる。
【0141】
本発明の効果を十分に得るためには、第1電荷発生層57Aの厚さは10nm以下が好ましく、より好ましくは6nm以下である。また、第2電荷発生層57Bの厚さは、2nm以上100nm以下が望ましく、さらに望ましくは4nm以上80nm以下である。
【0142】
本実施形態の電荷発生層57は、さらに第3の層として、透明導電性薄膜を含んでいてもよい。透明導電性薄膜としては、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、インジウムスズ酸化物(ITO)などを用いることができる。
【0143】
本実施形態の電荷発生層57の光透過率は、発光部から出射される光に対して高い透過率を有することが望ましい。十分に光を取り出し、十分な輝度を得るためには、波長550nmでの透過率が30%以上であることが好ましく、さらに好ましくは50%以上である。
【0144】
<発光部>
次に発光部について説明する。発光部は、少なくとも発光層を含んで構成される。なお発光部は発光層のみによって構成されていてもよく、また無機層を含んでいてもよい。発光部は、マルチフォトン型ではない有機EL素子、すなわち1層の発光層を有する通常の有機EL素子のうちの、陽極52と陰極58とに挟持された部分と同様の構成を有する。
【0145】
発光部は、必要に応じて発光層以外の層を有している場合がある。発光部を構成する層のうちで、発光層を基準にして陽極52側に設けられる層としては、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層などを挙げることができる。正孔注入層と正孔輸送層との両方の層が設けられる場合には、電荷発生層または陽極52に接する層を正孔注入層といい、この正孔注入層を除く層を正孔輸送層という。
【0146】
図10に示されるように、本実施形態の発光部のうち、陽極52寄りに設けられる第1の発光部56Aは、陽極52に接して設けられる正孔注入層54と、正孔注入層54に接して設けられる第1の発光層53とを含んでいる。正孔注入層54は、電荷発生層57または陽極52からの正孔注入効率を改善する機能を有する層である。正孔輸送層は、陽極、電荷発生層、正孔注入層または陽極により近い正孔輸送層からの正孔注入を改善する機能を有する層である。電子ブロック層は、電子の輸送を堰き止める機能を有する層である。なお正孔注入層、および/または正孔輸送層が電子の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が電子ブロック層を兼ねることがある。
【0147】
発光部を構成する層のうち、発光層を基準にして陰極58側に設けられる層としては、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層などを挙げることができる。電子注入層と電子輸送層との両方の層が設けられる場合、陰極58に接する層を電子注入層といい、この電子注入層を除く層を電子輸送層という。
【0148】
電子注入層は、陰極58または電荷発生層57からの電子注入効率を改善する機能を有する層である。電子輸送層は、陰極58、電荷発生層、電子注入層または陰極により近い電子輸送層からの電子注入を改善する機能を有する層である。正孔ブロック層は、正孔の輸送を堰き止める機能を有する層である。なお電子注入層、および/または電子輸送層が正孔の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層が正孔ブロック層を兼ねることがある。
【0149】
正孔ブロック層が正孔の輸送を堰き止める機能を有することは、例えばホール電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
【0150】
発光部のとりうる構成の具体的な例を以下に示す。
a)発光層
b)正孔注入層/発光層
c)正孔注入層/発光層/電子注入層
d)正孔注入層/発光層/電子輸送層/電子注入層
e)正孔注入層/正孔輸送層/発光層
f)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層
g)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層
h)発光層/電子注入層
i)発光層/電子輸送層/電子注入層
なお以上のa)〜i)の構成では、左側が陽極52寄りの層であり、右側が陰極58寄りの層である。
【0151】
有機EL素子が有する複数の発光部は、互いに同じ層構成であってもよく、また互いに異なる層構成であってもよい。図10に示す本実施形態の陽極52側の第1の発光部56Aは、b)の構成、すなわち正孔注入層と発光層との積層体によって構成され、正孔注入層54が発光層に対して陽極寄りに積層された構成を有し、第2の発光部56Bは、a)の構成、すなわち単一の発光層のみから構成されている。
以下、発光部を構成する各層についてさらに詳しく説明する。
【0152】
<正孔注入層>
正孔注入層54を構成する正孔注入材料としては、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、および酸化アルミニウムなどの酸化物や、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、アモルファスカーボン、ポリアニリン、およびポリチオフェン誘導体などを挙げることができる。
【0153】
正孔注入層54の成膜方法としては、例えば正孔注入材料を含む溶液からの成膜を挙げることができる。溶液からの成膜に用いられる溶媒としては、正孔注入材料を溶解させるものであれば特に制限はなく、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテートなどのエステル系溶媒、および水を挙げることができる。
【0154】
溶液からの成膜方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法などの塗布法を挙げることができる。
【0155】
正孔注入層の膜厚は、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように適宜設定され、少なくともピンホールが発生しないような厚さが必要であり、あまり厚いと、素子の駆動電圧が高くなってしまうおそれがある。従って正孔注入層の膜厚は、例えば1nm〜1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0156】
<正孔輸送層>
正孔輸送層を構成する材料としては、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリピロール若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、またはポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体などが例示される。
【0157】
これらの中で、正孔輸送層に用いる正孔輸送材料として、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミン化合物基を有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、又はポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体等の高分子正孔輸送材料が好ましく、さらに好ましくはポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体である。低分子の正孔輸送材料の場合には、高分子バインダーに分散させて用いることが好ましい。
【0158】
正孔輸送層の成膜の方法に制限はないが、低分子正孔輸送材料では、高分子バインダーとの混合溶液からの成膜による方法が例示される。また、高分子正孔輸送材料では、溶液からの成膜による方法が例示される。
【0159】
溶液からの成膜に用いる溶媒としては、正孔輸送材料を溶解させるものであれば特に制限はない。溶媒として、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン等の塩素系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート等のエステル系溶媒が例示される。
【0160】
溶液からの成膜方法としては、溶液からのスピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法等の塗布法を用いることができる。パターン形成が容易であるという点で、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法が好ましい。
【0161】
混合する高分子バインダーとしては、電荷輸送を極度に阻害しないものが好ましく、また可視光に対する吸収が強くないものが好適に用いられる。高分子バインダーとしては、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサン等が例示される。
【0162】
正孔輸送層の膜厚としては、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択すればよいが、少なくともピンホールが非発生となる厚さが必要であり、あまり厚いと、素子の駆動電圧が高くなってしまうおそれがある。従って、正孔輸送層の膜厚としては、例えば1nmから1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0163】
<発光層>
発光層は、本発明においては有機発光層であることが好ましく、通常、主として蛍光またはリン光を発光する有機物(低分子化合物及び/又は高分子化合物)を有する。なお、さらにドーパント材料を含んでいてもよい。本発明において用いることができる発光層を形成する材料としては、例えば以下のものが挙げられる。発光色としては、赤、青、緑の3原色の発光以外に、中間色や白色の発光が例示される。
【0164】
(色素系材料)
色素系材料としては、例えば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマー、ナフタレン誘導体、アントラセン若しくはその誘導体、ポリメチン系、キサンテン系、シアニン系、テトラフェニルシクロペンタジエン若しくはその誘導体などが挙げられる。
【0165】
(金属錯体系材料)
金属錯体系材料としては、例えば、イリジウム錯体、白金錯体等の三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体など、中心金属に、Al、Zn、BeなどまたはTb、Eu、Dyなどの希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを有する金属錯体などを挙げることができる。
【0166】
(高分子系材料)
高分子系材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、上記色素体や金属錯体系発光材料を高分子化したものなどが挙げられる。
【0167】
上記発光性材料のうち、青色に発光する材料としては、ジスチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、およびそれらの重合体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体やポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0168】
また、緑色に発光する材料としては、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0169】
また、赤色に発光する材料としては、クマリン誘導体、チオフェン環化合物、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることが出来る。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0170】
(ドーパント材料)
発光層中に発光効率の向上や発光波長を変化させるなどの目的で、ドーパントを添加することができる。このようなドーパントとしては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾンなどを挙げることができる。なお、このような発光層の厚さは、通常約20〜2000Åである。
【0171】
有機物を含む発光層の成膜方法としては、溶液から成膜する方法、真空蒸着法、転写法などを用いることができる。溶液からの成膜に用いる溶媒の具体例としては、前述の溶液から正孔輸送層を成膜する際に正孔輸送材料を溶解させる溶媒と同様の溶媒が挙げられる。
溶液から成膜する際に溶液を塗布する方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法等の塗布法を用いることができる。パターン形成や多色の色分けが容易であるという点で、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の印刷法が好ましい。また、昇華性の低分子化合物の場合は、真空蒸着法を用いることができる。さらには、レーザーによる転写や熱転写により、所望のところのみに発光層を形成する方法も用いることができる。
【0172】
本発明の有機EL素子26では、複数個の発光部の少なくとも一つにおいて発光層は高分子発光材料を含有することが好ましい。高分子発光材料の重量平均分子量は1万から1000万が好ましく、さらに好ましくは2万から500万である。また高分子発光材料は有機溶剤に対して可溶性を有することが好ましい。高分子発光層の厚みとしては、5nmから300nmが例示され、30〜200nmが好ましく、さらに好ましくは40〜15nmである。
【0173】
(混色、白色)
本実施形態の有機EL素子26は、同時に発光する複数の発光部を含むため、各々の発光部の発光波長を互いに異なるようにすることによって、混色により有機EL素子26から取り出される出射光の色を、各発光部から発せられる光の色とは別の色とすることが可能である。例えば補色の関係にある2色の組合せや、RGBなど3色の混色、または4色以上の混色によって、取り出される光の色を白色とすることができる。各発光部の発光波長を互いに異なるようにすることによって、所期の発光色を有する出射光を取り出すことができるので、設計の自由度が向上する。
【0174】
<電子輸送層>
電子輸送層としては、公知のものが使用でき、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン若しくはその誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、ナフトキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタン若しくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン若しくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、または8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体等が例示される。
【0175】
これらのうち、オキサジアゾール誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、又は8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体が好ましく、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、ベンゾキノン、アントラキノン、トリス(8−キノリノール)アルミニウム、ポリキノリンがさらに好ましい。
【0176】
電子輸送層の成膜法としては特に制限はないが、低分子電子輸送材料では、粉末からの真空蒸着法、又は溶液若しくは溶融状態からの成膜による方法が、高分子電子輸送材料では溶液又は溶融状態からの成膜による方法がそれぞれ例示される。溶液又は溶融状態からの成膜時には、高分子バインダーを併用してもよい。溶液から電子輸送層を成膜する方法としては、前述の溶液から正孔輸送層を成膜する方法と同様の成膜法があげられる。
【0177】
電子輸送層の膜厚としては、用いる材料によって最適値が異なり、駆動電圧と発光効率が適度な値となるように選択すればよいが、少なくともピンホールが発しないような厚さが必要であり、あまり厚いと、素子の駆動電圧が高くなってしまうおそれがある。従って、電子輸送層の膜厚としては、例えば1nmから1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0178】
<電子注入層>
電子注入層は、電子輸送層と陰極58との間、または発光層と陰極58との間に設けられる。電子注入層としては、発光層の種類に応じて、アルカリ金属やアルカリ土類金属、或いは金属を1種類以上含む合金、或いは金属の酸化物、ハロゲン化物及び炭酸化物、或いは前記物質の混合物などが挙げられる。アルカリ金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、酸化リチウム、フッ化リチウム、酸化ナトリウム、フッ化ナトリウム、酸化カリウム、フッ化カリウム、酸化ルビジウム、フッ化ルビジウム、酸化セシウム、フッ化セシウム、炭酸リチウム等が挙げられる。また、アルカリ土類金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、酸化カルシウム、フッ化カルシウム、酸化バリウム、フッ化バリウム、酸化ストロンチウム、フッ化ストロンチウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。電子注入層は、2層以上を積層したものであってもよい。具体的には、LiF/Caなどが挙げられる。電子注入層は、蒸着法、スパッタリング法、印刷法等により形成される。電子注入層の膜厚としては、1nm〜1μm程度が好ましい。
【0179】
<陰極>
本実施の形態の有機EL素子26で用いる陰極58の材料としては、仕事関数が小さく発光層への電子注入が容易な材料であり、電気伝導度が高く、可視光反射率の高い材料が好ましい。陰極の材料として金属では、アルカリ金属やアルカリ土類金属、遷移金属や周期表の13族金属を用いることができる。例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウムなどの金属、又は前記金属のうち2つ以上の合金、又はそれらのうち1つ以上と、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、錫のうち1つ以上との合金、又はグラファイト若しくはグラファイト層間化合物等が用いられる。合金の例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、カルシウム−アルミニウム合金などが挙げられる。また、陰極58として透明導電性電極を用いることができ、例えば導電性金属酸化物や導電性有機物などを用いることができる。具体的には、導電性金属酸化物として酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITOやIZO、導電性有機物としてポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などの有機の透明導電膜を用いてもよい。なお、陰極58を2層以上の積層構造としてもよい。なお、電子注入層が陰極58として用いられる場合もある。
【0180】
陰極58の膜厚は、電気伝導度や耐久性を考慮して、適宜選択することができるが、例えば10nmから10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
【0181】
陰極58の作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、また金属薄膜を圧着するラミネート法等が用いられる。
【0182】
(キャビティ効果)
積層する層の順番や数、および各層の厚さについては、発光効率や素子寿命を勘案して適宜用いることができるが、キャビティ効果(光の干渉効果)を考慮することが好ましい。具体的には、陽極52と陰極58とに挟持された積層体の厚さが、発光部が出射する出射光の波長を積層体の平均屈折率で割った値の1/4の整数倍であることが好ましい。このような関係が満足される構成では、光の干渉効果により光取り出し効率が最大となるためである。この関係は厳密に成立しているときに効果が最大となるが、誤差はあっても効果は認められ、おおむね積層体の厚さが、発光波長を平均屈折率で割った値の1/4の整数倍の±20%以内であればよい。さらに実質的に発光している部位と、光を反射する方の反射性電極(本実施の形態では陰極58)との距離が、発光波長を平均屈折率で割った値の1/4の整数倍となる場合に光の干渉効果が最大となるので好ましい。有機EL素子が、発光色が異なる複数の発光部からなる場合は、どれか一つの波長に対して前記の関係が成り立つように膜厚を制御することが好ましい。あるいは2つの波長に対して層厚の関係が前述したように同時に成り立つように層厚を制御してもよい。
【0183】
以上説明したマルチフォトン型の有機EL素子では、マルチフォトン型ではない有機EL素子に比べると、電流効率が高くなり、ひいては発光効率が高くなる。またマルチフォトン型の有機EL素子は、各発光部から放射される光が積算された光を利用するので、マルチフォトン型ではない有機EL素子に比べると、等量の光を取り出す場合に、各発光部が放射する光の光量を抑制することができる。これによって、マルチフォトン型の有機EL素子の場合には、各発光部に流れる電流量を低減することができるため、各発光部の負荷を低減することができる。この負荷の低減により、発光部の劣化の進行を抑制することができる。結果として有機EL素子の素子寿命を向上することができる。
【0184】
また、マルチフォトン型の有機EL素子は、基板の厚み方向に発光部を積層するので、実装面積を増大させることなく、発光部の積層数を増加させることができる。したがって実装面積を増大させることなく、発光光量の多い有機EL素子を実現することができ、結果として所期の光量で発光する小型の有機EL素子を容易に実現することができ、ひいては小型の送信装置を実現することができる。また有機EL素子には複数の発光部を仕切る電荷発生層が設けられるので、この1または複数の電荷発生層と、陽極と、陰極とによって、キャパシタの直列接続が擬似的に構成されることになり、結果としてRC時定数がより小さくなる。これによって応答速度の高い有機EL素子を実現することができる。このような有機EL素子を含む照明用光源を用いることにより、伝送速度および発光効率が高い照明光通信システム用の送信装置を実現することができる。さらにこのような送信装置と受信装置とを備える照明光通信システムにより、高速通信が可能となる。
【0185】
なお高分子発光材料は低分子発光材料に比べると溶媒への溶解性が高いので、塗布法で発光層を形成する材料として適している。したがって高分子発光材料を用いて発光層を形成する場合、該発光層は、工程の簡易さの観点からも塗布法で形成することが好ましい。発光層などの発光部を塗布法で形成する場合には、ウェットプロセスに対する耐性の観点から、仕事関数が3.0eV以下の金属およびその化合物の1種類以上と、仕事関数が4.0eV以上の化合物の1種類以上とを含んでなることが好ましい。
【実施例】
【0186】
以下、作製例および参考例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の例示に限定されるものではない。
【0187】
作製例1〜2および参考例1〜4では、2つの発光部、すなわち第1の発光部56Aと第2の発光部56Bとを1つの電荷発生層57で仕切った構造の有機EL素子を作製した。仕事関数4.0eV以上のV2O5を用いて電荷発生層を形成し、その効果を確認した。
【0188】
<作製例1> (ITO/PEDOT/MEH−PPV/Li/V2O5/MEH−PPV/LiAl)
作製例1における有機EL素子の作製例を、図10を参照しながら説明する。図10に示す有機EL素子26において、陽極52として利用するITO膜を、スパッタ法により150nmの厚みで形成したガラス基板50に、BYTRON製のPEDOT/PSS溶液をスピンコート法により40nmの厚みで成膜し、窒素雰囲気下において200℃で熱処理して正孔注入層54とした。ついで、これに発光材料としてAldrich社製の重量平均分子量が約20万のMEH−PPV(ポリ(2−メトキシ−5−(2’−エチル−ヘキシロキシ)−パラ−フェニレンビニレン)の1重量%トルエン溶液を作製し、これをPEDOT/PSSが製膜された基板上にスピンコートして90nmの膜厚で第1の発光層53を製膜した。正孔注入層54と第1の発光層53との積層体を第1の発光部56Aとする。
【0189】
この上に真空蒸着法により、電荷発生層57としてLi(仕事関数:2.93eV)、V2O5(仕事関数:4eV以上)を順次それぞれ、2nm、20nmの厚みで形成し、第1電荷発生層57A、第2電荷発生層57Bを成膜した。ここでLiの蒸着はAl−Li合金(Li含有率0.05%)を用い、Alが飛びはじめる前の数十秒間、先に飛ぶLiのみを蒸着することで行い、その直後にV2O5の蒸着を行った。
【0190】
さらに、V2O5膜上に、MEH−PPVの1重量%トルエン溶液をスピンコートし
て、90nmの膜厚で第2の発光層59(第2の発光部56B)を製膜した。さらにこの上に真空蒸着法により陰極58としてAl−Li合金を100nm形成した。以上により2つの発光部を1つの電荷発生層57で仕切った構造の有機EL素子26を作製した。
得られた素子に直流電圧を印加したところ、発光開始電圧12V、最大輝度80cd/m2であった。
電流効率は0.072cd/Aであり、下記の比較例1の素子(0.037cd/A)に比べて1.95倍に増大した。
【0191】
<参考例1>
比較のために、作製例1において電荷発生層57と第2の発光部56Bとを非形成とする以外は作製例1と同様にして、図11に示すように第1の発光層53が1つだけの有機EL素子26を作製した。図中の図10に示した符号と同一の符号は、図10におけるものと同様である。参考例1における有機EL素子26に直流電圧を印加したところ、発光開始電圧5.5V、最大輝度52cd/m2であった。電流効率は0.037cd/Aであった。
【0192】
<参考例2>
電荷発生層57として、膜厚30nmのV2O5の1層のみからなるものを用いたことを除いて、作製例1と同様の構成として有機EL素子を作製した。得られた素子の発光開始電圧は40Vであったが発光しなかった。
【0193】
<作製例2>(異なる色の発光部の積層体からなる混色素子)
作製例1における発光層であるMEH−PPVの代わりに、緑色の光を発光する下記構造式(1)で示す高分子発光材料1(略称F8−TPA−BT)からなる高分子発光層を含む第1の発光部56Aと、電荷発生層57とを形成した後、PEDOT/PSS層を形成し、引き続いて青色の光を発光する下記構造式(2)で示す高分子発光材料2(略称F8−TPA−PDA)からなる高分子発光層を含む第2の発光部56Bを成膜した後、作製例1と同様にして陰極58を形成して、2つの発光部からの発光波長が異なる素子を作製した。
【0194】
高分子材料1
【化1】
【0195】
高分子材料2
【化2】
【0196】
<参考例3、4> (作製例2の比較、緑と青の発光層のみからなる単一素子)
作製例2との比較のため、ITO/PEDOT/発光層/陰極(Li/Al)の構造の発光部1つからなる素子を、緑色発光層材料F8−TPA−BT(参考例3)、青色発光材料F8−TPA−PDA(参考例4)の場合の2つを作製した。
【0197】
比較例3、4の駆動電圧はそれぞれ3.6V、5.4Vであるのに対し、作製例2では8.0Vとなり2つのユニットを積層した素子の予想に近い電圧を示した。また作製例2の素子では2つの層からの混色により、スペクトルが広くなり白がかった緑色の発光が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0198】
【図1】照明光通信システムの概略的説明図である。
【図2】照明光通信システムの概略的説明図(2)である。
【図3】照明光通信システムの概略的説明図(3)である。
【図4】照明光通信システムの概略的説明図(4)である。
【図5】電流プログラム方式の発光ユニットの回路図である。
【図6】電圧プログラム方式の発光素子の回路図である。
【図7】発光ユニットの動作説明図である。
【図8】照明光通信システムの概略的説明図(5)である。
【図9】照明用光源の動作説明図である。
【図10】有機EL素子の概略的な断面図(1)である。
【図11】有機EL素子の概略的な断面図(2)である。
【符号の説明】
【0199】
10:照明光通信システム
20:送信装置
22:照明用光源
24:発光ユニット
23:サブ光源
23A:第1サブ光源
23B:第2サブ光源
23C:第3サブ光源
23D:第4サブ光源
26:有機EL素子
28:制御回路
29:直列/並列変換回路
30:受信装置
32:受光部
34:復調部
36:レンズ
38:並列/直列変換回路
42:走査線駆動回路
44:データ線駆動回路
50:基板
50a:第1主面
50b:第2主面
51:画素領域
52:陽極
53:第1の発光層
54:正孔注入層
56A:第1の発光部
56B:第2の発光部
57:電荷発生層
57A:第1電荷発生層
57B:第2電荷発生層
58:陰極
59:第2の発光層
X:データ線
Y:走査線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信データに基づいて変調された変調光を出射する照明用光源を備える送信装置であって、
前記照明用光源は、陽極と、陰極と、前記陽極および前記陰極間に設けられ、かつそれぞれが発光層を含む複数の発光部と、該発光部に挟持されて配置される電荷発生層とを含んで構成される有機エレクトロルミネッセンス素子を備える、照明光通信システム用の送信装置。
【請求項2】
前記電荷発生層は、仕事関数が3.0eV以下の金属、その化合物、およびイオン化ポテンシャルが5.5eV以下の電子供与性の有機物からなる群から選ばれる1種類以上と、仕事関数が4.0eV以上の化合物の1種類以上とを含んでなる、請求項1に記載の送信装置。
【請求項3】
前記照明用光源は、それぞれの発光面積が10−8cm2から10−1cm2である複数の前記有機エレクトロルミネッセンス素子を備える、請求項1または2に記載の送信装置。
【請求項4】
前記照明用光源が、前記変調光を出射する通信用の有機エレクトロルミネッセンス素子と、非変調光を出射する照明用の有機エレクトロルミネッセンス素子とを備える請求項1から3のいずれか一項に記載の送信装置。
【請求項5】
前記通信用の有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層が、蛍光を発光する発光材料を用いて形成され、かつ前記照明用の有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層が、リン光を発光する発光材料を用いて形成されてなる請求項4に記載の送信装置。
【請求項6】
前記電荷発生層が、仕事関数が3.0eV以下の金属、その化合物、およびイオン化ポテンシャルが5.5eV以下の電子供与性の有機物からなる群から選ばれる1種類以上を含む第1の層と、仕事関数が4.0eV以上の化合物の1種類以上を含む第2の層とを含んでなり、前記第1の層が、第2の層よりも前記陽極寄りに配置される、請求項1から5のいずれか一項に記載の送信装置。
【請求項7】
前記電荷発生層は、仕事関数が3.0eV以下の金属、その化合物、およびイオン化ポテンシャルが5.5eV以下の電子供与性の有機物からなる群から選ばれる1種類以上と、仕事関数が4.0eV以上の化合物の1種類以上とが混合されてなる、請求項1から6のいずれか一項に記載の送信装置。
【請求項8】
波長550nmの光に対する前記電荷発生層の光透過率が、30%以上である、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の送信装置。
【請求項9】
前記仕事関数が3.0eV以下の金属が、アルカリ金属、およびアルカリ土類金属からなる群から選択される、請求項1から8のいずれか一項に記載の送信装置。
【請求項10】
前記仕事関数が4.0eV以上の化合物が遷移金属酸化物である請求項1から9のいずれか一項に記載の送信装置。
【請求項11】
前記発光層は、重量平均分子量が1万から1000万である高分子発光材料を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の送信装置。
【請求項12】
変調光を出射する照明用光源を備える請求項1から11のいずれか一項に記載の送信装置と、前記照明用光源から出射された前記変調光を受光して電気信号に変換し、該電気信号を復調して受信データを生成する受信装置とを具備する照明光通信システム。
【請求項1】
送信データに基づいて変調された変調光を出射する照明用光源を備える送信装置であって、
前記照明用光源は、陽極と、陰極と、前記陽極および前記陰極間に設けられ、かつそれぞれが発光層を含む複数の発光部と、該発光部に挟持されて配置される電荷発生層とを含んで構成される有機エレクトロルミネッセンス素子を備える、照明光通信システム用の送信装置。
【請求項2】
前記電荷発生層は、仕事関数が3.0eV以下の金属、その化合物、およびイオン化ポテンシャルが5.5eV以下の電子供与性の有機物からなる群から選ばれる1種類以上と、仕事関数が4.0eV以上の化合物の1種類以上とを含んでなる、請求項1に記載の送信装置。
【請求項3】
前記照明用光源は、それぞれの発光面積が10−8cm2から10−1cm2である複数の前記有機エレクトロルミネッセンス素子を備える、請求項1または2に記載の送信装置。
【請求項4】
前記照明用光源が、前記変調光を出射する通信用の有機エレクトロルミネッセンス素子と、非変調光を出射する照明用の有機エレクトロルミネッセンス素子とを備える請求項1から3のいずれか一項に記載の送信装置。
【請求項5】
前記通信用の有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層が、蛍光を発光する発光材料を用いて形成され、かつ前記照明用の有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層が、リン光を発光する発光材料を用いて形成されてなる請求項4に記載の送信装置。
【請求項6】
前記電荷発生層が、仕事関数が3.0eV以下の金属、その化合物、およびイオン化ポテンシャルが5.5eV以下の電子供与性の有機物からなる群から選ばれる1種類以上を含む第1の層と、仕事関数が4.0eV以上の化合物の1種類以上を含む第2の層とを含んでなり、前記第1の層が、第2の層よりも前記陽極寄りに配置される、請求項1から5のいずれか一項に記載の送信装置。
【請求項7】
前記電荷発生層は、仕事関数が3.0eV以下の金属、その化合物、およびイオン化ポテンシャルが5.5eV以下の電子供与性の有機物からなる群から選ばれる1種類以上と、仕事関数が4.0eV以上の化合物の1種類以上とが混合されてなる、請求項1から6のいずれか一項に記載の送信装置。
【請求項8】
波長550nmの光に対する前記電荷発生層の光透過率が、30%以上である、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の送信装置。
【請求項9】
前記仕事関数が3.0eV以下の金属が、アルカリ金属、およびアルカリ土類金属からなる群から選択される、請求項1から8のいずれか一項に記載の送信装置。
【請求項10】
前記仕事関数が4.0eV以上の化合物が遷移金属酸化物である請求項1から9のいずれか一項に記載の送信装置。
【請求項11】
前記発光層は、重量平均分子量が1万から1000万である高分子発光材料を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の送信装置。
【請求項12】
変調光を出射する照明用光源を備える請求項1から11のいずれか一項に記載の送信装置と、前記照明用光源から出射された前記変調光を受光して電気信号に変換し、該電気信号を復調して受信データを生成する受信装置とを具備する照明光通信システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−102968(P2010−102968A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273624(P2008−273624)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】
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