説明

照明器具用の光線制御カバー

【課題】配光方向に対する光束を確保しながらグレアを抑制でき、しかも、薄型化を実現して光線の透過率を向上させることのできる照明器具用の光線制御カバーを提供する。
【解決手段】照明器具1の開口下面6に、光透過性を有するカバー10を装着し、このカバー10の入射面に照明器具1の光源4からの光線を入射させ、この入射した光線をカバー10の出射面から出射させる光線制御カバーであり、カバー10の入射面に、断面略半楕円形の湾曲部20を一列に連続して配列形成するとともに、カバー10の出射面に、先細りの凸部30を一列に配列形成し、カバー10の周面11、複数の湾曲部20、及び複数の凸部30の周面のうち、少なくとも複数の凸部30の周面に光線用の漏洩防止処理をそれぞれ施し、複数の湾曲部20と凸部30とを相互に対向させ、各凸部30の先端面33から光線を出射させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物や輸送機関等に設置される照明器具用の光線制御カバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
照明器具には、様々な機能が求められるが、その一つとして、期待する配光方向に対する光束の確保とグレア(眩しさ)の抑制とを両立する機能があげられる。例えば、病室のベッドに横たわる患者に医療従事者が医療行為を施す場合、病室の天井に設置される照明器具には、医療従事者の医療行為に支障を来たさない十分な明るさが求められるし、ベッド上の患者の快適性や安らぎ等がグレアで悪化しないような配慮が求められる。
【0003】
また、美術館の壁面に設置された芸術品を不特定多数の来訪者が鑑賞する場合、美術館内の照明器具には、芸術品を鑑賞する来訪者に対する光束確保と、来訪者がグレアで鑑賞に支障を来たさないような配慮が求められる。さらに、夜間に鉄道車両を利用する乗客が読書する場合、車両壁面等に設置される照明器具には、読書に支障を来たさない光束の確保が求められるし、周辺の他の乗客がグレアで不快感を催さないような配慮が要望される。
【0004】
従来の照明器具は、図4に部分的に示すように、天井に光源4が設置され、遮光部と配光制御部40とにより照明の範囲を制御し、配光方向に対する光束を確保しながらグレアを抑制するようにしている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007‐273385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の照明器具は、鉛直方向に対する光線の照射角度を小さく制御しようとすると、図5に示すように、配光制御部40を鉛直方向に伸ばして形成しなければならず、薄型化を図ることができないという問題がある。この問題を解消するため、従来においては、マイクロルーバー41を使用して鉛直方向に対する光線(矢印参照)の照射角度を小さくする方法が提案されている(図6参照)。しかし、マイクロルーバー41を使用すると、ルーバーのピッチが細かくなり、遮光部42の割合が増加するので、光線の透過率が低下するという問題が新たに生じることとなる。
【0007】
本発明は上記に鑑みなされたもので、配光方向に対する光束を確保しながらグレアを抑制することができ、しかも、薄型化を実現して光線の透過率を向上させることのできる照明器具用の光線制御カバーを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明においては上記課題を解決するため、照明器具に、光透過性を有するカバーを取り付け、このカバーの入射面に照明器具の光源からの光線を入射させ、この入射した光線をカバーの出射面から出射させる光線制御カバーであって、
カバーの入射面に、断面略半楕円形の湾曲部を配列形成するとともに、カバーの出射面に、先細りの凸部を一列に配列形成し、カバーの周面、複数の湾曲部、及び複数の凸部の周面のうち、少なくとも複数の凸部の周面に光線用の漏洩防止処理をそれぞれ施し、複数の湾曲部と凸部とを対向させ、各凸部の先端から光線を出射させるようにしたことを特徴としている。
【0009】
なお、複数の湾曲部を一列に連続して配列して照明器具の光源側に対向させ、複数の凸部を所定の間隔で配列して隣接する凸部間に平坦面を区画するとともに、この平坦面を隣接する湾曲部間の境界に対向させ、各湾曲部の幅よりも各凸部の幅を狭くし、各凸部を断面台形に形成してその一対の傾斜面に鏡面処理をそれぞれ施すことができる。
【0010】
また、カバーの入射面X方向に複数の湾曲部を一列に連続して配列形成し、各湾曲部をカバーの入射面Y方向に直線的に伸長形成するとともに、カバーの出射面X方向に複数の凸部を配列形成し、各凸部をカバーの出射面Y方向に直線的に伸長形成することができる。
【0011】
また、各湾曲部を分割するとともに、この分割した複数の湾曲部を入射面Y方向に配列形成し、各凸部を分割し、この分割した複数の凸部を出射面Y方向に配列形成することが可能である。
さらに、凸部の先端面における隅部を面取りせず、丸めないように形成することが好ましい。
【0012】
ここで、特許請求の範囲における照明器具は、少なくとも天井や壁面等に取り付けることができる。カバーは、所定のガラス、合成樹脂、ゴム、エラストマーにより形成することができる。このカバーの周面には、光線の漏洩防止の観点から、所定の角度の傾斜が付与されたり、白色顔料が塗布されたり、あるいは鏡面加工が施されることが好ましい。湾曲部は、断面略半楕円形に形成されるが、この断面略半楕円形には、断面半楕円形や半円形、円の一部、あるいはこれらに類似する形状が含まれる。
【0013】
本発明に係る照明器具用の光線制御カバーを製造する場合には、光線の漏洩防止処理を容易にする観点等から、金型に成形材料を充填して成形することが好ましい。この光線制御カバーは、少なくとも住宅やビル、公共施設、商業施設、病院、航空機、船舶、鉄道車両等に使用することができる。
【0014】
本発明によれば、照明器具の光源からの光線は、カバー入射面の湾曲部に入射し、カバーの内部を通過して凸部の先端から出射される。この際、光線は、レンズ機能を有する湾曲部に効率的に集光される。また、一部の光線は、空気層との界面で反射を繰り返し、凸部の周面から出射することなく、凸部の先端から出射される。したがって、凸部の周面が発光し、不快なグレアを生じさせることが少ない。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、配光方向に対する光束を確保しながらグレアを抑制することができるという効果がある。また、照明器具の薄型化を実現し、光線の透過率を向上させることができるという効果がある。
【0016】
また、請求項2記載の発明によれば、湾曲部の幅よりも凸部の幅を狭くし、凸部を断面台形に形成してその一対の傾斜面に鏡面処理をそれぞれ施すので、湾曲部からの光線の漏れを防ぎつつ、光線を効果的に照射することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る照明器具用の光線制御カバーの実施形態を模式的に示す部分断面説明図である。
【図2】本発明に係る照明器具用の光線制御カバーの実施形態における光線制御カバーを模式的に示す斜視説明図である。
【図3】本発明に係る照明器具用の光線制御カバーの実施形態におけるカバーと光線との関係を模式的に示す説明図である。
【図4】従来の照明器具を模式的に示す説明図である。
【図5】従来の照明器具の問題点を模式的に示す説明図である。
【図6】従来のマイクロルーバーを使用する照明器具を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明すると、本実施形態における照明器具用の光線制御カバーは、図1ないし図3に示すように、照明器具1に、光透過性を有する透明のカバー10を装着し、このカバー10の光線が入射する入射面に複数の湾曲部20を配列形成するとともに、カバー10の光線が出射する出射面に複数の凸部30を配列形成し、これら複数の湾曲部20と凸部30とを組み合わせて光源4からの光線を効果的に集光したり、照射することにより、照明効率を低下させることなく、配光方向を制御するようにしている。
【0019】
照明器具1は、図1に示すように、例えば室内の天井2に埋設して設置される器具本体3を備え、この器具本体3の内部に複数の光源4が並べて装着されており、この複数の光源4から矢印で示す光線が下方に照射される。器具本体3は、例えば箱形に形成されて下面が開口し、周壁内の一部又は全部に、光源4からの光線を反射する反射板5が装着される。各光源4としては、特に限定されるものではなく、直進性の高い光線を照射するLED等の点光源、EL等の面光源、蛍光灯等が状況に応じて使用される。
【0020】
カバー10は、図1や図2に示すように、所定の材料を使用して照明器具1の開口下面6を被覆する大きさ(例えば、20×30cm、30×30cm、60×60cm等)の薄板に形成され、必要に応じて可撓性や屈曲性が付与されており、器具本体3の開口下面6に複数の係止片7を介し着脱自在に装着される。このカバー10の所定の材料としては、例えばガラス、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フェニルシリコーンゴム等があげられる。
【0021】
これらの材料において、高い天井2にカバー10が装着される場合や光線の屈折率を高くしてカバー10を薄くしたい場合には、ポリカーボネートの採用が好ましい。また、壁面の比較的低い箇所にカバー10が装着される場合や光線の屈折率を高くしてカバー10の薄型化を図る場合には、シリコーンゴムやフェニルシリコーンゴム等の使用が好ましい。
【0022】
カバー10の周面11は、カバー10に入射した光線が外部に漏洩するおそれがある場合、漏洩防止処理が選択的に施される。この漏洩防止処理としては、例えば(1)カバー10の周面11を所定の角度で傾斜させ、光線を閉じ込めながら反射させる処理、(2)カバー10の周面11に任意の色彩の顔料を塗布して硬化させる処理、(3)カバー10の周面11を鏡面加工し、光線を閉じ込めながら反射させる処理、(4)金型のキャビティに加工した微細な凹凸を転写することにより、カバー10の周面11に微細な凹凸を多数形成してモスアイ構造とし、光線の反射を規制してその漏洩を規制する処理等があげられる。
【0023】
カバー10の周面11に任意の色彩の顔料を塗布する場合、光線を吸収する黒色顔料でも良いが、光線の反射が期待できず、無駄が生じるおそれがある。したがって、光線を透過することなく反射する白色顔料の採用が効率的である。
【0024】
複数の湾曲部20は、図1や図2に示すように、カバー10の入射面X方向に一列に連続して配列形成され、各湾曲部20がカバー10の入射面Y方向に直線的に伸長形成されており、照明器具1の光源4側に向けられる。隣接する湾曲部20と湾曲部20との間は、光線を屈折させて凸部30内に進行させるため、平面がなく、連続することが好ましい。各湾曲部20は、直進性の高い光線の他、直進性の低い拡散光をも受光できるよう、表面21が滑らかな断面略半楕円形に膨出形成され、レンズ機能を発揮する。
【0025】
湾曲部20の断面半円弧形に湾曲した滑らかな表面21、及びカバー10の周面11に連なる端面22は、入射した光線が外部に漏洩するおそれがある場合、漏洩防止処理が選択的に施される。この漏洩防止処理には、上記(1)〜(4)の処理等が採用される。
【0026】
複数の凸部30は、図1や図2に示すように、カバー10の出射面X方向に所定の間隔で一列に配列形成され、複数の湾曲部20と相互に対向しており、各凸部30がカバー10の出射面Y方向に直線的に伸長形成される。この複数の凸部30は、隣接する凸部30と凸部30との間に、光線の下方からの入射が困難な平坦面31が区画され、この平坦面31が隣接する湾曲部20間の境界に対向する。
【0027】
各凸部30は、湾曲部20の幅よりも幅が狭い先細りの断面台形に形成され、周面である一対の傾斜面32に、入射した光線が外部に漏洩するのを防止する鏡面加工処理がそれぞれ施されており、平坦な先端面33から光線が出射する。凸部30の高さや傾斜面32の傾斜角度は、照明の被写体等に応じて調整される。また、凸部30間の平坦面31は、光源4の数や大きさに応じ、広く形成されたり、狭く形成される。凸部30の先端面33における二隅部34は、丸く面取りされると、光線の漏洩を招くおそれがあるので、鋭いエッジであるのが好ましい。
【0028】
光線制御カバー10の製造方法は、特に限定されるものではないが、金型のキャビティに加工した鏡面を転写して鏡面処理を容易にする観点から、ポリカーボネート等の成形材料を用い、金型で射出成形する製法が好ましい。鏡面の表面粗さの最大高さRyは、例えば0.2μm程度、0.2μm前後等とすることができる。
【0029】
上記構成において、照明器具1の複数の光源4が点灯すると、光源4の光線は、図3に示すように、カバー10入射面の湾曲部20に入射し、カバー10の内部厚さ方向を通過して凸部30の主に先端面33のみから出射され、明るい照明が実現する。この際、光線は、レンズ機能を有する湾曲部20の表面21に効率的に集光される。また、一部の光線は、空気層との界面で反射を繰り返し、凸部30間の平坦面31や傾斜面32から出射することなく、凸部30の主に先端面33のみから出射される。したがって、カバー10の平坦面31や傾斜面32が発光し、不快なグレアを生じさせることがない。
【0030】
上記構成によれば、カバー10の湾曲部20と凸部30とを組み合わせて光束を効果的に集光したり、放射するので、期待する配光方向に対する光束確保とグレアの抑制とを効率的に両立することができる。したがって、例えば、病室の天井2に照明器具1を設置する際、ベッド上の患者の直上に光源4や複数の凸部30間の平坦面31が位置するよう調整すれば、医療従事者の医療行為に十分な明るさを確保したり、ベッド上の患者の快適性や安らぎ等がグレアで悪化しないよう配慮することができる。
【0031】
また、凸部30を鉛直方向に伸ばして形成したりする必要が全くないので、カバー10の薄型化や軽量化を図ることができる。また、従来例のようなマイクロルーバー41を使用する必要もないので、遮光部42の増加に伴う光線の透過率低下を有効に防止することが可能となる。また、カバー10の材質を選択して可撓性や屈曲性を付与すれば、カバー10を任意の形に曲げることができるので、作業性、取付性、インテリア性の向上が大いに期待できる。さらに、カバー10を薄型化することができるので、壁面等にカバー10を後付けすることも容易となる。
【0032】
なお、上記実施形態では室内の天井2に照明器具1の器具本体3を設置した例を主に示したが、これに限定されるものではない。例えば、室内の壁面に照明器具1の器具本体3を設置しても良い。また、器具本体3の開口下面6に一枚のカバー10ではなく、複数枚のカバー10を装着しても良い。また、上記実施形態ではカバー10の入射面Y方向に各湾曲部20を直線的に伸長させ、カバー10の出射面Y方向に各凸部30を直線的に伸長させたが、何らこれに限定されるものではない。
【0033】
例えば、光源4が多数のLEDからなる点光源の場合、LED光の性質や用途によっては、光線を適切に出射できず、十分な照明を得ることができないおそれが考えられる。このような場合には、各湾曲部20を分割して入射面Y方向に複数配列形成するとともに、各凸部30を分割して出射面Y方向に複数配列形成することにより、カバー10のXY方向に相互に対向する複数の湾曲部20と凸部30とを並設し、不特定の方向からの光線を確実に下方に出射させるようにしても良い。
【0034】
また、複数の湾曲部20を一列に連続配列するのではなく、複数の湾曲部20を個別に配列し、湾曲部20と凸部30のX方向における断面形やY方向等における断面形を略同一にしても良い。また、湾曲部20を表面21が滑らかな断面略半楕円形に膨出形成したが、限定されるものではない。例えば、表面21の中央以外の箇所が略鋸歯状の略リニアフレネルレンズ形に形成し、湾曲部20の厚みを抑制してさらなる薄型化を図ることもできる。
【0035】
さらに、凸部30の幅を湾曲部20の幅以下にして光線を適切に出射させることができるのであれば、カバー10の出射面X方向に複数の凸部30を一列に連続して配列形成し、隣接する凸部30間の平坦面31を省略することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係る照明器具用の光線制御カバーは、例えば建築物や輸送機関の照明分野で使用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 照明器具
2 天井
3 器具本体
4 光源
6 開口下面
10 カバー
11 周面
20 湾曲部
21 表面
22 端面
30 凸部
31 平坦面
32 傾斜面(周面)
33 先端面(先端)
34 隅部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
照明器具に、光透過性を有するカバーを取り付け、このカバーの入射面に照明器具の光源からの光線を入射させ、この入射した光線をカバーの出射面から出射させる照明器具用の光線制御カバーであって、
カバーの入射面に、断面略半楕円形の湾曲部を配列形成するとともに、カバーの出射面に、先細りの凸部を一列に配列形成し、カバーの周面、複数の湾曲部、及び複数の凸部の周面のうち、少なくとも複数の凸部の周面に光線用の漏洩防止処理をそれぞれ施し、複数の湾曲部と凸部とを対向させ、各凸部の先端から光線を出射させるようにしたことを特徴とする照明器具用の光線制御カバー。
【請求項2】
複数の湾曲部を一列に連続して配列して照明器具の光源側に対向させ、複数の凸部を所定の間隔で配列して隣接する凸部間に平坦面を区画するとともに、この平坦面を隣接する湾曲部間の境界に対向させ、各湾曲部の幅よりも各凸部の幅を狭くし、各凸部を断面台形に形成してその一対の傾斜面に鏡面処理をそれぞれ施した請求項1記載の照明器具用の光線制御カバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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