説明

照明方法

【課題】肖像価値の高い被写体が盗撮などにより違法に撮影され、撮影画像が不正に利用されることを防止し、被写体の肖像権や著作権を保護する。
【解決手段】被写体を照明する照明方法において、照明光の照度が少なくとも照射領域の一部で時間的に変化して、2次元状の照度分布が時系列に複数発生し、かつ該照明光の照度の所定期間の平均値の分布の偏差またはコントラストが、少なくとも複数の照度分布のうち少なくとも二つの照度分布の偏差またはコントラストより小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明対象である被写体が不正に撮影されることを防止し、また撮影された被写体の画像が不正に利用されることを防止し、被写体の肖像権や著作権を保護する照明方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、不正撮影から肖像権や著作権を防止する技術として、例えば、特許文献1に開示された赤外光を用いて映画などの盗撮を防止する技術がある。これは、赤外光を用いて被写体上にパタンを投影する。赤外光は人間の目には見えないので、観察者は気付かないが被写体をカメラで撮影するとカメラは赤外に感度を持つため、赤外光で投影されたパタンが撮影画像にも写り、これが妨害画像となって画質を著しく劣化させるので盗撮防止に効果をもつ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許公開2009−282270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、特許文献1に開示されるような方法では、カメラの前に赤外カットフィルタを配置するだけで容易に妨害画像の写りこみを回避されるので、この場合も不正撮影防止に効果がないという問題があった。
【0005】
本発明は、以上のような従来の方法における課題を解決するためになされたもので、被写体が不正に撮影されることを防止し、また撮影された被写体の画像が不正に利用されることを防止し、被写体の肖像権や著作権を保護することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明の照明方法においては、照明領域における照度分布がそれぞれ異なる複数パタンの照明光を順次切り換えて発生し、且つ、前記照明領域における照度の所定期間の平均値の分布が、前記複数パタンの照明光のうち少なくとも二つの照明光の照度分布を減算した照度差の分布よりも小くなるように前記切り換えを行う。
【0007】
また、本発明の照明方法においては、照明領域における色分布がそれぞれ異なる複数パタンの照明光を順次切り換えて発生し、且つ、前記照明領域における色を所定期間の合成した色相の分布が、前記複数パタンの照明光のうち少なくとも二つの照明光の色分布を減算した色相の分布よりも小くなるように前記切り換えを行う。
【0008】
本発明では上記の手段により以下の作用が生じ、前記課題を解決することができる。図1はこの作用を説明する図である。図1の(a)および(b)は本発明において照明光の照度を少なくとも照射領域の一部で時間的に変化させて順次発生させる複数の照度分布を示す。図1の例では、文字の部分の照度が時間的に変化して二つの照度分布、すなわち形状が同じで照度の異なる二つのパタンを生じさせる。この時の文字部分の照度の時間的変化を図1(c)に示す。なお、文字部分以外の照度は変化しない。二つの照度分布(a)およぶ(b)の文字部分の照度の平均値を文字部分の以外の領域の照度と同じ、またはこれに近い値にすると、この照度分布の所定期間で平均化された値、すなわち時間積分値は、文字部分と文字部分以外が同じ、または近似した値になるため、照度の所定期間の平均値の分布のコントラストまたは偏差は、(a)、(b)それぞれの分布のコントラストに比べて小さくなる。
【0009】
二つの照度分布のうち、一方が現れ、次に他が現れるまでの時間が人間の目の時間分解能より短時間であれば、人間の目には明るさは時間積分値として知覚されるので明るさの分布のコントラストは小さく知覚され、このコントラストが人間の目の知覚限界以下に小さくすれば、背景と文字部分は同じ明るさに見える。この結果、図1(c)に示すように照射領域の全領域にわたって一様な明るさと感じて、照度分布の存在、すなわちパタンの存在には気付かないことになる。
【0010】
一方、この照明光により照射された被写体を撮影する場合、撮影装置の露光時間は一般に目の時間分解能と同程度あるいはそれより短時間であるため、以下の3つのケースが考えられる。第1は照度分布1の光が照射されている間に撮影される場合、第2は照度分布2の光が照射されている撮影される場合、そして第3は、照度分布1の光が照射されている期間と照度分布2の光が照射されている期間にまたがって撮影される場合である。第1の場合と第2の場合は、撮影画像は被写体像に照明光のいずれかの照度分布により生じる明るさの分布が重畳した画像となり、被写体の正常な撮影を妨げることができる。また、二つの照度分布にまたがって撮影される場合でも、二つの照度分布が完全に等しい時間撮影されない限り、撮影画像にはどちらかの分布が現れることになる。すなわち、照明光には全く気付かれないように照度分布を含ませておくことができ、かつ撮影画像には照度分布が現れるようにすることが可能となる。
【0011】
特許文献1に開示されている従来技術ではパタンを目の空間分解能以下の微細なパタンにすることで不可視としていたが、これに対して本発明ではパタンの明るさを人間の目の時間分解能以下の時間変化で変化させて不可視としているため、パタンを微細にする必要がなく、この結果、低解像度のカメラで撮影されても撮影画像にパタンを重畳させることが可能になる。また、撮影後に解像度変換により低解像度の画像に変換されたり、ローパスフィルタをかけたりされてもパタンを除去することは不可能である。
【0012】
また、可視光による照明光に照度分布を含めるので、特許文献2に開示の従来技術のように赤外カットフィルタ等の光学的フィルタにより照度分布により生じるパタンを除去することも不可能である。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、この発明によれば、不正に撮影された画像が利用されることを防止する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の原理を示す背面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の概略構成図である。
【図3】第1の実施形態において、被写体に照明光が照射されたときに被写体上に投影される光学像のパタンを示す図である。
【図4】第1の実施形態において、プロジェクタが二つのパタンを投影する期間を示す図である。
【図5】第1の実施形態の照明方法によって照明された被写体をデジタルカメラで撮影した時の撮影画像を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施形態における照明光の照度の時間変化を示す図である。
【図7】従来技術の概略構成と情報のフローを示す図である。
【図8】従来技術において、照明光に含まれる微細パタンの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
《実施形態1》
本発明の第1の実施形態の概略構成を図2に示す。図2において、1はプロジェクタ、2はデジタルカメラ、3は被写体である。また、図3には被写体に照明光が照射されたときに照度分布によって被写体上に生じる光学像のパタンをしめす。図3において4Aおよび4Bはそれぞれプロジェクタによって投影されるパタンであり、二つのパタンの背景は同じ明るさであり、そして二つのパタンの文字の部分は平均すると背景の明るさと等しくなるよう設定されている。
【0016】
本実施形態では、プロジェクタ1は被写体を可視光で照明する光源として用いられると同時に、任意の可視光パタンを被写体上に投影するために用いられる。プロジェクタ1は120Hzのフレーム周波数で駆動される。そして、フレームごとに4Aに示すパタンと4Bに示すパタンを切り替えながら投影する。図4にプロジェクタ1が二つのパタンを投影する期間を示す。図4に示すように各パタンは1/120秒ずつ交互に投影される。したがって、文字部分の照度が時間的に変化する周期は1/60秒となり、したがって60Hzで照度が変化する。60Hzは人間の目の時間分解能以下であるので、人間の目には二つのパタンの明るさが平均化されて見える。本実施形態では二つのパタンの文字の部分の明るさは、平均すると背景の明るさと等しくなるよう設定されているので、人間の目には全領域で一様な明るさに見え、したがって被写体の観察者は文字パタンの存在には気付かない。
【0017】
図5は本実施形態の照明方法によって照明された被写体をデジタルカメラで撮影した時の撮影画像例である。プロジェクタ1により上記パタンAとパタンBがフレームごとに交互に照射された被写体2をデジタルカメラ2により撮影すると、露光期間がパタンAを照射している期間内であれば、撮影画像には図5に示すようにパタンAの文字パタンが現れ、露光期間がパタンBを照射している期間内であれば、撮影画像にはパタンBの文字パタンが現れる。
【0018】
また、露光期間が、二つのパタン投影期間にまたがる場合は、コントラストは上記2つの場合より低下するものの露光時間が長いほうのパタンが現れる。以上のように、露光時間内に二つのパタンが完全に等しい時間露光されない限り、撮影画像には文字パタンが現れることになる。このため、被写体が不正に撮影されても、撮影画像の利用を防止することが可能である。
【0019】
《実施形態2》
本発明の第2の実施形態も図2と同じ構成である。本実施形態ではプロジェクタとしてカラー画像用プロジェクタを使用する。カラー画像用プロジェクタは、赤、緑、青の光で別々にパタンを投影できる。本実施形態でも図2に4A、4Bで示す二つのパタンを被写体上に投影するが、これらのパタンは赤い光でのみ投影する。
【0020】
図6に赤い光が二つのパタンを投影する期間を示す。図6に示すように各パタンは1/120秒ずつ交互に投影される。すなわち赤色の光の照度分布は60Hzで時間変化し、60Hzは人間の目の時間分解能以下であるので、人間の目には二つのパタンの明るさが平均化されて見える。本実施形態では二つのパタンの文字の部分の明るさは、平均すると背景の明るさと等しくなるよう設定されているので、人間の目には全領域で一様な明るさに見えパタンの存在には気付かない。なお、緑の光と青い光ではパタンを投影せず被写体上に一様な明るさで光を照射する。
【0021】
本実施形態の照明方法で照射された被写体をカメラで撮影すると、上記実施形態1と同様の原理で赤または赤の補色、すなわちシアンの色で図4と同様に文字パタンが被写体像に重畳して現れる。この場合でも、赤色光について照度分布がそれぞれ異なる複数パタンの照明光を順次切り換えて発生していると言える。また、赤、緑、青が合成された光についても、照度分布がそれぞれ異なる複数パタンの照明光を順次切り換えて発生していると言える。
【0022】
また、複数色の光の照度分布を同じ投影パタンで相補・差動的に変化させ、被写体3上の照度分布は一定であるが、被写体3上に配色の分布が発生するようにしてもよい。また、本実施形態においては、3色別々の照明光を用いているが、3色色LED等を用い、1つの光源で発生させる色を変化させるようにしてもよい。
【0023】
《補足事項》
本発明の精神は被写体像に光学的な手段ですることであり、以上では本発明の2つの実施形態を述べたが、上記本発明の精神を脱しない範囲で種々の変更が可能であることは言うまでもない。例えば、上記実施形態1においては、二つの照度分布を用いたが、3つ以上の照度分布を用いることも可能である。また、複数の照度分布の一つとして、特にパタンが含まれない全照射領域にわたって照度が一様な照度分布を含めてもよい。
【符号の説明】
【0024】
1 プロジェクタ
2 撮影手段
3 被写体
4A、4B (投影パタンが表示されている)液晶ディスプレイ
5 光源



【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の照明領域を照明する照明方法であって、
前記照明領域における照度分布がそれぞれ異なる複数パタンの照明光を順次切り換えて発生し、
且つ、前記照明領域における照度の所定期間の平均値の分布が、前記複数パタンの照明光のうち少なくとも二つの照明光の照度分布を減算した照度差の分布よりも小くなるように前記切り換えを行うことを特徴とする照明方法。
【請求項2】
所定の照明領域を照明する照明方法であって、
前記照明領域における色分布がそれぞれ異なる複数パタンの照明光を順次切り換えて発生し、
且つ、前記照明領域における色を所定期間の合成した色相の分布が、前記複数パタンの照明光のうち少なくとも二つの照明光の色分布を減算した色相の分布よりも小くなるように前記切り換えを行うことを特徴とする照明方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−222172(P2011−222172A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87622(P2010−87622)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(505092898)
【Fターム(参考)】