説明

煮沸制御装置

【課題】熱交換器から与えられる時間あたりの熱量を時系列に比率をもって与えながら、安定的かつ正確に制御する煮沸装置を提供する。
【解決手段】内部に配置された熱交換器20によって麦汁12を煮沸する煮沸釜10と、熱交換器20に蒸気を供給する供給ライン90に介挿され、供給ライン90を通して熱交換器20に供給される蒸気の温度を測定する第1温度計30と、熱交換器20から蒸気または蒸気が凝縮した水を排出する排出ライン100に介挿され、排出ライン100を通して熱交換器20から排出される蒸気または水の温度を測定する第2温度計40と、演算器120で算出される熱量設定値と温度計30で測定される第1の温度と温度計40で測定される第2の温度とに基づき蒸気流量設定値を演算し、この設定値により供給ライン90を通る蒸気流量を調節して熱交換器10に供給される時間あたりの熱量を制御する制御器110aとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビール製品や発泡酒製品の製造に適したビール煮沸装置における煮沸制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、多管式熱交換器を有する煮沸釜を備えた麦汁煮沸制御装置として、特許文献1(特開2007−202488号公報)に記載の装置が知られている。この従来装置では、供給ラインを通じて熱交換器に供給される蒸気の温度と、熱交換器から蒸気またはそれが凝縮した水を排出する排出ラインを通して排出される蒸気または水の温度とに基づいて、前記供給ラインを通る蒸気によって熱交換器に供給される時間あたりの熱量を制御しながら麦汁を煮沸する。
【0003】
更に、従来技術を詳述する。図5において、この麦汁煮沸制御装置は、煮沸釜10内の熱交換器20に過熱された蒸気を供給する供給ライン90と、熱交換器20から蒸気またはそれが凝縮した水を排出する排出ライン100とを有する。排出ライン100には、スチームトラップ80が設けられ、これにより蒸気状態で存在する水が凝縮される。
【0004】
また、麦汁煮沸制御装置は、熱交換器20において蒸気が麦汁12によって時間あたりに奪われた熱量に基づいて、蒸気が熱交換器20に与えるべき時間あたりの熱量を逐次制御する。この場合、熱交換器20において蒸気が麦汁12によって時間あたりに奪われた熱量は、熱交換器20に供給される蒸気の温度と、熱交換器20から排出される蒸気又は水の温度との差分に基づいて演算することができる。そこで、供給ライン90には、その中を通る蒸気の温度を測定する第1温度計30が設けられ、排出ライン100には、その中を通る蒸気又は水の温度を測定する第2温度計40が設けられている。
【0005】
制御器110は、第1温度計30によって測定される第1温度及び第2温度計40によって測定される第2温度に基づいて、供給ライン90を通して熱交換器20に供給される蒸気の時間あたりの量(熱交換器20に供給される時間あたりの熱量)を制御する。
【0006】
制御器110は、例えば、供給ライン90を通る蒸気の流量(例えば、質量流量)を制御する制御弁60及び制御弁60の開度を制御する弁制御器50を含んで構成され、第1温度計30によって測定される温度及び第2温度計40によって測定される温度に基づいて供給ライン90を通して熱交換器20に供給すべき蒸気の流量を逐次演算し、その演算結果に供給ライン90を通して熱交換器20に供給される蒸気の流量が一致するように制御弁60を制御する。
【0007】
以下、従来の弁制御器50による制御弁60の制御について説明する。熱交換器20に供給される蒸気によって麦汁12に与えられる熱量をQ1、供給ライン90から供給される蒸気によって熱交換器20に流入する熱量をQ2、熱交換器20から排出ライン100に排出される蒸気又は水によって熱交換器20から流出する熱量をQ3とすると、次式が成り立つ。
【0008】
Q1=Q2−Q3 ・・・(1)
ここで、水の蒸発熱(cal/g)をA(=540cal/g)、時間あたりの麦汁12からの水の蒸発量である煮沸強度(%/h)をX、煮沸時間(h)をT、初期状態(煮沸前)の麦汁12の量(HL=106リットル)をV1、係数をαとすると、Q1は、次式で示される。
【0009】
Q1=A・X・T・V1・α・10 …(2)
また、蒸気の比熱(cal/g・℃)をB(=0.5cal/g・℃)、蒸気の質量流量(kg/h)をΓ、熱交換器20の入口における蒸気の温度(第1温度計30によって測定される蒸気の温度;℃)をt1、熱交換器20の出口における蒸気又は水の温度(第2温度計40によって測定される蒸気又は水の温度)をt2とすると、Q2、Q3は、次式で示される。
【0010】
Q2=B・Γ・(t1−t2)・T・10 …(3)
Q3=A・Γ・T・10 …(4)
したがって、(1)〜(4)式より、
Γ=(A・X・V1・α)/{(B・(t1−t2)+A)・0.001}…(5)
なお、(5)式中、分母の“+A”は、熱量が煮沸釜で麦汁12に移動しているので、“−A”ではなく、“+A”となっている。ここで、(5)式にA、Bを代入すると、次式が得られる。
【0011】
Γ=(540・X・V1・α)/{(0.5・(t1−t2)+540)・0.001}
…(6)
(6)式において、煮沸強度X1及びαは、予め設定される値である。また、初期状態の麦汁12の量V1は、煮沸すべき麦汁の量であり煮沸前に設定される値である。したがって、制御器110は、第1温度計30によって測定される第1温度t1及び第2温度計40によって測定される第2温度t2に基づいて、供給ライン90を通して熱交換器20に供給される蒸気の流量Γを逐次演算し、この流量Γに基づいて制御弁60を制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−202488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前記文献で報告されている従来の制御方法では、予め定められた煮沸時間の中で、予め定められた煮沸強度(時間あたりの水分蒸発量(%/h))が維持されるように、熱交換器に供給する蒸気の流量を制御弁によって制御しており、煮沸時間中はほぼ直線的に一定の熱量を麦汁12に与えることとなる。
【0014】
しかしながら、従来技術では、総熱量を一定量に制御することはできるものの、予め定められた煮沸強度を維持するために、予め定められた煮沸時間内で必要な総熱量を与えることを保持しつつ、時間に応じて強弱をつけながら制御することはできないという課題がある。
【0015】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたものであり、煮沸時間内に与える熱量を時間に応じて強弱をつけながら、安定的かつ正確に煮沸制御することができる煮沸制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明に係る煮沸制御装置は、熱交換器が内部に配置され、当該熱交換器によって煮沸対象物を煮沸する煮沸釜と、前記熱交換器に蒸気を供給する供給ラインに介挿され、当該供給ラインを通して前記熱交換器に供給される蒸気の温度を測定する第1温度計と、前記熱交換器から蒸気または蒸気が凝縮した水を排出する排出ラインに介挿され、当該排出ラインを通して前記熱交換器から排出される蒸気または水の温度を測定する第2温度計と、前記熱交換器に供給される時間あたりの熱量設定値を、煮沸時間に対する折線設定で比率(重み)をつけて算出する演算器と、この演算器で算出される熱量設定値と前記第1温度計で測定される第1の温度と前記第2温度計で測定される第2の温度とに基づき蒸気流量設定値を演算し、この蒸気流量設定値により前記供給ラインを通る蒸気流量を調節して、前記熱交換器に供給される時間あたりの熱量を制御する制御器とを備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、煮沸時間内に与える熱量を時間に応じて強弱をつけながら、安定的かつ正確に煮沸制御を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る煮沸制御装置の実施の形態1を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態1における折線設定の好適な例を示す説明図である。
【図3】本発明の実施の形態1における折線設定の好適な他の例を示す説明図である。
【図4】本発明に係る煮沸制御装置の実施の形態2を示すブロック図である。
【図5】従来の煮沸制御装置の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<実施の形態1>
以下、本発明の実施の形態1を図1に基づいて説明する。なお、図1において、図5で示した従来例と同一構成部分については同一番号が付されている。
【0020】
図1において、この制御装置は煮沸釜10内の熱交換器20に過熱された蒸気を供給する供給ライン90と、熱交換器20から蒸気またはそれが凝縮した水を排出する排出ライン100とを有する。
【0021】
麦汁煮沸装置は、熱交換器20において蒸気が麦汁12によって時間あたりに奪われた熱量に基づいて、蒸気によって熱交換器20に与えるべき時間あたりの熱量を逐次制御する。熱交換器20において蒸気が麦汁12によって時間あたりに奪われた熱量は、熱交換器20に供給される蒸気の温度と、熱交換器20から排出される蒸気又は水の温度との差分に基づいて演算することができる。そこで、供給ライン90には、その中を通る蒸気の温度を測定する第1温度計30が設けられ、排出ライン100には、その中を通る蒸気又は水の温度を測定する第2温度計40が設けられている。
【0022】
制御器110aは、第1温度計30によって測定される第1温度及び第2温度計40によって測定される第2温度に基づいて、演算器120から与えられる蒸気の時間あたりの量(熱交換器20に供給される時間あたりの熱量)の設定値に対して、供給ライン90を通して熱交換器20に供給される蒸気の時間あたりの量を制御する。
【0023】
制御器110aは、例えば、供給ライン90を通る蒸気の流量(例えば、質量流量)を制御する制御弁60及び制御弁60の開度を制御する弁制御器50aを含んで構成され、第1温度計30によって測定される温度及び第2温度計40によって測定される温度に基づいて供給ライン90を通して熱交換器20に供給すべき蒸気の流量を逐次演算し、その演算結果に供給ライン90を通して熱交換器20に供給される蒸気の流量が一致するように制御弁60を制御する。
【0024】
演算器120は、煮沸時間内で麦汁12に与える熱量を、時系列に強弱をつけて折線により比率設定することで、熱交換器20から麦汁12に与える時間あたりの熱量の設定値を、制御器110aに与える。この折線設定による時間あたりの熱量設定値の算出方法を図2に基づいて説明する。
【0025】
図2は本発明の好適な実施形態として、熱交換器20から麦汁12に与える時間あたりの熱量を、煮沸時間内で比率による重み付けによって設定した折線を示す説明図である。横軸に煮沸時間の経過時間を取り、縦軸に熱交換器20から麦汁12に与える時間あたりの熱量を比率で重み付けしたものを取る。以下、これを「熱量比率」とも呼ぶ。
【0026】
図2の例では、煮沸時間のT1,T2,T3,T4の4つの時間帯において、それぞれr1,r2,r3,r4の比率(重み)で熱量を加えるものとしている。
【0027】
図2の折線設定から、全時間帯の熱量比率の総面積Sは下記(7)式で定義することができる。
【0028】
S=r1・T1+r2・T2+r3・t3+r4・T4…(7)
これにより各熱量比率に対する時間あたりの熱量(以下これを「瞬時熱量」と呼ぶ)を、q1,q2,q3,q4とすると、各値は(8)式のようにq4を基準に定義することができる。
【数1】

【0029】
また、煮沸時間内で与えられる総熱量Qは、(7)式から下記(9)式のように定義できる。
【0030】
=q1・T1+q2・T2+q3・T3+q4・T4 ・・・(9)
前記(8)式を(9)式に代入して(10)式を得ることができ、これより熱量流量q4を表す(11)式を求めることができる。
【0031】
=(r1/r4)・q4・T1+(r2/r4)・q4・T2+(r3/r4)・q4・T3+(r4/q4)・q4・T4
=(q4/r4)・(r1・T1+r2・T2+r3・t3+r4・T4)…(10)
q4=(Q/S)・r4…(11)
(11)式を(8)式にそれぞれ代入すると、熱量流量の各値は(12)式のように表すことができる。
【数2】

【0032】
これを一般化すると、熱量流量を表す下記(13)式が得られる。
【0033】
=(Q/S)・r ・・・(13)
このように一般化することにより、図3に示すような傾斜部を持つ折線設定においても適用することができる。
【0034】
次に制御器50による制御方法について説明する。前記(13)式で求められた熱交換器20に供給される蒸気によって麦汁12に与えられる瞬時熱量qは、供給ライン90から供給される蒸気によって熱交換器20に流入する熱量をq、熱交換器20から排出ライン100に排出される蒸気又は水によって熱交換器20から流出する熱量をqとすると、前記(1)式と同様に次式が成り立つ。
【0035】
=q−q …(14)
ここで、水の蒸発熱(cal/g)をA(=540cal/g)、蒸気の比熱(cal/g・℃)をB(=0.5cal/g・℃)、蒸気の質量流量(kg/h)をΓ、熱交換器20の入口における蒸気の温度(第1温度計30によって測定される蒸気の温度;℃)をt1、熱交換器20の出口における蒸気又は水の温度(第2温度計40によって測定される蒸気又は水の温度)をt2とすると、q、qは、次式で示される。
【0036】
=B・Γ・(t1−t2)・T・10 …(15)
=A・Γ・T・10 …(16)
したがって、(14)〜(16)式より、
Γ=q/[{B・(t1−t2)+A}・0.001] …(17)
なお、(17)式中、分母の“+A”は、熱量が煮沸釜10で麦汁12に移動しているので、“−A”ではなく、“+A”となっている。ここで、(17)式にA、Bを代入すると、次式が得られる。
【0037】
Γ=q/[{0.5・(t1−t2)+540}・0.001] …(18)
したがって、制御器50は、演算器120から与えられる熱量流量qの設定値から、第1温度計30によって測定される第1温度t1及び第2温度計40によって測定される第2温度t2に基づいて、供給ライン90を通して熱交換器20に供給される蒸気の流量Γを逐次演算し、このΓに従って制御弁60を制御することができる。
【0038】
上記実施の形態1では、演算器120で設定した折線の比率(重み)に基づいて、煮沸時間内で与える時間あたりの熱量に変化をつけながら、目標である煮沸時間内の煮沸強度を保つことで、安定的かつ正確に煮沸制御を行なうことができる。その結果、麦汁の品質をきめ細かく制御することが可能となる。
【0039】
<実施の形態2>
図4に示すように、図1の構成に加えて、供給ライン90を通る蒸気の流量(例えば、質量流量)を測定する流量計70を含め、流量計70で測定される蒸気流量測定値と蒸気流量設定値とに基づいたフィードバック制御を実行するように構成しても良い。この場合において、制御器110bは、第1温度計30によって測定される温度及び第2温度計40によって測定される温度に基づいて供給ライン90を通して熱交換器20に供給すべき蒸気の流量を逐次演算する。そして、弁制御器50bは、演算により得られた蒸気流量設定値と流量計70によって測定される蒸気流量測定値とが一致するように制御弁60を制御する。
【符号の説明】
【0040】
10…煮沸釜
20…熱交換器
30…第1温度計
40…第2温度計
50,50a,50b…弁制御器
60…制御弁
70…流量計
80…スチームトラップ
90…供給ライン
100…排出ライン
110,110a,110b…制御器
120…演算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱交換器が内部に配置され、当該熱交換器によって煮沸対象物を煮沸する煮沸釜と、
前記熱交換器に蒸気を供給する供給ラインに介挿され、当該供給ラインを通して前記熱交換器に供給される蒸気の温度を測定する第1温度計と、
前記熱交換器から蒸気または蒸気が凝縮した水を排出する排出ラインに介挿され、当該排出ラインを通して前記熱交換器から排出される蒸気または水の温度を測定する第2温度計と、
前記熱交換器に供給される時間あたりの熱量設定値を、煮沸時間に対する折線設定で比率(重み)をつけて算出する演算器と、
この演算器で算出される熱量設定値と前記第1温度計で測定される第1の温度と前記第2温度計で測定される第2の温度とに基づき蒸気流量設定値を演算し、この蒸気流量設定値により前記供給ラインを通る蒸気流量を調節して、前記熱交換器に供給される時間あたりの熱量を制御する制御器と、
を備えることを特徴とする煮沸制御装置。
【請求項2】
前記演算器は、所定の煮沸時間内で前記煮沸対象物に与える熱量を、時系列の強弱をつけて折線により比率設定することで、前記熱交換器から煮沸対象物に与える時間あたりの熱量設定値を演算することを特徴とする請求項1に記載の煮沸制御装置。
【請求項3】
前記供給ラインを通る蒸気流量を測定する流量計を備え、
この流量計で測定される蒸気流量測定値と前記蒸気流量設定値とに基づいたフィードバック制御を実行することを特徴とする請求項1または2に記載の煮沸制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−92(P2011−92A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147516(P2009−147516)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【出願人】(501137636)東芝三菱電機産業システム株式会社 (904)