説明

熱アシスト磁気記録媒体及び磁気記憶装置

【課題】 磁性結晶粒が均一であり、かつ、反転磁界分散(SFD)の狭い熱アシスト記録媒体、およびこれを用いた磁気記憶装置を提供する。
【解決手段】 基板と、該基板上に形成された複数の下地層と、L1構造を有する合金を主成分とする磁性層からなる磁気記録媒体において、該下地層の少なくとも一つが、MgOを主成分として含有し、かつ、融点が2000℃以上の金属元素を少なくとも一種含有していることを特徴とする熱アシスト磁気記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱アシスト磁気記録媒体、およびそれを用いた磁気記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
媒体に近接場光等を照射して表面を局所的に加熱し、媒体の保磁力を低下させて書き込みを行う熱アシスト記録は、約1Tbit/inchまたはそれ以上の面記録密度を実現できる次世代記録方式として注目されている。熱アシスト記録を用いた場合、室温における保磁力が数十kOeの記録媒体でも、現状ヘッドの記録磁界により容易に書き込みを行うことができる。このため、記録層に約10J/mまたはそれ以上の高い結晶磁気異方性Kuを有する材料を使用することが可能となり、熱安定性を維持したまま、磁性粒径を6nm以下まで微細化できる。このような高Ku材料としては、L1型結晶構造を有するFePt合金(Ku〜7×10J/m)や、CoPt合金(Ku〜5×10J/m)等が知られている。
【0003】
磁性層に、L1型結晶構造を有するFePt合金を用いる場合、該FePt合金結晶は(001)配向をとっている必要がある。このため、下地層には(100)配向したMgOを用いるのが望ましい。MgOの(100)面は、L1型FePtの(001)面と格子整合性が良いため、(100)配向したMgO下地層上にL1型FePt磁性層を形成することにより、該磁性層に(001)配向をとらせることができる。
【0004】
一方、熱アシスト記録媒体においても、媒体ノイズを低減しSN比を向上させるためには、磁性粒径の微細化が必須である。磁性粒径を微細化するには、磁性層にSiOやTiO等の酸化物を粒界偏析材料として添加することが効果的である。これは、磁性層中のFePt結晶が、SiOで囲まれたグラニュラー構造となるためである。
【0005】
磁性結晶の粒径は、粒界偏析材料の添加量を増やすことによって微細化できる。例えば、非特許文献1には、FePtに20体積%のTiOを添加することにより、磁性粒径を5nmまで低減できることが記載されている。また、非特許文献2には、FePtに50vol%のSiOを添加することにより、磁性粒径を2.9nmまで低減できることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Appl. Phys. 104, 023904, 2008
【非特許文献2】IEEE. Trans. Magn., vol.45, 839, 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
熱アシスト記録媒体の磁性層には、高いKuを有するL1構造のFePt合金等が用いるのが望ましい。熱アシスト記録媒体の媒体ノイズを低減するには、上記FePt合金結晶粒を微細化する必要がある。このため、SiO、TiO等の酸化物や、C等の添加材料(粒界偏析材料)を磁性層に添加することが望ましい。但し、粒界偏析材料の添加は、磁性結晶粒の微細化には効果的であるが、粒径分散を低減するのは困難である。
【0008】
上述のように、L1構造のFePt合金からなる磁性層は、通常、MgO下地層上に形成される。MgO下地層の結晶粒径が大きい場合、一つのMgO結晶粒の上に、複数のFePt結晶粒が成長する。この場合、個々のFePt結晶粒の粒径が不均一となり、粒径分散が大きくなる。粒径均一化は、媒体SNRを向上させる上で必須であるため、高い媒体SNRを実現するには、磁性結晶粒の微細化と同時に、MgO下地層の粒径を微細化する必要がある。
【0009】
上記の背景技術に鑑みて、本発明の目的は、磁性結晶粒が均一であり、かつ、反転磁界分散(SFD:Switching Field Distribution)の狭い熱アシスト記録媒体を提供することにある。
本発明の他の目的は、上記の特性を有する熱アシスト記録媒体を具え、高いSN比を示す磁気記憶装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かくして、本発明によれば、以下の熱アシスト記録媒体が提供される。
(1)基板と、該基板上に形成された複数の下地層と、L1構造を有する合金を主成分とする磁性層からなる磁気記録媒体において、該下地層の少なくとも一つが、MgOを主成分として含有し、かつ、融点が2000℃以上の金属元素を少なくとも一種含有していることを特徴とする熱アシスト磁気記録媒体。
【0011】
(2)融点が2000℃以上の金属元素が、Nb、Mo、Ru、Ta、Wからなる群から選択される少なくとも一種である上記(1)に記載の熱アシスト磁気記録媒体。
(3)MgOを主成分として含有する下地層に含有される融点が2000℃以上の金属元素の含有量が、該MgO含有下地層に基づき、2原子%以上、40原子%以下である上記(1)または(2)に記載の熱アシスト磁気記録媒体。
【0012】
(4)MgOを主成分として含有する下地層が、Crからなる、またはCrを主成分として含有するBCC構造を有する下地層上に形成されている上記(1)〜(3)のいずれかに記載の熱アシスト磁気記録媒体。
(5)MgOを主成分として含有する下地層が、Taからなる下地層上に形成されている上記(1)〜(3)のいずれかに記載の熱アシスト磁気記録媒体。
【0013】
(6)MgOを主成分として含有する下地層の平均粒径が10nm以下である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の熱アシスト磁気記録媒体。
(7)磁性層がL1構造を有するFePtまたはCoPt合金を主成分として含有し、かつ、SiO、TiO、Cr、Al、Ta、ZrO、Y、CeO、MnO、TiO、ZnO、およびCからなる群から選択される少なくとも一種の酸化物または元素を含有している上記(1)〜(6)のいずれかに記載の熱アシスト磁気記録媒体。
【0014】
(8)磁性層に含まれる該酸化物の量が、磁性層全体に基づき、10mol%以上、40mol%以下の範囲内である上記(7)に記載の熱アシスト磁気記録媒体。
(9)磁性層に含まれるCの量が、磁性層全体に基づき、10at%以上、70at%以下の範囲内である上記(7)に記載の熱アシスト磁気記録媒体。
【0015】
さらに、本発明によれば、以下の磁気記憶装置が提供される。
(10)
(イ)磁気記録媒体と、
(ロ)該磁気記録媒体を回転させるための駆動部と、
(ハ)記録ヘッドと再生ヘッドを有する磁気ヘッドであって、該記録ヘッドが、該磁気記録媒体を加熱するためのレーザー発生部と、該レーザー発生部から発生したレーザー光をヘッド先端まで導く導波路と、ヘッド先端に取り付けられた近接場光発生部を備えてなる磁気ヘッドと、
(二)該磁気ヘッドを移動させるための駆動部と、
(ホ)記録再生信号処理系を
含んで構成される磁気記憶装置であって;該磁気記録媒体(イ)が上記(1)〜(9)のいずれかに記載の熱アシスト媒体であることを特徴とする磁気記憶装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明の熱アシスト磁気記録媒体は、磁性結晶粒が均一であり、かつ、反転磁界分散(SFD:Switching Field Distribution)が狭いという特性を有する。このような特性を有する磁気記憶装置は高いSNRを示す。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の磁気記録媒体の層構成の一例を表す拡大断面図
【図2】本発明の磁気記録媒体の層構成の他の一例を表す拡大断面図
【図3】本発明に係わる磁気記憶装置の一例を表す傾視図
【図4】本発明に係わる磁気記憶装置が具える磁気ヘッドの一例を表す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
上記課題は、基板と、該基板上に形成された複数の下地層と、L1構造を有する合金を主成分とする磁性層からなる磁気記録媒体において、該下地層の少なくとも一つが、MgOを主成分として含有し、かつ、融点が2000℃以上の金属元素を少なくとも1種含有していることを特徴とする熱アシスト磁気記録媒体を用いることによって解決できる。
【0019】
MgOを主成分として含有する下地層(以下、「MgO含有下地層」ということがある)に融点が2000℃以上の金属元素を添加することによって、該MgO含有下地層の粒径を微細化できる。MgO含有下地層の粒径を微細化することによって、一つのMgO結晶粒の上に一つの磁性結晶粒が成長する“One by one 成長”が促進される。これにより、磁性粒径を均一化できるため、反転磁界分散(SFD:Switching Field Distribution)を低減できる。よって、媒体SNRを向上できる。
【0020】
前記高融点元素としては、Nb、Mo、Ru、Ta、Wを用いるのが好ましい。MgOへ添加する高融点元素の添加量は、2原子%以上、40原子%以下が好ましい。2原子%未満であると粒径微細化効果が不十分であり、40原子%を超えるとNaCl構造が劣化するので好ましくない。
【0021】
約1Tbit/inchまたはそれ以上の面記録密度を実現するには、磁性粒径を6nm以下に微細化する必要がある。よって、MgO含有下地層の粒径も6nm以下とすることが望ましい。但し、MgO結晶の粒径が概ね10nm以下であれば、磁性結晶粒の分離を促進する効果が得られるため、特に問題はない。
【0022】
磁性層には、L1構造を有するFePt合金、またはL1構造を有するCoPt合金を用いることができる。また、磁性層に添加する粒界偏析材料としては、SiO、TiO、Cr、Al、Ta、ZrO、Y、CeO、MnO、TiO、ZnOの中から選らばれる酸化物、炭素、またはこれらの混合物を用いることができる。
【0023】
磁性層の上に、キャップ層を形成してもよい。キャップ層を形成することにより、書き込み特性を改善できる。キャップ層には、Fe、Ni、もしくはCoも主成分とし、磁性層に用いるL1構造を有するFePt合金、もしくはCoPt合金よりも結晶磁気異方性が低い材料を用いるのが望ましい。
【0024】
L1構造を有するFePt合金またはCoPt合金に(001)配向をとらせるため、MgO含有下地層は、(100)配向をとっていることが好ましい。MgO含有下地層に(100)配向をとらせるには、例えば、ガラス基板上にTa下地層を形成し、該Ta下地層の上にMgO含有下地層を形成すればよい。また、加熱したガラス基板上にCrからなる、またはCrを主成分として含有するBCC構造の合金層を形成した場合、該Cr、またはCr合金層は(100)配向を示す。この上にMgO含有下地層を形成することによっても、該MgO含有下地層に(100)配向をとらせることができる。
【0025】
上記配向制御層以外にも、Cu、AgもしくはAlからなる、またはこれらを主成分として含有する熱伝導率の高い合金材料をヒートシンク層として形成してもよい。また、書き込み特性を改善するため、Coからなる、またはCoを主成分として含有する軟磁性下地層を設けてもよい。更に、基板との密着性を改善するための密着層を形成することもできる。
【0026】
本発明の磁気記録媒体の層構成の一例を図1に示し、また、層構成の他の一例を図2に示す。
図1に例示する磁気記録媒体は、ガラス基板(101)上に、NiTi合金下地層(102)、CrMo下地層(103)、MgO含有下地層(104)、磁性層(105)およびカーボン保護膜(106)が、この順に形成されている。
図2に例示する磁気記録媒体は、ガラス基板(201)上に、NiTa接着層(202)、Agヒートシンク層(203)、Ta下地層(204)、MgO含有下地層(205)、磁性層(206)、キャップ層(207)、カーボン保護膜(208)が、この順に形成されている。
【0027】
本発明に係る磁気記憶装置は、その一例を図3(傾視図)に示すように、磁気記録媒体(301)と、磁気記録媒体(301)を回転させるための駆動部(302)と、磁気ヘッド(303)と、磁気ヘッドを移動させるための駆動部(304)と、記録再生信号処理系(305)とを含んで構成される。
さらに、その磁気ヘッド(303)は、図4に例示するように、記録ヘッド(401)と再生ヘッド(411)とから構成され、そして、その記録ヘッド(401)は、磁気記録媒体を加熱するためのレーザー発生部(407)と、該レーザー発生部(407)から発生したレーザー光をヘッド先端まで導く導波路(404)と、ヘッド先端に取り付けられた近接場光発生部(405)を備えている。
上記のような構成を有する本発明の磁気記憶装置は、その磁気記録媒体(図3、301)が、上記の本発明に係る熱アシスト媒体であることを特徴としている。
【0028】
図4を参照して、本発明に係る磁気記憶装置で用いる磁気ヘッド(図3、303)を、より具体的に説明する。磁気ヘッドは、記録ヘッド(401)と再生ヘッド(411)とから構成される。記録ヘッド(401)は、上部磁極(402)、下部磁極(403)、及び両者の間に挟まれたPSIM(Planar Solid Immersion Mirror)(404)から構成される。PSIMは、例えば、Jpn.,J.Appl.Phys.,vol45,no.2B,pp1314−1320(2006)に記載されているような構造のものを用いることができる。PSIMの先端部には、近接場光発生部(405)が形成されている。PSIMは、レーザー発生部(光源)(407)から発生したレーザをヘッド先端まで導く導波路を構成する。すなわち、レーザー光源(407)から、PSIMの Grating部(406)に照射された例えば波長650nmの半導体レーザー(408)を、PSIM先端部の近接場光発生部(405)に集光させ、近接場光発生部(405)から発生した近接場光(409)により媒体(410)を加熱することができる。
再生ヘッド(411)は、上部シールド(412)と下部シールド(413)、およびこれら両シールド(412、413)で挟まれたTMR素子(414)で構成されている。
【実施例】
【0029】
(実施例1−1〜1−7、比較例1)
図1に本実施例で作製した磁気記録媒体の層構成の一例を示す。ガラス基板(101)上に50nmのNi−50原子%Ti合金下地層(102)を形成し、250℃まで加熱したのち、10nmのCr−15原子%Mo下地層(103)を形成した。その後、MgO含有下地層(104)を4nm形成し、基板を420℃まで加熱した後、6nmの(Fe−50原子%Pt)−45原子%C磁性層(105)、3nmのカーボン保護膜(106)を形成した。
【0030】
ここで、MgO含有下地層としては、MgO−15原子%Nb、MgO−12原子%Mo、MgO−3原子%Ru、MgO−5原子%Ta、MgO−30原子%W、MgO−2原子%Nb−2原子%Ru、MgO−5原子%Mo−2原子%Taを使用した(実施例1−1〜1−7)。また、比較例1として、元素添加なしのMgO含有下地層を使用した媒体を作製した。
【0031】
実施例媒体、及び比較例媒体のX線回折測定を行ったところ、何れの媒体においても、磁性層からの強いL1−FePt(001)回折ピークと、L1−FePt(002)ピークとFCC−FePt(200)ピークの混合ピークが観測された。後者の混合ピークに対する前者のピークの積分強度比は1.5〜1.7で、規則度の高いL1型FePt合金結晶が形成されていることがわかった。
【0032】
表1に本実施例媒体、及び比較例媒体の、磁性結晶粒の平均粒径<D>と、平均粒径で規格化した標準偏差σ/<D>を示す。ここで、磁性粒径の平均粒径と標準偏差は、磁性層の平面TEM像より見積もった。<D>は、実施例媒体、比較例媒体共に概ね5−6nm程度であった。一方、σ/<D>は、実施例媒体が0.23以下であったのに対し、比較例媒体は、0.32と著しく高かった。よって、MgOに融点が2000℃以上の元素(Nb、Mo、Ru、Ta、W)を添加することによって、磁性層の粒径を均一化できることがわかった。
【0033】
【表1】

【0034】
本実施例媒体において用いたMgO含有下地層、すなわち、MgO-15原子%Nb、MgO−12原子%Mo、MgO−3原子%Ru、MgO−5原子%Ta、MgO−30原子%W、MgO−2原子%Nb−2原子%Ru、MgO−5原子%Mo−2原子%Ta、およびMgO下地層の平均粒径を見積もるため、磁性層を形成しないサンプルを作製した。上記MgO含有下地層の平面TEM観察を行ったところ、平均粒径はいずれも10nm以下であった。一方、添加元素を含まないMgO含有下地層の平均粒径は、30nm以上であった。よって、本実施例媒体の磁性粒径が均一であったのは、MgO下地層の粒径が微細化されたためと考えられる。
【0035】
(実施例2−1〜2−8、比較例2)
図2に示す層構成を有する熱アシスト磁気記録媒体を次のように作成した。ガラス基板(201)に、10nmのNi−40原子%Ta接着層(202)、100nmのAgヒートシンク層(203)、5nmのTa下地層(204)、5nmのMgO含有下地層(205)をこの順に順次形成した。その後、380℃まで基板加熱を行い、10nmの(Co−50原子%Pt)−6mol%SiO−4mol%TiO磁性層(206)、4nmのCo−6原子%Cr−10原子%B合金キャップ層(207)、3nmのカーボン保護膜(208)を順次形成した。
【0036】
MgO含有下地層には、MgO−28原子%Nb、MgO−15原子%Nb−3原子%Mo、MgO−16原子%Mo、MgO−25原子%Ru、MgO−5原子%Ta−2原子%W、MgO−22原子%W、MgO−12原子%W−2原子%Mo、MgO−5原子%Mo−2原子%Taをそれぞれ使用した(実施例2−1〜2−8)。また、比較例2として、元素添加なしのMgO下地層を使用した媒体を作製した。
【0037】
実施例媒体、及び比較例媒体のX線回折測定を行ったところ、何れの媒体においても、磁性層からの強いL1−FePt(001)回折ピークと、L1−FePt(002)ピークとFCC−FePt(200)ピークの混合ピークが観測された。後者の混合ピークに対する前者のピークの積分強度比は1.5〜1.7で、規則度の高いL1型FePt合金結晶が形成されていることがわかった。
【0038】
表2に本実施例媒体、及び比較例媒体の保磁力、及び保磁力分散ΔHc/Hcを示す。ここで、ΔHc/Hcは、IEEE Trans. Magn., vol. 27, pp4975−4977, 1991に記載の方法を用いて室温で測定した。具体的には、メジャーループ及びマイナーループにおいて、磁化の値が飽和値の50%となるときの磁界を測定し、両者の差分から、Hc分布がガウス分布であると仮定してΔHc/Hcを算出した。ΔHc/Hcは、反転磁界分散(SFD:Switching Field Distribution)を表す指標であり、ΔHc/Hcが低いほど、SFDが狭くなるので好ましい。
【0039】
Hcは、実施例媒体、比較例媒体共に、概ね13.5−15.5kOe(1Oeは約79A/mである。)程度であった。一方、ΔHc/Hcは、実施例媒体が全て0.22以下であったのに対し、比較例媒体は、0.31と著しく高かった。これより、MgOにNb、Mo、Ru、Ta、Wから選択させる少なくとも1種以上の元素を添加することによって、ΔHc/Hcを低減できることがわかった。
【0040】
【表2】

【0041】
(実施例3−1〜3−6、比較例3−1〜3−3)
実施例2と同一膜構造で、MgO含有下地層として、MgOに2.5〜38原子%のWを添加したMgO−W下地層を用いた媒体を作製した。また、比較例として、MgO含有下地層に、添加元素なしのMgO、MgO−1原子%W、MgO−42原子%Wを用いた媒体を作製した。MgO含有下地層以外の層構成、成膜プロセスは、実施例2と同一である。
【0042】
X線回折測定を行ったところ、本実施例媒体の磁性層からは、強いL1−FePt(001)回折ピークと、L1−FePt(002)ピークとFCC−FePt(200)ピークの混合ピークが観測された。一方、MgO−42原子%W下地層を用いた比較例媒体からは、L1−FePt(001)回折ピークが観察されなかった。これは、MgO−42原子%W下地層のNaCl構造が劣化し、FePt結晶のエピタキシャル成長が阻害されたためと考えられる。
【0043】
表3に本実施例媒体、及び比較例媒体の保磁力、及び保磁力分散ΔHc/Hcを示す。
W添加量が2.5〜38原子%の本実施例媒体のΔHc/Hcはいずれも0.24以下であったのに対し、MgO含有下地層を用いた比較例媒体のΔHc/Hcは、0.28と高かった。また、MgO−1原子%W下地層を用いた比較例媒体のΔHc/Hcも0.27と、MgO下地層を用いた比較例媒体とほぼ同程度に高かった。このことは、MgOへのWの添加量が1原子%の場合、保磁力分散を効果的に低減できないことを示している。
【0044】
MgO−42原子%W下地層を用いた比較例媒体のΔHc/Hcは、0.31と著しく高かった。これは、過剰なW添加により、MgO−42原子%W下地層のNaCl構造が劣化し、磁性層中のFePt結晶の配向性が著しく劣化したためと考えられる。以上より、MgOへのW添加量は2原子%以上、40原子%以下が望ましいことがわかった。
MgOへのW添加量が、6原子%、12原子%、24原子%の媒体(実施例3−2、実施例3−3、実施例3−4)のΔHc/Hcが0.19以下と特に低かった。よって、MgOへの添加量を概ね5原子%以上、25原子%以下とすることにより、特にΔHc/Hcの低い(SFDの狭い)熱アシスト媒体が得られることがわかった。
【0045】
【表3】

【0046】
(実施例4)
上記実施例2で示した媒体(実施例2−1〜実施例2−8)にパーフルオルポリエーテル系の潤滑剤を塗布したのち、図3に示した磁気記憶装置に組み込んだ。本磁気記憶装置は、磁気記録媒体(301)と、磁気記録媒体を回転させるための駆動部(302)と、磁気ヘッド(303)と、ヘッドを移動させるための駆動部(304)と、記録再生信号処理系(305)を含んで構成される。
【0047】
磁気ヘッドとして、図4に示す構成を有するものを使用した。記録用ヘッド(401)は、上部磁極(402)、下部磁極(403)、及び両者の間に挟まれたPSIM(Planar Solid Immersion Mirror)(404)から構成される。PSIMの先端部には、近接場光発生部(405)が形成されている。レーザー光源(407)から、PSIMの Grating部(406)に照射された波長650nmの半導体レーザー(408)を、PSIM先端部の近接場光発生部(405)に集光させ、近接場光発生部から発生した近接場光(409)により媒体(410)を加熱した。
再生ヘッドは(411)、上部シールド(412)と下部シールド(413)で挟まれたTMR素子(414)で構成される。
【0048】
上記ヘッドで、実施例2−1〜実施例2−8の媒体を加熱し、線記録密度1600kFCI(kilo Flux Changes per Inch)で記録し、電磁変換特性を測定したところ、何れの媒体においても15dB以上の高い媒体SN比が得られた。これに対し、MgO下地層を用いた比較例2の媒体の媒体SN比は、12.3dBであった。
【0049】
以上より、MgOにNb、Mo、Ru、Ta、Wから選択させる少なくとも1種の金属元素を添加した下地層を用いることにより、高い媒体SN比を有する熱アシスト媒体が得られることがわかった。
【符号の説明】
【0050】
101…ガラス基板
102…NiTi下地層
103…CrMo下地層
104…MgOを主成分とする下地層
105…磁性層
106…カーボン保護膜
201…基板
202…NiTa接着層
203…Agヒートシンク層
204…Ta下地層
205…MgOを主成分とする下地層
206…磁性層
207…キャップ層
208…カーボン保護膜
301…磁気記録媒体
302…媒体駆動部
303…磁気ヘッド
304…ヘッド駆動部
305…記録再生信号処理系
401…記録ヘッド
402…上部磁極
403…下部磁極
404…PSIM(Planar Solid Immersion Mirror)
405…近接場光発生部
406…Grating部
407…レーザー発生部(光源)
408…半導体レーザー
409…近接場光
410…媒体
411…再生ヘッド
412…上部シールド
413…下部シールド
414…TMR素子
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の熱アシスト磁気記録媒体は、磁性結晶粒が均一であり、かつ、反転磁界分散(SFD)が狭いという特性を有する。このような特性を有する磁気記憶装置は高いSNRを示す。
上記熱アシスト磁気記録媒体は、媒体に近接場光等を照射して表面を局所的に加熱し、媒体の保磁力を低下させて書き込みを行う熱アシスト記録として、非常に高い面記録密度を実現できる次世代記録方式として期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板上に形成された複数の下地層と、L1構造を有する合金を主成分とする磁性層からなる磁気記録媒体において、該下地層の少なくとも一つが、MgOを主成分として含有し、かつ、融点が2000℃以上の金属元素を少なくとも一種含有していることを特徴とする熱アシスト磁気記録媒体。
【請求項2】
融点が2000℃以上の金属元素が、Nb、Mo、Ru、Ta、Wからなる群から選択される少なくとも一種である請求項1に記載の熱アシスト磁気記録媒体。
【請求項3】
MgOを主成分として含有する下地層に含有される融点が2000℃以上の金属元素の含有量が、該MgO含有下地層に基づき、2原子%以上、40原子%以下である請求項1または2に記載の熱アシスト磁気記録媒体。
【請求項4】
MgOを主成分として含有する下地層が、Crからなる、またはCrを主成分として含有するBCC構造を有する下地層上に形成されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱アシスト磁気記録媒体。
【請求項5】
MgOを主成分として含有する下地層が、Taからなる下地層上に形成されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱アシスト磁気記録媒体。
【請求項6】
MgOを主成分として含有する下地層の平均粒径が10nm以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱アシスト磁気記録媒体。
【請求項7】
磁性層がL1構造を有するFePtまたはCoPt合金を主成分として含有し、かつ、SiO、TiO、Cr、Al、Ta、ZrO、Y、CeO、MnO、TiO、ZnO、およびCからなる群から選択される少なくとも一種の酸化物または元素を含有している請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱アシスト磁気記録媒体。
【請求項8】
磁性層に含まれる該酸化物の量が、磁性層全体に基づき、10mol%以上、40mol%以下の範囲内である請求項7に記載の熱アシスト磁気記録媒体。
【請求項9】
磁性層に含まれるCの量が、磁性層全体に基づき、10at%以上、70at%以下の範囲内である請求項7に記載の熱アシスト磁気記録媒体。
【請求項10】
(イ)磁気記録媒体と、
(ロ)該磁気記録媒体を回転させるための駆動部と、
(ハ)記録ヘッドと再生ヘッドを有する磁気ヘッドであって、該記録ヘッドが、該磁気記録媒体を加熱するためのレーザー発生部と、該レーザー発生部から発生したレーザー光をヘッド先端まで導く導波路と、ヘッド先端に取り付けられた近接場光発生部を備えてなる磁気ヘッドと、
(二)該磁気ヘッドを移動させるための駆動部と、
(ホ)記録再生信号処理系を
含んで構成される磁気記憶装置であって;
該磁気記録媒体(イ)が請求項1〜9のいずれか1項に記載の熱アシスト媒体であることを特徴とする磁気記憶装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−198455(P2011−198455A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36602(P2011−36602)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】