熱アシスト磁気記録媒体及び磁気記憶装置
【課題】均一な粒界幅で分断されており、かつ、コラム成長した磁性結晶粒で構成される磁性層を有する熱アシスト記録媒体が実現し、これを用いたエラーレートの低い磁気記憶装置を提供する。
【解決手段】基板と、該基板上に形成された複数の下地層と、L10構造を有する合金を主成分とする磁性層からなる磁気記録媒体において、該磁性層が、L10構造を有するFePt合金とCからなる第1の磁性層と、L10構造を有するFePt合金とCr2O3、Y2O3もしくはTa2O5からなる第2の磁性層で構成された2層構成であることを特徴とする磁気記録媒体を用いる。また、第1の磁性層と、第2の磁性層の間に、交換結合を制御するための非磁性中間層を設ける。
【解決手段】基板と、該基板上に形成された複数の下地層と、L10構造を有する合金を主成分とする磁性層からなる磁気記録媒体において、該磁性層が、L10構造を有するFePt合金とCからなる第1の磁性層と、L10構造を有するFePt合金とCr2O3、Y2O3もしくはTa2O5からなる第2の磁性層で構成された2層構成であることを特徴とする磁気記録媒体を用いる。また、第1の磁性層と、第2の磁性層の間に、交換結合を制御するための非磁性中間層を設ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱アシスト磁気記録媒体、及びそれを用いた磁気記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
媒体に近接場光等を照射して表面を局所的に加熱し、媒体の保磁力を低下させて書き込みを行う熱アシスト記録は、1Tbit/inch2クラスの面記録密度を実現できる次世代記録方式として注目されている。熱アシスト記録媒体としては、磁性層に、L10型結晶構造を有するFePt合金や、同じくL10型結晶構造を有するCoPt合金を用いた媒体が用いられる。上記L10型結晶構造を有する規則合金は、106 J/m3台の高い結晶磁気異方性Kuを有するため、熱安定性を維持したまま、結晶粒径を6nm程度以下まで微細化できる。これにより、熱安定性を維持したまま、媒体ノイズを大幅に低減できる。
【0003】
熱アシスト記録媒体の媒体ノイズを低減するには、磁性粒径の微細化に加え、磁性粒子間の交換結合を低減する必要がある。このためには、磁性層に粒界材料を添加して、磁性結晶粒が粒界材料で分断されたグラニュラー構造とすることが望ましい。特許文献1には、L10型FePt合金を含む磁性層に、粒界材料としてSiO2、TiO2、Ta2O5を添加することが記載されている。また、特許文献2には、粒界材料として、MgO、C、SiO2、TiO2、Ta2O5、Al2O3、BN、SiNx、B4Cを添加することが記載されている。
【0004】
一方、グラニュラー構造を有する磁性膜上に、連続膜を形成することが提案されている。例えば特許文献3には、L10−FePt合金と酸化物からなるグラニュラー構造を有する磁性層の上に、FePtやCoCrPtB合金からなる連続膜をキャップ層として形成することにより、書き込み特性が改善されることが開示されている。また、特許文献4には、グラニュラー構造を有する磁性層の上に、非晶質構造を有するTbFeCo膜を形成することにより、TbFeCo膜に微細な磁区構造を形成でき、記録分解能を向上できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−158054号公報
【特許文献2】特開2010−176829号公報
【特許文献3】特開2009−158053号公報
【特許文献4】特開2008−159177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
磁性粒子間の交換結合を低減するには、磁性粒が酸化物等からなる粒界相で取り囲まれたグラニュラー構造をとっていることが望ましい。但し、粒界相の幅は可能な限り均一である必要がある。粒界幅が不均一になると、磁性粒子間の交換結合の強さが不均一となり、反転磁界分散SFD(Switching Field Distribution)が大きくなる。
【0007】
一方、磁性結晶粒は、初期成長部から上部にかけて粒径を一定に保って連続成長したコラム構造をとる必要がある。現在、提案されている粒界材料を単独で用いた場合、上記条件を満たせていない。磁性粒子が均一な粒界幅で分断されており、かつ、磁性粒がコラム成長した構造を実現させることが、熱アシスト記録媒体の高記録密度化を図る上で重要な課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、基板と、該基板上に形成された複数の下地層と、L10構造を有する合金を主成分とする磁性層からなる磁気記録媒体において、該磁性層が、L10構造を有するFePt合金とCからなる第1の磁性層と、L10構造を有するFePt合金とCr2O3、Y2O3もしくはTa2O5からなる第2の磁性層で構成された2層構成とすることで解決できる。すなわち本願発明は下記に関する。
【0009】
(1)基板と、該基板上に形成された複数の下地層と、L10構造を有する合金を主成分とする磁性層を含む磁気記録媒体において、該磁性層が、L10構造を有するFePt合金とCからなる第1の磁性層と、L10構造を有するFePt合金とCr2O3、Y2O3もしくはTa2O5からなる第2の磁性層を含むことを特徴とする磁気記録媒体。
(2)第1の磁性層の膜厚が6nm以下であることを特徴とする(1)に記載の磁気記録媒体。
(3)第1の磁性層と、第2の磁性層の間に、交換結合を制御するための非磁性中間層を有することを特徴とする(1)または(2)に記載の磁気記録媒体。
(4)磁性層が、更に、結晶粒と粒界相からなるグラニュラー構造ではない第3の磁性層を含むことを特徴とする(1)乃至(3)の何れか1項に記載の磁気記録媒体。
(5)第3の磁性層が、FeもしくはCoを主成分とし、Nd、Sm、Gd、Tb、Dyから選択される少なくとも1種類の元素を含有する非晶質構造、もしくは微結晶構造を有する合金であることを特徴とする(4)に記載の磁気記録媒体。
(6)第3の磁性層が、FeもしくはCoを主成分とし、Ta、Nb、Zr、Si、Bから選択される少なくとも1種類の元素を含有する非晶質構造、もしくは微結晶構造を有する合金であることを特徴とする(4)に記載の磁気記録媒体。
(7)第2の磁性層と、第3の磁性層の間に、交換結合を制御するための非磁性中間層を有することを特徴とする(4)乃至(6)の何れか1項に記載の磁気記録媒体。
(8)磁気記録媒体と、該磁気記録媒体を回転させるための駆動部と、該磁気記録媒体を加熱するためのレーザー発生部と、該レーザー発生部から発生したレーザー光をヘッド先端まで導く導波路と、ヘッド先端に取り付けられた近接場光発生部を備えた磁気ヘッドと、該磁気ヘッドを移動させるための駆動部と、記録再生信号処理系から構成さる磁気記憶装置において、該磁気記録媒体が(1)乃至(7)の何れか1項に記載の磁気記録媒体であることを特徴とする磁気記憶装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、磁性層中の磁性粒子が均一な粒界幅で分断されており、かつ、磁性粒がコラム成長した熱アシスト用磁気記録媒体が得られる。これにより、反転磁界分散SFDの狭い熱アシスト記録媒体が実現され、これを用いたエラーレートの低い磁気記憶装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の磁気記録媒体の層構成の一例を表す図
【図2】磁性層中の粒成長を模式的に表す図
【図3】本発明の磁気記録媒体の層構成の一例を表す図
【図4】本発明の磁気ヘッドを表す図
【図5】本発明の磁気記憶装置の傾視図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
本発明は、基板と、基板上に形成された複数の下地層と、L10構造を有する合金を主成分とする磁性層を含む磁気記録媒体において、磁性層が、L10構造を有するFePt合金とCからなる第1の磁性層と、L10構造を有するFePt合金とCr2O3、Y2O3もしくはTa2O5からなる第2の磁性層を含むことを特徴とする。図1に本発明の実施形態の一例を示すが、基板101上に第1の下地層102、第2の下地層103、第3の下地層104、第1の磁性層105、第2の磁性層106、保護膜107が形成されている。
【0014】
本発明の磁気記録媒体の製造では、磁性層に用いるFePt合金に良好なL10規則構造をとらせるため、450℃以上の基板加熱を必要とする。よって、基板には、軟化温度が500℃以上の耐熱ガラス基板を用いるのが望ましい。
【0015】
第1の下地層は、非晶質合金を用いることが望ましい。具体的には、Co−50at%Ta、Co−50at%Ti、Ni−50at%Ta、Ni−50at%Ti、Cr−50at%Ti合金等を用いることができる。シード層の膜厚が10nmを下回ると、赤外線加熱によって、基板温度を上げることが困難となるので、膜厚は10nm以上が望ましい。
【0016】
第2の下地層には、B2構造を有するRuAl、NiAlを用いることができる。150℃以上に加熱した非晶質合金下地層上に、上記B2構造を有する下地層を形成することにより、該下地層にB2(100)配向をとらせることができる。これにより、後述する第3の下地層に(100)配向をとらせることができる。また、第2の下地層にCr、もしくはCrを主成分とし、Ti、V、Mo、W、Mn、Ruのうちの少なくとも1種類を含有したBCC構造の合金を用いてもよい。これらの合金も、150℃以上に加熱した非晶質合金下地層上に形成することによって(100)配向をとらせることができる。
【0017】
第3の下地層には、NaCl構造を有するTiN、TiC、MgO、NiO等を用いることができる。これらの合金を、(100)配向したB2構造の下地層、もしくは(100)配向したBCC構造の下地層の上に形成した場合、エピタキシャル成長により、(100)配向を示す。これにより、第3の下地層上に形成されるL10−FePt合金に(001)配向をとらせることが可能となる。尚、第3の下地層に用いられる上記材料は、熱伝導率が低いため、熱バリア層としても機能する。このため、磁性層をより高温に加熱することができる。但し、記録ヘッドの媒体加熱能力が十分である場合は、第3の下地層は特に設けなくてもよい。
【0018】
磁性層は、L10構造を有するFePt合金とC粒界相からなる第1の磁性層と、L10構造を有するFePt合金とCr2O3、Y2O3、もしくはTa2O5粒界相からなる第2の磁性層で構成された2層構成とするのが好ましい。基板温度を450℃以上に加熱した後に磁性層を形成することにより、磁性層中のFePt合金に規則度の高いL10構造をとらせ、かつ(001)配向をとらせることができる。第1の磁性層のC添加量は、30at%以上とすることが望ましい。これにより、L10−FePt合金結晶粒が、均一幅のC粒界相で分断されたグラニュラー構造をとらせることができる。但し、第1の磁性層の膜厚は6nm以下が望ましい。6nmを上回ると、第1の磁性層105中のFePt結晶粒は、膜面垂直方向に連続成長したコラム構造をとらなくなり、図2に模式的に示すような、初期成長部201と、その上にC粒界相202を介して球状に成長した2次成長部(2次成長粒)203から構成される2段構造をとる。なお、第1の磁性層の膜厚の下限は1nmとするのが好ましい。第1の磁性層の層厚が1nm未満となると、第1の磁性層が上述のコラム構造となりにくくなる。
【0019】
図2の符号203に示す2次成長部のFePt結晶は、ランダム配向しており、規則度も低い。このため、反転磁界分散SFDが著しく広くなり、媒体SNRが著しく低下する。高いSNRを得るには、媒体の再生出力を高く設定する必要があるため、磁性層の合計膜厚は、8nm以上であることが望ましい。しかし、上述のようにFePt磁性粒とC粒界相からなる磁性層単独で膜厚を8nm以上に設定することは困難である。
【0020】
そこで、第1の磁性層の膜厚を6nm以下に設定し、該第1の磁性層上に、L10構造を有するFePt合金とCr2O3、Y2O3、もしくはTa2O5からなる第2の磁性層を形成して磁性層の総膜厚を8nm以上にするのが望ましい。第2の磁性層は、第1の磁性層上に形成されることにより、FePt結晶がCr2O3、Y2O3、もしくはTa2O5からなる均一な粒界相で分断されたグラニュラー構造をとる。また、第2の磁性層中のFePt合金は、第1の磁性層中のL10−FePt合金上にエピタキシャル成長して(001)配向をとり、かつ、規則度の高いL10構造をとる。これにより、膜厚が8nm以上で、磁性結晶粒が均一な粒界幅で分断された磁性層を形成することができる。上記、2層構造の磁性層を用いることにより、反転磁界分散SFDが狭く、媒体SNRの高い熱アシスト媒体が得られる。
【0021】
第1の磁性層、もしくは第2の磁性層中のFePt合金にAg、Cu等を添加してもよい。これにより、規則度が向上し、磁気異方性を高めることができる。また、Niを添加してもよい。これにより、キュリー温度が低下し、記録温度を低く設定できる。
【0022】
第1の磁性層中のC濃度、及び第2の磁性層中のCr2O3、Y2O3、もしくはTa2O5濃度を膜厚方向に連続的、もしくは段階的に変化させてもよい。即ち、第1の磁性層はC濃度の異なる複数の層で構成されていても良いし、第2の磁性層もCr2O3、Y2O3、もしくはTa2O5濃度の異なる複数の層で構成されていても良い。また、Ag、Cu、Ni等の添加元素の濃度も磁性層の膜厚方向に変化させてもよい。ヘッドからの距離に応じて、磁性層中の磁気特性、交換結合の強さ等を膜厚方向に変化させることにより、記録再生特性を更に改善できる。
【0023】
第1の磁性層と第2の磁性層の間に、交換結合を制御するための中間層を形成してもよい。この場合、該中間層は第1の磁性層上にエピタキシャル成長する材料であることが望ましい。これにより、第2の磁性層を該中間層上にエピタキシャル成長させることができる。中間層は非磁性材料が望ましいが、100emu/cc以下の弱い磁化であれば、磁性材料であってもよい。具体的には、CrTi、CrW、CrMo等のCr合金や、MgO、TiN、TiC等、第2の下地層、もしくは第3の下地層に用いる材料を用いることができる。但し、第1の磁性層、及び第2の磁性層との格子ミスフィットが概ね10%以下であれば、中間層材料に特に制限はない。上記中間層を設け、第1の磁性層と第2の磁性層間の層間結合を最適化することにより、反転磁界分散SFDを更に低減できる。
【0024】
図3に本発明の実施形態の他の一例を示す。第2の磁性層の上に、更に第3の磁性層301が形成されている。第3の磁性層は、CやCr2O3等の酸化物を含有せず、磁気的、構造的に均一な、グラニュラー構造ではない連続膜であることが望ましい。ここで、磁気的、構造的に均一とは、膜中に組成むらがなく、磁化や磁気異方性の局所的なむらがないことを意味する。磁気的に均一な第3の磁性層を導入することにより、第1と第2の磁性層中のFePt磁性粒間に均一な交換結合を導入することができ、反転磁界分散を更に低減できる。第3の磁性層は非晶質合金であることが望ましい。結晶質合金は、格子欠陥、組成偏析、磁化容易軸のランダム方向等に起因した磁気的、構造的な不均一性が大きいため、均一な交換結合を導入できないので好ましくない。具体的には、CoZrTa、CoZrNb、CoFeB、CoFeTa、CoFeTaZr、CoFeTaB、CoFeTaSi、CoFeTaZr等の非晶質合金を使用できる。また、TbFeCo、SmCo等の希土類元素を含有する非晶質合金でもよい。
【0025】
上記第3の磁性層を導入することにより、均一な交換結合を導入し、SFDを狭くできる。但し、この場合、第2の磁性層は、均一な粒界相で分断され、かつ、コラム成長したグラニュラー構造である必要がある。第2の磁性層中の結晶粒の分離が不十分であると、第3の磁性層を導入しても、均一な交換結合を導入できない。よって、反転磁界分散SFDを狭くすることが出来ず、良好な記録再生特性が得られない。また、交換結合導入により磁気クラスターサイズが増大する。良好な記録再生特性、特に高い媒体SNRを実現するには、SFDを狭くすると同時に磁気クラスターサイズを低減する必要がある。よって、第3の磁性層の磁化や膜厚は、SFDと磁気クラスターサイズの適切なバランスを考慮して設計する必要がある。
【0026】
第2の磁性層と第3の磁性層の間に、交換結合を制御するための中間層を形成してもよい。この場合、中間層は結晶質でも非晶質でもよい。また、非磁性材料でも良いし、100emu/cc以下の弱い磁化であれば、磁性材料であってもよい。上記中間層により、第2の磁性層と第3の磁性層間の層間結合を最適化することにより、反転磁界が低減されオーバーライト特性を改善することができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の
実施例に限定されるものではない。
【0028】
(実施例1)
ガラス基板上に、第1の下地層として50nmのCo−50at%Ti、第2の下地層として10nmのCr−10at%Ruを形成し、250℃の基板加熱を行ったのち、第3の下地層として10nmのTiN下地層を順次形成した。その後、再度、520℃の基板加熱を行い、第1の磁性層として5nmの(Fe−50at%Pt)−40at%Cを形成し、第2の磁性層として5nmの(Fe−45at%Pt)−15mol%Cr2O3(実施例1.1)、(Fe−50at%Pt−3at%Cu)−9.5mol%Y2O3(実施例1.2)、もしくは(Fe−45at%Pt−5at%Ag)−8mol%Ta2O5(実施例1.3)を形成し、更に3nmのDLC保護膜を形成した。
【0029】
比較例として、磁性層が単層膜で構成される媒体を作製した。単層膜としては、10nmの(Fe−50at%Pt)−40at%C(比較例1.1)、(Fe−45at%Pt)−15mol%Cr2O3(比較例1.2)、(Fe−50at%Pt−3at%Cu)−9.5mol%Y2O3(比較例1.3)、もしくは(Fe−45at%Pt−5at%Ag)−8mol%Ta2O5(比較例1.4)を用いた。
【0030】
本実施例1.1〜1.3のX線回折測定を行ったところ、全ての媒体において磁性層からはL10−FePt(001)回折ピークと、L10−FePt(002)回折ピークとFCC−FePt(200)ピークの混合ピークのみが観察された。また、CoTi下地層からは明瞭な回折ピークが観察されなかったが、CrRu下地層、及びTiN下地層からは(200)ピークのみが観察された。これより、CoTi下地層は非晶質で、その上に形成されたCrRu下地層は(100)配向をとり、更にその上のTiN下地層もエピタキシャル成長により(100)配向をとっていることがわかった。磁性層が上記配向をとっているのは、TiN下地層上にエピタキシャル成長したためと考えられる。
【0031】
次に、本実施例媒体の平面TEM観察を行ったところ、磁性粒が粒界相で分断されたグラニュラー構造をとっていた。表1に本実施例媒体の平均粒径<D>と、平均粒径で規格化した粒径分散σ/<D>を示す。本実施例媒体の平均粒径は全て6nm以下で、粒径分散は20%以下であった。また、本実施例媒体の断面TEM観察を行ったところ、磁性結晶粒は、膜面垂直方向に連続成長したコラム構造をとっていることがわかった。
【0032】
【表1】
【0033】
一方、粒界相にCを用いた比較例媒体1.1の平面TEM観察を行ったところ、実施例媒体と同様、粒径が概ね5−7nm程度の結晶粒が粒界で分断されたグラニュラー構造をとっていた。但し、上記結晶粒に加えて、粒径が2−3nm以下の極めて微細な結晶粒が、粒界、もしくは粒内に多数観察された。比較例1.1の断面TEM観察を行ったところ、磁性層は、5−6nmの高さで成長が停止したドーム形状の初期成長結晶粒と、その上に粒界を介して成長した球状の2次成長結晶粒からなる二段構成をとっていた。よって、平面TEM像で観察された2−3nm以下の微細な結晶粒は、上記2次成長した結晶粒と考えられる。
【0034】
次に、粒界相にCr2O3、Y2O3、Ta2O5を用いた比較例媒体1.2〜1.4の平面TEM観察を行ったところ、磁性粒が粒界相で完全に分断されておらず、隣接する磁性粒子がつながった部分が多数観察された。
【0035】
表2に比較例媒体の平均粒径<D>と、平均粒径で規格化した粒径分散σ/<D>を示す。尚、TEM像中で互いにつながった隣接粒子は1個の粒子とみなしている。比較例媒体1.1の平均粒径は、5.4nmで実施例媒体とほぼ同程度であったが、規格化粒径分散は著しく高い値を示した。これは、著しく粒径が微細な2次成長粒が多数存在している影響と考えられる。また、比較例媒体1.2〜1.4は、平均粒径、粒径分散共に実施例媒体より著しく高かった。これは、互いにつながった隣接粒子が多数存在しているためと考えられる。
【0036】
【表2】
【0037】
以上より、磁性層をFePt合金とC粒界相からなる第1の磁性層と、L10構造を有するFePt合金とCr2O3、Y2O3、もしくはTa2O5粒界相からなる第2の磁性層で構成された2層構成とすることにより、磁性結晶粒が粒界相によって完全に分断され、かつ、磁性結晶粒が膜面垂直方向に連続成長したコラム構造をとらせることができることがわかった。また、これにより粒径分散を平均粒径の20%以下に低減できることがわかった。
【0038】
表3に、上記実施例媒体と比較例媒体の保磁力Hcと規格化保磁力分散ΔHc/Hcを示す。ここで、HcはPPMSにより7Tの磁界を印加して室温で測定した。また、ΔHc/Hcは、「IEEE Trans. Magn., vol.27, pp4975−4977, 1991」に記載の方法で測定した。具体的には、7Tの最大磁界を印加して室温で測定したメジャーループ、及びマイナーループにおいて、磁化の値が飽和値の50%となるときの磁界を測定し、両者の差分から、Hc分布がガウス分布であると仮定してΔHc/Hcを算出した。ΔHc/Hcは、反転磁界分散に相当するパラメーターであり、この値が低いほど、高い媒体SNRが得られるため、望ましい。
【0039】
【表3】
【0040】
本実施例媒体1.1〜1.3は、全て32kOe以上の高い保磁力を示し、保磁力分散も0.29以下であった。一方、比較例媒体に関しては、比較例媒体1.1の保磁力は実施例とほぼ同程度であったが、比較例媒体1.2〜1.4の保磁力は、実施例に比べて大幅に低かった。これは、磁性粒子間の交換結合が強いためと考えられる。また、比較例媒体の保磁力分散は、実施例媒体に比べて著しく広がっていた。これは、上述のように、比較例媒体の粒径分散が、実施例媒体に比べて著しく大きいことに起因していると考えられる。以上より、本実施例媒体は、粒径分散が狭いと同時に保磁力分散も狭いことがわかった。
【0041】
(実施例2)
ガラス基板上に、50nmのCu−12.5at%Pd合金からなるヒートシンク層、50nmのCo−15at%Ta−10at%Zr合金からなる軟磁性下地層を形成し、550℃の基板加熱を行ったのち、25nmのRu−50at%Al下地層を形成した。次いで、4nmのTiN下地層を形成し、第1の磁性層として3nmの(Fe−45at%Pt−5at%Ni)−45at%C、第2の磁性層として8nmの(Fe−50at%Pt)−12mol%Cr2O3(実施例2.1)、(Fe−50at%Pt)−7mol%Y2O3(実施例2.2)、もしくは(Fe−50at%Pt)−6.5mol%Ta2O5(実施例2.3)を形成し、2.5mnのDLC保護膜を形成した。また、比較例として、第2の磁性層に8nmの(Fe−50at%Pt)−12mol%SiO2(比較例2.1)、(Fe−50at%Pt)−17.5mol%TiO2(比較例2.2)を使用した媒体を作製した。
【0042】
表4に本実施例媒体2.1〜2.3の保磁力Hc、及び規格化保磁力分散ΔHc/Hcを示す。ここで、HcとΔHc/Hcは実施例1と同様の手法で求めた。本実施例媒体のHcはいずれも36kOe以上であり、ΔHc/Hcは0.24以下であった。これに対して、比較例媒体2.1〜2.2のHcは24kOe以下と低く、ΔHc/Hcは0.35以上であった。
【0043】
【表4】
【0044】
本実施例媒体2.1〜2.3の平面TEM観察を行ったところ、平均粒径が5.5−6.3nmの磁性粒子が粒界相で分断されたグラニュラー構造をとっていた。一方、比較例媒体2.1〜2.2の平面TEM観察を行ったところ、粒界相による粒分離が不十分であり、互いにつながった隣接粒子が多数観察された。比較例媒体のΔHc/Hcが大きかったのは、このためと考えられる。
【0045】
以上より、第2の磁性層に、L10構造を有するFePt合金とCr2O3、Y2O3もしくはTa2O5からなる材料を用いることにより、ΔHc/Hcが低い媒体が得られることがわかった。
【0046】
(実施例3)
実施例2と同一下地構成で、第1の磁性層に(Fe−45at%Pt−5at%Ni)−40at%C、第2の磁性層に(Fe−50at%Pt)−5mol%Ta2O5を使用した。ここで、第1の磁性層の膜厚を1nm、3nm、5nmとし、第1の磁性層と第2の磁性層の合計膜厚を10nm一定とした。また、比較例として第1の磁性層の膜厚を9nm、7nm、5nmとした媒体を作製した。
【0047】
本実施例媒体、及び比較例媒体の断面TEM観察を行ったところ、実施例媒体の磁性層では、コラム成長した結晶粒が見られたのに対し、比較例媒体の磁性層中には、磁性層の表面付近に二次成長した球状の結晶粒が多数観察された。表5に本実施例媒体、及び比較例媒体のHcとΔHc/Hcを示す。第1の磁性層の膜厚増加に伴いΔHc/Hcは増加傾向にあるが、第1の磁性層の膜厚を5nm以下とした本実施例媒体では、ΔHc/Hcは0.27以下の低い値に抑えられている。これは、上述のように、二次成長粒の生成が抑制されているためと考えられる。以上より、磁性結晶粒をコラム成長させ、ΔHc/Hcを低い値に抑制するには、第1の磁性層の膜厚は6nm以下が好ましいことがわかった。
【0048】
【表5】
【0049】
(実施例4)
実施例1と同様の層構成で、第2の磁性層として、5nmの(Fe−50at%Pt)−8mol%Ta2O5を形成し、更に第3の磁性層を形成した。第3の磁性層には、4nmのCo−20at%Nb−5at%Zr(実施例4.1)、Co−27at%Fe−5at%Zr−5at%Si(実施例4.2)、Fe−10at%Ta−10at%B(実施例4.3)、Fe−10at%Ta−10at%C(実施例4.4)、Fe−28at%Tb−12at%Co(実施例4.5)、Co−20at%Sm(実施例4.6)合金を使用した。また、比較例として第3の磁性層に、4nmのCo−12at%Cr−14at%Pt−8at%B(比較例4.1)を形成した媒体を作製した。更に比較例として、第2の磁性層に5nmの(Fe−50at%Pt)−16mol%SiO2(比較例4.2)、もしくは5nmの(Fe−50at%Pt)−21.5mol%TiO2(比較例4.3)を使用し、第3の磁性層に4nmのCo−20at%Nb−5at%Zr(比較例4.2)(比較例4.2、4.3)を使用した媒体を作製した。
【0050】
本実施例媒体4.1〜4.6の断面TEM観察を行ったところ、第3の磁性層からは明瞭な格子縞が観察されなかった。よって、これらの合金は、非晶質、もしくは微結晶構造をとっていると考えられる。一方、比較例媒体4.1の第3の磁性層に用いられているCoCrPtB合金は、HCP構造をとっていることが確認できた。
【0051】
表6に本実施例媒体の保磁力Hc、及び規格化保磁力分散ΔHc/Hcを示す。ここで、HcとΔHc/Hcは実施例1と同様の手法で求めた。本実施例媒体4.1〜4.6のHcはいずれも25kOe以上であり、ΔHc/Hcは0.25以下であった。本結果を表3に示した実施例1の媒体と比較することにより、第3の磁性層を形成することによってΔHc/Hcを更に低減できることがわかる。本実施例媒体のうち、FeもしくはCoを主成分とし、Ta、Nb、Zr、Si、B、Cを含有する合金を第3の磁性層に用いた実施例媒体4.1〜4.4は、0.22以下の特に低いΔHc/Hcを示した。また、FeTeCoや CoSm等の希土類合金を含んだ非晶質合金を第3の磁性層に用いた実施例媒体4.5〜4.6は、28kOe以上の高いHcを示した。
【0052】
【表6】
【0053】
一方、比較例媒体4.1は、実施例媒体よりHcが低く、ΔHc/Hcは実施例媒体より著しく大きかった。これより、第3の磁性層には、HCP構造のCo合金よりも非晶質合金を用いた方が、ΔHc/Hcの低減には有効であることがわかる。但し、第3の磁性層に非晶質合金であるCoNbZr合金を用いた場合でも、第2の磁性層にFePt−SiO2、もしくはFePt−TiO2を用いた比較例媒体4.2、比較例媒体4.3のΔHc/Hcは実施例媒体に比べて高い。これは、実施例2で示したように、第2の磁性層にFePt−SiO2、もしくはFePt−TiO2を用いた場合、磁性結晶粒の分離が不十分であり、不均一な交換結合が導入されているためと考えられる。よって、第3の磁性層形成によりΔHc/Hcを効果的に低減するには、第2の下地層に添加する粒界相材料はCr2O3、Y2O3もしくはTa2O5であることが望ましいことがわかった。
【0054】
(実施例5)
実施例4で示した媒体にパーフルオルエーテル系の潤滑剤を塗布し、熱アシスト記録用ヘッドを用いてRW特性を評価した。使用したヘッドは、図4に示すように、主磁極401、補助磁極402、磁界を発生させるためのコイル403、レーザーダイオードLD404、LDから発生したレーザー光405を近接場発生素子406まで伝達するための導波路407から構成される記録ヘッド408、及びシールド409で挟まれた再生素子410から構成される再生ヘッド411からなる。近接場光素子から発生した近接場光により媒体412を加熱し、媒体の保磁力をヘッド磁界以下まで低下させて記録できる。
【0055】
表7に、上記ヘッドを用いて線記録密度1400kFCIのオールワンパターン信号を記録して測定した媒体SNRと、トラック幅MWWを示す。ここで、トラック幅は、トラックプロファイルの半値幅と定義した。実施例媒体4.1〜4.6はいずれも15dB以上の高いSNRと、80nm以下の狭いトラック幅を示した。特に、第3の磁性層にCoを使用した実施例媒体4.1〜4.3は16dB以上の高いSNRを示した。これは、ΔHc/Hcが低いためと考えられる。一方、実施例媒体4.4〜4.6はトラック幅が特に狭かった。これに対し、比較例媒体4.1〜4.3のSNRは著しく低く、トラック幅も広がっていた。これより、第3の磁性層に、非晶質合金を用いることにより、SNRが高く、かつ、トラック幅の狭い熱アシスト記録媒体が得られることがわかった。
【0056】
【表7】
【0057】
(実施例6)
実施例1で示した媒体(実施例媒体1.1〜1.3、比較例媒体1.1〜1.4)、及び実施例2で示した媒体(実施例媒体2.1〜2.3、比較例媒体2.1〜1.2)に、パーフルオルエーテル系の潤滑剤を塗布し、図5に示す磁気記憶装置に組み込んだ。本磁気記憶装置は、磁気記録媒体412と、磁気記録媒体を回転させるための駆動部502と、磁気ヘッド503と、ヘッドを移動させるための駆動部504と、記録再生信号処理系505から構成される。磁気ヘッドは、実施例5で述べた熱アシスト記録用ヘッドを用いた。
【0058】
上記磁気記憶装置により、線記録密度1600kFCI、トラック密度400kFCI(面記録密度640Gbit/inch2)の条件で記録し、ビットエラーレートBERを評価した結果を表8に示す。実施例媒体1.1〜1.3と実施例媒体2.1〜2.3を組み込んだ磁気記憶装置は、1×10−6台の低いエラーレートを示した。一方、比較例媒体1.1〜1.4、比較例媒体2.1〜1.2のエラーレートは1×10−4以上で、実施例媒体に比べて悪化していた。
【0059】
【表8】
【0060】
以上より、磁性層が、L10構造を有するFePt合金とCからなる第1の磁性層と、L10構造を有するFePt合金とCr2O3、Y2O3もしくはTa2O5からなる第2の磁性層で構成された媒体を用いることにより、エラーレートの低い磁気記憶装置が実現できることがわかった。
【符号の説明】
【0061】
101…ガラス基板
102…第1の下地層
103…第2の下地層
104…第2の下地層
105…第1の磁性層
106…第1の磁性層
107…DLC保護膜
201…初期成長部
202…粒界相
203…2次成長部(2次成長粒)
301…第3の磁性層
401…主磁極
402…補助磁極
403…コイル
404…半導体レーザーダイオード
405…レーザー光
406…近接場光発生部
407…導波路
408…記録ヘッド
409…シールド
410…再生素子
411…再生ヘッド
412…磁気記録媒体
502…媒体駆動部
503…磁気ヘッド
504…ヘッド駆動部
505…記録再生信号処理系
【技術分野】
【0001】
本発明は熱アシスト磁気記録媒体、及びそれを用いた磁気記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
媒体に近接場光等を照射して表面を局所的に加熱し、媒体の保磁力を低下させて書き込みを行う熱アシスト記録は、1Tbit/inch2クラスの面記録密度を実現できる次世代記録方式として注目されている。熱アシスト記録媒体としては、磁性層に、L10型結晶構造を有するFePt合金や、同じくL10型結晶構造を有するCoPt合金を用いた媒体が用いられる。上記L10型結晶構造を有する規則合金は、106 J/m3台の高い結晶磁気異方性Kuを有するため、熱安定性を維持したまま、結晶粒径を6nm程度以下まで微細化できる。これにより、熱安定性を維持したまま、媒体ノイズを大幅に低減できる。
【0003】
熱アシスト記録媒体の媒体ノイズを低減するには、磁性粒径の微細化に加え、磁性粒子間の交換結合を低減する必要がある。このためには、磁性層に粒界材料を添加して、磁性結晶粒が粒界材料で分断されたグラニュラー構造とすることが望ましい。特許文献1には、L10型FePt合金を含む磁性層に、粒界材料としてSiO2、TiO2、Ta2O5を添加することが記載されている。また、特許文献2には、粒界材料として、MgO、C、SiO2、TiO2、Ta2O5、Al2O3、BN、SiNx、B4Cを添加することが記載されている。
【0004】
一方、グラニュラー構造を有する磁性膜上に、連続膜を形成することが提案されている。例えば特許文献3には、L10−FePt合金と酸化物からなるグラニュラー構造を有する磁性層の上に、FePtやCoCrPtB合金からなる連続膜をキャップ層として形成することにより、書き込み特性が改善されることが開示されている。また、特許文献4には、グラニュラー構造を有する磁性層の上に、非晶質構造を有するTbFeCo膜を形成することにより、TbFeCo膜に微細な磁区構造を形成でき、記録分解能を向上できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−158054号公報
【特許文献2】特開2010−176829号公報
【特許文献3】特開2009−158053号公報
【特許文献4】特開2008−159177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
磁性粒子間の交換結合を低減するには、磁性粒が酸化物等からなる粒界相で取り囲まれたグラニュラー構造をとっていることが望ましい。但し、粒界相の幅は可能な限り均一である必要がある。粒界幅が不均一になると、磁性粒子間の交換結合の強さが不均一となり、反転磁界分散SFD(Switching Field Distribution)が大きくなる。
【0007】
一方、磁性結晶粒は、初期成長部から上部にかけて粒径を一定に保って連続成長したコラム構造をとる必要がある。現在、提案されている粒界材料を単独で用いた場合、上記条件を満たせていない。磁性粒子が均一な粒界幅で分断されており、かつ、磁性粒がコラム成長した構造を実現させることが、熱アシスト記録媒体の高記録密度化を図る上で重要な課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、基板と、該基板上に形成された複数の下地層と、L10構造を有する合金を主成分とする磁性層からなる磁気記録媒体において、該磁性層が、L10構造を有するFePt合金とCからなる第1の磁性層と、L10構造を有するFePt合金とCr2O3、Y2O3もしくはTa2O5からなる第2の磁性層で構成された2層構成とすることで解決できる。すなわち本願発明は下記に関する。
【0009】
(1)基板と、該基板上に形成された複数の下地層と、L10構造を有する合金を主成分とする磁性層を含む磁気記録媒体において、該磁性層が、L10構造を有するFePt合金とCからなる第1の磁性層と、L10構造を有するFePt合金とCr2O3、Y2O3もしくはTa2O5からなる第2の磁性層を含むことを特徴とする磁気記録媒体。
(2)第1の磁性層の膜厚が6nm以下であることを特徴とする(1)に記載の磁気記録媒体。
(3)第1の磁性層と、第2の磁性層の間に、交換結合を制御するための非磁性中間層を有することを特徴とする(1)または(2)に記載の磁気記録媒体。
(4)磁性層が、更に、結晶粒と粒界相からなるグラニュラー構造ではない第3の磁性層を含むことを特徴とする(1)乃至(3)の何れか1項に記載の磁気記録媒体。
(5)第3の磁性層が、FeもしくはCoを主成分とし、Nd、Sm、Gd、Tb、Dyから選択される少なくとも1種類の元素を含有する非晶質構造、もしくは微結晶構造を有する合金であることを特徴とする(4)に記載の磁気記録媒体。
(6)第3の磁性層が、FeもしくはCoを主成分とし、Ta、Nb、Zr、Si、Bから選択される少なくとも1種類の元素を含有する非晶質構造、もしくは微結晶構造を有する合金であることを特徴とする(4)に記載の磁気記録媒体。
(7)第2の磁性層と、第3の磁性層の間に、交換結合を制御するための非磁性中間層を有することを特徴とする(4)乃至(6)の何れか1項に記載の磁気記録媒体。
(8)磁気記録媒体と、該磁気記録媒体を回転させるための駆動部と、該磁気記録媒体を加熱するためのレーザー発生部と、該レーザー発生部から発生したレーザー光をヘッド先端まで導く導波路と、ヘッド先端に取り付けられた近接場光発生部を備えた磁気ヘッドと、該磁気ヘッドを移動させるための駆動部と、記録再生信号処理系から構成さる磁気記憶装置において、該磁気記録媒体が(1)乃至(7)の何れか1項に記載の磁気記録媒体であることを特徴とする磁気記憶装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、磁性層中の磁性粒子が均一な粒界幅で分断されており、かつ、磁性粒がコラム成長した熱アシスト用磁気記録媒体が得られる。これにより、反転磁界分散SFDの狭い熱アシスト記録媒体が実現され、これを用いたエラーレートの低い磁気記憶装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の磁気記録媒体の層構成の一例を表す図
【図2】磁性層中の粒成長を模式的に表す図
【図3】本発明の磁気記録媒体の層構成の一例を表す図
【図4】本発明の磁気ヘッドを表す図
【図5】本発明の磁気記憶装置の傾視図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
本発明は、基板と、基板上に形成された複数の下地層と、L10構造を有する合金を主成分とする磁性層を含む磁気記録媒体において、磁性層が、L10構造を有するFePt合金とCからなる第1の磁性層と、L10構造を有するFePt合金とCr2O3、Y2O3もしくはTa2O5からなる第2の磁性層を含むことを特徴とする。図1に本発明の実施形態の一例を示すが、基板101上に第1の下地層102、第2の下地層103、第3の下地層104、第1の磁性層105、第2の磁性層106、保護膜107が形成されている。
【0014】
本発明の磁気記録媒体の製造では、磁性層に用いるFePt合金に良好なL10規則構造をとらせるため、450℃以上の基板加熱を必要とする。よって、基板には、軟化温度が500℃以上の耐熱ガラス基板を用いるのが望ましい。
【0015】
第1の下地層は、非晶質合金を用いることが望ましい。具体的には、Co−50at%Ta、Co−50at%Ti、Ni−50at%Ta、Ni−50at%Ti、Cr−50at%Ti合金等を用いることができる。シード層の膜厚が10nmを下回ると、赤外線加熱によって、基板温度を上げることが困難となるので、膜厚は10nm以上が望ましい。
【0016】
第2の下地層には、B2構造を有するRuAl、NiAlを用いることができる。150℃以上に加熱した非晶質合金下地層上に、上記B2構造を有する下地層を形成することにより、該下地層にB2(100)配向をとらせることができる。これにより、後述する第3の下地層に(100)配向をとらせることができる。また、第2の下地層にCr、もしくはCrを主成分とし、Ti、V、Mo、W、Mn、Ruのうちの少なくとも1種類を含有したBCC構造の合金を用いてもよい。これらの合金も、150℃以上に加熱した非晶質合金下地層上に形成することによって(100)配向をとらせることができる。
【0017】
第3の下地層には、NaCl構造を有するTiN、TiC、MgO、NiO等を用いることができる。これらの合金を、(100)配向したB2構造の下地層、もしくは(100)配向したBCC構造の下地層の上に形成した場合、エピタキシャル成長により、(100)配向を示す。これにより、第3の下地層上に形成されるL10−FePt合金に(001)配向をとらせることが可能となる。尚、第3の下地層に用いられる上記材料は、熱伝導率が低いため、熱バリア層としても機能する。このため、磁性層をより高温に加熱することができる。但し、記録ヘッドの媒体加熱能力が十分である場合は、第3の下地層は特に設けなくてもよい。
【0018】
磁性層は、L10構造を有するFePt合金とC粒界相からなる第1の磁性層と、L10構造を有するFePt合金とCr2O3、Y2O3、もしくはTa2O5粒界相からなる第2の磁性層で構成された2層構成とするのが好ましい。基板温度を450℃以上に加熱した後に磁性層を形成することにより、磁性層中のFePt合金に規則度の高いL10構造をとらせ、かつ(001)配向をとらせることができる。第1の磁性層のC添加量は、30at%以上とすることが望ましい。これにより、L10−FePt合金結晶粒が、均一幅のC粒界相で分断されたグラニュラー構造をとらせることができる。但し、第1の磁性層の膜厚は6nm以下が望ましい。6nmを上回ると、第1の磁性層105中のFePt結晶粒は、膜面垂直方向に連続成長したコラム構造をとらなくなり、図2に模式的に示すような、初期成長部201と、その上にC粒界相202を介して球状に成長した2次成長部(2次成長粒)203から構成される2段構造をとる。なお、第1の磁性層の膜厚の下限は1nmとするのが好ましい。第1の磁性層の層厚が1nm未満となると、第1の磁性層が上述のコラム構造となりにくくなる。
【0019】
図2の符号203に示す2次成長部のFePt結晶は、ランダム配向しており、規則度も低い。このため、反転磁界分散SFDが著しく広くなり、媒体SNRが著しく低下する。高いSNRを得るには、媒体の再生出力を高く設定する必要があるため、磁性層の合計膜厚は、8nm以上であることが望ましい。しかし、上述のようにFePt磁性粒とC粒界相からなる磁性層単独で膜厚を8nm以上に設定することは困難である。
【0020】
そこで、第1の磁性層の膜厚を6nm以下に設定し、該第1の磁性層上に、L10構造を有するFePt合金とCr2O3、Y2O3、もしくはTa2O5からなる第2の磁性層を形成して磁性層の総膜厚を8nm以上にするのが望ましい。第2の磁性層は、第1の磁性層上に形成されることにより、FePt結晶がCr2O3、Y2O3、もしくはTa2O5からなる均一な粒界相で分断されたグラニュラー構造をとる。また、第2の磁性層中のFePt合金は、第1の磁性層中のL10−FePt合金上にエピタキシャル成長して(001)配向をとり、かつ、規則度の高いL10構造をとる。これにより、膜厚が8nm以上で、磁性結晶粒が均一な粒界幅で分断された磁性層を形成することができる。上記、2層構造の磁性層を用いることにより、反転磁界分散SFDが狭く、媒体SNRの高い熱アシスト媒体が得られる。
【0021】
第1の磁性層、もしくは第2の磁性層中のFePt合金にAg、Cu等を添加してもよい。これにより、規則度が向上し、磁気異方性を高めることができる。また、Niを添加してもよい。これにより、キュリー温度が低下し、記録温度を低く設定できる。
【0022】
第1の磁性層中のC濃度、及び第2の磁性層中のCr2O3、Y2O3、もしくはTa2O5濃度を膜厚方向に連続的、もしくは段階的に変化させてもよい。即ち、第1の磁性層はC濃度の異なる複数の層で構成されていても良いし、第2の磁性層もCr2O3、Y2O3、もしくはTa2O5濃度の異なる複数の層で構成されていても良い。また、Ag、Cu、Ni等の添加元素の濃度も磁性層の膜厚方向に変化させてもよい。ヘッドからの距離に応じて、磁性層中の磁気特性、交換結合の強さ等を膜厚方向に変化させることにより、記録再生特性を更に改善できる。
【0023】
第1の磁性層と第2の磁性層の間に、交換結合を制御するための中間層を形成してもよい。この場合、該中間層は第1の磁性層上にエピタキシャル成長する材料であることが望ましい。これにより、第2の磁性層を該中間層上にエピタキシャル成長させることができる。中間層は非磁性材料が望ましいが、100emu/cc以下の弱い磁化であれば、磁性材料であってもよい。具体的には、CrTi、CrW、CrMo等のCr合金や、MgO、TiN、TiC等、第2の下地層、もしくは第3の下地層に用いる材料を用いることができる。但し、第1の磁性層、及び第2の磁性層との格子ミスフィットが概ね10%以下であれば、中間層材料に特に制限はない。上記中間層を設け、第1の磁性層と第2の磁性層間の層間結合を最適化することにより、反転磁界分散SFDを更に低減できる。
【0024】
図3に本発明の実施形態の他の一例を示す。第2の磁性層の上に、更に第3の磁性層301が形成されている。第3の磁性層は、CやCr2O3等の酸化物を含有せず、磁気的、構造的に均一な、グラニュラー構造ではない連続膜であることが望ましい。ここで、磁気的、構造的に均一とは、膜中に組成むらがなく、磁化や磁気異方性の局所的なむらがないことを意味する。磁気的に均一な第3の磁性層を導入することにより、第1と第2の磁性層中のFePt磁性粒間に均一な交換結合を導入することができ、反転磁界分散を更に低減できる。第3の磁性層は非晶質合金であることが望ましい。結晶質合金は、格子欠陥、組成偏析、磁化容易軸のランダム方向等に起因した磁気的、構造的な不均一性が大きいため、均一な交換結合を導入できないので好ましくない。具体的には、CoZrTa、CoZrNb、CoFeB、CoFeTa、CoFeTaZr、CoFeTaB、CoFeTaSi、CoFeTaZr等の非晶質合金を使用できる。また、TbFeCo、SmCo等の希土類元素を含有する非晶質合金でもよい。
【0025】
上記第3の磁性層を導入することにより、均一な交換結合を導入し、SFDを狭くできる。但し、この場合、第2の磁性層は、均一な粒界相で分断され、かつ、コラム成長したグラニュラー構造である必要がある。第2の磁性層中の結晶粒の分離が不十分であると、第3の磁性層を導入しても、均一な交換結合を導入できない。よって、反転磁界分散SFDを狭くすることが出来ず、良好な記録再生特性が得られない。また、交換結合導入により磁気クラスターサイズが増大する。良好な記録再生特性、特に高い媒体SNRを実現するには、SFDを狭くすると同時に磁気クラスターサイズを低減する必要がある。よって、第3の磁性層の磁化や膜厚は、SFDと磁気クラスターサイズの適切なバランスを考慮して設計する必要がある。
【0026】
第2の磁性層と第3の磁性層の間に、交換結合を制御するための中間層を形成してもよい。この場合、中間層は結晶質でも非晶質でもよい。また、非磁性材料でも良いし、100emu/cc以下の弱い磁化であれば、磁性材料であってもよい。上記中間層により、第2の磁性層と第3の磁性層間の層間結合を最適化することにより、反転磁界が低減されオーバーライト特性を改善することができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の
実施例に限定されるものではない。
【0028】
(実施例1)
ガラス基板上に、第1の下地層として50nmのCo−50at%Ti、第2の下地層として10nmのCr−10at%Ruを形成し、250℃の基板加熱を行ったのち、第3の下地層として10nmのTiN下地層を順次形成した。その後、再度、520℃の基板加熱を行い、第1の磁性層として5nmの(Fe−50at%Pt)−40at%Cを形成し、第2の磁性層として5nmの(Fe−45at%Pt)−15mol%Cr2O3(実施例1.1)、(Fe−50at%Pt−3at%Cu)−9.5mol%Y2O3(実施例1.2)、もしくは(Fe−45at%Pt−5at%Ag)−8mol%Ta2O5(実施例1.3)を形成し、更に3nmのDLC保護膜を形成した。
【0029】
比較例として、磁性層が単層膜で構成される媒体を作製した。単層膜としては、10nmの(Fe−50at%Pt)−40at%C(比較例1.1)、(Fe−45at%Pt)−15mol%Cr2O3(比較例1.2)、(Fe−50at%Pt−3at%Cu)−9.5mol%Y2O3(比較例1.3)、もしくは(Fe−45at%Pt−5at%Ag)−8mol%Ta2O5(比較例1.4)を用いた。
【0030】
本実施例1.1〜1.3のX線回折測定を行ったところ、全ての媒体において磁性層からはL10−FePt(001)回折ピークと、L10−FePt(002)回折ピークとFCC−FePt(200)ピークの混合ピークのみが観察された。また、CoTi下地層からは明瞭な回折ピークが観察されなかったが、CrRu下地層、及びTiN下地層からは(200)ピークのみが観察された。これより、CoTi下地層は非晶質で、その上に形成されたCrRu下地層は(100)配向をとり、更にその上のTiN下地層もエピタキシャル成長により(100)配向をとっていることがわかった。磁性層が上記配向をとっているのは、TiN下地層上にエピタキシャル成長したためと考えられる。
【0031】
次に、本実施例媒体の平面TEM観察を行ったところ、磁性粒が粒界相で分断されたグラニュラー構造をとっていた。表1に本実施例媒体の平均粒径<D>と、平均粒径で規格化した粒径分散σ/<D>を示す。本実施例媒体の平均粒径は全て6nm以下で、粒径分散は20%以下であった。また、本実施例媒体の断面TEM観察を行ったところ、磁性結晶粒は、膜面垂直方向に連続成長したコラム構造をとっていることがわかった。
【0032】
【表1】
【0033】
一方、粒界相にCを用いた比較例媒体1.1の平面TEM観察を行ったところ、実施例媒体と同様、粒径が概ね5−7nm程度の結晶粒が粒界で分断されたグラニュラー構造をとっていた。但し、上記結晶粒に加えて、粒径が2−3nm以下の極めて微細な結晶粒が、粒界、もしくは粒内に多数観察された。比較例1.1の断面TEM観察を行ったところ、磁性層は、5−6nmの高さで成長が停止したドーム形状の初期成長結晶粒と、その上に粒界を介して成長した球状の2次成長結晶粒からなる二段構成をとっていた。よって、平面TEM像で観察された2−3nm以下の微細な結晶粒は、上記2次成長した結晶粒と考えられる。
【0034】
次に、粒界相にCr2O3、Y2O3、Ta2O5を用いた比較例媒体1.2〜1.4の平面TEM観察を行ったところ、磁性粒が粒界相で完全に分断されておらず、隣接する磁性粒子がつながった部分が多数観察された。
【0035】
表2に比較例媒体の平均粒径<D>と、平均粒径で規格化した粒径分散σ/<D>を示す。尚、TEM像中で互いにつながった隣接粒子は1個の粒子とみなしている。比較例媒体1.1の平均粒径は、5.4nmで実施例媒体とほぼ同程度であったが、規格化粒径分散は著しく高い値を示した。これは、著しく粒径が微細な2次成長粒が多数存在している影響と考えられる。また、比較例媒体1.2〜1.4は、平均粒径、粒径分散共に実施例媒体より著しく高かった。これは、互いにつながった隣接粒子が多数存在しているためと考えられる。
【0036】
【表2】
【0037】
以上より、磁性層をFePt合金とC粒界相からなる第1の磁性層と、L10構造を有するFePt合金とCr2O3、Y2O3、もしくはTa2O5粒界相からなる第2の磁性層で構成された2層構成とすることにより、磁性結晶粒が粒界相によって完全に分断され、かつ、磁性結晶粒が膜面垂直方向に連続成長したコラム構造をとらせることができることがわかった。また、これにより粒径分散を平均粒径の20%以下に低減できることがわかった。
【0038】
表3に、上記実施例媒体と比較例媒体の保磁力Hcと規格化保磁力分散ΔHc/Hcを示す。ここで、HcはPPMSにより7Tの磁界を印加して室温で測定した。また、ΔHc/Hcは、「IEEE Trans. Magn., vol.27, pp4975−4977, 1991」に記載の方法で測定した。具体的には、7Tの最大磁界を印加して室温で測定したメジャーループ、及びマイナーループにおいて、磁化の値が飽和値の50%となるときの磁界を測定し、両者の差分から、Hc分布がガウス分布であると仮定してΔHc/Hcを算出した。ΔHc/Hcは、反転磁界分散に相当するパラメーターであり、この値が低いほど、高い媒体SNRが得られるため、望ましい。
【0039】
【表3】
【0040】
本実施例媒体1.1〜1.3は、全て32kOe以上の高い保磁力を示し、保磁力分散も0.29以下であった。一方、比較例媒体に関しては、比較例媒体1.1の保磁力は実施例とほぼ同程度であったが、比較例媒体1.2〜1.4の保磁力は、実施例に比べて大幅に低かった。これは、磁性粒子間の交換結合が強いためと考えられる。また、比較例媒体の保磁力分散は、実施例媒体に比べて著しく広がっていた。これは、上述のように、比較例媒体の粒径分散が、実施例媒体に比べて著しく大きいことに起因していると考えられる。以上より、本実施例媒体は、粒径分散が狭いと同時に保磁力分散も狭いことがわかった。
【0041】
(実施例2)
ガラス基板上に、50nmのCu−12.5at%Pd合金からなるヒートシンク層、50nmのCo−15at%Ta−10at%Zr合金からなる軟磁性下地層を形成し、550℃の基板加熱を行ったのち、25nmのRu−50at%Al下地層を形成した。次いで、4nmのTiN下地層を形成し、第1の磁性層として3nmの(Fe−45at%Pt−5at%Ni)−45at%C、第2の磁性層として8nmの(Fe−50at%Pt)−12mol%Cr2O3(実施例2.1)、(Fe−50at%Pt)−7mol%Y2O3(実施例2.2)、もしくは(Fe−50at%Pt)−6.5mol%Ta2O5(実施例2.3)を形成し、2.5mnのDLC保護膜を形成した。また、比較例として、第2の磁性層に8nmの(Fe−50at%Pt)−12mol%SiO2(比較例2.1)、(Fe−50at%Pt)−17.5mol%TiO2(比較例2.2)を使用した媒体を作製した。
【0042】
表4に本実施例媒体2.1〜2.3の保磁力Hc、及び規格化保磁力分散ΔHc/Hcを示す。ここで、HcとΔHc/Hcは実施例1と同様の手法で求めた。本実施例媒体のHcはいずれも36kOe以上であり、ΔHc/Hcは0.24以下であった。これに対して、比較例媒体2.1〜2.2のHcは24kOe以下と低く、ΔHc/Hcは0.35以上であった。
【0043】
【表4】
【0044】
本実施例媒体2.1〜2.3の平面TEM観察を行ったところ、平均粒径が5.5−6.3nmの磁性粒子が粒界相で分断されたグラニュラー構造をとっていた。一方、比較例媒体2.1〜2.2の平面TEM観察を行ったところ、粒界相による粒分離が不十分であり、互いにつながった隣接粒子が多数観察された。比較例媒体のΔHc/Hcが大きかったのは、このためと考えられる。
【0045】
以上より、第2の磁性層に、L10構造を有するFePt合金とCr2O3、Y2O3もしくはTa2O5からなる材料を用いることにより、ΔHc/Hcが低い媒体が得られることがわかった。
【0046】
(実施例3)
実施例2と同一下地構成で、第1の磁性層に(Fe−45at%Pt−5at%Ni)−40at%C、第2の磁性層に(Fe−50at%Pt)−5mol%Ta2O5を使用した。ここで、第1の磁性層の膜厚を1nm、3nm、5nmとし、第1の磁性層と第2の磁性層の合計膜厚を10nm一定とした。また、比較例として第1の磁性層の膜厚を9nm、7nm、5nmとした媒体を作製した。
【0047】
本実施例媒体、及び比較例媒体の断面TEM観察を行ったところ、実施例媒体の磁性層では、コラム成長した結晶粒が見られたのに対し、比較例媒体の磁性層中には、磁性層の表面付近に二次成長した球状の結晶粒が多数観察された。表5に本実施例媒体、及び比較例媒体のHcとΔHc/Hcを示す。第1の磁性層の膜厚増加に伴いΔHc/Hcは増加傾向にあるが、第1の磁性層の膜厚を5nm以下とした本実施例媒体では、ΔHc/Hcは0.27以下の低い値に抑えられている。これは、上述のように、二次成長粒の生成が抑制されているためと考えられる。以上より、磁性結晶粒をコラム成長させ、ΔHc/Hcを低い値に抑制するには、第1の磁性層の膜厚は6nm以下が好ましいことがわかった。
【0048】
【表5】
【0049】
(実施例4)
実施例1と同様の層構成で、第2の磁性層として、5nmの(Fe−50at%Pt)−8mol%Ta2O5を形成し、更に第3の磁性層を形成した。第3の磁性層には、4nmのCo−20at%Nb−5at%Zr(実施例4.1)、Co−27at%Fe−5at%Zr−5at%Si(実施例4.2)、Fe−10at%Ta−10at%B(実施例4.3)、Fe−10at%Ta−10at%C(実施例4.4)、Fe−28at%Tb−12at%Co(実施例4.5)、Co−20at%Sm(実施例4.6)合金を使用した。また、比較例として第3の磁性層に、4nmのCo−12at%Cr−14at%Pt−8at%B(比較例4.1)を形成した媒体を作製した。更に比較例として、第2の磁性層に5nmの(Fe−50at%Pt)−16mol%SiO2(比較例4.2)、もしくは5nmの(Fe−50at%Pt)−21.5mol%TiO2(比較例4.3)を使用し、第3の磁性層に4nmのCo−20at%Nb−5at%Zr(比較例4.2)(比較例4.2、4.3)を使用した媒体を作製した。
【0050】
本実施例媒体4.1〜4.6の断面TEM観察を行ったところ、第3の磁性層からは明瞭な格子縞が観察されなかった。よって、これらの合金は、非晶質、もしくは微結晶構造をとっていると考えられる。一方、比較例媒体4.1の第3の磁性層に用いられているCoCrPtB合金は、HCP構造をとっていることが確認できた。
【0051】
表6に本実施例媒体の保磁力Hc、及び規格化保磁力分散ΔHc/Hcを示す。ここで、HcとΔHc/Hcは実施例1と同様の手法で求めた。本実施例媒体4.1〜4.6のHcはいずれも25kOe以上であり、ΔHc/Hcは0.25以下であった。本結果を表3に示した実施例1の媒体と比較することにより、第3の磁性層を形成することによってΔHc/Hcを更に低減できることがわかる。本実施例媒体のうち、FeもしくはCoを主成分とし、Ta、Nb、Zr、Si、B、Cを含有する合金を第3の磁性層に用いた実施例媒体4.1〜4.4は、0.22以下の特に低いΔHc/Hcを示した。また、FeTeCoや CoSm等の希土類合金を含んだ非晶質合金を第3の磁性層に用いた実施例媒体4.5〜4.6は、28kOe以上の高いHcを示した。
【0052】
【表6】
【0053】
一方、比較例媒体4.1は、実施例媒体よりHcが低く、ΔHc/Hcは実施例媒体より著しく大きかった。これより、第3の磁性層には、HCP構造のCo合金よりも非晶質合金を用いた方が、ΔHc/Hcの低減には有効であることがわかる。但し、第3の磁性層に非晶質合金であるCoNbZr合金を用いた場合でも、第2の磁性層にFePt−SiO2、もしくはFePt−TiO2を用いた比較例媒体4.2、比較例媒体4.3のΔHc/Hcは実施例媒体に比べて高い。これは、実施例2で示したように、第2の磁性層にFePt−SiO2、もしくはFePt−TiO2を用いた場合、磁性結晶粒の分離が不十分であり、不均一な交換結合が導入されているためと考えられる。よって、第3の磁性層形成によりΔHc/Hcを効果的に低減するには、第2の下地層に添加する粒界相材料はCr2O3、Y2O3もしくはTa2O5であることが望ましいことがわかった。
【0054】
(実施例5)
実施例4で示した媒体にパーフルオルエーテル系の潤滑剤を塗布し、熱アシスト記録用ヘッドを用いてRW特性を評価した。使用したヘッドは、図4に示すように、主磁極401、補助磁極402、磁界を発生させるためのコイル403、レーザーダイオードLD404、LDから発生したレーザー光405を近接場発生素子406まで伝達するための導波路407から構成される記録ヘッド408、及びシールド409で挟まれた再生素子410から構成される再生ヘッド411からなる。近接場光素子から発生した近接場光により媒体412を加熱し、媒体の保磁力をヘッド磁界以下まで低下させて記録できる。
【0055】
表7に、上記ヘッドを用いて線記録密度1400kFCIのオールワンパターン信号を記録して測定した媒体SNRと、トラック幅MWWを示す。ここで、トラック幅は、トラックプロファイルの半値幅と定義した。実施例媒体4.1〜4.6はいずれも15dB以上の高いSNRと、80nm以下の狭いトラック幅を示した。特に、第3の磁性層にCoを使用した実施例媒体4.1〜4.3は16dB以上の高いSNRを示した。これは、ΔHc/Hcが低いためと考えられる。一方、実施例媒体4.4〜4.6はトラック幅が特に狭かった。これに対し、比較例媒体4.1〜4.3のSNRは著しく低く、トラック幅も広がっていた。これより、第3の磁性層に、非晶質合金を用いることにより、SNRが高く、かつ、トラック幅の狭い熱アシスト記録媒体が得られることがわかった。
【0056】
【表7】
【0057】
(実施例6)
実施例1で示した媒体(実施例媒体1.1〜1.3、比較例媒体1.1〜1.4)、及び実施例2で示した媒体(実施例媒体2.1〜2.3、比較例媒体2.1〜1.2)に、パーフルオルエーテル系の潤滑剤を塗布し、図5に示す磁気記憶装置に組み込んだ。本磁気記憶装置は、磁気記録媒体412と、磁気記録媒体を回転させるための駆動部502と、磁気ヘッド503と、ヘッドを移動させるための駆動部504と、記録再生信号処理系505から構成される。磁気ヘッドは、実施例5で述べた熱アシスト記録用ヘッドを用いた。
【0058】
上記磁気記憶装置により、線記録密度1600kFCI、トラック密度400kFCI(面記録密度640Gbit/inch2)の条件で記録し、ビットエラーレートBERを評価した結果を表8に示す。実施例媒体1.1〜1.3と実施例媒体2.1〜2.3を組み込んだ磁気記憶装置は、1×10−6台の低いエラーレートを示した。一方、比較例媒体1.1〜1.4、比較例媒体2.1〜1.2のエラーレートは1×10−4以上で、実施例媒体に比べて悪化していた。
【0059】
【表8】
【0060】
以上より、磁性層が、L10構造を有するFePt合金とCからなる第1の磁性層と、L10構造を有するFePt合金とCr2O3、Y2O3もしくはTa2O5からなる第2の磁性層で構成された媒体を用いることにより、エラーレートの低い磁気記憶装置が実現できることがわかった。
【符号の説明】
【0061】
101…ガラス基板
102…第1の下地層
103…第2の下地層
104…第2の下地層
105…第1の磁性層
106…第1の磁性層
107…DLC保護膜
201…初期成長部
202…粒界相
203…2次成長部(2次成長粒)
301…第3の磁性層
401…主磁極
402…補助磁極
403…コイル
404…半導体レーザーダイオード
405…レーザー光
406…近接場光発生部
407…導波路
408…記録ヘッド
409…シールド
410…再生素子
411…再生ヘッド
412…磁気記録媒体
502…媒体駆動部
503…磁気ヘッド
504…ヘッド駆動部
505…記録再生信号処理系
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板上に形成された複数の下地層と、L10構造を有する合金を主成分とする磁性層を含む磁気記録媒体において、該磁性層が、L10構造を有するFePt合金とCからなる第1の磁性層と、L10構造を有するFePt合金とCr2O3、Y2O3もしくはTa2O5からなる第2の磁性層を含むことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
第1の磁性層の膜厚が6nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
第1の磁性層と、第2の磁性層の間に、交換結合を制御するための非磁性中間層を有することを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
磁性層が、更に、結晶粒と粒界相からなるグラニュラー構造ではない第3の磁性層を含むことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
第3の磁性層が、FeもしくはCoを主成分とし、Nd、Sm、Gd、Tb、Dyから選択される少なくとも1種類の元素を含有する非晶質構造、もしくは微結晶構造を有する合金であることを特徴とする請求項4に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
第3の磁性層が、FeもしくはCoを主成分とし、Ta、Nb、Zr、Si、Bから選択される少なくとも1種類の元素を含有する非晶質構造、もしくは微結晶構造を有する合金であることを特徴とする請求項4に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
第2の磁性層と、第3の磁性層の間に、交換結合を制御するための非磁性中間層を有することを特徴とする請求項4乃至6の何れか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
磁気記録媒体と、該磁気記録媒体を回転させるための駆動部と、該磁気記録媒体を加熱するためのレーザー発生部と、該レーザー発生部から発生したレーザー光をヘッド先端まで導く導波路と、ヘッド先端に取り付けられた近接場光発生部を備えた磁気ヘッドと、該磁気ヘッドを移動させるための駆動部と、記録再生信号処理系から構成さる磁気記憶装置において、該磁気記録媒体が請求項1乃至7の何れか1項に記載の磁気記録媒体であることを特徴とする磁気記憶装置。
【請求項1】
基板と、該基板上に形成された複数の下地層と、L10構造を有する合金を主成分とする磁性層を含む磁気記録媒体において、該磁性層が、L10構造を有するFePt合金とCからなる第1の磁性層と、L10構造を有するFePt合金とCr2O3、Y2O3もしくはTa2O5からなる第2の磁性層を含むことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
第1の磁性層の膜厚が6nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
第1の磁性層と、第2の磁性層の間に、交換結合を制御するための非磁性中間層を有することを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
磁性層が、更に、結晶粒と粒界相からなるグラニュラー構造ではない第3の磁性層を含むことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
第3の磁性層が、FeもしくはCoを主成分とし、Nd、Sm、Gd、Tb、Dyから選択される少なくとも1種類の元素を含有する非晶質構造、もしくは微結晶構造を有する合金であることを特徴とする請求項4に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
第3の磁性層が、FeもしくはCoを主成分とし、Ta、Nb、Zr、Si、Bから選択される少なくとも1種類の元素を含有する非晶質構造、もしくは微結晶構造を有する合金であることを特徴とする請求項4に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
第2の磁性層と、第3の磁性層の間に、交換結合を制御するための非磁性中間層を有することを特徴とする請求項4乃至6の何れか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
磁気記録媒体と、該磁気記録媒体を回転させるための駆動部と、該磁気記録媒体を加熱するためのレーザー発生部と、該レーザー発生部から発生したレーザー光をヘッド先端まで導く導波路と、ヘッド先端に取り付けられた近接場光発生部を備えた磁気ヘッドと、該磁気ヘッドを移動させるための駆動部と、記録再生信号処理系から構成さる磁気記憶装置において、該磁気記録媒体が請求項1乃至7の何れか1項に記載の磁気記録媒体であることを特徴とする磁気記憶装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2012−221542(P2012−221542A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90071(P2011−90071)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】
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