説明

熱アシスト磁気記録媒体及び磁気記録再生装置

【課題】表面平坦性が高く、磁性層の配向が良く、かつヘッド浮上性が良好な熱アシスト記録媒体、並びに、そのような熱アシスト磁気記録媒体を備えた大容量の磁気記録再生装置を提供する。
【解決手段】基板と、前記基板上に形成された複数の下地層と、前記下地層上に形成された磁性層と、基板と磁性層の間の任意の位置に形成されたヒートシンク層を少なくとも有する磁気記録媒体であって、前記ヒートシンク層はAgを主成分として含み、かつ、Bi、Nd、Cu、Crから成る第一添加元素群から選択された元素を1つ以上含み、さらにZn、La、Ga、Ge、Sm、Gd、Sn、Inから成る第二添加元素群から選択された元素を少なくとも1つ以上含むことを特徴とする磁気記録媒体を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスク装置(HDD)等に用いられる熱アシスト磁気記録媒体及び磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報のデジタル化の発展により、大容量の情報を記録できるハードディスク装置には更なる大容量化が求められている。このハードディスクの大容量化を実現するには、磁気記録媒体のノイズを低減する必要がある。このノイズ低減には、磁化遷移幅を狭くすることが求められ、それには媒体中の磁性層の磁性結晶粒子サイズを小さくすることが必要である。しかし、ノイズ低減のために磁性粒子サイズを小さくすると、磁性層の磁化を容易軸方向へ向けようとするエネルギーである磁気異方性エネルギーKuVが減少するため、KuV/kT(Ku:磁気異方性定数、V:粒子体積、k:ボルツマン定数、T:温度)で表される熱ゆらぎが悪化する。
【0003】
一方、熱ゆらぎを向上させるには、Kuの高い材料の選択が考えられるが、Kuの高い材料は一般的にHcも高くなるため、飽和記録が困難となる。つまり、ノイズ低減と熱ゆらぎ、飽和記録の3つを同時に改善することができない。
【0004】
この問題に対して、熱アシスト磁気記録が着目、研究されている。熱アシスト磁気記録は、記録時に一時的に記録領域を局所加熱し、その領域の磁気異方性エネルギー定数Kuを下げて、書き込みしやすい状態を作り出し記録する方式である。この場合、室温ではKuが十分に高いため、熱ゆらぎの問題がない。
【0005】
しかし、熱アシスト磁気記録では媒体表面の加熱時、記録領域だけでなくその隣接領域も同時に加熱されてしまうため、それらの領域のKuが低下し、熱ゆらぎが起こりやすくなる。また、記録後、記録領域が熱を保持したままであると熱ゆらぎが発生する可能性がある。そのため、この記録方式では記録後、磁気記録媒体の磁性層に溜まった熱を速やかに散逸させる必要がある。熱散逸性を高めるためには、記録媒体中にヒートシンク層を導入することが有効である。ヒートシンク層は熱伝導率の高い材料で構成されており、磁気ヘッドでの記録後、磁性層の熱をすばやく吸収し冷却することができる。
【0006】
また、このヒートシンク層の位置であるが、熱を速やかに散逸させるという点を考慮すると磁性層直下或いは近傍が望ましい。しかし、この場合にはヒートシンク層の結晶配向や表面形状が、磁性層の結晶配向や結晶粒径、更にはヘッド飛行安定性に大きく影響するため、ヒートシンク層材料の選定や成膜条件の最適化などが重要である。
【0007】
ヒートシンク層の組成について、例えば、特許文献1には、磁気記録媒体にCuZrとAgPdから成るヒートシンク層を用いることで高い熱伝導率と良好な機械特性を両立できるとしている。また、特許文献2には、磁気記録媒体にCu、Au、Ag、Pt、AuCu、PtAu、AuAg、Au3Cuなどを適用することができると記載されている。そして、特許文献3には磁気記録ヘッドに形成するヒートシンク層として、Ag、Au、Cu、Al、CuAl、AgPdCu、AlTi、AlMoなどが列挙されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許公開公報第2007−0026263号
【特許文献2】特開2008−52869号公報
【特許文献3】特開2001−283403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このようにヒートシンク層の材料選択が磁気記録媒体の特性に大きな影響力を持つが、一般に、ヒートシンク層には高い熱散逸性が求められるため、Au、Ag、Cuのような熱伝導率の高い材料が主に使用されている。しかし、これらの金属は薄膜において、加熱などにより凝集しやすく、磁気記録媒体の表面形状やその磁性層の結晶配向、腐食耐性を悪化させる。
【0010】
一方、特許文献1に記載されているAgPdのような合金からなるヒートシンク層は、ある程度Agの凝集を抑えることが可能だが、1Tbit/inch2クラスの面記録密度を有する媒体を達成するには、ヘッドの浮上特性や表面平坦性、磁性層の結晶配向の改善が不十分である。
【0011】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、表面平坦性が高く、磁性層の配向が良く、かつヘッド浮上性が良好な熱アシスト記録媒体、並びに、そのような熱アシスト磁気記録媒体を備えた大容量の磁気記録再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の特徴を有する磁気記録媒体を提供する。
【0013】
(1) 基板と、前記基板上に形成された複数の下地層と、前記下地層上に形成された磁性層と、基板と磁性層の間の任意の位置に形成されたヒートシンク層を少なくとも有する磁気記録媒体であって、前記ヒートシンク層はAgを主成分として含み、かつ、Bi、Nd、Cu、Crから成る第一添加元素群から選択された元素を1つ以上含み、さらにZn、La、Ga、Ge、Sm、Gd、Sn、Inから成る第二添加元素群から選択された元素を少なくとも1つ以上含むことを特徴とする磁気記録媒体。
(2) 第一添加元素としてBiとNdを含み、第二添加元素としてGeを含むことを特徴とする前項(1)の磁気記録媒体。
(3) 第一添加元素としてBiとNdを含み、第二添加元素としてLaを含むことを特徴とする前項(1)の磁気記録媒体。
(4) 第一添加元素群の元素を0.1〜20at%含むことを特徴とする前項(1)の磁気記録媒体。
(5) 第二添加元素群の元素を0.1〜15at%含むことを特徴とする前項(1)の磁気記録媒体。
(6) 第一添加元素群と第二添加元素群から選ばれた元素の総和が0.2〜25at%となることを特徴とする前項(1)の磁気記録媒体。
(7) 複数の下地層のうち、少なくとも1層がCr、Pt、MgO、MnO、TiC、TiNからなる群から選択された物質であることを特徴とする前項(1)〜(6)の何れか1項に記載の磁気記録媒体。
(8) 磁性層が、L10構造を有する合金を主成分として含むことを特徴とする前項(1)〜(7)の何れか1項に記載の磁気記録媒体。
(9) 磁気記録媒体と、前記磁気記録媒体を記録方向に駆動する媒体駆動部と、前記磁気記録媒体を加熱するレーザー発生部と、前記レーザー発生部から発生したレーザー光を先端部へと導く導波路とを有して、前記磁気記録媒体に対する記録動作と再生動作とを行う磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドを前記磁気記録媒体に対して相対移動させるヘッド移動部と、前記磁気ヘッドへの信号入力と前記磁気ヘッドから出力信号の再生とを行うための記録再生信号処理系とを備える磁気記録再生装置において、前記磁気記録媒体が前項(1)〜(8)の何れか1項に記載の磁気記録媒体であることを特徴とする磁気記録再生装置。
【発明の効果】
【0014】
以上の説明のように、本発明により、表面平坦性が高く、磁性層の配向が良く、かつヘッド浮上性が良好な熱アシスト記録媒体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1、比較例1において作製した磁気記録媒体の層構成を示す断面図である。
【図2】実施例2、比較例2において作製した磁気記録媒体の層構成を示す断面図である。
【図3】実施例3において作製した磁気記録媒体の層構成を示す断面図である。
【図4】実施例4において作製した磁気記録媒体の層構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明を、図面を参照しながら詳細に説明する。しかしながら本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。特に制限の無い限り、数量、構成、位置、材料などを必要に応じて変更してもよい。
【0017】
熱アシスト磁気記録媒体の基板は、円形非磁性基板を用いることができる。材料は、ガラス、アルミ、セラミックスなどを用いることができる。ガラス基板は結晶化ガラスや非晶質ガラスなどがあるが、どちらも使用できる。その際、その表面粗さや熱容量、結晶化状態などを考慮して選択することが必要である。
媒体の加熱温度を調整することで、下地層やヒートシンク層、さらには磁性層の配向を制御することができる。
【0018】
下地層は、Cr、Pt、MgO、MnO、TiC、TiNなどを用いることができる。例えば、下地層に(100)配向面を作れば、その上部がL10−FePtやL10−CoPtのような磁性層である場合、エピタキシャル成長により、磁性層に(001)配向をとらせることができる。
【0019】
本発明を適用した磁気記録媒体のヒートシンク層は、Agを主成分として含み、かつ、Bi、Nd、Cu、Crから成る第一添加元素群から選択された元素を1つ以上含み、さらにZn、La、Ga、Ge、Sm、Gd、Sn、Inから成る第二添加元素群から選択された元素を少なくとも1つ以上含むことを特徴とする。
【0020】
Agに第一添加元素群と第二添加元素群から選択される元素を添加したヒートシンク層を形成することで、Agの凝集を抑制することができ、その結果、磁気記録媒体の表面平坦性やヘッドの浮上特性を高めることが可能で、また磁性層の結晶配向を制御しやすくできる。
【0021】
Agを主成分とする上記のヒートシンク層は、その熱伝導率を大幅に減少させない範囲であれば、他の添加元素を含有しても良い。例えば、AgBiZn−Ta、AgBiZn−Co、AgBiGa−Ta、AgBiLa−Mn、AgBiSm−Ni、AgNdZn−Zr、AgNdZn−Mn、AgNdGe−W、AgNdSm−Ru、AgNdGd−V、AgCuGa−Zr、AgCuGa−Ta、AgCuSn−Ta、AgCuGd−W、AgCrLa−Ta、AgCrGe−V、AgCrIn−Coなどを用いることができる。
【0022】
Agヒートシンク層に添加される第一添加元素群から選ばれた元素の含有量は、0.1〜20at%であることが望ましい。また、第二添加元素群から選ばれた元素の含有量は、0.1〜15at%が望ましい。さらに、第一添加元素群と第二添加元素群から選ばれた元素の総和は、0.2〜25at%となることが望ましい。Agヒートシンク層への添加元素数や量が少なすぎるとAgの凝集抑制効果が不十分となる。一方、添加元素数や量が多すぎるとAgの凝集を抑制することはできるが、ヒートシンク層の熱伝導率を著しく損なう可能性がある。このことから、第一添加元素群と第二添加元素群から選ばれた元素の原子数の総和は、上記の範囲の中でも特に0.2〜8at%が好ましい。
【0023】
Agヒートシンク層の導入位置は、設計に応じて選択できる。Agヒートシンク層を下地の下に配置した場合は、磁性層との距離が離れるため熱散逸性は不利となるが、下地層或いは中間層が磁性層の直下に置かれるため磁性層の配向を制御しやすくなる。また、Agヒートシンク層を磁性層直下に配置すれば、記録時に加熱された媒体表面を効果的に冷却できる。
【0024】
磁性層の配向制御及び粒径制御のため、必要に応じて下地層と磁性層の間に中間層を導入してもよい。また、本発明を適用した磁気記録媒体にはSUL(軟磁性下地層)を追加してもよい。SULをヒートシンク層と磁性層の間に形成すれば、磁性層に印加される磁界の勾配を高めることができ、ヘッドからの磁界を効率よく磁性層に印加することができる。この場合、SULと磁性層に磁気的結合が生じるので、その調節のために中間層を置いてもよい。さらに、SULはヒートシンク層の下側に配置してもよい。SULの具体例としては、CoFeTa、CoFeTaB、CoFeNi、CoTaZr、CoNbZr、CoNiZrなどが挙げられる。
【0025】
磁性層には、FePt、FePtNiのようなL10構造を有する合金を用いることができる。また、このL10構造の合金に酸化物、窒化物、炭化物やAg、Auなどを添加することができる。例えば、FePt−SiO2を用いた場合、この合金は(001)配向をとることが望ましい。そのために下地として、(100)配向をとるMgO層を置くことができる。(100)配向したMgO層上に磁性層FePt−SiO2を成膜すればエピタキシャル成長により、この磁性層は(001)配向をとる。
【0026】
さらに、このMgO下地層と磁性層の間にAgヒートシンク層を導入することも可能で、Agヒートシンク層にMgO層と同じ(100)配向をとらせて、磁性層を(001)配向に導くことができる。
【0027】
以上のように本発明によれば、表面平坦性が高く、磁性層の配向が良く、かつヘッド浮上性が良好な熱アシスト記録媒体を実現し、そのような熱アシスト磁気記録媒体を備えた大容量の磁気記録再生装置を提供することが可能である。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0029】
(実施例1)
実施例1において作製した熱アシスト磁気記録媒体の層構成を図1に示す。この熱アシスト磁気記録媒体は、2.5インチガラス基板101にCr−50at%Tiから成る下地層102を成膜して、500度までランプヒーターにより加熱した後、0.5PaのArガス雰囲気下でDCマグネトロンスパッタリング法により層厚30nmのCrからなる下地層103を成膜した。下地層103に連続して、層厚100nmのAg合金からなるヒートシンク層104と、層厚10nmの90mol%(Fe−50at%Pt−10at%Cu)−10mol%SiO2合金からなる磁性層105を順次積層したものであり、磁性層105の上には、更に、層厚3nmのカーボンからなる保護膜106と、フッ素系のパーフルオロポリエーテル(PFPE)からなる潤滑膜107とが順に形成されている。
【0030】
ヒートシンク層104としては、Ag−0.4at%Bi−1.5at%Zn、Ag−0.4at%Bi−2.5at%Ge、Ag−0.2at%Nd−1.5at%Zn、Ag−0.2at%Nd−1.8at%La、Ag−0.4at%Bi−0.2at%Nd−2.5at%Ge、Ag−0.4at%Bi−0.2at%Nd−1.8at%Laを用いた。
【0031】
実施例1の熱アシスト磁気記録媒体について、X線回折で測定を行ったところ、加熱された基板上に形成されたCr下地層103は、(100)配向をとっており、その上に形成されたヒートシンク層104も、エピタキシャル成長により(100)配向をとっていることがわかった。
【0032】
そして、この実施例1の熱アシスト磁気記録媒体のTEM観察を行ったところ、金属結晶相が非晶質相によって囲まれたグラニュラー構造をとっていることがわかった。また、結晶相の平均粒径は、6.0nmであった。
【0033】
表1に、上記熱アシスト磁気記録媒体の表面粗さRaと、X線回折から求めた磁性層FePt(001)ピーク強度の相対値、及びグライド試験の結果を示す。表面粗さRaは、Veeco社製AFMタッピングモードを用いて測定した。また、これらの熱アシスト磁気記録媒体の磁性層FePt(001)ピーク強度は、Ag−0.4at%Biヒートシンク層を有する実施例1の媒体のFePt(001)ピーク強度の値を1.00としたときの相対値として示した。さらに、グライド試験では、フェムトスライダ上にピエゾ素子を有するヘッドで、グライドハイトを0.3μinch(約7.6nm)として該熱アシスト磁気記録媒体を数十枚検査した。このとき、ピエゾ素子からの出力電圧が高くなる、つまりヘッドが飛行不安定になった回数(ヒット数)、この総和を評価した媒体面数で割って、媒体1面当たりのヒット回数として算出した。
【0034】
【表1】

【0035】
Agに2元素を添加したヒートシンク層を有する実施例1−1〜1−4の熱アシスト磁気記録媒体では、表面粗さRaが6.8〜7.1Åであることがわかった。また、それらの媒体のX線回折から求めたFePt(001)の相対ピーク強度は、1.03〜1.13であった。対して、実施例1−5のAg−0.4at%Bi−0.2at%Nd−2.5at%Geと、実施例1−6のAg−0.4at%Bi−0.2at%Nd−1.8at%Laから成るヒートシンク層を有する磁気記録媒体では、実施例1−1〜1−4の2元素添加のヒートシンク層を有する媒体よりも表面粗さRaが小さく、FePt(001)の相対ピーク強度が大きいことがわかった。
【0036】
Agに2元素を添加したヒートシンク層を有する実施例1−1〜1−4の磁気記録媒体では、グライド試験での媒体1面当たりのヒット数が0.19〜0.30回であった。一方、実施例1−5のAg−0.4at%Bi−0.2at%Nd−2.5at%Geと、実施例1−6のAg−0.4at%Bi−0.2at%Nd−1.8at%Laから成るヒートシンク層を有する磁気記録媒体では、ヒット数が0.06回、0.03回であり、前記2元素添加のヒートシンクから成る媒体よりも少ないヒット数を示したことから、ヘッド浮上性が良好なことが明らかとなった。
【0037】
(比較例1)
実施例1と同様の方法で比較例1に係る熱アシスト磁気記録媒体を作製した。ただし、ヒートシンク層104としてAg、Ag−12at%Pd、Ag−0.4at%Bi、及びAg−0.2at%Ndを用いた。表2にこれらのAgヒートシンク層を用いたときの表面粗さRa、X線回折から求めたFePt(001)の相対ピーク強度と、グライド試験における媒体1面当たりのヒット数を示す。
【0038】
【表2】

【0039】
比較例1のヒートシンク層を含む媒体の表面粗さRaは8.2Å〜9.0Åで、実施例1のヒートシンク層を有する媒体の表面粗さRa=6.4〜7.1Åよりも粗く、表面平坦性が悪い。さらに、比較例1の磁気記録媒体のFePt(001)の相対ピーク強度は1.00以下で、実施例1の媒体に比較して強度が小さい。一方、AgとAg−12at%Pdから成るヒートシンク層の媒体のグライド試験における1面当たりのヒット数は6.4回、2.4回であり、AgにBiやNdを添加したヒートシンク層を適用した媒体でも1.1回、1.4回であり、実施例1の媒体に比べてヒット数が多いことがわかる。以上のことから、本発明を適用して作製された実施例1の磁気記録媒体は、表面平坦性が高く、磁性層FePt(001)配向が良く、さらにヘッド浮上性が良好であることが確認された。
【0040】
(実施例2)
実施例2において作製した熱アシスト磁気記録媒体の構成を図2に示す。この媒体は、2.5インチガラス基板201上に、層厚100nmのAg合金からなるヒートシンク層202を成膜し、ランプヒーターを用いて500度まで加熱した後、層厚25nmのCrから成る下地層203と層厚20nmMgO層204を成膜し、さらに層厚10nmの88mol%(Fe−45at%Pt−10at%Ni)−10mol%SiO2−2mol%TiO2合金からなる磁性層205を順次積層したものであり、カーボンから成る保護膜206を3nm、続けてフッ素系のパーフルオロポリエーテル(PFPE)からなる潤滑膜207を塗布して作製した。
【0041】
(比較例2)
実施例2と同様の方法で比較例2に係る熱アシスト磁気記録媒体を作製した。
【0042】
表3に実施例2及び比較例2で作製したAgヒートシンク層を有する媒体の表面粗さRa、磁性層FePt(001)の相対ピーク強度、グライド試験の結果を示す。ここで、FePt(001)の相対ピーク強度は、Ag−0.4at%Biのヒートシンク層を用いて実施例2の方法で作製した媒体のFePt(001)ピーク強度の値を1.00としたときの相対値として示した。比較例2−2、2−3に示すAg−Mn−Ge、Ag−Mn−Tiから成るヒートシンク層を持つ磁気記録媒体に比較して、比較例2−1のAg−Bi−Tiから成るヒートシンク層の媒体はRaが低くなり、グライド試験における媒体1面当たりのヒット数も少なくなる。しかし、比較例2−2のヒートシンク層のTiをGeに置換した実施例2−1のヒートシンク層を有する媒体では、Raはさらに低くなり、FePt(001)相対強度が大きくなり、グライド試験におけるヒット数が大きく減少した。
【0043】
【表3】

【0044】
(実施例3)
実施例3において作製した熱アシスト磁気記録媒体の層構成を図3に示す。この熱アシスト磁気記録媒体は、以下の方法により作製した。まず、2.5インチガラス基板301に層厚100nmのAg合金から成るヒートシンク層302を成膜し、続けて92.5at%(Co−50at%Fe)−4.5at%Zr−3at%B合金から成る層厚30nmの軟磁性層303を成膜した。この媒体をランプヒーターにより500度まで加熱した後、層厚20nmのMgO層304と層厚10nmの90mol%(Fe−50at%Pt)−10mol%TiO2合金からなる磁性層305を成膜した。次に、層厚3nmのカーボンからなる保護膜306と、フッ素系のパーフルオロポリエーテル(PFPE)からなる潤滑膜307を順次形成した。
【0045】
表4に実施例3で作製した熱アシスト媒体のグライド結果を示す。実施例3のヒートシンク層を有する磁気記録媒体は、どれもグライド試験における媒体1面当たりのヒット数が0.4回以下と少なく、本発明を適用することでヘッドの浮上特性を改善できることがわかった。この中でも実施例3−9と3−10で示すAg−Cu−Znのヒートシンク層にさらにBiまたはNdを添加した4元素から成る磁気記録媒体は、特にヒット数が少ないことが見出せた。
【0046】
【表4】

【0047】
(実施例4)
実施例4において作製した熱アシスト磁気記録媒体の層構成を図4に示す。ガラス基板401にCr−50at%Taから成る下地層402を25nm、続けてAg合金から成るヒートシンク層403を100nm成膜し、ランプヒーターで250度まで加熱した。この基板上に層厚10nmのCr−10at%Ru下地層404、層厚20nmのMgO層405を積層した後、ランプヒーターで基板を500度まで加熱した。次いで、86mol%(Fe−55at%Pt)−14mol%SiO2合金からなる磁性層406を10nm成膜した。最後に層厚3nmのカーボンからなる保護膜407と、フッ素系のパーフルオロポリエーテル(PFPE)からなる潤滑膜408を順次形成して、実施例4−1〜4−23のヒートシンク層を持つ媒体を作製した。
【0048】
表5に実施例4で準備した熱アシスト磁気記録媒体の表面粗さRa、磁性層のFePt(001)相対ピーク強度、グライド試験から算出した媒体1面当たりのヒット数を示す。ここで、FePt(001)の相対ピーク強度は、Ag−0.4at%Biのヒートシンク層を用いて実施例4の方法で作製した媒体のFePt(001)ピーク強度の値を1.00としたときの相対値として示した。
【0049】
実施例4−1〜4−7では、Agヒートシンク層の第一添加元素量を変化させ、実施例4−8〜4−14は、Agヒートシンク層の第二添加元素量を変化させてその磁気記録媒体の各種特性を評価した。さらに、実施例4−15〜4−23では、第一添加元素と第二添加元素の総和を変化させた。実施例4のどのAgヒートシンク層もAgに第一添加元素と第二添加元素を含んでおり、表面粗さRaは低く、グライド試験のヒット数は少ないことがわかる。一方、本実施例では、ヒートシンク層と磁性層の間に複数の下地層を挟んでいるので、ヒートシンク層がFePt磁性層の配向に与える影響は大きくなく、FePt(001)の相対ピーク強度がほとんど変わらないものと考えられる。
【0050】
実施例4−1〜4−7の結果より、Agヒートシンク層への第一添加元素が0.1〜20at%の範囲で特に表面粗さRaが低く、グライド試験の媒体1面当たりのヒット数が少ないため望ましい。また、実施例4−8〜4−14の結果から、第二添加元素が0.1〜15at%の場合に表面粗さRaとグライド試験の特性が特に良くなるため望ましい。実施例4−15〜4−23における結果より、第一添加元素と第二添加元素の総和は、0.2〜25at%で表面粗さRaとグライド試験による媒体1面当たりのヒット数がさらに改善されるため、この範囲が好ましい。
【0051】
【表5】

【符号の説明】
【0052】
101…ガラス基板
102…下地層
103…下地層
104…ヒートシンク層
105…磁性層
106…保護膜
107…潤滑膜
201…ガラス基板
202…ヒートシンク層
203…下地層
204…MgO層
205…磁性層
206…保護膜
207…潤滑膜
301…ガラス基板
302…ヒートシンク層
303…軟磁性層
304…MgO層
305…磁性層
306…保護膜
307…潤滑膜
401…ガラス基板
402…下地層
403…ヒートシンク層
404…下地層
405…MgO層
406…磁性層
407…保護膜
408…潤滑膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に形成された複数の下地層と、前記下地層上に形成された磁性層と、基板と磁性層の間の任意の位置に形成されたヒートシンク層を少なくとも有する磁気記録媒体であって、前記ヒートシンク層はAgを主成分として含み、かつ、Bi、Nd、Cu、Crから成る第一添加元素群から選択された元素を1つ以上含み、さらにZn、La、Ga、Ge、Sm、Gd、Sn、Inから成る第二添加元素群から選択された元素を少なくとも1つ以上含むことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
第一添加元素としてBiとNdを含み、第二添加元素としてGeを含むことを特徴とする請求項1の磁気記録媒体。
【請求項3】
第一添加元素としてBiとNdを含み、第二添加元素としてLaを含むことを特徴とする請求項1の磁気記録媒体。
【請求項4】
第一添加元素群の元素を0.1〜20at%含むことを特徴とする請求項1の磁気記録媒体。
【請求項5】
第二添加元素群の元素を0.1〜15at%含むことを特徴とする請求項1の磁気記録媒体。
【請求項6】
第一添加元素群と第二添加元素群から選ばれた元素の総和が0.2〜25at%となることを特徴とする請求項1の磁気記録媒体。
【請求項7】
複数の下地層のうち、少なくとも1層がCr、Pt、MgO、MnO、TiC、TiNからなる群から選択された物質であることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
磁性層が、L1構造を有する合金を主成分として含むことを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
磁気記録媒体と、前記磁気記録媒体を記録方向に駆動する媒体駆動部と、前記磁気記録媒体を加熱するレーザー発生部と、前記レーザー発生部から発生したレーザー光を先端部へと導く導波路とを有して、前記磁気記録媒体に対する記録動作と再生動作とを行う磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドを前記磁気記録媒体に対して相対移動させるヘッド移動部と、前記磁気ヘッドへの信号入力と前記磁気ヘッドから出力信号の再生とを行うための記録再生信号処理系とを備える磁気記録再生装置において、前記磁気記録媒体が請求項1〜8の何れか1項に記載の磁気記録媒体であることを特徴とする磁気記録再生装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−221543(P2012−221543A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90072(P2011−90072)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】