説明

熱カチオン重合性組成物、異方性導電接着フィルム、接続構造体及びその製造方法

【課題】熱カチオン重合開始剤を含有する熱カチオン重合性組成物を利用した絶縁性接着フィルムや異方性導電接着フィルムを用いて、ガラス基板や回路基板に電子部品を接続する際に、接着界面での浮きの発生が抑制され、接着強度の著しい低下がなく、しかも異方性導電接着フィルムで異方性導電接続した際の対向する接続端子間における導電粒子捕捉効率を低下させないようにする。
【解決手段】熱カチオン重合性組成物は、特定のホウ酸エステル又はビス(アルカンジオラート)ジボロンから選択される有機ホウ素化合物を含有する。この熱カチオン重合性組成物に導電粒子を分散させてフィルム化すれば、異方性導電接着フィルムとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方性導電接着剤の主要成分である接着性の絶縁性樹脂組成物に有用な熱カチオン重合性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
回路基板に電子部品を実装する際に、絶縁性樹脂組成物に導電粒子を分散させて得た異方性導電接着剤がペーストやフィルムの形態で広く使用されている。このような異方性導電接着剤の主要成分である絶縁性樹脂組成物として、アクリレートモノマーを主成分とするラジカル重合性組成物に比べ、酸素による重合阻害がなく、熱に対して良好な潜在性を示し、硬化収縮率が低いカチオン重合物を与える等の利点を有する熱カチオン重合開始剤を含有する熱カチオン重合性組成物が知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】http://www.sanshin-ci.co.jp/index/download/16103R.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1の熱カチオン重合性組成物を利用した絶縁性接着フィルムや異方性導電接着フィルムを用いてガラス基板や回路基板に電子部品を接続する際、ガラス基板としてアルカリガラス基板を使用した場合や回路基板としてポリイミドパッシベーション膜が接続端子の周囲に形成された回路基板を使用した場合、あるいは接続端子の周囲にポリイミドパッシベーション膜が形成された電子部品を使用した場合には、接着界面での浮きの発生、接着強度の低下、また、異方性導電接着フィルムで異方性導電接続した際の対向する接続端子間における導電粒子捕捉効率の低下、という問題が発生する場合があった。
【0005】
本発明の目的は、以上の従来の技術の課題を解決しようとするものであり、熱カチオン重合開始剤を含有する熱カチオン重合性組成物を利用した絶縁性接着フィルムや異方性導電接着フィルムを用いて、ガラス基板や回路基板に電子部品を接続する際に、ガラス基板としてアルカリガラス基板を使用した場合や回路基板としてポリイミドパッシベーション膜が接続端子の周囲に形成された回路基板を使用した場合であっても、あるいは接続端子の周囲にポリイミドパッシベーション膜が形成された電子部品を使用した場合であっても、接着界面での浮きの発生が抑制され、接着強度の著しい低下がなく、しかも異方性導電接続の際の対向する接続端子間における導電粒子捕捉効率を低下させないことである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前述した問題の発生が、接続界面において熱カチオン重合が阻害されているということに原因があるのではないかという仮定のもと、接続界面における熱カチオン重合の阻害原因を探求したところ、アルカリガラス基板やポリイミドパッシベーション膜の表面が、熱カチオン重合のカチオン活性種を捕捉し得るアニオンサイドを有するため、接着界面における熱カチオン重合が阻害され、その結果、熱カチオン重合性組成物の硬化が不十分となり、接着界面での浮きの発生、接着強度の低下、異方性導電接続の際の対向する接続端子間における導電粒子捕捉効率の低下、といった問題が生ずることを見出した。また、本発明者らは、熱カチオン重合性組成物に特定の有機ホウ素化合物を配合することによりそれらの問題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本発明は、式(1)のホウ酸エステル又は式(2)のビス(アルカンジオラート)ジボロンから選択される有機ホウ素化合物を含有することを特徴とする熱カチオン重合性組成物を提供する。また、この熱カチオン重合性組成物に、導電粒子を分散させてなる異方性導電接着フィルムを提供する。
【0008】
【化1】

【0009】
式(1)及び式(2)中、R、R及びRはそれぞれ独立的に水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、ビニル基又はグリシジル基であり、R及びRは一緒になって環を形成してもよい。R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、及びR21は、それぞれ独立的に水素原子、アルキル、アリール基、アラルキル基、ビニル基又はグリシジル基であり、n及びmはそれぞれ0又は1である。
【0010】
また、本発明は、第1電子部品の端子と第2電子部品の端子とが異方性導電接続されてなる接続構造体の製造方法において、
(A)第1電子部品の端子上に上述の異方性導電接着フィルムを仮貼りする工程、
(B)異方性導電接着フィルム上に第2電子部品を、その端子が第1電子部品の対応する端子と対向するように仮配置する工程、及び
(C)第2電子部品を押圧ボンダーを用いて加圧しながら、当該押圧ボンダーもしくは他の加熱手段で加熱することにより、第1電子部品の端子と第2電子部品の端子とを異方性導電接続する工程
を有する製造方法、並びにこの製造方法により製造された接続構造体を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱カチオン重合性組成物は、式(1)のホウ酸エステル又は式(2)のビス(アルカンジオラート)ジボロンから選択される有機ホウ素化合物を含有する。このため、熱カチオン重合性組成物の重合阻害が抑制される。その結果、接着界面での浮きの発生や接着強度の低下が抑制され、しかも、導電粒子を更に配合して作成した異方性導電接着フィルムで異方性導電接続した際の対向する接続端子間における導電粒子捕捉効率の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の熱カチオン重合性組成物は、以下に示す式(1)のホウ酸エステル又は式(2)のビス(アルカンジオラート)ジボロンから選択される有機ホウ素化合物を含有することを特徴としており、通常、バインダ成分として、このような有機ホウ素化合物以外の硬化成分、例えば、カチオン重合性化合物、熱カチオン重合開始剤、成膜用樹脂等を含有している。
【0013】
このような有機ホウ素化合物を熱カチオン重合性組成物に配合することにより熱カチオン重合性組成物の接着界面での熱カチオン重合を十分に進行させることができる。その理由は、明確ではないが、ルイス酸である有機ホウ素化合物が、熱カチオン重合性組成物の重合を阻害し得る接着界面のアニオンサイトをキャップ(捕捉)するためであると考えられる。
【0014】
【化2】

【0015】
式(1)の有機ホウ素化合物は、ホウ酸トリエステル化合物と称されており、式(2)の化合物は、アルカンジオラト(alkanediolato)ジボロン化合物と称されている。
【0016】
式(1)のホウ酸トリエステル化合物中、R、R及びRはそれぞれ独立的に水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、ビニル基又はグリシジル基であり、R及びRは一緒になって環を形成してもよい。ここで、アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t−ペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、s−ヘキシル基、t−ヘキシル基等が挙げられる。アリール基としては、フェニル基、トルイル基、キシリル基、メシチル基、クミル基、ナフチル基等が挙げられる。アラルキル基としてはベンジル基、フェニルエチル基等が挙げられる。R及びRが一緒になって環を形成する場合、R及びRはポリメチレン基である。これらの置換基は、水酸基、ハロゲン等で置換されていてもよい。
【0017】
特に好ましい式(1)のホウ酸トリエステルとしては、貯蔵安定性の点から炭素数が3〜30のアルキル基を有するホウ酸トリ(n−アルキル)エステル、又はホウ酸トリフェニルエステルを挙げることができる。中でも、炭素数5〜20の長鎖のアルキル基、例えば、n−オクタデシル基等を有するホウ酸トリ(n−アルキル)エステルが好ましい。
【0018】
また、式(2)のアルカンジオラトジボロン化合物中、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、及びR21は、それぞれ独立的に水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、ビニル基又はグリシジル基であり、n及びmはそれぞれ0又は1である。ここで、ここで、アルキル基、アリール基、アラルキル基としては、R、R又はRで説明したとおりである。これらの置換基は、水酸基、ハロゲン等で置換されていてもよい。
【0019】
特に好ましい式(2)のアルカンジオラトジボロン化合物としては、以下の式(2a)のビス(1,3,3−トリメチル−1,3−プロパンジオラト)ジボロン、式(2b)のビス(2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオラト)ジボロン、式(2c)のビス(2,3−ジメチル−2,3−ブタンジオラト)ジボロンを挙げることができる。これらの化合物は、市場で入手得可能な化合物である(東京化成工業(株))。
【0020】
【化3】

【0021】
本発明の熱カチオン重合性組成物における有機ホウ素化合物の含有量は、有機ホウ素化合物の種類にもよるが、少なすぎると、熱カチオン重合性組成物の重合物の接着強度と導電粒子捕捉効率とが不十分となることが懸念され、また、接着界面に浮きの発生を十分に抑制できなくなることが懸念され、多すぎると、熱カチオン重合性組成物の成膜性が低下することが懸念されるので、バインダ成分100質量部に対し、好ましくは0.05〜10質量部、より好ましくは0.5〜10質量部である。
【0022】
本発明の熱カチオン重合性組成物を構成するバインダ成分の一つであるカチオン重合性化合物としては、エポキシ化合物、オキセタン化合物、ビニルエーテル化合物、環状スルフィド化合物、環状アミン化合物、有機ケイ素環状化合物等が挙げられる。中でも、硬化性と保存安定性とのバランスの点からエポキシ化合物を好ましく使用することができる。
【0023】
エポキシ化合物としては、分子中に1個以上のエポキシ基又はグリシジル基を含有するモノマー、オリゴマー又はポリマーであり、液状又は固体状のビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物等を使用することができる。
【0024】
本発明の熱カチオン重合性組成物を構成するバインダ成分の一つである熱カチオン重合開始剤は、熱により、カチオン重合性化合物をカチオン重合させ得る酸を発生するものであり、エポキシ化合物の熱カチオン重合開始剤として使用されているものを適宜選択して使用することができる。例えば、公知のヨードニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、フェロセン類等を用いることができ、温度に対して良好な潜在性を示す芳香族スルホニウム塩を好ましく使用することができる。熱カチオン系硬化剤の好ましい例としては、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロボレート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロボレートが挙げられる。具体的には、株式会社ADEKA製SP−150、SP−170、CP−66、CP−77;日本曹達株式会社製CI−2855、CI−2639;三新化学工業株式会社サンエイドSI−60、SI−80;ユニオンカーバイド株式会社製のCYRACURE−UVI−6990、UVI−6974等が挙げられる。
【0025】
このような熱カチオン重合開始剤の熱カチオン重合性組成物中の含有量は、目的に応じて適宜設定することができるが、少なすぎると硬化速度が低下して十分な硬化特性が得られなくなることが懸念され、多すぎるとフィルム形成不良となって異方性導電フィルムとして好適に使用することができなくなることが懸念されるので、熱カチオン重合性化合物100質量部に対し、好ましくは5〜30質量部、より好ましくは5〜20質量部である。
【0026】
本発明の熱カチオン重合性組成物を構成するバインダ成分の一つである成膜用樹脂は、重合性組成物のフィルム化に寄与する成分である。このような成膜用樹脂としては、公知の異方性導電接着フィルム(ACF)や絶縁性接着フィルム(NCF)に用いられている成膜用樹脂を適用することができ、例えば、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ブタジエン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂等を挙げることができ、これらの2種以上を併用することができる。これらの中でも、成膜性、加工性、接続信頼性の観点から、フェノキシ樹脂を好ましく使用することができる。
【0027】
本発明の熱カチオン重合性組成物における成膜用樹脂の含有量は、少なすぎるとフィルム形成能が低下することが懸念され、多すぎると有機溶媒への溶解性が低下してフィルム調整が困難となることが懸念されるので、熱カチオン重合性化合物100質量部に対し、好ましくは20〜80質量部、より好ましくは30〜70質量部である。
【0028】
本発明の熱カチオン重合性組成物は、被接着面に対する密着強度を向上させるために、バインダ成分の一つとしてシランカップリング剤を含有することが好ましい。シランカップリング剤としては、エポキシ系シランカップリング剤、アクリル系シランカップリング剤等を挙げることができる。これらのシランカップリング剤は、分子中に1〜3の低級アルコキシ基を有するアルコキシシラン誘導体であり、分子中にカチオン重合性化合物の官能基に対して反応性を有する基、例えば、ビニル基、スチリル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基等を有していてもよい。
【0029】
シランカップリング剤の熱カチオン重合性組成物における含有量は、少なすぎると基材への接着性が低下することが懸念され、多すぎると硬化特性が低下することが懸念されるので、熱カチオン重合性化合物100質量部に対し、好ましくは1〜20質量部、より好ましくは1〜10質量部である。
【0030】
本発明の熱カチオン重合性組成物には、異方性導電接着剤として機能させるために、公知の異方性導電接着剤に配合されている導電粒子を配合することができる。例えば粒径1〜50μmのニッケル、コバルト、銀、銅、金、パラジウムなどの金属粒子、金属被覆樹脂粒子などが挙げられる。2種以上を併用することができる。
【0031】
本発明の熱カチオン重合性組成物に導電粒子を配合する場合、熱カチオン重合性組成物中のその配合量は、少なすぎても多すぎても異方性導電接続を実現し難くなることが懸念されるので、好ましくは、バインダ成分100質量部に対し、好ましくは1〜50質量部、より好ましくは1〜30質量部である。
【0032】
本発明の熱カチオン重合性組成物は、必要に応じて充填剤、酸化防止剤、軟化剤、着色剤(顔料、染料)、有機溶剤、イオンキャッチャー剤などを配合することができる。
【0033】
本発明の熱カチオン重合性組成物は、式(1)のホウ酸エステル又は式(2)のビス(アルカンジオラート)ジボロンから選択される有機ホウ素化合物に加えて、カチオン重合性化合物、熱カチオン重合開始剤、成膜用樹脂、シランカップリング剤等のバインダ成分、更に、導電粒子、その他の添加剤を常法により均一に混合することにより調製することができる。
【0034】
以上説明した本発明の熱カチオン重合性組成物は、常法によりフィルム状に成形することにより、通常、10〜50μm厚の絶縁接着フィルムとして使用することができる。導電粒子が配合されている場合には、異方性導電接着フィルムとして好ましく使用することができる。
【0035】
このような異方性導電接着フィルムは、第1電子部品の端子と第2電子部品の端子とを異方性導電接続してなる接続構造体の製造方法に好ましく使用することができる。このような製造方法は、以下の工程(A)、(B)及び(C)を有する。
【0036】
工程(A)
先ず、第1電子部品の端子上に本発明の異方性導電接着フィルムを仮貼りする。ここで、第1電子部品としては、ガラス回路基板、リジッド回路基板、フレキシブル回路基板等が挙げられる。また、それらの端子としては、銅、ニッケル、金、半田などの金属パッドやバンプ等が挙げられる。異方性導電接着フィルムの仮貼り操作は、従来公知の操作を適用することができる。例えば、金属やセラミック製の硬質ヘッドやゴムなどの弾性ヘッドを有する加圧ボンダーで、必要に応じて本重合しない程度に当該押圧ボンダー又は他の加熱手段(例えば、加熱装置を備えた定盤)で加熱しながら押圧すればよい。
【0037】
工程(B)
次に、異方性導電接着フィルム上に第2電子部品を、その端子が第1電子部品の対応する端子と対向するように仮配置する。ここで、第2電子部品としては、フレキシブル回路基板やICチップ等が挙げられる。それらの端子としては、銅、ニッケル、金、半田などの金属パッドやバンプ等が挙げられる。仮配置の操作にも特に制限はなく、従来公知の手法により行うことができる。
【0038】
工程(C)
次に、第2電子部品を押圧ボンダーを用いて加圧しながら、当該押圧ボンダーもしくは他の加熱手段で加熱することにより、第1電子部品の端子と第2電子部品の端子とを異方性導電接続する。これにより、第1電子部品の端子と第2電子部品の端子とが本発明の異方性導電接着フィルムを介して異方性導電接続された接続構造体を得ることができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0040】
実施例1〜18、比較例1〜3
表1に記載の配合成分を均一に混合することにより異方性導電接着剤組成物を調製した。この組成物を、表面剥離処理が施された50μm厚の剥離ポリエチレンテレフタレートフィルム上に、バーコーターを用いて塗布し、70℃に加熱されたオーブン中で加熱することにより、異方性導電接着剤組成物を20μm厚の異方性導電接着フィルムとした。更に、異方性導電接着フィルムが露出した面上に剥離ポリエステルフィルム(カバーフィルム)をラミネートさせ、積層体を得た。
【0041】
両面が剥離ポリエステルフィルムで挟持された異方性導電接着フィルムの片面の剥離ポリエステルフィルム(カバーフィルム)を剥がし、露出した異方性導電接着フィルムを、1.1mm厚のアルカリガラス基板に、加熱加圧ボンダーを用いて、加熱温度70℃、圧力0.5MPa、2秒という条件で仮貼りした。
【0042】
仮貼りされた異方性導電接着フィルムの表面の剥離ポリエステルフィルムを剥がし、露出した異方性導電接着フィルム上に、金メッキバンプが形成されたICチップ(1.8mm×20mm×0.5mm(t);金メッキバンプ30μm×85μm×15μm(h))を、そのバンプ形成面が異方性導電接着フィルム側となるように載せ、更にその上に50μm厚のテフロン(登録商標)フィルムを載せ、その上から加熱加圧ボンダーを用いて、170℃、60MPa、5秒という条件で、加熱加圧した。これにより、アルカリガラス基板にICチップが異方性導電接着フィルムで異方性導電接続された構造の接続構造体を得た。
【0043】
得られた接続構造体について、以下に説明するように、外観(浮き)評価、接着強度測定、導電粒子捕捉効率測定を行った。得られた結果を表1に示す。
【0044】
<外観(浮き)評価>
接続構造体のアルカリガラス側から接着後界面を目視観察し、浮きの発生の程度を以下の基準で評価した。A又はB評価であることが望まれる。
【0045】
ランク 内容
A: 浮きの存在が観察されない場合
B: 接続構造体の一部で浮きの発生が観察される場合
C: 接続構造体の全面において浮きが観察される場合
【0046】
<接着強度測定>
接続構造体のICチップを、接着強度試験機(ダイシェアテスターSERIES4000、DAGE製)を用いて、ツールスピード0.2mm/秒という条件で接着強度を測定した。接着強度は30kg以上であることが望まれる。
【0047】
<導電粒子捕捉効率測定>
圧着したICチップのバンプ(バンプ一個当たりの表面積=2550μm)上に存在する導電粒子数を顕微鏡にてカウントし、その平均値を粒子捕捉数とし、その粒子捕捉数を、異方性導電接続前の異方性導電接着フィルムの2550μm当たりに存在する全導電粒子数で除した価を導電粒子捕捉効率とした。この数値は少なくとも17%、好ましくは20%以上であることがのぞまれる。




















【0048】
【表1】

【0049】
特定の有機ホウ素化合物を含有していない異方性導電接着フィルムを用いた比較例1の接続構造体の場合、表1からわかるように、接着界面全体に浮きが発生しており、外観評価はC評価であった。また、接着強度も22.1kgと30kgを大きく下回ってしまった。導電粒子捕捉効率も16.5%であり、20%を大きく下回ってしまった。熱カチオン重合開始剤を使用していない比較例2及び比較例3の場合には、そもそも樹脂組成物が重合しなかった。
【0050】
それに対し、熱カチオン重合性組成物に特定の有機ホウ素化合物を配合した異方性導電接着フィルムを用いた実施例1〜18の接続構造体の場合、外観評価に関し、実施例1、2及び9の接続構造体はB評価であったが、残りの実施例3〜18の接続構造体はいずれもA評価であった。また、いずれの実施例の場合も接着強度が30kg以上あり、好ましい結果であった。導電粒子捕捉効率も17%を超えており、好ましい結果であった。
【0051】
なお、実施例1〜8の結果から、ホウ酸トリ−n−ヘキシルエステルの場合、バインダ成分(カチオン重合性化合物、熱カチオン重合開始剤、成膜用樹脂及びシランカップリング剤)100質量部に対し、0.5〜10質量部を配合すると接着界面から“浮き”の発生を無くすことができたことがわかる。また、浮きの発生を無くすと、接着強度を80kg以上にできることがわかった。
【0052】
実施例9〜14の結果から、ホウ酸トリ−n−フェニルエステルの場合、バインダ成分(カチオン重合性化合物、熱カチオン重合開始剤、成膜用樹脂及びシランカップリング剤)100質量部に対し、0.2〜3質量部を配合すると、接着界面から“浮き”の発生を無くすことができ、接着強度も80kg以上にできることがわかった。
【0053】
実施例15〜18の結果から、ホウ酸トリ−n−ブチルエステル又はトリ−n−オクタデシルエステル等のホウ酸トルアルキルエステルや、式(2b)及び(2c)等のアルカンジオラトジボロン化合物を使用した場合にも、実施例1〜14と同様の好ましい結果を与えることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
芳香族スルホニウム塩等の熱カチオン重合開始剤を含有する本発明の熱カチオン重合性組成物は、特定の有機ホウ素化合物を含有するため、カチオン重合を阻害するようなアルカリ表面を有する回路基板や電子部品の実装の際に使用するNCFやACFの主要成分の絶縁性樹脂組成物として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)のホウ酸エステル又は式(2)のビス(アルカンジオラート)ジボロンから選択される有機ホウ素化合物を含有することを特徴とする熱カチオン重合性組成物。
【化1】

(式(1)及び式(2)中、R、R及びRはそれぞれ独立的に水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、ビニル基又はグリシジル基であり、R及びRは一緒になって環を形成してもよい。R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、及びR21は、それぞれ独立的に水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、ビニル基又はグリシジル基であり、n及びmはそれぞれ0又は1である。)
【請求項2】
該有機ホウ素化合物が、炭素数3〜30のアルキル基を有するホウ酸トリ(n−アルキル)エステル又はホウ酸トリフェニルエステルである請求項1記載の熱カチオン重合性組成物。
【請求項3】
該有機ホウ素化合物が、式(2a)のビス(1,3,3−トリメチル−1,3−プロパンジオラト)ジボロン、式(2b)のビス(2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオラト)ジボロン又は式(2c)のビス(2,3−ジメチル−2,3−ブタンジオラト)ジボロンである請求項1記載の熱カチオン重合性組成物。
【化2】

【請求項4】
熱カチオン重合性組成物がバインダ成分を含有しており、該有機ホウ素化合物のバインダ成分に対する配合量が、バインダ成分100質量部に対し、0.05〜10質量部である請求項1〜3のいずれかに記載の熱カチオン重合性組成物。
【請求項5】
該熱カチオン重合開始剤が、芳香族スルホニウム塩である請求項1〜4のいずれかに記載の熱カチオン重合性組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の熱カチオン重合性組成物に、導電粒子が分散してなる異方性導電接着フィルム。
【請求項7】
第1電子部品の端子と第2電子部品の端子とが異方性導電接続されてなる接続構造体の製造方法において、
(A)第1電子部品の端子上に請求項6記載の異方性導電接着フィルムを仮貼りする工程、
(B)異方性導電接着フィルム上に第2電子部品を、その端子が第1電子部品の対応する端子と対向するように仮配置する工程、及び
(C)第2電子部品を押圧ボンダーを用いて加圧しながら、当該押圧ボンダーもしくは他の加熱手段で加熱することにより、第1電子部品の端子と第2電子部品の端子とを異方性導電接続する工程
を有する製造方法。
【請求項8】
請求項7記載の製造方法により製造された接続構造体。

【公開番号】特開2013−43898(P2013−43898A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180628(P2011−180628)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(000108410)デクセリアルズ株式会社 (595)
【Fターム(参考)】