説明

熱サイクル装置

【課題】熱サイクルを迅速に行うポリメラーゼ連鎖反応を実施するための装置装置を提供する。
【解決手段】一実施形態は、第1の層18と、第1の層に隣接する第2の層20と、第1の層の反対側で第2の層に隣接する第3の層22とを備える。連続チャネル54が、第1の層18、第2の層20、及び第3の層22の内部に形成される。連続チャネル54は、複数のサイクル区間を有し、各サイクル区間は、第1の層18内に配置された第1の区間58と、第3の層22内に配置された第2の区間62と、第2の層20内に配置された第3の区間66とを含む。第1の層18を第1の温度に、第3の層22を、第2の温度に維持するために、一体又は別個の温度源14、16を設けることができる。熱伝導によって、第3の層22は、第1の温度と第2の温度の間に維持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、参照によりその開示が本明細書に組み込まれる、2004年2月24日出願の米国仮特許出願第60/547,036号、及び2004年11月22日出願の同第60/629,910号の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、一般に、熱サイクル装置に関し、より詳細には、生命科学、医療装置、及びバイオテクノロジー分野に適した、多層熱サイクル装置に関する。適当な一応用例は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の実施である。
【背景技術】
【0003】
生命科学、医療装置、及びバイオテクノロジーなど、様々な分野では、様々な反応を実施するための熱サイクルが必要とされることが多い。反応の1つのタイプは、DNA断片などの生体試料がそれにおいて複製される、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)である。
【0004】
PCRは、特異的に単独の核酸成分を、他の成分が入り組んだ試料内で複製又は「増幅」するための、好ましい方法である。PCRプロトコールの要件の中には、生体試料及びPCR試薬からなるPCR試料を、3つの異なる温度に特定の長さの時間暴露することがある。暴露の温度及び時間は、所望される特定の核酸配列に対して最適化される。PCR試料が、3つの温度に複数回暴露されることもまた、要件の1つである。科学的通称において、これら2つの要件は、一般に熱サイクルと呼ばれる。
【0005】
ヒトゲノム計画などの科学的な試み、及びその他の同様の努力では、極めて多数のPCR反応を行うことが必要とされる。PCRの実施に伴う費用及び時間は、何千回又は何百万回ものPCR反応を必要とする科学的研究にとって法外なものとなり得る。費用削減は、小型化によりPCR反応をうまく行うのに必要とされる材料の量を削減することによって実現することができる。全PCR反応時間は、試料を暴露して所定のPCRプロトコールにおける各温度設定点で平衡化させるのに必要な時間を減少させることによって減少させることができる。
【0006】
現在の技術は、これらの目標を達成するために、様々な手段に依存している。各方法及び装置は、PCR試料内の迅速な温度変化を妨げる、以下の1つ又は複数の特性を有する。1つ又は複数の熱エネルギー源の温度を変化させて、各温度設定点を確立しなくてはならない。これに必要な時間は、装置材料の熱伝導度によって決定され、これは本来的にPCR試料自体よりも遅い。一定温度の熱源が使用される場合、装置の局所的な領域が所望の温度設定点で平衡化するが、装置内のその周辺領域においては、その材料の熱伝導特性により、漸進的に温度変化が進行する。このため、試料が装置を通って移動するとき、その熱遷移が遅くなる。これらの遷移温度範囲を横断するための時間によって、突然の又は即時の変化をもたらす方法に比べて全反応時間が増大される。装置がより大きいことも必要とされるため、高度の小型化が行われない。従って、PCR試料の量の削減によるコストの利益を完全には実現していない。
【0007】
熱サイクルとも呼ばれる温度サイクルを促進するための装置及び方法が、かなり発達している。Daniel Chuらによる「多容器反応装置のための温度制御(TEMPERATURE CONTROL FOR MULTI−VESSEL REACTION APPARATUS)」という名称の米国特許第6,337,435号には、多数ウェル容器内の1つ又は複数の試料が、多数ウェル容器と加熱装置の間の物理的接触により生じる温度変化に曝される手法が記載されている。熱サイクルを実施するために必要とされる時間は、加熱装置の熱量及びその他の物理的性質によって主に決定され、従って比較的遅い。
【0008】
多数ウェル装置は、試料の導入及び除去のためのウェルへのアクセスを提供するために、通常その頂部が開いている。これは、望ましくない試料の蒸発環境を生み出す。上述の特許並びにその他の特許は、カバーをすることによりこの作用を低減させるよう試みている。カバーによって、蒸発が減少するが、望ましくない凝縮の機会がもたらされる。この影響は、カバーを加熱することによって軽減されるが、これによって、システムに競合温度源が導入され、全PCR反応時間がさらに増大される。
【0009】
開いたウェル/容器システムの欠点を軽減するために、閉じた小型装置を製作するための著しい努力が、生物工学界においてなされてきた。閉じた小型システムの利点は、試料の蒸発が低減され、凝縮が低減され、且つ、より少量の試料及び試薬量の使用によって費用が削減されることである。そのような小型システムの例が、Richard Mathies及びAdam Woolleyによる「小型反応チャンバ及びそれを組み込む装置(MINIATURE REACTION CHAMBER AND DEVICES INCORPORATING SAME)」という名称の米国特許第6,284,525号、及びRichard Mathies、Peter Simpson、及びStephen Williamsによる、「一体型PCR−CE装置の微細加工のためのプロセス及びそれにより製造される製品(PROCESS FOR MICROFABRICATION OF AN INTEGRATED PCR−CE DEVICE AND PRODUCTS PRODUCED BY THE SAME)」である。そのような装置は、閉じた反応チャンバを備えて製造される。試料及び試薬液が、流体チャネルネットワークを通じて、それらのチャンバに流入及び流出する。抵抗ワイヤなどの加熱要素が、これらのチャンバ内に製作され、PCRアッセイの実施に必要とされる加熱エネルギーを提供する。
【0010】
より大きい開いたシステムと同様、装置の熱的性質及び構造設計が、反応時間を主に決定する。これらのシステムは、既に述べた手法に対する改善ではあるが、このような構造の熱特性が限定要因となる。また、その所定位置にある加熱要素を製造し、制御し、監視することは困難を伴い、装置の費用がかなり追加される。
【0011】
PCRプロセスの加速を試みる別の方法が、Jochen Fanzenによる「ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による極めて高速のDNA複製のための方法及び装置(METHOD AND DEVICES FOR EXTREMELY FAST DNA REPLICATION BY POLYMERASE CHAIN REACTIONS (PCR))」という名称の米国特許第6,180,372号に記載されている。この実施の形態では、マイクロ流体チャネルの2次元ネットワークが、2つの温度加熱/冷却要素内に含まれている。このマイクロチャネル装置は、装置の上下の加熱/冷却要素内の変化による急速な温度変化に曝される。このシステムは、加熱/冷却要素が物理的に完全に接触するため、要素間のエネルギー移動が非常に効率的である。ただし、総PCR反応時間は、加熱/要素内及びマイクロチャネル材料内の温度を変化させる能力によって、依然限定される。
【0012】
上記装置及び方法は、要素から装置への、最終的にはその中に収容されるPCR試料へのエネルギー移動を最適化しようと試みる、加熱要素の様々な構成(configuration)によって、PCRのための熱サイクルの問題に対処する。これらの方法及び装置は総て、装置を通じて試料へと熱エネルギーを伝達するその能力によって制限されている。PCR試料をPCRプロトコールの所望の各温度設定点に暴露するために、加熱要素自体が温度変化しなければならない場合にはまた、更なる制限が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第6,337,435号
【特許文献2】米国特許第6,180,372号
【特許文献3】米国特許第6,180,372号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、熱サイクルを迅速に実施するための装置が提供されるように、従来の知られた装置の熱的制限を低減させるとともに、蒸発、凝縮、及び費用を減少させる、熱サイクル装置を提供することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、改善された熱サイクル実施のための方法及び装置を提供する。
本発明の一態様では、装置は、第1の層と、第1の層に近接する第2の層と、第1の層と反対側で第2の層に近接する第3の層と、連続チャネルとを備える。当該連続チャネルは、前記第1の層、第2の層、及び第3の層内に形成される。当該連続チャネルは、複数のサイクル区間を有する。各サイクル区間は、前記第1の層内に配置された第1の部分、前記第2の層内に配置された第2の部分、及び前記第3の層内に配置された第3の部分を備える。
【0016】
本発明のさらなる態様では、反応を実施するための装置が、第1の加熱手段と、第1の加熱手段に熱的に連結された第1の熱伝導層と、第1の熱伝導層に近接する第1の絶縁層と、第1の絶縁層に直接隣接する第2の熱伝導層と、第2の熱伝導層に直接隣接する第2の絶縁層を備える。第3の熱伝導層が、第1の層の反対側で第2の層に近接して配置される。連続チャネルが、第1の熱伝導層、第1の絶縁層、第2の熱伝導層、第2の絶縁層、及び第3の熱伝導層を通って形成される。当該連続チャネルは、複数のサイクル区間を有し、各サイクル区間は、第1の熱伝導層内に配置された第1の部分と、第3の熱伝導層内に配置された第2の部分と、第2の熱伝導層内に配置された第3の部分とを含む。
【0017】
本発明のさらに別の態様では、反応の実施方法は、第1の層、第2の層、及び第3の層を有する装置内に試料を導入することと、第1の層におけるサイクルの第1の部分を第1の温度で実施することと、試料を第3の層に移動させることと、その後第3の層におけるサイクルの第2の部分を第1の温度より低い第2の温度で実施することと、試料を第2の層に移動させることと、その後第2の層におけるサイクルの第3の部分を第1の温度と第2の温度との間の第3の温度で実施することと、第1の部分、第2の部分、及び第3の部分を、反応を実施するための所定の回数繰り返して実施することとを含む。
【0018】
本発明の1つの利点は、3つの異なる温度を用いるポリメラーゼ連鎖反応を実施するために、熱エネルギー源が2つしか必要とされないことである。うまく上層及び下層が1つの温度に維持されるので、各層の熱サイクルによる遅延が存在しない。これによって、既存の技術に比べてプロセス全体が促進される。
【0019】
本発明のその他の利点及び特徴は、添付の図面及び添付の特許請求の範囲と関連付けて、好ましい実施の形態の詳細な説明を考慮して見ると明らかになるであろう。
【0020】
本発明の様々な特徴及び利点は、添付の図面を参照しながら以下の詳細な説明を読むと容易に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態による熱サイクル装置の第1の実施例を示す斜視図である。
【図2】図1の熱サイクル装置の分解図である。
【図3】図1及び図2に示す熱サイクル装置の部分破断断面図である。
【図4】図1から図3の装置のチャネルを示す斜視図である。
【図5】本発明の第2の実施形態を示す分解図である。
【図6】図5の装置の断面図である。
【図7】本発明の熱サイクル装置の第3の実施形態を示す断面図である。
【図8】本発明による熱サイクル装置の第4の実施形態を示す断面図である。
【図9】本発明に従って形成された加熱器を示す斜視図である。
【図10A】図9に従って形成された加熱器の、厚さに対するバルク抵抗率の図表である。
【図10B】図9に示す加熱器の、n型キャリアドーピングに対するバルク抵抗率の図表である。
【図11】本発明の第5の実施形態を示す断面図である。
【図12】PCRアナライザ及びそのためのキットを示す概略図である。
【図13】熱サイクルを改善するために泡を使用するチャネルを示す断面図である。
【図14】LED及びフォトダイオードをその中に有するチャネル部分を示す断面図である。
【図15】本発明による装置の概略図である。
【図16】本発明の第6の実施形態を示す断面図である。
【図17】第7の実施形態を示す断面図である。
【図18】本発明に従って形成された流体試験装置を示す斜視図である。
【図19】図18の装置の分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
添付の図では、同一の構成要素を識別するために同一の参照番号を使用する。試薬、時間、材料、及びチャネル構成を含む、様々な実施例を例として以下で説明するが、それらは限定を意図するものではないことに留意されたい。また本発明を、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に関して説明する。ただし、本発明の使用により、様々な生物学的及び化学的分野に利益をもたらすことができる。本装置は熱サイクルに適しているが、加熱装置を本装置と一体にしなくてもよいことにも留意されたい。すなわち、加熱装置は、本装置に連結される外部装置とすることができる。
【0023】
ここで図1を参照すると、熱サイクル装置10は、流体装置12、第1の温度源14、及び第2の温度源16を備える。流体装置は、図示のように、第1の熱伝導層18、第2の熱伝導層20、及び第3の熱伝導層22から形成される。層は平坦な矩形とすることができる。層はまた、同一の熱伝導層の別々の層(layer or strata)とすることができる。すなわち、装置において層は、装置全体にわたり温度が同一の領域とすることができる。装置の材料は、以下でさらに説明するように、同じでも異なってもよく、絶縁体を有しても有さなくてもよい。高い熱伝導度を有する様々なタイプの材料を、本発明に使用することができる。熱伝導度が高いことによって、層全体にわたる温度が等温になる。例えば、アルミニウム上の鋼などの金属、及びシリコンなどの半導体は、最も好ましい材料である。ただし、ガラス及び様々なタイプの複合プラスチックなど、その他の材料を熱伝導性材料に使用することもできる。各層は、それぞれ異なる材料で形成しても同一の材料で形成してもよい。層は互いに近接する。すなわち、層同士は、直接隣接したり、隣接し、或いは、それらの間に配置された加熱器、絶縁体、又はその他の構造を有することができる。
【0024】
様々な層を少なくとも部分的に熱的に絶縁させるために、絶縁層を使用することができる。第1の絶縁体24が、第1の熱伝導層18と第2の熱伝導層20の間に配置される。第2の絶縁体26が、第2の熱伝導層20と第3の熱伝導層22の間配置される。第1の絶縁体24及び第2の絶縁体26は、熱伝導層間に平坦な層として形成することができる。もちろん、そのような絶縁体のその他の実施形態が当業者には明らかであろう。第1の絶縁体24及び第2の絶縁体26は、好ましくは、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエチレン、又はポリイミドなど、低い熱伝導特性を有する材料から製作される。図2に最もよく示されるように、絶縁体24、26は、熱伝導層間で流体を移送することができるように、それを貫通する様々なポート28を備える。これらの層を穿孔し、又はこれらの層に反応性イオンで深いエッチングを行えばよい。絶縁体24及び26は、2つの温度源を使用して3つの温度を維持することができるように、層間の熱バッファとして作用する。すなわち、各層は迅速に平衡化して等温となる。等温層がもたらされることによって、温度伝達が非常に急速になる。PCRプロセスにおける2つの限定要因は、試料の熱吸収、及び化学反応における酵素の働きである。こうしてPCRを、本来的に可能な限り高速で実施することができる。
【0025】
ポート28は、穿孔及びレーザアブレーションを含めて、様々なやり方で形成することができる。1層形態の場合、第1の絶縁体は、頂面30及び底面32を有する。頂面30は、第1の伝導層18の底面34に隣接する。絶縁体24の底面32は、熱伝導層20の頂面38に直接隣接する。第2の熱伝導層20の底面40は、第2の絶縁層26の頂面42に直接隣接する。絶縁体26の底面44は、第3の熱伝導層22の頂面46に直接隣接する。第1の熱伝導層18の頂面36は、入口ポート50をその中に有する。入口ポート50は、流体装置12に流体試料を供給するために使用することができる。出口ポート52は、流体装置12から流体試料を除去するために使用することができる。エポキシ又はその他の接着剤の薄層を使用して、層を互いに結合させることができる。位置合せガイド又はピンを、製造時の装置の位置合せに使用することができる。
【0026】
以下でさらに説明するように、様々なタイプ及び位置の温度源14、16を使用することができる。プラテンなどの別個の装置又は一体装置を使用することができる。図3に示すように、第1の温度源14及び第2の温度源16は、それぞれ熱伝導層18の頂面36及び第3の層22の底面48に直接隣接する。積層された温度源14、16は、こうして図3の装置12と一体になる。
【0027】
第3の熱伝導層22を貫通する、出口ポート52を示す。出口ポートによって、流体試料を装置から出すことが可能になる。装置を貫通する、連続チャネル54を示す。連続チャネルは、装置の各層に対応する部分を有する、様々なサイクルに分断することができる。PCR環境では、3つの異なる温度が望ましい。3つの異なる温度への暴露は、PCR反応の1増幅サイクルを形成する。
【0028】
連続チャネルは、入口部分56、第1の熱伝導層18内に配置された第1のサイクル部分58、及び、第1の熱伝導層18からの流体試料を第3の熱伝導層22に連結させる、接続部分60を備える。第3の熱伝導層22は、その中に第2のサイクル部分62を有し、こうして、第1の熱伝導層の第1の温度未満の第2の温度に暴露される。第2のサイクル部分62は、第2のサイクル部分62からの流体を第3のサイクル部分66に連結させる、第2の接続部分64に流体的に連結される。第3のサイクル部分66は、第2の熱伝導層20内に配置される。以下で説明するように、PCRプロセスにおける様々なパラメータ及び所望の増幅に応じて、第1の部分58、第2の部分62、及び第3の部分66を通る様々な数のサイクルを実施することができる。装置内を通る所定の数のサイクルが実施されると、流体試料は、第3の層22を通る出口部分68を通って装置を離れる。流体装置12内に形成された所望の数のサイクル内を流体が通過するとき、出口部分68が実施される。第1の部分58、第2の部分62、及び第3の部分66の長さ及び断面積は、各通路内の流体試料が所定の長さの時間その温度に暴露されるようにサイズ決めされる。通路のサイズは、断面積及び長さを変えることによって変化させることができる。滞留時間は、長さに比例し、チャネル断面積に反比例する。流体入口50及び流体出口52は、様々な層に配設することができる。この位置は、流体装置がそれに取り付けられる設備の構成に応じて、便宜上の問題により決定される。
【0029】
第1の温度源14及び第2の温度源16は、電気薄膜装置、抵抗ワイヤ装置、プラテン、又はその他の一定温度源など、様々なタイプの材料により構成することができる。図3の実施形態で、上層の温度は、第1の温度源14を用いて第1の温度に維持され、第3の層22は、第2の温度源16によって、第1の温度未満の第2の温度に維持される。第1の層の上面及び第3の層22の下面は、それぞれ温度源14、16が接触しているものとして示す。1つ又は両方の層の1つ又は複数の縁部にも、温度源を接触させることができることに留意されたい。好ましくは、温度源は調整される。サーミスタ又は熱電対など様々なフィードバック装置を、制御装置にフィードバックを供給するために使用することができる。第2の熱伝導層20は、各層からの熱を、制御された方法で絶縁体24、26を通して吸収する。すなわち、絶縁体を通る熱伝導量を厚さ又は材料の選択により制御することによって、吸収量を制御することができる。第2の層の温度は、第1の温度と第2の温度の間の、第3の所定の温度に維持される。装置全体が平衡状態に到達するためには、ゼロではないある長さの時間がかかるであろう。伝導層は、好ましくは高度に熱伝導性であり、それによって等温性である。平衡状態に到達した後、流体又は流体試料を、連続チャネル54を通して、異なる各サイクルにおいて異なる各層に暴露させることができる。層18、20、及び22は、高度に熱伝導性とすることができるので、熱伝導層内で低い又はほぼ0の温度差を支持することができる。絶縁層24及び26は熱伝導度が低い材料製であるので、それらの層内で、高い温度差を支持することができる。第2の熱伝導層20又は伸張層は、第1の伝導層18又は変性層(denaturation layer)からの、上方絶縁層を通じた熱の流入によって加熱される。第2の熱伝導層20又は伸張層は、対流、放射、又はその縁部からの伝導、下方絶縁層を通じた流出、及びアニーリング層からの液体の流入によって冷却される。その定常状態温度は、これらの競合エネルギー束を平衡化させた結果である。装置の保持装置の設計によって、縁部損失をごくわずかにすることができる。絶縁層の熱抵抗は、2つの事項を考慮して選択される。液体が流れていないとき、伸張層の定常状態温度は、2つの絶縁層の相対的な熱抵抗によって設定される。流れが存在するとき、伸張層の定常状態温度は、流入液体を加熱するのに必要とされるエネルギーに応じた量低下する。この低下は、PCRが許容することができる伸張温度範囲内でなければならない。この制約によって、絶縁層の熱抵抗の上限、及び従って装置に供給しなければならないエネルギーの下限が設定される。通常、装置に供給しなければならないエネルギーは2つの点からなり、これらは、変性温度とアニーリング温度との差にいずれも比例する。第1の点は、液体が存在しないときに定常状態の熱流束を確立する部分であり、第2の点は、変性及び伸張層に入る加熱液体のオーバーヘッドによる。縁の影響を度外視すると、装置に供給される総てのエネルギーを、適当なヒートシンクを用いて取り除くことができる。
【0030】
流体試料は、プロセスの速さに対する一つの限定要因であるある吸収速度を有する。化学反応での酵素(the enzymes of the chemistry)もまた、制限となり得る。先行技術とは逆に、本発明は、これら2つの制約のみによって制限される。その他の技術の幾何学的形態は、プロセスの速さを制限する。通常、長い通路は、そのような装置における熱遮断を実現するために存在する。
【0031】
連続チャネル54内に流体を置かれた時点で、毛管力、真空、圧力源又はその他の手段など、試料を移動させるための様々な手段を付与すればよい。移動手段を、第1の移動手段70及び第2の移動手段72として示す。一方又は両方の手段70、72が存在することがある。
【0032】
本実施形態で使用されるサイズ、材料、及び製造技術は、特定用途の要求に最も有効に対処するように選択することができる。例えば、成形、機械加工、鋳造、押出、並びに様々なタイプの金属及びプラスチックを、流体装置12に使用することができる。また、様々なタイプの加熱器を使用することもできる。微小電気機械システム(MEMS)もまた、そのような装置を製造するために使用することができる。フォトリソグラフィプロセスによって、適当な通路、入口及び出口ポート、並びに装置を通るポートを含む、異なる材料の多数の層を作り出すことができる。また、1つの流体装置を示す。多数流体装置を、多重反応装置内で、互いに隣接させて使用することができることに留意されたい。すなわち、装置内で、いくつかの反応を同時又は連続的に行うことができる。流路は、平行に接続されたいくつかの個別のチャネルとすることができる。これは、大量の流体の熱サイクルをより迅速に行うために有用となり得る。装置はまた、1回使用で使い捨てとしてもよく、洗浄して再使用してもよい。
【0033】
次に図4を参照すると、層なしで連続チャネル54’のみを示す、10サイクル装置12’が示されている。本実施形態では、連続チャネル54の第1の部分58’を示す。この第1の部分を第2の部分62’に接続する接続部分60’も示す。第2の部分62’を離れた後、流体は、第2の接続部分64’に入る。流体は次いで、第3の接続部分68’に入る前に、第3の部分66’に入る。従って部分58から68は、装置を通る1サイクルを示す。PCR装置内において、第1の部分は変性部分である。第1の部分58’は、変性部分である。第2の部分62’は、アニーリング部分であり、第3の部分66’は、伸張部分を実施する。この図では、上向き位置で示され熱伝導層18に対応する出口52’に試料が到達するまで、サイクルが10回繰り返される。入口ポート50及び出口ポート52の様々な位置は、当業者にとって明らかであると思われる。本実施形態では、チャネルを管状構造として形成し、オーバーモールドして単一装置を形成することができる。管状装置を、図1から図3に示す3つの熱伝導層でオーバーモールドすることができることにも留意されたい。
【0034】
次に図5を参照すると、第2の実施の形態74の分解図が示されている。本実施形態では、流体入口ポート50’’が、第3の層22’’に配置される。流体入口ポート50’’は、第2の絶縁体26’’、第2の熱伝導層20’’、第1の絶縁体24’’、及び第1の熱伝導層18’’を通って延びる。初期変性チャネル76が、熱伝導層18’’内に形成される。この構築された実施形態では、初期変性チャネル76は、6.5mmであった。本実施形態で示すチャネル部分は、断面が三角形である。チャネルは、フォトリソグラフィ技術を用いた方位依存性エッチングを用いて形成された。第1の熱伝導層18’’内に、複数の第1のサイクル部分58’’を示す。第1のサイクル部分58’’は、初期変性チャネル76に流体的に連結される。本実施形態では、複数の接続部分60’’を示す。これらの部分には、穿孔又は反応性イオンによる深いエッチングを行うことができる。本実施形態は、縦軸X及び横軸Yを有する。第1の部分58’’、第2の部分62’’、及び第3の部分66’’はそれぞれ、第1の部分58’’上のわずかなL字形変形部以外は横方向に配置される。本実施形態では、流体は一般に、熱伝導層18’’から第3の層22’’へ第1の接続部分60’’を通って流れる。流体は次いで、第2の層20’’である伸張プレートに入る。従って流体は、第3の部分66’’の中央から横方向外側に通過し、次いで第1の部分58’’の列のうちの1つまで通過する。以下図6で説明するように、流体は、各サイクルで装置の側部を交互に通過する。本実施形態では、チャネルは、第1の熱伝導層18’’の下面34’’内、第2の層20’’の頂面38’’、及び底部層22’’の頂面46’’内にエッチングされる。第1の絶縁体24’’及び第2の絶縁体26’’は、流体通路チャネルの画定するのを助ける。構築された実施形態では、次及び後続の変性チャネルが長さ1mmである6.5mmの初期変性チャネルで、30回のPCRサイクルが実施される。アニーリングチャネル又は第3の部分66’’もまた、長さ1mmである。伸張チャネル又は第2の部分62’’は、長さ2mmである。伝導層及び絶縁層を互いに結合させるために、エポキシ又はその他の接着剤を使用することができることに留意されたい。
【0035】
装置は、サーマルインクジェットカートリッジ及び集積チップ製造から取り入れた技術を用いて、製作することができる。装置は、シリコンで形成し、後に、互いに結合させた後でダイスカットすることができる。装置内に位置合せのための要素を組み込んで、様々な固定具によって装置の組立てを助けることを可能にすることができる。
【0036】
図6A〜図6Cに最もよく示されるように、第1のサイクル部分58’’内の流体流れは、横方向内向きに延び、第1の接続部分60a’’を通り、そこで第2のサイクル部分62a’’に入る。第2のサイクル部分62a’’内の流体流れもまた、横方向内向きである。流体は次いで、第2の接続部分64a’’のうちの1つを通り、第3のサイクル部分66a’’を通って横方向外向きに流れる。こうして、流体はこの時点で、第1のサイクル部分58’’に流体が入ったときと比べて、流体装置12’’の横方向反対側にある。流体は次いで、第3の接続位置68a’’に入り、そこで、第1のサイクル部分から見て装置の反対側にある、別の第1の部分58b’’に入り、第1のサイクルからの流体とは反対方向に横方向内向きに移動する。流体が第1の部分58b’’に入ると、第2サイクルが開始する。流体は次いで、上記方向と反対方向に流れ、すなわち、第2の部分62b’’内で、流体は横方向内向きに左側から装置の中央へと流れる。様々な熱伝導層間を移行するとき、流体は、第1の絶縁体24’’及び第2の絶縁体26’’それぞれの内部にある様々なポート28’’内を通過する。また、本実施形態では、出口ポート52’’は、第3の熱伝導層22’’を貫通する。図3に最もよく示すように、第3のサイクルは、第1のサイクル部分58c’’内で始まる。
【0037】
次に図7を参照すると、流体装置12’’’の第3の実施形態80が示されている。本実施形態では、ガラス層82が、第1熱伝導層18’’’上に設けられる。ガラス層82によって、蛍光X線又はその他の光検波がそこを通ることが可能になる。ガラス層82は、好ましくは検出波長で透過性であり、従って、第1の部分58’’’内のDNA量をモニタすることができる。また本実施形態では、第1の熱伝導層18’’’と第1の絶縁体24’’’の間で、加熱器層84を使用する。第2の多結晶シリコン加熱器層86はまた、図1〜図4に示す加熱器の位置で使用することもできる。適当なタイプの加熱器の1つは、多結晶シリコン加熱器である。様々な多結晶シリコン被覆が、インクジェット装置に一般に使用される。加熱器を、別個の層として示すが、層を形成するためにドーピングを用いることもできる。また、層は、エピタキシャルに形成することができる。他で説明するように、加熱器は、縁部、又は層の面に接触することができる。
【0038】
次に図8を参照すると、電気式「ジュール」加熱装置を使用する、第4の実施形態90が示される。第1の電源92及び第2の電源94が、それぞれジュール加熱器96及び98に結合される。すなわちジュール加熱器96は、熱伝導層18’’’’の上面上に配置することができる。第2のジュール加熱器98は、第3の層22’’’’の底面上に配置される。実際的な実施形態で、温度を制御するために、熱電対、サーミスタ、又はその他の感知装置が必要とされることがある。装置は、当業者に知られた様々な方法で、熱サイクル装置に外付けし、又はそれと一体にすることができる。
【0039】
図9に最もよく示すように、1対の接点100、102を使用して、装置に電流を流すことができる。電気接点は、一般に用いられる様々な手段によって、シリコンの表面上又は縁部に製作することができる。接点100、102の間に電位差をもたらすことによって、所定量の電流がそこを通過し、特定量の熱を生じることができる。必要とされる導電率は、Ω/□又は単にΩの単位を用いて、材料の表面抵抗qによって特徴付けることができる。qは、バルク抵抗率qを導電層の厚さで割ったものである。バルク伝導の場合、シリコン層の厚さ全体を用いることができる。図9に示すように、最も単純な状況では、装置の幅の両端間の接触が各端部で生み出される。電流は、その構成に応じて、表面の層又はバルクを通って流れる。電力は、単位面積当りV/qとして散逸され、単位幅当りの電流は、V/qLとなる。Lが1cm、qが10Ω/□の装置の場合、10V印加することによって、幅1cm当り1Aの電流密度で、10W/□cmの散逸が生じる。いかなる特定の装置も、この加熱量より大きい、しかし通常は大幅により小さい加熱量を必要とすることができる。
【0040】
次に図10A及び図10Bを参照すると、図10Aは、指定された厚さの導電層に対する、10Ω/□を達成するために必要とされるバルク抵抗率を示す。例えば、厚さ500μm(0.55mm)のシリコンウェハは、バルク抵抗率が0.5Ω・cmの場合、10Ω/□の表面抵抗を有する。0.01Ω・cmの抵抗率を有する厚さ10μmの層が、金属めっき、イオン注入、又はイオン拡散技術によってシリコン表面上に作り出される場合、同じ表面抵抗が生じる。ドーピング又は注入を用いる場合、図10Bは、所要のバルク抵抗率を達成するために必要とされるn型キャリアのレベルを示す。P型ドーピングを用いることもできる。
【0041】
次に図11を参照すると、シリコン層内でバルクジュール加熱が用いられる場合、装置の横方向(又は縦方向)縁部上に接点を設けることができる。図示のように、接点104及び106が、第1の熱伝導層18’’’’に設けられる。第2組の接点108、110が、第3の層22’’’’に結合される。電気接点は、装置と一体でもそれと別個であってもよいことに留意されたい。こうして、電流が装置を通って大量に流れ、指定されたジュール熱を生み出すことができる。そのような構成もまた、ガラス層82を備えることができる。上記様々なタイプの加熱器は、図7、図8又は図11で説明したいかなる実施形態と共に用いることもできる。
【0042】
次に図12を参照すると、ランダムアクセスPCRアナライザ120が示される。本実施形態では、試料容器122及び124内の試料が、DNA/RNA試料調製ブロック126へと供給される。試料調製キット130は、熱サイクル装置を備えることができる。必要に応じて、ブロック128で逆転写酵素反応を実施して、RNAからcDNAを形成することができる。試料調製キット130を、ブロック130として全体的に示す。試料調製キット130を使用して、組織又は流体の投入試料から、DNA材料を抽出することができる。試料調製キット130は、試験キットと一体にすることができる。調整後、試料アリコートを試料から取り出し、容器A3、A2、及びA1内に分配する。様々なプライマー、プローブ、特別に緩衝された溶液、ポリメラーゼ、及びdNTPがブロック132に示されており、これらを、試験キット136、138及び140内に供給することができる。PCRプロセス時に、プロセスの酵素はある反応時間を有する。その反応時間は、特定のプロセス及び試料の熱吸収率に応じて変わる。こうして流体の循環速度は、この吸収及び酵素の反応時間によって制限される。熱サイクル要素142、144、及び146もまた、試験キット内に設けることができる。熱サイクル要素に適当な変性及びアニーリング温度を提供するために、プラテン148及び150を使用することができる。試料の挿入前に、インキュベータ152を形成するプラテン148、150の間に、熱サイクル要素を挿入する。こうして熱サイクル要素142、144、146は、所望の温度まで上げられ、試料は、所定の速度で装置を通って抜き出され又は押し出される。ブロック154は、蛍光励起、レーザなどを用いてリアルタイム検出を提供する。熱サイクル要素の様々な地点で、増幅量を検出することができる。プロセスの最後に、終点検出156を設けることができる。試料は、様々なタイプの分析に使用することができる。終点検出156の後、試料及び試薬の混合物を廃棄することができる。
【0043】
サイズが小さく、期待される費用が低く、使い捨て可能な性質の熱サイクル要素によって、ランダムアクセスPCRアナライザを製作することが可能になる。本実施形態以前は、実質的に全てのPCR反応が、回分操作として、システム内の熱サイクル炉の数によって決定される同時に行われる様々な反応の回数分実施されていた。1つのタイプの増幅システムは、2つの熱サイクルを有し、従って3つ以上の異なるプロトコールを同時に行うことはできない。PCR試験の回数が時間とともに増加するので、ランダムアクセスアナライザに対する需要はより多くなるであろう。熱サイクル装置は、多数の試験を実施することができる。ランダムアクセスアナライザは、アナライザに与えられるそれぞれ及び全ての試料に対して、利用可能な試験のいかなる組合せをも行う能力を有するものとして定義することができる。従って、様々な数の加熱器又は内蔵加熱器を、各熱サイクル要素に設けることができる。従って、様々な数の試料及び様々な数の熱サイクル要素を、同時に実施することができる。例えば、様々な温度を様々な熱サイクル要素内で実現することができるように、中央制御装置によって加熱量を制御することができる。ランダムアクセスアナライザは、バッチアナライザに勝るいくつかの利点を有する。すなわち、それらはバッチアナライザよりも速く、より柔軟性が高く、より多目的であり、より生産的である。PCR増幅を実施するための、非常に多くの特定タイプの熱サイクル要素及び必要な試薬をそれぞれ含む、様々なPCRキットを製作できることが想像される。キットは、様々なポリメラーゼ酵素、dNTP、特別に配合された緩衝液、及びプライマーを備えることができる。任意で、試料調製及び検出のためのその他の試剤を提供することもできる。従って、温度をプログラムする能力を有することによって、様々なPCR試験プロトコールを行うことができる。インキュベータ152は、熱サイクル装置を通して流体を抜き出す手段を備えることができる。細胞試料を溶解してDNAを放出する、又は逆転写酵素反応を実施してRT−PCR用のcDNAを作り出すなど、様々な試料調製を実施することもできる。
【0044】
図13を参照すると、チャネル54の一部が示されている。この部分を、第1の部分58として示す。試料160が、チャネルの第1の部分58内に配置される。1対の泡162、164が、その中に試料160の範囲を区切る。泡162、164は、流体を個々の試料区間160に分割するのに十分なサイズで、流れの中に断続的に導入される。これは、密閉混合によってDNA溶質の温度−時間経験の平均化を促進する(ドウェル時間のばらつきを低減する)ために行われ、流体試料が蛇行通路を通って移動するときに、分離混合も生じる。泡162、164の存在によって、流体区間試料160内の矢印166で示される循環が押し進められる。流体は、壁のところで静止しなければならないので、ほぼ環状の流れプロファイルが存在する。いかなる流体要素の速度の分布、及び従ってその時間温度プロファイルの分布も、区間の範囲によって限定される。実際は、流体に対する泡の比率を可能な限り低く保つことが望ましい。図では、比率は約20%である。図はまた、流体コラムの長さの増大に関連するオーバーヘッドを表すので、比率を最低限に保つことが望ましい。最大の時間のばらつきの測定は、流体区間の長さを単一サイクルの長さと比べることによって得ることができる。流体区間が5〜10ダイアメータであり、単一サイクルの長さが100ダイアメータである場合、時間のばらつきは、約5〜10%となる。PCR装置は一般に、10未満、またしばしば1未満の低いレイノルズ数で動作するので、泡の使用によって熱サイクルを改善することができる。これは、処理される流体の量が少ない、すなわち数ナノリットルから数十マイクロリットルの範囲であるため生じる。これはまた、流体への熱伝導が、深さの平方に比例し流体の拡散率に反比例するその熱緩和量によって規定されるため生じる。それに関連する時間は、深さが100〜200μmの間である場合数十秒であるが、断面がより大きいチャネルでは、二乗依存のため急速に増加することがある。流れに関連付けられるレイノルズ数が低い場合、慣性効果は粘性力に支配され、混合は最低限となり又は存在しない。長いチャネルでは、流れはポアズイユ流に近づく。ポアズイユ流れの状態では、混合が生じない。中心付近の材料は、平均速度の2倍で流れるが、壁付近の材料は、大幅に低速で進む。こうして、PCR環境内で、チャネル中心付近の材料は、平均時間の約半分でマイクロチャネル内を高速で移動し、サイクル増幅の有効性を潜在的に制限する。一方、壁に最も近い材料は、平均時間より大幅に低速で移動するが、その他の有害な作用が存在することがある。分子レベルではブラウン運動があり、従っていくらかの混合が生じることに留意されたい。こうして、上記泡162、164を提供することによって、より全体的な混合を行うことができる。
【0045】
次に図14を参照すると、非常に多数のLED168及びフォトダイオード170を、プロセス全体を通して、様々な地点、及び様々なサイクル部分内に設けることができる。図示の通り、LED168及びフォトダイオード170を、第1の部分58内に設けることができる。また、フォトダイオード及びLEDの位置は、第1の部分、第2の部分、又は第3の部分、或いはそれらの様々な組合せなど、連続チャネル内の様々な位置に位置決めすることができる。例えば、全て又は多数のアニーリング通路が、LED及びフォトダイオードを備えることができる。検出結果を改善するために、光濾過要素を使用することもできる。存在するDNAの量を監視するために、こうしてフォトダイオードを、アナライザ装置に結合することができる。上述したように、存在するDNAの量はまた、ウィンドウを透過する蛍光放射によって測定することもできる。レーザ又はLEDは、測定される蛍光の供給源を提供することができる。ワイヤ169、171を、制御装置又はアナライザ装置に結合させることができる。
【0046】
同一又は別の装置で、PCR増幅産物を繰り返し再循環させることを可能にするために、外部手段を使用することもできる。各装置の間で、増幅を定量するために検出を実施することができる。
【0047】
次に図15を参照すると、熱サイクル要素185に結合された、再循環装置の一実施例が示されている。図15では、ポンプ176が上側チャンバ178に結合される。すなわち、ポンプ176は、試料をチャンバ178内へと抜き出す。これを実施するために、ポンプが吸引するときに、試料をチャンバ178へと供給する弁180を開く。弁182及び184を閉じる。次いで、弁180を閉じ、弁182を閉じ、弁184を開けて通気し、ポンプ176を作動させて試料を下側チャンバ186に分配する。こうして、熱サイクル要素185は、試料が第1のチャンバ178から第2のチャンバ186へと通過するときにそれを増幅する。再循環操作は、第1の弁180を閉じ、第2の弁182を開き、第3の184を通気のために開くことによって実施することができる。熱サイクル要素185を通る所望の数のサイクルが実施された後、第1の弁180を開き、第2の弁182を開き、第3の弁184を閉じ、ポンプを分配モードで動作させることによって、流体を分配することができる。様々なときに、小部分を分配することができ、又は、熱サイクル要素185内で増幅量を測定することができる。
【0048】
上述のように、装置を製作するために様々な技術を使用することができる。例えば、図4に記載したように管を予め構成することができ、次いでその周りに可撓性材料を成形することができる。層を分離するために、様々な層内に絶縁体を成形することができる。また、外面に対するチャネル層の位置は、PCRプロトコールによって要求される3つの望ましい温度で、チャネル通路が平衡化するように選択することができる。
【0049】
本発明を操作するための方法は、複数の層を有する装置内に試料を導入することを含む。試料の導入前に、各層の温度は、PCRプロトコールで要求される3つの温度を維持する。本実施形態では、底部熱伝導層の温度は、上部熱伝導層よりも低い。こうして、3つの伝導層が定常状態に到達したら、試料を装置内に導入する。熱平衡時は、上層全体が温度源と同じ温度であり、下層全体が、下側温度源の温度であることに留意されたい。こうして、装置は平衡状態となる。中間層は、より高温とより低温の間の平衡温度である。投入ポートを通じて試料を配置し、第2の実施形態の場合は、その他の変性ステージよりも長い初期変性ステージに供給する。これは、実施されるPCRのタイプによって要求され、又は要求されないことがある。PCR試料は、第1の温度で、サイクルの第1の部分内を循環する。試料を、第1及び第2の層の間にある第3の層を通して、下層である第2の層へと移動させる。試料はまた、絶縁体24及び26を通る。流体装置を通して流体を押し進めるために、真空、圧力ポンプ、毛管力、又はその他の手段など、様々な手段を使用することができる。流体流れの速度によって、第1の部分内でPCR試料が最高温度下に置かれる時間の長さが決定される。第1の部分の最後が実施された後、流体は、中間層を通じて底部流体層へと通過する。第1のサイクルの3つのチャネル部分を全て横断した後、流体試料は、第1の層内の第2のサイクルに入る。図5に示すように、第1の部分の様々な列を小型の構造内に設けることができるので、小さい領域内により多くの熱サイクルを設けることができる。
【0050】
実施されるPCRのタイプに応じて、様々な数のサイクルを様々な装置内に設けることができることに留意されたい。図5の30PCRサイクルに比べて、より多い又はより少ない数のサイクルを設けることができる。図15に関して上述したように、熱サイクル要素は、流体を再循環させて装置内に戻すために、装置に結合させることができる。これは、増幅量を検出する検出ステージへの、フィードバック応答として行うことができる。所望の量の増幅が実施されていない場合、流体試料を再循環させて熱装置内に戻すことができる。十分な量の試薬が反応に使用可能となるように、様々な試薬を試料と共に様々なときに投入することもできることにも留意されたい。
【0051】
次に図16を参照すると、本発明の第6の実施形態が示されている。本実施形態では、第3の温度源200を示す。第3の温度源200は、第1の接点202及び第2の接点204を備える。接点は、図11に関して上述したのと同様のやり方で構成することができる。すなわち、装置及び第2の層20を通して、ジュール加熱を実施することができる。すなわち、伸張層を加熱することもできる。本実施形態では、各層が熱的に無関係又はほぼ無関係となるように、絶縁層24及び26の絶縁特性を増大させることができる。すなわち、3つの温度源を備える一実施形態では、各層の熱依存性を低減させる又はなくすことが望ましいことがある。もちろん、上記で説明した多結晶シリコン加熱器などの、独立した加熱層によって加熱を行うこともできる。すなわち、多結晶シリコン加熱器など、独立した加熱器は、絶縁層24、26の一方又は両方と、第2の層20との間に配置されることになる。また、本実施形態では、第1及び第2の温度源のための様々な構成を含むことができる。すなわち、多結晶シリコンなど様々なタイプの加熱器を含むことができ、装置を加熱するために、表面加熱又は外部プラテンを使用することができる。
【0052】
次に図17を参照すると、本発明の第7の実施形態210が示されている。この実施形態は、以前の実施形態で述べたように3つではなく、流体熱伝導層を2つだけ有する。本実施形態では、第1の層212及び第2の層216が、絶縁層214によって分離されている。層212及び216は、熱伝導層である。本実施例では、第1の層及び第2の層が、その内部に連続チャネル218を有する。連続チャネル218は、第1の部分220及び第2の部分222を有する。第1の部分220は、第1の層内に配置され、第2の部分222は、第2の層216内に配置される。PCRのいくつかの形では、伸張温度とアニーリング温度が重複することがある。従って、アニーリング及び伸張は、同じ層内で実施することができる。こうして、本実施形態は、サイクルを形成する2つの層及び2つの異なる温度部分を有する。絶縁層214が任意であることにも留意されたい。すなわち、第1の部分及び第2の部分が、変性層と同様アニーリング及び伸張のための所望の温度を有することができるように、適切な温度勾配を装置に加えることができる場合、いくつかの実施形態で絶縁層214をなくすことができる。
【0053】
本実施形態はまた、上記様々な加熱手段を含むことができる。すなわち、様々なプラテン又はその他のタイプの加熱器を、装置の様々な部分に配置することができる。加熱器は、絶縁層214と、層216又は層212、或いは両方との間に配置することができる。様々な数のサイクルを装置内に設けることができることにも留意されたい。
【0054】
様々な数のサイクルを有する様々な実施形態を示してきた。検出又はさらなる変性などのサイクル変化の後又はその間に、アニーリング又は伸張ステップを実施することができることに留意されたい。例えば、最後の伸張ステップの後に、余分の変性ステップを含むことができる。また、第1のサイクル部分又は第1及び第2のサイクル部分で、延長された変性ステップを行うこともできる。
【0055】
次に図18及び19を参照すると、熱サイクル装置252用の試験用取付け具250が示されている。熱サイクル装置252の中心に、流体装置12がある。熱サイクル装置252は、流体装置12を備え、上部キャップアセンブリ254及び下部キャップアセンブリ256を備える。取付け具アセンブリ258は、取付け頂部262に結合された脚部260を備える。取付け頂部262は、熱サイクル装置252を受けるための凹部264を備える。上部キャップアセンブリ254及び下部キャップアセンブリ256は、PCR装置内の変性加熱器及びアニーリング加熱器である。
【0056】
上部キャップアセンブリは、内部にチャネル272を有するキャップハウジング270を備える。チャネル272は、プラテン274を受ける。プラテンをキャップ部片270内に固定するために、端部キャップ276が使用される。ロッド加熱器278及び熱電対280が、端部キャップ276内の開口282内に挿入される。ロッド加熱器は、流体装置12に温度が与えられるように、プラテンを所定の温度に加熱するために使用される。より具体的には、流体装置12の上面が、プラテン274に結合される。
【0057】
下部キャップアセンブリ256は、頂部262の凹部264内で受けられる案内特徴292を有する、下部キャップハウジング290を備える。プラテン294が、下部キャップアセンブリ内で受けられる。ロッド加熱器296及び熱電対298は、ロッド加熱器が下部プラテン294に熱を供給し、プラテンを所定の温度に加熱するために熱電対298が使用されるように、端部キャップ302内の開口300内に挿入される。プラテン294はまた、入力チューブ310及び出力チューブ312に結合することもできる。プラテンを貫通して、入力チャネル314及び出力チャネル316を設けることができる。流体装置12とプラテン294の間の流体漏れを防ぐために、それらの間にガスケット318、320を結合することができる。装置は、ねじ切りされた締結具340と共に保持される。
【0058】
下部キャップ290に、ヒートシンク350を結合することができる。上部プラテン274は、下部プラテン294より高温であるので、ヒートシンク350によって熱が放散される。これは、流体装置12の変性層及びアニーリング層を所定の温度に維持するのに役立つ。
【0059】
入力チューブ310及び出力チューブ312を熱サイクル装置252に固定するために、1対のホースクランプ352、354を使用することもできる。
【0060】
構築された流体装置の一実施形態では、0.022mmのチャネル断面積を用いた。変性部分のチャネル長さは1mmであり、伸張部分は2mmであった。構築された本実施形態では、30サイクルを使用した。予備変性チャネル長さは、9mmであった。シリコン層の厚さは、0.575mmであった。伝導率は、130W/m・℃であった。ポリイミド厚さは、0.125mmであり、その伝導率は、0.31W/m・℃であった。
【0061】
反応溶液は、5フェムトモル濃度のヒトゲノム鋳型DNAを含むことができる。市販のPCR緩衝液は、決定的に重要な成分である、pH安定性のためのトリス塩酸緩衝液、及びポリメラーゼ活性に決定的に重要なMg++イオンを提供するためのMgClを有する。A、T、C及びGのそれぞれに、200マイクロモル濃度のデオキシヌクレオチド3リン酸(dNTP)が提供された。それぞれ200マイクロモル濃度の100〜200塩基対のアンプリコンを規定するために、20〜30ヌクレオチドの長さのヒトゲノム鋳型に特有のフォワード及びリバースプライマーが選択された。1反応当り1ユニットの、Taqポリメラーゼ酵素が選択された。上記の試験用取付け具は、シリンジポンプ(図示せず)に結合され、そこから熱サイクル装置12を通して反応溶液が給送される。加熱されたプラテンは、96±1℃の変性温度、及び54±1℃のアニーリング温度を維持する。プラテン加熱器、及び内蔵熱電対を有する温度制御装置は、それぞれ16ワットを供給する。3.75℃/Wの熱抵抗を有するヒートシンクを、アニーリングプラテンの露出面に取り付けた。使用したシリンジポンプは、10μLの容量、及び1mm/sの流速で0.22μL/sの流量を有する。増幅産物は、装置の出力口で収集される。産物中に存在する増幅されたDNA材料の存在及び量を検出するために、様々な手段を用いることができる。一般的な方法では、分子量によってPCR産物を空間的に分離するための電気泳動、及びDNA産物に結合して濃度を示す蛍光プローブを用いる。
【0062】
本発明を、1つ又は複数の実施形態と関連付けて説明してきたが、本発明はこれらの実施形態に限定されないことが理解されるべきである。逆に、本発明は、特許請求の範囲の精神及び範囲内に包含することができる、全ての代替例、修正例、及び同等物を網羅することが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリメラーゼ連鎖反応を実施するための装置であって、
第1の層と、
第1の層に近接する(proximate)第2の層と、
前記第1の層及び前記第2の層内に形成された連続チャネルとを備え、
前記連続チャネルが、複数のサイクル区間を有し、各サイクル区間が、前記第1の層内に配置された変性部分、並びに前記第2の層内に配置されたアニーリング及び伸張部分を含む装置。
【請求項2】
前記第1の層と前記第2の層が、両者の外延が揃った状態で積層されている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第1の層及び第2の層が、熱伝導性である、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記第1の層と第2の層との間に配置された第1の絶縁体をさらに備える、請求項1から3の何れか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記第1の層が、平坦な層である、請求項1から4の何れか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記第2の層が、前記第1の層に隣接して(adjacent)配置された平坦な層である、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記第1の層に熱的に連結され、それを第1の温度に維持する第1の温度源と、第2の層に熱的に連結され、それを第1の温度より低い第2の温度に維持する第2の温度源とをさらに備える、請求項1から6の何れか1項に記載の装置。
【請求項8】
前記第1の層及び前記第2の層が、同じ材料からなる、請求項1から7の何れか1項に記載の装置。
【請求項9】
前記第1の層及び前記第2の層が、異なる材料からなる、請求項1から7の何れか1項に記載の装置。
【請求項10】
前記連続チャネル内に配置されたLED及び光検出器をさらに備える、請求項1から9の何れか1項に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−206059(P2011−206059A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136529(P2011−136529)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【分割の表示】特願2007−501008(P2007−501008)の分割
【原出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(506286375)
【Fターム(参考)】