説明

熱シール性フィルム

【課題】本発明の課題は、良好な熱接着性を維持しつつ、撥水性が高く優れた非付着性を持続的に発揮できる包装材料を提供することにある。
【解決手段】少なくとも基材の片面に熱シール層を有する積層体の熱シール層上に、粒径5nmから1μmの疎水性微粒子と、ワックスと、分散溶媒を混合した撥水性コート剤の塗布乾燥により形成される表面撥水コート層を設け、前記表面撥水コート層は、ワックス固形分表面に疎水性微粒子が島状あるいは前記ワックス固形分表面全体を覆うように付着していることを特徴とする熱シール性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食品、飲料品、医薬品、化粧品、化学品等を包装するために用いる包装材料、特に、内容物の非付着性に優れた包装材料に関する。具体的にはヨーグルト、ゼリー、プリン、シロップなどの容器蓋材や、お粥、スープなどのレトルト食品用包装材、化学品や医薬品等の液体、半固体、ゲル状物質などの保存容器用フィルム材料に関し、シーラント層に撥水性を付与することにより、内容物の付着による取り出し後の残存量を低減して取り出し性の向上を可能にした熱シール性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より多種多様の包装材料が知られているが、その内容物も多岐にわたる。例えば、ゼリー菓子、プリン、ヨーグルト、液体洗剤、練り歯磨き、カレールー、シロップ、ワセリン、洗顔クリーム、洗顔ムース等のような、食品、飲料品、医薬品、化粧品、化学品等がある。また、内容物の性状も固体、半固体、液体、粘性体、ゲル状物等のように様々なものがある。
【0003】
これらの内容物を包装するための包装材料においては、通常密封性が要求されるほかに、内容物、包装形態、用途等に応じて内容物保存に必要な熱接着性、遮光性、耐熱性、耐久性等が要求される。
さらに、内容物によっては開封使用時の内容物の取り出し易さの問題がある。すなわち、内容物が容器内面の包装材料に付着するという問題である。開封使用時に収容した内容物が包装材料に付着すれば、内容物をすべて使い切ることが困難になり、それだけ無駄が生じることになる。
また、内容物をすべて使い切るためには包装材料に付着した内容物を別途に回収しなければならず、手間がかかる。このため、包装材料では、上記のような密封性等の保存適性のほか、内容物が包装材料に付着しにくい性質(非付着性)を備えていることが重要である。
【0004】
従来から包装容器に用いられてきた通常のシーラント材や蓋材は、開封時に内容物が内側に付着して取り出しにくく、内容物の無駄や周囲の汚れの原因となることが多かった。
非付着性を付与する方法としてはシーラント層にフッ素化合物やシリコーン等の撥水性成分を添加する方法が考えられるが、ヒートシール時のシール適性の確保およびシール強度の保持が困難であり、蓋やパウチといった容器の包装材に使用することは困難であった。
【0005】
これに対し、接着層を介して一体化された基材層とヒートシール層とを備えた蓋材において、ヒートシール層が、添加剤として、付着防止効果を有するグリセリン酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ポリオキシプロピレン・ポリオキシエチレンブロックポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸アミド等を含むポリオレフィンからなり、その厚さが10μmよりも厚く、接着層と該ヒートシール層との間にポリオレフィンからなる中間層が設けられていることを特徴とする充填物付着防止蓋材が提案されている(特許文献1)。
しかしながら、上記のような蓋材では、使用できるヒートシール層の種類又は厚みが制限される上、グリセリン酸エステル等の添加剤の使用量を厳格に制御しなければならない。添加剤の使用量が多すぎるとヒートシール性能を低下させる一方、添加剤の使用量を少なくすればそれだけ付着防止効果が低下する。この点において実用化を進める上ではさらなる改善の余地がある。
【0006】
これに対して特許文献6では、良好な熱接着性を維持しつつ、優れた非付着性を持続的に発揮できる包装材料として、少なくとも基材層及び熱接着層を有する積層体からなる蓋材であって、前記熱接着層が蓋材の一方の面の最外層として積層されており、前記熱接着層が他の層と隣接していない最外面に一次粒子平均径3〜100nmの疎水性酸化物微粒子が付着し、疎水性酸化物微粒子が三次元網目状構造からなる多孔質層を形成している蓋材が提案されている。
【0007】
この方法によれば、熱接着層に疎水性酸化物微粒子を付与するだけで良いので、熱接着層を構成する原材料への添加剤の配合の制御をする必要がなく、よってその配合率の制御等が不要となる分、生産効率、コスト等の面で有利であるとされているが、疎水性酸化物微粒子が形成する三次元網目状構造からなる多孔質層は微粒子相互の接着がないので不安定であるという問題を抱えていた。
【0008】
一方、金属、セラミック、プラスチック、あるいは繊維などからなる固体物品表面に撥水性を付与する材料としてはシリコーンオイルが広く用いられている。例えば、自動車ボディーのコーティング用としてアミノ変性シリコーンオイル系の撥水剤が市販されているが、それをスプレーして得たコーティングでは、撥水性が低く、また、持続性が十分ではない。そこで、シリコーンオイル中に無機または有機系微粒子を混ぜることによって、シリコーンオイルの撥水性をより向上させようとする試みがなされている。
【0009】
例えば、特許文献2には、塗膜表面の水接触角が90度以上となるような樹脂溶液と、塗膜硬化後表面に微細凹凸を付与しうる無機または有機系微粒子とからなる撥水性コーティング用組成物が記載され、この組成物を塗布した熱交換器では直径1mm程度の微細な水滴までをフィン表面から落とすことによって水滴による気流の妨害を低減して効率低下を防ぐという提案がなされている。
【0010】
また、特許文献3では、種々の基材に適応でき、安定した撥水性能と、いわゆる蓮の葉の表面を水滴が転がるのと同様の優れた撥水性を有する被膜を提供する目的で、少なくとも表面が疎水性の粒径1nm〜1mmの微粒子と樹脂塗膜からなり、該微粒子が該樹脂塗膜表面積の20%以上の領域に露出されて固着されており、表面に凹凸形状を有する被膜であって、微粒子は水との接触角が90°以上の基材からなる微粒子、又は表面に低級アルキル基を有する疎水性シリカ微粒子からなる被膜が提案されている。
そして、特許文献3には、微粒子の平均粒径について、小さくなると被膜の表面凹凸形状の効果が低下して接触角が小さくなり、大きくなると細かい水滴に対する撥水性が低下するので1nm〜1mmに限定されると記載されている。
【0011】
さらに、特許文献4には、「水の接触角が120°に満たない材料からなる表面上に形成した際、その被膜表面における水の接触角を150°以上とすることが可能な撥水性被膜であって、前記表面上に形成された、粘着性を有する撥水性高分子を含む層と、前記粘着性を有する撥水性高分子を含む層表面に固着された、撥水性シリカ粒子とからなる被膜であり、前記粘着性を有する撥水性高分子を含む層自体の表面における水の接触角は、120°以下であり、前記撥水性シリカ粒子の平均粒子径は、0.1〜100μmの範囲に選択され、対応させて、表面に固着された前記撥水性シリカ粒子の面密度は、10〜10個/mmの範囲に選択されていることを特徴とする撥水性被膜」が記載され、得られる撥水性被膜は接触角が150°以上であること、「粘着性を有する撥水性高分子を含む層を構成する粘着性を有する撥水性高分子は、その表面に撥水性シリカ粒子を安定に固着する際、バインダーとして機能するものであり、上記の粘着性含フッ素高分子、あるいは、この粘着性含フッ素高分子と粘性シリコーン樹脂との混合物を利用することが一層好ましい」ことが記載されている。
【0012】
さらにまた、特許文献5には、1nm〜1μmの範囲内にある径を有するゲル粒子と疎水性ポリマー材料とからなる表面変性剤が記載され、それによって、少なくとも150°の接触角、さらには少なくとも160°の接触角を有するコーティングが形成されることが記載されている。
【0013】
しかしながら、特許文献2から5に提案されている従来技術は、いずれもコーティング塗膜表面における疎水性の向上を目的とするもので、接触角が160°を超えるような超撥水性の表面を提供できるというが、コーティング塗膜の透明性(光沢)が確保されない場合があり、また、表面層の安定性も不十分な場合が多かった。
撥水剤を物品表面に適用する際、その物品自体の色、材質感などを損なわないために、コーティング膜は、透明で光沢を有することが要望される。また、一旦撥水剤コーティングを行った後は、物品表面から剥離することなく長時間撥水性を維持できることが望まれる。
【0014】
特許文献7においては、シリコーンオイル、微粒子、及び溶剤を含む撥水剤において、微粒子同士、及び/または微粒子とシリコーンオイルとの結合性を増強できるような微粒子結合剤を添加することによって、撥水剤コーティング膜の強度を増強できることおよび微粒子の寸法を限定することによって被膜の透明性を確保できることが見出されている。
しかしながら、微粒子結合剤により粒子間の接着を保持することは結合剤の添加量の制御の困難さの問題が残る。また、被膜を容器内面にシーラントとして用いる場合においては、熱融着後の層内に空隙が残りヒートシール強度にばらつきが生じることも避けられなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2002−37310号公報
【特許文献2】特開平3−244679号公報
【特許文献3】特開平7−328532号公報
【特許文献4】特開2003−54318号公報
【特許文献5】特開2003−507567号公報
【特許文献6】特許第4348401号公報
【特許文献7】特許第4060333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の課題は、良好な熱接着性を維持しつつ、撥水性が高く優れた非付着性を持続的に発揮できる包装材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を鋭意検討した結果、疎水性微粒子、ワックス及び分散溶剤を含む塗工剤を用いて、微粒子同士の空隙を埋めて微粒子とワックスとの結合性を増強することによって、撥水剤被膜の強度を増強できることを見出し、本発明に到達した。
【0018】
本発明の請求項1に係る発明は、少なくとも基材の片面に熱シール層を有する積層体の熱シール層上に、粒径5nmから1μmの疎水性微粒子と、ワックスと、分散溶媒を混合した撥水性コート剤の塗布乾燥により形成される表面撥水コート層を設け、前記表面撥水コート層は、ワックス固形分表面に疎水性微粒子が島状あるいは前記ワックス固形分表面全体を覆うように付着していることを特徴とする熱シール性フィルムである。
【0019】
本発明の請求項2に係る発明は、前記シール性フィルムの表面撥水コート層が、疎水性微粒子の積み重なった構造体を形成しており、この構造体の空隙がワックス固形分により充填されていることを特徴とする請求項1に記載の熱シール性フィルムである。
【0020】
本発明の請求項3に係る発明は、前記表面撥水コート層のワックス固形分が、分子量100から10000のポリエチレンワックスからなることを特徴とする請求項1または2に記載の熱シール性フィルムである。
【0021】
本発明の請求項4に係る発明は、前記表面撥水コート層の疎水性微粒子が表面にトリメチルシリル処理された球状金属酸化物であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の熱シール性フィルムである。
【0022】
本発明の請求項5に係る発明は、熱シール時に、前記表面撥水コート層の疎水性微粒子が熱シール層中のシール成分ならびにワックス固形分中に埋没して空隙をなくすことによって、シール強度の低下を起こさないことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の熱シール性フィルムである。
【発明の効果】
【0023】
本発明の熱シール性フィルムによれば、少なくとも基材の片面に熱シール層を有する積層体の熱シール層上に、粒径5nmから1μmの疎水性微粒子と、ワックスと、分散溶媒を混合した撥水性コート剤の塗布乾燥により形成される表面撥水コート層を設け、前記表面撥水コート層は、ワックス固形分表面に疎水性微粒子が島状あるいは前記ワックス固形分表面全体を覆うように付着していることによって、良好な熱シール性を保ちながら優れた撥水性、撥乳性を有する熱シール性フィルムとすることができる。この熱シールフィルムを蓋材やパウチ用包装材として使用したときには、開封時の内容物の容器への付着による残量を低減することの出来る容器となる。
【0024】
また、撥水性を付与するものとして、疎水性微粒子を溶剤とワックスで分散した撥水性コート剤を熱シール層上に塗布乾燥することによって、塗布乾燥後の包装材料表面は疎水性微粒子が熱シール層表面上に表面を部分的にもしくは全面を覆うように配置されるので、疎水性微粒子のもつ撥水性とその粒径および配列形状から来る見かけの撥水性の増加によって高い撥水性を示す表面を実現することが出来る。
この場合、疎水性微粒子の平均粒径が小さくなると凹凸形状の効果が低下して接触角が小さくなり、大きくなると細かい水滴に対する撥水性が低下するので平均粒径は5nm〜1μmの範囲であることが好ましい。
【0025】
塗布乾燥後の熱シール層上に形成された疎水性微粒子の構造体の空隙にポリエチレンワックス等のワックス成分からなるバインダが充填されていることによって、疎水性微粒子をまとめて容易に崩壊しない状態に保っているのと同時に熱シール性フィルム基材とのシール部分の密着性を向上させている。
【0026】
前記表面撥水コート層のワックス固形分が、分子量100から10000のポリエチレンワックスからなること、前記表面撥水コート層の疎水性微粒子が表面にトリメチルシリル処理された球状金属酸化物であること、熱シール時に、前記表面撥水コート層の疎水性微粒子が熱シール層中のシール成分ならびにワックス固形分中に埋没して空隙をなくすことによって、本発明の撥水性包装材の良好な熱シール性を保ちながら優れた撥水性、撥乳性を有し、蓋材やパウチ用包装材として使用したときに開封時の内容物の容器への付着による残量を低減することの出来る容器としての効果を増大することが出来る。
【0027】
以上のように、本発明の熱シール性フィルムによれば、疎水性微粒子を溶剤とワックス
で分散した撥水性コート剤を熱シール層上に塗布乾燥するという簡単な方法で、良好な熱接着性を維持しつつ、撥水性が高く優れた非付着性を持続的に発揮できる包装材料を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の熱シール性フィルムの一例の平面図と断面模式図
【図2】本発明の熱シール性フィルムの他の一例の平面図と断面模式図
【図3】本発明の熱シール性フィルムを蓋材として用いた例の断面模式図(a)開封前(b)開封時
【図4】従来の熱シール性フィルムを蓋材として用いた例の断面模式図(a)開封前(b)開封時
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の熱シール性フィルムの代表的な実施形態の一例について、以下必要に応じて図面を参照しながら説明する。
本発明の熱シール性フィルムは良好な熱シール性を保ちながら優れた撥水性、撥乳性を有し、蓋材やパウチとして使用した場合に内容物の残量低減や付着防止効果を有するものである。
【0030】
図1(b)には本発明の熱シール性フィルムの一例の断面模式図を示した。
本発明の熱シール性フィルム(1)は、基材(2)の片面に熱シール層(3)を有する積層体(4)の熱シール層(3)上に、粒径5nmから1μmの疎水性微粒子(5)と、ワックス(6)と、分散溶媒を混合した撥水性コート剤の塗布乾燥により形成される表面撥水コート層(7)が、ワックス固形分表面に疎水性微粒子(5)がワックス固形分表面全体を覆うように付着している。
【0031】
図2(a)には本発明の熱シール性フィルムの他の一例の平面図を、図2(b)には断面模式図を示した。
本発明の熱シール性フィルム(1’)は、基材(2)の片面に熱シール層(3)を有する積層体(4)の熱シール層(3)上に、粒径5nmから1μmの疎水性微粒子(5)と、ワックス(6)と、分散溶媒を混合した撥水性コート剤の塗布乾燥により形成される表面撥水コート層(7)が、ワックス固形分表面に疎水性微粒子(5)がワックス固形分表面の一部分を島状に覆うように付着している。
【0032】
熱シール性フィルム(1)と(1’)は疎水性微粒子(5)が覆うワックス固形分表面の領域面積比のみ異なっており、ワックス固形分表面の露出している面積が多少あっても撥水効果が著しく低下することはない。以下図1に示した例によって説明する。
【0033】
熱シール性フィルム(1)の表面撥水コート層(7)は、疎水性微粒子(5)の積み重なった構造体から出来ており、この構造体の空隙にポリエチレンワックスからなるバインダが充填され、疎水性微粒子(5)をまとめ、さらに熱シール層との密着性を向上させている。
より具体的には、熱シール時において、熱シールされる領域上に存在する疎水性微粒子は軟化した熱シール層中に埋め込まれるので熱シールを阻害しない一方、熱シールされる領域外に存在する疎水性微粒子はそのまま熱シール層上に保持されているのでその高い非付着性を発揮することができる。
【0034】
図3には、本発明の熱シール性フィルムを蓋材として用いた例の断面模式図を示す。図3の(a)は開封前、(b)は開封時の状態を示す。成型容器(11)に内容物(12)が充填され、その開口部と熱シール性フィルム(1)の熱シール層(3)とが接するよう
な状態でフランジ(14)にヒートシールされて密封される。つまり、熱シール層(3)の表面に付着している疎水性微粒子(5)が内容物(12)と接触可能な状態で本発明の熱シール性フィルムが使用されることになる。
【0035】
このような場合であっても、熱シール層(3)は疎水性微粒子(5)によって保護され、優れた非付着性を有するので、たとえ内容物(12)が熱シール層(3)表面に接触しても、内容物の熱シール層への付着が疎水性微粒子(又は疎水性微粒子からなる多孔質層に浸透したワックス)によって遮られ、なおかつ、はじかれる(図3(a)参照)。
このため、内容物(12)が熱シール層(3)表面に付着したままの状態とならずに、疎水性微粒子にはじかれて容器(11)の内部に戻る(図3(b)参照)。
【0036】
なお、成型容器(11)の材質としては、金属、合成樹脂、ガラス、紙、それらの複合材等から適宜選択でき、その材質に応じて熱シール層の種類や成分を適宜調整することができる。
【0037】
図4には、比較のために、従来の熱シール性フィルムを蓋材として用いた例の断面模式図を示す。図4の(a)は開封前、(b)は開封時の状態を示す。
成型容器(11)に内容物(12)が充填され、その開口部と包装材料の熱シール層(13)とが接するような状態で密封される。通常このような場合には、熱シール層(13)は内容物の非付着性を持たないので、内容物(12)が熱シール層(13)表面に接触すると、内容物の熱シール層への付着が避けられない(図4(a)参照)。
このため、内容物(12)の一部は熱シール層(13)表面に付着したままの状態で容器(11)から離されて廃棄される(図4(b)参照)。
このように、本発明の熱シール性フィルムは、熱シール層側の最外面に内容物が接触可能な状態で内容物が包装材料に包装されてなる製品の容器材料として好適に用いることができる。
【0038】
本発明の熱シール性フィルム(1)の基材(2)としては包装材料としての特性と加工性を備えたフィルム、紙、あるいは金属箔であれば特に限定されない。
基材(2)の材質としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリエチレンナフタレ−ト樹脂(PEN)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)などのポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリプロピレン樹脂(PP)などのポリオレフィン樹脂、ナイロン−6、ナイロン−66などのポリアミド樹脂(PA)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリアクリロニトリル樹脂(PAN)、ポリイミド樹脂(PI)、ポリビニルアルコール樹脂(PVA)、ポリ塩化ビニリデン樹脂(PVDC)、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂(EVOH)などの延伸又は無延伸フィルム、ナイロン−6/メタキシリレンジアミンナイロン6共押出しフィルム、ポリプロピレン/エチレン−ビニルアルコール共重合体共押出しフィルムなどのいずれかが使用できる。 またはこれらの2つ以上のフィルムを積層した複合フィルムであっても構わない。
アルミニウム箔等の金属箔や紙も単体もしくは積層して用いることが出来る。また、基材層の厚さは、通常、加工性を考慮して10〜150μmの範囲内で適宜選択される。
【0039】
熱シール層(3)には、例えば、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、中密度ポリエチレン樹脂(MDPE)、高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(L−LDPE)、ポリプロピレン樹脂(PP)、エチレン−プロピレン共重合体(EP)、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン−アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)、アイオノマー樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)などの樹脂、またはこれらの樹脂を成膜化したフィルム、またはラッカータイプ接着剤、イージーピール接着剤、ホットメルト接着剤等の接着剤を使用することができる。
【0040】
熱シール層の厚さは特に限定されないが、密封性、生産性、コスト等の観点より通常20〜150μm程度とすることが好ましい。特に、本発明の熱シール性フィルムでは、熱シールするに際して、熱シールされる領域上に存在する疎水性微粒子間の空隙がワックス成分によって充填されているので熱シール層の厚みは最小限で足りる。
【0041】
基材(2)と、熱シール層(3)とを接着層を介してラミネーションして積層体(4)を作成する方法としては、例えば、ドライラミネーション方法、エクストルージョンラミネーション方法、及びエクストルージョンラミネーション方法を利用したサンドイッチラミネーション方法などの公知の方法を使用することができる。
前記ドライラミネーション方法に使用する接着剤は、一般的に、ポリウレタン系、ポリアクリル系、ポリエステル系、エポキシ系、ポリ酢酸ビニル系、セルロース系、その他などのラミネート用接着剤を使用することができる。
【0042】
本発明の熱シール性フィルムにおいては、基材(2)と熱シール層(3)との間に必要に応じて中間層を設けてもよい。
中間層の必要な場合には、たとえば、ガスバリア性、機械的強靭性、耐屈曲性、耐突き刺し性、耐衝撃性、耐摩耗性、耐寒性、耐熱性、耐薬品性の不足などが挙げられ、包装容器として要求されるこれらの機能を基材層と熱シール層との間に中間層を設けることで達成する必要がある場合に設けられるものである。
中間層としてはさらに、例えば、印刷層、印刷保護層(いわゆるOP層)、着色層、接着剤層、接着強化層、プライマーコート層、アンカーコート層、防滑剤層、滑剤層、防曇剤層等が挙げられる。
【0043】
特に酸素ガス、水蒸気、光などに対する耐性や長期常温流通などが求められる場合には中間層として、ガスバリア層(図示せず)を設ける必要がある。
前記ガスバリア層には、ガスバリア性を有する樹脂フィルムや、基材フィルム表面に別途ガスバリア層を設けたガスバリアフィルムあるいはアルミニウム箔等の金属箔が用いられる。
例えば、エチレン−ビニルアルコール共重合体フィルム(EVOH)、ポリビニルアルコール樹脂フィルム(PVA)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)ケン化物などのフィルム、或いはポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリアミド樹脂(PA)、ポリプロピレン樹脂(PP)などのフィルムにポリ塩化ビニリデン樹脂(PVDC)を塗工したフィルム、酸化珪素、酸化アルミニウムなどの無機酸化物の蒸着薄膜層を設けたフィルムやまたこれらフィルムの1種乃至それ以上を組み合わせた積層フィルムを使用することが出来る。
【0044】
疎水性微粒子(5)としては、金属もしくは無機化合物の微粒子の表面上に撥水処理を施したものが好ましく使用出来る。たとえば、表面上にトリメチルシリル処理を施した酸化珪素、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウムなどが挙げられる。
疎水性微粒子としては、疎水性を有するものであれば特に限定されず、表面処理により疎水化されたものであっても良い。例えば、親水性酸化物微粒子をシランカップリング剤等で表面処理を施し、表面状態を疎水性とした微粒子を用いることもできる。
【0045】
この中でも、疎水性シリカ微粒子を好適に用いることができる。とりわけ、より優れた非付着性が得られるという点において、表面にトリメチルシリル基を有する疎水性シリカ微粒子が好ましい。
表面撥水コート層(7)を形成する撥水性コート剤に含まれる疎水性微粒子の重量は限
定的ではないが、通常0.01〜10g/mとするのが好ましい。この範囲内に設定することによって、より優れた非付着性が長期にわたって得ることができる。
熱シール層に付着する疎水性微粒子は、一次粒子平均径を5nmから1μmとすることにより、疎水性酸化物微粒子が適度な凝集状態となり、その凝集体中にある空隙にワックス等の撥水性物質を保持することができる結果、優れた非付着性を得ることができる。この凝集状態は、熱シール層をシールした後も非シール表面では維持されるので、内容物封入後も優れた非付着性を発揮することができる。
【0046】
表面撥水コート層(7)に含まれるワックス(6)としては、分子量100から10000のポリエチレンワックスが挙げられ、さらに好ましくは分子量500から2000で平均粒径1から5μmのポリエチレンワックスが良い。
【0047】
表面撥水コート層(7)を形成する撥水性コート剤の塗布方法は、ロールコート、グラビアコート、バーコート、ドクターブレードコート、キスリバースコート、ダイコート、ディップコート、スプレーコート、刷毛塗り等の公知の方法を採用することができる。
ロールコート法等を採用する場合は、撥水性コート剤を用いて熱シール層(3)上に塗膜を形成した後に乾燥する方法により表面撥水コート層(7)を形成することができる。
この場合の溶媒は特に限定されず、例えばアルコール(エタノール)、シクロヘキサン、トルエン、アセトン、IPA、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール、ブチルジグリコール、ペンタメチレングリコール、ノルマルペンタン、ノルマルヘキサン、ヘキシルアルコール等の有機溶剤を適宜選択することができる。
この際、分散剤、着色剤、沈降防止剤、粘度調整剤等を併用することもできる。
【0048】
乾燥方式は、自然乾燥又は強制乾燥(加熱乾燥)のいずれであっても良いが、工業的には強制乾燥することが好ましい。乾燥温度は、熱接着層に影響を与えない範囲であれば制限されないが、通常は150℃以下、特に80〜120℃とすることが多い。
また、本発明の熱シール性フィルムを用いた包装材料には、通常の包装材料と同様に必要に応じて、エンボス加工、ハーフカット加工、ノッチ加工等を施しても差し支えない。
【実施例】
【0049】
本発明の熱シール性フィルムのいくつかの実施例を図を参照しながら説明する。
【0050】
<実施例1>
グラビア印刷法により、厚み12μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)のコロナ放電処理された面に通常のグラビアインキを用いて印刷を行い、印刷面にポリウレタン系ドライラミネート接着剤(乾燥後重量3.5g/m)を用いて厚み15μmのアルミニウム箔を貼り合せて基材を作成した。
この基材のアルミニウム面にポリウレタン系ドライラミネート接着剤(乾燥後重量3.5g/m)を用いて30μmの直鎖低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)を積層して基材の片面に熱シール層を有する積層体を作成した。
イソプロピルアルコール(IPA)に10重量%を分散した二酸化珪素微粒子(日本アエロジル;R812S 一次粒子径7nm)とIPAに同じく10重量%を分散したポリエチレンワックス(平均分子量800)を等量混合した撥水コート剤をグラビアコート法により前記積層体の熱シール層上に塗布し、80℃30秒間乾燥して乾燥後塗布量が3g/mの撥水コート層被膜を形成して熱シール性フィルムを作成した。
これによって、「PET/印刷/接着層/アルミニウム箔/接着層/LLDPE/撥水コート層」なる構成の熱シール性フィルムを得た。
【0051】
<実施例2>
グラビア印刷法により、坪量80g/mの原紙の片面に印刷を行い、反対面に12μ
mのPETフィルムをポリウレタン系ドライラミネート接着剤(乾燥後重量3.5g/m)を用いて貼り合せ、さらにPET面にホットメルト接着剤(乾燥後重量30g/m)を塗布して基材の片面に熱シール層を有する積層体を作成し、実施例1と同様の撥水コート剤を用いて同様の方法で熱シール性フィルムを作成した。
これによって、「印刷/原紙/接着層/PET/ホットメルト/撥水コート層」なる構成の熱シール性フィルムを得た。
【0052】
<実施例3>
IPAに10重量%を分散した二酸化珪素微粒子(日本アエロジル;R812S 一次粒子径7nm)とIPAに同じく10重量%を分散したポリエチレンワックス(平均分子量2000)を4:6の重量比で混合した撥水コート剤を用いた他は実施例1と同様にして熱シール性フィルムを作成した。
これによって、「PET/印刷/接着層/アルミニウム箔/接着層/LLDPE/撥水コート層」なる構成の熱シール性フィルムを得た。
【0053】
<比較例1>
IPAに10重量%を分散したポリエチレンワックス(平均分子量800)に代えて、IPAに20重量%を分散したヒートシールニス剤を用いた他は実施例1と同様にして熱シール性フィルムを作成した。
これによって、「PET/印刷/接着層/アルミニウム箔/接着層/LLDPE/撥水コート層」なる構成の熱シール性フィルムを得た。
【0054】
<評価>
上記の熱シール性フィルムを用いてシール強度、接触角、転落角の測定を行った。測定条件は以下の通り。
シール強度:ポリスチレンシート(幅15mm)に熱シール性フィルムをヒートシールすることによって試料を作製した。ヒートシール条件は、温度210℃及び圧力2kg/cmにて1秒間とした。試料を角度180度の方向に300mm/分の速度で引っ張り、6点の平均値を求めた。その結果を表1に示す。
接触角:各熱シール性フィルムの撥水コート層側を試験面とし、接触角測定装置を用いて純水と牛乳の接触角を測定した。その結果を表1に示す。
転落角:各熱シール性フィルムの撥水コート層側を試験面とし、この面を上面として水平な平台にクリップで固定し、純水と牛乳を至近距離から垂らし、水平な平台を傾け、液滴が転げ落ちたときの角度を求めた。その結果を表1に示す。なお、比較例1の牛乳の転落角は90度でも液滴が滑落せず垂れ流れたため付着と表記した。
接触角は145°以上、転落角は40°以下であれば実用上十分であり、接触角160°以上、転落角20°以下であればより優れた撥水性(液滴が表面に付着せず、転がり落ち易くなる性質)であることを示している。
【表1】

【0055】
表1の結果からも明らかなように、比較例の熱シール性フィルムでは非付着性は全く発揮されていないのに対し、実施例1から3の本発明の熱シール性フィルムでは高い非付着性を発揮していることがわかる。また、シール強度の点においても実用上差し支えのない
良好な性能を示していることがわかる。また、接触角及び落下角の結果からも、本発明の熱シール性フィルムが高い非付着性を示しているといえる。
このように本発明の熱シール性フィルムは高い撥水性と撥乳性が付与され、さらに熱シール性が保持されている熱シール性フィルムとして、内容物の付着による取り出し後の残存量を低減して取り出し性の向上を可能にした、あるいは内容物付着による汚染を防止する包装容器に用いて効果的であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の包装材料は、蓋材、ピロー袋、ガセット袋、自立袋、三方シール袋、四方シール袋等の袋体詰替え容器、成形容器、包装シート、チューブ等の様々な用途に効果的に利用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1…熱シール性フィルム
1’…熱シール性フィルム
2…基材
3…熱シール層
4…積層体
5…疎水性微粒子
6…ワックス
7…表面撥水コート層
11…成型容器
12…内容物
13…熱シール層
14…フランジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基材の片面に熱シール層を有する積層体の熱シール層上に、粒径5nmから1μmの疎水性微粒子と、ワックスと、分散溶媒を混合した撥水性コート剤の塗布乾燥により形成される表面撥水コート層を設け、前記表面撥水コート層は、ワックス固形分表面に疎水性微粒子が島状あるいは前記ワックス固形分表面全体を覆うように付着していることを特徴とする熱シール性フィルム。
【請求項2】
前記シール性フィルムの表面撥水コート層が、疎水性微粒子の積み重なった構造体を形成しており、この構造体の空隙がワックス固形分により充填されていることを特徴とする請求項1に記載の熱シール性フィルム。
【請求項3】
前記表面撥水コート層のワックス固形分が、分子量100から10000のポリエチレンワックスからなることを特徴とする請求項1または2に記載の熱シール性フィルム。
【請求項4】
前記表面撥水コート層の疎水性微粒子が表面にトリメチルシリル処理された球状金属酸化物であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の熱シール性フィルム。
【請求項5】
熱シール時に、前記表面撥水コート層の疎水性微粒子が熱シール層中のシール成分ならびにワックス固形分中に埋没して空隙をなくすことによって、シール強度の低下を起こさないことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の熱シール性フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−228787(P2012−228787A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97009(P2011−97009)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】