説明

熱交換システム、およびプレート式熱交換器のメンテナンス方法

【課題】粘性物質および腐食性物質を含む還元性流体系統に対し、装置コストの削減および設置面積の縮小の実現のために、安定して運用すること。
【解決手段】表面に酸化被膜が形成された伝熱プレート4を互いに間隔をあけて積層することで、粘性物質および腐食性物質9を含む還元性流体が流通する第1流路6、並びに熱媒体が流通する第2流路7が形成されてなるプレート式熱交換器10を備え、第1流路6に接続された第1入口配管には、第1流路6への還元性流体の供給およびその停止を切替える第1切替え弁が設けられ、第2流路7に接続された第2入口配管には、第2流路7への熱媒体の供給およびその停止を切替える第2切替え弁が設けられ、第1流路6に洗浄液35aを流通させる洗浄液流通手段と、第2流路7に洗浄液35aよりも高温な蒸気37aを流通させる蒸気流通手段と、を備える熱交換システムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘性物質、腐食性物質を含むとともに溶存酸素を含まない、或いは溶存酸素濃度が極めて低い流体、即ち還元性流体の系統において適用する熱交換システム、およびプレート式熱交換器のメンテナンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
以下に、背景技術について説明する。
【0003】
プレート熱交換器として、例えば下記特許文献1に記載されるような構成が知られているが、一般的なプレート式熱交換器は、添付図5に示すような内部構造を有している。
図5に示すようなプレート式熱交換器100は、他形式(多管式熱交換器、スパイラル式熱交換器)の熱交換器と比較して、優れた伝熱性能を有する熱交換器であるが、プロセス流体101及び冷媒流体102が通過する伝熱プレート流路103の間隔が狭く表面形状も複雑なため、粘性物質を含むプロセス流体101(例えば、製鐵所のアンモニア水(以下、安水とする)やタールスラッジ等)への適用は、粘性物質の付着や、それに起因した部分閉塞による圧力損失増大、伝熱性能低下の危険性などがあるため困難であった。
【0004】
また、プレート式熱交換器100の伝熱プレート材質としては、腐食抑制のために表面に酸化被膜が形成されたステンレス、又はチタン材質が一般的に最も広く使用されているが、粘性物質を含むプロセス流体101中に、塩化物等の腐食性物質が含まれている場合、粘性物質中に取り込まれた腐食性物質が、伝熱プレート流路103の表面に付着して濃縮される。その結果、伝熱プレート流路103の表面に形成されていた酸化被膜が局所的に欠損し、孔食や応力腐食割れ発生の可能性が増大する。
なお、プレート式熱交換器100のプレートはステンレス、又はチタンの薄板をプレス加工にて成型するため加工時の残留応力が残存し、これらを熱処理等で除去することは困難であり費用もかかる。そのため、前述のような酸化被膜の欠損により、応力腐食割れが発生し易くなっている。
【0005】
しかも、プロセス流体101が溶存酸素を含まない、或いは溶存酸素濃度が極めて低い還元性流体(無酸素反応系統の溶液、例えば製鐵所の安水など)である場合には、プロセス流体101が伝熱プレート流路103を流通しても、プロセス流体101から酸化被膜の欠損部分に酸素が供給されない、または殆ど供給されないため、酸化被膜を修復することができず、孔食や応力腐食割れ発生を抑制することは難しい。
以上のような問題があり、現状では粘性物質、腐食性流体を含む還元性流体環境下でのプレート式熱交換器の適用実績は見られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−264698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上に述べたように、プレート式熱交換器は、粘性物質、腐食性物質を含む還元性流体への適用実績はなく、そのような環境下では、多管式熱交換器やスパイラル式熱交換器が適用されている。
しかしながら、多管式熱交換器は、伝熱性能がプレート式と比較して1/3〜1/4程度(総括伝熱係数比較)であるため、設置面積が3〜5倍程度必要となる。
また、スパイラル式熱交換器は、汚れや閉塞に最も強い構造であるが、伝熱性能がプレート式と比較して1/2程度(総括伝熱係数比較)であり、製作難易度が高く、装置コストが増大する。
【0008】
本発明は、粘性物質および腐食性物質を含む還元性流体系統に対し、装置コストの削減および設置面積の縮小の実現のために、安定して運用することができる熱交換システム、およびプレート式熱交換器のメンテナンス方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記目的を達成するために、粘性物質および腐食性物質を含む還元性流体系統に対し、安定して運用することができる熱交換システム、およびプレート式熱交換器のメンテナンス方法を提供するものであり、その要旨とするところは、以下の通りである。
【0010】
(1)本発明に係る熱交換システムは、表面に酸化被膜が形成された伝熱プレートを互いに間隔をあけて積層することで、粘性物質および腐食性物質を含む還元性流体が流通する第1流路、並びに熱媒体が流通する第2流路が形成されてなるプレート式熱交換器を備え、前記第1流路に接続された第1入口配管には、前記第1流路への還元性流体の供給およびその停止を切替える第1切替え弁が設けられ、前記第2流路に接続された第2入口配管には、前記第2流路への熱媒体の供給およびその停止を切替える第2切替え弁が設けられた熱交換システムであって、前記第1流路に洗浄液を流通させる洗浄液流通手段と、前記第2流路に前記洗浄液よりも高温な蒸気を流通させる蒸気流通手段と、を備えていることを特徴とする。
【0011】
この発明では、伝熱プレートの表面により構成された第1流路の内面に、粘性物質中に取り込まれた腐食性物質が付着した場合、まず、第1切替え弁により、第1流路への還元性流体の供給を停止させた後、洗浄液流通手段により、第1流路に洗浄液を流通させる。これにより、前記腐食性物質を押し流して除去することができる。
またこのとき、第2切替え弁により、第2流路への熱媒体の供給を停止させた後、蒸気流通手段により、第2流路に蒸気を流通させ、第1流路に洗浄液を流通させながら、第2流路に蒸気を流通させる。このように、第2流路に蒸気を流通させることで、伝熱プレートを第2流路側から加熱することが可能になり、第1流路の内面に付着した腐食性物質の粘度を低下させ付着力を弱めることができる。したがって、第1流路を流通する洗浄液により前記腐食性物質を効果的に押し流して確実に除去することができる。
【0012】
(2)また、前記第1流路に酸素含有ガスを流通させる酸素含有ガス流通手段を備えていることを特徴とする。
【0013】
この発明では、前述のように第1流路に洗浄液を流通させ、第1流路の内面に付着した腐食性物質を除去した後、酸素含有ガス流通手段により、第1流路に酸素含有ガスを流通させることで、第1流路の内面を構成する酸化被膜に欠損が生じていたとしても、その欠損を修復することができる。
【0014】
(3)また、本発明に係るプレート式熱交換器のメンテナンス方法は、表面に酸化被膜が形成された伝熱プレートを互いに間隔をあけて積層することで、粘性物質および腐食性物質を含む還元性流体が流通する第1流路、並びに熱媒体が流通する第2流路が形成されてなるプレート式熱交換器のメンテナンス方法であって、前記第1流路への還元性流体の供給を停止する第1停止工程と、前記第2流路への熱媒体の供給を停止する第2停止工程と、前記第1停止工程の後、前記第1流路に洗浄液を流通させる洗浄液流通工程と、前記第2停止工程の後、前記第2流路に前記洗浄液よりも高温な蒸気を流通させる蒸気流通工程と、を有し、前記洗浄液流通工程と前記蒸気流通工程とを並行して行うことを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、洗浄液流通工程の際、第1流路に洗浄液を流通させることで、粘性物質中に取り込まれ、第1流路の内面に付着した腐食性物質を押し流して除去することができる。
また、洗浄液流通工程と蒸気流通工程とを並行して行い、第1流路に洗浄液を流通させながら、第2流路に蒸気を流通させる。このように、第2流路に蒸気を流通させることで、伝熱プレートを第2流路側から加熱することが可能になり、第1流路の内面に付着した腐食性物質の粘度を低下させ付着力を弱めることができる。したがって、第1流路を流通する洗浄液により前記腐食性物質を効果的に押し流して確実に除去することができる。
【0016】
(4)また、前記洗浄液流通工程の後、前記第1流路に酸素含有ガスを流通させる酸素含有ガス流通工程を有していることを特徴とする。
【0017】
この発明では、洗浄液流通工程の後、前記酸素含有ガス流通工程を行い、第1流路に酸素含有ガスを流通させることで、第1流路の内面を構成する酸化被膜に欠損が生じていたとしても、その欠損を修復することができる。
【発明の効果】
【0018】
本願の請求項1に係る熱交換システムによれば、第1流路の内面に付着した腐食性物質を確実に除去することができるので、腐食性物質による伝熱プレートへの影響を弱めることが可能になり、孔食や応力腐食割れなどの発生を抑え、プレート式熱交換器を安定して運用することができる。
また、第1流路内の腐食性物質を除去する際に、加熱に好適な気体状態の蒸気を第2流路に流通させて伝熱プレートを加熱しながら、洗浄に好適な液体状態の洗浄液を第1流路に流通させて腐食性物質を押し流しているので、腐食性物質の除去を効果的に行うことができる。
以上より、粘性物質および腐食性物質を含む還元性流体系統に対し、プレート式熱交換器を適用することができるので、装置コストの削減および設置面積の縮小を図ることができる。
また、流路内面の表面付着物は熱交換器の圧力損失増大や伝熱性能低下の原因でもあるため、熱交換器のパフォーマンスが低下するのを防止する効果も同時に有する。
【0019】
本願の請求項2に係る熱交換システムによれば、第1流路の内面を構成する酸化被膜に欠損が生じていたとしても、その欠損を修復することができるので、プレート式熱交換器の運用をより安定させるとともに、長寿命化を助長する効果を有する。
【0020】
本願の請求項3に係るプレート式熱交換器のメンテナンス方法によれば、第1流路の内面に付着した腐食性物質を確実に除去することができるので、腐食性物質による伝熱プレートへの影響を弱めることが可能になり、孔食や応力腐食割れなどの発生を抑え、プレート式熱交換器を安定して運用することができる。
また、第1流路内の腐食性物質を除去する際に、加熱に好適な気体状態の蒸気を第2流路に流通させて伝熱プレートを加熱しながら、洗浄に好適な液体状態の洗浄液を第1流路に流通させて腐食性物質を押し流しているので、腐食性物質の除去を効果的に行うことができる。
以上より、粘性物質および腐食性物質を含む還元性流体系統に対し、プレート式熱交換器を適用することができるので、装置コストの削減および設置面積の縮小を図ることもできる。
また、流路内面の表面付着物は熱交換器の圧力損失増大や伝熱性能低下の原因でもあるため、熱交換器のパフォーマンスが低下するのを防止する効果も同時に有する。
【0021】
本願の請求項4に係るプレート式熱交換器のメンテナンス方法によれば、第1流路の内面を構成する酸化被膜に欠損が生じていたとしても、その欠損を修復することができるので、プレート式熱交換器の運用をより安定させるとともに、長寿命化を助長する効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る熱交換システムの概略フロー図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るプレート式熱交換器のメンテナンス方法を説明する一工程図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るプレート式熱交換器のメンテナンス方法を説明する一工程図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るプレート式熱交換器のメンテナンス方法を説明する一工程図である。
【図5】一般的なプレート式熱交換器の内部構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、添付図面の図1から図4を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0024】
図1および図2に示すように、熱交換システム1は、粘性物質および腐食性物質9を含む還元性流体3と、冷媒(熱媒体)2と、を熱交換させるプレート式熱交換器10を備えている。このプレート式熱交換器10は、表面に酸化被膜5が形成された伝熱プレート4を互いに間隔をあけて積層することで、還元性流体3が流通する第1流路6、並びに冷媒2が流通する第2流路7が形成されてなる。また図1に示すように、プレート式熱交換器10の第1流路6に接続された第1入口配管12および第1出口配管13、並びに第2流路7に接続された第2入口配管14および第2出口配管15には、遠隔操作弁12a、13a、14a、15aが各別に設けられている。
【0025】
また本実施形態では、熱交換システム1には、第1流路6に熱水(洗浄液)35aを流通させる熱水流通手段(洗浄液流通手段)35と、第1流路6に空気(酸素含有ガス)36aを流通させる空気流通手段(酸素含有ガス流通手段)36と、第2流路7に熱水35aよりも高温な蒸気37aを流通させる蒸気流通手段37と、蒸気流通手段37により第2流路7に流通させられる蒸気37aの流量を、第1流路6を流通した熱水35aの温度に基づいて調整する流量調整部38と、が備えられている。
【0026】
熱水流通手段35は、第1流路6の第1出口配管13に接続されるとともに遠隔操作弁16aが設けられた熱水入口配管16と、第1流路6の第1入口配管12に接続されるとともに遠隔操作弁17aが設けられた熱水出口配管17と、熱水入口配管16に熱水35aを送出する図示しない熱水ポンプと、を備えている。
【0027】
空気流通手段36は、第1流路6の第1出口配管13に接続されるとともに遠隔操作弁18aが設けられた空気入口配管18と、第1流路6の第1入口配管12に接続されるとともに遠隔操作弁19aが設けられた空気出口配管19と、空気入口配管18に空気36aを送出する図示しない空気ポンプと、を備えている。
【0028】
蒸気流通手段37は、第2流路7の第2出口配管15に接続されるとともに遠隔操作弁20aが設けられた蒸気入口配管20と、第2流路7の第2入口配管14に接続されるとともに遠隔操作弁21aが設けられた蒸気出口配管21と、蒸気入口配管20に蒸気37aを送出する図示しない蒸気ポンプと、を備えている。
【0029】
流量調整部38には、第1流路6の第1入口配管12に設けられ第1入口配管12を流通する熱水35aの温度を測定する温度計39による測定結果が送出される。そして流量調整部38は、この測定結果と、予め設定された熱水35aの温度設定値と、の差分に基づいて蒸気流通手段37の前記遠隔操作弁20aを操作し、第2流路7に流通させる蒸気37aの流量を調整することで、温度計39により測定される熱水35aの温度を、前記温度設定値を目標に制御する。
【0030】
次に、この熱交換システム1の運転方法について説明する。
設備の通常運転中は、熱水流通手段35、空気流通手段36および蒸気流通手段37における各遠隔操作弁16a〜21aを”閉”とするとともに、第1流路6および第2流路7の入口配管12、14、出口配管13、15の各遠隔操作弁12a〜15aを”開”とする。
【0031】
熱交換器10内部が正常な状態では、伝熱プレート4の表面には酸化被膜5が形成されており、耐食性が具備されている。しかしながら、図2に示すように、長期使用する中で、第1流路6を通過する還元性流体3に含まれる粘性物質中に濃縮された腐食性物質9等により、局所的に酸化被膜5が剥離した箇所(欠損部分)8が発生する。
ここで、第1流路6内は還元性流体3が流通しているため、酸素が伝熱プレート4の表面に殆ど供給されず、還元性流体3中に含まれる塩化物等の腐食性物質9により、酸化被膜5が剥離した箇所8で選択的に腐食が進行するおそれがある。
【0032】
このような場合、下記に示すプレート式熱交換器10のメンテナンスを実施する。
はじめに、第1流路6の洗浄を行う。洗浄に際し、まず、第1流路6への還元性流体3の供給を停止する第1停止工程を行う。この工程では、図1に示されている第1流路6の第1入口配管12側の遠隔操作弁(第1切替え弁)12a、および第1出口配管13側の遠隔操作弁13aをこの順に”閉”にし、第1流路6内から還元性流体3を抜き出す。
また、第2流路7への冷媒2の供給を停止する第2停止工程を行う。この工程では、第2流路7の第2入口配管14側の遠隔操作弁(第2切替え弁)14a、および第2出口配管15側の遠隔操作弁15aをこの順に”閉”にし、第2流路7内から冷媒2を抜き出す。
【0033】
そして、これらの第1停止工程および第2停止工程が終了した後、第1流路6に熱水35aを流通させる熱水流通工程を行う。この工程では、熱水流通手段35の熱水出口配管17側の遠隔操作弁17a、および熱水入口配管16側の遠隔操作弁16aをこの順に”開”にする。すると、前記熱水ポンプにより送出された熱水35aが、熱水入口配管16から第1出口配管13、第1流路6、第1入口配管12および熱水出口配管17を、この順に流通する。これにより、前記腐食性物質9を押し流して除去することができる。
【0034】
また、第2流路7に蒸気37aを流通させる蒸気流通工程を行う。この工程では、蒸気流通手段37の蒸気出口配管21側の遠隔操作弁21a、および蒸気入口配管20側の遠隔操作弁20aをこの順に”開”にする。すると、前記蒸気ポンプにより送出された蒸気37aが、蒸気入口配管20から第2出口配管15、第2流路7、第2入口配管14および蒸気出口配管21を、この順に流通する。
【0035】
そして本実施形態では、図3に示すように、これらの熱水流通工程と蒸気流通工程とを並行して行う。
このように、第2流路7に蒸気37aを流通させることで、伝熱プレート4を第2流路7側から加熱することが可能になり、第1流路6の内面に付着した腐食性物質9の粘度を低下させ付着力を弱めることができる。したがって、第1流路6を流通する熱水35aにより前記腐食性物質9を効果的に押し流して確実に除去することができる。これにより、伝熱プレート4の表面(第1流路6の内面)を清浄な状態に保持することが可能となる。
【0036】
なおこのとき、本実施形態では、図1に示されている前記流量調整部38により前記遠隔操作弁20aを操作することで、前記温度計39により測定される熱水35aの温度を、前記温度設定値の一例である約85℃〜95℃を目標に制御する。
またこのとき、図3に示すように、伝熱プレート4を介して互いに隣り合う第1流路6および第2流路7に、熱水35aおよび蒸気37aを互いに逆方向に向けて流通させても良く、同一方向に向けて流通させても良い。また、第1流路6に熱水35aを、還元性流体3の流通方向と逆方向に向けて流通させても良く、同一方向に向けて流通させても良い。
【0037】
以上のようにして洗浄が終了した後、図1に示されている熱水流通手段35の熱水入口配管16側の遠隔操作弁16a、および熱水出口配管17側の遠隔操作弁17aをこの順に”閉”にして、第1流路6への熱水35aの供給を停止し、第1流路6内から熱水35aを抜き出す。
また、蒸気流通手段37の蒸気入口配管20側の遠隔操作弁20a、および蒸気出口配管21側の遠隔操作弁21aをこの順に”閉”にして、第2流路7への蒸気37aの供給を停止する。
【0038】
その後、第1流路6に空気36aを流通させる空気流通工程(酸素含有ガス流通工程)を行う。この工程では、空気流通手段36の空気出口配管19側の遠隔操作弁19a、および空気入口配管18側の遠隔操作弁18aをこの順に”開”にする。すると、前記空気ポンプにより送出された空気36aが、空気入口配管18から第1出口配管13、第1流路6、第1入口配管12および空気出口配管19を、この順に流通する。これにより、図4に示すように、局所的に発生した酸化被膜5が剥離した箇所8に、空気36aから酸素が供給されて酸化被膜5が修復される。
なおこのとき、前記蒸気流通手段37による蒸気37aの供給を停止せずに、第1流路6に空気36aを流通させながら、第2流路7に蒸気37aを流通させても良い。
【0039】
ここで、前記遠隔操作弁12a〜21aの開閉操作については、一定周期にて自動システム化を行い、設備の運転操作に組み込むことが可能である。そして、適用する還元性流体3の性状に応じて、適正な洗浄周期及び空気供給周期を把握することで、適正サイクルでの自動化も可能となる。
【0040】
以上説明したように、本実施形態に係る熱交換システム1、およびプレート式熱交換器のメンテナンス方法によれば、第1流路6の内面に付着した腐食性物質9を確実に除去することができるので、腐食性物質9による伝熱プレート4への影響を弱めることが可能になり、孔食や応力腐食割れなどの発生を抑え、プレート式熱交換器10を安定して運用することができる。
また、第1流路6内の腐食性物質9を除去する際に、加熱に好適な気体状態の蒸気37aを第2流路7に流通させて伝熱プレート4を加熱しながら、洗浄に好適な液体状態の熱水35aを第1流路6に流通させて腐食性物質9を押し流しているので、腐食性物質9の除去を効果的に行うことができる。
以上より、粘性物質および腐食性物質9を含む還元性流体3系統に対し、プレート式熱交換器10を適用することができるので、装置コストの削減および設置面積の縮小を図ることもできる。
また、流路内面の表面付着物は熱交換器10の圧力損失増大や伝熱性能低下の原因でもあるため、熱交換器10のパフォーマンスが低下するのを防止する効果も同時に有する。
【0041】
また、第1流路6の内面を構成する酸化被膜5に欠損が生じていたとしても、その欠損を修復することができるので、プレート式熱交換器10の運用をより安定させるとともに、長寿命化を助長する効果を有する。
【0042】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、前記実施形態では、洗浄液として熱水35aを用いたがこれに限られず、液体であればこれに限られず、例えば熱安水などを用いても良い。
さらに前記実施形態では、酸素含有ガスとして空気36aを用いたがこれに限られず、酸素を含有するものであれば良い。
【0043】
また、前記実施形態における熱水供給工程の際に、第1流路6に熱水35aを流通させながら、第1流路6に酸素含有ガスとしての空気36aを流通させても良い。この場合、空気36aが熱水35a内で気泡状となるように、第1流路6に熱水35aおよび空気36aを供給しても良い。
【0044】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 熱交換システム
2 冷媒(熱媒体)
3 還元性流体
4 伝熱プレート
5 酸化被膜
6 第1流路
7 第2流路
8 箇所(欠損部分)
9 腐食性物質
10 プレート式熱交換器
12 第1入口配管
12a 遠隔操作弁(第1切替え弁)
13 第1出口配管
13a 遠隔操作弁
14 第2入口配管
14a 遠隔操作弁(第2切替え弁)
15 第2出口配管
15a 遠隔操作弁
16 熱水入口配管
16a 遠隔操作弁
17 熱水出口配管
17a 遠隔操作弁
18 空気入口配管
18a 遠隔操作弁
19 空気出口配管
19a 遠隔操作弁
20 蒸気入口配管
20a 遠隔操作弁
21 蒸気出口配管
21a 遠隔操作弁
35 熱水流通手段
35a 熱水(洗浄液)
36 空気流通手段
36a 空気
37 蒸気流通手段
37a 蒸気
38 流量調整部
39 温度計
100 プレート式熱交換器
101 プロセス流体
102 冷媒流体
103 伝熱プレート流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に酸化被膜が形成された伝熱プレートを互いに間隔をあけて積層することで、粘性物質および腐食性物質を含む還元性流体が流通する第1流路、並びに熱媒体が流通する第2流路が形成されてなるプレート式熱交換器を備え、
前記第1流路に接続された第1入口配管には、前記第1流路への還元性流体の供給およびその停止を切替える第1切替え弁が設けられ、
前記第2流路に接続された第2入口配管には、前記第2流路への熱媒体の供給およびその停止を切替える第2切替え弁が設けられた熱交換システムであって、
前記第1流路に洗浄液を流通させる洗浄液流通手段と、
前記第2流路に前記洗浄液よりも高温な蒸気を流通させる蒸気流通手段と、を備えていることを特徴とする熱交換システム。
【請求項2】
請求項1記載の熱交換システムであって、
前記第1流路に酸素含有ガスを流通させる酸素含有ガス流通手段を備えていることを特徴とする熱交換システム。
【請求項3】
表面に酸化被膜が形成された伝熱プレートを互いに間隔をあけて積層することで、粘性物質および腐食性物質を含む還元性流体が流通する第1流路、並びに熱媒体が流通する第2流路が形成されてなるプレート式熱交換器のメンテナンス方法であって、
前記第1流路への還元性流体の供給を停止する第1停止工程と、
前記第2流路への熱媒体の供給を停止する第2停止工程と、
前記第1停止工程の後、前記第1流路に洗浄液を流通させる洗浄液流通工程と、
前記第2停止工程の後、前記第2流路に前記洗浄液よりも高温な蒸気を流通させる蒸気流通工程と、を有し、
前記洗浄液流通工程と前記蒸気流通工程とを並行して行うことを特徴とするプレート式熱交換器のメンテナンス方法。
【請求項4】
請求項3記載のプレート式熱交換器のメンテナンス方法であって、
前記洗浄液流通工程の後、前記第1流路に酸素含有ガスを流通させる酸素含有ガス流通工程を有していることを特徴とするプレート式熱交換器のメンテナンス方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−189293(P2012−189293A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55204(P2011−55204)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)