説明

熱交換器、冷凍サイクル装置及びそれらに用いる親水性塗料

【課題】表面親水性熱交換器用フィンを蒸発器に使用した熱交換器を有する冷凍サイクル装置のフィン表面に付着する埃・ゴミを少なくする。
【解決手段】フィン表面に親水性塗膜が設けられた熱交換器用フィンを蒸発器に使用した熱交換器において、前記親水性塗膜中に官能基スイッチング剤を含有させた熱交換器とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器用フィン表面に親水性塗膜が設けられた熱交換器であって、前記親水性塗膜中に官能基スイッチング剤を含有させた熱交換器、該熱交換器を蒸発器に使用した冷凍サイクル装置及び前記親水性塗膜の形成に使用される親水性塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
室内用熱交換器に使用される室内用熱交換器用フィンには、フィン基材の腐食を防止するための下地処理が施された後、冷房時に発生する凝縮水が水滴状となり、熱交換器の性能を低下させることを防止するための表面親水化処理が施されている。前記凝縮水が水滴状になると、水滴の飛散等の不具合の原因となり、更に該水滴がブリッジを形成すると、空気の通風路を狭めるため通風抵抗が大きくなって電力の損失、騒音の発生等の問題が生ずる。
【0003】
前記フィン基材としては、軽量性、加工性、熱伝導性に優れたアルミニウムまたはアルミニウム合金製の基材が一般に使用されている。又、前記フィン基材の腐食を防止するための下地処理として、一般にクロメートによる化成処理等が行われている。
【0004】
一方、前記表面親水化処理としては、例えば
(i)有機樹脂にシリカ、水ガラス、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、チタニア等を混合した塗料又はこれらの塗料に更に界面活性剤を含有させた塗料を塗布する方法
(ii)ポリビニルアルコールと特定の水溶性ポリマーとを組合せて用いる方法
(iii)特定の親水性モノマーからなる親水性重合体部分と疎水性重合体部分とからなるブロック共重合体と、金属キレート型架橋剤とを組合せて用いる方法
(iv)ポリアクリルアミド系樹脂を用いる方法
(v)ポリアクリル酸ポリマー等の高分子と、この高分子と水素結合によるポリマーコンプレックスを形成し得るポリエチレンオキサイドやポリビニルピロリドン等の高分子とを組合せて用いる方法
等の有機材料を主成分として使用する方法や、
(vi)水ガラスを塗布する方法
等の無機材料を主成分として使用する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−275650号公報(例えば段落[0002]〜[0007]参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記熱交換器用フィンの表面に親水性塗膜を設けたフィンは、冷房時に発生する凝縮水が水滴状となり、さらに該水滴がブリッジを形成することによる不具合を改善することはできるが、親水性塗膜を設けているため、運転停止中も表面が親水性を示し、これに親和性を有する埃・ゴミが付き易く、この埃・ゴミは親水性表面と親和性を有するため、その後の冷房運転の再開により発生する凝縮水によっても取れ難いという問題がある。しかし、このような問題を解決するための有効な方法がないというのが実情である。
【0006】
本発明は、前記親水性塗膜を設けた熱交換器用フィンを用いた冷凍サイクル装置の問題、すなわち、親水性塗膜を設けているため、運転停止中も表面が親水性を示し、これに親和性を有する埃・ゴミが付き易く、取れ難いという問題を解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、前記運転停止中も表面が親水性になるため、親水性塗膜に親和性を有する埃・ゴミが付き易く取れ難いという問題は、運転中は表面が親水性になり、運転停止中は撥水性に変わる塗膜を開発することができれば、親水性塗膜を設ける目的を達成しながら、前記問題を解決することができるのではないかとの考えに到達した。また、本発明者らは、前記のごとき運転時と運転停止中で相異なる特性を示す親水性塗膜にすることができる方法について種々検討を重ねた結果、前記親水性塗膜に官能基スイッチング剤を含有させることにより目的を達成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、フィン表面に親水性塗膜が設けられた熱交換器用フィンを蒸発器に使用した熱交換器において、前記親水性塗膜中に官能基スイッチング剤が含有されている熱交換器である。
【0009】
本発明において、熱交換器を蒸発器として運転している場合(冷房運転をしている場合)には、発生する凝縮水により親水性塗膜が湿潤状態となり、含有される官能基スイッチング剤の表面も親水性となり、親水性塗膜の特性を損なうことがない。一方、熱交換器の蒸発器としての運転を止めた場合には、凝縮水の供給が止まるため、湿潤状態にあった親水性塗膜が乾燥する。親水性塗膜が乾燥すると、該塗膜中に含まれる官能基スイッチング剤の表面が撥水性を呈し、塗膜表面も撥水性を呈する。この結果、運転停止中に塗膜表面に付く埃・ゴミは、撥水性塗膜表面と親和性を有する埃・ゴミが付着することとなる。冷房運転再開により凝縮水が生成し、官能基スイッチング剤の表面は親水性を呈するようになり、塗膜表面が親水性になる。この結果、塗膜表面に付着していた撥水性塗膜表面に親和性を有する埃・ゴミは、凝縮水で洗い流され易くなり、親水性塗膜表面の埃・ゴミの付着量は少なくなると考えられる。
【0010】
前記官能基スイッチング剤というのは、親水性の官能基と撥水性の官能基とを併有し、周囲の環境が湿潤状態にある場合には、周囲の環境に適合するように親水性の官能基が表面に出て周囲の環境との適合性がよくなるように親水性を呈し、周囲の環境が湿潤状態でない場合(乾燥状態で撥水性を示す場合)には、周囲の環境に適合するように撥水性の官能基が表面に出て周囲の環境との適合性がよくなるように撥水性を呈する材料のこと、例えば水の存在の有無で親水性及び撥水性に表面性能が変化し得る材料のことである。好ましい具体例としては、シリコーンポリマー系材料等が挙げられる。
【0011】
前記官能基スイッチング剤として、水の存在の有無で親水性及び撥水性に表面性能を変化し得る材料、好ましくはシリコーンポリマー系材料を使用する場合には、フィン表面に親水性塗膜が設けられた熱交換器用フィンを蒸発器に使用した本発明の熱交換器の運転・停止を繰り返したときに得られる前記効果をより顕著に発現させることができる。
【0012】
また、本発明では、前記親水性塗膜を、ポリアクリル酸系塗膜、ポリビニルアルコール系塗膜、エポキシ系塗膜、アクリルセルロース系塗膜、アクリルアミド系塗膜、前記塗膜を形成する樹脂のうちのいずれか2種以上の樹脂を含む塗膜にすることができる。
【0013】
前記塗膜を使用する場合、熱交換器用フィンの表面に設けられる親水性塗膜が、水の存在の有無で親水性性能表面又は撥水性性能表面へとの変化が起こり易くなり、それを用いた熱交換器のフィン表面も、冷房運転時等のフィン表面が湿った状態のときには親水性を示し、停止中のフィン表面が乾いた状態のときには撥水性を示すようになる。
【0014】
前記説明は、熱交換器についての説明であるが、該熱交換器を使用した冷凍サイクル装置についても、同様に作用する。
また、前記熱交換器用フィンの表面に形成される塗膜を形成することができる親水性塗料を、熱交換器用フィンの表面の塗装に使用した場合、本発明の熱交換器に使用されるフィンが得られ、本発明の熱交換器の場合と同様に作用する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の熱交換器のフィン上の親水性塗膜に官能基スイッチング剤を含有させることにより、熱交換器運転中は、凝縮水が生成し、フィン表面が湿潤状態になるため、官能基スイッチング剤が親水性を呈し、塗膜の親水化が図られる。一方、熱交換器停止中は、凝縮水が供給されないため塗膜が乾燥する。この際、塗膜が乾燥するにしたがって官能基スイッチング剤が撥水性を呈するようになるため、塗膜表面も撥水性になる。この結果、熱交換器停止中にフィン表面に付く埃・ゴミは撥水性表面に親和性を有するものとなり、冷房運転の再開により生成する凝縮水により、表面が親水性になるとともに、官能基スイッチング剤の表面も親水性となり、付着している撥水性表面に親和性を有する埃・ゴミが洗い流され易くなる。官能基スイッチング剤の種類、親水性塗膜の種類を規定することにより、本発明の効果を向上させることができる。また、該熱交換器を使用した冷凍サイクル装置においても同様の効果が得られる。更に、親水性塗料を用いて熱交換器用フィンを製造し、次いで熱交換器を製造することにより本発明の熱交換器が得られ、該熱交換器を使用することにより、該熱交換器を使用した場合の効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
本発明の熱交換器は、フィン表面に親水性塗膜が設けられた熱交換器用フィンを蒸発器に使用した熱交換器であり、前記親水性塗膜中に官能基スイッチング剤が含有されている。
【0017】
前記表面に親水性塗膜が設けられた熱交換器用フィンは、例えばアルミニウムまたはアルミニウム合金製のフィン基材表面に、耐食性向上のための処理、例えばクロメート処理、耐食性皮膜の形成又はクロメート処理及び耐食性皮膜の形成等を施したものであり、該フィンの表面に親水性塗膜を設けたものが、表面に親水性塗膜を設けたフィンである。
【0018】
前記親水性塗膜は、該親水性塗膜中に官能基スイッチング剤が含有されている以外、従来から熱交換器用フィンに設けられている親水性塗膜と同じものである。
前記親水性塗膜の代表例としては、例えば
(1)親水性有機樹脂を主成分とし、必要に応じて架橋剤を組合せてなる有機樹脂系塗膜、
(2)親水性有機樹脂とコロイダルシリカを主成分とし、必要に応じて架橋剤を組合せてなる有機樹脂・コロイダルシリカ系塗膜、
(3)主成分のアルカリ珪酸塩とアニオン系又はノニオン系親水性有機樹脂との混合物である水ガラス系塗膜
等を挙げることができる。なかでも、有機樹脂系塗膜(1)、有機樹脂・コロイダルシリカ系塗膜(2)が成形加工性及び耐臭気性の点から好ましく、有機樹脂系塗膜(1)がさらに好ましい。
【0019】
前記有機樹脂系塗膜(1)の形成に使用する親水性有機樹脂としては、分子内に水酸基、カルボキシル基又はアミノ基等の官能基を含有し、そのままで、又は前記官能基を酸又は塩基で中和することにより、水溶化ないしは水分散化可能となる樹脂を挙げることができる。
【0020】
前記親水性有機樹脂の具体例としては、例えばポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール(例えばアクリルアミド、不飽和カルボン酸、スルホン酸基含有モノマー、カチオン性モノマー、不飽和シランモノマー等との共重合物)等のポリビニルアルコール系樹脂、ポリアクリル酸、カルボキシル基含有アクリル樹脂、エチレンとアクリル酸との共重合体アイオノマー等のアクリル酸系樹脂、エポキシ樹脂とアミンとの付加物等のエポキシ系樹脂、アクリルアミド系樹脂、ポリエチレングリコール、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂等の合成親水性樹脂;デンプン、セルロース、アルギン等の天然多糖類;酸化デンプン、デキストリン、アルギン酸プロピレングリコール、カルボキシメチルデンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルデンプン、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アクリルセルロース系樹脂等の天然多糖類の誘導体等を挙げることができる。これらの内では、例えばアクリル酸系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリルセルロース系樹脂、アクリルアミド系樹脂又は前記樹脂のうちの2種以上を含む樹脂であるのが親水性と耐水性の両立及びコスト等の点から好ましく、ポリアクリル酸系樹脂とポリビニルアルコール系樹脂とを混合したものが、更に好ましい。
【0021】
前記有機樹脂系塗膜(1)において必要に応じて使用される架橋剤としては、例えばメラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、ポリエポキシ化合物、ブロック化ポリイソシアネート化合物、金属キレート化合物等を挙げることができる。該架橋剤は一般に水溶性又は水分散性を有していることが、均一な塗膜が形成され易い点から好ましい。
【0022】
前記架橋剤の具体例としては、例えばメチルエーテル化メラミン樹脂、ブチルエーテル化メラミン樹脂、メチルブチル混合エーテル化メラミン樹脂、メチルエーテル化尿素樹脂、メチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂、ポリフェノール類又は脂肪族多価アルコールのジ−又はポリグリシジルエーテル、アミン変性エポキシ樹脂、ヘキサメチレンジイソシアネートのトリイソシアヌレート体のブロック化物;チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、アルミニウム(Al)等の金属元素の金属キレート化合物等を挙げることができる。該金属キレート化合物は、一分子中に2個以上の金属アルコキシド結合を有するものが好ましい。
【0023】
前記有機樹脂・コロイダルシリカ系塗膜(2)の形成に用いる親水性有機樹脂としては、前記有機樹脂系塗膜(1)の形成に使用する親水性有機樹脂と同様のものを使用することができる。
【0024】
また、前記有機樹脂・コロイダルシリカ系塗膜(2)の形成に使用されるコロイダルシリカは、いわゆるシリカゾル又は微粉状シリカであって、通常、粒子径が5nm〜10μm程度、好ましくは5nm〜1μmで、通常、水分散液として供給されているものをそのまま使用するか、又は微粉状シリカを水に分散させて使用することができる。有機樹脂・コロイダルシリカ系塗膜(2)を形成する際に、有機樹脂及びコロイダルシリカは単に混合したものであってもよいし、有機樹脂及びコロイダルシリカをアルコキシシランの存在下で反応させ複合化させたものであってもよい。
【0025】
前記水ガラス系塗膜(3)の形成に使用するアニオン系又はノニオン系親水性有機樹脂としては、前記有機樹脂系塗膜(1)の形成に使用される親水性有機樹脂のうち、アニオン系又はノニオン系有機樹脂を使用することができる。
【0026】
本発明において、前記親水性塗膜中に含有される官能基スイッチング剤は、塗膜表面が水等で覆われた場合、親水性であるシロキサン結合や水酸基等を持った部分が表面に配向され、メチル基等の疎水性基が反転して内部に存在することになり、逆に塗膜表面の水等がなくなればメチル基等の疎水性基が表面に配向される性質で特徴付けられるものである。
【0027】
前記官能基スイッチング剤の例としては、例えばシリコーンポリマー系材料であるジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、メチルハイドロジェンシリコーン等が挙げられる。
【0028】
前記官能基スイッチング剤は、液状タイプであってもよく、微粉末状タイプ等の固形タイプであってもよいが、液状タイプであるのが、前記親水性塗膜の形成に使用する材料との混合が容易であり、また、塗膜形成後も乾燥状態及び湿潤状態での官能基スイッチング性が起こりやすい点から好ましい。
【0029】
また、前記官能基スイッチング剤は、乳化・分散物として使用することもでき、親水性塗膜を形成する樹脂と混合した後使用することもできる。
前記親水性塗膜に含有される官能基スイッチング剤の量は、官能基スイッチング剤を含む親水性塗膜に対して固形分換算で0.05重量%以上、さらには0.35重量%以上であるのが、塗膜表面に均一に分散及び配向し、性能を出し得る点から好ましく、また、10重量%以下、さらには4重量%以下であるのが、塗膜が形成され易い、塗膜性能をより長期間持続することができる点から好ましい。例えば官能基スイッチング剤としてジメチルシリコーン系化合物を使用する場合、親水性塗膜に対して0.06重量%以上、さらには0.13重量%以上であるのが好ましく、10重量%以下、さらには1.5重量%以下であるのが好ましい。
【0030】
前記塗料の形成に使用される塗料が本発明の親水性塗料であり、各成分の使用割合は、塗膜の場合と同様である。違いは、形態が既に塗膜に形成されているか、塗膜が形成される前の塗料の状態であるかの違いである。
【0031】
次に、本発明に使用される熱交換器用フィン、例えば熱交換器用アルミフィン及びその製造方法について説明する。なお、本発明の熱交換器は、該熱交換器用フィンを有する熱交換器であり、本発明の冷凍サイクル装置は、該熱交換器を有する冷凍サイクル措置である。
【0032】
本発明に使用する熱交換器用フィンの代表例である熱交換器用アルミフィンは、アルミニウム又はアルミニウム合金製のフィン基材表面に耐食性向上のための皮膜を形成した上に、前記親水性塗膜を設けたものである。
【0033】
前記アルミフィン基材としては、従来、熱交換器用アルミフィン基材として使用可能なそれ自体既知のものを使用することができる。
前記アルミフィン基材上に前記耐食性向上のための皮膜を設けることによって、耐食性向上皮膜を有するアルミフィン基材を得ることができる。前記皮膜は、アルミフィン基材(熱交換器に組み立てられたものであってもよい)上に、それ自体既知の処理方法、例えば浸漬塗装、シャワー塗装、スプレー塗装、ロール塗装、電着塗装等の塗装方法等によって行うことができる。前記皮膜が塗装による場合の乾燥条件は、通常、基材到達最高温度が約60〜250℃となる条件で約2秒から約30分間乾燥させることにより行われる。
【0034】
また、乾燥膜厚としては、通常、0.001〜10μm、特に0.1〜3μmの範囲が好ましい。0.001μm未満になると、耐食性、耐水性等の性能が劣る傾向が生じ、一方、10μmを超えると、形成した皮膜が割れたり親水性が劣る傾向が生じる。
【0035】
前記皮膜を設けたアルミフィン基材(熱交換器に組み立てられたものであってもよい)上に前記官能基スイッチング剤を含有する親水性塗料を、それ自体既知の塗装方法、例えば、浸漬塗装、シャワー塗装、スプレー塗装、ロール塗装、電着塗装等の方法により塗装して乾燥させることによって、表面に親水性塗膜が形成された熱交換器用アルミフィンを製造することができる。前記親水性塗膜の膜厚には特に限定はないが、通常、0.3〜5μm、好ましくは0.5〜3μmの範囲内である。又、親水性塗膜の形成条件(乾燥条件)は用いる有機樹脂の種類、塗膜の厚さ等に応じて適宜設定することができるが、通常、アルミフィン材到達最高温度が約80〜250℃となる条件で約5秒から約30分間乾燥させるのが好ましい。
【0036】
このようにして製造された表面に親水性塗膜が形成された熱交換器用フィンは、熱交換器の蒸発器に使用され、製造された熱交換器は、冷凍サイクル装置の製造に使用される。
前記冷凍サイクル装置とは、空気調和装置および冷蔵庫、例えばコンテナ冷蔵庫、営業用冷蔵庫、ショーケース等の冷蔵庫、さらに冷凍設備用冷凍装置等のように、冷媒が蒸発することにより熱交換器用フィンを介し、その周囲を冷却する装置のことである。
【実施例】
【0037】
次に本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1及び従来例1]
表面をクロメート処理したアルミフィン基材上に、表1に記載の塗料を乾燥膜厚が0.5μmになるように塗装し、200〜220℃で30秒の条件で乾燥させた2種類の塗装物を得た。得られた塗装物からアルミフィンを製造し、得られたアルミフィンを使用して、熱交換器を形成するアルミフィンの束の枚数の半分を実施例1の塗料を塗装したアルミフィンとし、残りの半分を従来例1の塗料を塗装したアルミフィンとした熱交換器を製造し、次いで天井埋め込み型のマルチフローカセットタイプのエアーコンディショナーを製造した。
【0038】
得られたエアーコンディショナーを一般事務所に設置し、7〜9月の3ヵ月間、10時間/日、冷房運転をした。3ヵ月後、エアーコンディショナーからアルミフィンを取り外し、実施例1の塗料を塗装した部分と、従来例1の塗料を塗装した部分とに分け、それぞれの部分(幅12mm、長さ200mm、30枚の束)を超音波水洗浄した。その後、洗浄水を濾過し、濾紙を観察したところ、実施例1の塗料を塗装したものの洗浄水を濾過したものでは、濾紙は白く、汚れがなかったが、従来例1の塗料を塗装したものの洗浄水を濾過したものでは、濾紙は黒ずんでいた。
【0039】
前記の結果から、本発明に使用するアルミフィンの場合、運転停止中に埃・ゴミが付いても除去され易い親水性塗膜を有することが判る。
【表1】

*1:ポリビニルアルコール系塗料。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の親水性塗料を用いた熱交換器用フィンは、表面に官能基スイッチング剤を含有した親水性塗膜が設けられているため、運転停止中は撥水性になり、親水性表面に親和性を有する埃・ゴミが付き難く、撥水性表面に親和性を有する埃・ゴミが付き易くなるため、冷房運転により発生する凝縮水により洗い流され易くなり、親水性塗膜に付く埃・ゴミを少なくすることができる。それゆえ、このフィンを使用した熱交換器、該熱交換器を使用した空気調和装置、冷蔵庫及び冷凍設備用冷凍装置等の様々な冷凍サイクル装置の用途に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィン表面に親水性塗膜が設けられた熱交換器用フィンを蒸発器に使用した熱交換器において、前記親水性塗膜中に官能基スイッチング剤が含有されていることを特徴とする熱交換器。
【請求項2】
前記官能基スイッチング剤が、水の存在の有無で親水性及び撥水性に表面性能を変化し得る材料であることを特徴とする請求項1記載の熱交換器。
【請求項3】
前記官能基スイッチング剤が、シリコーンポリマー系材料であることを特徴とする請求項1又は2記載の熱交換器。
【請求項4】
前記親水性塗膜が、ポリアクリル酸系塗膜、ポリビニルアルコール系塗膜、エポキシ系塗膜、アクリルセルロース系塗膜、アクリルアミド系塗膜及びこれら塗膜を形成する樹脂のうちのいずれか2種以上の樹脂を含む塗膜であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱交換器。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱交換器を使用したことを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項6】
フィン表面に塗装される親水性塗料であって、親水性塗料に官能基スイッチング剤が含有されていることを特徴とする親水性塗料。
【請求項7】
前記官能基スイッチング剤が、水の存在の有無で親水性及び撥水性に表面性能を変化し得る材料であることを特徴とする請求項6記載の親水性塗料。
【請求項8】
前記官能基スイッチング剤が、シリコーンポリマー系材料であることを特徴とする請求項6又は7記載の親水性塗料。
【請求項9】
前記親水性塗料が、ポリアクリル酸系塗料、ポリビニルアルコール系塗料、エポキシ系塗料、アクリルセルロース系塗料、アクリルアミド系塗料及びこれら塗料を形成する樹脂のうちのいずれか2種以上の樹脂を含む塗料であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の親水性塗料。

【公開番号】特開2006−214675(P2006−214675A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−29438(P2005−29438)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】