説明

熱交換器のフィン、熱交換器および空気調和装置

【課題】熱交換器における通風抵抗の増大および凝縮水の飛散を抑制しつつ、臭気の発生を抑制可能な熱交換器のフィン、熱交換器および空気調和装置を提供する。
【解決手段】空気調和装置1の室内熱交換器41のフィン5であって、アルミ基材8と、親水層6と、アルミ基材8と親水層6との間に設けられる耐食層7とを備えている。親水層6の表面における水に対する接触角は、50度以下であり、親水層6の表面1dm2当たりの親水層6内部の含水量は、400mg/dm2以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器のフィン、熱交換器および空気調和装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、特許文献1(特開2008−215757号公報)に記載の空気調和装置のように、冷房運転や除湿運転を行う際に熱交換器のフィン表面に付着する凝縮水が効率良く流れ落ちるように、熱交換器のフィンの構成を工夫したものが提案されている。
【0003】
この特許文献1に記載の空気調和装置では、熱交換器のフィン表面に付着した凝縮水が、運転停止状態においてもフィン表面に長い間残存していると、環境浮遊物の付着や菌の増殖が生じ、臭いを発生していることを問題視している。そして、この問題を解決するために、凝縮水が熱交換器のフィン表面に残存する時間を短くさせる目的で、フィン表面に親水層を形成させるだけでなく、フィン形状として凝縮水が保持されにくい形状を採用している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の熱交換器のフィン形状によると、フィン表面で凝縮水が保持されにくいため、フィン表面における環境浮遊物の付着や菌の増殖を抑制させることができ、発生する臭いを低減させている。
【0005】
これに対して、冷房運転中や除湿運転中に、空気調和装置の圧縮機および室内ファンの両方が駆動しているサーモオン状態から、圧縮機が停止して室内ファンが駆動し続けているサーモオフ状態に切り換わった後(再びサーモオン状態に移行する前)に、臭気を感じることが多いことを、本願発明者らは見出した。
【0006】
以上の知見に基づいて、空気調和装置から発生する臭気を従来よりも低減させる余地があると考え、上記特許文献1で検討されているような、熱交換器のフィン表面の凝縮水に対する運転停止状態での環境浮遊物の付着や菌の繁殖等という原因とは異なる、新たな臭気発生原因の存在を検討した。
【0007】
そして、この点の検討を行った結果、発明者らは、サーモオフ状態に切り換わった後に、熱交換器のフィンの表面から凝縮水が蒸発した状態で臭気を感じることが多いことから、様々な臭気成分の中でも、凝縮水よりも蒸気圧が低い特定の臭気成分(すなわち、凝縮水よりも後に気化する傾向にある臭気成分)が特に臭気を感じさせていると、考えた。
【0008】
さらに、発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、このような臭気を感じさせる特定の臭気成分は、熱交換器のフィンの表面における凝縮水と共に存在している臭気成分よりも、むしろ、熱交換器のフィンの親水層に保持された水分と共に存在している臭気成分のほうが、上記サーモオフ状態に切り換わった後に感じる臭気としては問題であることに着目した。そこで、発明者らは、この特定の臭気成分の熱交換器における保持量を左右しているフィンの構成や特性について検討を行ったところ、熱交換器のフィンの親水層が保持している水分量(含水量)に起因して、フィンにおける特定の臭気成分の保持量が変化していることを見出した。
【0009】
これにより、発明者らは、フィンの親水層における含水量を少なく抑えることにより、上記サーモオフ状態に切り換わった後に感じる臭気についても低く抑えることができるのではないかと考えた。
【0010】
ところが、熱交換器のフィンの親水層の性質として、単に、含水量が低いものを採用した場合には、フィンの表面における親水能も同時に低減してしまうため、熱交換器のフィンの表面で凝縮水がはじかれてしまい、室内側に向かう凝縮水の飛散が生じ、フィン同士の間の通風抵抗が増大することで能力が低下してしまうことになる。
【0011】
本発明は、上述した点に鑑みて、さらに検討を重ねることで完成されたものであり、本発明の課題は、熱交換器における通風抵抗の増大および凝縮水の飛散を抑制しつつ、臭気の発生を抑制可能な熱交換器のフィン、熱交換器、および、空気調和装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1観点に係る熱交換器のフィンは、空気調和装置の熱交換器のフィンであって、基材、親水層、および、耐食層を備えている。耐食層は、基材と親水層との間に設けられている。親水層の表面における水に対する接触角は、50度以下である。親水層の表面1dm2当たりの親水層内部の含水量は、400mg/dm2以下である。なお、ここで、「含水量」とは、フィンの下端を1mm以上水に浸した状態での重量を初期重量とし、所定の深さ水に浸漬させて14時間放置した後、初期重量を測定した位置に戻した時から30秒後に測定する重量の初期重量との差を表面積で除して得られる値である。なお、「含水量」の測定は、雰囲気温度28℃の環境下で行い、測定に用いるサンプルは80℃の乾燥機で16時間以上乾燥させたものを用いる。また、表面積は、表と裏の両面の面積の合計をいうものとする。
【0013】
この熱交換器のフィンでは、親水層における含水量と保持される臭気成分の量の間の相関関係を見出したことに基づいて、親水層における含水量を400mg/dm2以下に調整し、保持される臭気成分の量を低減させることができている。さらに、この熱交換器のフィンでは、親水層における含水量を低く抑えた場合であっても、その親水層の表面における水に対する接触角を、50度以下に維持させることで、熱交換器に対する通風抵抗の増大および凝縮水の飛散を抑制させることができている。
【0014】
以上により、この熱交換器のフィンによると、熱交換器における通風抵抗の増大および凝縮水の飛散を抑制しつつ、臭気の発生を抑制させることが可能となっている。
【0015】
本発明の第2観点に係る熱交換器のフィンは、第1観点に係る熱交換器のフィンにおいて、親水層の表面における水に対する接触角は、30度以下である。
【0016】
この熱交換器のフィンでは、熱交換器のフィン同士の間における通風抵抗の低減および凝縮水の飛散をより確実に抑制させることができる。
【0017】
本発明の第3観点に係る熱交換器のフィンは、第1観点または第2観点に係る熱交換器のフィンにおいて、親水層の膜厚は、0.1μm以上である。なお、ここでの親水層の膜厚としては、塗布乾燥後の膜厚であることが好ましい。
【0018】
この熱交換器のフィンでは、親水層の表面における親水能をより確実に確保することが可能になる。
【0019】
本発明の第4観点に係る熱交換器のフィンは、第1観点から第3観点のいずれかに係る熱交換器のフィンにおいて、親水層は、カルボン酸基、スルホン酸基、ヒドロキシ基、アミド基およびエーテル結合よりなる群から選択される1種または2種以上の親水性の官能基を有する単量体から構成される重合体、前記単量体を含んで構成される共重合体、または、前記重合体と前記共重合体との混合物、のいずれかを塗膜形成成分として含有する。
【0020】
本発明の第5観点に係る熱交換器は、第1観点から第4観点のいずれかに係る熱交換器のフィンを備えている。
【0021】
本発明の第6観点に係る空気調和装置は、第5観点に係る熱交換器、熱交換器に対して空気流れを送るファン、圧縮機、および、制御部を備えている。制御部は、圧縮機の駆動を停止させた状態でファンを駆動させるサーモオフ運転制御を行う。
【0022】
この空気調和装置は、熱交換器のフィンの表面に凝縮水が残存している状態でサーモオフ運転制御が行われる場合であっても、発生する臭気成分の量を少なく抑えることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の第1観点、第4観点、第5観点に係る熱交換器のフィンでは、熱交換器における通風抵抗の増大および凝縮水の飛散を抑制しつつ、臭気の発生を抑制させることが可能となっている。
【0024】
本発明の第2観点に係る熱交換器のフィンでは、熱交換器のフィン同士の間における通風抵抗の低減および凝縮水の飛散をより確実に抑制させることができる。
【0025】
本発明の第3観点に係る熱交換器のフィンでは、親水層の表面における親水能をより確実に確保することが可能になる。
【0026】
本発明の第6観点に係る空気調和装置では、熱交換器のフィンの表面に凝縮水が残存している状態でサーモオフ運転制御が行われる場合であっても、発生する臭気成分の量を少なく抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係る空気調和装置の概略構成図である。
【図2】本発明のフィンの構成例を示す概略断面図である。
【図3】本発明のフィンの他の構成例を示す概略断面図である。
【図4】フィンの酢酸含有量に対する臭気強度および臭気センサの積分値の関係を示すグラフである。
【図5】臭気センサの積分値と官能評価との相関を示すグラフである。
【図6】フィンの含水量に対するフィンの臭気成分含有率の関係を示すグラフである。
【図7】フィンの含水量に対する臭気センサの積分値の関係を示すグラフである。
【図8】実施例および比較例のそれぞれにおける含水量と臭気センサの積分値を示す表である。
【図9】実施例および比較例のそれぞれにおける含水量と接触角を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態としての空気調和装置1を説明する。
【0029】
図1に、空気調和装置1の冷媒回路10を示す冷媒回路図を示す。
【0030】
(1)空気調和装置1の概略構成
空気調和装置1は、熱源側装置としての室外機2と、利用側装置としての室内機4とが冷媒配管によって接続されて、利用側装置が配置された空間の空気調和を行う。この空気調和装置1は、冷媒回路10、各種センサおよび制御部70を有している。
【0031】
冷媒回路10は、圧縮機21、四路切換弁22、室外熱交換器23、室外電磁膨張弁24、アキュームレータ25、室外ファン26、室内熱交換器41、および、室内ファン42等を備えており、これらが接続されること構成されている。なお、圧縮機21、四路切換弁22、室外熱交換器23、室外電磁膨張弁24、アキュームレータ25、および、室外ファン26は、室外機2内に収容されており、室内熱交換器41および室内ファン42は、室内機4内に収容されている。この室内ファン42は、後述する制御部70によってその風量が複数段階に調節されるが、その場合の最大風量は40〜45m3/sであり、最低風量は15〜20m3/sである。なお、室内熱交換器41の詳細構成については、後述する。
【0032】
四路切換弁22は、冷房運転サイクルと暖房運転サイクルとを切換可能である。図1では、冷房運転を行う際の接続状態を実線で示し、暖房運転を行う際の接続状態を点線で示している。暖房運転時には、室内熱交換器41が冷媒の冷却器として、室外熱交換器23が冷媒の加熱器として機能する。冷房運転時には、室外熱交換器23が冷媒の冷却器として、室内熱交換器41が冷媒の加熱器として機能する。
【0033】
なお、室内機4内には、室内温度センサ43が設けられている。この室内温度センサ43は、室内空気の吸入口側に配置され、室内機4が室内から取り込んで、室内熱交換器41を通過する前の温度(すなわち、室内温度)を検出する。
【0034】
制御部70は、室外機2内に配置される機器を制御する室外制御部72、室内機4内に配置されている機器を制御する室内制御部74、ユーザからの各種設定入力を受け付けたり各種表示出力を行ったりするコントローラ71、および、各種センサが、通信線70aによって接続されることで構成されている。この制御部70は、空気調和装置1を対象とした種々の制御を行う。
【0035】
この制御部70は、コントローラ71を介してユーザから、冷房運転、暖房運転、除湿運転の選択を受け付ける。ここで、除湿運転では、制御部70は、四路切換弁22を冷房運転サイクルと同様の接続状態とし、室内ファン42を間欠的に駆動させる。冷房運転では、制御部70は、コントローラ71に入力された設定温度に基づく所定条件を満たすまでは、圧縮機21および室内ファン42の両方を駆動させ続けるサーモオン状態とし、所定条件を満たした後から再度所定条件を満たさなくなるまでの間は圧縮機21が停止した状態で室内ファン42が駆動し続けるサーモオフ状態となるように、制御を行う。
【0036】
(2)室内熱交換器41の構成
室内熱交換器41は、板厚方向に所定のフィンピッチで複数枚配置されたフィン5群が、内部を冷媒が流れる伝熱管によって貫通されて構成された、いわゆるフィンチューブ式熱交換器である。ここで、フィン5の一枚当たりの板厚は、例えば、80〜120μmであることが好ましい。また、フィンピッチは、例えば、1.0〜2.5mmであることが好ましい。
【0037】
(3)フィン5の構成
室内熱交換器41のフィン5は、図2に示すように、アルミ基材8、耐食層7、および親水層6を有している。
【0038】
アルミ基材8は、熱交換効率を上げるために熱伝導性の良好な金属としてアルミニウムから構成されている。このアルミ基材8は、純粋なアルミニウムから構成されていてもよいし、アルミニウム合金から構成されていてもよい。
【0039】
耐食層7は、アルミ基材8と親水層6との間に設けられ、樹脂耐食層7aと、クロメート処理層7bとを有している。このうち、クロメート処理層7bは、アルミ基材8の表面に対してクロメート処理を施すことによって形成された耐食性を有する層である。樹脂耐食層7aは、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、および、フェノール樹脂からなる群より選ばれる一種または二種以上によって構成された、耐食性を有する層である。なお、アルミ基材8および親水層6との密着性を良好にさせやすい観点から、熱硬化性であるエポキシ樹脂が好ましい。
【0040】
また、この樹脂耐食層7aは、使用環境や用途に応じて適宜省略されてもよく、例えば、図3に示すフィン205のように、アルミ基材208を保護するクロメート処理層(耐食層)207の表面に親水層206が設けられた構成としてもよい。
【0041】
親水層6は、室内熱交換器41のフィン5の表層を構成している。以下に、本発明の親水層の詳細を述べる。
【0042】
(4)親水層の構成
親水層は、表面における水に対する接触角が50度以下であり、かつ、親水層の表面1dm2当たりの親水層内部の含水量が400mg/dm2以下である。
【0043】
親水層の表面における水に対する接触角としては、50度以下であれば特に限定されないが、熱交換器を通過する空気に対する通風抵抗をより小さく抑えること、および、室内への凝縮水の飛散を抑制させる観点から、40度以下であることが好ましく、30度以下であることがより好ましい。なお、ここでの接触角は、「JIS R 3257 基板ガラス表面のぬれ性試験方法」に示された方法に従って測定される値である。
【0044】
親水層の含水量とは、親水層の表面1dm2に対応する厚み部分(表面と耐食層との間の部分)に保持させることが可能な水分の重量のことであり、十分に乾燥しているフィンについて、常温下で、フィンの下端を1mm以上水に浸した状態での重量を初期重量とし、所定の深さ水に浸漬させて14時間放置した後、初期重量を測定した位置に戻した時から30秒後に測定する重量の初期重量との差を表面積で除して得られる値をいう(以下、単に、「含水量」という。)。なお、「含水量」の測定は、雰囲気温度28℃の常温環境下で行い、測定に用いるサンプルは80℃の乾燥機で16時間以上乾燥させたものを用いる。また、表面積は、表と裏の両面の面積の合計をいうものとする。親水層の含水量の上限値は、400mg/dm2以下であれば特に限定されないが、保持される臭気成分を低減させる観点から、300mg/dm2以下であることが好ましく、240mg/dm2以下であることがより好ましく、180mg/dm2以下であることが最も好ましい。親水層の含水量の下限値は、特に限定されないが、親水層の含水量を下げすぎた場合には親水層表面の親水能の低下を引き起こしがちであるため、60mg/dm2以上であることが好ましい。
【0045】
なお、親水層の上記接触角と含水量との組合せは、上記条件を満たすものであれば特に限定されないが、接触角が5〜40度でありかつ含水量が60〜240mg/dm2であることが好ましく、接触角が5〜30度でありかつ含水量が90〜210mg/dm2であることがより好ましい。
【0046】
親水層の膜厚は、特に限定されないが、親水性を十分に確保するためには、0.1μm以上であることが好ましい。なお、親水層の膜厚の上限については、特に限定されないが、フィン同士の間の空間を確保して通風抵抗を小さく抑えることで熱交換能力を十分に発揮させる観点からは、10μm以下であることが好ましい。
【0047】
親水層の材質は、上記含水量と接触角の条件を備えるものであれば特に限定されないが、(i)カルボン酸基、スルホン酸基、ヒドロキシ基、アミド基およびエーテル結合よりなる群から選択される1種または2種以上の親水性の官能基を有する単量体から構成される重合体、(ii)前記単量体を含んで構成される共重合体、または、(iii)前記重合体と前記共重合体との混合物、のいずれかを塗膜形成成分として含有することができる。なお、これらの官能基は、親水層に付与する親水性の程度を調節するために適宜選択されうる。このうち、カルボン酸基および/またはスルホン酸基については、一部または全部がアルカリ金属塩であってよい。このアルカリ金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられ、なかでもナトリウム塩が好ましい。また、上記(i)〜(iii)の重合体もしくは共重合体を含有する樹脂としては、具体的には、ポリビニルアルコール系樹脂(ポリビニルアルコールとその誘導体)、ポリアクリルアミド系樹脂(ポリアクリルアミドとその誘導体)、ポリアクリル酸系樹脂(ポリアクリル酸とその誘導体)、セルロース系樹脂(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロース系アンモニウム)、ポリエチレングリコール系樹脂(例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド)等が挙げられる。この(i)〜(iii)の樹脂としては、例えば、水分散性シリカ(コロイダルシリカ)、アルカリケイ酸塩(水ガラス)等を含んでいても良い。
【0048】
(5)室内熱交換器41のフィン5の製造
上述した室内熱交換器41の製造方法は、特に限定されない。
【0049】
例えば、用意したアルミ基材に対してクロメート処理を施して乾燥させ、その後、クロメート処理がされた表面に樹脂耐食層を構成する樹脂を塗布して、乾燥させ、さらに親水層を構成する樹脂を塗布して乾燥させることでフィンを得ることができる。ここでの乾燥工程では、加熱によって乾燥させてもよい。
【0050】
なお、上述のアルミ基材は、予め、伝熱管を貫通させるための開口が複数形成されていてもよい。また、複数の開口は、親水層が形成された後に設けるようにしてもよい。
【0051】
このようにして得られたフィンは、板厚方向に複数枚並べられ、上記開口部分に対して伝熱管が挿入され、その状態で伝熱管が拡管処理されることで、複数のフィンと伝熱管とが一体化され、熱交換器が得られる。
【0052】
以上のようにして得られた熱交換器を、冷凍サイクルの利用側熱交換器として組み込むことで、上述した室内熱交換器41を得ることができる。
【0053】
(6)動作
上述したように、冷房運転や除湿運転が行われている状態で、制御部70が、圧縮機21および室内ファン42の両方を駆動させ続けるサーモオン状態とすると、室内熱交換器41の伝熱管内部には冷やされた冷媒が流れることになる。これにより、フィン5も冷却され、フィン5の表面を流れる空気中の水分が凝縮し、凝縮水となってフィン5表面に付着した状態となる。フィン5表面は、上記親水層6の親水能を有しているため、凝縮水は液滴になることなく、表面になじんだ状態となり、調和空気の流れとともに室内側に飛散することがない。さらに、上記親水層6の親水能によって、凝縮水が表面上で広がって存在しているため、フィン6同士の間の空間を狭めることなく、通風抵抗の増大を抑え、熱交換能力を十分に確保することが可能になっている。また、上記親水層6は、含水量が低く調整されているため、内部において保持する凝縮水の量が少なく抑えられている。なお、サーモオン状態において、フィン5の表面に保持しきれなくなった凝縮水は、フィン5の表面をつたって、図示しないドレンパンまで落下し、排水経路をたどって排水処理される。ここで、臭気成分が溶け込んだ凝縮水の多くが廃水処理されることになる。
【0054】
ここで、サーモオン状態がしばらく続いた後、室内環境について所定条件を満たした状態になると、制御部70は、再度所定条件を満たさない状態になるまでの間、圧縮機21の運転を停止させた状態で、室内ファン42が駆動させ続けるサーモオフ状態とする。ここでは、室内熱交換器41のフィン5表面の凝縮水は、一部がドレンパンから排水経路をたどって排水処理され、他の一部は気化していく。その後、フィン5の親水層6の表面が乾燥した状態になると、続いて、フィン5の親水層6の内部が乾燥し始めることになるが、この親水層6の内部に保持されている水分は少なく抑えられている。このため、親水層6の内部に保持された水分に溶け込んでいる臭気成分の量も少なく抑えられているため、サーモオフ状態で室内熱交換器41から室内に向けて送り出される臭気成分の量についても、十分に低減させることが可能になっている。
【0055】
(7)フィンの例
以下、上記実施形態に採用可能な熱交換器のフィンの例について、具体的に検討した結果を述べる。
【0056】
(7−1)サンプルについて
後述するように実施例1〜3、比較例1〜4に対応する各サンプルのフィンを用意し、各サンプルから生じうる臭気の度合いを比較した。なお、用意したサンプルは、親水層の表面を親水化させるためのプラズマ処理や酸化剤処理の程度を調節しつつ、親水層内部を疎水化させるための加熱の程度や架橋剤の配合量や種類を調節することで、性質の異なるサンプルを用意した。
【0057】
(7−2)評価対象とする臭気成分について
問題としている臭気成分は、親水層の内部に凝縮水とともに保持される可能性があるものであるため、水溶性であることを条件とした。また、フィンの親水層表面の凝縮水が揮発した後に生じる臭気成分を問題視していることから、空気調和装置の熱交換器の使用温度状況下において、水よりも揮発しにくい性質を有するものであることを条件とした。そこで、従来より、当該技術分野において臭気成分の代表例であって、空気質に含まれる対象として報告されている脂肪酸を対象とすることとした。また、試験では、官能評価を伴うため、人体への影響度合いが比較的小さい対象であることも条件とした。さらに、使用する臭気センサの検出限度との関係で、通常の人間が関知可能な認識閾値(何の臭気であるのか認識可能な最小の刺激量)程度の低濃度であっても、臭気センサが検知可能であることも条件とした。
【0058】
以上の各条件を満たす臭気成分として、ここでは、酢酸を採用した。
【0059】
なお、酢酸の20℃での蒸気圧は、水の同条件下での蒸気圧2.3kPaよりも低い、1.5kPaである。また、今回用いた臭気センサでは、酢酸の認識閾値(0.006ppm)の濃度であっても、十分に検知可能なものである。
【0060】
(7―3)実験方法について
モデルとするフィンを用いて各実施例および比較例の熱交換器を構成し、25±0.5℃の温度でかつ70±5%の相対湿度の条件下に配置しつつ、伝熱管に相当する部分には冷媒の代わりに冷却水を流すことで実験を行った。冷却水としては、8℃の冷水を用いた。なお、ここで構成した熱交換器のモデルは、フィンピッチが1.2mm間隔で、板厚方向に合計250〜270mmとなるように並べたフィン群に対して、菅径がφ6〜8mmで2列の合計有効長が400mmの伝熱管を貫通させることによって構成した。
【0061】
ここで、送風機は、熱交換器の上流側に配置し、フィン間を空気流れが通過するような配置関係とした。なお、熱交換器に供給する風速は、1.5m/sとした。
【0062】
臭気センサは、熱交換器を通過して、熱交換器の下流側0.1mの位置を流れる空気を対象として測定した。ここでは、臭気センサは、新コスモス電機株式会社製の商品名:ポータブル型ニオイセンサ XP-329 III Rを用いた。
【0063】
また、官能試験では、臭気センサと同様の位置における人間の嗅覚による感知を採用した。
【0064】
各熱交換器は、試験に用いる前に、5wt%濃度の酢酸水溶液で満たされたプールに2時間浸漬させた後、熱交換器のフィン表面に残存する酢酸水溶液を除去するために、純粋で満たされたプールに2回浸漬させた。これにより、熱交換器のフィンの表面に残る酢酸水溶液が実質的に除去され、フィンの親水層内部に保持されている酢酸のみを評価することができる状況とした。
【0065】
上記酢酸の付着作業を終えた熱交換器は、実際の冷凍サイクルで用いられた場合のサーモオン運転の状況を再現させるために、送風機による空気流れの供給をしながら、伝熱管に冷却水(8℃)を流し、これを、フィン表面に生じた凝縮水が滴下する状態になるまで続けた。
【0066】
フィンから凝縮水が滴下すると、実際の冷凍サイクルで用いられた場合のサーモオフ運転の状況を再現させるために、送風機による空気流れの供給を続けながら、伝熱管に流す冷却水を止めた。臭気センサおよび官能試験は、この伝熱管に流す冷却水が止められた時点以降から行った。臭気センサの測定終了は、臭気センサの検知値が0になった時点とした。また、官能試験も同様に、人間が臭気を感じられなくなるまでとした。
【0067】
(7−4)各値の相関関係の確認
なお、実施例および比較例の試験を行う前に、親水層に保持される酢酸の量と実際に測定される臭気との間に相関関係が有ることを確認するために、酢酸含有量が異なるサンプルを複数用意した。具体的には、熱交換器を浸漬させるプール内の酢酸の濃度をサンプル毎に変化させることで、親水層に保持される臭気成分量(残存酢酸量)の異なるサンプルを用意した。その後、これらのサンプルを用いて上記実験を行い、臭気センサで検知される臭気成分の積分値(臭気を検知し始めてから臭気を検知しなくなるまでの合計量)、および、臭気強度を評価した。この臭気強度とは、一般的なにおいの評価手法である6段階臭気強度表示法(0:無臭、1:においの存在が分かる、2:何のにおいか分かる弱いにおい、3:楽に感知できるにおい、4:強いにおい、5:強烈なにおい)に従って数値化されたものである。ここで、熱交換器のフィンのサンプル1gが含有している酢酸重量は、GC−MSを用いて測定した。以上のようにして把握された各サンプルのフィン1g当たりの酢酸含有量に対する臭気強度および臭気センサの検知値(上記臭気センサの測定値として画面表示される臭気指数)の関係を、図4に示す。この図4のグラフによると、フィン1g当たりの酢酸含有量に対する臭気強度の関係、および、フィン1g当たりの酢酸含有量に対する臭気センサの検知値の関係が、ともに比例関係にあることが確認された。以上により、フィンの親水層が保持している酢酸量と、人間が感知する臭気強度との相関関係の存在が示された。
【0068】
なお、今回は、あくまでも人間が感知する臭気成分の低減化が目的であるため、人間が実際に感知する臭気の程度を測定することが望ましいが、評価の客観性を保つために、上記の臭気センサを用いた。ここで、種類の異なるサンプルを対象として、官能評価と臭気センサによる測定の両方を同時に行って得られた結果を、図5のグラフに示す。この図5のグラフに示されているように、官能評価の積分値と、臭気センサを用いて測定された臭気成分の積分値と、の間には、比例関係が成立しており、今回用いた臭気センサによる検知値によって人間が感知する臭気が客観的に示されていることが確認された。
【0069】
さらに、熱交換器のフィンの親水層の表面1dm2に対応する厚み部分(表面と耐食層との間の部分)に保持させることが可能な水分の重量と、熱交換器のフィン1gにおける酢酸の含有量と、の相関関係を調べた結果を、図6のグラフに示す。ここで、フィンの含水量は、十分に乾燥しているフィンについて、常温下で、フィンの下端を1mm以上水に浸した状態での重量を初期重量とし、所定の深さ水に浸漬させて14時間放置した後、初期重量を測定した位置に戻した時から30秒後に測定する重量の初期重量との差を表面積で除して得られる値とした。なお、「含水量」の測定は、雰囲気温度28℃の常温環境下で行い、測定に用いるサンプルは80℃の乾燥機で16時間以上乾燥させたものを用いた。また、表面積は、表と裏の両面の面積の合計とした。また、熱交換器のフィンのサンプル1gが含有している酢酸重量は、GC−MSを用いて測定した。以上の図6のグラフに示されているように、フィンの含水量とフィンの酢酸の含有量との間には、比例関係が成立していることが確認された。これにより、フィンの含水量が多いと、フィンの含有する酢酸重量も増大することになる、といえる。
【0070】
以上のように、図4、図5、図6において確認された関係から、熱交換器のフィンの含水量が多い場合には、臭気成分としての酢酸の含有率が高くなり、臭気センサによる検知値が高まるとともに、人間が感じる臭気強度が増大する、ということがいえる。
【0071】
以上の関係を踏まえて、人間が感じる臭気を効果的に低減できたといえる場合の臭気成分の濃度条件に対応する臭気センサの積分値を特定したところ、臭気センサの積分値が4000以下であることが必要になることが分かった。そして、図7のフィンの含水量と臭気センサの積分値との関係を示したグラフによると、この臭気成分の条件を満足する熱交換器のフィンの親水層における含水量の条件は、400mg/dm2以下であることが分かった。
【実施例】
【0072】
実施例および比較例のサンプルとしては、以下の条件のものを用意した。
【0073】
(実施例1)
実施例1として、親水層の含水量が155mg/dm2であるサンプルを用意した。
【0074】
(実施例2)
実施例2として、親水層の含水量が190mg/dm2であるサンプルを用意した。
【0075】
(実施例3)
実施例3として、親水層の含水量が120mg/dm2であるサンプルを用意した。
【0076】
(比較例1)
比較例1として、親水層の含水量が1300mg/dm2であるサンプル(住友軽金属社製、商品名:CC430)を用意した。
【0077】
(比較例2)
比較例2として、親水層の含水量が850mg/dm2であるサンプル(住友軽金属社製、商品名:CC431)を用意した。
【0078】
(比較例3)
比較例3として、親水層の含水量が480mg/dm2であるサンプル(神戸製鋼社製、商品名:KS130B)を用意した。
【0079】
(比較例4)
比較例4として、親水層の含水量が120mg/dm2であるサンプルを用意した。
【0080】
図8に、各実施例1〜3および比較例1〜4における含水量および臭気センサの積分値を示す。以上の図8に示された結果によると、比較例1〜3では、含水量が多いため臭気成分が問題となり、実施例1〜3および比較例4では含水量を少なく抑えることができているため、臭気成分の問題を解消できることが分かった。
【0081】
さらに、親水層の性質について、熱交換器として用いた場合に通風抵抗を低く抑えることができ、凝縮水の飛散を抑制可能な接触角を検討するために、上記実施例1〜3および比較例1〜4のそれぞれについて、接触角を測定した。
【0082】
実施例1のサンプルの親水層の表面における接触角は、15度であった。
【0083】
実施例2のサンプルの親水層の表面における接触角は、27度であった。
【0084】
実施例3のサンプルの親水層の表面における接触角は、13度であった。
【0085】
比較例1のサンプルの親水層の表面における接触角は、20度であった。
【0086】
比較例2のサンプルの親水層の表面における接触角は、11.4度であった。
【0087】
比較例3のサンプルの親水層の表面における接触角は、40度であった。
【0088】
比較例4のサンプルの親水層の表面における接触角は、77度であった。
【0089】
ここで、熱交換器としての通風抵抗を小さく抑え、かつ、凝縮水の飛散を抑制できる親水層表面の水に対する接触角は50度以下であることとした。この接触角の値は、以下の通風抵抗Aと通風抵抗Bとの通風抵抗比(通風抵抗B/通風抵抗A)が、1.54以下になる条件を満たす接触角として定めた。この通風抵抗Aは、フィンピッチが1.2mm間隔の熱交換器のモデルに対して、熱交換器の前面における風速条件を1.5m/sとして、フィンの親水層表面が乾いている状態で乾球温度21℃、湿球温度15℃の環境下に配置し、伝熱管内部を通過する冷媒温度が50℃の状態で2時間運転した際の通風抵抗の値である。また、通風抵抗Bは、熱交換器の前面における風速条件を1.5m/sとして、フィンの親水層表面が乾いている状態で乾球温度27℃、湿球温度19.5℃の環境下に配置し、伝熱管内部を通過する冷媒温度が5℃の状態で8時間運転してフィン表面に凝縮水が生じた状態での通風抵抗の値である。なお、上記条件のモデルに凝縮水を生じさせ、局所風速が2.5m/s以上の空気流れを供給した場合に凝縮水の飛散が確認された接触角は90度であり、大きな値であったため、本発明における熱交換器のフィンの親水層表面における接触角は、50度以下であることを条件とした。
【0090】
以上の各実施例および比較例の値に基づいて、図9に、各実施例1〜3および比較例1〜4における含水量と接触角との関係を示す。この図9に示された結果によると、実施例1〜3および比較例1〜3では接触角がいずれも50度以下であり、条件を満たしている。ところが、比較例4については、含水量については400mg/dm2以下であり良好であるものの、接触角が50度以上となっているため、条件を満たさないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の熱交換器のフィン、熱交換器、および空気調和装置は、フィン表面に凝縮水が付着した場合であっても、通風抵抗の増大や水の飛散を抑制でき、臭気の発生を低減できるので、少なくとも冷房運転や除湿運転が行われる空気調和装置において用いられた場合に特に有用である。
【符号の説明】
【0092】
1 空気調和装置
5 フィン(熱交換器のフィン)
6 親水層
7 耐食層
8 アルミ基材(基材)
41 室内熱交換器(熱交換器)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0093】
【特許文献1】特開2008−215757号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気調和装置(1)の熱交換器(41)のフィン(5)であって、
基材(8)と、
親水層(6)と、
前記基材と前記親水層との間に設けられる耐食層(7)と、
を備え、
前記親水層の表面における水に対する接触角は、50度以下であり、
前記親水層の表面1dm2当たりの親水層内部の含水量は、400mg/dm2以下である、
熱交換器のフィン(5)。
【請求項2】
前記親水層の表面における水に対する接触角は、30度以下であり、
請求項1に記載の熱交換器のフィン。
【請求項3】
前記親水層の膜厚は、0.1μm以上である、
請求項1または2に記載の熱交換器のフィン。
【請求項4】
前記親水層は、
カルボン酸基、スルホン酸基、ヒドロキシ基、アミド基およびエーテル結合よりなる群から選択される1種または2種以上の親水性の官能基を有する単量体から構成される重合体、
前記単量体を含んで構成される共重合体、または、
前記重合体と前記共重合体との混合物、
のいずれかを塗膜形成成分として含有する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の熱交換器のフィン。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の熱交換器のフィンを備えた、
熱交換器(41)。
【請求項6】
請求項5に記載の熱交換器と、
前記熱交換器に対して空気流れを送るファンと、
圧縮機と、
前記圧縮機の駆動を停止させた状態で前記ファンを駆動させるサーモオフ運転制御を行う制御部と、
を備えた空気調和装置(1)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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