説明

熱交換器の防錆処理方法

【課題】NB熱交換器において、これを構成するアルミニウムフィン等の表面にフラックス残渣が存在しても、NB熱交換器の防錆性を高めることのできる方法を提供する。
【解決手段】ノコロックろう付け法によりフラックスろう付けした熱交換器を、リチウムを含有するpH7以上のリチウム処理液で表面処理した後、セリウムを含有するpH1.5〜3のセリウム化成処理液でセリウム化成処理し、その後、ジルコニウムを含有するpH3〜5のジルコニウム化成処理液でジルコニウム化成処理する熱交換器の防錆処理方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用エアコンに用いられる熱交換器、特にノコロックろう付け法(以下、NB法という)によりフラックスろう付けされた熱交換器(以下、NB熱交換器ともいう)の防錆処理(耐食処理)方法に関し、当該NB熱交換器の防錆性(耐食性)、親水性を向上させるものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用エアコンに用いられる熱交換器は、通常、熱交換の表面積をできるだけ稼ぐためにアルミニウムフィンが狭い間隔で保持され、さらに、これらのフィンに冷媒を供給するためのアルミニウムチューブが入り組んで配置された複雑な構造となっている。エアコン稼働時に空気中の水分がフィン表面に凝縮水として付着するが、濡れ性の劣るフィン表面では略半球状の水滴となったり、フィン間にブリッジ状に存在することになり、吸気のスムーズな流れを妨げ、通風抵抗を増大させてしまう。このようにフィン表面の濡れ性が悪いと熱交換効率を低下させることになる。
さらに、アルミニウムフィンやアルミニウムチューブ(以下、「アルミニウムフィン等」という)を構成するアルミニウムやその合金は、通常、本来防錆性に優れているが、凝縮水がフィン表面に長時間滞留すると、酸素濃淡電池を形成し、又は大気中の汚染成分が次第に付着、濃縮されて水和反応や腐食反応が促進される。この腐食生成物は、フィン表面に堆積し、熱交換特性を害するほか、冬期の暖房運転時には、白い微粉となって送風機により温風と共に排出される。
【0003】
そこで、これらの問題点を改善するため、例えば、アルミニウム製熱交換器を酸洗浄後、ジルコニウム系化成処理液に浸漬してジルコニウム化成処理し、その後、変性ポリビニルアルコール、リン化合物塩、ホウ素化合物塩、親水性有機化合物、架橋剤等を混合した親水化処理液に浸漬して親水化処理し、アルミニウム表面に親水性と防臭性に優れる表面処理方法等が提案されている(特許文献1参照)。
また、近年、KAlF4及びK2AlF5等のフラックスを用いて、窒素ガス中でろう付けするNB法により、アルミニウムフィンとアルミニウムチューブを接合して組み立てたNB熱交換器が自動車用エアコンにおける熱交換器として用いられてきている。このNB熱交換器を表面処理する方法としては、例えば、NB熱交換器をジルコニウム系化成処理液に浸漬してジルコニウム化成処理し、その後、ポリビニルアルコール、ポリオキシアルキレン変性ポリビニルアルコール、無機架橋剤、グアニジン化合物等を混合した親水化処理液に浸漬して親水化処理し、良好な防錆・親水化効果に加えて防臭効果をも付与する表面処理方法等が提案されている(特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、このようなNB熱交換器では、KAlF4及びK2AlF5等のフラックスを使用するため、アルミニウムフィン等の表面にフラックスが残存し、表面状態が不均一になり、ジルコニウムによる化成処理等を施しても、均一な表面処理ができず、防錆性が不充分となるという問題があった。
これは、NB熱交換器では、フラックスはアルミニウムフィン等の表面に均一に存在するのではなく、フラックスが残存している部分と、フラックスが残存していない部分とが生じるからである。このような状態でジルコニウムによる化成処理を施すと、フラックス残渣で覆われていない表面部分にはジルコニウム化成皮膜が形成されるが、フラックス残渣で覆われている部分やその近傍には、ジルコニウム化成皮膜はほとんど形成されず、ジルコニウム化成皮膜より防錆性の劣るフラックス残渣が徐々に解け出し、アルミニウムフィン等の表面が現れ、そこから錆が発生しはじめることによるものである。
【0005】
そこで、ジルコニウム化成皮膜の均一な表面処理を施すために、NB熱交換器の表面からフラックス残渣を除去する方法が考えられている。
しかしながら、例えば、酸やアルカリでエッチングしてフラックス残渣を除去する方法では、フラックス残渣のみを除去することができず、アルミニウムフィンとアルミニウムチューブとの接合部分までエッチングされてしまうという問題がある。
また、フラックス残渣の量を少なくして、表面状態を均一な状態に近づける方法が提案されている。このフラックス残渣を少なくする方法は、例えば、フラックスにセシウム(Cs)を含有させてフラックスの活性度を高くし、アルミニウムフィン等のろう付け温度(約600℃)まで温度上昇する過程で融解するフラックスのアルミニウム表面への濡れ性を向上させ、その結果少量のフラックスでも製品全体をカバーできるようにする方法である(特許文献3参照)。
【0006】
しかしながら、フラックス残渣の量が少なくなっても、フラックス残渣が存在する以上、フラックス残渣が存在している部分と、フラックス残渣が存在していない部分とが生じるので、表面状態が不均一になり、良好な防錆性が得られにくいという問題は依然として残っていた。また、予めフラックス残渣を少なくする方法を行なわずに、フラックスが多く残存する状態でも、良好な防錆性が得られる方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−003282号公報
【特許文献2】特開2006−069197号公報
【特許文献3】特開2005−188788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、NB熱交換器において、これを構成するアルミニウムフィン等の表面にフラックス残渣が存在しても、NB熱交換器の防錆性を高めることのできる方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、アルミニウム製のNB熱交換器に対してジルコニウム系化成処理及び親水化処理するに際し、当該ジルコニウム系化成処理に先立ってリチウムを用いた所定の表面処理及びセリウム化成処理を行うことにより、NB熱交換器の防錆性を一段と高める方法を提供するものである。すなわち、リチウムを用いた所定の表面処理により、フラックス残渣の表面にリチウムを含有する防錆性の高い表面層を形成させ、さらにセリウム化成処理により当該リチウムを含有する表面層及びフラックス残渣の存在しないアルミニウムが露出している部分に対してセリウム化成皮膜を形成させ、その後に行うジルコニウム化成処理により当該セリウム化成皮膜の表面にジルコニウム化成皮膜を形成することにより、当該リチウムを含有する表面層と当該セリウム化成皮膜と当該ジルコニウム化成皮膜とが相俟って、NB熱交換器の防錆性を著しく向上させる方法を提供するものである。
【0010】
本発明は、
(1) ノコロックろう付け法によりフラックスろう付けした熱交換器を、リチウムを含有するpH7以上のリチウム処理液で表面処理した後、セリウムを含有するpH1.5〜3のセリウム化成処理液でセリウム化成処理し、その後、ジルコニウムを含有するpH3〜5のジルコニウム化成処理液でジルコニウム化成処理する熱交換器の防錆処理方法、
(2) 前記リチウム処理液中のリチウムの含有量が50〜5000ppmである上記(1)に記載の熱交換器の防錆処理方法、
(3) 前記リチウム処理液の温度が20〜90℃であり、前記リチウム処理液による表面処理の時間が5〜900秒である上記(1)又は(2)に記載の熱交換器の防錆処理方法、
(4) 前記セリウム化成処理液中のセリウムの含有量が500〜2000ppmである上記(1)〜(3)のいずれかに記載の熱交換器の防錆処理方法、
(5) 前記セリウム化成処理液の温度が40〜70℃であり、前記セリウム化成処理の時間が10〜60秒である上記(1)〜(4)のいずれかに記載の熱交換器の防錆処理方法、
(6) 前記ジルコニウム化成処理液中のジルコニウムの含有量が50〜5000ppmである上記(1)〜(5)のいずれかに記載の熱交換器の防錆処理方法、
(7) 前記ジルコニウム化成処理液の温度が50〜70℃であり、前記ジルコニウム化成処理の時間が20〜900秒である上記(1)〜(6)のいずれかに記載の熱交換器の防錆処理方法、
(8) 前記ジルコニウム化成処理した後、さらに親水化処理する上記(1)〜(7)のいずれかに記載の熱交換器の防錆処理方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱交換器の防錆処理方法によれば、NB熱交換器において、これを構成するアルミニウムフィン等の表面にフラックス残渣が存在しても、NB熱交換器の防錆性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の熱交換器の防錆処理方法ついて説明する。
この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、本発明を限定するものではない。
本発明に用いる熱交換器は、特に自動車の空調装置に用いられる熱交換器である。この熱交換器は、アルミニウム又はアルミニウム合金製のフィン及びチューブが、窒素ガス中でろう付けする公知のNB法により接合されて組み立てられている。なお、以下、特に明示しない限り、「アルミニウム」という場合にはアルミニウムとアルミニウム合金の両方を含むものである。
NB法で用いるフラックスとしては、Liと難溶性の塩を形成するアニオンで構成される塩を含むフラックスであれば特に限定されず、NB法で用いる通常のハロゲン系のフラックスを用いることができる。かかるハロゲン系のフラックスとしては、KAlF4、K2AlF5、K3AlF6、CsAlF4、Cs3AlF6、及びCs2AlF5、並びに、これらのうち2種以上の混合物が挙げられる。
【0013】
〔リチウム処理液による表面処理〕
本発明のリチウム処理液による表面処理は、上記のNB法により組み立てられたNB熱交換器を、リチウムを含有するpH7以上のリチウム処理液で表面処理するものである。
このリチウム処理液による表面処理のメカニズムを推論すると、フラックス、特にハロゲン系フラックス中のカリウム等のアルカリ金属イオンとリチウム処理液中のリチウムイオンとのイオン交換反応(式1)を利用して、皮膜形成を行うものである。
KxAlFy + xLi+ → LixAlFy + xK+ ・・・・ 式1
ただし、x及びyは、x=1,y=4、x=2,y=5又はx=3,y=6である。
フラックス残渣は、主に、フッ化カリウムやフッ化セシウムとフッ化アルミニウムの複合化合物であり、KAlF4、K3AlF6、K2AlF5やCsAlF4、Cs3AlF6、Cs2AlF5は、溶解度が高く、水に溶けやすいものである。これに対し、Li2AlF5は、K2AlF5等より溶解度が低い。
【0014】
かかるリチウム処理液による表面処理により、フラックス残渣中のカリウムイオン等と処理液中のリチウムイオンとをイオン交換反応により、フラックス残渣の表面およびその近傍に難溶性のリチウム塩を含む層を形成して、フラックス残渣の防錆性(耐食性)を向上させるものである。
本発明のリチウム処理液は、リチウム化合物を溶媒に溶解することにより作製することができ、原料としてのリチウム化合物は特に限定されないが、水酸化リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウム、珪酸リチウム、塩化リチウム、亜硝酸リチウム、臭化リチウム、水素化リチウム、金属リチウム等の水溶性のリチウム化合物を用いるのが好ましい。
【0015】
このリチウム処理液中のリチウムの含有量は特に限定されないが、50〜5000ppmが好ましく、100〜2000ppmがより好ましく、400〜1000ppmがさらに好ましい。50ppm以上であればイオン交換を行うに充分な量となり、5000ppmを超えて含有させてもイオン交換の時間の短縮ができないなど、その含有量の増加にともなう経済性等が得られないからである。
また、リチウム処理液のpHは7以上であり、好ましいpHは7〜12である。pHの調整は、硫酸、硝酸、アンモニア等の一般的な酸やアルカリで行うことができる。
【0016】
このリチウム処理液による表面処理は、例えば、NB熱交換器をリチウム処理液に接触させることにより行うことができ、例えば浸漬、スプレーが挙げられる。その際、リチウム処理液の温度及び表面処理の時間は特に限定されないが、リチウム処理液の温度が低い場合や表面処理の時間が短い場合はリチウムのイオン交換量が少なく、リチウム処理液の温度が高い場合や表面処理の時間が長い場合はフラックス残渣の表面やアルミニウムの表面が過剰エッチングされてリチウム皮膜の形成を妨げるので好ましくない。好ましいリチウム処理液の温度は、20〜90℃であり、さらに好ましくは30〜70℃である。また、好ましい表面処理の時間は5〜900秒であり、さらに好ましくは15〜600秒である。この範囲のリチウム処理液の温度及び表面処理の時間であれば、防錆性が向上し、ひいてはその上に形成される親水膜の親水・密着・その他の性能に問題を生じないフラックス残渣とすることができる。特に密着性に於いては、厳しい環境でのフラックスの溶解が押さえられるため、密着性の向上が期待できる。
【0017】
本発明においては、NB法により接合されて組み立てられたNB熱交換器からフラックス残渣を除去する必要がないので、本発明のリチウム処理液による表面処理の前に、NB熱交換器を酸やアルカリで洗浄する必要はない。
【0018】
〔セリウム化成処理〕
本発明のセリウム化成処理は、上記のリチウム処理液で表面処理されたNB熱交換器をセリウムを含有するpH1.5〜3のセリウム化成処理液でセリウム化成処理するものである。このセリウム化成処理は、NB熱交換器のフラックス残渣表面及びアルミニウム表面にセリウム化成皮膜を形成するために行われる。
【0019】
本発明に用いるセリウムを含有するセリウム化成処理液は、セリウム化合物を水に溶解して、セリウムイオンを活性種とする溶液とするものである。セリウム化合物としては、塩化第一および第二セリウム、硫酸第一および第二セリウム、硝酸第一および第二セリウム、酢酸第一および第二セリウム、硫酸第一および第二セリウムアンモニウム、シュウ酸第一および第二セリウム、炭酸第一および第二セリウム等を用いることができる。
このセリウム化成処理液のセリウムの含有量は特に限定されないが、500〜2000ppmが好ましく、700〜1500ppmがより好ましく、800〜1200ppmがさらに好ましい。500ppm以上であればセリウム化成皮膜を形成するために充分な量となり、2000ppmを超えて含有させてもセリウム化成皮膜の形成時間の短縮ができないなど、その含有量の増加にともなう経済性等が得られないからである。セリウム化成皮膜の量は、好ましくは1〜300mg/m2であり、より好ましくは3〜100mg/m2である。
【0020】
このセリウム化成処理液のpHは、1.5〜3の範囲にある。pHが1.5以上であれば、セリウム化成処処理液によるエッチング過多を起こさずにセリウム化成処理膜を形成することができ、pHが3を超えると処理液が不安定になり、充分な量のセリウム化成皮膜を得ることが困難となるからである。より好ましいpHは2.0〜2.5である。pHの調整は、硫酸、硝酸、アンモニア等の一般的な酸やアルカリで行うことができる。
このセリウム化成処理は、例えば、上記リチウム処理液により表面処理されたNB熱交換器をセリウム化成処理液に浸漬することにより行うことができる。その際、セリウム化成処理液の温度及びセリウム化成処理の時間は特に限定されないが、化成処理液の温度が低い場合や化成処理の時間が短い場合はセリウム化成皮膜の生成量が少なく、化成処理液の温度が高い場合や化成処理の時間が長い場合はセリウム化成皮膜の生成量が多くなりすぎるので好ましくない。好ましいセリウム化成処理液の温度は40〜70℃であり、さらに好ましくは50〜70℃である。また、好ましいセリウム化成処理の時間は10〜60秒であり、さらに好ましくは13〜25秒である。この範囲の処理液の温度及び処理の時間であれば、フラックス残渣表面及びアルミニウム表面の上に適度の量(厚さ)のセリウム化成皮膜を形成することができるからである。
【0021】
なお、後記するジルコニウム化成処理は、セリウム化成皮膜の表面をエッチングしながらジルコニウム化成皮膜を形成するので、ジルコニウム化成処理によりセリウム化成皮膜がエッチングされても、アルミニウム表面に充分なセリウム化成皮膜が残るようにセリウム化成処理液の温度及びセリウム化成処理の時間を決定するのがよい。
【0022】
〔ジルコニウム化成処理〕
本発明のジルコニウム化成処理は、上記のセリウム化成処理されたNB熱交換器を、ジルコニウムを含有するpH3〜5のジルコニウム化成処理液で処理するものである。このジルコニウム化成処理は、NB熱交換器の全面に形成されたセリウム化成皮膜の表面にジルコニウム化成皮膜を形成するものである。このNB熱交換器には、全面にジルコニウム化成皮膜が形成されるので、リチウム処理液による表面処理とセリウム化成処理とジルコニウム化成処理とを行うことにより防錆性を一段と向上させることができる。
【0023】
本発明に用いるジルコニウムを含有するジルコニウム化成処理液は、ジルコニウム化合物を水に溶解して、ジルコニウムイオンを活性種とする溶液である。ジルコニウム化合物としては、フルオロジルコニウム酸、フッ化ジルコニウム等のジルコニウム化合物、およびそれらのリチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム等の塩が挙げられる。また酸化ジルコニウム等のジルコニウム化合物をフッ化水素酸等フッ化物で溶解させてもよい。
このジルコニウム化成処理液のジルコニウムの含有量は特に限定されないが、50〜5000ppmが好ましく、100〜3000ppmがより好ましく、150〜1500ppmがさらに好ましい。フラックスろう付けされたNB熱交換器のアルミニウムの表面上のジルコニウム化成皮膜の量は、防錆性の観点から、好ましくは1〜200mg/m2であり、より好ましくは2〜150mg/m2である。
【0024】
このジルコニウム化成処理液のpHは、3〜5の範囲にある。pHが3以上であれば、ジルコニウム化成処理液によるエッチング過多を起こさずにジルコニウム化成皮膜を形成することができ、pHが5を超えるとエッチング不足により充分な量のジルコニウム化成皮膜を得ることが困難となり、防錆性が低下する可能性があるからである。より好ましいpHは3.5〜4.5である。
また、このジルコニウム化成処理液は、上記ジルコニウム化合物の他に、防錆性を向上させるために、チタン、マンガン、亜鉛、セリウム、バナジウム、3価クロム等の金属イオン、フェノール樹脂等の防錆剤;密着性向上のためのシランカップリング剤;化成反応促進のためのリン酸等が含有されていてもよい。
【0025】
本発明のジルコニウム化成処理の方法は特に限定されず、スプレー法、浸漬法などのいずれであってもよい。
また、ジルコニウム化成処理液の温度は、好ましくは50〜70℃であり、さらに好ましくは55〜65℃である。また、ジルコニウム化成処理の時間は、好ましくは20〜900秒であり、さらに好ましくは30〜600秒である。この範囲の処理液の温度及び処理の時間であれば、防錆性を有するジルコニウム化成皮膜を形成することができるからである。
【0026】
〔親水化処理〕
本発明においては、上記ジルコニウム化成処理の後に、親水化処理するのが好ましい。この親水化処理に用いられる親水化処理剤及び親水化処理方法は特に限定されず、公知の親水化処理剤及び親水化処理方法を用いることができる。
親水化処理剤としては、例えば、上記特許文献1(特開2003−003282号公報)に記載の変性ポリビニルアルコール、リン化合物塩、ホウ素化合物塩、親水性有機化合物、架橋剤等を混合した親水化処理剤、上記特許文献2(特開2006−069197号公報)に記載のポリビニルアルコール、ポリオキシアルキレン変性ポリビニルアルコール、無機架橋剤、グアニジン化合物等を混合した親水化処理剤等を用いることができる。
【0027】
この記親水化処理剤には、必要に応じて上記以外の各種添加剤を使用することができる。この添加剤としては、潤滑剤、抗菌剤、防カビ剤、防腐剤、防バクテリア剤、界面活性剤、顔料、染料、耐食性付与のためのインヒビターが挙げられる。
この親水化処理剤は、従来公知の方法により調製することができ、例えば、変性ポリビニルアルコール、リン化合物塩、ホウ素化合物塩、親水性有機化合物、架橋剤等を溶解又は分散させる。分散には、必要に応じて超音波分散機、微小媒体分散機等により強制的に分散させる方法等を用いることができる。溶媒又は分散媒は特に限定されないが、廃液処理等の観点から水を主体とするものが好ましい。
親水化処理剤を含有する溶液又は分散液の固形分濃度は、作業性、経済性等から好適な範囲で選択されるが、通常、1〜10質量%の溶液で使用される。
【0028】
この親水化処理剤を含有する溶液又は分散液を用いた親水化処理の方法としては特に限定されず、例えば、浸漬法、塗布法等が挙げられる。NB熱交換器は、複雑な形状を有するので、浸漬法が好ましい。この親水化処理において、浸漬法の場合、溶液又は分散液の温度は10〜60℃程度が好ましく、処理の時間は3秒間〜5分間程度が好ましい。この親水化処理により固形皮膜量が0.02〜3g/m2の皮膜を形成する。
そして、この親水化処理の後、100〜220℃で10〜60分間焼き付けることにより親水性皮膜を得ることができる。焼付け温度が100℃未満であると、造膜性が不充分となり、220℃を超えると、親水持続性が低下する。好ましくは、120〜200℃である。
【実施例】
【0029】
以下本発明について実施例をあげてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
〔リチウム処理液の作製〕
水酸化リチウム、pH調製用の硫酸及びアンモニアを用いて、表1に記載のリチウム濃度及びpHに調整したリチウム処理液を作製した。
〔セリウム化成処理液の作製〕
硫酸第二セリウム、pH調製用の硫酸及びアンモニアを用いて、表1に記載のセリウム濃度及びpHに調整したセリウム化成処理液を作製した。
【0030】
〔ジルコニウム化成処理液の作製〕
ジルコニウム化成処理剤(アルサーフ95、日本ペイント社製)、pH調製用の硫酸及びアンモニアを用いて、表1に記載のジルコニウム濃度及びpHに調整したジルコニウム化成処理液を作製した。
〔親水化処理液の作製〕
アルミニウム用の有機タイプの親水化処理剤(サーフアルコート2100、日本ペイント社製)を用いた。
【0031】
実施例1〜25及び比較例1〜3
熱交換器として、フッ化アルミニウムカリウム系フラックスでNBろう付けしたアルミニウム製の自動車用熱交換器を使用した。なお、ろう付けされたフラックス残渣量は、Kとして20mg/m2(フィン表面)であった。
そして、この熱交換器を試験片として0.1m2の大きさにカットして、表1に記載のリチウム処理液の温度及び表面処理の時間で上記のリチウム処理液に浸漬し、引き上げた後に水道水で充分に洗浄した。ただし、比較例1の場合は、リチウム処理液に代えてアンモニア水溶液を用いた。
実施例1〜25及び比較例2〜3の試験片について、X線光電子分光分析(XPS装置:KRATOS社製AXIS−NOVA、X線源:mono−Al)を行ない、表面にリチウム皮膜が形成されていることを確認した。
次に、この試験片を表1に記載のセリウム化成処理液の温度及び化成処理の時間で上記のセリウム化成処理液に浸漬し、引き上げた後に水道水で充分に洗浄した。ただし、比較例2の場合は、セリウム処理液に代えて硫酸水溶液を用いた。
実施例1〜25及び比較例3の試験片について、蛍光X線で分析(島津製作所製、XRF−1700)を行い、表面にセリウム皮膜が形成されていることを確認した。
さらに、この試験片を表1に記載のジルコニウム化成処理液の温度及び化成処理の時間で上記のジルコニウム化成処理液に浸漬し、引き上げた後に水道水で充分に洗浄した。ただし、比較例3の場合は、ジルコニウム化成処理を行わなかった。
次に、この試験片を20℃の上記の親水化処理液に1分間浸漬し、引き上げた後、到達温度140℃で30分間加熱して、親水化処理した試験片を得た。
【0032】
上記の実施例及び比較例についての評価は、以下のようにして行った。
〔防錆性の評価〕
親水化処理した試験片をJIS Z 2371に基づき、5%の食塩水を35℃で噴霧し、1000時間放置した(SST試験)。
乾燥した試験片について、発生した白錆が全量落ちるように、金属バットで30回叩きつけ、得られた白錆の量を測定した。この測定結果を表1に示す。
〔親水性の評価〕
親水化処理した試験片を流水に72時間接触させた後、自動接触角計(協和界面化学社製 CA−Z)を用いて水滴の接触角を測定した。親水性としては、接触角が40°以下となることが好ましいが、実施例、比較例ともに、接触角は全て40°以下であった。
【0033】
【表1】

【0034】
実施例1〜25によれば、白錆発生量は、0.22〜0.30g/cm2であった。これに対し、リチウム処理液による表面処理をしていない(アンモニアで処理している)比較例1では白錆発生量は0.68g/cm2であり、セリウム化成処理していない(硫酸で処理している)比較例2では白錆発生量は0.37g/cm2であり、ジルコニウム化成処理をしていない比較例3では白錆発生量は0.72g/cm2であった。
これらの実施例及び比較例から、本発明のリチウム処理液による表面処理、セリウム化成処理及びジルコニウム化成処理を行えば、防錆性が向上することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の熱交換器の防錆処理方法によれば、NB熱交換器において、これを構成するアルミニウムフィン等の表面にフラックス残渣が存在しても、NB熱交換器の防錆性、親水性等を高めることができるので、この方法により処理されたNB熱交換器は、自動車用エアコンにおける熱交換器として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノコロックろう付け法によりフラックスろう付けした熱交換器を、リチウムを含有するpH7以上のリチウム処理液で表面処理した後、セリウムを含有するpH1.5〜3のセリウム化成処理液でセリウム化成処理し、その後、ジルコニウムを含有するpH3〜5のジルコニウム化成処理液でジルコニウム化成処理する熱交換器の防錆処理方法。
【請求項2】
前記リチウム処理液中のリチウムの含有量が50〜5000ppmである請求項1に記載の熱交換器の防錆処理方法。
【請求項3】
前記リチウム処理液の温度が20〜90℃であり、前記リチウム処理の時間が5〜900秒である請求項1又は2に記載の熱交換器の防錆処理方法。
【請求項4】
前記セリウム化成処理液中のセリウムの含有量が500〜2000ppmである請求項1〜3のいずれかに記載の熱交換器の防錆処理方法。
【請求項5】
前記セリウム化成処理液の温度が40〜70℃であり、前記セリウム化成処理の時間が10〜60秒である請求項1〜4のいずれかに記載の熱交換器の防錆処理方法。
【請求項6】
前記ジルコニウム化成処理液中のジルコニウムの含有量が50〜5000ppmである請求項1〜5のいずれかに記載の熱交換器の防錆処理方法。
【請求項7】
前記ジルコニウム化成処理液の温度が50〜70℃であり、前記ジルコニウム化成処理の時間が20〜900秒である請求項1〜6のいずれかに記載の熱交換器の防錆処理方法。
【請求項8】
前記ジルコニウム化成処理した後、さらに親水化処理する請求項1〜7のいずれかに記載の熱交換器の防錆処理方法。

【公開番号】特開2011−153341(P2011−153341A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14538(P2010−14538)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】