説明

熱交換器及びその製造方法

【課題】空気中に汚染物質が多い環境下においても防汚性能及び親水性を保持し得ると共にフィンの腐食を防止し得る被膜を備えた熱交換器の製造方法を提供する。
【解決手段】被膜が形成されたフィンを有する熱交換器の製造方法であって、前記フィン上に親水性有機被膜を形成した後、Ti、Zr及びAlからなる群から選択される1種以上の金属を有する金属アルコキシ化合物及び/又は金属キレート化合物を前記親水性有機被膜の表層と反応させることを特徴とする熱交換器の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器及びその製造方法に関し、詳細には、一般的な建築物の他、溶接や切断などの金属の加工現場、金属粉塵を取り扱う事業所、鉄道などの車両、その他の関連施設において使用される空気調和機の熱交換器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換器は、冷媒が通るパイプに多数枚のフィン(例えば、アルミフィン)が取り付けられた構造を有しており、表面積が大きいフィンによって熱交換効率を高めている。このフィンの表面には、冷暖房時に凝結水が付着し易く、フィン間が凝結水によって封鎖される現象(以下、「ブリッジ現象」という。)によって通風抵抗が増大して熱交換効率が低下することがある。特に、ブリッジ現象は、粉塵などの汚れがフィンの表面に付着することによって起こり易くなるため、防汚性能に優れた有機系又は無機系の親水性被膜をフィンの表面に形成することによってブリッジ現象を一般に防止している。ここで、本明細書において「防汚性能」とは、汚れが付着し難い性能、及び付着した汚れが除去され易い性能を意味する。
【0003】
しかしながら、無機系の親水性被膜は、水ガラスやベーマイトなどの無機成分を多量に含む場合、臭いの吸着が起こり易いため、有機系の親水性被膜を用いることが多い。その一方、有機系の親水性被膜は、時間の経過と共に、有機成分の分解、劣化、又は凝結水への溶解などが起こり易く、親水性被膜の防汚性能や親水性が低下してしまう。
そこで、このような親水性被膜の防汚性能及び親水性の低下を防止するために、様々な塗料を用いて親水性被膜を形成する技術が提案されている。例えば、特許文献1では、変性ポリビニルアルコール及び架橋剤を含む塗料を用いて親水性被膜を形成する方法が提案されている。また、特許文献2では、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール及び架橋剤を含む塗料を用いて親水性被膜を形成する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−36757号公報
【特許文献2】特開平8−261688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、フィンの表面は、凝結水、熱、光、空気などに曝されることから、これらの様々な要因によって、フィンの表面に形成された親水性被膜の防汚性能や親水性が低下したり、親水性被膜の劣化によってフィンが腐食したりすることがある。また、空気調和機は様々な環境下で使用されることが多く、特に、空気中に汚染物質(例えば、鉄、銅又はこれらの合金の金属粒子、特に、鉄粉)が多い場合にはフィンに汚染物質が付着する。この汚染物質の付着もまた、親水性被膜の防汚性能及び親水性の低下やフィンの腐食を生じさせる要因となる。特許文献1及び2では、この汚染物質の付着による親水性被膜の防汚性能及び親水性の低下やフィンの腐食に関する問題を取り扱っていない。
【0006】
すなわち、特許文献1及び2の親水性被膜は、空気中に汚染物質が少ない通常の環境下においては、防汚性能及び親水性を保持することができるものの、空気中に汚染物質が多い環境下(例えば、溶接や切断などの金属の加工現場、金属粉塵を取り扱う事業所、鉄道などの車両、その他の関連施設)においては、汚染物質の付着によって防汚性能及び親水性が徐々に低下する。具体的には、特許文献1及び2の親水性被膜は有機系であるため、汚染物質が凝結水に溶解することによって生じた金属イオン成分が、触媒として作用し、有機成分の劣化を促進させる。その結果、親水性被膜の防汚性能及び親水性が低下すると共に、フィンの腐食なども起こる。
【0007】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、空気中に汚染物質が多い環境下においても防汚性能及び親水性を保持し得ると共にフィンの腐食を防止し得る被膜を備えた熱交換器及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記のような問題を解決すべく鋭意研究した結果、フィン上に親水性有機被膜を形成した後、Ti、Zr及びAlからなる群から選択される1種以上の金属を有する金属アルコキシ化合物及び/又は金属キレート化合物を用いて親水性有機被膜の表層を処理することで、汚染物質に起因する金属イオン成分の親水性有機被膜中への侵入を防止して親水性有機被膜の劣化を抑制することができ、空気中に汚染物質が多い環境下においても防汚性能及び親水性を保持すると共にフィンの腐食も防止することができることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、被膜が形成されたフィンを有する熱交換器の製造方法であって、前記フィン上に親水性有機被膜を形成した後、Ti、Zr及びAlからなる群から選択される1種以上の金属を有する金属アルコキシ化合物及び/又は金属キレート化合物を前記親水性有機被膜の表層と反応させることを特徴とする熱交換器の製造方法である。
また、本発明は、被膜が形成されたフィンを有する熱交換器であって、前記被膜は、前記フィン上に形成された親水性有機被膜と、前記親水性有機被膜の表層にTi、Zr及びAlからなる群から選択される1種以上の金属を有する金属アルコキシ化合物及び/又は金属キレート化合物を反応させた反応層とを有することを特徴とする熱交換器である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、空気中に汚染物質が多い環境下においても防汚性能及び親水性を保持し得ると共にフィンの腐食を防止し得る被膜を備えた熱交換器及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施の形態1の熱交換器のフィンの表面に形成された被膜の断面図である。
【図2】一般的な熱交換器の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
以下、図面を参照して本実施の形態の熱交換器及びその製造方法について説明する。
図1は、熱交換器のフィンの表面に形成された被膜の断面図である。図1において、フィン1の表面には、親水性有機被膜2及び反応層3が順次形成されている。
【0013】
フィン1上に形成される親水性有機被膜2は、フィン1の表面に形成される被膜の親水性を担う被膜である。親水性有機被膜2としては、特に限定されず、当該技術分野において一般に用いられている親水性の有機被膜であればよい。具体的には、極性基(例えば、ヒドロキシ基やカルボキシ基など)を有し、水に溶解しないものであればよい。親水性有機被膜2の例としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン若しくはポリアクリルアミドの単独重合体、共重合体又は変性体;アクリル酸若しくはメタクリル酸の単独重合体、共重合体又はその塩;エポキシ樹脂やウレタン樹脂などから形成される被膜が挙げられる。また、フッ素樹脂やシリコーン樹脂などの樹脂であっても、極性基を有するものであれば使用可能である。これらは、単独でも2種以上の成分を組み合わせて用いてもよい。2種以上の成分を組み合わせて用いる場合、2種以上の成分が均一に混合したものでも相分離したものであってもよい。また、親水性有機被膜2には、シリカ、チタニアなどの無機物を含有させてもよい。
【0014】
親水性有機被膜2の厚さは、特に限定されないが、好ましくは0.1μm以上15μm以下である。親水性有機被膜2の厚さが0.1μm未満であると、フィン1の腐食を十分に防止できないことがある。一方、親水性有機被膜2の厚さが15μmを超えると、熱交換効率が低下してしまうことがある。
【0015】
親水性有機被膜2は、上記のような親水性有機被膜2を与える成分を含む塗料をフィン1上に塗布及び乾燥することによって形成することができる。この塗料には、親水性有機被膜2の不溶化及び強度向上の観点から、架橋剤、ラジカル開始剤、反応性成分などの公知の添加剤を配合してもよい。これらの各成分の配合量は、特に限定されず、種類に応じて適宜調整すればよい。
塗料の塗布方法としては、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法に準じて行うことができる。塗料の塗布方法の例としては、刷毛塗り、スプレー塗布、浸漬、ロールコーターによる塗布などが挙げられる。
塗料の乾燥方法としては、特に限定されず、室温で放置すればよい。また、加熱することによって乾燥を促進させてもよい。
【0016】
親水性有機被膜2上に形成される反応層3は、Ti、Zr及びAlからなる群から選択される1種以上の金属を有する金属アルコキシ化合物及び/又は金属キレート化合物を親水性有機被膜2の表層と反応させることによって形成される層である。
一般に、親水性有機被膜2中の極性基(例えば、ヒドロキシ基やカルボキシ基など)は、汚染物質(例えば、鉄、銅又はこれらの合金の金属粒子)が凝結水に溶解することによって生じた金属イオン成分と反応して結合し、親水性有機被膜2の分解を促進させる。そこで、金属アルコキシ化合物及び/又は金属キレート化合物を親水性有機被膜2の表層の極性基と予め反応させて結合することにより、親水性有機被膜2中の極性基と金属イオンと成分との反応を防止する。これにより、汚染物質に起因する金属イオン成分の親水性有機被膜2中への侵入を防止し、親水性有機被膜2の劣化を抑制することができる。また、この反応層3は、親水性有機被膜2の表層の強度や耐水性なども高めることができる。
【0017】
また、親水性有機被膜2を形成した後、親水性有機被膜2の表層のみを金属アルコキシ化合物及び/又は金属キレート化合物と反応させて反応層3を形成することで、親水性有機被膜2のクラックなどの欠陥を防止し、親水性有機被膜2の柔軟性を確保することができる。そのため、フィン1と親水性有機被膜2との密着性が低下することもない。
【0018】
金属アルコキシ化合物としては、Ti、Zr及びAlからなる群から選択される1種以上の金属を有していれば特に限定されない。金属アルコキシ化合物のアルコキシ基の例としては、エトキシ基、ブトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペントキシ基、オクトキシ基、ベンゾキシ基、フェノキシ基などが挙げられる。また、このアルコキシ化合物の金属原子には、同種のアルコキシ基が結合していても、異種のアルコキシ基が結合していてもよい。金属アルコキシ化合物の例としては、テトラブトキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラブトキシジルコニウムなどが挙げられる。これらの金属アルコキシ化合物は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
金属キレート化合物としては、Ti、Zr及びAlからなる群から選択される1種以上の金属を有していれば特に限定されない。金属キレート化合物の配位子の例としては、クエン酸、シュウ酸、乳酸などの有機酸;トリエタノールアミン、ジエタノールアミンなどのアミン類;各種アミノ酸;トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA);ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG);エチレンジアミン四酢酸(EDTA);ニトリロ三酢酸(NTA);グルコン酸;1,3−プロパンジアミン四酢酸;1,3−ジアミノ−2−プロパノール四酢酸などが挙げられる。金属キレート化合物の例としては、チタンアセチルアセトナート、ジルコニウムアセチルアセトナート、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート、ジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウム、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)などが挙げられる。これらの金属キレート化合物は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
Ti、Zr及びAlからなる群から選択される1種以上の金属を有する金属アルコキシ化合物及び/又は金属キレート化合物を親水性有機被膜2の表層と反応させる方法としては、特に限定されず、金属アルコキシ化合物及び/又は金属キレート化合物を親水性有機被膜2の表層に接触させればよい。具体的には、金属アルコキシ化合物及び/又は金属キレート化合物を気化して親水性有機被膜2の表層に接触させたり、金属アルコキシ化合物及び/又は金属キレート化合物を含む溶液を親水性有機被膜2の表層に接触させたりすればよい。これらの中でも、親水性有機被膜2上に反応層3を均一に形成する観点からは、金属アルコキシ化合物及び/又は金属キレート化合物を含む溶液を親水性有機被膜2の表層に接触させることが好ましい。また、この方法を用いれば、親水性有機被膜2上に未反応の金属アルコキシ化合物及び/又は金属キレート化合物の残留を少なくすることもできる。
【0021】
金属アルコキシ化合物を含む溶液を用いる場合、溶液の溶媒には、アルコールなどの有機溶媒を用いることができ、金属アルコキシ化合物のアルコキシ基と同じ炭素数のアルコールを用いることが好ましい。この溶液中の金属アルコキシ化合物の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.2質量%以上10質量%以下、より好ましくは0.25質量%以上5質量%以下である。金属アルコキシ化合物の含有量が0.2質量%未満であると、親水性有機被膜2の表層に金属アルコキシ化合物を十分に反応させることができず、反応層3が十分に形成されない場合がある。一方、金属アルコキシ化合物の含有量が10質量%を超えると、反応層3中に未反応の金属アルコキシ化合物が多く残留し易くなり、製造コストが上昇する。なお、この溶液には、アルコール以外にも蒸発速度や引火性などを調整する観点から、アルコール以外の公知の溶剤を配合してもよい。
【0022】
金属キレート化合物を含む溶液を用いる場合、溶液の溶媒には、アルコールなどの有機溶媒の他、水を用いることができる。水としては、特に限定されないが、無機微粒子の分散安定性の観点から、カルシウムやマグネシウムイオンなどの2価以上のイオン性不純物が少ない方が好ましく、脱イオン水であることがより好ましい。この溶液中の金属キレート化合物の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.2質量%以上10質量%以下、より好ましくは0.25質量%以上5質量%以下である。金属キレート化合物の含有量が0.2質量%未満であると、親水性有機被膜2の表層に金属キレート化合物を十分に反応させることができず、反応層3が十分に形成されない場合がある。一方、金属キレート化合物の含有量が10質量%を超えると、反応層3中に未反応の金属キレート化合物が多く残り、製造コストが上昇する。
特に、金属キレート化合物を用いる場合は、金属アルコキシ化合物の場合と異なり、アルコールなどの有機溶剤を用いなくてもよいため、引火などの危険性や環境負荷を低減することができる。
【0023】
金属アルコキシ化合物及び/又は金属キレート化合物を含む溶液は、親水性有機被膜2の表層に塗布及び乾燥することによって反応層3を形成することができる。
溶液の塗布方法としては、特に限定されず、上記の塗料の塗布方法と同様に当該技術分野において公知の方法に準じて行うことができる。
溶液の乾燥方法としては、特に限定されず、上記の塗料の塗布方法と同様に室温で放置すればよい。また、加熱することによって乾燥を促進させてもよい。
【0024】
溶液の塗布及び乾燥後、反応層3の形成を十分に行う観点から、必要に応じて加熱処理を行ってもよい。加熱処理の方法は、特に限定されないが、40℃以上180℃以下のオーブン又は温風の吹き付けによって行うことが好ましい。加熱温度が40℃未満であると、加熱処理による効果が十分に得られない場合がある。一方、加熱温度が180℃を超えると、被膜の親水性が低下してしまう場合がある。また、加熱時間は、特に限定されないが、30秒以上15分以下であることが好ましい。加熱時間が30秒未満では、加熱処理による効果が十分に得られない場合がある。一方、加熱時間が15分を超えると、量産性に欠けると共に、被膜の親水性が低下してしまう場合がある。
【0025】
図2は、一般的な熱交換器の斜視図である。図2に示すように、熱交換器は、冷媒が通るパイプ11に多数枚のフィン10が取り付けられている。このような構造を有する熱交換器は、フィンとなる材料(以下、「フィン材」という。)を打ち抜き、プレス成形してフィンを作製した後、フィン10をパイプ11に挿入することによって製造される。
本実施の形態の製造方法では、フィン1に被膜を形成するため、熱交換器の製造工程の途中で被膜が損傷を受けてしまう場合がある。そのため、最表面の反応層3の損傷を防止する観点からは、フィン1への反応層3の形成は、冷媒が通るパイプ11にフィン1を接合することによって熱交換器を組み立てた後に行うことが好ましい。この場合、上記の溶液の塗布は、均一な塗布を行う観点から、スプレー塗布や浸漬により行うことが好ましい。また、各塗料を塗布した後は、熱交換器を回転させたり、気流によって過剰な塗料を除去することが好ましい。
【0026】
上記のようにしてフィン1に形成された被膜は、空気中に汚染物質が多い環境下においても防汚性能及び親水性を保持し得ると共にフィンの腐食を防止し得るので、熱交換器の熱交換効率が低下することを抑制することができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例及び比較例により本発明の詳細を説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。
(実施例1)
3質量%のポリビニルアルコール(日本合成化学工業株式会社製ポリビニルアルコールZ−200)を含む水溶液100質量部に対して5質量部のグリオキザールを配合して混合することによって塗料を作製した。
次に、5質量%のテトラブトキシチタンを含むブタノール溶液を作製した。
次に、アルミフィンに上記の塗料をスプレー塗布した後、140℃で5分間加熱することによって親水性有機被膜(膜厚0.8μm)を形成した。次に、この親水性有機被膜に上記の溶液をスプレー塗布した後、60℃で1時間加熱し、親水性有機被膜の表層に反応層を形成した。
【0028】
(実施例2)
ブタノール溶液中のテトラブトキシチタンの含有量2質量%にすると共に、この溶液に親水性有機被膜を40℃で10分間浸漬した後、60℃で1時間加熱して親水性有機被膜の表層に反応層を形成したこと以外は実施例1と同様にしてアルミフィン上に被膜を形成した。
(実施例3)
ブタノール溶液中のテトラブトキシチタンの含有量を3質量%にしたこと以外は実施例1と同様にしてアルミフィン上に被膜を形成した。
(実施例4)
ブタノール溶液中のテトラブトキシチタンの含有量を8質量%にしたこと以外は実施例1と同様にしてアルミフィン上に被膜を形成した。
【0029】
(実施例5)
5質量%のテトラブトキシチタンを含むブタノール溶液の代わりに、1.5質量%のテトラブトキシジルコニウムを含むブタノール溶液を用いると共に、この溶液に親水性有機被膜を40℃で10分間浸漬した後、60℃で1時間加熱して親水性有機被膜の表面に反応層を形成したこと以外は実施例1と同様にしてアルミフィン上に被膜を形成した。
(比較例1)
実施例1と同様にして親水性有機被膜を形成したが、親水性有機被膜の表層に反応層を形成しなかった。
【0030】
実施例1〜5及び比較例1で得られた被膜を水で湿潤させた後、平均粒径45μmの鉄粉を吹き付け、湿潤状態を保持したまま3日間放置した。次に、この被膜を乾燥させ、水流を吹き付けた後、被膜表面の鉄粉(鉄錆)の固着状態を目視にて観察した。次に、1%の水酸化ナトリウム水溶液に1分間浸漬して鉄粉を除去し、鉄粉が固着していた部分の被膜の剥離の有無を観察した。これらの観察の結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1に示されているように、実施例1〜5の被膜は、鉄粉の固着が少なく、鉄粉に起因する被膜の劣化も少なかった。なお、実施例1及び4の被膜は、一部剥離していたものの、実用可能な程度のものであった。
一方、比較例1の被膜は、鉄粉の固着が多かったことから、鉄粉などの汚染物質が付着し易いと考えられる。また、水酸化ナトリウム水溶液に浸漬させた後に被膜が溶解して剥離したことから、鉄粉から生じた鉄イオンによって被膜が劣化したと考えられる。
【0033】
(実施例6)
3質量%のチタンアセチルアセトナートを含む2−プロパノール溶液を作製した。
次に、実施例1と同様にしてアルミフィンに親水性有機被膜(膜厚0.8μm)を形成した後、銅パイプと接合して、幅25mm、高さ150mm、フィンピッチ2mmの熱交換器を作製した。次に、この熱交換器を上記の2−プロパノール溶液に約10秒間浸漬して引き上げ、気流で過剰の2−プロパノール溶液を除去した後、140℃のオーブンで10分間加熱し、親水性有機被膜の表層に反応層を形成した。
【0034】
(実施例7)
3質量%のチタンアセチルアセトナートを含む2−プロパノール溶液の代わりに、2質量%のジルコニウムアセチルアセトナートを含む2−プロパノール溶液を用いたこと以外は実施例6と同様にしてアルミフィン上に被膜を形成した熱交換器を作製した。
【0035】
(実施例8)
3質量%のチタンアセチルアセトナートを含む2−プロパノール溶液の代わりに、3質量%のアセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレートを含む2−プロパノール溶液を用いると共に、加熱処理を200℃のオーブンで10分間行ったこと以外は実施例6と同様にしてアルミフィン上に被膜を形成した熱交換器を作製した。
【0036】
(実施例9)
3質量%のチタンアセチルアセトナートを含む2−プロパノール溶液の代わりに、10質量%のジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)を含む水溶液を用いたこと以外は実施例6と同様にしてアルミフィン上に被膜を形成した熱交換器を作製した。
【0037】
(実施例10)
3質量%のチタンアセチルアセトナートを含む2−プロパノール溶液の代わりに、5質量%のジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)を含む水溶液を用いたこと以外は実施例6と同様にしてアルミフィン上に被膜を形成した熱交換器を作製した。
【0038】
(実施例11)
3質量%のチタンアセチルアセトナートを含む2−プロパノール溶液の代わりに、5質量%のジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)を含む水溶液を用いると共に、加熱処理を200℃のオーブンで10分間行ったこと以外は実施例6と同様にしてアルミフィン上に被膜を形成した熱交換器を作製した。
【0039】
(実施例12)
3質量%のチタンアセチルアセトナートを含む2−プロパノール溶液の代わりに、3質量%のジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウムを含む水溶液を用いると共に、加熱処理を200℃のオーブンで10分間行ったこと以外は実施例6と同様にしてアルミフィン上に被膜を形成した熱交換器を作製した。
【0040】
(比較例2)
実施例6と同様にして親水性有機被膜を形成し、親水性有機被膜の表層に反応層を形成しなかったこと以外は、実施例6と同様にしてアルミフィン上に被膜を形成した熱交換器を作製した。
【0041】
実施例6〜12及び比較例2の熱交換器のアルミフィンに形成された被膜について、熱交換器を水に浸漬した後、水を振り切り、約20m/秒の気流を流しながら平均粒径45μmの鉄粉を吹き付けることによって鉄粉をアルミフィンに付着させた。その後、湿潤状態を保持したまま3日間放置した。次に、被膜を乾燥させ、水流を吹き付けた後、被膜表面の鉄粉(鉄錆)の固着状態を目視にて観察した。次に、1%の水酸化ナトリウム水溶液に1分間浸漬して鉄粉を除去し、鉄粉が付着していた部分の被膜の剥離の有無を観察した。これらの観察の結果を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
表2に示されているように、実施例6〜12の被膜は、鉄粉の固着が少なく、鉄粉に起因する被膜の劣化も少なかった。なお、実施例6、8〜10及び12の被膜は、一部剥離していたものの、実用可能な程度のものであった。
一方、比較例2の被膜は、鉄粉の固着が多かったことから、鉄粉などの汚染物質が付着し易いと考えられる。また、水酸化ナトリウム水溶液に浸漬させた後に被膜が溶解して剥離したことから、鉄粉から生じた鉄イオンによって被膜が劣化したと考えられる。
【0044】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、空気中に汚染物質が多い環境下においても防汚性能及び親水性を保持し得ると共にフィンの腐食を防止し得る被膜を備えた熱交換器及びその製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 フィン、2 親水性有機被膜、3 反応層、10 フィン、11 パイプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被膜が形成されたフィンを有する熱交換器の製造方法であって、
前記フィン上に親水性有機被膜を形成した後、Ti、Zr及びAlからなる群から選択される1種以上の金属を有する金属アルコキシ化合物及び/又は金属キレート化合物を前記親水性有機被膜の表層と反応させることを特徴とする熱交換器の製造方法。
【請求項2】
Ti、Zr及びAlからなる群から選択される1種以上の金属を有する金属アルコキシ化合物及び/又は金属キレート化合物を含む溶液を前記親水性有機被膜の表層と接触させることを特徴とする請求項1に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項3】
前記溶液中の金属アルコキシ化合物及び/又は金属キレート化合物の含有量は、10質量%以下であることを特徴とする請求項2に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項4】
前記フィン上に前記親水性有機被膜を形成した後、前記溶液を前記親水性有機被膜と接触させる前に、冷媒が通るパイプに前記フィンを接合することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項5】
被膜が形成されたフィンを有する熱交換器であって、
前記被膜は、前記フィン上に形成された親水性有機被膜と、前記親水性有機被膜の表層にTi、Zr及びAlからなる群から選択される1種以上の金属を有する金属アルコキシ化合物及び/又は金属キレート化合物を反応させた反応層とを有することを特徴とする熱交換器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−189273(P2012−189273A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53928(P2011−53928)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】