説明

熱交換器及び熱交換器の製造方法

【課題】熱交換管の防食を図りつつ、フィンと熱交換管との密着性を維持できる熱交換器、及び、熱交換器の製造方法を提供する。
【解決手段】熱交換管4と、熱交換管4が貫通する貫通穴5aを有した板状フィン5と、を備えた熱交換器において、板状フィン5が、Al−Mn系合金で形成される芯材層52と、一端面を構成するAl−Si系合金で形成されるろう材層51と、他端面を構成するAl−Zn−Mg系合金で形成される犠牲腐食層53からなる3層構造を有すると共に、貫通穴5aの周囲に立ち上がりかつろう材層51を内周面とする筒状部5bを備えるようにする。そして、熱交換管4に対して複数積層させた板状フィン5を、ろう材層51の溶融によるろう付けによって熱交換管4に接合した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換管と、前記熱交換管が貫通する貫通穴を有した複数の板状フィンと、を備えた熱交換器、及び、前記熱交換器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、板状フィンに、熱交換管が貫通する貫通穴を形成すると共に、貫通穴の周囲に立ち上がる筒状部を設け、係る板状フィンを熱交換管に対して複数積層した後、熱交換管の径を拡げることで板状フィンの筒状部と熱交換管とを密着させ、更に、前記筒状部の外側に犠牲腐食層を設けることで、熱交換管と接続する筒状部の内側層の腐食を抑止するようにした熱交換器が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
また、熱交換管の耐食性を向上させる技術としては、アルミニウム合金製の熱交換管の外表面に、ケイ素Si粉と亜鉛Zn含有フラックスとが含まれるフラックス層を形成させ、この熱交換管で波形のフィン(コルゲートフィン)を挟み込んで組み立て、この組み立て体を加熱することで、フィンを熱交換管に対してろう付けし、このろう付けのときに、ろう液にフラックス中の亜鉛Znが拡散して熱交換管の表面に広がり、熱交換管の表面に広がった亜鉛Znの犠牲腐食効果によって、熱交換管の耐食性を向上させることが知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−250510号公報
【特許文献2】特開2009−249728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1のように、貫通穴の周囲に立ち上がる筒状部を備えた板状フィンを積層させ、熱交換管の径を拡げることで板状フィンの筒状部と熱交換管とを密着させる場合、例えば隣り合う筒状部間の隙間などから侵入した凝縮水が熱交換管の表面に付着することがあり、たとえ熱交換管と熱交換管に密着する筒状部の内側層との腐食電位の差(自然電位の差)を大きく設定していても、熱交換管の腐食を十分に防止することができず、また、熱交換管と板状フィンとの密着性が低下してしまう可能性があった。
また、特許文献2のように、熱交換管の表面を犠牲腐食層で覆えば、外側の犠牲腐食層が犠牲的に腐食して内側の熱交換管の腐食を抑制できるものの、フィンが犠牲腐食層を介して熱交換管に接合されるため、犠牲腐食層が腐食すると、フィンが脱落したり、フィンと熱交換管との密着性が低下したりするという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、熱交換管の防食を図りつつ、フィンと熱交換管との密着性を維持できる熱交換器、及び、前記熱交換器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る熱交換器は、熱交換管と、熱交換管が貫通する貫通穴を有した板状フィンと、を備えた熱交換器であって、板状フィンが、芯材層と一端面を構成するろう材層とを少なくとも含む複層構造を有すると共に、貫通穴の周囲に立ち上がりかつろう材層を内周面とする筒状部を備え、熱交換管に対して複数積層させた板状フィンを、ろう材層によるろう付けによって熱交換管に接合した。
このような構成では、板状フィンの筒状部は、その内周面がろう材層で構成され、このろう材層によって板状フィンを熱交換管に対してろう付けするから、ろう材層で熱交換管の外表面が覆われ、また、熱交換管の外表面を覆うろう材層は、板状フィンを構成する他の層(芯材層を含む)で覆われることになる。
【0008】
ここで、板状フィンが、芯材層とろう材層と他端面を構成する犠牲腐食層とを含む複層構造を有することが好ましい。
このような構成では、熱交換管の外表面を覆うろう材層が、芯材層及び犠牲腐食層で覆われ、外側の犠牲腐食層が犠牲的に腐食することになる。
【0009】
また、板状フィンを構成する芯材層,ろう材層,犠牲腐食層のうちで、犠牲腐食層を形成する金属の腐食電位が最も低く、芯材層を形成する金属の腐食電位が最も高くなるようにするとよい。
このような構成では、犠牲腐食層を形成する金属の腐食電位(自然電位)が最も低いため、犠牲腐食層が最も腐食し易いのに対し、芯材層を形成する金属の腐食電位(自然電位)が最も高いため、芯材層が最も腐食し難く、犠牲腐食層次いでろう材層が犠牲的に腐食して、芯材層の腐食を抑制する。
【0010】
また、犠牲腐食層を、アルミニウムAl−亜鉛Zn−マグネシウムMg系合金で形成し、また、芯材層を、アルミニウムAl−マンガンMn系合金で形成し、ろう材層を、アルミニウムAl−ケイ素Si系合金で形成し、熱交換管を、アルミニウムAlで形成することができ、また、熱交換管を、銅Cuを添加したアルミニウムAlやアルミニウムAl−マンガンMn系合金で形成することもできる。
【0011】
また、前記熱交換管の断面形状を扁平とすることができる。
このような構成では、拡管による板状フィンの固定・密着が困難である、断面形状が扁平な熱交換管に対し、ろう付けによって板状フィンを接合する。
【0012】
一方、本願発明に係る熱交換器の製造方法は、熱交換管と、熱交換管が貫通する貫通穴を有した板状フィンと、を備えた熱交換器を製造する方法であって、板状フィンとして、芯材層と一端面を構成するろう材層とを少なくとも含む複層構造を有すると共に、貫通穴の周囲に立ち上がりかつろう材層を内周面とする筒状部を備えた複数の板状フィンを準備する工程と、複数の板状フィンを熱交換管に差し込んで積層し、筒状部で熱交換管を覆う行程と、ろう材層を溶融させ、複数の板状フィンを熱交換管に対してろう付けする行程と、を含む。
このような構成では、板状フィンの貫通穴に熱交換管を差し込んで積層すると、貫通穴の周囲に立ち上がる筒状部が熱交換管の外周を覆うことになり、かつ、筒状部の内周面はろう材層で構成されるので、板状フィンを熱交換管に対して積層させた後、筒状部のろう材層を溶融させると、複数の板状フィンが熱交換管に対してろう付けされ、また、筒状部のろう材層が溶融することで、熱交換管の外表面がろう材層で覆われ、更に、熱交換管の外表面を覆うろう材層の外側は、板状フィンを構成する他の層(芯材層を含む)で覆われることになる。
【0013】
ここで、板状フィンを準備する工程が、筒状部をバーリング加工によって形成する工程を含むことができる。
また、板状フィンを準備する工程が、芯材層とろう材層と他端面を構成する犠牲腐食層とを含む複層構造を有する板状フィンを複数準備するとよい。
このような構成では、熱交換管の外表面を覆うろう材層が、芯材層及び犠牲腐食層で覆われ、外側の犠牲腐食層が犠牲的に腐食することになる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る熱交換器によれば、熱交換管の外周が、板状フィンを熱交換管にろう付けするためのろう材層で覆われ、更に、熱交換管を覆うろう材層が、板状フィンを構成する他の層で覆われるので、熱交換管の耐食性が向上し、熱交換管の薄肉化を図ることができ、かつ、ろう材層の腐食を抑制でき、板状フィンと熱交換管との密着性を維持できる。
【0015】
また、本発明に係る熱交換器の製造方法によれば、板状フィンの筒状部の内周面がろう材層で構成されるので、筒状部に熱交換管を貫通させることで、板状フィンを熱交換管に対してろう付けするためのろう付け層を設けることができ、このろう付け層を溶融させることで、板状フィンを熱交換管に対して容易に接合できる。そして、ろう付け層を溶融させることで、熱交換管の外周がろう材層で覆われ、これによって熱交換管の腐食が抑制される。更に、熱交換管を覆うろう材層が、板状フィンを構成する他の層で覆われるので、ろう材層の腐食を抑制でき、板状フィンと熱交換管との密着性を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態における熱交換器を示す正面図である。
【図2】本発明の実施形態における熱交換管と板状フィンとの組み付け状態を示す部分拡大斜視図である。
【図3】本発明の実施形態における板状フィンを示す図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図4】本発明の実施形態における熱交換管と板状フィンとの組み付け状態を示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態における熱交換器の製造工程を示す図である。
【図6】本発明の実施形態におけるろう付け前の板状フィンの積層状態を示す断面図である。
【図7】本発明の実施形態におけるろう付け後の板状フィンの積層状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る熱交換器1の全体を示す正面図であり、この熱交換器1は、例えば車両用のヒートポンプ式エアコン装置などに用いることができる。
熱交換器1は、対向配置した一対のヘッダタンク(ヘッダパイプ)2,3と、ヘッダタンク2とヘッダタンク3との間を連結するように、相互に平行に間隔を空けて配置した複数の熱交換管4と、複数の熱交換管4を横断するように、相互に平行に間隔を空けて配置した複数の板状フィン5と、前記複数の板状フィン5の上端及び下端に設けたサイドプレート6,7とを備えている。
【0018】
熱交換管4は、JISA1050などの純アルミニウムAlや、純アルミニウムAlに少量の銅Cuを添加した材料や、JISA3003などのアルミニウムAl−マンガンMn系合金などを用い、例えば押し出し成形によって形成される。熱交換管4の断面形状は、図2に示すように、熱交換管4の延設方向(X軸方向)に直交しかつ板状フィン5の延設方向(Y軸方向)に直交する方向(Z軸方向)に長い扁平に形成され、その内部空間に熱交換媒体を流通させる。
ここで、熱交換管4の内部空間にインナフィンを挿入してもよく、また、熱交換管4の内部空間を相互に独立した媒体通路に仕切ることもできる。
【0019】
板状フィン5は、図2〜図4に示すように、熱交換管4の長手方向の幅W1よりも大きな幅W2を有する短冊状に形成し、かつ、長さは、全ての熱交換管4を横断する長さに設定してある。
また、板状フィン5には、熱交換管4が貫通する貫通穴5aが、幅方向の中央に、熱交換管4の配置に合わせて複数形成してある。尚、貫通穴5aは、後述するろう付けが行える範囲内の遊びを有して熱交換管4を嵌挿できる大きさに設定してある。
【0020】
更に、板状フィン5は、貫通穴5aの周囲に立ち上がる筒状部5bを一体的に備えている。これにより、熱交換管4を貫通穴5aに貫通させて複数の板状フィン5を積層させたときに、筒状部5b先端の環状端面54が、隣接する板状フィン5の貫通穴5aの開口端周縁に突き当たることで、筒状部5bの立ち上がり高さH1の間隔で、熱交換管4に対して板状フィン5が積層する。
【0021】
また、板状フィン5は、図4に示すように、3層構造を有している。板状フィン5の3層構造は、板状フィン5を熱交換管4に対してろう付けするときにろうとして機能するろう材層51,板状フィン5の本体部分を構成する芯材層52、及び、犠牲的に腐食して他の層の腐食を抑制する犠牲防食効果を有する犠牲腐食層53からなり、ろう材層51が板状フィン5の一端面を構成し、犠牲腐食層53が板状フィン5の他端面を構成し、ろう材層51及び犠牲腐食層53で芯材層52を挟んで板状フィン5を形成している。
【0022】
ろう材層51は、例えばJIS4343,JIS4032,JIS4043,JIS4045などのアルミニウムAl−ケイ素Si系合金で形成され、芯材層52は、例えばJIS3003,JIS3203などのアルミニウムAl−マンガンMn系合金で形成され、犠牲腐食層53は、例えばJIS7072などのアルミニウムAl−亜鉛Zn−マグネシウムMg系合金で形成される。
【0023】
ろう材層51,芯材層52及び犠牲腐食層53を形成する金属材料の選定においては、腐食電位(自然電位)が、「犠牲腐食層53を形成する金属の腐食電位」<「ろう材層51を形成する金属の腐食電位」<「芯材層52を形成する金属の腐食電位」となり、犠牲腐食層53が最も腐食し易く、芯材層52が最も腐食し難くなるようにしてある。
また、ろう材層51を構成する金属は、芯材層52、犠牲腐食層53及び熱交換管4の金属よりも融点が低い金属を用いている。
【0024】
尚、ろう材層51,芯材層52及び犠牲腐食層53を形成する金属材料は、腐食電位の高低(腐食し易さの順番)が上記の順となり、また、ろう付けが可能な金属材料であればよく、例示したアルミニウム合金に限定するものではない。
また、芯材層52が、金属材料が異なる(腐食電位が異なる)複数層で構成されていても良く、従って、板状フィン5を3層構造に限定するものではなく、4層以上の複層構造のものであってもよい。芯材層52を複数層で構成する場合も、各層を構成する金属の腐食電位が、犠牲腐食層53及びろう材層51を構成する金属の腐食電位よりも高くなるようにするとよい。
【0025】
板状フィン5の筒状部5bは、貫通穴5aの下穴をパンチングなどで形成した後に、バーリング加工(立ち上がり加工)を施すことによって、板状フィン5に対して一体的に形成する。ここで、筒状部5bを形成するバーリング加工においては、筒状部5bの内周面が、ろう材層51で構成され、筒状部5bの外周面が犠牲腐食層53で構成されるように、加工方向を設定する。そして、板状フィン5を、筒状部5bの内周面を構成するろう材層51の溶融によるろう付けによって、筒状部5bを貫通する熱交換管4に対して接合する。
尚、筒状部5bの開口先端部に、筒状部5bよりも外径の大きなフランジ部を一体に形成してもよい。
【0026】
次に、上記構成の熱交換器1の製造方法を、図5に従って概略的に説明する。
まず、最初の工程として、貫通穴5a及び筒状部5bを備え、ろう材層51,芯材層52及び犠牲腐食層53の3層構造を有する板状フィン5と共に、ヘッダタンク2,3、熱交換管4、サイドプレート6,7などの部品を準備する。
板状フィン5を準備する工程には、貫通穴5aの下穴をパンチングなどで形成する工程、及び、バーリング加工によって筒状部5bを形成する工程が含まれる。
【0027】
各部品を準備すると、次いで、これらの組み付けを行う。
組み付けにおいては、板状フィン5の貫通穴5aに熱交換管4を差し込んで、熱交換管4に対して複数の板状フィン5を、筒状部5bが一定方向を向くように積層させる。係る組み付けによって、複数の板状フィン5は、図6に示すように、筒状部5bの立ち上がり高さH1の間隔で相互に平行に積層され、熱交換管4の外周は、複数の筒状部5bによって覆われる。
【0028】
組み付けを完了すると、組み付け体を、ろう付けを行う炉に入れて例えば600℃程度にまで加熱し、この加熱によってろう材層51を溶融させ、筒状部5bの内周面を構成するろう材層51によって、板状フィン5を熱交換管4に対してろう付けする。
ろう材層51を構成する金属として、芯材層52、犠牲腐食層53及び熱交換管4の金属よりも融点が低い金属を用いており、炉を用いた加熱では、ろう材層51が溶融し、芯材層52、犠牲腐食層53及び熱交換管4が溶融しない温度に炉内温度を設定する。
【0029】
上記のろう付け工程の前の板状フィン5と熱交換管4との組み付け体では、図6に示すように、隣接する板状フィン5は相互に筒状部5bにおいて当接するものの、相互に接合された状態ではないが、炉を用いて組み付け体を加熱すると、筒状部5bの内周面を構成するろう材層51が溶融し、図7に示すように、隣り合う筒状部5bのろう材層51が互いに一体化し、筒状部5bの内周面を構成するろう材層51が連続して熱交換管4の外周を覆うようになる。
更に、筒状部5b先端の環状端面54と、隣接する板状フィン5のろう材層51との当接部分において、組み付け体を加熱したときにろう材層51が溶融することで、前記当接部分の隙間が埋められる。
【0030】
上記の熱交換器1によると、複数の板状フィン5のろう材層51が連続して熱交換管4の外周を覆うから、凝縮水が熱交換管4の外表面に付着して腐食させることを抑止でき、熱交換管4を薄肉化しても熱交換媒体の漏れを防止できる。そして、熱交換管4を薄肉化することで、熱交換性能を高めることができる。
また、板状フィン5を熱交換管4に対してろう付けするろう材層51の外側に、芯材層52及び犠牲腐食層53が積層され、最も外側の犠牲腐食層53が犠牲的に腐食して、芯材層52及びろう材層51の腐食が抑制される。
【0031】
更に、筒状部5b先端の環状端面54と、隣接する板状フィン5のろう材層51との当接部分の隙間が、ろう材層51の溶融によって埋められるから、前記当接部分から熱交換管4の外周を覆うろう材層51に向けて凝縮水が浸入することを抑止できる。
従って、板状フィン5を熱交換管4に対してろう付けするろう材層51が腐食して、熱交換管4に対する板状フィン5の密着性が低下することを防止できる。
【0032】
また、熱交換管4に対する積層状態で、ろう材層51及び犠牲腐食層53が露出する部分では、犠牲腐食層53が犠牲的に腐食し、次いで、ろう材層51が犠牲的に腐食するので、芯材層52の腐食を抑制できる。
従って、上記熱交換器1を、例えば特開平8−020234号公報に開示されるような車両用のヒートポンプ式エアコン装置に用いた場合、熱交換器1によって吸熱する暖房運転によって生じた凝縮水が熱交換器1に付着しても、熱交換管4及び板状フィン5の芯材層52の腐食を抑制でき、かつ、熱交換管4と板状フィン5との密着性を維持でき、熱交換性能を長期に亘って維持することができる。
【0033】
また、上記熱交換器1によると、ろう付け前においても板状フィン5を熱交換管4が保持するから、ろう付け治具が不要であって、ろう付け作業を容易に行える。
更に、波形のフィン(コルゲートフィン)を用いる熱交換器の場合、波形フィンの谷部に凝縮水が溜まり、腐食を進行させてしまうことがあるが、上記のような板状フィン5を用いる熱交換器1であれば凝縮水の排水性がよく、これによっても、腐食の進行を抑えることができる。
【0034】
また、上記のように、熱交換管4及び板状フィン5の各層を形成する金属を、アルミニウム系の金属(アルミニウムAl又はアルミニウム合金)に統一すれば、ろう付けのための加熱時にそれぞれが同程度に熱膨張することで、応力集中が発生することを抑制できる。
また、熱交換管4の耐食性を向上させるため、押し出し成形した熱交換管4の外表面に、Zn皮膜を溶射などによって形成する必要がなく、熱交換器1のコストダウンを図ることができる。
【0035】
尚、上記実施形態では、板状フィン5の一端面をろう材層51で構成し、他端面を犠牲腐食層53で構成したが、芯材層52を構成する金属として、犠牲腐食層53を備えなくても十分な耐食性を備える程度に腐食電位(自然電位)が高い金属(例えば、Al−Mn系合金よりも腐食電位が高い金属)を用いて、板状フィン5をろう材層51と芯材層52との2層構造とすることが可能である。この場合、板状フィン5の一端面がろう材層51で構成され、他端面が芯材層52で構成されることになり、筒状部5bの内周面をろう材層51で構成することで、上記実施形態と略同様な作用・効果が得られる。
【0036】
また、上記実施形態では、熱交換管4の断面形状を扁平としたが、断面形状が略丸形の熱交換管4を用いる熱交換器1であってもよく、その場合、貫通穴5aを丸穴とし、筒状部5bを円筒形状とすればよく、熱交換管4の断面形状を扁平に限定するものではない。
また、板状フィン5の周縁にプラスチックやセラミックなどの非腐食性材料をコーティングしても良く、また、板状フィン5の周縁において、犠牲腐食層53とろう材層51とがオーバーラップする部分を設けてもよい。
また、板状フィン5は、全面が平板状である必要はなく、例えば、凝縮水を排水させる上下方向(Y軸方向)に延びる溝を構成する屈曲部を設けてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1…熱交換器、2,3…ヘッダタンク、4…熱交換管、5…板状フィン、5a…貫通穴、5b…筒状部、51…ろう材層、52…芯材層、53…犠牲腐食層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱交換管と、前記熱交換管が貫通する貫通穴を有した板状フィンと、を備えた熱交換器であって、
前記板状フィンが、芯材層と一端面を構成するろう材層とを少なくとも含む複層構造を有すると共に、前記貫通穴の周囲に立ち上がりかつ前記ろう材層を内周面とする筒状部を備え、
前記熱交換管に対して複数積層させた前記板状フィンを、前記ろう材層によるろう付けによって前記熱交換管に接合した熱交換器。
【請求項2】
前記板状フィンが、前記芯材層と前記ろう材層と他端面を構成する犠牲腐食層とを含む複層構造を有する請求項1記載の熱交換器。
【請求項3】
前記板状フィンを構成する前記芯材層,前記ろう材層,前記犠牲腐食層のうちで、前記犠牲腐食層を形成する金属の腐食電位が最も低く、前記芯材層を形成する金属の腐食電位が最も高い請求項2記載の熱交換器。
【請求項4】
前記犠牲腐食層を、アルミニウムAl−亜鉛Zn−マグネシウムMg系合金で形成した請求項2又は3記載の熱交換器。
【請求項5】
前記芯材層を、アルミニウムAl−マンガンMn系合金で形成した請求項1〜4のいずれか1つに記載の熱交換器。
【請求項6】
前記ろう材層を、アルミニウムAl−ケイ素Si系合金で形成した請求項1〜5のいずれか1つに記載の熱交換器。
【請求項7】
前記熱交換管を、アルミニウムAlで形成した請求項1〜6のいずれか1つに記載の熱交換器。
【請求項8】
前記熱交換管を、銅Cuを添加したアルミニウムAlで形成した請求項1〜6のいずれか1つに記載の熱交換器。
【請求項9】
前記熱交換管を、アルミニウムAl−マンガンMn系合金で形成した請求項1〜6のいずれか1つに記載の熱交換器。
【請求項10】
前記熱交換管の断面形状が扁平である請求項1〜9のいずれか1つに記載の熱交換器。
【請求項11】
熱交換管と、前記熱交換管が貫通する貫通穴を有した板状フィンと、を備えた熱交換器を製造する方法であって、
前記板状フィンとして、芯材層と一端面を構成するろう材層とを少なくとも含む複層構造を有すると共に、前記貫通穴の周囲に立ち上がりかつ前記ろう材層を内周面とする筒状部を備えた複数の板状フィンを準備する工程と、
前記複数の板状フィンを前記熱交換管に差し込んで積層し、前記筒状部で前記熱交換管を覆う行程と、
前記ろう材層を溶融させ、前記複数の板状フィンを前記熱交換管に対してろう付けする行程と、
を含む熱交換器の製造方法。
【請求項12】
前記板状フィンを準備する工程が、
前記筒状部をバーリング加工によって形成する工程を含む請求項11記載の熱交換器の製造方法。
【請求項13】
前記板状フィンを準備する工程が、前記芯材層と前記ろう材層と他端面を構成する犠牲腐食層とを含む複層構造を有する板状フィンを複数準備する請求項11又は12記載の熱交換器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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