説明

熱交換器用アルミニウムフィン材

【課題】親水性および加工性に優れ、かつ、銅管の蟻の巣状腐食の発生を防止すると共に、耐クレージング性に優れた熱交換器用アルミニウムフィン材を提供する。
【解決手段】アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基板2と、基板2の上に最表層となるように形成された水溶性樹脂塗膜からなる親水潤滑層3とを備える熱交換器用アルミニウムフィン材1において、親水潤滑層3の膜厚は、塗布量換算で50〜1000mg/mであって、水溶性樹脂塗膜は、固形分換算で分子量5000〜50000の水溶性ポリエーテルを75〜99.9質量%、熱分解抑制剤を0.1〜25質量%含み、水溶性ポリエーテルは、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールアルキルエーテル、ポリアルキレングリコールアリールエーテルの1種又は2種以上よりなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアコン等の熱交換器に使用される熱交換器用アルミニウムフィン材に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換器は、ルームエアコン、パッケージエアコン、冷凍ショーケース、冷蔵庫、オイルクーラおよびラジエータ等の様々な分野に用いられている。熱交換器の熱交換率(熱交換効率)の向上策としては、熱交換器用アルミニウムフィンに親水性を付与することが行われている。
【0003】
これは、熱交換器においては、水蒸気が液化して水になる状態での凝縮運転時に、フィン表面に水滴が付着してフィン間にブリッジが形成されたり、さらには、使用環境によっては、霜が形成されフィン間に目詰まりを起こしたりして、通風抵抗値が上昇し、熱交換効率が低下する。また、アルミニウムフィンは本来耐食性に優れているが、凝縮水がフィン表面に長期間滞留すると酸素濃淡電池を形成したり、大気中の汚染物質が付着、濃縮されて水和反応が生じたりして腐食が促進される。これを解消するために、フィン表面に親水性塗膜を付与し、凝縮水を水膜として流下させ、水滴付着や霜形成を抑制しようとするものである。
【0004】
このような親水性塗膜の形成にあたっては、フィンに加工した後にアルミニウム材に親水性塗料の塗装、焼付けを行ってもよいが、工程の簡略化や塗膜の均一性の観点から、フィンに加工前のアルミニウム材に塗装、焼付けを施し、これをフィンに加工するプレコート法が行われている。このプレコート法に使用されるアルミニウムフィン材には、加工性(潤滑性)が要求される。
【0005】
一方、熱交換器の伝熱管として使用される銅管においては、蟻の巣状腐食と呼ばれる特殊な形態の腐食が、銅管の肉厚方向に進行し、場合によっては、銅管に穴があくといった問題が起こることがある。このような銅管の蟻の巣状腐食の原因物質としては、蟻酸、酢酸等の有機酸であることが知られている。そして、熱交換器の製造においては、アルミニウムフィン材を加工する際に加工油(炭化水素系)を使用し、最終的に脱脂するために、加熱脱脂を実施する。この加熱脱脂では、加工油の種類によっては、加工油が熱分解して有機酸が生成する。また、近年、有機酸だけでなく、アルミニウムフィン材に親水性および加工性を付与するために塗布された表面処理剤の熱分解によって生成する物質も、銅管の蟻の巣状腐食の原因物質となることがわかってきた。
【0006】
従来、前記の銅管の蟻の巣状腐食を防止するための塗膜が形成されたアルミニウムフィン材または銅管として、以下のような構成のアルミニウムフィン材または銅管が提案されている。特許文献1では、ニトリル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基およびアルキル基を有する単量体とから構成された4元共重合体の酸基がアルカリ金属の水酸化物で部分中和されてなる親水性樹脂と、1,3−ジオキサン環を2個以上有する複素環系有機化合物からなる塗料組成物を含有する塗料で表面に塗膜が形成されたアルミニウムフィン材が提案されている。そして、銅管の蟻の巣状腐食の原因物質として、アンモニア、有機アミン化合物を挙げている。
【0007】
特許文献2では、糊化澱粉を主鎖とし、アルキル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ニトリル基およびスルホン酸基を有する単量体とから構成された5元共重合体をグラフト鎖とする糊化澱粉グラフト共重合体の酸基がアルカリ金属の水酸化物で部分中和されてなる親水性樹脂と、1,3−ジオキサン環を2個以上有する複素環系有機化合物からなる塗料組成物を含有する塗料で表面に塗膜が形成されたアルミニウムフィン材が提案されている。そして、銅管の蟻の巣状腐食の原因物質として、アンモニア、有機アミン化合物を挙げている。
【0008】
特許文献3では、親水性基を有するアクリル樹脂等のフィルム形成剤とイオン交換性材料とを含む塗料で銅管の表面に塗膜が形成された銅管が提案されている。
【0009】
また、耐汚染性の向上を目的として、特許文献4では、グルコピラノシル基、ニトリル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基およびアルキル基を有する単量体とから構成された5元共重合体の酸基が塩基性化合物で部分中和されてなる親水性樹脂と、1,3−ジオキサン環を2個以上有する複素環系有機化合物と、グルコピラノシル基を有する複素環系有機化合物と、カルボキシメチルセルロース塩とからなる塗料組成物を含有する塗料で表面に塗膜が形成されたアルミニウムフィン材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−43632号公報
【特許文献2】特許第4094398号公報
【特許文献3】特開2000−26768号公報
【特許文献4】特許第3939566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、近年、銅管の蟻の巣状腐食の原因物質である有機酸が、加工油の熱分解によって生成するだけではなく、アルミニウムフィン材に親水性および加工性を付与するために塗布された表面処理剤の熱分解によっても生成することがわかってきた。そして、特許文献1〜4に示されているアルミニウムフィン材または銅管では、アルミニウムフィン材の表面処理塗膜の熱分解による有機酸の生成を抑制することができず、銅管の蟻の巣状腐食の発生を十分に抑制することができないという問題がある。また、蟻の巣状腐食の原因物質である有機酸の抑制が十分でないと、アルミニウムフィン材または銅管から熱交換器のドレンパンに有機酸が流れ出し、そのドレンパンを構成するプラスチックにクレージングを発生させるという問題もある。
【0012】
本発明は、前記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、親水性および加工性に優れ、かつ、銅管の蟻の巣状腐食の発生を防止すると共に、耐クレージング性に優れた熱交換器用アルミニウムフィン材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するために、本発明に係る熱交換器用アルミニウムフィン材は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基板と、前記基板の上に最表層となるように形成された水溶性樹脂塗膜からなる親水潤滑層とを備える熱交換器用アルミニウムフィン材において、前記親水潤滑層の膜厚は、塗布量換算で50〜1000mg/mであって、前記水溶性樹脂塗膜は、固形分換算で分子量5000〜50000の水溶性ポリエーテルを75〜99.9質量%、熱分解抑制剤を0.1〜25質量%含み、前記水溶性ポリエーテルは、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールアルキルエーテル、ポリアルキレングリコールアリールエーテルの1種又は2種以上よりなることを特徴とする。
【0014】
前記構成によれば、所定厚の親水潤滑層を構成する水溶性樹脂塗膜が、所定分子量を有する所定種の水溶性ポリエーテルを所定量含有することによって、アルミニウムフィン材の親水性および潤滑性(加工性)が向上する。そして、水溶性樹脂塗膜が、所定量の熱分解抑制剤を含有することによって、アルミニウムフィン材の加工の際、加工油および水溶性ポリエーテルの熱分解を抑制し、銅管の蟻の巣状腐食の原因物質(銅管腐食原因物質)、および、プラスチックのクレージングの原因物質(クレージング劣化原因物質)となる有機酸の生成量を少なくできる。また、熱分解抑制剤は、水溶性ポリエーテルの熱分解を抑制することによって、有機酸だけでなく、低分子量のポリアルキレングリコール等のクレージング劣化原因物質の生成量も少なくできる。
【0015】
本発明に係る熱交換器用アルミニウムフィン材は、前記熱分解抑制剤が、イオウ系、フェノール系、カルバジド化合物の1種以上からなることを特徴とする。
【0016】
前記構成によれば、熱分解抑制剤が所定の構造を有するものであることによって、親水潤滑層(水溶性樹脂塗膜)の親水性および潤滑性(加工性)を低下させることなく、加工油および水溶性ポリエーテルの熱分解を抑制し、銅管腐食原因物質およびクレージング劣化原因物質の生成量を少なくできる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る熱交換器用アルミニウムフィン材によれば、親水性および加工性に優れ、かつ、銅管の蟻の巣状腐食の発生を防止すると共に、耐クレージング性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る熱交換器用アルミニウムフィン材の一つの実施形態の構成を示す断面図である。
【図2】本発明に係る熱交換器用アルミニウムフィン材の他の実施形態の構成を示す断面図である。
【図3】本発明に係る熱交換器用アルミニウムフィン材の他の実施形態の構成を示す断面図である。
【図4】本発明に係る熱交換器用アルミニウムフィン材の他の実施形態の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1に示すように、熱交換器用アルミニウムフィン材(以下、フィン材と称す)1は、基板2と、基板2の上に最表層となるように形成された親水潤滑層3とを備える。ここで、基板2の上とは、基板2の片面または両面(図示せず)を意味する。また、最表層とは、環境に晒される層を意味し、基板2の上に親水潤滑層3以外の他の層を形成する場合には、基板2と親水潤滑層3との間に形成することを意味する(図2〜図4参照)。以下、各構成について説明する。
【0020】
<基板>
基板2は、アルミニウムまたはアルミニウム合金よりなる板材であって、熱伝導性および加工性が優れることからJIS H4000規定の1000系のアルミニウム、好ましくは合金番号1200のアルミニウムが使用される。なお、フィン材1においては、強度、熱伝導性および加工性等を考慮して、板厚0.08〜0.3mm程度のものが使用される。
【0021】
<親水潤滑層>
親水潤滑層3は、膜厚が塗布量換算で50〜1000mg/mであって、水溶性樹脂塗膜からなる。そして、水溶性樹脂塗膜は、分子量5000〜50000の水溶性ポリエーテルと熱分解抑制剤からなる。また、水溶性樹脂塗膜は、固形分換算で水溶性ポリエーテルを75〜99.9質量%、熱分解抑制剤を0.1〜25質量%含む。さらに、水溶性ポリエーテルは、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールアルキルエーテル、ポリアルキレングリコールアリールエーテルの1種又は2種以上よりなる。こうような親水潤滑層3を備えることによって、親水性および加工性に優れ、かつ、銅管の蟻の巣状腐食の発生、および、ドレンパンのクレージングの発生を抑制できる。なお、親水潤滑層3の形成は、例えば、水溶性樹脂塗料をスプレー、ロールコート等で塗布、焼付けすることによって行われる。
【0022】
(親水潤滑層の膜厚)
親水潤滑層3の膜厚が塗布量換算で50mg/m未満であると、親水潤滑層3が薄膜になりすぎて、フィン材1の潤滑性が不足する。その結果、フィン材1の加工の際、すなわち、フィン材1に伝熱管である銅管(図示せず)を組み付けるための貫通孔をドローレス加工等のプレス成形で形成した際に、カラー部に割れ等の成形不良が生じたり、プレス金型内の工具摩耗が生じたりする。すなわち、フィン材1の加工性が劣る。また、膜厚が1000mg/mを超えると、親水潤滑層3が厚膜になりすぎて、親水潤滑層がプレス金型に粘着しやすくなって成形不良、工具摩耗が生じる。すなわち、フィン材1の加工性が劣る。また、親水潤滑層3を構成する水溶性樹脂の塗布量が増加してコストアップになる。なお、塗布量は蛍光x線、赤外膜厚計、塗膜剥離による重量測定等で測定する。
【0023】
(水溶性ポリエーテルの分子量)
水溶性ポリエーテルの分子量が5000未満であると、フィン材1の加工性が劣ると共に、水溶性ポリエーテルが熱分解しやすいため、銅管腐食原因物質およびクレージング劣化原因物質が生成し、銅管の蟻の巣腐食の発生、および、ドレンパンにクレージングが発生する。また、分子量が50000を超えると、フィン材1の親水性が劣ると共に、水溶性樹脂塗料の塗装粘度が高くなり、親水潤滑層3の塗装性が劣る。なお、本発明において、分子量は質量平均分子量を意味する。
【0024】
(水溶性ポリエーテルの種類)
水溶性ポリエーテルが、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールアルキルエーテル、ポリアルキレングリコールアリールエーテルの1種又は2種以上よりなることによって、フィン材1(親水潤滑層3)の親水性および加工性が優れる。
【0025】
(水溶性ポリエーテルおよび熱分解抑制剤の含有量)
固形分換算で、水溶性ポリエーテル:75質量%未満、または、熱分解抑制剤:25質量%超えると、水溶性ポリエーテルの熱分解を抑制することはできるが、親水潤滑層3の親水性が劣る。水溶性ポリエーテル:99.9質量%超え、または、熱分解抑制剤が0.1質量%未満であると、水溶性ポリエーテルの熱分解が発生しやすいため、銅管腐食原因物質およびクレージング劣化原因物質が生成し、銅管の蟻の巣腐食の発生、および、ドレンパンにクレージングが発生する。
【0026】
本発明に係るフィン材は、熱分解抑制剤が、イオウ系、フェノール系またはカルバジド化合物であることが好ましく、これら2種以上で構成してもよい。このような熱分解抑制剤を選定することによって、親水潤滑層(水溶性樹脂)の親水性および潤滑性(加工性)を低下させることなく、加工油および水溶性ポリエーテルの熱分解を抑制し、銅管腐食原因物質およびクレージング劣化原因物質の生成量をさらに少なくできる。その結果、銅管の蟻の巣状腐食の発生、およびドレンパンのクレージングの発生をさらに抑制できる。
【0027】
イオウ系の熱分解抑制剤としては、ジフェニルモノスルフィド、ジフェニルジスルフィド等が挙げられる。フェノール系の熱分解抑制剤は、フェノール骨格を有するものであり、このような熱分解抑制剤としては、BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)等が挙げられる。
【0028】
次に、本発明に係るフィン材の他の実施形態について、図面を参照して説明する。
図2〜図4に示すように、フィン材1は、基板2と親水潤滑層3との間に、下地処理層4、耐食層5および親水層6の少なくとも1層をさらに備える。なお、図3および図4に示すように、下地処理層4または耐食層5、および、親水層6を備える場合には、下地処理層4または耐食層5を基板2側に、親水層6を親水潤滑層3側に形成することが好ましい。フィン材1がこのような層構成であることによって、親水性および耐食性がさらに向上する。ここで、耐食性とは、前記した銅管の蟻の巣状腐食を含む一般的な腐食を抑制することを意味する。
【0029】
<下地処理層>
下地処理層4は、耐食性を奏する層であって、無機酸化物または有機−無機複合化合物よりなる。無機酸化物としては、主成分としてクロム(Cr)またはジルコニウム(Zr)を含むものが好ましく、例えば、リン酸クロメート処理、リン酸ジルコニウム処理、クロム酸クロメート処理を行うことにより形成されたものである。しかし、本発明においては、耐食性を奏する層であれば、これに限定されず、例えば、リン酸亜鉛処理、リン酸チタン酸処理を行うことによっても下地処理層4を形成することができる。また、有機−無機複合化合物としては、塗布型クロメート処理または塗布型ジルコニウム処理を行なうことにより形成されたもので、アクリル−ジルコニウム複合体等が挙げられる。
【0030】
下地処理層4は、CrまたはZrを1〜100mg/mの範囲で含有するものが好ましく、また、下地処理層4の膜厚としては、10〜1000Åとするのが好ましい。この下地処理層4は、フィン材1に耐食性を付与すると共に、基板2と下地処理層4の上に形成される親水潤滑層3等の他層との密着性を向上させる機能も有する。
【0031】
<耐食層>
耐食層5は、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂およびポリアクリル酸系樹脂のうちの少なくとも1種よりなる疎水性樹脂からなる。このような耐食層5の形成により、酸性雰囲気などにおける苛酷な多湿環境においても、親水潤滑層3等の他層を浸透してきた凝縮水が基板2と接触するのを抑制できる。それにより、基板2の腐食(酸化)が抑制され、フィン材1に耐食性が付与される。なお、耐食層5の形成は、例えば、疎水性樹脂の水系溶液をスプレー、ロールコート等で塗布、焼付けすることによって行われる。
【0032】
耐食層5の膜厚は0.1〜10μmであることが好ましい。膜厚が0.1μm未満であると、親水潤滑層3等の他層からの凝縮水の浸透を防止できず、フィン材1の耐食性が低下しやすい。また、耐食層5の膜厚が10μmを超えると、耐食層5による銅管との接触熱抵抗が大きくなり、伝熱性能が低下してしまうことが推定される。また経済的にも10μmを超える膜厚は好ましくない。なお、耐食層5のより好ましい膜厚は0.5〜2μmである。このような膜厚により、フィン材1の耐食性がより一層高くなる。
【0033】
(親水層)
親水層6は、フィン材1の親水性をさらに向上させるための層であって、親水性樹脂よりなる。また、親水性樹脂は、カルボキシル基、水酸基、スルホン酸基、アミド結合およびそれらの塩のうち少なくとも1種を有するものであることが好ましい。ここで、カルボキシル基を有するものとしてはポリアクリル酸、水酸基を有するものとしてはポリビニルアルコールやカルボキシメチルセルロース、アミド結合を有するものとしてポリアクリルアミド、スルホン酸基を有するものとしてスルホエチルアクリレートとアクリル酸の共重合体等が好ましい。なお、親水層6の形成は、例えば、親水性樹脂の水系溶液をスプレー、ロールコート等で塗布、焼付けすることによって行われる。
【0034】
親水層6の膜厚は0.1〜10μmが好ましい。膜厚が0.1μm未満であると、フィン材1の親水性が低下しやすい。膜厚が10μmを超えると、親水性のさらなる向上は認められず、コストアップにつながりやすい。なお、親水層6のさらに好ましい膜厚は0.1〜5μm、最適な膜厚は0.1〜1μmである。
【0035】
次に、本発明に係るフィン材1の製造方法について説明する。フィン材1は以下の方法で製造される。
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基板2の上に、水溶性ポリエーテルと熱分解抑制剤からなる水溶性樹脂塗料を塗布した後、焼付けを行い、親水潤滑層3を形成する。塗布方法は、スプレー、バーコータ、ロールコータ等の従来公知の塗布方法で行い、塗布量は、50〜1000mg/mとする。焼付け温度(基板2の到達温度)は、塗布する水溶性樹脂塗料によって、適宜設定するが、一般的に100〜200℃の範囲で行う。
【0036】
なお、フィン材1が、下地処理層4、耐食層5および親水層6をさらに備える場合には、以下のようにして行う。
下地処理層4の形成は、リン酸クロメート処理、リン酸ジルコニウム処理等の化成処理液を基板2にスプレー等により塗布することで行われる。また、下地処理層4を形成する前に、基板2の表面にアルカリ水溶液をスプレー等して、基板2の表面を予め脱脂することが好ましい。脱脂により基板2と下地処理層4との密着性が向上する。そして、耐食層5、親水層6の形成は、前記した親水潤滑層3と同様に、耐食層5は疎水性樹脂塗料、親水層6は親水性樹脂塗料をスプレー、バーコータ、ロールコータ等で塗布した後、焼付けすることで行われる。
【実施例】
【0037】
以上、本発明を実施するため形態について述べてきたが、以下に、本発明の効果を確認した実施例について説明する。
JIS H4000に規定する合金番号1200のアルミニウムよりなる板厚0.1mmの基板に、表1に示す水溶性樹脂塗料を塗布、焼付けして親水潤滑層を形成し試料(フィン材)1〜26とした。
【0038】
なお、焼付け温度は基板の到達温度で150℃となるように実施した。また、親水潤滑層の膜厚は、水溶性樹脂塗料の塗布量換算で行い、塗布量は蛍光x線測定により、事前に作成した検量線を用いて測定した。表1において、熱分解抑制剤の欄のイオウ系は関東化学社製ジフェニルジスルフィド、カルバジド化合物は明成化学工業製「MS3000」、フェノール系は関東化学社製ジブチルヒドロキシトルエンを使用したことを意味する。
【0039】
作製した試料1〜26を用いて、親水性、加工性、耐蟻の巣状腐食性の代用特性としての熱分解抑制性、耐クレージング性を以下の方法で評価し、その結果を表2に示す。また、耐蟻の巣状腐食性についても以下の方法で評価し、その結果を表2に示す。
【0040】
(親水性評価)
親水性評価は、試料にプレス油塗油し、160℃で10分加熱脱脂後の純水滴下時の接触角をゴニオメータにて測定することにより評価した。測定された接触角が20°以下である場合(表において「○」)を合格とし、接触角が20°を超える場合(表において「×」)を不合格とした。
【0041】
(加工性評価)
加工性評価は、実機フィンプレスにて、ドローレス加工を実施した際のカラー成形性およびプレス金型内の工具磨耗状況を目視評価した。成形後のカラーに大きな割れ等がなく、著しい工具磨耗もなく良好である場合(表において「○」)を合格とし、大きなカラー割れおよび著しい工具磨耗が認められた場合(表において「×」)を不合格とした。
【0042】
(熱分解抑制性評価)
熱分解抑制性評価は、160℃で10分加熱した際の親水潤滑層(皮膜)の重量変化率で評価した。具体的には、溶出皮膜量総量に対する重量減少量を測定し、重量減少率とした。重量減少率が、25%未満(表において「○」)の場合を合格とし、25%以上の場合(表において「×」)を不合格とした。
【0043】
(耐クレージング性評価)
耐クレージング性評価は、試料(表面処理面の総面積2.5m)を160℃で10分加熱した後、イオン交換水(100ml)で抽出し、ポリスチレン製のドレンパンに抽出液を入れ、50℃で72h放置後のドレンパンの割れ有無を確認した。割れがない場合(表において「○」)を合格とし、割れがある場合(表において「×」)を不合格とした。
【0044】
(耐蟻の巣状腐食性評価)
耐蟻の巣状腐食性評価は、まず、各試料をプレス加工、銅管挿入、拡管し、熱交換器を作製した。この熱交換器より切り出したサンプルを用い、容積1Lの容器に1%のギ酸水溶液100mlと共に入れ、密閉し、恒温槽に入れた。50℃で12時間、25℃で12時間保持するサイクルを繰り返し、60日後に銅管を切り出し、蟻の巣状腐食発生の有無を調査した。蟻の巣状腐食の発生がない場合(表において「○」)を合格とし、蟻の巣状腐食の発生がある場合(表において「×」)を不合格とした。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
表2の結果から、本発明の要件を満足する試料1〜19(実施例)は、親水性、加工性、熱分解抑制性、耐クレージング性および耐蟻の巣状腐食性のいずれにおいても合格であった。
【0048】
これに対し、本発明の要件を満足しない試料20〜26(比較例)は、親水性、加工性、熱分解抑制性、耐クレージング性および耐蟻の巣状腐食性のいずれかが不合格であった。具体的には、試料20(比較例)は、水溶性樹脂塗料が熱分解抑制剤を含有していないため、熱分解抑制性、耐クレージング性および耐蟻の巣状腐食性が不合格であった。試料21(比較例)は、熱分解抑制剤の含有量が下限値未満、すなわち、水溶性ポリエーテルの含有量が上限値を超えるため、熱分解抑制性、耐クレージング性および耐蟻の巣状腐食性が不合格であった。
【0049】
試料22(比較例)は、親水潤滑層の膜厚(塗布量)が下限値未満であるため、加工性が不合格であった。試料23(比較例)は、親水潤滑層の膜厚(塗布量)が上限値を超えるため、加工性が不合格であった。
【0050】
試料24(比較例)は、水溶性樹脂塗料が水溶性ポリエーテルを含有していないため、加工性が不合格であった。試料25(比較例)は、水溶性ポリエーテルの分子量が下限値未満であるため、加工性、熱分解抑制性、耐クレージング性および耐蟻の巣状腐食性が不合格であった。試料26(比較例)は、熱分解抑制剤の含有量が上限値を超える、すなわち、水溶性ポリエーテルの含有量が下限値未満であるため、親水性が不合格であった。
【符号の説明】
【0051】
1 フィン材
2 基板
3 親水潤滑層
4 下地処理層
5 耐食層
6 親水層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基板と、前記基板の上に最表層となるように形成された水溶性樹脂塗膜からなる親水潤滑層とを備える熱交換器用アルミニウムフィン材において、
前記親水潤滑層の膜厚は、塗布量換算で50〜1000mg/mであって、
前記水溶性樹脂塗膜は、固形分換算で分子量5000〜50000の水溶性ポリエーテルを75〜99.9質量%、熱分解抑制剤を0.1〜25質量%含み、
前記水溶性ポリエーテルは、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールアルキルエーテル、ポリアルキレングリコールアリールエーテルの1種又は2種以上よりなることを特徴とする熱交換器用アルミニウムフィン材。
【請求項2】
前記熱分解抑制剤は、イオウ系、フェノール系、カルバジド化合物の1種以上からなることを特徴とする請求項1に記載の熱交換器用アルミニウムフィン材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−208813(P2011−208813A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73815(P2010−73815)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】