説明

熱交換器用アルミニウム合金押出チューブ及び熱交換器

【課題】 中空形状をなす押出材の肉厚が薄い場合でも成形時の押出性に優れ、かつ、十分な材料強度を有すると共に、低濃度亜鉛拡散層の耐局部腐食性に優れた合金からなるアルミニウム合金押出チューブを提供する。
【解決手段】 質量%で0.5%以上1.0%以下のSiと、0.5%以上1.4%以下のMnと、0.1%以上0.25%以下のTiとを含有し、残りがAlおよび不可避不純物からなるAl合金押出材の外表面にZnまたはZn含有層を設けたことを特徴とする熱交換器用アルミニウム合金押出チューブ1を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーエアコンのコンデンサ、エバポレータなどの熱交換器の構造用部材として用いる熱交換器用アルミニウム合金押出チューブ及び熱交換器に関するものであり、特に、高温強度及び耐圧強度に優れ、フロンやCOを冷媒として使用することが可能な熱交換器用アルミニウム合金押出チューブ及び熱交換器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
AlおよびAl合金は軽量、かつ、熱伝導性が良好で耐食性にも優れていることから、アルミニウム合金の押出材からなるチューブ(以下、アルミニウム(Al)合金押出チューブと呼ぶ)は、車載用エアコンなどの熱交換器において広く用いられている。
【0003】
この熱交換器は、例えば図2に示すように、ヘッダーパイプ4と称される左右一対の管体と、そのヘッダーパイプ4の間に互いに平行に間隔を空けて設けられたアルミニウム合金からなる多数のチューブ1と、チューブ1とチューブ1との間に設けられたフィン2とで構成されている。
そして、チューブ1とフィン2とはろう付けされており、さらに各チューブ1の内部空間とヘッダーパイプ4の内部空間は連通しており、ヘッダーパイプ4の内部空間と各チューブ1の内部空間に媒体を循環させ、前記フィン2を介して効率良く熱交換ができるようになっている。
【0004】
この熱交換器を構成する各チューブ1としては、図1の斜視図に示されるような複数の冷媒通路穴3を有する断面偏平状の押出材が用いられ、この押出材は押出し加工により形成されるため、一般に、押出し加工性に優れたJIS1050合金に代表される純アルミニウム(Al)系合金が用いられている。
【0005】
このような製品では更なる軽量化を図るため、中空形状(管状)とした押出材はより薄肉であることが望まれているが、肉厚が減少するにつれて所定の形状寸法のチューブを得るには、成形時の押出速度を低下させる必要があるなど、押出性が低下し、量産性が損なわれるという課題があった。この押出性の低下は、特に、押出材の外表面となす最も薄い部分の肉厚が0.30mm以下の場合に顕著に現れるものであった。
【0006】
ところで、熱交換器ではチューブ内を通過する冷媒により、チューブに内圧が加わり、チューブの材料強度、特に、耐力が低い場合には薄肉化するとこの圧力によってチューブの壁面が外側に膨らみ、極端な場合には破裂に至る恐れもある。
【0007】
一方、チューブを腐食環境下で使用した場合には孔食などの局部腐食が生じることがあるが、薄肉化を図った場合には比較的早期に貫通孔が生じ、使用に耐えられなくなることがあった。
【0008】
従来、このような耐食性の問題に対してはチューブ表面に亜鉛(Zn)を被覆して製品のろう付け時の加熱でチューブ内部へ拡散させる手法が用いられており、実環境ではチューブ肉厚が比較的厚い場合にはZnのいわゆる犠牲陽極効果によって局部腐食の進行を最小に抑える方法が用いられていた。
【0009】
通常、このようなZn被覆層は、押出成形された偏平状かつ管状の押出材について、その外表面にZnまたはZn含有層を溶射することにより形成する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
上記溶射は、押出材の外平坦部分にZn被覆層が均一な膜厚で形成されるように、押出材の外平坦部分の上下方向から行われる。すると、押出材をなす上下の外平坦部分が閉じる両端部はある曲率をもっているため、この両端部付近に形成されるZn被覆層の膜厚は、外平坦部分より薄くなると共に、不均一となる傾向があった。このような部位では低濃度の亜鉛拡散層となってしまう。
【0011】
この押出材の両端部付近におけるZn被覆層の膜厚減少や不均一は、耐食性の低下をもたらすという観点から危惧されていた。何故ならば、押出材の外表面となす最も薄い部分の肉厚が0.30mmより薄くなると従来の合金(例えば、1050や純Al等)では、局部腐食部の材料強度が著しく低下し、室温強度が低いと熱交換冷媒の内圧によって、この局部腐食部での変形が進み、容易に破断に至る傾向があった。
【0012】
また、従来のフロン系の冷媒に代わって、二酸化炭素(CO)を冷媒として用いる熱交換器が広く普及する可能性がある。COを冷媒として用いる場合には、チューブの高温強度や耐圧強度を更に高める必要があった。具体的には、COを冷媒として用いる場合、150℃の高温でも十分な耐熱強度を有し、かつフロン系冷媒と比べて3〜10倍の耐圧強度が必要になる。
【0013】
以上説明した背景から、アルミニウム合金押出チューブを構成する押出材において、その肉厚が薄くなった場合でも押出性に優れ、かつ、十分な高温強度や耐圧強度を有し、加えて、低濃度亜鉛拡散層の耐局部腐食性にも優れた合金の開発が期待されていた。
【0014】
また特許文献2には、MnとTiとを有する熱交換器用の押出チューブが開示されている。しかし、この特許文献2に記載の押出チューブは、その実施例からも明らかなように、主に耐食性の向上を目指したものであり、強度向上を目指したものでない。
更に特許文献3には、MnとTiとを有する熱交換器用の押出ヘッダータンクが開示されている。しかしこの文献に記載された内容はチューブに関するものではなく、用途が異なっている。
【特許文献1】特開平9−137245号公報
【特許文献2】特開2002−79370号公報
【特許文献3】特開2002−275565号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、中空形状をなす押出材の肉厚が薄い場合でも成形時の押出性に優れ、かつ、十分な材料強度を有すると共に、低濃度亜鉛拡散層の耐局部腐食性に優れた合金からなるアルミニウム合金押出チューブ及びこのチューブを用いた熱交換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブは、質量%で0.5%以上1.0%以下のSiと、0.5%以上1.4%以下のMnと、0.1%以上0.25%以下のTiとを含有し、残りがAlおよび不可避不純物からなるAl合金押出材の外表面にZnまたはZn含有層を設けたことを特徴とする。
【0017】
上記の構成によれば、SiとMnに加えてTiが含有されているので、押出性を高めることができるとともに、チューブ自体の高温強度及び室温強度を飛躍的に向上させることができる。これにより、フロン系冷媒のほか、CO冷媒を用いることができる。
また、Siを添加することで、押出性、耐圧強度及び耐局部腐食性を高めることができる。更に、Mnを添加することで、耐圧強度と高温強度を同時に高めることができる。
【0018】
また、上記のZnまたはZn含有層は、Zn若しくはZn含有合金を溶射、またはZn含有フラックスを塗布することで形成される。Zn含有フラックスとしては、例えばZnF、ZnCl、KZnF等の化合物を例示できる。
チューブの外表面にZnまたはZn含有層を設けることで、ろう付け後のチューブ表面にZn拡散層が形成され、このZn拡散層が犠牲陽極層として機能することによりチューブの防食効果を高めることができる。
【0019】
また、本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブは、先に記載の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブであって、前記Al合金押出材に更に、質量%で0.05%以上0.20%以下のCuが添加されていることを特徴とする。
【0020】
上記構成によれば、更にCuを添加することで、押出性や耐局部腐食性を損なうことなく、耐圧強度をより高めることができる。
【0021】
また、本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブにおいては、MnとTiの合計量が1.25%を越えて1.65%以下とされていることが好ましい。この構成により、耐圧強度をより高めることができる。
【0022】
また、本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブにおいては、前記Al合金押出材の外表面となす最も薄い部分の肉厚が0.10mm以上0.30mm以下であることが好ましい。
【0023】
本願明細書において押出材の外表面となす最も薄い部分とは、例えば図1に示すような熱交換器を構成するチューブ1の場合、冷媒通路穴3とチューブ1の外表面との間をなすチューブ1の肉厚部において最もその肉厚が小さくなる部分を指す。図1では、冷媒通路穴3の断面形状が略方形をなす例を示しているが、方形の他に円形や楕円形など如何なる形状であっても構わない。また、設置する冷媒通路穴3の個数や、冷媒通路穴3を設ける間隔は、図1の例に限定されるものではない。
【0024】
次に、本発明の熱交換器は、先のいずれかに記載の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブを使用して製造されたものであることを特徴とする。上記の押出チューブは従来に比べて薄肉化を図っても十分にその機能を維持でき、これを搭載することで従来より著しく軽量化を図ることができる熱交換器の提供が可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブによれば、中空形状をなす押出材の肉厚が薄い場合でも成形時の押出性に優れ、かつ、十分な材料強度を有すると共に、低濃度亜鉛拡散層の耐局部腐食性を向上することができる。
また、押出チューブを構成する押出材の肉厚が薄い場合でも成形時の押出性に優れ、かつ、十分な材料強度を有するので、押出チューブの軽量化を一層図ることができる。
【0026】
また、本発明に係る押出チューブは従来に比べて薄肉化を図っても十分にその機能を維持できるので、これを搭載することにより従来より更に一層の軽量化を図れる熱交換器の提供が可能となる。
また、耐圧強度と高温強度に優れているので、冷媒として、フロン系冷媒の他、CO冷媒をも好適に用いることができる。
【0027】
更に、上記効果を備えた熱交換器ならば、これを搭載してなる自動車などの燃費向上に寄与すると共に、長期使用時における耐久性も改善されるので長期信頼性の向上にも貢献する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブは、質量%で0.5%以上1.0%以下のSiと、0.5%以上1.4%以下のMnと、0.1%以上0.25%以下のTiとを含有し、残りがAlおよび不可避不純物からなるAl合金押出材の外表面にZnまたはZn含有層を設けて構成されている。また、Al合金押出材に更に、質量%で0.05%以上0.20%以下のCuが添加されていてもよい。
【0029】
また、上記のZnまたはZn含有層は、Zn若しくはZn含有合金を溶射、またはZn含有フラックスを塗布することで形成される。Zn含有フラックスとしては、例えばZnF、ZnCl、KZnF等の化合物を例示できる。チューブの外表面にZnまたはZn含有層を設けることで、ろう付けした後のチューブ表面にZn拡散層が形成され、このZn拡散層が犠牲陽極層として機能することによりチューブの防食効果を高めることができる。
【0030】
次に、Al合金押出材の組成限定理由について説明する。
(Si含有量)
Siを合金添加元素に用いることによって、押出性、材料の室温強度、及び、亜鉛被覆量の比較的少ない場合の低濃度亜鉛拡散層の耐局部腐食性を高めることができる。すなわち、Al合金中に添加したSi元素は、合金の熱間変形抵抗をほとんど上げることなく、室温から200℃までの強度を増加させ、かつ、比較的少量の亜鉛でも犠牲陽極を十分に発揮させるのに有効である。
【0031】
特に、アルミニウム合金押出チューブを構成する押出材においてZn被覆層の厚さが薄くなる箇所、すなわち押出材の両端部付近においてZn被覆層の膜厚減少や不均一が生じている箇所における耐食性の低下を抑制する手段として、本発明に係るAl−Si系合金(質量%で0.5%以上1.0%以下のSiを含有し、残りがAlおよび不可避不純物からなるAl合金)が優れている。
【0032】
したがって、本発明によれば、押出チューブを構成する押出材の肉厚が薄い場合でも成形時の押出性に優れ、かつ、十分な材料強度を有すると共に、低濃度亜鉛拡散層の耐局部腐食性に優れた合金からなるアルミニウム合金押出チューブが得られる。
【0033】
なお、Si含有量が0.5%未満の場合は、耐食性(最大腐食深さ)や押出性には優れているが、室温から200℃までの引張強さが十分得られない傾向がある。一方、Si含有量が1.0%を越える場合は、引張強さは改善されるが耐食性や押出性が損なわれる傾向があると共に、Al合金の溶融開始温度が低下し、600℃程度のろう付け時の加熱に際し、材料の部分溶融が生じることがあり、正常な熱交換器を製造できなくなる。
このような点を考慮すると、押出材のSi含有量は0.5%以上1.0%以下が好ましく、0.6%以上0.8%以下がより好ましい。
【0034】
(Mn含有量)
本発明に係る合金、すなわちAl−Si系合金は、更にMnを含有させることにより室温強度はもとより、高温強度も著しく増加する。Mn含有量が0.5%未満では室温、高温の強度改善効果が十分でなく、その含有量が増加すると押出性が低下するので上限を1.4%とした。
【0035】
(Ti含有量)
本発明に係る合金、すなわちAl−Si系合金は、Tiを含有させることにより押出性や耐局部腐食性を損なうことなく、室温強度を上げることができる。特に、高温強度や耐圧強度を大幅に向上できる。これに対して、Tiの含有量が0.1%未満では上記効果が十分ではなく、0.25%を越えると押出性や耐食性を低下させることから芳しくない。
【0036】
(MnとTiの合計量)
MnとTiの合計量は、1.25%を越えて1.65%以下とすることが耐圧強度をより高めることができるので好ましい。より好ましくは、1.3%以上1.5%以下の範囲がよい。MnとTiの合計量が1.25%以下では耐圧強度が低下するので好ましくなく、1.65%を越えると押出特性が低下するので好ましくない。
【0037】
(Cu含有量)
また、本発明に係る合金、すなわちAl−Si系合金は、更にCuを含有させることにより押出性や耐局部腐食性を損なうことなく、室温強度を上げることができる。これに対して、Cuの含有量が0.05%未満では上記効果が十分ではなく、0.20%を越えると押出性や耐食性を低下させることから芳しくない。
【0038】
また、本発明の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブにおいては、Al合金押出材の外表面となす最も薄い部分の肉厚が0.10mm以上0.30mm以下であることが好ましく、0.12mm以上0.25mm以下がより好ましい。
【0039】
押出材の外表面となす最も薄い部分が0.30mmを越えるような従来の肉厚、例えば0.4mm程度の肉厚の場合は、従来のAl(1050)でも特性上、特に問題は無い。しかしながら、従来材は最も薄い部分が0.30mm以下の肉厚では押出性や強度の点で問題が生ずる。
これに対し、押出材の外表面となす最も薄い部分が0.30mm以下の肉厚の場合に本発明に係る合金、すなわちAl−Si系合金の特徴が十分発揮される。
押出材の外表面となす最も薄い部分の肉厚が0.10mm未満では本合金を用いても耐食性が著しく低下し、押出性や強度の点からも十分な特性を維持することが難しく、実用に耐えられない。一方、押出材の外表面となす最も薄い部分が0.30mmを越える場合は、必ずしも本合金である必要がない上に、製品の十分な軽量化が図れない、すなわち重量減少率が僅かとなり芳しくない。
【0040】
また、チューブの外表面にZnまたはZn含有層を設けることで、ろう付けした後のチューブ表面にZn拡散層が形成され、このZn拡散層が犠牲陽極層として機能することによりチューブの防食効果を高めることができる。このZnまたはZn含有層は、Zn若しくはZn含有合金を溶射、またはZn含有フラックスを塗布することで形成される。Zn含有フラックスとしては、例えばZnF、ZnCl、KZnF等の化合物が挙げられる。
【実施例】
【0041】
以下、本実施例により本発明を更に詳細に説明する。
(実験例1)
まず、0.8質量%のMnと0.1質量%のTiを含み、更にSiの含有率を0.05%〜1.5%の範囲で変えたAl合金をそれぞれ溶解し、鋳造して直径200mmの組成の異なるビレットを製造した。
次に、組成の異なるビレットごとに、ビレットを通常の条件で均質化処理を行い、この均質化処理を施したビレットを温度:500℃、押出し速度:60m/minで熱間押出し加工することにより、図1に示すように冷媒通路用穴を10個有し、断面寸法が幅:20mm、高さ:2mm、肉厚:0.20mmである偏平状の押出材を成形した。
次いで、組成の異なるビレットから成形した押出材ごとに、押出材の温度が冷える前に溶射法を用いてその外表面に、工業用純ZnからなるZn被覆層を設けた。その際、押出材の外平坦部分におけるZn被覆層の重量は約10g/mとした。
さらに、組成の異なるビレットごとに、押出及び溶射処理を行った後、水冷することにより、図1に示すような押出チューブを作製した。
【0042】
上記手順により形成された押出チューブに対し、最大腐食深さ、押出性および引張強さ(室温強度)を調べた。ろう付によりフィンと接合したチューブコアは10日間のSWAAT(See Water Acetic Acid Testの略称、規格:ASTM G85-85)によって耐食性を評価した。
押出チューブの最大腐食深さは、局部腐食部を光学顕微鏡で観察し、試料表面と腐食部底面との間の距離を測定することにより求めた。
押出チューブの押出性は、毎分60mの速度で加工したときの押出圧の大小により評価した。
押出チューブの引張強さは、600℃、3分間のろう付け相当の熱処理を施した後、引張試験を行い、押出チューブが破断する際の荷重を試料の断面積で除した値で評価した。
【0043】
表1には、試料1〜試料8のAl合金押出材に含まれるSi含有量と、押出チューブの耐食性(最大腐食深さ)、押出性(押出圧)および引張強さとの関係を示す。
【0044】
押出圧は、Si含有量が0.05%の試料1で得られた押出圧の値を1と定義して表記したものである。すなわち、試料2〜8における押出圧は、Si含有量が0.05%の試料1で得られた押出圧の値で除し、規格化したものである。
【0045】
【表1】

【0046】
表1から、最大腐食深さについては以下の点が明らかとなった。
(a1)最大腐食深さは、Si含有量が増えるにつれて増加傾向を示す。
(a2)Si含有量が0.8%より多いと最大腐食深さは0.05mmを越え、局部腐食が促進し始める。
(a3)Si含有量が1.0%より多くなると更に最大腐食深さは加速し、0.15mmを越えてしまい、特にZn被覆層の厚さが薄くなる箇所では耐局部腐食性が維持できなくなる。
【0047】
表1から、押出圧については以下の点が明らかとなった。
(b1)押出圧は、Si含有量が増えるにつれて単調に増加するが、1.00%まではその増加は僅かである。
(b2)Si含有量が1.00%より多いと押出圧は急増し、1.50%では2.00となり、肉厚の薄い押出チューブを成形することが難しくなる。
【0048】
表1から、引張強さについては以下の点が明らかとなった。
(c1)引張強さは、Si含有量が1.5%のとき最大であり、Si含有量を減らすと次第に小さくなる傾向を示す。
【0049】
以上の結果より、最大腐食深さ、押出性および引張強さの評価において、同時に優れた特性を備えるためには、Si含有量を質量%で0.5%〜1.0%の範囲とする必要があることが分かる。また、Si含有量を質量%で0.6%〜0.8%の範囲とした場合は、更に優れた耐食性(最大腐食深さ)、押出性および引張強さを得るのでより好ましい。
【0050】
(実験例2)
次に、Siの含有率を質量%で0%または0.7%、Mnを0%または0.4〜1.5%の範囲、Tiを0%または0.05〜0.3%の範囲、Cuを0%または0.03〜0.25%の範囲で変えたAl合金をそれぞれ溶解し、鋳造して直径200mmの組成の異なるビレットを製造した。
次に、組成の異なるビレットごとに、ビレットを通常の条件で均質化処理を行い、この均質化処理を施したビレットを温度:500℃、押出し速度:60m/minで熱間押出し加工することにより、図1に示すように冷媒通路用穴を10個有し、断面寸法が幅:20mm、高さ:2mm、肉厚:0.20mmである偏平状の押出材を成形した。
次いで、組成の異なるビレットから成形した押出材に、KZnFからなるZn含有フラックスを押出材の外表面にスプレー塗布してZn被覆層を形成した。また、ビレットから成形した押出材の一部については、Siを10質量%含有するAl−Si合金粉末からなるろう材粉末5重量部と、KZnFからなるZn含有フラックス1重量部とを混合してフラックス混合物とし、このフラックス混合物を押出材の外表面にスプレー塗布してZn被覆層を形成した。なお、どちらの場合も押出材の外平坦部分におけるZn含有フラックスの重量を約10g/mとした。
さらに、組成の異なるビレットごとに、押出及び溶射処理を行った後、水冷することにより、図1に示すような試料9〜試料27の押出チューブを作製した。表2に、各押出材の合金組成とZn被覆層の種類を示す。
【0051】
上記手順により形成された押出チューブに対し、高温強度特性、引張強度、最大孔食深さ及び押出圧を調べた。ろう付によりフィンと接合したチューブコアは10日間のSWAATによって耐食性を評価した。
押出チューブの高温強度特性は、チューブを150℃に加熱した状態で引張試験を行うことにより求めた。
押出チューブの引張強度、最大孔食深さ及び押出圧は、実験例1の場合と同様にして求めた。結果を表3に示す。押出圧は、試料12の押出圧を基準とした。
【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
表3に示すように、試料9〜18および23並びに24については、150℃における引張強度、室温における引張強度、最大孔食深さ及び押出圧のいずれの指標も優れた値を示していることが分かる。特に、室温における引張強度については、Tiを添加しない試料25及び26と比べて、大幅に向上していることが分かる。また試料9〜18、23、24の150℃における引張強度についても、Tiを添加しない試料25及び26と比べて、大幅に改善されていることが分かる。
【0055】
次に、試料19〜22および25〜27については、Ti、Mn、Cuの添加量が適切でないため、試料9〜18と比べて各指標が全般的に低下していることが分かる。
また、試料12と試料27を比べると、両者の違いはZn被覆層のろう材を添加したか否かの差であるが、ろう材を添加した試料27では、150℃、室温、の両方の引張強度が大幅に低下していることが分かる。これは、ろう材中のSiが、押出材に含まれるMnと化合してSiMn析出物を形成し、これにより押出材中のMn量が不足して強度が低下したものと考えられる。
【0056】
更に、試料12,13,17,18,24については、MnとTiの合計量が1.25〜1.65%の範囲にあるため、他の試料に比べて引張強度が高くなっていることが分かる。
【0057】
以上のように、試料9〜18、23、24の押出材によれば、従来のフロン系冷媒のみならず、CO冷媒を用いた場合でも、十分な高温強度と耐圧性を確保することができる。この中でも特に試料12,13,17,18,24については、より優れた強度を有することがわかる。
【0058】
また、上記手順により得られた試料12の押出チューブの肉厚Tを、0.05mm〜0.40mmの範囲で変えて作製し、その耐食性(日数)を纏めて示したものが表4である。押出チューブの耐食性は、前述したSWAATにおいてチューブが貫通するまでに要した日数で評価した。
【0059】
【表4】

【0060】
表4より、押出チューブはその肉厚を0.10mm以上とした場合に、20日以上の耐食性を有することが分かる。したがって、押出チューブの肉厚を0.10mm以上0.30mm以下の範囲とすることにより、優れた耐食性を備えた押出チューブの提供が可能となる。
【0061】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、上述した作用・効果が損なわれない範囲で、従来から耐腐食性を改善する効果が確認されている元素、すなわち、FeやZnが含まれていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1は押出チューブの一例を示す斜視図である。
【図2】図2は熱交換器の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0063】
1…チューブ(熱交換器用アルミニウム合金押出チューブ)、2…フィン、3…冷媒通路穴、4…ヘッダーパイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で0.5%以上1.0%以下のSiと、0.5%以上1.4%以下のMnと、0.1%以上0.25%以下のTiとを含有し、残りがAlおよび不可避不純物からなるAl合金押出材の外表面に、ZnまたはZn含有層を設けたことを特徴とする熱交換器用アルミニウム合金押出チューブ。
【請求項2】
前記Al合金押出材には更に、質量%で0.05%以上0.20%以下のCuが添加されていることを特徴とする請求項1に記載の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブ。
【請求項3】
MnとTiの合計量が1.25%を越えて1.65%以下とされていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブ。
【請求項4】
前記Al合金押出材は、その外表面となす最も薄い部分の肉厚が0.10mm以上0.30mm以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブ。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の熱交換器用アルミニウム合金押出チューブを使用して製造されたものであることを特徴とする熱交換器。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−2212(P2006−2212A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−179524(P2004−179524)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000176707)三菱アルミニウム株式会社 (446)
【Fターム(参考)】