説明

熱交換媒体および蓄電装置

【課題】 主に、流動性および絶縁性に優れた熱交換媒体を提供する。
【解決手段】 蓄電素子(11)とともにケース(20)内に収容され、蓄電素子との間で熱交換を行うための液状の熱交換媒体(40)であって、熱交換媒体は、炭素数が6〜8個の脂肪酸と2−エチルヘキサノールとのエステル化合物であって、カプリル酸2−エチルヘキシルを90体積%以上含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電素子との間で熱交換を行うための液状の熱交換媒体と、この熱交換媒体を用いた蓄電装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、充放電によって発熱することがあり、温度上昇によって二次電池の特性が劣化してしまうことがある。そこで、二次電池の温度上昇を抑制するために、二次電池に冷媒(液体)を接触させる技術が提案されている(例えば、特許文献1,2)。
【0003】
特許文献1に記載の組電池では、組電池を収容するケースに注入口および排出口を設けておき、注入口を介してケース内に冷媒を供給するとともに、排出口を介してケース外に冷媒を排出させている。そして、冷媒として、絶縁油や流動パラフィンを用いている。
【0004】
また、特許文献2に記載の収容装置では、電池収容室の内部に二次電池とともに冷却液を収容している。そして、冷却液として、エチレングリコールを用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−060466号公報(段落0020−0022)
【特許文献2】特開2008−16346号公報(段落0018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
二次電池に液体を接触させる構成において、液体に要求される性能としては、熱伝達率が高いこと、電気的な絶縁性を有すること、二次電池を劣化させないこと等が挙げられる。ここで、特許文献1,2に記載の液体では、上述した性能に関して不十分となるおそれがある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、主に、流動性および絶縁性に優れた熱交換媒体と、この熱交換媒体を用いた蓄電装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、蓄電素子とともにケース内に収容され、蓄電素子との間で熱交換を行うための液状の熱交換媒体であって、熱交換媒体は、炭素数が6〜8個の脂肪酸と2−エチルヘキサノールとのエステル化合物であって、カプリル酸2−エチルヘキシルを90体積%以上含むことを特徴とする。具体的には、熱交換媒体を、カプリル酸2−エチルヘキシルだけで構成したり、カプリル酸2−エチルヘキシルと、カプリル酸以外の脂肪酸(炭素数が6〜7個)および2-エチルヘキサノールのエステル化合物との混合物で構成したりすることができる。
【0009】
ここで、熱交換媒体には、硫黄成分を含ませないことが好ましい。これにより、硫黄成分によって、蓄電素子等が腐食してしまうおそれを回避することができる。
【0010】
本発明の熱交換媒体は、蓄電素子とともにケース内に収容することにより、蓄電装置として利用することができる。ここで、熱交換媒体に対して流動力を与えるファンをケース内に配置しておけば、ファンの駆動力を用いて熱交換媒体を効率良く流動させることができる。また、ファンの駆動によって、熱交換媒体を層流の状態で蓄電素子に送り出せば、蓄電素子における部分的な温度バラツキを抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、蓄電素子との間で熱交換を行う液状の熱交換媒体として、炭素数が6〜8個の脂肪酸および2−エチルヘキサノールからなるエステル化合物(カプリル酸2−エチルヘキシルを90体積%以上含有)を用いることにより、熱交換媒体の絶縁性および流動性を向上させることができる。熱交換媒体の絶縁性を向上させることにより、蓄電装置を取り扱う際の安全性を向上させることができる。また、熱交換媒体の流動性を向上させることにより、熱交換媒体を用いた蓄電素子の温度調節を効率良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態1である電池パックの構成を示す分解斜視図である。
【図2】実施形態1の電池パックにおける一部の内部構成を示す図である。
【図3】実施形態1の電池パックにおいて、熱交換媒体の主な流れを示す図である。
【図4】実施形態1の電池パックにおいて、熱交換媒体の流動方向を示す図である。
【図5】熱交換媒体の温度と動粘度との関係を示す図である。
【図6】環境温度と、電池モジュールにおける温度バラツキとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態1である電池パック(蓄電装置)の構成について、図1を用いて説明する。ここで、図1は、本実施形態の電池パックの構成を示す分解斜視図である。
【0014】
本実施形態の電池パック1は、車両に搭載されている。この車両としては、ハイブリッド自動車や電気自動車がある。ハイブリッド自動車とは、電池パック1の他に、車両の走行に用いられるエネルギを出力する、内燃機関や燃料電池といった他の動力源を備えた車である。また、電気自動車は、電池パック1の出力だけを用いて走行する車である。本実施形態の電池パック1は、放電によって車両の走行に用いられるエネルギを出力したり、車両の制動時に発生する運動エネルギを回生電力として充電したりする。なお、車両の外部から電力を供給することにより、電池パック1を充電することもできる。
【0015】
電池パック1は、電池モジュール10と、パックケース20と、撹拌ユニット30とを有している。パックケース20は、電池モジュール10および撹拌ユニット30を収容するための空間を形成する収容部材21と、収容部材21の開口部21aを塞ぐ蓋部材22とを有している。蓋部材22は、収容部材21にネジ等の締結部材によって固定されたり、溶接によって固定されたりする。これにより、パックケース20の内部は、密閉状態となる。
【0016】
収容部材21および蓋部材22は、熱伝導性や耐食性等に優れた材料、例えば、後述する熱交換媒体40の熱伝導率と同等又はこれよりも高い熱伝導率を有する材料で形成することができる。具体的には、収容部材21や蓋部材22を、アルミニウムや鉄等といった金属で形成することができる。なお、本実施形態では、収容部材21や蓋部材22の外壁面を平坦な面で構成しているが、これに限るものではない。具体的には、収容部材21および蓋部材22のうち少なくとも一方の外壁面に、複数の放熱フィンを設けることができる。これにより、放熱フィンを介して、電池パック1の放熱性を向上させることができる。
【0017】
パックケース20の内部には、電池モジュール10および撹拌ユニット30の他に、電池モジュール10との間で熱交換を行うための液状の熱交換媒体40が収容されている。熱交換媒体40の具体的な成分については、後述する。
【0018】
熱交換媒体40は、後述するように、電池モジュール10(単電池11)の温度を調節するために用いられる。ここで、パックケース20の内部に収容される熱交換媒体40の量は、適宜設定することができる。具体的には、熱交換媒体40の液面を蓋部材22に接触させてもよいし、熱交換媒体40の液面が蓋部材22から離れていてもよい。ここで、電池モジュール10の全面に熱交換媒体40を接触させておくことが好ましい。
【0019】
次に、電池モジュール10の構成について説明する。
【0020】
電池モジュール10は、複数の単電池(二次電池、蓄電素子)11が電気的に直列に接続されたものである。複数の単電池11は、パックケース20の内部において、並列に配置されている。二次電池としては、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池を用いることができる。また、二次電池の代わりに、電気二重層キャパシタを用いることもできる。さらに、本実施形態では、円筒型の単電池11を用いているが、角型等の他の形状の単電池を用いることもできる。
【0021】
各単電池11は、発電要素(不図示)と、発電要素を密閉状態で収容する電池ケースとを有している。発電要素は、充放電を行うことができる要素であり、例えば、電極素子(正極素子および負極素子)およびセパレータで構成することができる。正極素子は、集電板の表面に正極活物質の層を形成したものであり、負極素子は、集電板の表面に負極活物質の層を形成したものである。
【0022】
各単電池11の両端には、正極端子11aおよび負極端子11bがそれぞれ設けられている。正極端子11aは、発電要素の正極素子と電気的および機械的に接続されており、負極端子11bは、発電要素の負極素子と電気的および機械的に接続されている。各単電池11の正極端子11aは、隣り合って配置された他の単電池11の負極端子11bとバスバー13を介して電気的に接続されている。これにより、複数の単電池11は、電気的に直列に接続されることになる。
【0023】
各単電池11は、両端側において、一対の板状の支持部材12によって支持されている。これらの支持部材12は、ネジ等の締結部材(不図示)によって、パックケース20(収容部材21)に固定されている。また、各支持部材12の端面(外縁部)は、収容部材21の底面および側面に接触するようになっている。
【0024】
なお、本実施形態では、2つの支持部材12を用いているが、これらの支持部材12を一体として構成することもできる。また、角型の単電池11を用いた場合には、スペーサを挟んだ状態で複数の単電池11を一方向に並べておき、これらの単電池11を配列方向の両端からエンドプレートによって挟むことができる。
【0025】
複数の単電池11のうち特定(2つ)の単電池11には、正極用および負極用のケーブル(不図示)が接続されており、これらのケーブルは、パックケース20の外部に配置された機器に接続されている。この機器としては、例えば、電池モジュール10の電圧を昇圧するためのDC/DCコンバータや、直流電流および交流電流の変換を行うインバータがある。
【0026】
電池モジュール10の角部には、撹拌ユニット30が配置されている。撹拌ユニット30の両端は、一対の支持部材12と同一面内に位置するように配置されている。図2を用いて、撹拌ユニット30の具体的な構成について説明する。ここで、図2は、電池パック1の内部における一部の構成を示す概略図である。
【0027】
撹拌ユニット30は、ファン(クロスフローファン)31と、ファン31の回転軸31aを回転可能に支持する一対の軸受け32と、軸受け32を支持する支持板33とを有している。ファン31は、単電池11と略平行となるように配置されている。また、ファン31は、回転軸31aの外周面において、複数の羽根31bを有している。複数の羽根31bは、回転軸31aの周方向において等間隔に配置されており、各羽根31bは、曲面を持った形状に形成されている。ファン31の回転軸方向における各羽根31bの長さは、一対の支持部材12の間隔と略等しくなっている。
【0028】
回転軸31aにはモータ(不図示)が接続されており、ファン31は、モータからの駆動力を受けることによって回転する。支持板33の一部33aは、ファン31の外周に沿った形状に形成されており、ファン31の回転に応じて熱交換媒体40をスムーズに移動させるようにしている。
【0029】
ファン31と電池モジュール10(単電池11)との間には、互いに接続された第1の仕切り部材34aおよび第2の仕切り部材34bが配置されている。第1の仕切り部材34aは、図2に示すように、電池モジュール10のうち最も下方に位置する単電池11とパックケース20(収容部材21)の底面との間に配置されている。また、第2の仕切り部材34bは、電池モジュール10に沿って重力方向(図2の上下方向)に延びており、第2の仕切り部材34bの先端が電池モジュール10の上部に位置している。第1および第2の仕切り部材34a,34bの幅は、一対の支持部材12の間隔と等しくなっている。
【0030】
次に、上述した電池パック1において、ファン31の駆動に伴う熱交換媒体40の流れについて、図3および図4を用いながら説明する。
【0031】
モータの駆動力を受けてファン31が回転すると、ファン31から熱交換媒体40が送り出される。ファン31から送り出された熱交換媒体40は、第1の仕切り部材34aと収容部材21の底面との間を通過して、電池モジュール10の側に移動する。ここで、ファン31における複数の羽根31bは、回転軸31aの長手方向に延びているため、ファン31から送り出される熱交換媒体40は、羽根31bの長さを有する層流を形成する。
【0032】
ファン31から送り出された熱交換媒体40は、図3の矢印で示すように、電池モジュール10の周囲を辿るように進んで、ファン31に戻るようになっている。ここで、図3の矢印で示す流れは、熱交換媒体40の主な流れを示すものであり、この流れとは異なる流れも存在する。なお、図3では、第1の仕切り部材34aを省略している。
【0033】
本実施形態において、電池モジュール10(最も外側に位置する単電池11)とパックケース20の内壁面との間の距離(最短距離)は、隣り合う単電池11の間における距離(最短距離)よりも長くなっている。このように設定することで、ファン31から送り出される熱交換媒体40を、電池モジュール10の周囲に沿って移動させることができる。そして、電池モジュール10の周囲において、熱交換媒体40の主な流れを発生させることにより、隣り合う単電池11の間にも熱交換媒体40の二次的な流れを発生させることができる。具体的には、図4に示すように、電池モジュール10の下方から上方に向かって、隣り合う単電池11の間を通過する熱交換媒体40の流れを発生させることができる。
【0034】
単電池11は充放電によって発熱することがあるが、単電池11に熱交換媒体40を接触させることにより、単電池11および熱交換媒体40の間で熱交換が行われ、単電池11の熱が熱交換媒体40に伝達される。熱を持った熱交換媒体40は、上述したようにパックケース20の内部で流動し、パックケース20の内壁面に接触することにより、パックケース20に熱を伝達することができる。そして、パックケース20に伝達された熱は、大気中に放出される。これにより、電池パック1(単電池11)の放熱(冷却)を行うことができる。
【0035】
一方、熱交換媒体40を温めるようにすれば、温められた熱交換媒体40が単電池11と熱交換を行うことにより、単電池11に熱を伝達することができる。これにより、単電池11を温めることができる。単電池11を温めることは、環境温度によって単電池11の温度が過度に低下してしまったときに有効である。
【0036】
ここで、熱交換媒体40を温める場合としては、熱交換媒体40を直接的又は間接的に温めることができる。熱交換媒体40を直接的に温める手段としては、例えば、パックケース20内にヒータを配置して、ヒータを熱交換媒体40と接触させることができる。また、熱交換媒体40を間接的に温める手段としては、例えば、パックケース20をヒータによって温めるようにし、パックケース20を介して熱交換媒体40を温めることができる。
【0037】
本実施形態では、ファン31から送り出された熱交換媒体40が、層流の状態で単電池11に接触するようになっている。ここで、熱交換媒体40の層流の幅は、単電池11の長手方向における長さと略等しくなっているため、熱交換媒体40は、単電池11における概ね全体の領域との間で熱交換を行うことができる。これにより、単電池11における部分的な温度のバラツキを抑制することができる。また、図4に示すように、電池モジュール10を構成するすべての単電池11に対して熱交換媒体40を接触させることにより、すべての単電池11との間で熱交換を行うことができる。これにより、電池モジュール10を構成する複数の単電池11における温度のバラツキを抑制することができる。
【0038】
なお、本実施形態では、パックケース20の内部に撹拌ユニット30を配置しているが、撹拌ユニット30を配置しなくてもよい。また、ファン31として、クロスフローファンを用いているが、熱交換媒体40を流動させる力を発生させるものであれば、いかなる構成であってもよい。さらに、本実施形態では、撹拌ユニット30をパックケース20の底面に沿って配置しているが、これに限るものではない。すなわち、電池モジュール10の周囲で熱交換媒体40を流動させることができれば、撹拌ユニット30の位置は適宜設定することができる。例えば、撹拌ユニット30をパックケース20の上面に沿って配置することもできる。
【0039】
次に、熱交換媒体40の具体的な成分について、説明する。
【0040】
熱交換媒体40としては、炭素数が6〜8個の脂肪酸および2−エチルヘキサノールからなるエステル化合物を用いている。このエステル化合物には、カプリル酸2−エチルヘキシルが90体積%以上含まれている。ここで、熱交換媒体40をカプリル酸2−エチルヘキシルだけで構成してもよいし、カプリル酸以外の他の脂肪酸(炭素数が6〜7個)を用いたエステル化合物が10体積%以下含まれていてもよい。
【0041】
炭素数が6〜8個(Rの炭素数が5〜7個)の脂肪酸としては、例えば、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸が挙げられる。これらの脂肪酸は、1種類(カプリル酸)を単独で用いることもできるし、2種類(カプリル酸を含む)以上を混合して用いることもできる。
【0042】
ここで、熱交換媒体(エステル化合物)40の絶縁性を確保する点に関して、脂肪酸の炭素数は6個以上であることが好ましい。また、パックケース20内における熱交換媒体40の流動性を確保する点に関して、脂肪酸の炭素数は8個以下であることが好ましい。ここで、エステル化合物の動粘度が低くなるほど、熱交換媒体40の流動性を向上させることができる。一方、2−エチルヘキサノールを用いることにより、熱交換媒体40に対して、低温での流動性および電気的絶縁性に関して優れた特性を持たせることができる。
【0043】
上述した炭素数が6〜8個の脂肪酸および2−エチルヘキサノールのエステル化合物としては、例えば、カプリル酸2−エチルヘキシル、カプロン酸2−エチルヘキシルが挙げられる。そして、これらのエステル化合物を、1種類(カプリル酸2−エチルヘキシル)だけ用いたり、2種類(カプリル酸2−エチルヘキシルを含む)以上を混合して用いたりすることができる。
【0044】
熱交換媒体40として用いられるエステル化合物は、種々のエステル化法を用いて製造することができる。例えば、炭素数が6〜8個の脂肪酸と2−エチルヘキサノールとを酸またはアルカリの存在下で反応させてエステル化させる方法がある。また、炭素数が6〜8個の脂肪酸エステル化合物と2−エチルヘキサノールとを酸またはアルカリの存在下で反応させてエステル交換させることもできる。
【0045】
また、エステル化合物を用いた場合には、20℃のプラントル数が8〜40000であることが好ましい。これにより、熱交換媒体40の熱伝達率を向上させることができ、熱交換媒体40を用いて電池モジュール10の温度調節を効率良く行うことができる。
【0046】
上述したように、熱交換媒体40としてエステル化合物を用いると、優れた絶縁性を得ることができ、高電圧を発生させる電池モジュール10に好適に用いることができる。また、エステル化合物は、200ppm以下の水分が加わっても、エステル分子が水分子を内包するため、体積抵抗率が変化しにくい。
【0047】
さらに、エステル化合物を用いれば、熱交換媒体40に硫黄成分を含ませないようにすることもできる。例えば、炭素数が6〜8個の脂肪酸および2−エチルヘキサノールをエステル化させるときの触媒として、硫黄を含有していないものを用いることができる。これにより、硫黄を含む鉱物油を用いた場合に比べて、電池モジュール10の一部が硫黄によって腐食してしまうおそれを回避することができる。例えば、バスバー13や単電池11の電極端子11a,11bを銅で形成した場合において、これらの部材が硫黄によって腐食してしまうおそれを回避することができる。
【0048】
以下の表1は、熱交換媒体40としてカプリル酸2−エチルヘキシルだけを用いたときの実施例1と、熱交換媒体40として鉱物油を用いたときの比較例とに関して、熱交換媒体40の温度に対する動粘度を示している。鉱物油としては、ATF(Automatic Transmission Fluid;トヨタオートフルードWS)を用いている。
【0049】
【表1】

【0050】
表2には、カプリル酸2−エチルヘキシル、鉱物油およびシリコンオイルの体積抵抗率を示している。
【0051】
【表2】

【0052】
表2に示すように、カプリル酸2−エチルヘキシルは、鉱物油やシリコンオイルと同等の体積抵抗率を有している。このため、高電圧を発生する電池モジュール10に接触する熱交換媒体40として好適に用いることができる。
【0053】
一方、図5には、熱交換媒体40として、鉱物油およびカプリル酸2−エチルヘキシルを用いた場合において、熱交換媒体40の温度および動粘度の関係を示している。
【0054】
図5に示すように、カプリル酸2−エチルヘキシルを用いた場合には、熱交換媒体40の温度が変化しても、動粘度は変化し難くなっている。一方、鉱物油は、0℃よりも低くなるほど、動粘度は増加している。このため、本実施形態の電池パック1が、0℃よりも低い環境で使用される場合には、熱交換媒体40としてカプリル酸2−エチルヘキシルを用いることが好ましい。
【0055】
図6には、熱交換媒体40として、鉱物油およびカプリル酸2−エチルヘキシルを用いた場合において、環境温度と、電池モジュール10を構成する複数の単電池11における温度バラツキとの関係を示している。ここで、温度バラツキ(ΔT)とは、電池パック1内のファン31を所定時間駆動した後において、電池モジュール10を構成する複数の単電池11のうち、最も高い温度を示す単電池11と、最も低い温度を示す単電池11との温度差を表している。また、環境温度とは、電池パック1の周辺温度を表している。
【0056】
図6に示すように、カプリル酸2−エチルヘキシルを用いた場合には、鉱物油を用いた場合に比べて、電池モジュール10における温度バラツキを抑制することができる。そして、温度バラツキを抑制することにより、複数の単電池11における性能劣化のバラツキを抑制することができる。これにより、電池モジュール10を構成する複数の単電池11をバランス良く使用することができ、電池モジュール10の充放電を効率良く行うことができる。
【0057】
また、熱交換媒体40としてカプリル酸2−エチルヘキシルを用いると、熱交換媒体40に単電池11の電解液が漏れて、電解液の濃度が20[vol%]以上となっても、この液体の体積抵抗率を1.0E+05[Ω・cm]以上とすることができる。また、カプリル酸2−エチルヘキシルは、単電池11の電解液によって分解されることもない。ここで、単電池11が過度に発熱すると、単電池11(電池ケース)からガスが排出され、このガスと共に発電要素の電解液が漏れてしまうおそれがある。電解液としては、例えば、DMC(ジメチルカーボネート)や、EMC(エチルメチルカーボネート)が用いられている。
【0058】
そこで、単電池11から電解液が漏れたときでも、熱交換媒体40の絶縁性を確保しておくことが好ましい。上述したように、熱交換媒体40としてカプリル酸2−エチルヘキシルを用いれば、熱交換媒体40の体積抵抗率が大幅に低下してしまうのを抑制することができる。
【0059】
一方、パックケース20の材料や、電池パック1が搭載される車両ボディの材料として、樹脂材料やゴム材料が用いられることがある。樹脂材料としては、例えば、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PA6(ポリアミド6)、PA66(ポリアミド66)が用いられる。また、ゴム材料は、例えば、シール性を持たせるために用いられ、NBR(アクリロニトリルブタジエンゴム)、バイトン(登録商標)、ポリウレタンが用いられる。
【0060】
ここで、熱交換媒体40としてカプリル酸2−エチルヘキシルを用いると、上述した樹脂材料やゴム材料に対する悪影響を抑制することができる。具体的には、70℃のエステル化合物(カプリル酸2−エチルヘキシル)に樹脂材料を2週間浸したら、樹脂材料の体積変化率および重量変化率が0.5%以下であった。また、70℃のエステル化合物(カプリル酸2−エチルヘキシル)にゴム材料を2週間浸したら、ゴム材料の体積変化率および重量変化率が20%以下であった。このように、熱交換媒体40としてカプリル酸2−エチルヘキシルを用いると、電池パック1や電池パック1が搭載される車両ボディに対して悪影響を与えてしまうおそれを回避することができる。
【符号の説明】
【0061】
1:電池パック(蓄電装置) 10:電池モジュール
11:単電池(蓄電素子) 11a:正極端子
11b:負極端子 12:支持部材
13:バスバー 20:パックケース
21:収容部材 22:蓋部材
30:撹拌ユニット 31:ファン
40:熱交換媒体(エステル化合物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電素子とともにケース内に収容され、前記蓄電素子との間で熱交換を行うための液状の熱交換媒体であって、
前記熱交換媒体は、炭素数が6〜8個の脂肪酸と2−エチルヘキサノールとのエステル化合物であって、カプリル酸2−エチルヘキシルを90体積%以上含むことを特徴とする熱交換媒体。
【請求項2】
前記熱交換媒体は、硫黄成分を含まないことを特徴とする請求項1に記載の熱交換媒体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の熱交換媒体を備えたことを特徴とする蓄電装置。
【請求項4】
前記ケース内に配置され、前記熱交換媒体に対して流動力を与えるファンを有することを特徴とする請求項3に記載の蓄電装置。
【請求項5】
前記ファンは、前記熱交換媒体を層流の状態で前記蓄電素子に送り出すことを特徴とする請求項4に記載の蓄電装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−244978(P2010−244978A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95087(P2009−95087)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【出願人】(000150774)株式会社槌屋 (56)
【Fターム(参考)】