説明

熱伝導シートおよびその製造方法

【課題】所望の厚さが得られ、厚さ方向および面方向の熱伝導率が高く、機械的強度に優れた熱伝導シートを提供することを目的とするものである。
【解決手段】グラファイト片13と樹脂12とを混合してシート状に成形してなる熱伝導シート11であって、この熱伝導シートの表面付近11aではグラファイト片のa−b軸が主として熱伝導シートの面方向に配向され、熱伝導シートの内部領域11bではグラファイト片のa−b軸が主として熱伝導シートの厚さ方向に配向されているようにしたものであり、このようにすることにより、厚さ方向および面方向の熱伝導率を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の厚みが得られ、厚み方向での熱伝導率が高い熱伝導シートおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年電子機器の動作速度の向上が目覚しく、これに伴い半導体素子等の電子部品からの発熱が増大している。これに対して電子機器を安定して動作させるために、これらの発熱素子にグラファイトシート等の熱伝導シートを用いて熱を拡散あるいは放熱させることが行なわれている。しかしながらグラファイトシートは、一般的にその厚さが約0.05mmと薄く、発熱素子とヒートシンクとの間に比較的大きな隙間があるものについては十分に機能しにくかった。
【0003】
グラファイトシートは、図5に示すように平面状に広がる鱗片状の結晶構造を有しており、面方向(炭素6員環が連なるa−b軸方向)に大きな熱伝導率を有し、厚さ方向であるc軸方向の熱伝導率は比較的小さい。そこで図6のように、グラファイトシート1を複数枚貼り合わせて切断し、厚さ方向に熱伝導を良くしたものが提案されている。
【0004】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−303240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のような熱伝導シートでは厚み方向への熱伝導率が高いものが得られるが、発熱部品とヒートシンク、ヒートスプレッダ等の放熱部品を取り付ける時には加圧が必要な場合がある。この場合に薄いシートを貼り合わせて、貼り合わせ面に対して垂直に切断したものでは、加圧力は貼り合わせ面が倒れ込む方向にも力が働いてしまう。この結果、貼り合わせ面や、グラファイトシートの層間で剥離してしまうことがある。また積層した後で切断するという工程が増えるため、コストアップの要因となっていた。さらに上記熱伝導シートでは、グラファイトシートが向いている一方向にしか熱が伝導しにくいため、面方向の熱伝導性は劣ったものとなっていた。
【0007】
本発明は、このような課題を解決し、所望の厚さが得られ、厚さ方向および面方向の熱伝導率が高く、機械的強度に優れた熱伝導シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記課題を解決するために、グラファイト片と樹脂とを混合してシート状に成形してなる熱伝導シートであって、この熱伝導シートの表面付近ではグラファイト片のa−b軸が主として熱伝導シートの面方向に配向され、熱伝導シートの内部領域ではグラファイト片のa−b軸が主として熱伝導シートの厚さ方向に配向されているようにしたものである。
【発明の効果】
【0009】
上記構成により、熱伝導シートの表面に伝わった熱は、熱伝導シートの面方向に拡散するとともに厚さ方向にも伝わる。厚さ方向に伝わった熱は、熱伝導シートの内部領域ではグラファイト片のa−b軸が主として熱伝導シートの厚さ方向に配向しているため反対側の表面の方に熱が流れていく。さらに反対側の表面でもグラファイト片のa−b軸が主として熱伝導シートの面方向に配向されているため、熱は面方向に流れやすくなる。結果として熱伝導シートの厚さ方向の熱伝導率が向上するとともに、グラファイト片が一定の方向を向いていないため、機械的強度に優れた熱伝導シートを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施の形態における熱伝導シートの断面図
【図2】本発明の一実施の形態における熱伝導シートを成形するための装置の断面図
【図3】本発明の一実施の形態における別の熱伝導シートを成形するための装置の断面図
【図4】(a)本発明の一実施の形態におけるさらに別の熱伝導シートを成形するための装置の垂直断面図、(b)本発明の一実施の形態におけるさらに別の熱伝導シートを成形するための装置の水平断面図
【図5】一般的なグラファイトの結晶構造を示す図
【図6】従来の熱伝導シートの斜視図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態における熱伝導シートについて、図面を参照しながら説明する。
【0012】
図1は本発明の一実施の形態における熱伝導シートの断面図であり、アクリル酸エステルからなる樹脂12と、グラファイト片13とを混合することにより熱伝導シート11を構成している。グラファイト片13は熱分解グラファイトシートを切断、粉砕することにより、平均粒径(50%粒径)約30μmの鱗片状にしたものを用い、熱伝導シート11の厚さを約0.5mmとしている。
【0013】
この熱伝導シート11の両方の表面付近11aでは、グラファイト片13のa−b軸が主として熱伝導シート11の面方向に配向され、熱伝導シートの内部領域11bではグラファイト片のa−b軸が主として熱伝導シートの厚さ方向に配向されている。ここで熱伝導シート11の表面付近とは、表面からグラファイト片13の平均粒径程度の深さを意味し、熱伝導シートの内部領域とは、断面において熱伝導シートの中心から上下に向かってそれぞれその厚さの1/3までの領域を意味している。また配向しているというのは、それぞれの領域において、それぞれのグラファイト片13のa−b軸の方向と熱伝導シート11の面方向との角度の平均値を配向角度としたとき、30°以下のものを熱伝導シート11の面方向に配向されたものとし、60°以上のものを熱伝導シートの厚さ方向に配向されているとしている。
【0014】
なお、この配向角度は、熱伝導シート11の表面付近で20°以下、熱伝導シートの内部領域で70°以上とすることがより好ましい。
【0015】
以上のように構成することにより、熱伝導シート11の一方の面に到達した熱は、熱伝導シートの表面付近11aでは、グラファイト片13のa−b軸が主として熱伝導シート11の面方向に配向されているため、面方向に拡散しながら厚さ方向に伝熱される。この熱が熱伝導シートの内部領域11bに到達すると、そこではグラファイト片のa−b軸が主として熱伝導シート11の厚さ方向に配向されているため、厚さ方向にスムースに伝熱される。その後熱伝導シート11のもう一方の表面付近に到達し、同様に面方向に拡散しながら、もう一方の表面に到達する。以上のように伝熱されるため、厚さ方向および面方向の熱伝導率が高い熱伝導シートを得ることができる。さらに熱伝導シート11の内部ではグラファイト片13が一定の方向を向いていないため、機械的強度に優れた熱伝導シートを得ることができる。
【0016】
次に本発明の一実施の形態における熱伝導シートの製造方法について説明する。
【0017】
図2は、本発明の一実施の形態における熱伝導シートを成形するための装置の断面図である。容器14はグラファイト片13と樹脂12とを混合したシート材料を入れ、加圧装置15により加圧することにより、容器14につながった平板状の隙間を有する第1の配向領域16に押し出す。シート材料には、平均粒径約30μm、90%粒径約80μm、アスペクト比約10:1の鱗片状のグラファイト片13と、分子量約100万のアクリル酸エステルの樹脂12とを、重量比4:1で混合したものを用いている。ここで樹脂の重量は溶剤分を除いたもので示している。第1の配向領域16は、シート材料の通る部分で隙間を約50μm、幅約100mm、長さ約20mmの平板状の形状となっている。さらに第1の配向領域16から、第1の配向領域16とほぼ直交する第2の配向領域17につながっている。第2の配向領域17は、シート材料の通る部分で隙間を約500μm、幅約100mm、長さ約10mmの平板状の形状となっている。このようにシート材料は、加圧装置15により加圧することにより、容器14から第1の配向領域16、第2の配向領域17を通り、取り出し口19から押し出されることにより、幅約100mm、厚さ約500μmのシート状に成形される。これを加熱して溶剤分を飛ばすことにより、熱伝導シート11を得ることができる。
【0018】
以上のようにすることにより、容器14内では、グラファイト片13と樹脂12とを混合した状態であるため、グラファイト片13のa−b軸の方向はランダムとなっているが、第1の配向領域16を通っていくと、その隙間が約50μmと狭いため、グラファイト片13のa−b軸方向は、第1の配向領域16の長さ方向へとそろえられていく。第1の配向領域16の長さは、長い方が配向度合いは高くなるので望ましいが、あまり長くなると大きな加圧力が必要となるため、十分な配向性が得られる程度にしておくことが望ましい。第1の配向領域16から第2の配向領域17に押し出されると、内部領域では第1の配向領域16での配向を保ったまま第2の配向領域17に移動する。第1の配向領域16と第2の配向領域17とは、その隙間がほぼ直交するように接続されているため、第2の配向領域17ではグラファイト片13のa−b軸方向はその厚さ方向に配向された状態となっている。一方熱伝導シート11の表面となる部分では、第2の配向領域17の壁面と接しながら押し出されるため、表面付近ではその面方向に配向されるようになる。このようにして第2の配向領域17から押し出されてきたものは、表面付近ではグラファイト片のa−b軸が主として面方向に配向され、内部領域ではグラファイト片のa−b軸が主として厚さ方向に配向されたものとなっている。
【0019】
以上のようにして作製された熱伝導シートでは、熱伝導シートの表面付近11aでの配向角度は約8°、内部領域11bでは配向角度は約78°のものが得られ、この熱伝導シート11の熱伝導率を測定すると、厚さ方向で約60W/m・K、面方向で約40W/m・Kと非常に優れたものが得られた。
【0020】
なお、グラファイト片の大きさは、例えば熱分解グラファイトシートを所定の大きさに切断したものを、ジェットミル等で粉砕することにより、所望の大きさのものを得ることができる。また、グラファイト片のアスペクト比が小さすぎると配向性が劣化しやすくなってくるため、5:1以上とすることが望ましい。
【0021】
ここで第1の配向領域の隙間の大きさは、小さすぎるとグラファイト片が通りにくくなり、大きすぎると十分な配向性が得にくくなるため、グラファイト片の平均粒径の1倍から2倍の大きさとすることが望ましい。
【0022】
また、第2の配向領域の長さは、あまり長くなると内部領域の配向性に影響を与える可能性があり、第1の配向領域の長さよりも短くすることが望ましい。
【0023】
また、第1の配向領域の隙間の大きさと第2の配向領域の隙間の大きさが同程度であると、押し出された状態で内部領域の配向性が得にくくなり、厚さ方向の熱伝導率が悪くなる。そのため、第1の配向領域の隙間の大きさを、第2の配向領域の隙間の大きさの1/5以下にすることが望ましい。
【0024】
さらにグラファイト片の粒径は、小さすぎても、大きすぎても配向性が悪くなる傾向にあり、通常必要とされる0.1〜1mmの厚さの熱伝導シートに対しては、平均粒径が10〜60μmのグラファイト片を用いるのが望ましい。
【0025】
またグラファイト片の粒径分布において、あまり大きいものが混じると配向性が悪くなるとともに、空隙ができて密度が下がるため好ましくなく、90%粒径が熱伝導シートの厚さの1/4以下になるようにすることが望ましい。
【0026】
なお、上記実施の形態では、第2の配向領域17からフリーの状態で押し出されるが、図3のように、第2の配向領域の部分を開閉可能な成形金型18とし、この中で硬化させるようにしても良い。この場合図3のように、第1の配向領域16から成形金型18に押し出される場所とは反対側の位置から第1の配向領域16に向かって押圧金型20によって圧力を加えることができるようにすることにより、さらに厚さ方向の配向性を高めることができる。
【0027】
次に、さらに厚さ方向の熱伝導率を高めるための製造方法について説明する。
【0028】
図4(a)は、本発明の一実施の形態におけるさらに別の熱伝導シートを成形するための装置の垂直断面図であり、図4(b)は、図4(a)のA−A線で水平に切断したときに上から見たときの水平断面図である。
【0029】
図4(a)に示すように、容器14につながる第1の配向領域が16a、16bと2系統設けられており、これらが1つの平板状の第2の配向領域17にほぼ直交する状態で接続されている。ここで第1の配向領域16a、16bは、図4(b)のように平行に対向するように設けられ、第1の配向領域16a、16bが対向する方向に対して直角となる方向の、第1の配向領域16a、16bが対向している領域の第2の配向領域17には、熱伝導シートの取り出し口19が設けられている。
【0030】
以上のように構成した装置において、図2の場合で説明したように、容器14にはグラファイト片13と樹脂12とを混合したシート材料を入れ、加圧装置15により加圧することにより、容器14につながった平板状の隙間を有する第1の配向領域16a、16bに押し出す。さらに第1の配向領域16a、16bから、第1の配向領域16a、16bとほぼ直交する第2の配向領域17につながっているため、シート材料は第1の配向領域16a、16bから第2の配向領域17に押し出される。
【0031】
図2の場合と同様に、第1の配向領域16a、16bの隙間を小さくしておくことにより、グラファイト片13のa−b軸方向は、第1の配向領域16a、16bの長さ方向へとそろえられていく。そのあと第1の配向領域16a、16bと第2の配向領域17とは、その隙間がほぼ直交するように接続されているため、第2の配向領域17ではグラファイト片13のa−b軸方向はその厚さ方向に配向された状態となっている。第2の配向領域17を通っていくと、グラファイト片13のa−b軸方向は次第に面方向に傾いていくが、図4(a)のように第1の配向領域16a、16bが対向しているため、両側の第2の配向領域17から内側に進んだシート材料は中央部分でぶつかり、押しあう形となるためグラファイト片13のa−b軸方向は、その厚さ方向に配向された状態を維持することができる。その状態でさらに押し出されたシート材料は、取り出し口19に押し出されるため、より厚さ方向に配向された熱伝導シートが得られ、厚さ方向の熱伝導率が高いものが得られる。
【0032】
なお、図4(a)では、第1の配向領域16a、16bにつながる容器14を別々に設けているが、1つの容器に第1の配向領域16a、16bをそれぞれ接続したものであっても良い。
【0033】
さらに図4(b)では取り出し口19は図面の下方にのみ設けているが、図面の下方、上方の2ヶ所に設けるようにしても良い。このようにすることにより、同時に2枚の熱伝導シートを取り出すことができる。
【0034】
また、図4(a)では、第1の配向領域16a、16bは平行に形成されているが、斜交するように対向してもよい。ただしその角度が大きくなると、厚さ方向に配向させる効果が小さくなるため、30°以下とすることが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係る熱伝導シートおよびその製造方法によれば、所望の厚さが得られ、厚さ方向および面方向の熱伝導率が高く、機械的強度に優れた熱伝導シートを得ることができ、産業上有用である。
【符号の説明】
【0036】
11 熱伝導シート
11a 熱伝導シートの表面付近
11b 熱伝導シートの内部領域
12 樹脂
13 グラファイト片
14 容器
15 加圧装置
16 第1の配向領域
17 第2の配向領域
18 成形金型
19 取り出し口
20 押圧金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラファイト片と樹脂とを混合してシート状に成形してなる熱伝導シートであって、この熱伝導シートの表面付近では前記グラファイト片のa−b軸が主として前記熱伝導シートの面方向に配向され、前記熱伝導シートの内部領域では前記グラファイト片のa−b軸が主として前記熱伝導シートの厚さ方向に配向されていることを特徴とする熱伝導シート。
【請求項2】
前記グラファイト片のa−b軸の方向と熱伝導シートの面方向との角度の平均値を配向角度としたとき、前記熱伝導シートの表面付近では前記配向角度は20度以下であり、前記熱伝導シートの内部領域では前記配向角度は70度以上であることを特徴とする請求項1記載の熱伝導シート。
【請求項3】
加圧可能な容器にグラファイト片と樹脂とを混合したシート材料を入れ、加圧することにより、前記シート材料を前記容器につながった平板状の隙間を有する第1の配向領域に通し、さらに前記第1の配向領域につながり、前記第1の配向領域の隙間とほぼ直交する平板状の隙間を有する第2の配向領域に通し、前記第2の配向領域の隙間から取り出すことにより熱伝導シートを成形するものであり、前記熱伝導シートの表面付近では前記グラファイト片のa−b軸が主として前記熱伝導シートの面方向に配向され、前記熱伝導シートの内部領域では前記グラファイト片のa−b軸が主として前記熱伝導シートの厚さ方向に配向されていることを特徴とする熱伝導シートの製造方法。
【請求項4】
前記第1の配向領域の隙間の大きさを、前記第2の配向領域の隙間の大きさの1/5以下としたことを特徴とする請求項3記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項5】
前記第1の配向領域を複数個設け、これらは1つの前記第2の配向領域に接続され、前記第1の配向領域同士を対向させるように設けるとともに、前記第1の配向領域が対向する領域の前記第2の配向領域に取り出し口を設けることにより、この取り出し口から前記熱伝導シートを取り出すことを特徴とする請求項3記載の熱伝導シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−70015(P2013−70015A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−22668(P2012−22668)
【出願日】平成24年2月6日(2012.2.6)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】