説明

熱伝導度検出器

【課題】ブリッジ回路の一部を構成する熱線(受熱熱線)の温度上昇の度合いは、加熱熱線と熱線(受熱熱線)のそれぞれの配置に依存すると共に、伝熱媒体であるサンプルガスの熱伝導率にも依存する。このため、サンプルガスの熱伝導率の変化は、熱線(受熱熱線)の温度上昇分の変化量を計測することで、周囲温度の変動といったドリフトの影響をうけないで計測できる熱伝導度検出器を提供する。
【解決手段】熱伝導度検出器は、測定ガスが供給される測定ガス流路と、参照ガスが供給される比較ガス流路と、前記測定ガス流路及び前記比較ガス流路のそれぞれに熱線を配置して構成されたブリッジ回路と、前記熱線に通電するブリッジ電源と、前記測定ガスと前記参照ガスの熱伝度の差に対応した通電している熱線間の相対的抵抗変化に基づいて測定ガスの成分を検出する検出手段と、を備えた熱伝導度検出器であって、前記熱線の近傍位置に前記熱線に熱を加えるための加熱熱線を配置したことである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導度検出器に関し、詳しくはガスクロマトグラフ装置に使用される熱伝導度検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術において、図5は熱伝導度検出器の原理を示す構成図である。図において、11は定電流電源、12はキャリアガス(比較ガス)が流れる比較ガス用流路、13はサンプルガスを含むことのあるキャリアガスが流れる測定ガス用流路、14a、14cは比較用のタングステンフィラメント(熱線)、14b、14dは測定用のタングステンフィラメント(熱線)であって、これらのフィラメントはホイーストンブリッジを構成している。15、16は差動増幅器、17は可変電圧電源である。なお、定電流電源11の代わりに、定電圧電源を利用してもよい。
【0003】
このような構成において、定電流電源11から供給された所定の電流が、フィラメント14a、14b、14c、14dに流れ、ジュールの法則に従って各フィラメントが発熱する。一方、比較ガス用流路12には、純粋のキャリアガスが流れてフィラメント14a、14cから熱を奪う。
【0004】
その結果、サンプルガスの熱伝導度に応じて各フィラメントの熱バランスが変化してホイーストンブリッジに不平衡電圧が発生し、その不平衡電圧は差動増幅器15により増幅された後、可変電圧電源17と差動増幅器16からなる演算回路でベース電圧変動及び不平衡電圧の初期値が減算されて出力信号Eoutが得られる。この出力信号Eoutからサンプルガスの定性若しくは定量を行うことができる。
【0005】
図6は、このような熱伝導度検出器(TCD)に用いられる測定側と比較側のガス流路の構造を示したものであり、流路壁面の温度変動を極力押さえる構造となっている。
図において、20はアルミニュムからなる金属ブロックであり、この金属ブロックには互いに平行な第1、第2貫通孔21、22が形成され、これらの貫通孔21、22に夫々フィラメントである発熱体23、24が配置されている。
【0006】
また、第1、第2貫通孔21、22の夫々の流入口21a、22aから第1、第2貫通孔21、22と夫々略45度の角度をなす両方向へ第1〜第4の内部流路25a〜25dが形成されており、第1、第2貫通孔21、22の夫々の流出口21b、22bからも第1、第2貫通孔21、22と夫々略45度の角度をなす両方向へ第5〜第8の内部流路25e〜25hが形成されている。
【0007】
この内部流路25e〜25hは夫々4個づつ結合されて略W字形の夫々の流路を形成すると共に、第1、第4の内部流路25e、25hと結合されて、第1、第2貫通孔21、22を主流路とするときの夫々のバイパス流路を形成している。
28aは流体の導入パイプ、28bは流出パイプであり、補強部材29a、29bで補強されている。
又、30a、30b、32a、32bはリード線であり、ハーメチックシール31a、31b、31c、31dによりシールされている。
【0008】
上記の構成において、被測定流体若しくは参照流体である所定の流体が導入パイプ28aに供給されると、その流体は2分されて第2、第3の内部流路25b、25cを流れる。また、第2内部流路25bを経由した後、更に2分されて第1貫通孔21及び第1、第5の内部流路25a、25eを流れ、再び合流して第6内部流路25fを流れる。
【0009】
同様にして、第3内部流路25cを経由する流れも更に2分され第2貫通孔22及び第4、第8の内部流路25d、25hを流れた後、再び合流して第7内部流路25gを流れる。更に、第6、第7の内部流路25f、25gを流れる流体は3たび合流して流出パイプ28bを経てブロック20外へ導出される。
【0010】
さて、図5に示す熱伝導度検出器において、上述したようにブリッジ回路(ホイストーンブリッジ)の各辺は、それぞれサンプルガス、及びキャリアガスに触れるように熱線(タングステンフィラメント)14a、14c、14b、14dが配置されている。サンプルガスを含むキャリアガス側の熱伝導率とキャリアガスのみの熱伝導率の差が生じた場合に、サンプルガス側とキャリアガス側に設置された熱線(タングステンフィラメント)(14a、14cと14b、14d)の熱放散の量の違いにより、熱線温度に差が生じ、抵抗値の変化としてブリッジ回路出力にその電圧が出力される。
【特許文献1】特開2003−291454号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来技術で説明した熱伝導度検出器において、熱線の熱放散の大小で決まる熱線温度の変化を連続して計測しているので、熱伝導度検出器(TCD)を構成する部材、上述した図6に示す流路構造にしたとしても、特に熱線が配置される流路壁面の温度変動が起きると、熱線自体の温度変動となり、検出信号の誤差要因となる。
又、振動外乱に対して、不必要なガス流動を引き起こすため、これもノイズ要因となる。
【0012】
具体的な例で、この課題を以下説明する。
図7には、従来技術で用いられている熱線とガス流路壁面の間の温度分布を示す。Tfは加熱線の温度、Twは熱線の周囲の壁面温度、図中の太線は熱線から壁面までの温度分布を示す。
この熱線温度Tfと壁面温度Twとの温度差は、熱線に投入したパワーPと、下記(1)の関係式で関連付けられる。
P=a・λ(Tf−Tw)・・・・(1)
a:装置定数
λ:ガス熱伝導率
【0013】
通常の簡便な計測回路では、ブリッジ回路の一辺にこの熱線を配置し、ブリッジ回路に一定電圧を印加する。ガスの熱伝導率λが変化すると熱の放散量が変化し、上式の関係から熱線の温度が変化する。この結果、抵抗値が変化し、これをブリッジ回路で検出する。
【0014】
この従来方式の問題点は、壁面温度の変動が信号の変動になってドリフトやノイズとなって影響することである。
図7の点線で描かれた線は、壁面温度Twが、何らかの外乱により変動した状態を表す。熱線にはほぼ一定の加熱パワーを加えている駆動条件では(1)の左辺が変化しないため、常に(Tf−Tw)が一定でなければならないという制約が作用する。
つまり、壁面温度TwにΔTの温度変動が発生すれば、熱線温度Tfもほぼ同等の温度変動ΔTが発生し、連動して変化することになる。
【0015】
このように、周囲温度変動により壁面温度が変動すると信号の変動につながる。
熱伝導度検出器(TCD)の高精度化を図る上で熱伝導度検出器(TCD)の周囲温度の安定は必須条件であり、ドリフトやノイズ対策に向けて精密恒温槽を設計し、信頼性高く設計する必要があった。このため、装置が大掛かりとなりコストアップの要因となっていた。
【0016】
従って、周囲温度変動や、振動などの外乱に対して影響を受けにくい高精度な熱伝導度検出器(TCD)を提供することに解決しなければならない課題を有する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本願発明の熱伝導度検出器は、次に示す構成にしたことである。
【0018】
(1)熱伝導度検出器は、測定ガスが供給される測定ガス流路と、参照ガスが供給される比較ガス流路と、前記測定ガス流路及び前記比較ガス流路のそれぞれに熱線を配置して構成されたブリッジ回路と、前記熱線に通電するブリッジ電源と、前記測定ガスと前記参照ガスの熱伝度の差に対応した通電している熱線間の相対的抵抗変化に基づいて測定ガスの成分を検出する検出手段と、を備えた熱伝導度検出器であって、前記熱線の近傍位置に前記熱線に熱を加えるための加熱熱線を配置したことである。
(2)前記加熱熱線には矩形波形状で通電する加熱電源を備えたことを特徴とする(1)に記載の熱伝導度検出器。
【発明の効果】
【0019】
本発明においては、熱線(受熱熱線)の温度上昇の度合いは、加熱熱線と熱線(受熱熱線)のそれぞれの配置に依存すると共に、伝熱媒体であるサンプルガスの熱伝導率にも依存する。このため、サンプルガスの熱伝導率の変化は、熱線(受熱熱線)の温度上昇分の変化量を計測することで、周囲温度の変動といったドリフトの影響をうけないで計測できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、本願発明に係る熱伝導度検出器の実施例について図面を参照して説明する。
【0021】
本願発明の熱伝導度検出器は、流路中に配置される熱線の近傍位置に加熱熱線を配置し、この加熱熱線にパルス状の電源を印加してパルス状の加熱動作を繰り返し、それぞれのタイミングで熱線の温度上昇分を計測する。即ち、熱線の抵抗値そのものを計測するのではなく、抵抗値の変化分を計測することで、ベースライン変動、即ち、流路の周囲で発生する温度変化が起きてもその影響を受けないというものである。
【0022】
その構成は、図1に示すように、サンプルガスに測定ガスを含ませた流体を流す測定ガス流路42aを形成するベースブロック41aと、参照ガス(比較ガス)を流す比較ガス流路42bを形成するベースブロック41bと、測定ガス流路42a中にブリッジ回路(ホイーストンブリッジ)45を構成する熱線(受熱熱線)43aが配置され、この受熱熱線43aの近傍位置に加熱する加熱熱線44aを配置した構成になっている。
又、比較ガス流路42b中にもブリッジ回路(ホイーストンブリッジ)45を構成する熱線(受熱熱線)43bが配置され、この受熱熱線43bの近傍位置に加熱する加熱熱線44bを配置した構成になっている。
【0023】
加熱熱線44a、44bは加熱電源46に接続され、加熱電源46は矩形波形状の電源を加熱熱線44a、44bに供給する。
【0024】
加熱電源46は加熱熱線44a、44bを加熱するタイミングを決めるための同期信号を出力し、この同期信号はロックイン増幅器48に入力される。
測定ガス流路42a中に配置された熱線43a及び比較ガス流路42b中に配置された熱線43bでブリッジ回路45を構成し、このブリッジ回路45に電源を供給するブリッジ電源49を備えた構成になっている。ブリッジ回路45で得られた不平衡電圧が増幅器47により増幅される。
【0025】
増幅器47はブリッジ回路45からの不平衡電圧を受領し、この受領した不平衡電圧に基づいて受熱熱線43a、43bが加熱されたことを検出して検出熱線温度信号として出力する。この検出熱線温度信号はロックイン増幅器48に入力される。
ロックイン増幅器48は、加熱電源46で加熱熱線44a、44bを加熱したタイミングを示す同期信号や、受熱熱線43a、43bの検出熱線温度信号の両者を取り込み、これらの信号の組み合わせ演算により信号処理する。
【0026】
図2は、加熱熱線44a、44bを加えた本願構成の動作を示すもので、図2の上段のグラフは、加熱熱線44a、44bに投入される加熱パワーを縦軸に、時間を横軸にとったものである。
図からわかるように、加熱熱線44a、44bの加熱電源46は、加熱と非加熱を繰り返すように制御される。具体的には、矩形波状のパルス波形により加熱熱線44a、44bを加熱する。
この結果、流路42a、42b中の加熱熱線44a、44bは、投入されたパワーPinの時間変化に応じて、温度変化し、サンプルガス雰囲気中で熱を周囲に放散する。放散された熱の一部分は、サンプルガス中に放散され、ガス温度を加熱しながら周囲に伝熱する。
【0027】
一方、図2の下段のグラフに示すように、受熱熱線43a、43bは加熱熱線44a、44bの近傍位置に配置され、なおかつ受熱熱線43a、43bはブリッジ回路45の一部を形成しており、受熱熱線43a、43bの温度変化を計測できるよう構成されている。加熱熱線44a、44bの印加により、サンプルガス中に熱が放熱されると、ブリッジ回路45により温度上昇信号を得ることができる。
【0028】
受熱熱線43a、43bの温度上昇の度合いは、加熱熱線44a、44bと受熱熱線43a、43bのそれぞれの配置に依存すると共に、伝熱媒体であるサンプルガスの熱伝導率にも依存する。このため、サンプルガスの熱伝導率の変化は、受熱熱量の温度上昇分の変化量を計測することで得ることができる。
【0029】
図3は、本提案の特徴である変動に強い点を説明するためのグラフで、周囲温度変動が生じた場合に、熱線温度が変動してベースラインの変動が起きている様子を模式的に示したものである。
先に述べたように、従来技術では得られる信号量は、周囲温度変動などの外乱影響により、ベースラインドリフトが発生し、この変動分が加味された信号(ΔTout+ΔTdrift)となる。
本提案によれば、パルス状に加熱動作を繰り返し、それぞれのタイミングで受熱熱線43a、43bの温度上昇分を計測する。つまり受熱熱線43a、43bの抵抗値そのものを計測するのでなく、抵抗値の変化分を計測するので、ベースライン変動が起きていてもその影響を受けない。
更に、従来技術では、ブリッジ回路で発生したノイズ成分のうち、後段増幅器の周波数帯域に含まれる周波数のノイズ成分を全て増幅することになる。
本提案の方式では、周波数fで周期的に加熱する加熱電源46の同期信号を参照し、得られた受熱熱線43a、43bの抵抗値変化を同期検波することで、周波数f付近のノイズ増幅のみにとどまるため、極めて低いノイズを実現することができ、高いSN比を得ることが可能となる。
【0030】
図4に示す構成は、本願発明の変形例を示したものであり、パルス状に加熱する加熱熱線44a、44bの周囲温度変動の影響を除去するために、加熱線ブリッジ回路50及び補償回路51を付加したものである。その他の構成は図1で示した構成と同じであるため説明は省略する。
受熱熱線43a、43bにおいて周囲温度変動の影響が発生するのと同様に、加熱熱線44a、44bの到達温度も、周囲温度の変動の影響を受ける。
又、加熱熱線44a、44bの劣化や何らかの変動要因が発生したときに、発熱量の変動を引き起こすため、加熱熱線44a、44bの抵抗値を加熱のたびに加熱線ブリッジ回路50でモニターし、その信号(加熱線温度信号)を用いて信号補償を行う。このことにより、より高精度な計測を可能にする。
【0031】
なお、図1および図4に示した構成では、ブリッジ回路45上の4つの抵抗のうち、2つを可変とするいわゆるハーフブリッジで構成したが、フルブリッジで構成してもよい。また、図1および図4に示した構成では、ブリッジ回路45上に比較ガス流路42b中に配置された熱線43bが接続されているが、熱線43a以外の抵抗値をすべて固定した構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0032】
ブリッジ回路の一部を構成する熱線(受熱熱線)の温度上昇の度合いは、加熱熱線と熱線(受熱熱線)のそれぞれの配置に依存すると共に、伝熱媒体であるサンプルガスの熱伝導率にも依存する。このため、サンプルガスの熱伝導率の変化は、熱線(受熱熱線)の温度上昇分の変化量を計測することで計測する熱伝導度検出器を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本願発明の熱伝導度検出器の構成を示した説明図である。
【図2】同、受熱熱線の温度変化をグラフで示した動作説明図である。
【図3】同、ドリフトがある場合の受熱熱線の温度変化をグラフで示した動作説明図である。
【図4】本願発明の熱伝導度検出器の変形例を示した説明図である。
【図5】従来技術におけるブリッジ回路による熱伝導度検出器を示した説明図である。
【図6】従来技術における熱伝導度検出器で使用する流路の構造を示した説明図である。
【図7】従来技術における熱線の位置とベースブロックでの周囲温度変動の様子を示した説明図である。
【符号の説明】
【0034】
41a ベースブロック
41b ベースブロック
42a 測定ガス流路
42b 比較ガス流路
43a 熱線(受熱熱線)
43b 熱線(受熱熱線)
44a 加熱熱線
44b 加熱熱線
45 ブリッジ回路
46 加熱電源
47 増幅器
48 ロックイン増幅器
49 ブリッジ電源
50 加熱線ブリッジ回路
51 補償回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定ガスが供給される測定ガス流路と、
参照ガスが供給される比較ガス流路と、
前記測定ガス流路及び前記比較ガス流路のそれぞれに熱線を配置して構成されたブリッジ回路と、
前記熱線に通電するブリッジ電源と、
前記測定ガスと前記参照ガスの熱伝度の差に対応した通電している熱線間の相対的抵抗変化に基づいて測定ガスの成分を検出する検出手段と、
を備えた熱伝導度検出器であって、
前記熱線の近傍位置に前記熱線に熱を加えるための加熱熱線を配置したことを特徴とする熱伝導度検出器。
【請求項2】
前記加熱熱線には矩形波形状で通電する加熱電源を備えたことを特徴とする請求項1に記載の熱伝導度検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−38807(P2010−38807A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−203921(P2008−203921)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】